「どうだオタコン、なにかわかったか?」

コンクリートジャングルに囲まれ、無人だというのに人工の灯りを星々のように散りばめた市街地。
街灯の傍に用意されたベンチに腰掛けながら桐生一馬が問いかける。
オタコンと呼ばれた眼鏡の男はベンチの裏に回り桐生の首輪を熱心に見つめていた。

「うーん、駄目だね。これじゃ情報が足りなさすぎる」

やがて首輪の観察をはじめて十分ほど経過した頃オタコンがそう切り上げた。
そうか、と桐生が言葉を返す。しかしその視線はオタコンにではなく、オタコンの差し出した右手に向けられていた。

『外装は綺麗に金属に覆われていて繋ぎ目もない。一見手の出しようが無いように見えるけど、裏側は首との接触面に僅かな隙間がある。専用の工具を使ってテコの原理を利用すればカバーを外せるかもね。……その際、首輪が爆破しないとは限らないけど』

メモ用紙に書かれたオタコンの整った文字を見て桐生はそうかと返す。
メモの内容はオタコンによる首輪解除の考察。しかし彼の優れた頭脳を持ってしても上記のような”ないよりはマシ”程度の情報しか得られない。
それほどまでにこの首輪は隙がない。繋ぎ目どころか線一つ見当たらない金属のリングはもはや知識云々の話ではないだろう。
オタコン自身記載した内容を試すつもりは今のところはない。爆破されない確信を得た状態でならば話は別だが実践するにはリスクが高すぎた。


話は変わるが、桐生とオタコンが出会ったのは一時間ほど前まで遡る。
桐生が地図片手にセレナという見覚えのある場所へ向かっている途中、現在桐生が座っているベンチで項垂れるオタコンの姿を目撃した。
声を掛けた際はひどく驚かれ許しを乞うてきたが、その後三言ほど会話を交わした時点で和解した。

オタコンには主催に立ち向かう勇気もなく、かといって殺し合いで優勝できるほどの実力もない。
そんな八方塞がりの状況で出会った桐生という存在はまさに棚からぼた餅。スネークと同等以上の体格の持ち主である桐生が只人ではないことは一目でわかった。
それに会場でマナに立ち向かった現場も目撃している。自分にはない勇気と実力を兼ね備えた桐生はパートナーとしてうってつけだ。
その代わりに今まで培ってきた知識を最大限活用し生還へ貢献する。その条件で桐生とオタコンは共に行動することとなった。


閑話休題。

どうしたものかと思考する桐生にオタコンが追加でメモを手渡す。
盗聴対策により運営に知られたくない内容は筆談で、と切り出したのはオタコンからだった。

『考えられる首輪の機能は盗聴、脈拍測定、体温測定、GPS機能、爆弾、禁止エリアを検知するセンサー機能かな。盗撮も考えたけど、どんなに目を凝らしてもカメラ穴もレンズも見当たらなかったからひとまず除外するよ』

メモいっぱいに連なる文字列を流し読み、桐生が頷く。
筆談で、とは言ったものの文字を書いているのはほとんどオタコンだ。考察担当を担っているのもあるが桐生が質問する隙を与えないほど緻密な内容を一気に記しているのが理由だ。
もし自分の知らない技術力で盗撮機能が備わっていた場合、不審な動きは少ない方がいいとオタコンが筆談自体極力少なく済まそうと心がけているのだからそれも当然だろう。
そしてその成果は十分に発揮され、桐生はメモ用紙を一枚も使わず相槌を主に返していた。

「オタコン、次にどこに行くべきかお前が決めてくれ」
「そうだね……研究所が気になるかな。ここからだと少し遠いけど、行く価値はあると思う」
「研究所か……たしかに、そこならなにか分かるかもしれないな」

面倒な筆談もほどほどに、桐生の問いにオタコンが地図を広げながら答える。
研究所、他の施設と比べて明らかに名前の響きが怪しい。そう易々と参加者に反逆を許すような材料があるとは思えないが手がかりはあるかもしれない。
願望に近いそれを胸に抱きつつ、オタコンの視線は僅かに傾く。
偽装タンカー。その文字を見た瞬間にマンハッタン沖タンカー沈没事件の記憶が蘇る。
あのタンカーは爆破されたのだからもう存在しないはずだが、何故わざわざ偽装という文字を入れるのかが気になった。

まぁ、気にしすぎかな。
数秒の思考ののち、オタコンの中でそう結論付けられる。
実際には気にしすぎというわけではなくまさにRAYを載せていたタンカーそのものなのだが、今のオタコンがそれを知るよしはない。

「その前にお互いの支給品を確認しようよ。これなんか僕に扱いこなせそうにないし」
「ん? ……グローブか、確かにこれはあんたには扱えそうにないな。よし、互いに使えそうなものがあれば交換しよう」

オタコンの提案のもと二人は支給品をアスファルトの地面に並べる。
桐生が取り出したのは銃と弾薬、バナナ、インカム。オタコンのものは先ほどのグローブと忍装束のような黒い衣服。
武器と呼べるグローブと銃はそれなりに強力なものだが、インカムとバナナは言うまでもなく外れアイテムだ。
戦力のバランスをとるためだろうか。しかしそれにしても無意味なものを寄越すなど嫌がらせのように感じる。
忍装束も外れのように見えるが、付属された説明書には「足音を消し相手に気づかれにくくなる。夜間は走る速度が速くなる」と書かれていた。これが本当ならかなり有力な装備品だ。

結果、桐生にはグローブとバナナが。オタコンには銃と忍装束、インカムが渡った。
しかしオタコンは忍装束を広げてはうーんと唸り、なかなか着替えようとしない。
そんな彼の様子を怪訝に思った桐生は忍装束を指差し問いかけた。

「その服、着ないのか?」
「え? ……ああ、うん。なんというかあまりこういう服は着慣れなくてね。ニンジャ、というやつだろう?」
「……まぁ、そうだな。俺も流石に着たことはないが、いい服じゃないか」
「桐生、それ本気で言ってるのかい?」

オタコンは日本の文化に興味を持っていたし、彼が兵器工学の道を歩んだのも日本のロボットアニメに影響されたからだ。
しかしだからといって日本文化を特別好んでいるわけでもない。ましてや彼が手に持つ忍装束は中々ボディラインを強調する代物だ。
出来れば着たくないが桐生の期待するような視線が痛い。いい服、というのをオタコンは皮肉と捉えたが実際桐生のファッションセンスは独特なものだった。

渋々オタコンが忍装束に着替えたのはその問答から五分ほど経過した後だった。
灰と紺の二色で彩られ、胸部に赤い目のマークが入っているその服を纏っている姿は不審感を煽る。
これで説明書の内容が嘘だったらすぐに着替えてやる、と思って辺りを走ってみたが確かに普段よりもかなり速く走れて足音が鳴らない事を実感した。
オタコンは嬉しさ半分、悲しみ半分といった表情で着用を続行した。

「はぁ……これ、他の参加者に会ったらどう説明すればいいんだろう」
「俺の周りには裸に蛇革のシャツを着てるやつだって居るんだ。……まぁ、俺が説明してやろう」

君も怖い顔してるけどね、とは言えなかった。
というか裸に蛇革のシャツとはどんなファッションセンスだ。聞いても仕方ないとは言え追求したくなる。
しかしこれ以上ここに長居は無用。早めに研究所へと向かおうとしたその時、

「……あ、……」
「!? ……子供?」

ベンチからやや離れた植え込みから金髪の少女が飛び出し、桐生達と目があった。
しかし二人を見るや否やか細い声を漏らし、街路を走り逃げてしまう。

「あ、待って! 僕たちは――」
「捕まえるぞ」
「え?」

乱暴な言葉に思わずオタコンが聞き返した頃には既に桐生は隣に居なかった。
代わりに全速力で走る彼の姿が写り、それはあっという間に少女に追いつき腕を掴む大の男のものに変わった。
はっきり言ってヤクザ顔の男が幼い少女の腕を掴む光景はアブナイものにしか見えない。オタコンは慌てて二人の元に駆け寄った。

「い、いや……!」
「ちょっと桐生! いくら何でも乱暴じゃないかい? 相手はまだ子供じゃ――」
「子供だからだ。こんな状況でガキが一人で逃げてたら格好の的だろう。それも錯乱してたら尚更だ」

桐生の主張は正しかった。
オタコンは思わず口をつぐむ。確かにあのまま立ち止まり、少女を見失いでもしたら終わりだ。
自分達と同じような者に出会えればいいが、願いをかなえるという虚言に乗ったやつに見つかったりしたらまず間違いなく殺されるだろう。
ならば無理矢理にでも自分たちと行動を共にさせたほうがいい。この場合で言う優しさの定義はなんなのか、考えるまでもなかった。

「桐生、腕を離してあげてくれ」
「……わかった」

オタコンに従い桐生が腕を離す。
解放された少女は逃げても無駄だと悟ったのか俯いたまま肩を震わせていた。
オタコンは少女の前へ移動し視線の高さを合わせるため身を屈める。顔を上げた少女の視線は案の定オタコンと重なった。

「僕はハル・エメリッヒ。オタコンって呼んでくれると嬉しいな。……君の名前は?」
「……シェリー・バーキン」
「シェリーか、いい名前だね。よければ僕たちと一緒に来ないかい? こんな格好だけど、怪しいものじゃないよ」

シェリーはオタコンの穏やかな言葉にすぐに頷けなかった。
いや、頷くべきだというシェリーにもわかっている。しかしオタコンの後ろでじっと自分を見下ろす桐生の顔を見ると素直について行っていいのか不安になる。
桐生は自分が信頼されていないのだと知りどうしたものかと思考するが、オタコンが「ああ」と納得したように呟きそれを遮った。

「紹介するね、こっちのおじさんは桐生一馬。怖い顔してるし無愛想だけど、優しい人なんだ」
「……そうなの?」
「うん。ほら、桐生も挨拶して」

好き勝手言ってくれる。そんな文句を心の内にしまいつつ桐生がシェリーへ向き直る。
シェリーも僅かながら警戒を解き、桐生と向き合った。

「桐生一馬だ。……よろしくな」
「うん。よろしく……カズマ」
「カズマ、か。なんというか、子供にそう呼ばれんのは慣れねぇな」

たどたどしいシェリーの呼びかけに桐生は思わず戸惑いを見せる。
自分よりも二回り以上年下である少女に名を呼ばれるのは彼の経験上あまりない。相手が日本人ではない以上仕方ないが大抵の子供がおじさん呼びだった。
しかし不快というわけではない。無意識の内に遥とシェリーを重ね、ほんの少しだけ眉尻を下げた。

「ほら桐生。笑顔」
「あ? ……こうか?」
「ははは! 予想通りぎこちないね。笑い慣れていないのかい?」

頬を引きつらせ歯が見え隠れする不自然な笑顔にオタコンは思わず声を上げて笑った。
む、と一瞬にして厳つい顔に戻る桐生の姿が尚更おかしくて、オタコンだけでなくシェリーの顔も緩んでいる。
望んだ形ではなかったがシェリーとも打ち解けられたようだ。桐生はオタコンの人懐こい性格に感謝し、同時に尊敬の念を浮かばせた。
怯えた子供と一瞬で打ち解けるなど、極道という真っ当ではない道を進んできた桐生には真似できない芸当だ。

「僕たちは今から研究所に行く。シェリー、改めて聞くけど一緒に来ないかい?」
「……うん。私、一緒に行きたい」
「そうか! 大丈夫、君のことは僕と桐生が守るから安心して」
「ふ。僕と桐生、か。しっかり守ってやらなきゃな、オタコン」

う、とオタコンが苦い顔をする。
桐生はいわばオタコンのボディーガードだ。弾みで言ってしまったが、言葉を訂正するなら「君と僕のことは桐生が守る」となる。
しかしシェリーはオタコンよりもずっと無力な存在だ。桐生が二人を守れない状況に陥ったいざという場合はオタコンが守らなければならない。
最悪の展開はあまり予想したくないが、そんな状況が訪れた場合のことを踏まえて訂正はしなかった。

「シェリー。お前の支給品はなんだ?」

え? とシェリーが桐生に聞き返す。
オタコンがシェリーに分かりやすく解説を入れた。恐らくルール説明も聞く余裕がなかったのだろう。
説明を終え、理解したシェリーがデイパックを降ろし中身を取り出してゆく。中からは基本支給品に交じって一つのボール状の物体が出てきた。

「これは?」
「わかんない。でも、これが一緒に入ってた……」
「それは……説明書かな?」

上半分を赤、下半分を白でペイントされたボールは桐生もオタコンも見覚えがない。
中央のボタンのようなものが気になったが、迂闊に触るのは危険と判断しオタコンの手に説明書が渡り、次に桐生へとボールを渡す。
しかし、ボールを桐生に手渡す瞬間シェリーの手からボールが滑り落ちてしまった。

「あっ――!」

コロン、と不思議なほど軽い音を立ててそれが地面に打ち付けられる。
慌てて拾い上げようと桐生が屈み込んだまさにその時、赤と白の境目がぱっくりと開き中から閃光が飛び出した。
白く流れる光の筋はやがて形を成し、巨大な生物に変わる。青い全身に四肢と頭部に黄金の鎧じみた外殻を持つそれは、驚く三人の顔を見つめ天高く吠えた。

その生命体はポケモン――ダイケンキ。
この場に呼ばれた一人の少年の相棒であり、最大戦力である。
いまだ自身の存在に目を瞬かせるシェリーが自分を呼び出したのだとダイケンキは理解した。
元の主、チェレンはどこにいるのか。モンスターボールの持ち主の命令を聞くという枷に縛られたダイケンキは彼を探すことも出来ない。
いまはただ目の前の少女を守るだけ。元々強い正義感を持つダイケンキはその事実を受け入れ、主人を守る決意を叫びに乗せた。


【F-4/一日目 深夜】
【桐生一馬@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:クリスタルグラブ@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、スウィートバナナ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを潰す。
1.なんだこいつは……!?
2.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。

【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(残弾数20)@BIOHAZARD 2、忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.こ、この生物は一体……?
2.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。

【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ダイケンキ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.え? え?
2.桐生とオタコンについていく。



【クリスタルグラブ@FINAL FANTASY Ⅶ】
オタコンに支給されたグローブ。本編ではティファ専用武器。
形状は水色のレザーグローブの拳先に小さなクリスタルを備え付けて強化した物。
マテリア穴が六個あり、ティファの武器の中では最多を誇る。

【スウィートバナナ@クロノ・トリガー】
桐生に支給された甘くて黄色い食べ物。
食べるとMPが20回復する。

【デザートイーグル@BIOHAZARD 2】
桐生に支給されたIMI社が生産している大型軍用拳銃。
R.P.D.のメダリオンが埋め込まれた木製グリップが装着されている。
本来50AEモデルの装弾数は7発だが、この銃は8発装填できる。

【忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
オタコンに支給された装備。
忍びマスク、忍びスーツ、忍びタイツの三つセット。
足音を消す効果がある他、セットボーナスで夜間移動速度が上がる。

【765インカム@THE IDOLM@STER】
桐生に支給されたインカム。
オレンジ色のデザインが特徴。

【モンスターボール(ダイケンキ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
シェリーに支給されたダイケンキが入ったモンスターボール。元々の持ち主はチェレン。
覚えている技はハイドロポンプ、ふぶき、シザークロス、アクアジェットと攻撃型。

Back← 006 →Next
005:Revive 時系列順 007:最初の一歩、踏み出して
投下順
000:オープニング 桐生一馬 040:その男、龍が如く(前編)
NEW GAME ハル・エメリッヒ
NEW GAME シェリー・バーキン

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年08月04日 17:13