「さて、そろそろ上がるか。いい湯だったな。」
「確かにそうね。ウルノーガ……アイツに温泉作りの趣味があったなんて、知らなかったわ。」

意外なことにそこは、かなり質の高い温泉だった。
頑丈な木の壁に覆われ、後ろには山の絵が描いてある。
どことなく、しかし鬱陶しすぎないほどに花の香りが漂い、温泉の経験がある二人にとっても、高評価だった。


二人は体を拭き、いつもの服を着始める。

「中々満足できたわ。ここに飲み物でもあれば、文句なしだけど。」
「お主、中々分かるようだな。ユクモの村でも、風呂での酒は嗜みの一つだ。」
「だからそこどこよ……でも、酒場もないから仕方ないんじゃない?」
「あるようだぞ。」
「ええ?」

よく見れば温泉から出た所に、氷と何本かのビンが浮かんだ鉄の箱があった
箱には「ご自由にお取りください」という張り紙まで付いてあった。

アフターサービスまで万全だと、逆に怪しくなる。

「これ、毒でも入ってるんじゃない?」
「どうやらそのようではないようだ。」

ベロニカの推測を、ハンターはにべもなく切り捨てる。

「拙者は鼻がそれなりに利いてな。毒の混ざった物を見分けるなど、朝飯前よ。」

ハンターとして生きる上で、嗅覚は時として視覚以上に大切だ。
加えて罠を張るのに度々毒を使っている以上、危険な飲食物、そうでない容易に区別がつく。

ハンターはその中から一本を取り出しぐい、と呷る。
ベロニカも適当なものを一本取って、飲もうとする。

「お主には冷酒は早いのではないか?こっちにしておく方が良いぞ。」


ああ、そうだったな、とベロニカは思い出した。
ホムラの里で、見た目で酒場のマスターから追い出されたこと。

こうして妹や仲間との冒険を思い出すと、自然と仲間達とのことも気がかりになってくる。


「失礼ね!!あたしはこう見えて呪いをかけられただけで……。」
「まあ、そう背伸びするな。目標ばかり見ていると、体に毒だぞ。」
「話聞きなさいよ!!」

結局ベロニカはハンターに勧められたジュースを飲んだ。
それは、生き返って久々に口にした飲み物だからか、とてもサッパリした。


二人はイシの村へ向けて歩き出した。
地図を見ると、かなり距離がある。
その過程で、誰か別の仲間を見つけることが出来ればよいのだが。


しかし、草原を進む中意外なほど、誰にも会わない。
身長に高低差のある二人だけが、夜の草原を歩く。

「そういえば、ベロニカ殿が言っていた、「呪文」とは何なのだ?」
「え!?呪文のことを知らないって、どこの出身よ?」
「知らぬものは知らぬ。」

彼女は生まれの地、聖地ラムダ。
そこでベロニカとその妹セーニャは、「双賢の姉妹」と呼ばれ、幼き頃から魔法に触れてきた。
彼女にとっては、魔法が存在しない世界の方が不思議なのである。

「まあ、呪文って一言で言ってもねえ、色々あるのよ。
あたしは火や氷を出したり、敵をかく乱させる魔法が得意だわ。」

「つまりは、戦いのための技の一つか……。」

確かにベロニカの話を要約すると、そうなる。

「でもね、戦いだけじゃなくて、人を守るための魔法もあるわ。
あたしの妹なんか、人の傷を癒す魔法が得意なの。」

「なるほど。狩りと同じで、魔法もまた、奥が深いのだな……。」
「一人だけじゃ完全に成り立たないのも、狩りと同じね。」

ベロニカの胸の奥には一抹の不安がよぎった。
やはりこの戦いに呼ばれたのは、何らかの戦いの力を持つからなのだろう。

自分と同じ力を、戦いに使う者がいなければいいのだが。



それからも二人は歩き続ける。
ベロニカの疑問は膨らみ続ける。
殺し合いをしろと呼ばれたが、自分がやったことは温泉に入って、風呂上がりに二人で冷えた飲み物を飲んだくらいだ。

これでは、ホムラの里の観光客と、やってることがまんま同じである。

(これって……何かの冗談?ハッタリ?)
殺し合い以前に人の姿も見かけない以上は、そうとしか思えなかった。
実際にカミュが飛び掛かって行ったのを見たし、金髪の男性の首が飛ばされた光景も目に焼き付いているにしても。


「ねえ、この世界さ、本当に殺し合いが起こってるの?」
丁度B-6を縦断する橋へたどり着いた所で、久々にベロニカが口を開いた。

しかし、それに答えるハンターの表情は、険しかった。
「気を付けろ……後ろから血の匂いがした者が走ってくる……!!」





1つめのB-Blood―血




それを聞くと、ベロニカも後ろに警戒する。
殺し合いと関わった者が近づいてくるという合図だ。

しかし、走ってきたのは、ベロニカが良く知っている人物だった。
勇者イレブンと共に、ホムラの里で初めて会い、共に旅をした人物。
「カミュ!?」
「ベロニカ!?……なんにせよ……よかったぜ……。」

「なんと、ベロニカ殿の知り合いであったか……しかし、その怪我は……。」

ハンターもベロニカの知り合いということで、安堵する。
しかし、その怪我は、明らかにただ事ではなかった。

手傷を負わせる者がいる。そういうことなのだろう。

「大丈夫か?これでも飲んで、ひとまず落ち着くのが良かろう。」
ハンターが先程温泉から取った飲み物のビンを飲ませる。

怪我は治らないが、戦いからの逃走で水分を失っていたので、助かる。

「誰だか知らねえが、ありがてえ。ベロニカの仲間ってんなら、信用できるぜ……いてっ!!」

ベロニカが、カミュに蹴りを入れる。
「相変わらずデリカシーがないのね。死んだ仲間に会えたのに、何なのその態度!!」
「はあ!?オマエが死んだあ!?いつ?」

ベロニカとしては、カミュは自分がウルノーガ達から逃がしたことを知らないのだと思っていた。
「命の大樹でホメロスに襲われたのを、あたしが逃がしたのよ!!」
「何言ってんだ!?あの時なら、イレブンがぎりぎりで俺達を守ってくれたじゃねえか!!」
「は?あたしの手柄をイレブンのものにしないでよ!!」

過ぎ去りし時を求めた者と、未だ求められてない者
このずれが生じるのは当然であった。



「カミュ……といったな、その怪我は何があったのだ?
ベロニカ殿も、かつての仲間だからといって、怪我人に無理をさせるな。」
二人の口げんかにしびれを切らしたハンターが、口をはさむ。


カミュは話した。
銀髪の悪鬼、セフィロスのこと。
自分と戦ったカエルの騎士、その助太刀をしてくれた金髪の青年が纏めて殺され、自分だけはどうにか逃げてきたということ。

「何よその銀髪………。」
「手練れの戦士を二人って、そのような輩が本当にいるのか……。」

カミュの敗走、そしてカミュが目の当たりにした人間の死から、ここが殺し合いの世界だと改めて実感する。
本当はベロニカとしては、カミュから元の世界で、ウルノーガに襲撃された後どうなったかもっと聞きたい所だ。
しかし、それ以外にやらなければならないことがあると実感した。

「カエルの方はどうなったかわかんねえ。でも多分死んだと思う。
アイツを倒すために、力を貸してくれ!!」

「ハイハイ。言われなくても分かってるわよ。」
「うむ。そのような危険な輩、のさばらしておくわけにはいかぬ。」

旧知の仲間とは良いものだ。
いくら手ごわい敵と敗北しても、仲間が生きている限り決して負けはしないという気になる。
だが、3人程度では、セフィロスに勝てる可能性はまだ低い。

「あの銀髪もそうだけど、他の仲間もいるか気がかりだ。
戦力強化のためにもまずはこの地図の、イシの村へ行こうぜ。」

「ちょっ、それ、あたし達が言おうと思ってたのに!!」

どうやらベロニカもカミュも、同じことを考えていたようだ。
しかし、この様子だと、他の仲間も(参加させられているとしたら)同じことを考えているのではないか。

こうしているだけでも、自然に仲間が集まっていくのではないかと、カミュとベロニカの間にはどこか希望的観測があった。

橋を渡り始める。
カミュが後方を、ベロニカがサイドを、ハンターが前方を気遣う。

「待て。誰かがくる。」
ハンターが二人に注意を喚起し始めた。

三人の向かう先から、傷ついた男が歩いてきた。
「止まれ!!拙者らは敵ではない!!」

ハンターは大剣を地面に置き、敵意がないことを示す。




2つめのB-bridge―橋




「敵ではない……か。よかった。」

目の前の男は、被害者か加害者かと聞かれれば、どうみても前者という様子だった。
彼、イウヴァルトは最も主催者に近い参加者なのだが、それを見抜くのは難しい。

「おいオッサン、どうしたんだよその傷!?」
「いや……さっき向こうの森の中で、銀の鎧と、大きな剣を持った男に襲われてな……。」

カミュに続いて、この男も手傷を。
やはりこの世界は、殺し合いのために作られたものだと、改めて実感させられた。

「気を付けろ。奴は、名前を名乗っていた!!『カイム』と!!」
「オジサンの腕も、そいつに傷つけられたの?」

ベロニカは包帯のつけた腕を見つめた。
男は急にその腕を隠す。





3つめのB-bantage―包帯





「なるほど。この先には危険な相手がいると。それが言いたいのだな?」
「そうだ。今はカイムはどこにいるか分からんが……気を付けろ。巨大な剣を振り回す、危険な男だ。」

そう言いながら、イウヴァルトはすぐにカミュ達が来た方向に行こうとする。

「おいオッサン、オレ達と行くつもりはねえのか?」
「とんでもない!!もしかして……あんたらはこの先へ行こうというのか?」

北上しようとするハンター達を、イウヴァルトは遮る。

「うむ。拙者らはこの先で仲間を探そうとしていてな。邪魔が入るというなら、押しのけて行くしかあるまい。」

「どうしてもというなら止めない。だが、もし仲間とやらに再開しても、カイムのことは話しておいてくれ。」

そういうと、イウヴァルトはそそくさと立ち去った。





4つめのB-blind―目をくらませる






三人はイウヴァルトの姿が見えなくなるまで、暫く黙っていた。

「さて、どうにも言いたいことが一つある。」
橋ももう少しで終わる所、ハンターが一番先に口を開いた。

「奇遇ね。あたしも言いたいことがあったわ。」
ベロニカもそれに続いて口を開いた。

「ま、ネタの察しは付いてるけどな。」

カミュもそれにつられるかのように、言葉を発する。


「あの男、どうにも怪しくないか?」
「「やっぱり」」

ハンターの言葉に、ベロニカとカミュが同意する。


「拙者としては、あの血のついた包帯がどうにも怪しかった。
誰かに襲われたなら、カミュ殿のように多少なりとも血の匂いがするものだが、あの男からはそんな匂いは全くしない。」

「それに、あたしがあいつの手を見た瞬間、隠そうとしたでしょ。
包帯がフェイクだとバレたくないからに、決まってるわ。」

「そもそも、襲われたなら、こんな見晴らしの良くて、一本道の橋なんかに逃げるか?
別のヤツに挟まれたら、それこそ一巻の終わりだろ。」


三人は、イウヴァルトとの対話中に、異なる視点から相手を警戒していた。
生まれは違えど、伊達に戦場を潜ったわけではない。

加えてハンター、盗賊、魔法使い。どれも観察眼がモノを言う職業だ。
情報と経験を繋げて、推理することなど容易にできる。

彼らは、即座にイウヴァルトが被害者を装って、カイムという人物を危険な相手に仕立て上げようとしていることに気が付いた。

偽の包帯に血、逃げ場所には不自然な橋、目くらましのための嘘情報
イウヴァルトをクロだとする条件は揃った。

「Bingo……だね。」





5つ目のB-Bingo





「だけどよ、ちょっと気になるんだ。なんで二人共、アイツがガセの情報をばら撒くヤツだって分かってたのに、攻撃しなかったんだ?」

カミュがまだ分からない疑問を口にする。

「あの男からは、あのマナという少女と同じ臭いがした。それにヤツのザックから、それに輪をかけて嫌な臭いがした。
恐らく何か厄介な道具を支給されているに違いない。」

「こんな所でドンパチやったら、手負いのアンタが危険じゃない?あたしの気遣いに感謝しなさいよ!!
それにあたしたち、誰も回復呪文を使えないでしょ?」

そう言いながら、ベロニカはカミュを小突く。

「すまねえな。そこまで気づかなかったぜ。でもその怪我人に対して、暴力を振るうなよ!!」


カミュは口調とは反対に、旧知の仲のベロニカ、そして新たな仲間であるハンターに信頼を寄せていた。

だが、危険人物を見過ごしてしまったのは、三人にわだかまりは残った。
奴の情報を鵜呑みにする者が出ないといいのだが。
カミュだけは、南へ行きセフィロスと言う本物の危険人物と戦ってくれることを僅かに願っていたが、それは都合が良すぎだろう。

自分の判断が、正しいことだったと願いながら、三人は進む。

【B-6/橋(北側) /一日目 黎明】

【ベロニカ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す 
1.イシの村に行けば仲間と合流出来るかも
2.自分の死後の出来事を知りたい
3.カミュが言っていたことと自分が見たものが違うのはなぜ?

※本編死亡後の参戦です。
※仲間たちは、自身の死亡後にウルノーガに敗北したのだと思っています。

【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲
1.ベロニカを護りつつイシの村に向かう
2.主催者の関係人物(イウヴァルト)を警戒する。

【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)、後悔、ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、折れたコンバットナイフ@BIOHAZARD 2、ランダム支給品(1~2個、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
1.ベロニカ、ハンターと共にイシの村へ向かう
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.雷電の死は自分の責任?

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。
















6つめのB―bat―蝙蝠








「と、いうのがヤツらの会話であります。キー!!」

「でかしたぞ。スカウター。」
イウヴァルトは醜悪な笑みを浮かべ、ボールにスカウターを戻す。

イウヴァルトが去った後もハンター達の会話を、橋の下から盗み聞きをしていた。

(小癪な奴等だ。騙されたふりをして、俺を欺いていたのか。)

だが、このスカウター、という魔物。
偵察用としては、かなり優秀だ。

戦闘力は高くはなさそうだが、音を消しながら飛ぶことが出来、言葉が話せる分情報伝達にも使える。
下手なドラゴンよりよほど使い勝手に長ける。
この赤白のボールの仕組みはよくわからないが、マナの奴も中々洒落たものをくれた。

それよりも厄介な奴は、あの長身の男。
自分を匂い一つで、マナの関係者だと見抜いたのか。

まあ、どうでもいい。奴も『危険人物』にすればいいだけだからな。


【B-6/橋(南側) /一日目 黎明】
【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康 腕に布を巻き、ケガを偽装
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(スカウター)@クロノトリガー ランダム支給品(0~2個、主催者によって優遇されている)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンターを殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。



【 スカウター@クロノトリガー】
イウヴァルトに支給された、スカウターが入ったモンスターボール。
古代に生息する魔法生物で、目玉に蝙蝠の翼が生えたような姿をしている、室内のガードや偵察が中心のモンスター。
実は未来にも少数ながら生息している。
今作のような情報伝達以外にも、睡眠効果を持つ「いちまんヘルツ」や雷魔法の「サンダー」を使う。
また、雷「以外」の属性を吸収し、カウンターで「超放電」を打つ特徴もある。

Back← 044 →Next
042:迷える者たちの邂逅 時系列順 046:Day of the future
043:Bullet & Revolver 投下順 045:命もないのに、殺し合う
004:こころないてんし カミュ 056:TRIGGER
005:Revive ベロニカ
ハンター
013:破滅を望む者 イウヴァルト 059:流星光底長蛇を逸す

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年09月26日 11:53