「イウヴァルトね、久しぶり。元気してた?」
「お前は………!!」

これは、バトルロワイヤルが始まり、参加者全員がステージに飛ばされる少し前の話。



イウヴァルトは、話しかけてきた少女を見つめていた。

こいつのことはよく覚えている。
あの日、帝国軍の牢獄で確かに目にした少女だ。
俺に新たな力を持ちかけ、カイムを襲わせた少女。

しかし、どうにも理解できないことがある。

マナは幼馴染のカイムに敗れた。

直接見たわけではないが、巨大化したマナの、少女とも思えない悲鳴が、空中要塞上で響き渡ったから確かなことだろう。

死んだかどうかは定かではないが、最低でも力は失っただろう。


最も俺はフリアエを生き返らせる希望さえ絶たれて、崩れ行く空中要塞の中でフリアエの後を追うのだとばかり思っていた。

それがどうしたことだ。

自分も、マナも生きている。

「まあ、あなたには理解できないことが沢山あるでしょう。」
あの時と同じ、少女らしく純粋な、そして残酷な笑みを浮かべて、話しかける。

「ああ、その通りだ。一体ここはどこなんだ!?なぜおまえがここにいるんだ!!」
「えーと、それはね、教えてあげない。
私が教えてあげるのは、この戦いに生き残れたら、あなたのだーい好きな人を生き返らせてあげることだけよ。」

あの真っ赤な、吸い込まれそうな瞳。
見つめられるだけで、気が狂いそうだ。
いや、もう実際に、全てが狂っているのかもしれないが。

「あなたの道具は特別にサービスしてあげるわ。だから殺しなさい。すべての参加者を。」

「あまり参加者に干渉するな、マナ。」
今度はもう一人の主催者のウルノーガがマナを止める。

「はーい。でもいいでしょ?折角私の知り合いなんだし。」
「まあいい。下僕を放り込んだのは、貴様だけではないしな……。」

主催者同士の会話が終わるよりも前に、イウヴァルトは闇に消えていった。
その眼に、赤い光を加えたまま。


次にイウヴァルトの前に現れたのは、懐かしい光景だった。
あの時、帝国軍に襲われて、カイムやフリアエと共にここから逃げ出した。

(言われずとも、やってやるさ。)
一度ならず二度までも、あの少女の傀儡として生きるのは癪な話だ。

だが、少女が言っていたこと。
自分が勝ち残れば、大好きな人、フリアエを生き返らせてもらえる。

彼女の命の為なら、100人の死をも受け入れよう。
それにこの戦いは、あのカイムも参加している。

イウヴァルトの婚約者、フリアエの兄にして、自分がどう足掻いても届かなかった相手。
奴は竜と契約したのにも関わらず、マナの力を借りた自分を蔑んだ目で見てきた。
挙句の果てに、フリアエが死んだ後も、生き返らせようとすることを拒んだ。

(殺すしかないなら、殺すだけだろう。邪魔な奴も殺せて、一石二鳥さ。)

マナが道具はサービスすると言っていたから、不利な状況ではない。
だが、それを踏まえても、自分一人70人近くを葬れる可能性は低い。

再び自分が結局勝てなかった男、カイムの顔が思い浮かぶ。
紅い竜の背に乗ったあいつは、自分を止めることよりも、殺すことを目的とした表情だった。

あの顔を思い出すと、復讐心も芽生えるが、恐怖も感じてしまう。
カイム以外にも高い戦闘力を持った参加者はいる可能性は高いし、契約相手の黒き竜もいない今、賭けが成功する可能性は低い。

だから。

この戦いの参加者同士を殺し合わせよう。
カイムを中心とする強者を悪役に仕立て、正義面した気持ちの悪い人間に殺してもらうのだ。
仕方がないだろう。
誰だって、好きな人が死んだら、畜生道を歩むことになっても、生き返らせることを求めるはずだ。

瞳の紅い光が、さらに強くなった。

マナが操る、帝国軍の兵士と同じ、慈愛をなくした者の目だった。

【A-6 女神の城中庭/一日目 深夜】
【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個、主催者によって優遇されている)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイムを殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。


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最終更新:2019年08月11日 00:33