──自慢じゃねぇが、おいらはそれなりに腕が立つ。

野生のポケモンに負けることなんざまずないし、熟練トレーナーのポケモン相手にだって相性さえ悪くなければ自慢の顎で一撃だ。
もちろん最初っからそうだったわけじゃねぇさ。ご主人の影響っていうのかな、そいつがえらく負けず嫌いで努力家だったおかげでこの通りよ。
なんでも、ご主人が言うには「絶対に負けたくない相手がいる」とのこと。そいつは俺もよく知るヤツで、のちのちチャンピオンになっちまう男だ。
ま、チャンピオンって言葉で察してもらえただろうが──結果的には負けちまった。ギリギリの戦いだったぜ、マジにな。そのバトルのエースはもちろんおいらで、相手は……いや、これは言わなくてもいいか。

なにが言いたいかっていうと、おいらは世界でも指折りの実力者ってことだ。
だってあのチャンピオンのポケモンと張り合ったんだぜ? そのくらい言っても許されるってもんだろ。なぁ?
もうそんじょそこらのやつじゃ相手にもなりゃしねぇから退屈ささえ感じてたぜ。


けどな、そんな強ぇ強ぇおいらだからこそ気づいちまった。
ああ──こいつは、違う。ってな。


そいつに会ったのは昼過ぎ頃か?
突然こんな場所に飛ばされて最初こそビビったが、どうせ退屈してた身だ。やること変わらず水辺でだらだら寝転がり、時々来る野生のポケモンを追っ払い、腹が減ったら魚を捕まえて過ごしてた。
そんな中だぜ。ふと足音が聞こえたもんでそっちに目線を移したら、なんともまぁ必死な様子で走ってるトレーナーがいたんだよ。



おいらは喜んだ。めちゃくちゃな。
ちょいとした退屈しのぎにバトルでもしかけてやるか。そう思ったおいらはそれまでのなまけっぷりが嘘みてぇな速度でそいつの前に立ち塞がった。
目が合ったらバトル──ま、それはおいらたちじゃなくて人間同士の決まりらしいが。でもおめぇさんもいっぱしのトレーナーなら、こんだけヤル気満々なポケモン相手にしてその意味がわからねぇことねぇだろう?

帽子に隠れてたそいつの目がおいらの目と合った。
その瞬間、おいらの身体は緊張で強ばった。

まるでへびにらみされたような感覚だったぜ。
そいつの目は今にも泣きそうで、切羽詰まってて、そしてなによりも──鋭かった。
ありゃあ普通じゃあねぇ。いったいどんだけの修羅場を越えたらあんな目が出来んだ? よく見りゃあ確かに、身体中がまるで電撃でも受けたみてぇにぼろぼろだった。並のポケモンでもひんしもんだ。人間ってのはこんな頑丈だったか?

喧嘩を売る相手を間違えた、なんて微塵も思わねぇ。
それどころかおいらはわくわくしてたぜ。久しぶりの好敵手、それも下手すりゃあ格上かもわからねぇ相手だ。心躍らないわけがねぇ。
さぁ、あんたはいったいどんなポケモンを出してくれるんだい?




「──頼む、道を開けてくれ」




そんなおいらの期待を裏切るようにそいつはそう言い放った。
呆れたぜ。まさかボロボロに負けて帰る道中だってのか? さっきの目はただのこけおどしただったのか?


なぁ、ちげぇだろ。


おいらの目はごまかせねぇ。てめぇは実力者だ、さっきの威圧感は今のチャンピオンに勝るとも劣らない。
出し惜しみか? 手持ちの体力を消費させる手間が惜しくて野生を相手にしないって話はよく聞く。
けどな、それは格下相手への対応だ。そっちの真意がどうあれ、大人しく雑魚扱いされるほどおいらは優しくないぜ。



試しにおいらは地を駆け飛びかかる。ポケモンがいないからその矛先はトレーナーだ。
本気でやるんならそこで首元にでもかみついてやるところだが、あくまで様子見だ。軽く叩きつける程度のつもりだった。
身の危険を感じりゃいやでもポケモンを出すはずだ。仮に本当に手持ちがひんしだったとしたらびびって逃げ帰るくらいはするだろ。

けれどそいつはどれとも違った。
顔面を叩きつけるつもりで振るった俺の右手を交差した両腕で受け止めて、数歩後ずさる。そして逃げるでもなく、戦うわけでもなく、ただおいらの目を見ていた。


こいつ、何考えてやがんだ。


もちろんおいらの攻撃は本気じゃなかった。けどそれを受け止めようだなんて人間、いわタイプでもなけりゃありえねぇ。
狼狽えるおいらの目を真っ直ぐ捉えてそいつは言う。「頼む、退いてくれ」ってな。
柄にもなくおいらはキレた。何を考えてんのか知らねぇがその化けの皮を剥がしてやる。じゃねぇとまるでおいらが小物みてぇじゃねぇか。


「オォォォダァァーーーーーッ!!」


雄叫びをあげる。いわばこれは合図だ。
さっきまでの加減はナシだ。今度は本気でいくぜ。
ガチガチと鳴らした歯をそいつに向ける。狙うはもちろん首元だ。
土が捲れる勢いで両脚をバネにし距離を詰める。おいらは空中、跳ねる視界の中であいつがモンスターボールを右手を握り締めているのを見た。


へっ、ようやく戦う気になったか。
ならおいらの牙がその首に突き刺さる前にボールを────


そこまで考えたところでおいらは気づいた。
野郎、ボールを抱え込みやがった。握り締めた右手を服の下に隠して、申し分程度に左腕を盾代わりにおいらの眼前に構えた。


────バカヤロウっ!!


なにしてやがる、戦えよ!
じゃなきゃ避けるなり逃げるなりしろよ!

もう速度は落とせねぇ、空中のせいで俺自身でも軌道を変えられない。
だからよ、当たり前なんだ。どうしたって止めようがなかったんだ。おいらの牙がそいつの左腕に食い込んだのは。

嫌な感触だった。
柔らかい肉に歯が突き刺さる。口の中に血の味が広がって、ぶちりと音が聞こえた気がした。
完全な野生のポケモンじゃねぇおいらは本能で口を離そうとした。が、離せなかった。そいつの口から声が聞こえたからだ。


「……なぁ、頼むよ……。俺は、こいつを……連れて、いかなきゃ……いけないんだ……」


喉を震わせて絞り出したようなか細い声だった。
けど、そいつはどんな咆哮よりも鋭く深くおいらの耳を貫いた。おいらが噛み付いた腕が下ろされたせいで地に足がつき、おいらが見上げる形になる。


そいつの目はまっすぐだった。こんな状況なのに恐怖なんかねぇ。おいらの心に訴えかけるように深く、深く見つめていた。

「お前が怒るのも、わかるよ……俺も、こんな状況じゃ……なければ……お前と戦って、ゲット……したかった……」

左腕から滴り落ちる血が草を赤く染める。
相当な激痛のはずだ。なのにこいつは自分の怪我よりも、おいらを説得することを優先していた。

「……けど、今は……だめ、なんだ…………」

呆気に取られて半ば思考を放棄してたが、そこでようやくおいらは気がついた。
こいつはなんでボールを服の下に隠したのか。──あれはまるで、自分を犠牲にしてでも手持ちのポケモンを守るみたいな動きだった。

まさか──いや、でも……ありえねぇだろ、そんなの……。
戦えるポケモンを戦えない人間が身を挺して守るなんて……そんなの、しらねぇ。少なくともおいらは見たことねぇ!

否定の方が先に出るのはよ、おいらの中に刷り込まれた常識のせいだ。
ポケモンは戦うもの。人間はポケモンが守るもの。そういう世界を生きてきたんだからよ、こいつの行動を認めちまったらおいらたちポケモンの根底を否定することになっちまうじゃねぇか。


わかってんだよ。
なぁ、あんた。おいらの考えは間違ってんだろ?
じゃないと説明がつかねぇじゃねぇか。こんなに、こんなにまっすぐおいらを見つめることにさ。

認めるぜ。
けどな、あんただけだ。あくまでおかしいのはあんたで、この世の理は変わりゃしねぇ。こいつはおいらのポケモンとしてのプライドの問題だ。
命を賭けてポケモンを守り、野生相手でも対話を試みる。そんな命知らずなトレーナー、いちゃあいけねぇんだよ。



「────ありがとな、オーダイル」



ゆっくり、これ以上肉を傷つけねぇように牙を引き抜いたおいらに穏やかな声が掛かった。
おいらはそれがたまらなく嬉しくて、さっきまでの闘争心はそっくりそのまま別の感情に移り変わっちまった。



認めたくねぇが、わかる。
おいらはこいつに──この人に、惹かれちまったんだ。
バトルをしたわけでもねぇのに、ボールを投げられたわけでもねぇのに、この人についていきてぇって気持ちで溢れてる。

おいらに戦う気がなくなったことを察したその人は背中を向けて立ち去ろうとする。
急いでおいらは立ち塞がった。これで二度目だ。けどな、一度目の時とは目的がまるでちげぇ。
口を閉じ、爪を引っ込め、頭を垂れる。そいつはおいらに出来る最大限の忠誠の証だった。

「俺に……ついてきて、くれるのか……?」
「オォダァ」

ついてきてくれる、だぁ?
そんなボロボロの姿で何言ってやがる。そのままだとポケモンを回復させる前にくたばっちまうぜ。
逆だよ、逆。おいらがつれてってやるんだよ。

「へへ、……ありがとなオーダイル! 俺はレッド、よろしくな!」

そう言ってその人──レッドは俺に手を差し伸べる。モンスターボールを腰に提げ直して右手をだ。その行動がおいらを信頼してくれたみたいで、嬉しかった。
おいらはその手を握る──わけじゃなくて、軽くはたいた。呆気に取られるレッドを前においらは背中を見せ、軽く頷いてみせる。

「オォダ……!」

なにしてんだ、早く乗れよ。
こう見えてもスピードにはそれなりに自信があるんだぜ。
おいらの行動の意味を理解したレッドは一気に表情を明るくして、勢いよくおいらの背中に飛び乗った。人を乗せて走るのなんか久しぶりだぜ。乗り心地は悪いかもしれねぇが我慢してくれよな。


「よぉし、頼んだ! オーダイル!」
「──オォォォダァァ!!」


弾かれるように四足で駆け出す。
それがおいらと変わり者のトレーナー、レッドの出会いだった。


【A-2/一日目 昼】
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)  
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.ピカを治すために、Nの城へ向かう。
2.オーダイル、ありがとう……。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.レッドを乗せて目的地へ向かう。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?



【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
野生として配置されていたオーダイル。元の持ち主はシルバー。
覚えているわざはかみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ。
レベル60、ようきな性格。




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最終更新:2024年11月17日 07:29