「…私の負けよ」
「…ありがとうございました」

フスベシティジムリーダー、イブキは負けを認め、頭を下げる。
そんな彼女を、少年―レッドはつまらなそうにしながらも、一応礼を言う。
レッドの態度にイブキはムッとするも、しかし相手はあのワタルすら倒したチャンピオンである。
渡さないなんて失礼なこと、さすがにできない。

「これがこのジムのバッジ、クリムゾンバッジよ」
「これでジョウトのジムも、制覇か…」

レッドはチャンピオンとなった後、更なる強さを求めて修行の日々を送っていた。
そして、新たなる強敵を求めてジョウトのジムに挑んだ。
しかしこれもまた、難なく制覇してしまった。
今回のフスベジムも、氷タイプやドラゴンタイプのポケモンを中心に編成し、あっさり倒してしまった。

(…なんだろうな、このモヤモヤは)

相手によって手持ちを変えるのは、当然のことだ。
そこに卑怯もなにも、ない。
それは分かっているのに…何故だか、釈然としないものを感じていた。

「あ、そうだ、君」
「なんですか?」
「ワタルが言ってたわよ、チャンピオンなんだから、たまにはポケモンリーグに顔を出せって」
「…ポケモンリーグか、久しぶりに顔出してみようかな」


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「ファファファ!久しぶりであるなレッド殿」
「キョウ!?」

ポケモンリーグにやってきて、久しぶりに四天王と顔を合わせたレッドは、見知った顔に驚く。
彼の名はキョウ。
セキチクジムのジムリーダー…だった男だ。

「リーグの方から推薦を受けてな。ジムは娘に任せておる」
「へえ…数年経てば色々変わるもんだ」

「レッド。久しぶりだ」
「ワタル…」
「君がいない間に四天王も入れ替わりがあってね、新顔もいることだし、せっかくだし我々四天王に、挑戦してみないか?」
「ああ…そうだな」

そうしてレッドは、四天王に挑戦することになった。
一人目のキョウ、二人目のシバを倒し、そして三人目。
四天王の中では唯一初顔合わせの、カリンだ。
あくタイプの使い手で、シバ対策に入れてたエスパータイプがお荷物になってしまったものの、難なく勝つことができた。

「ありがとうございました」
「……………」

戦いを終えて、レッドはお辞儀して礼を言う。
しかし、カリンの方は何も言わず、こちらを睨みつけていた。

「…あの、なにか」
「…あなた、つまらないわ」
「え?」
「あなたのポケモン、よく鍛えられているけど…なんていうか、バトルしてて面白くない」

随分はっきりと物を言う女性だな、と思った。
実際のとこ、同じように感じてるのは彼女だけではないと、レッドは思っている。
キョウも、シバも、バトルが終わった後、何かいいたげな微妙な顔をしていた。

「あなた、わたし達四天王やジムリーダーが、どうしてタイプを統一した編成にしてると思う?」
「え、ええと……す、好きだから、とか…?」
「その通り。私はあくタイプが好き。だからあくタイプを極めるために、そういうポケモンばかりを使っているの」
「タイプを統一しない俺みたいなのは、半端ものだっていいたいんですか?」

少しムッとしつつ、レッドは尋ねる。
それに対してカリンは、首をふる。

「そうは言わないわ。だけどね、私、思うのよ」



「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てる様に頑張るべき」



「あ…」

ドクン。
心臓が高鳴った。
カリンの言葉は、レッドに大きな衝撃となって襲い掛かってきたのだ。


「好きな、ポケモンで…?」
「ええ、そう。強いポケモンを持てば誰だって強くなれる。そんな誰にだってできること、本当の強さとは、私は思わない」

目が覚めたような気分だった。

強くなるために、手持ちを厳選して。
その為に弱いポケモンを切り捨てる。
相手に合わせて、手持ちを変える。
それは決して悪ではない。
強くなろうと思えば、高みを目指そうと思えば、当然の選択だ。

(だけど、違うんだ…それは『強くなるための方法』ではあっても、『俺の欲しかった強さ』じゃなかった…!俺の、俺が欲しかった強さは…!)



「レッド、どういうことだ!?チャンピオンをやめるって!?」

レッドの突然の申し出に、ワタルは困惑する。
それに対してレッドは、ニッと笑って言う。

「修行をしたいんだ。本当の強さを手に入れるために。だからワタル、君が繰り上げでチャンピオンをやってくれないか」
「そんな勝手な…!」
「頼むよ!」

ズイっと身を乗り出してレッドは懇願する。
その目は、少し前までのなにかに悩んでいるような暗いものではなく、メラメラと燃え盛るような輝きを放っていた。

「…まったく、そんな目をされちゃ断れないじゃないか」
「それじゃあ!」
「ああ、強くなって来い、レッド」
「勿論さ!」

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

シロガネ山の入り口にて、レッドは6匹のポケモンたちと向き合う。

「フシギバナ」

ハナダシティで貰ったフシギダネを進化させたポケモン。

「リザードン」

ハナダシティの近くの道路にいたトレーナーからもらったヒトカゲを進化させたポケモン。

「カメックス」

クチバシティで警察に捕まってたゼニガメを進化させたポケモン。

「ラプラス」

シルフカンパニーの会長からもらったポケモン。

「カビゴン」

道を塞いでいたのを、ポケモンの笛で起こしてゲットしたポケモン。

「ピカ」

そして、マサラタウンで出会った相棒、ピカチュウ。


彼らは、カントーのジムに挑み、ロケット団を倒し、そして初めてポケモンリーグを制覇したパーティ。

「ごめんな、俺、強さを追い求める中で、大好きなお前たちのことを、蔑ろにしてた。本当にごめん」

頭を下げるレッドに対し、ポケモンたちは複雑な表情を見せていた。
彼らは、いわゆる旅パというやつだった。
厳選も何もあったものではない彼らは、レッドが強さを追い求める中で、ピカ以外、忘れ去られ、ボックスの中で主人を待ち続ける身となっていた。

「俺、気づいたんだ…!俺が欲しかった強さは…大好きなポケモンたちと紡いでいくものだったんだって!」

「俺は、苦楽を共にしたお前たちと、もう一度旅をしたい!一緒に強くなりたいんだ!その為に…力を貸してくれないか!」

そういって、レッドは頭を下げて手を差し出す。
しばらく、沈黙が続いた。

「…ピカ」

最初にその手を取ったのは、唯一無二の相棒だった。
ピカも、最近のレッドには少し不満があった。
しかし今の彼は、自分の大好きだったレッドに戻ったと、感じていた。
だから、彼に協力しようと決めた。

ピカチュウが手を取ると、続くように他のポケモンたちも手を取る。
フシギバナも、リザードンも、カメックスも、ラプラスも、カビゴンも。
みんな、笑顔でレッドの手を取ったのだった。

「ありがとう…みんな!」

そんな彼らに、レッドもまた笑顔を向ける。

「みんな…強くなろう!誰にも負けない、厳選パーティなんかにも勝てる…そんな『最強のパーティ』に、俺たちはなるんだ!」

そうして彼らはシロガネ山にて特訓を始めた。
他とは比べ物にならない野生ポケモンが現れるその山での修業は、非常に厳しいものだった。
しかし、レッドに苦痛はなかった。
大好きな彼らと強くなるのは…厳選したパーティを作業的に鍛えるそれとは比べ物にならないくらい、楽しいものだったから。

やがて、レッドのもとに、とある一報が届いた。
ポケモンリーグに、新チャンピオンが現れたというのだ。
そいつはジョウトのバッジを集めてポケモンリーグに挑戦し、ワタルを倒してチャンピオンになると、今度はカントーのジムに挑戦しているらしい。
復活を目指していたロケット団も、そいつによって壊滅させられたらしい。

「きっと、そう遠くないうちに、ここにやってくるだろうな」

そして、自分とバトルをする。
そんな予感が、レッドにはあった。

「追ってこい、新チャンピオン。俺たちの、『最強パーティ』が、お前を倒す!」






※回想オンリーなので状態表はナシです

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最終更新:2024年10月09日 11:15