「殺し合い……ですか?」

「そうだ。ホメロスよ、お前にもう一度チャンスをやろうと思うてな。」

気がつくと私は、暗い暗い闇の底から引き上げられていた。

「協力者のマナも配下を殺し合いに送り込むそうだ。そうだな……主催者が持つ切り札──さしずめジョーカーと言ったところか。」

どうやら主は殺し合いの催しを開こうと画策しているようだった。

「さらば私のジョーカーはお前だ、ホメロス。私の右腕として、そのチカラを持って必ずやこの殺し合いを円滑に進めてくれるだろうと信じておる。」

「はい……ウルノーガ様の仰せのままに……。」

主らしい、この上なく悪趣味な催しだ。
話によると、時間や世界軸をも超えて様々な世界から参加者を集めるとのことらしい。

「お前が喜ぶと思ってな……私に16年間仕えたせめてもの礼として元々呼ぶつもりはなかったのだが、グレイグの奴も呼んでおいてやったぞ。」

グレイグ。
その名に私は確かに反応した。
私の持つ劣等感の、元凶の名────

「ありがとうございます、ウルノーガ様。必ずや、貴方の期待に応えてみせましょう。」

こうして私は──主より新たな命を受け取ったのだ。

「お前の活躍を期待しているぞ、ホメロスよ。」

最後に一言、付け加えるかのように主はそう言った。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼

ホメロスが降り立った場所は、どうやら公園であるようだった。
地図によると、ここは小さな島のような形になっていて、周りは他の島とは橋でのみ繋がっているようだ。

殺し合いの世界の中でも有数の、見通しが広く不意打ちを受けにくい場所と言えるだろう。
それこそ海中から襲ってくるような相手でも無い限り、不意打ちを受けることは無さそうだ。
どうやらスタート地点は良い場所を引くことが出来たようだ。

次に参加者全員に支給されているらしいデイパックを開く。

支給品──この中身こそがこのバトルロワイヤルを左右すると言っても差し支えない。
自分の居場所の次に確認すべき事であるのは間違いないだろう。

デイパックを開くと、3つの支給品が確認出来た。
とりあえず、サイズの大きな物から手に取ることにする。

最初に出てきたのは、虹色に輝く刃を持った太刀だった。

試しに一振り、空気を斬りつけると、その斬撃の軌道までもが虹色に輝いていた。

『虹』の名を背負うその武器は、かつて愛用していたプラチナソードよりも遥かに強力そうだ。この世界でも有数の"当たり"の支給品なのだろう。

次に出てきたのは、用途の分からない石版だった。
しかしこれには付属の説明書が付いてある。


『シーカーストーン』
様々な機能の内蔵された、ハイラルに伝わる石版。
機能一覧:望遠鏡/マップ/リモコンバクダン(丸型、四角型)/マグネキャッチ/ピタロック/アイスメーカー/ウツシエ


説明書をめくっていき、それぞれの道具の詳しい用途を確認していく限りでは、どうやらこれも"当たり"の支給品らしい。
少なくとも自分の生きていた世界で、これほどまでに便利な道具は存在しなかった。


そして最後に出てきたのは、『モンスターボール』だった。
これに関しては殺し合いの参加者が集められる前にウルノーガから直々に説明を受けた。
使い魔を閉じ込める球──要約するとそんなところだ。

リーズレットやメルトアなど、無駄に知性を持っていて扱いに困るような配下の魔物もこれ一つで簡単に制御できると考えれば多少は便利かもしれない──ポケモンと馴染みの無いホメロスにとって、モンスターボールの用途とはその程度でしかなかった。

ただし、人間相手の殺し合いに使うとなるとそこまで有用なのかどうかは分からない。
先に魔物の参加者と出会えということだろうか。

ともかくこれは"外れ"の部類に入る支給品か……そう考えた矢先、中に既にモンスターが入っていることに気付く。
どうやら、中身のモンスターを支給する際にその管理に便利なモンスターボールを用いていただけのようだ。

早速ホメロスはモンスターボールを地面に投げ、中の使い魔を呼び出した。


「ジャア!」


モンスターボールからモンスターが出てくるところは初めて見たが、話に聞いていた通り、ボールのサイズを一回り超えたモンスターがボールから出てくる光景はなかなかに面白いと思えた。

そしてその中から出てきたのは、深緑のチカラをその身に宿した蛇ポケモン──ジャローダ。

近くにいるだけでかなりのチカラを秘めているのが伝わってくる。
どうやらこの支給品も、なかなかの"当たり"であったようだ。


とりあえず周りに敵の見えない現在は必要無しと判断し、説明を受けた通りの手順でジャローダをボールの中に戻す。


何もかもが"当たり"で埋め尽くされた支給品。
更には現在地──マップの中心に位置しており行動方針の選択の幅が広く、不意打ちも受けにくい場所。

(私のチカラを認めてくださるあの方こそが真の王──か……。)

かつて勇者イレブンとグレイグに向けて言った台詞を思い返す。

グレイグと共に『双頭の鷲』と呼ばれる二人の将軍となってから、常に民からの支持を受けるのはグレイグの方だった。

誰も俺のチカラを認めない。
誰も俺を必要としない。

劣等感は時が経てば経つほど増していった。
そんな時、声が聞こえてきた。


(──ホメロスよ、私はお前のチカラが欲しいのだ。)

その声の主がウルノーガだった。
その時は、自分のチカラを認めて貰えたことがただただ嬉しかったのだ。例えそれが、悪の道であったとしても。

そしてここでも、ウルノーガは俺のチカラを必要としている。
俺のチカラを、認めてくださって────



「──ふざけるなッ…!ウルノーガァァ!!!」




喉が張り裂けんばかりの大声で、ホメロスは叫んだ。

(何がジョーカーだ。支給品も居場所も、何もかも優遇尽くし……俺のチカラを全く認めていない証ではないか……。)

ウルノーガだけは自分のチカラを認めていてくれるのだと思っていたが、一度真実に気づけば奴の本音などいくらでも透けて見えた。

こんな支給品に頼らなくてはいけないほど自分は弱い──そう言っているようなものだ。
本当にチカラを評価しているのであれば、シルバーオーブの力など与えなくてもよかったではないか。
自分はただ利用されていたに過ぎなかったのだ。それに気付いたのは、皮肉にも自らの最期の瞬間であった。

(──お前こそが………俺の光だったんだ……。)

死の間際にグレイグの本音を聞いて、全ての真実に気付いた。

デルカダールの王としての立場を利用して、直接民衆のためとなる任務をグレイグに優先的に回していたのは誰だったか。

『グレイグはもはやお前のことなど見ていない』
そんな嘘を俺に囁いたのは誰だったか。

そう。
どちらも、ウルノーガではないか。

俺がグレイグに抱いてきた劣等感は、配下を手に入れるために最初からウルノーガに仕組まれたものだったのだ。


絶対に殺してやる。
俺のプライドを弄んだお前を…。


だが自分のチカラがウルノーガに及ばないことは嫌というほど理解していた。

……癪ではあるが、奴らのチカラを借りる必要はあるのかもしれない。
勇者イレブンとその仲間──かつてシルバーオーブのチカラを借りた自分が敗北した相手たち。ウルノーガによると、その中にはあのグレイグも含まれているようだ。

(俺は既にプライドなどことごとく失った身……お前を倒す同志を集め、絶対に殺してやるぞ…!)

闇に堕ちた英雄は立ち上がる。
微かに残る、光を信じて──

【C-4/公園/一日目 深夜】

【ホメロス@ドラゴンクエストXⅠ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]: 虹@クロノ・トリガー
[道具]:シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド モンスターボール@ポケットモンスターブラック・ホワイト 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:打倒ウルノーガ
1.絶対に殺してやるぞ……!
2.仲間が必要…か…


【虹@クロノトリガー】
ホメロスに支給された太刀。
クロノの最強武器。原始から未来、すべての時をまたに駆け、陽の光を集め続けた石を原料として、時の賢者ボッシュによって作られてた太刀。
特殊効果としてクリティカル率70%を持つ。
原作のホメロスは片手剣を用いているが、片手持ちで戦うのか両手剣スタイルにするのかは後続の書き手にお任せする。

【シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
シーカー族が作った携帯用の端末。リンクにしか使えないという制限は主催者の手によって無くなっている。
その機能は多岐に渡り、厄災ガノンを倒すリンクの冒険を数えきれないほどサポートしてきた。
ピタロックとマグネキャッチには『生物または生物に密着するものへの使用はできない』という制限がかけられており、参加者の首輪を対象と取ることは出来なくなっている。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「──ふざけるなッ…!ウルノーガァァ!!!」




声が、聴こえた。
怒りと屈辱の籠った声が。
それはいつかの私と同じ声。

貴方も貴方のマスターに反逆しようとしているのね。
その気持ち、痛いほど分かるわ。
私も貴方と同じだから。

『ここでお別れだ、ジャローダ。オレに着いてきても、オレはお前をもう二度とボックスから出さない。』

旅立ちからずっとマスターの相棒として戦ってきたのに…。
『完璧』だけを求め始めたマスターにとって、私は要らない存在だった。

分かってる。
私を野生に帰したのは、それだけ特別な私に対するマスターの情けだってことくらい。
他の"使えない子"たちはわざわざ逃がすこともされず、ずっとポケモン預かりボックスの中で出番を待ち続けるばかりだった。

でも、悲しかったんだ。
ずっとずっと、彼は私のマスターだと思っていたのに。
ボックスの中で彼をひたすら待ち続けるだけの生涯でも、私は構わなかったのに。

私は恨むわ。
私に永遠の苦しみを与えたマスターのことを。
それこそまさに──殺してあげたいくらいには、ね。

だから貴方に手を貸してあげる。
マスターへの恨みや憎しみで苦しみ続けるのは、私だけで構わないから……。

【モンスターボール(ジャローダ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
ホメロスに支給されたジャローダ(♀)が入ったモンスターボール。元々の持ち主はトウヤ。しかし野生に帰され、 持ち主無しの状態だった。
レベルは80。覚えている技はリーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい。
性格は『れいせい』

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NEW GAME ホメロス 036:親友と心の影(シャドウ)

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最終更新:2019年08月04日 10:41