「ポカ! ポカブーブー!!」
「おぉこりゃ楽ちんだ。頑張れよポカブ」
「ポカブー!!」

背の低い木々の隙間を縫うように駆ける橙色の影。
その影の正体はひぶたポケモンのポカブ。と、それに乗る探偵帽を被ったピカチュウ。
歩幅の小さい上ピカチュウという大荷物を背負っているためかそのスピードはお世辞にも速いとは言えなかった。

「ポカ、ポカブ!」
「なんだよ、不満か? 鍛えてほしいって言ったのはお前だろう?」
「ポカー……」
「まぁそう言うなって。街に出るまでの辛抱だ」

不満げに鳴くポカブだがニヒルな笑みを浮かべたピカチュウに諭されてしまう。
ポカブはベルを喜ばせるため強くなりたかった。先のスネークとの一件でひのこを吹けるようになった感動をもう一度味わいたいというのもあるが、何よりも前者の理由が大きい。
そのためにピカチュウに自分を鍛えてくれと頼んだのだが、なんだか良いように使われているような気がしてならなかった。

「っと、見えてきたな。ポカブ、もういいぞ」
「ポカ!」
「おわ!? 振り落とすなよ!」

そうこうしている内に緑の勢いは弱まり、見慣れたコンクリートジャングルが迫ってきた。
暗闇を歩いてきたためか溢れんばかりの不自然な光が目に眩しい。刺すような灯りにピカチュウは右目を瞑る。
と、もういいと言葉を聞いた途端にポカブに振り落とされコンクリートに投げ出される形で着地した。

(街灯や部屋の灯りが点いてるのに不気味なぐらい静かだ……あくまで演出ってわけか)

目に優しい月の光を嘲笑うように密集した色とりどりの街の灯り。
その様を写真に収めでもすれば活気溢れる夜の街という印象を与える事ができるだろうが、今その場にいるピカチュウが覚えたのは全くの逆の印象だ。
まるで先程まで日常を送っていた街から唐突に住人が姿を消したような、そんなホラーじみた思考がピカチュウの頭をよぎった。

「ポカー?」
「不安そうだな。モンスターボールの中に入っとくか?」
「ポカポカ!」
「はは、お前は勇敢だな」

デイパックの脇ポケットからモンスターボールを取り出すピカチュウをポカブがぶんぶんと首を振り制止する。
現状、ピカチュウとポカブの戦闘能力は無いに等しい。スネークのような参加者ならいいが、殺し合いに乗った者と出会ってしまえば逃げられる可能性は低い。
それをピカチュウが知らないはずもない。だが名探偵という肩書を背負う以上危険を冒してでもこのゲームを打開しなければならないのだ。

夜の街を進む。
まるで専用のスポットライトを浴びている気分だ。
そうして舞台を歩く足は不意に止められることとなる。

「……! あれは……」

人だ。それも見たところ高校生くらいの青年が街路樹に背を預け右手で頭を抱えている。
何かを思い悩んでいるようだ。ピカチュウたちに気がつく気配はない。
武器と呼べるものは左手に杖が握られているだけ。もしなにかあっても逃げられるだろうと判断したピカチュウはポカブを自分の後ろに下がらせ、青年へと声をかけた。

「なぁ、あんた」
「! 誰だ!?」




青年、鳴上悠は苦悶していた。
稲羽市で起きた連続殺人事件を無事に解決し、自称特別捜査隊の皆に見送られる中バスに乗り込んだところまでは覚えている。
しかしそこまでだ。その瞬間悠はあの殺し合いの場に集められていた。

「……完二……!」

そこで行われたのはマナという少女によるルール説明と、見せしめの殺害。
文字にするだけでも憤りを覚えるが、問題はその見せしめだ。首輪を爆破される直前に見たあの金髪は、あのヤンキーじみた顔は、間違いなく巽完二のものだった。
助けようと思ったときにはもう遅かった。爆発音と共に完二だったものが倒れ伏し、新鮮な血溜まりを作っていた。

それに動揺していてそれからのことはよく覚えていない。
しかし僅かに残ったリーダーとしての本能がルール説明だけは聞き逃しはしないとマナから紡がれる情報を頭に流し込んだ。
そうして悠は、見知らぬ街に転送された。


拉致されるという経験は初めてだが、それを経験している友人は何人かいる。
突然見知らぬ場所に連れてこられるというのは予想以上に不安なものだ。彼女達もこんな気持ちだったのだろうか、とどこか冷静な思考を巡らせる。
拉致された先がシャドウがはびこる”あっち”の世界というのは恐怖でしかないだろうが、殺し合いを強要される世界というのも大概恐ろしい。
ただ闇雲に襲ってくるシャドウと理知的に殺しに来る殺人鬼。そのどちらが脅威なのかと一概には決められないが出来ればどちらも関わりたくないのが本音だ。

しかし鳴上悠が抱いている恐怖は別にあった。

「……ペルソナが、出せる?」

悠がここに来て行ったことは支給品の確認、周囲の散策、そして――ペルソナの召喚。
ペルソナが出せるのはテレビの向こうの世界だけで、現実世界で出すことは出来ないというのは実証済みだ。
悠も本当にペルソナが出せると思って召喚を試したわけじゃない。別の意味で期待を裏切られることとなった。

(何故ペルソナが出せるんだ? ……もしかして、あっちの世界に呑み込まれたのか?)

焦る脳は考えうる限り最悪の結論をちらつかせてしまう。
事件が進むにつれ、テレビの世界で充満していた霧が現実世界にも溢れていた。
足立はそれが現実とテレビの世界が一体化する前兆と言っていた。もしそうならばペルソナが出せる現象にも説明がつく。
しかしアメノサギリを倒したことにより霧は晴れたはずだった。
ならばどうして――考えれば考えるほどに疑問が膨らみ、無限ループに至る。

「……やめよう。解決しないことを考えても仕方がない」

結果、悠は生産性のない思考を中断した。
まず最大の疑問であるそれを置いておき、次に気になる点を思い浮かべる。
それは悠の持つペルソナだ。現在彼の手元には初期のペルソナであるイザナギしかいない。

「ヨシツネやトランペッターは……いないのか」

レベルが最大とはいえ、あくまで初期ペルソナであるイザナギは戦力が高いとは言えない。
電撃技のジオ、物理技のスラッシュ、防御力を下げるラクンダ、攻撃力を上げるタルカジャと基本的なスキルは覚えるもののそこまでだ。
恐らく強敵相手では通用しないだろう。生存確率を上げるため、今後ペルソナを手に入れられる条件があるのならそれを探したい。

「もう立ち止まるのは終わりだ。完二、お前の遺志を継いでやる」

今後の方針は決まった。
完二がいたということは他の仲間が連れてこられていることはまず間違いない。
仲間の捜索、首輪の解除、ペルソナの入手。そしてその先にあるのはマナとウルノーガの打破。
きっと完二もそれを願っているはずだ。リーダーである以上、仲間を導き明星へ導かなければならない。

そう決意したまさにその時、

「なぁ、あんた」
「! 誰だ!?」

油断していた。
急いで声の方向へ顔を向ける。が、どこにも姿が見当たらない。

「おーい! ここだここ!」
「……!? シャドウ……?」

声に従い視線を下げれば見慣れない黄色い生き物が目に入った。
それも流暢に人の言葉を喋っている。戸惑いこそしたものの、シャドウを見てきた悠にとってはさほど驚くことではなかった。外見とかけ離れた声色には流石に耳を疑ったが。

「お前はなんなんだ?」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はピカチュウ、名探偵だ。そしてこっちは迷子のポカブだ」
「ポカポカ!」
「……名探偵?」

ピカチュウの得意げな顔とそれを真似るポカブに悠はぽかんと口を開く。
クマのような喋る異型だという認識でいたが、まさか名探偵という単語が飛び出すとは思わなかった。
とても探偵という風貌には見えないし、直斗のような落ち着きがあるようにも思えない。

「おっと、信じてないって顔だな。……そうだな、じゃあ一つ推理してやろう」
「いや、別にいいです」
「まぁ遠慮するな。そうだな……」

なんだか面倒な事になりそうだ、と悠は断りを入れるがピカチュウは一人勝手に悩み始める。
あまり期待はしていないが、おかん級の寛容さを持っている悠はじっとその様子を見つめ彼の言う推理を待った。

「お前、さっき殺された金髪の男と同じ学校だろう」
「! なぜそれを……」
「制服が同じだったからな。悪いな、こんな無神経で幼稚な推理しか出来なくて」
「……いや、いいんだ。よく見てるんだな」

とんでもない当てずっぽうが飛び出すと思っていたばかりに悠は意表を突かれる。
確かに探偵の推理と呼ぶにはおざなりで稚拙なものだが、それを出会って数分にも満たない相手に確信を持って突きつける様は直斗と重なった。
なるほど、確かに名探偵というのも自称ではないのだろう。悠はピカチュウに対しての評価を改めた。

「友達のこと、残念だったな。気の利いた言葉はかけられないが……お前は生きてる。だからこそ、死んでしまった奴の無念を晴らすべきだと思うぜ」
「ああ、そのつもりだ。こんな悪趣味なゲーム絶対に止めてやる」
「はは、熱い男じゃないか! 勿論俺も手を貸すぞ。事件の解決には名探偵の頭脳が必要だろ!」
「ありがとう。頼りにさせてもらう」

ここに一つの絆が誕生する。
姿かたちこそ違えど、互いに目の前の存在を信頼する仲間と重ねていた。
ゲームの打開に確かな決意と胸に宿る情熱を示す正義漢はまるでティム・グッドマンのようで。
人の姿でなくとも人間に協力しお調子者を演じながらも頼りになる熱血漢はまるでクマのようで。
そんな最高の第一印象を抱いたためか、出会って間もないものの二人は相手を信頼足り得る存在だと確信を持った。

「鳴上悠です。よろしく、ぺかてう」
「おう、よろしく。あとピカチュウな」

ふと、自分が名乗っていなかったことに気がついた悠は身を屈めてピカチュウへと手を差し伸べる。
握手を求めていると気がついたピカチュウは手をぺたりと乗せ、悠がそれを包み軽く上下に振った。

「ポカ! ポカブーブー!」
「ああ。よろしくな、ブーブー」
「ポカブな」

傍で鳴くポカブに向き直り悠が再度手を差し伸べる。
するとポカブは器用にも前足を悠の手に乗せてみせた。悠はそれを硬く握り、握手が成立する。

「さてと、頼もしい仲間も増えたことだし情報交換がてら病院にでも向かわないか? ここからなら近いし、病院なら人も集まるだろ」
「そうだな、もしかしたら俺の仲間もいるかもしれない」
「へぇ、聞かせてくれないか? 悠の仲間の話」
「ふっ、個性的な奴らばっかりだぞ」

ピカチュウの挙げた方針に異論はない。
地図を取り出した悠は病院への方向に見当をつけ、そちらへと足を運んでゆく。
ピカチュウやポカブと歩幅を合わせているため普段のそれよりも遅いが、互いの情報を共有するには丁度いいだろう。
一人ぼっちの役者はようやく舞台を降りた。





我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……

絆は即ち、まことを知る一歩なり

汝、”星”のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……



【D-6/街路/一日目 黎明】
【鳴上悠@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:リーダーとして相応しい行動をする。
1.ピカチュウと共に病院へ向かう。
2.もし仲間がいるなら探したい。
3.完二……。

※事件解決後、バスに乗り込んだ直後からの参戦です。
※現在持っているペルソナはイザナギだけです。
他のペルソナは参加者と絆を深めることで発現します。(例:ピカチュウ=”星”のペルソナ)
※誰とも特別な関係(恋人)ではありません。
※全ステータスMAXの状態です。

【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.悠と共に病院へ向かう。
2.ティムやポカブのパートナーを探す。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ピカチュウのコミュニティ属性は”星”です。


支給品紹介
【女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
鳴上悠に支給された両手杖。
装備すれば攻撃魔力、回復魔力ともに上昇する。また、殴った相手からMPを吸収できる。
あくま系へのダメージが10%増加する効果もあり、あくタイプのポケモンなどには効果的かも。

【ルッカの工具箱@クロノ・トリガー】
鳴上悠に支給された工具箱。
ルッカの技術が合わされば壊れたロボの修理も行える。
具体的に中に何が入っているかは後の書き手さんにおまかせします。

【ポケモン状態表】
【ポカブ ♂】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。

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030:灯火の星 時系列順 035:輝け!月下の歌劇団☆
投下順 032:哀れな道化の復讐劇
NEW GAME 鳴上悠 052:We're tied with bonds, aren't we?(前編)
012:ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ピカチュウ

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最終更新:2019年09月02日 17:32