イレブンはベルとともに、イシの村から南下していた。
これまでと変化したことといえば、ベルが言葉少なになったことだ。
放送の前後――より正確にはラリホーをかける前後――でベルの口数は減少していた。
それをイレブンは、ベルが気丈にふるまおうと無理をしているせいだと判断した。
親しい者の喪失による涙は、簡単には乾かない。
覆い隠そうとしても、心にほころびが生じてしまう。
(こうならないために、ラリホーをかけたのに)
イレブンは悔しさから唇をかんだ。
ベルが無理をしているということは、イレブンはベルの精神的な支えになれていないということだ。
穏やかな夢は、その場しのぎにしかならなかった。
(僕には……どうしようもないのか)
イレブンはベルの不安を払拭する方法を考えたが、答えは出ない。
なにしろ“はずかしい呪い”のせいで、ろくにコミュニケーションを図れないのだ。
これまでの会話で恥ずかしさは軽減されていたとはいえ、消極的から積極的へと呪いが反転したわけではない。
自分自身から話しかけることに抵抗さえなければと、もどかしくなる。
(――ああ、恥ずかしい)
せめて悔しさを表には出すまいと、イレブンは足元の石畳を見つめながら己を恥じた。
そのときだ。隣のベルから、トントンと肩を叩かれた。
「ねえ、あれ!」
ベルが指し示した先には、小さい犬がいた。
石畳の上で寝ころんでいた犬は、イレブンたちに気づくと、森の中へ駆けて行った。
「あれは……?」
「ポケモンだよお!テレビで見たことある気がする。えっと、名前はね……」
あごに手を当てて、うんうんと唸るベル。
しばらく考えるそぶりをしてから「思い出した!」と叫んだ。
「ヨーテリー!」
「ヨーテリー」
ベルに圧倒されて、イレブンはオウム返しをしてしまう。
すると、それに気をよくしたのか、ベルは笑顔のまま話を続けた。
「うん。とてもかしこいポケモンらしいんだ。
あまり吠えないから飼うのにピッタリです!って、テレビで紹介してたっけ」
「そうなんだね」
「ねえ、つかまえに行かない?」
「えっ?」
「もしかしたら、オーブを探すのに力を貸してくれるかも!」
「……」
イレブンは即座に同意するのをためらった。
「はい」と答えたら、南下を中断して森へと入ることになる。ベルは意気軒高だ。
「いいえ」と答えたら、南下を続けて施設を巡ることになる。ベルは意気消沈だ。
つまり天秤にかけるのは“ベルのテンション”と“探索の時間”である。
二つの選択肢に悩んだ結果、イレブンは前者を選んだ。
「……そうだね。力を、貸してもらおう」
「うん!それじゃあ追いかけよう!」
イレブンは意気軒高とするベルを見て、ほっとしていた。
ベルに無理をさせたくない気持ちはありつつも、その方法は考えつかないのが現状だ。
もし森に行くことを反対したら、ベルの気丈なふるまいさえ否定してしまうことになる。
それを避けたかった、というのが理由のひとつだ。
そして、理由はもうひとつ。
(ルキみたいに、頼れる犬かもしれない)
いわゆる野生の勘は、バカにしたものではない。
かつて犬に助けられたことを思い出して、イレブンは懐かしさをおぼえた。
「おうい!どこー?」
「ベル、あまり大声は……」
ベルに注意を促しながら、イレブンはきょろきょろと視線を動かした。
森は草木が生い茂っており、小さい犬の隠れる場所はごまんとありそうだ。
向こうから姿を現してくれたら。そんな期待をしながら、ヨーテリーを捜した。
□
その頃、ゲーチスはNの城を視認していた。
「おお!あれは間違いなく我が城!」
最初から目的地に選んでいたのに、到着までかなりの時間を要した。
すべては空想好きな女をはじめとする、無知で低能な参加者たちのせいだ。
無益な時間を過ごした苛立ちは、アジトに戻れた安心感で帳消しにできた。
しかし、扉へと近づいたゲーチスは、予想外のことに目を見開くことになる。
「なんだ、これは!?」
長い階段の先にあったはずの扉が、凹んだ状態で転がっていたのだ。
ゲーチスは唾を呑み込んだ。この扉を強引に開けた者がいることになる。
「誰かいないのですか!」
破壊された各部屋を早足で見回りながら、ゲーチスは叫んだ。
そうしていると、六階にてバーベナとヘレナの二人に遭遇した。
二人とも首輪を嵌められており、ここに連行されたのだとわかる。
「アナタがたがいるということは……ダークトリニティは?」
「わかりません、ゲーチス様」
使えない、と内心で愚痴をこぼしてから、ゲーチスは別の問いを二人に投げかけた。
その問いに対する答えを聞いて、ゲーチスは次の行動を決めた。
□
「もう十時なのか……」
ふと時計を見ると、第二回目の放送までおよそ二時間。
時間を使いすぎるのは得策ではないと考えて、イレブンはベルの背中に呼びかけた。
「ベル、そろそろ……」
「ヨーテリー見つかった?」
「いや……ぜんぜん」
「あっ、ねえ!こっちに小屋があるよ!」
背の低い草をかきわけて、ベルが森の奥へと向かう。
その後ろを焦って追いかけると、すこし開けた場所に出た。
そこには、なんの変哲もない木造りの山小屋がぽつんと建っている。
『推奨:山小屋内部の警戒』
「あの、あまり迂闊に……」
「すごく新しいみたい。誰もいないよ?」
ベルがためらいなくドアを開けたため、イレブンは肝が冷えた。
どうやらベルにとっては、警戒心よりも好奇心のほうが勝るようだ。
『……』
「……まあ、これでいいのかも」
かたわらにいるポッドの忠告は、完全に無視したことになる。
とはいえ、マイペースを取り戻しているのなら歓迎するべきだと、イレブンは自分を納得させた。
「イレブンもみてみて!くつろげそうだよ!」
『推奨:大声を出すことの危険性について、再度説明』
「……そうだね」
ポッドの無機質な声にあきれた様子を感じて、イレブンは苦笑いした。
それから手招きするベルにしたがって、山小屋の中へと足を踏み入れる。
室内の広さはそこそこで、ベルの言うとおり、くつろげるように設えられた内装だ。
「ここ、まだ新しい……と思う」
「え?どうしてわかるの?」
「……木のにおい」
「そっかー!すごいやイレブン!」
自慢したみたいで恥ずかしい、と思った矢先。
ベルからの素直な賞賛に、イレブンは顔が熱くなるのを感じた。
二重三重の恥ずかしさに耐えていると、ベルが思いついたように言った。
「ねえイレブン、ここで休んでなよ!」
「えっ?」
「その間に、あたしがヨーテリーをつかまえてくるから!」
「でも……」
屈託のない笑顔を見せるベル。
これが善意からくる提案なのは、ベルの裏表のない性格からして確実だ。
いつもなら流れで了承してしまうが、ここでのイレブンは毅然とした態度でベルに告げた。
「それはダメだ。危険すぎる……!」
「そうかなあ?」
「どこに誰がいるかも……」
「ううん……でも、まだ回復しきってないんでしょ?」
食い下がるベルを前に、イレブンは言葉に詰まった。
ベルの提案は、イシの村で魔王たちと交わした会話を根拠としている。
MP(マジック・パワー)は通常時の半分くらいまで回復したものの、満タンではない。
今後は使うタイミングを見極めないと、ガス欠を起こしてしまう。
そのような会話を交わしたことを、覚えられていたのだ。
「えっと……」
「それに、ランランもいるから平気だよお!
だいじょうぶ、小屋から遠くにいったりはしないから!」
ベルによる提案は理に適うものではある。
ひとりは休息を取り、もうひとりはオーブを探すための準備をする。
とても効率的だ――ここが殺し合いの場所であるというリスクを考慮から外せば。
正直なところ、イレブンは困惑していた。
緊張感に欠けるところがあるのは理解していたが、別行動を提案されるとは思わなかった。
(……いや、違うのかも)
それとも、と別の可能性に思い至る。
イレブンはこの提案を善意からくるものだと判断していた。
しかし、そうではないとしたら。それだけではないとしたら。
(やっぱり、ベルは無理をしているのかな……?)
この提案もまた、気丈にふるまおうとする意思からくるものだとしたら。
どうしても、イレブンはそれを否定できない。
「……それならせめて、ポッドを」
「いちごちゃんを?」
「うん。もし危険な……モンスターに、襲われたら助けてくれる」
イレブンはポッド153を信用して、その同行を妥協点とした。
そして、いちど言葉を区切ると、すこし俯きながら「それに」と続けた。
「なにかあったら、僕も助けに行く」
言い終えてから、一瞬の沈黙。
ベルの顔がわずかにキョトンとして、それからニッコリとほころんだ。
イレブンは思った。これは呪いなんて関係なく、恥ずかしい。
□
ベルは「いってくるね!」とイレブンに声をかけて、山小屋から出た。
ドアを閉めたところで立ち止まり、小屋の中には聞こえないくらいの声で呟く。
「イレブン……」
ベルはイシの村で食卓を囲んでいたとき、緊張を感じ取っていた。
マイペースをチェレンから何回も指摘されてきた自分でさえ感じたのだ。
イレブンや魔王から発されていた緊張感は、かなりのものだったと言える。
「ちょっと違うけど……朝のママみたい」
いつも身支度を整えていると、急かしてくるママ。
ベルはそれと似たものをイレブンや魔王から感じた。
つまりは、余裕のない様子ということだ。
「きっと、あまり時間がないんだよね」
名簿によると参加者は七十人。
放送で呼ばれたのはチェレンも含めて十三人。
単純に考えると、七人に一人以上が命を落としている。
いつ、自分も危機に見舞われるかわからない。
ベルは身体を突き上げる恐怖心に襲われた。
「……でも」
ベルはぎゅっと両手を握りしめた。
先へと進むと決めたからには、恐怖に支配されている場合ではない。
「イレブンもがんばってるんだから、あたしも……!」
せめてイレブンの手助けをしよう。
そう考えて、ベルは単独でヨーテリーを探すことを提案した。
イレブンには万全の状態でいて欲しかったからだ。
周囲に浮いているランタンこぞうとポッドに、それぞれに視線を向ける。
「ようし、ランラン、いちごちゃん!はりきってつかまえようねえ!」
『……了解』
ポッドの無機質な返答も、今はとてもありがたく感じた。
□
山小屋に残されたイレブンは、ある支給品を前に首をかしげていた。
未使用のアイテムであるそれの扱いをどうしたものか、決めかねていたのだ。
説明書によると、ジェリカンという軍用の燃料携行缶らしい。
「うーん……なにに使うんだろう?」
眺めていてもピンとこないので、イレブンは中身を覗いてみることにした。
ジェリカンのフタを開けて、顔を近づけてみると、その瞬間。
「うわ!」
イレブンは鼻を刺激するにおいに、顔をしかめて後ずさりした。
すぐにフタを閉めたものの、ゴホゴホとむせてしまう。これは嗅ぐものではない。
これによって、油に近いものだと理解できたが、それでも用途はピンとこなかった。
扱いについては一旦保留しておこう、と考えた矢先である。
「よう、探してるものがあるんだ。手伝ってくれるか?」
背後からの声にイレブンはドキリとした。
ふり向くと、山小屋の入口に見知らぬ男がいた。
黒い鎧らしきものを着て、デイパックを背負った男だ。
「ドラゴン退治のためのエモノ。
それと酒だ……ハッパか、あるいはガソリンでもいい」
ずかずかと入り込んできた男を見て、イレブンは警戒を強めた。
ひどく乱暴な態度は、これまであまり出会ったことのないタイプだ。
とはいえ殺し合いに積極的かどうかまでは、判断できない。
「おい、どうした。難聴か?。
デカイ声なら出すのも出させるのも得意だぜ。
オットセイみたいに鳴けるかどうか、試してやろうか」
変なことを言いながら、男は小屋の中を物色し始めた。
態度は粗野であるものの、すぐにイレブンを殺害しようとは考えていないようだ。
あるいは、凶器となるものを持っていないのかもしれない。
(……いや、まだ決めつけられない)
真意を判断するにはまだ早いと、静観することにした。
山小屋に凶器が置いていないことは確認していたので、イレブンはその選択ができた。
そうして、しばらく沈黙していると、また男から声をかけられた。
「おい、どうした。口にソーセージでも詰まってるのか?」
その手には紙コップが握られていた。もちろん山小屋に置かれていたものだ。
問いに返答しないままでいると、男はあきれたように肩をすくめた。
「オーケイ、俺ばかり話して悪かった。
こんなときにナーバスになるのは誰でもそうだ」
歌うように話しながら、男はジェリカンへと歩み寄る。
そして、缶の中身を紙コップに注いで、それを口もとに近づけた。
「えっ!?」
とても自然な動作に、イレブンは困惑を隠せなかった。
そのイレブンの目の前で、男の表情は次第にしまりがなくなっていく。
声とも呼べない音を口から漏らしながら、男は頭を押さえてふらふらと歩き回った。
そして、数十秒後。
「あぁー……クソッ」
水浴びをした後の動物のように身体を震わせた男は、紙コップをイレブンに差し出した。
まるで「お前もどうだ」と言わんばかりの自然な動作だった。
このとき、イレブンは得体のしれない恐怖を感じていた。
そのせいで手が震えて、紙コップを受けとるときに落としてしまった。
「あっ……」
軽い音を立てて床に転がる紙コップ。
それを拾おうとして、イレブンは再び刺激臭で顔をしかめた。
小屋の中に満ちていた木のにおいは、こぼれた液体のにおいで上書きされてしまった。
「ドラゴンを見た」
「……え?」
不意に、男はそう切り出した。
椅子に座る男の表情は、これまでとは違う神妙な顔つきだった。
「ここから南東の山岳地帯で、ドラゴンが飛び回っていた」
「それだけじゃない!カートゥーンみたいに火を吹いていたんだ」
「最初は夢か幻覚だと思ったさ」
「だけど、夢でも幻覚でもない」
「マジマのクソにやられた傷はそのままだし、ここに来てからはハッパのハの字も見てねえ」
「俺は俺の見たものを信じる」
「この島には!マジモンのドラゴンがいるんだ!」
「そこで俺は考えたのさ」
「あのドラゴンを退治してやる」
「そのためにはエモノが必要だ」
「だから、ここまで来たんだ!」
言い終えた男の顔は興奮で赤らんでいた。
この時点で、イレブンはある判断を下していた。
発言の真偽はともかく、この男は精神的に不安定であると。
もし本当にドラゴンがいたとしても、退治を任せることはできない。
そのことを伝えて理解してもらうべきだと、イレブンはそう考えた。
「あの……武器は渡せません」
言葉の意味を理解した男の顔色が、みるみる変化していく。
それを見て、イレブンは自身の失敗を悟った。
□
「やったー!ヨーテリーをつかまえたよ!」
森の捜索を開始してからおよそ十五分。
ヨーテリーを抱いたベルは、喜びの声をあげた。
かたわらのランタンこぞうも全身で喜びを表現している。
『推奨:モンスターボールによる確実な捕獲』
「ボールがあればそうしたいんだけどねえ」
ポッドの指摘に、ベルはやんわりと返答した。
もしボールがあれば、バトルでヨーテリーを弱らせて捕獲することも選べた。
しかし、ベルはそうしなかった。
ヨーテリーと真正面から向き合い、協力を頼んだのだ。
その結果として、ベルはヨーテリーを抱き上げていた。
「それじゃあ戻ろうか!」
ベルは仲間たちを促して、山小屋へと戻ることにした。
足取りは軽い。喜ぶイレブンの顔を想像すると、自然と笑顔になる。
「あれ?」
遠目に山小屋が見えたとき、ベルは違和感を抱いた。
ピタリと足を止めて、目を凝らして観察する。
「ドアがあいてる……」
山小屋のドアが、大きく開かれていた。
イレブンが勝手にどこかに行くとは思えない。
イヤな予感がして、ベルは山小屋へと走った。
「イレブン!」
名前を呼びながら、ベルは山小屋へと駆け込んだ。
わずかに遅れてランタンこぞうとポッドもやってくる。
「ああ?」
そこにいたのは、イレブンとは似ても似つかない男だった。
ドアに背を向けていたその男が、ベルの声に気づいて振り向く。
すこし頭の薄い、人相の悪い男だった。
「えっ……」
ベルはショックで言葉を失った。
山小屋の中は荒れていた。ほとんどの家具は倒れ、壊されているものもあった。
それ以上の衝撃は、男の足元にイレブンが横たわっていたことだ。
「イレブン……?」
「ああ、コイツのお友達か?」
イレブンの頭をつま先で小突きながら、吐き捨てるように男は告げた。
男の頬には血が付着している。それが誰の血かは、簡単に想像できてしまう。
「ちょうど殺すところだった」
その発言を聞いた瞬間、ベルはなにも考えられなくなった。
これまで生きてきた中で、まったく抱いたことのない感情に襲われた。
抱きかかえていたヨーテリーを、つい放してしまった。
そして感情のまま、無我夢中である言葉を唱えていた。
「――――!!!」
その直後、ベルは気絶した。
□
「……イレブン!?」
ベルは悪夢にうなされて飛び起きた。
イレブンが殺されてしまい、ベルはそれを見ていながら、どうすることもできない。
まさに悪夢だった。心臓はいつもの倍くらい激しく動いていた。
「ここって……?」
いくらか落ち着いてきて、いまいる場所が山小屋ではないことに気づいた。
そこは自動車の後部座席で、周囲を見回すと、隣にイレブンが寝ていた。
イレブンの服はところどころ焼け焦げて、頬にはアザができている。
「イレブン!イレブン!?」
「彼は無事ですよ。いまは気を失っているようですが」
不意に声をかけられて、ドキリとする。
前方を見ると、バックミラー越しに片目を隠した男と目が合った。
運転手は穏やかに「安心してください」と言い、それから話し始めた。
「まず……そうですね。ワタクシはゲーチスという者です。
この殺し合いには反対しています。ここまではよろしいですか?」
「……はい」
ベルがうなずくと、ゲーチスは頷いて続けた。
「ワタクシは殺し合いを打破する方法はないかと、車を走らせていました。
そしてたまたま森の近くを通りがかり、爆発音を耳にしたので山小屋へ近づいた。
すると、山小屋の入口あたりで気絶していたお二人を見つけた、というわけです。
そこの……イレブンさんですか?彼がアナタを火元から遠ざけようとしたのでしょう」
爆発。その単語を聞いて、ベルはある光景を思い出した。
「そうだ、あのとき……」
山小屋の中で、男がイレブンを殺そうとしていた。
なんとしてでもイレブンを助けなければいけない。
ただ、その感情に支配されて、ベルは叫んでいた。
――ランラン、メラ!
そばにいたランタンこぞうに、火の球を飛ばすように指示した。
あくまで牽制のつもりだったそれは、予想外に燃え広がり、爆発を引き起こした。
そのいきおいで飛ばされて、ベルは気絶してしまったのだ。
「そうだ!ランランといちごちゃんと、ヨーテリーは?」
「転がっていたモンスターと箱なら、お二人の荷物に入れておきましたよ。ヨーテリーはわかりませんが……」
「……それじゃあ、あの男の人は?」
イレブンとベル、それにランタンこぞうたちも生きていた。
それでは、残る一人――イレブンを殺そうとした男――は、どうなったのか。
おそるおそる、ベルは運転中のゲーチスに聞いてみた。
沈黙の後、ゲーチスから放たれたのは衝撃の一言。
「フム。ワタクシはお二人以外を見ていません。
もしあの山小屋に参加者がいたのなら、非常に残念ですが……」
「……そんな!」
言葉を濁す態度から、ベルはゲーチスの言わんとすることを察した。
あの男は、爆発に巻き込まれて命を落としたということだ。
「ワタクシからも、ひとつ質問させてもらいます。
あの山小屋でなにがあったのでしょう……アナタはなにをしたのですか?」
穏やかな声の問いかけに、ベルは答えることができなかった。
□
ゲーチスは車を運転しながら、内心でほくそえんでいた。
Nの城を訪れたゲーチスは、バーベナとヘレナの二人にこう問いかけた。
「この城を訪れたポケモントレーナーはいたか」と。
すると答えはノー。訪れたのはポケモンを知らない参加者だけだという。
主催者が放送でNの城を紹介したのは、ポケモンバトルをしている参加者への救済処置であることは明白だ。
つまり、いずれ仇敵のトウヤはNの城へと訪れる。ゲーチスはそう確信した。
そうであるならば、するべきことはひとつ。
ゲーチスにとって有利な状況を作り出すことだ。
そうした思考のもと、ゲーチスは城の内部を探索して、モンスターボールを手にしていた。
ひとつは空で、もうひとつは利用価値のあるポケモンだ。
ギギギアルと合わせれば、トウヤのバイバニラに対抗することも可能だろう。
しかし、それだけでは不足だ。勝利するためには、より周到な準備をしなければ。
そこで、ゲーチスは次の手段を講じることにした。
エアリスにしてきたのと同様に、対主催者を演じることだ。
他の参加者とコミュニケーションを図り、信用を勝ち取り利用する。
無論、エアリスのように我の強い参加者は選ばないことが前提だ。
そう思考を締めくくり、ゲーチスは城から北上することにしたのだった。
(これほどの成果は嬉しい誤算というものです)
その結果が、車という移動手段と、利用価値のある参加者の確保だった。
バックミラーをちらりと見る。ベルという少女は顔面蒼白で、身体を縮こまらせていた。
山小屋に参加者がいたら死んだはずだ、という推測を伝えただけで、これである。
(なにがあったかは知りませんが、おかげで苦労せず手駒を手に入れられた)
ゲーチスはウソを吐いていない。山小屋付近で姿を確認したのは二人だけだ。
爆発の原因はまだ聞けていないが、おそらくベルの行動がトリガーとなったのだろう。
そうでなければ、男の死という推測に動揺するはずもない。
(どうやらワタクシのことは知らない様子。せいぜい利用させてもらいましょう)
ゲーチスはベルと直接の面識はないが、一方的に認識していた。
ダークトリニティの張り巡らせた情報網で、トウヤやチェレンと同様マークしていたのだ。
マークといっても、トウヤやチェレンと比較すると目立つ行動はなかったという程度の印象しかない。
しかし、この状況においては、充分すぎるほど利用価値がある。
なにしろ、あのトウヤやチェレンの幼馴染なのだから。
(さて、ひとまず城へ戻るとしましょう)
己の中の高揚感を抑え込みながら、ゲーチスはアクセルを踏んだ。
【C-2/Nの城付近/一日目 昼】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、高揚感、運転中
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER+マテリア(ふうじる)@FF7、モンスターボール(ギギギアル@ポケットモンスターBW)、バイソン@Grand Theft Auto V
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く 極、モンスターボール(???@ポケットモンスター)、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.Nの城を本拠地とする。
2.ポケモンやベルたちを利用して、手段は問わずトウヤに勝利する。
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP1/2、恥ずかしい呪いのかかった状態、疲労(小)、気絶
[装備]:七宝のナイフ@ブレスオブザワイルド、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@NieR:Automata
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
0.――(気絶中)
1.ブルー以外の他のオーブを探す
2.ベルと共に、南へ向かう
※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。
【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:疲労(小)、気疲れ(大)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
0.あたしのせい……?
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。
※男(トレバー)は死んだと思っています。
【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)】
[状態]:モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中
【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
【ギギギアル@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針
1.ゲーチスに仕える
【
支給品紹介】
【ジェリカン@Grand Theft Auto V】
イレブンに支給された軍用の燃料携行缶。中身はガソリン。
ガソリンに発砲するなどして点火すると炎上する。
また、移動しながらガソリンを撒くと、その跡を導火線とすることができる。
【バイソン@Grand Theft Auto V】
現地設置品。
建築業者仕様の白いバン。
ドアは四枚、乗車定員は六人。車載ワイヤーが載せられている。
ゲーム中では「ミッション:夫婦カウンセリング」にて登場する。
【モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
現地設置品。
Nの城に置かれていた。空のモンスターボール。
【モンスターボール(???)@ポケットモンスター】
現地設置品。
Nの城に置かれていた。ポケモンの入ったモンスターボール。
□
ときはゲーチスがイレブンとベルを回収し終えた頃までさかのぼる。
山小屋で起きた爆発は、幸いにも周囲の森林には延焼せず、山小屋のみを焦がしていた。
その燃えている山小屋の壁が、強烈な力で吹き飛んだ。
「この……クソッタレがぁ!」
ガラガラと崩れる山小屋から現れたのは、誰あろうトレバーだ。
爆発の衝撃でしたたかに頭を打ちつけた彼は、そのまま炎の中で気絶していた。
途中、一旦意識を取り戻したイレブンがトレバーを持ち上げようとしていたものの、重さのせいで断念されていた。
つまり着用していたパワードスーツのせいで救出されなかったのだが、皮肉なことにトレバーを助けたのもそのパワードスーツだった。
パワードスーツによって過剰な火傷から身を守れて、さらに増強された筋力で壁を破壊することができたのだ。
「クソ!誰もいやがらねえ」
トレバーは地団駄を踏みながら、さんざん罵倒の言葉を並べた。
エモノをよこさないガキ、爆発を起こしたガキ、腹を刺したマジマ、ついでに旧友。
溜まるばかりのフラストレーションを、周囲の木や地面に八つ当たりするトレバー。
おまけに調達した車も盗まれていたので、何本もの木が犠牲となった。
「ちくしょう!あのドラゴンを倒してえのによ!」
ドラゴンとは、山岳地帯で戦闘していたリザードンのことである。
火を吹くドラゴン。そんな物語のような光景に、トレバーは魅せられた。
その時点で、手駒を見つけるという考えはどこかへ飛び去ってしまった。
そしてイレブンに話したとおり、エモノを求めて山小屋を訪れたわけである。
その成果はゼロ。とんだ骨折り損のくたびれ儲けだ。
「クソ野郎ども!」
どこまでも好き勝手に生きるトレバー。
その本心をわずかでも理解できる知人は、あいにくこの殺し合いに呼ばれていない。
治まることも抑えられることもない狂気は、ひたすらに膨張していく。
【B-1/山小屋跡/一日目 昼】
【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:腹部に軽い刺傷、大きな不快感、興奮、怒り、殺意、顔に火傷
[装備]:パワードスーツ(損傷率50%)@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを筆頭にムカつく奴を殺して回る。
2.ドラゴン(リザードン)を退治する。
3.使えそうな奴は駒にする。
4.マイケル達もいるのか?
※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※
ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
※放送の内容を聞き逃しました。
※リザードンを遠目に目撃しました。
【備考】
※B-1の山小屋が全焼しました。
※ヨーテリーはどこかへ行きました。
最終更新:2024年11月28日 03:39