『トレバー・フィリップスはどのような人間か?』

 こう尋ねられたとき、彼を知る大半の人間は「イカレてる」と答える。
 たとえ彼のパーソナリティを知らなくとも、普段の行動を見れば一目瞭然だ。
 赤の他人のカメラに写ろうとする。泥酔してブリーフ一丁で寝転ぶ。時間と場所を問わずトリップする。
 悪人・奇人の蔓延るサンアンドレアスにおいてさえ、その行動は常軌を逸しているだろう。

 そんなトレバーは今、上機嫌にヘリコプターを操縦していた。

「アテンションプリーズ!お客様を快適な空の旅へご招待だ」

 気ままな鼻歌まじりに操縦桿を握るトレバー。
 そしてヘリの副操縦席には、赤い帽子の少年がいる。
 少年はヘッドセットに慣れておらず、落ち着かない様子だ。

「乗り心地はどうだ、アミーゴ」
「なあ、これシートベルトはどれなんだ?」
「悪いが中国製らしい。どうしても縛られたいなら、後でSMバーを探してやるから我慢しろ」
「いや縛られたいわけじゃないって!」

 いったい、どうしてこんな状況になったのか?
 その説明のためには、二回目の放送まで時間をさかのぼる必要がある。


 トレバーは山小屋からイシの村まで、憤懣やるかたない様子で歩いていた。
 マジマを殺し損ねた。ドラゴンを狩り損ねた。名も知らぬ少年少女を殺し損ねた。
 好き勝手に暴れてやると決めたのにこの体たらく。おまけにガソリンを吸入したせいで生酔い状態ときた。
 およそ解消しきれない欲求不満を胸に、それでも落ち着ける場所を求めて北上していた。

『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ』

 そんなタイミングで流れてきた放送に、トレバーは耳を傾けた。
 死者の人数や禁止エリアを伝え終えた放送の声が、続けざまに煽るような口調で語りかけてくるのに、トレバーは精神を逆撫でされた。

『あのさ、君たち沢山怒ったり悲しんだりしてるけど……それって疲れない?』
『こういう時こそリラックスしなよ。気を張ってても死ぬ時は死ぬんだからさぁ、頭に血上らせて死に急ぐとか馬鹿らしくない?』

「うだうだ喋るなよ、このタマなし野郎!
 マスかきてえなら手伝ってやるから、俺の前に来やがれ!」

 トレバーは苛立ちに任せて、天に向かって唾を吐く。
 もし声の主が目の前にいたなら、その襟首を掴んで殴り倒していただろう。

『そうだね、〝本でも読んで〟落ち着きなよ。結構名案じゃない?』

「ハッ、よくよく聖書に従いたまえってか?
 さしずめ俺たちは哀れな子羊。クソくらえだ!」

『それじゃ、これで第二回放送を終わるよ。引き続き頑張ってね』

「ああ、優勝してテメエらを去勢してやるよ!」

 放送を聞き終えても、悪態は止まらない。
 トレバーは愚痴を垂れながら、村までの道をずんずん歩いた。
 この島に来てパワードスーツやドラゴンに興奮したのは事実だが、己を突き動かす最大の燃料はやはり怒りだ。
 あるいは、衝動的な憤怒を抑えきれない性(サガ)と言い換えるべきか。
 いずれにせよ今のトレバーは、主催者への怒りを募らせ始めていた。

「安全な部屋で見てるんだろ?この悪趣味なショーをよ!」

 トレバーとて何も無謀なだけではない。
 ようやくではあるが、移動中に名簿と地図を確認していた。
 その結果は、トレバーにしてみれば良くも悪くも両面性のあるものだ。
 マイケルやフランクリン、そしてレスターをはじめとする、共に歴史に残る大強盗を成し遂げたメンバーはおろか、ロンやウェイドといった個人的な知人すら一人として呼ばれていない。
 これを親しい仲間のいない状態と取るか、自由奔放に振る舞える状態と取るかはトレバー次第。

「どうせここに相棒はいねぇんだ。心置きなく暴れてやるさ!」

 トレバーは暴れるための物資を求めて、イシの村へと足を踏み入れた。


「ウソだろ、もう三十人も死んだ、のか?」

 レッドは走るオーダイルの背中で、放送を聞き終えて呆然とした。
 ゼルダやベロニカの名前が呼ばれることは覚悟していたが、ダルケルを含めて実際に呼ばれた名前は予想以上の数。
 この島に来てすぐ、レッドの心中で警鐘を鳴らしていた不安心は、ここに来て真実味を帯びていた。
 つまり、自分のために他人を殺す参加者が、何人もいるという残酷な現実。

「それなのに俺は……」

 レッドは一回目の放送から今までのことを振り返る。
 一回目の放送の際には、何よりも名簿を確認することに追われていた。
 そこに知り合いの名前は書いておらず、レッドはホッと胸をなでおろした。
 そして、仲間を喪い気落ちしたダルケルと話していたところ、森の方角から来るゼルダを発見。
 彼女のキリキザンを治療するために、Nの城へ向かう道中で、あの事件が起きた。

「もっと早く行動していたら!」

 レッドの口から出たのは、自らに対する悔恨の言葉。
 もっと早く危機意識を強めていたら、ダルケルの単独行動に懸念を示せたかもしれない。
 ゼルダの眼に感じた、目的の為なら何でもする意志に、警戒を向けられたかもしれない。
 警戒心を持てば人質に取られず、ベロニカの死亡という最悪は避けられたかもしれない。
 あるいは、あるいは、あるいは――

「オダオォダ?」

 オーダイルから声をかけられて、レッドはハッと顔を上げた。
 現在レッドのいた地点は、橋を越えたところにある岐路だった。
 立札によると、右の道はイシの村、左の道はNの城の方向へ、それぞれ繋がっている。
 ネガティブな思考に囚われて、いつの間にか橋を渡り終えていた自分にレッドは驚いた。
 レッドはオーダイルに背中から降ろされて、ふたたび力強い声をかけられた。

「オダ、オダオダ!」

 まだ出会ったばかりなのに、オーダイルの伝えたいことは自ずと理解できた。

「オーダイル……俺を、元気づけてくれてるのか?」
「オーダ!」

 うんうんと頷くオーダイルを見て、レッドは思わず口の端に笑みを浮かべていた。
 自分のことをまだ詳しく知らないはずのオーダイルが、暗い様子を察して元気づけてくれるとは。
 いいポケモンに出会えたと、レッドは冷えた心が温まるのを感じた。

「ありがとな、オーダイル……へへ、俺こればかり言ってるや」
「オダオダ」

 気にするなと言わんばかりに肩をすくめるオーダイル。
 その剽軽(ひょうきん)な態度を見て、レッドは前向きな心を取り戻す。

「そうだ。今はとにかくNの城!」

 ボールの内部で傷ついて寝ているピカのことを思えば、寄り道していられない。
 そうして急ぎ岐路を左方向に進もうとして、とあることに気づいた。

「この音……!?」

 おもむろにイシの村の方角から聞こえてきた轟音。
 空中に浮遊するそれを見て、レッドとオーダイルはあんぐりと口を開けた。


 イシの村の奥には、布に隠されたヘリコプターが鎮座していた。
 AS332と呼ばれるU.B.C.S.(アンブレラ社バイオハザード対策部隊)所属の航空機。
 アメリカ軍をはじめとして数多くの国で運用されている、汎用型のヘリコプターである。
 機銃やミサイルなどの兵装は搭載されていないとはいえ、機動力として考えると非常に優秀だ。

 トレバーより前にここを訪れていた魔王たちが気づかないのは当然である。
 魔王たちは各自で料理や休憩、見張りなどしており、村全域を探索する余裕はなかった。
 また、休憩後は日没にまた戻ると決めて行動を開始したこともあり、村自体の探索は後回しにしたのだ。
 あるいは暮らしていたイレブンなら普段との差異に気づけた可能性はあるが、空を飛ぶ機械があるとは思いもしなかったろう。

 つまり先入観のないトレバーだからこそ、ヘリコプターを発見できたと言える。
 トレバーはすぐさま内部へ。銃火器は無いが、ガンパウダーは積み込まれていた。
 空軍時代に培われた経験でスムーズに航空計器を確認すると、ヘッドセットを付けて操縦桿を握る。

 現時点におけるトレバーの最大の目的は、参加者との接触。
 一回目の放送で提示された禁止エリアを聞きだして、かつ支給品を強奪する。
 いずれマジマやドラゴン、それに放送のタマなし野郎をブチ殺すためには必要なことだ。

「このトレバー様の駒になるやつを見つけてやるぜ」

 ゆっくりと音を立てて浮上するヘリ。
 危なげない操作で村の範囲から外に出たトレバーは、橋の付近に人影を発見した。
 赤い帽子の少年、そのかたわらには水色のワニに似た生き物。どちらもヘリの存在に気づいて、大口を開けていた。

「ハロー、ハロー、こちらトレバー・フィリップス」

 トレバーは拡声器のスイッチを押すと、軽快に歌うように脅迫した。

「そこのお嬢さん!ホールドアップだ!
 大人しく支給品と情報を渡して、ついでに殺されてくれ」


 ヘリから受ける風圧を右腕で防ぎながら、レッドは操縦席の男性を見た。
 男性の発言内容は、危険極まりないように聞こえる。横暴な態度はロケット団と比べても遜色ない。
 かたわらのオーダイルが牙を鳴らして威嚇する中、レッドはどう対応すべきか逡巡した。

(断るのは危ない?あの森に行けば逃げられるか?
 いや、森に行くまでに攻撃されたら終わり……ここで死ぬわけにはいかない!)

 ハイドロポンプなどの遠距離攻撃を使えたら、ヘリを直接狙う方法も選べた。
 しかし、オーダイルの技構成は、噛みつき技をメインに据えた近距離攻撃ばかり。
 ピカチュウの放つ電気ならヘリを止められるだろうが、今のピカに無理はさせたくない。
 そうして考慮した結果、レッドはついに決心して、オーダイルを制止しつつ叫んだ。

「俺はピカをNの城に連れていきたいんだ!
 大事な相棒なんだ!だから頼む、見逃してくれ!」

 その声に男性は眉をひそめて、さらに問いを投げてきた。

「ほーう。お前の隣にいるワニ野郎が相棒か!?」
「……違う。ピカはこの中だ。ケガして寝てる」

 レッドはボールを取り出すと、中にいる傷ついたピカを思い浮かべながら答えた。
 ピカのことを早く癒してやりたい。そのためには、この場を切り抜ける必要がある。

「そのボールは何なんだ?」
「……モンスターボール。ポケモンを入れる道具だよ」
「ポ・ケ・モ・ン?」

 男性はポケモンを聞いたこともない様子で尋ねてきた。
 レッドは仕方なく、かつてオーキド博士から受けた説明を思い出しながら話す。
 もしかすると、ポケモンを知る参加者は少数派なのかもしれないと、レッドは説明しながら思う。

「――それがポケットモンスター、ちぢめてポケモンさ」
「あん?……俺様のポケットモンスターを見せて欲しいのか」

 言葉の意味を理解しかねて、レッドは当惑した。
 ヘリは変わらず音を立てているのに、二人(と一匹)の間には沈黙が流れていた。

「……」

「……?」

「オダァ……?」

「それで、どうなんだよ!見逃してくれるのか!?」

 この沈黙を断ち切ろうと、レッドは男性の顔を真正面から見て、問いを投げた。
 そうすると男性は、どこか真剣な表情を見せて、問いを返してきた。

「目的地はNの城だったな?」
「……ああ!」

 いきなり許可されたことに驚きつつ、レッドは力強く頷いた。
 そしてヘリコプターから縄梯子が降ろされて、場面は冒頭へと戻る。


「なあトレバー、どうしてヘリに乗せてくれたんだ?」
「俺はお前のアシスタントじゃねえ。聞けば答えてくれると思うなよ」
「それはそうだけど……」


「俺はドラゴンを見たんだ!オレンジ色のドラゴンを!」
「オレンジのドラゴン?それってもしかして、この……リザードンか!?」
「ああ、コイツだ!間違いないぜ!この図鑑そのままだ!」


「どこにいるんだ、リザードン……!」
「ぜひ俺も会いたいぜ。狩りのしがいがありそうだ」
「狩り?……まあいいか」


 情報交換や他愛のない話で、空中を旅する時間は過ぎていく。
 トレバーの操縦するヘリコプターは、Nの城の上空へと辿り着いた。
 ここからどこに着陸するのかと地上をきょろきょろ探していると、操縦席から声をかけられた。

「おい、ヘッドセットを外せ!」
「え?でもまだ着陸してないんじゃ……」
「いいから外せ!今すぐだ」

 ヘリに乗せてくれたのはともかく、気性が荒いのは困りものだとレッドは溜息を吐いた。
 唾を飛ばすような勢いで話すトレバーの剣幕に押されて、しぶしぶ両手でヘッドセットを取り外した直後。

ドカッ

 レッドは衝撃を受けて、一拍遅れて浮遊感に襲われた。

「んなっ……!」

 トレバーに蹴り飛ばされて落ちたのだと理解して、レッドは顔面蒼白になった。
 ここから地面まで激突したら、まず命は助からないだろう。

「ロハで乗せてやったんだ、地獄の底まで感謝してくれよ!」
「うわあああ~!」

 悪魔のようなトレバーのがなり声を背後に、レッドは死を覚悟する。



【C-2/Nの城・上空/一日目 日中】
【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意、顔に火傷、U.B.C.S.所属ヘリコプター@BIOHAZARD 3を操縦中
[装備]:パワードスーツ(損傷率50%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
0.さて、どこに向かうか。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.ドラゴン(リザードン)を退治する。
3.使えそうな奴は駒にする。

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
第一回放送の内容と、ポケモンの知識を少々レッドから聞き取りました。
※リザードンを遠目に目撃して、ポケモン図鑑でリザードンを確認しました。


【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)、落下中
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
0.うわあああ~!(落下中)
1.ピカを治すために、オーダイルとNの城へ向かう。
2.トレバーへの警戒心。何が目的なんだ!?
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【モンスター状態表】

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.レッドを乗せて目的地へ向かう。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?


【U.B.C.S.所属ヘリコプター@BIOHAZARD 3】
現地設置品。AS332シュペルピューマ。
機体のカラーリングはグレー。側面にはアンブレラ社のロゴマークが描かれている。
原作では、中盤の時計塔広場に救助のため訪れて、追跡者(ネメシス-T型)により撃墜される。
機銃やミサイルなどの兵装は搭載されていないが、ガンパウダー@BIOHAZARD 3はあるようだ。


Back← 127 →Next
126:It rains cats and dogs! ──ESCAPE 時系列順 128:Blazing Wind
投下順
114:これから毎日小屋を焼こうぜ? トレバー・フィリップス :[[]]
115:ゴールデンサン レッド 128:Blazing Wind


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年12月18日 03:03