「だああああああっ!!! なんだよこいつ!!! ポケモンなのか?!」
駆ける、駆ける、駆ける。
全力で、ただひたすらに。
自らの命を守るために、あてもなく。
一人の少年が夜闇を切り裂いて一陣の風となる。
「はぁ! はぁ! はぁ……っ! はぁ……!」
心臓が今まで聞いた事もない速度で早鐘を鳴らしている。
これ以上の逃走は難しいと、全身全霊で訴えかけているのだろう――――無視だ。
無意識に漏れ出す絶叫交じりの声はどうしようもなく呼吸を阻害する。
酸素が充分に行き渡らず、霞む視界は適切な呼吸を要求していた――――無視だ。
硬い地面を一蹴りする度に疲労が足先から全身を襲う。
時折痙攣する筋肉は十二分に張り詰め、その動きを停止しようとする――――無視だ。
張り巡らされた血流からその恩恵を受ける臓器の隅々まで、それら全てが迅速なる行動停止と、適切な休息を筋肉に命令する――――全て、無視無視無視無視無視!
一体自分がどこへ逃げているのかも、何から逃げているのかもわからない逃走劇。
ゴールも見えずペース配分も糞もないがむしゃらな全力疾走故か、滝のような汗が滲む衣服はトレードマークとも言える赤色をどす黒い朱色で所々染め上げていた。
見れば、布地は至る所が切り裂かれ飛び散る泥や滴る汗、その奥から滲む血液がドロドロに混ざり合って見るも無残な様相を呈している。
先の見えないマラソンは容赦なく体力を奪い取っていくが、何よりもいつまで逃げ続けなければならないの明確でない事実が気力を削り取っていた。
打開策は無いかと脚を動かす合間に必死で周囲を見渡すが、辺りに鬱葱と生い茂る木々に見覚えはない。
時折目についた子供向けであろう遊具の数々から今しがた走り抜けた施設が公園のようなものと判断しつつ、だからと言って何が解決するワケでもない。
公園を抜けた先には今までと殆ど変わらず地続きであり、乱雑に草花が咲き誇る景色から先の見通しは、なかった。
(くっそ……見た事ないぞ、あんなポケモン)
酸欠に揺らめく視界を必死にこらし、背後から襲いくる獣の姿を瞳の中に捉える。
辺りが夜闇に包まれていることもあり、その明確な形は把握できない。
だが、相手が只の獣ではなく“ポケモン”であるのならば、少年にとってその姿を把握することは容易であった。
カントーとジョウト。
その二つの地方のバッジを全て集め、ポケモントレーナー達の最高峰とも呼ばれる“四天王”及びその頂点に君臨する“チャンピオン”といった歴戦の兵達との戦いを乗り越えた先。
ポケモンバトルの深淵にて待ち受けている伝説とも呼ばれる洞窟――シロガネやま。
生息するポケモンのレベルも非常に高く、伝説のポケモンがその住処にしている神秘の山。
岩肌に囲まれ山頂には白雪がしんしんと降り注ぎ、荒々しくも静謐な雰囲気を誇る場所。
並のトレーナーであれば即座に踵を返す過酷な洞窟にて、鍛えに鍛え上げられた動体視力と判断力は的確に相手の特徴をみやぶっていた。
だが、しかし。
その過酷な環境を耐え抜き、ポケモンに対する惜しみない愛情や深い理解を深めていったことが皮肉にも今現在の困惑を生んでしまっていた。
紫を基調として彩られたその姿。
ペルシアンやニューラをほうふつとさせるしなやか且つ俊敏な動き。
躊躇いなくトレーナー……否、人間をこうげきする“あく”のわざ。
付かず離れず一定の距離を保ち、じわじわと此方の体力を削る狩人の姿はポケモンマスターと呼ばれた少年――レッドの経験をしても知識にない存在であった。
かろうじて、繰り出される『みだれひっかき』や『おいうち』などのわざからポケモンであると判断することは出来たのだが、今までこんなポケモンは見たことがなかった。
――レパルダス。
今現在のレッドには知る由もないが。
イッシュと呼ばれる地方にてそう呼ばれているポケモンの姿は、当然レッドの知識が及ぶべくもなく。
漆黒に碧く輝く瞳を浮かび上がらせて、鋭利に歪めた視線で獲物の品定めをしている。
「~~~~~~~っっ!? や、べ……っ!」
走りやすいように整備された道ならいざしらず、砂利や窪みなどの凹凸が至る所に散らばる地面を全力疾走するのは言うまでもなく危険な行為であった。
ましてや、明かり一つない夜闇の中月明かりだけを頼りに、それも自らの知識が及ばぬ場所を駆け回るなど安全性の面からすれば論外と言わざるを得ない。
何度も何度も天然の罠に足をとられ転びそうになり、その都度体勢を立て直し、且つ全力疾走を保持して迫りくる存在から逃走を続ける。
こうして言葉にする以上に困難なミッションをこなす合間に、現状を打破する策を思考せんと脳をフル回転させていた少年ではあったが、遂には闇と同化した木の根に足を掛けられてしまい全力疾走の勢いのまま地面へと投げ出されてしまう。
(不味い……! 早く、早く立ち上がって逃げないと……!)
絶望的な逃走劇が開始して十数分。
幸いと言うべきかどうなのか、紫のポケモンは必要以上に技を繰り出すワケではなく此方の体力を削る目的に終始しており直ぐにでも命が奪われるということはなかった。
無論、もう反撃の余地はないと判断されれば即座に鋭利な爪が襲いくるのだろうが、少なくとも現状打破の時間は与えられている。
(……コレ、履いた後で本当良かったな)
体勢を崩したと見るや否や放たれる、みだれひっかき。
慌てて立ち上がる力を即座に推進力へと変換し、間一髪でそのこうげきを避けると再び逃走を開始する。
転んだ際に打ち付けた膝が擦り切れ布地を赤く滲ませるが、今はそれを気にしている場合ではない。
マナと言うらしい少女の引き起こした惨劇から一転、視界が移り変わったと思ったら地面に寝転んでいたのが丁度二十分程前の話。
ああも容易く人が殺される現実に即座には理解が及ばないながらも、数々の死闘を乗り越えてきた思考は無意識的に支給品を確認しようとしていた。
生憎と全てを確認する前にやせいのポケモンと遭遇してしまい地獄のおいかけっこが始まってしまったのだが、何とか使い慣れた『ランニングシューズ』を取り出し履き替えることに成功していたのはせめてもの救いだと言えるだろう。
地面へと放り出されていたレッドと同じく地面へと投げ捨てられていた小さなリュック。
そこに手を突っ込み最初に触れたのが、人間の加速力を数倍にも引き上げるこのシューズでなければとうの昔に切り刻まれていたに違いない。
ランニングシューズ自体が自身の愛用していた物であったことも含めてラッキーだと、こんな状況だと言うのに笑みを溢しつつも思考は回転を止めようとしない。
こうげきが外れた事に苛立ったのか、風切り音と共に再度放たれる爪。
思い切り進路を逸らすことで躱しつつ、ほんの数秒前まで走っていた位置に生えていた雑草が見るも無残な姿に切り刻まれるのを見て微かに肝を冷やした。
何度強引に方向転換をしようとも影の様にぴったりと食いついてくる相手に対し、逃げ切ろうと思えばどうしたって一度相手を振り切る必要がある。
ただそれだけであれば幾つか手段を思い浮かばないワケではないが、生き残る為にはその後身を隠せる場所がどうしても必要とであり、この二つの条件を都合よくクリアする方法など中々思い付く筈もない。
更に言えば、このままの速度を維持しておかなければ反撃する余裕も消え失せたと判断されてしまう恐れもある為、どれだけ疲労しようとも一定の速度を保たなければならない拷問紛いの状況に小さく舌打ちを漏らす。
(ああああああああ!!!!! 見つけた!!!!!!!! )
そうして、走り始めた三十分が過ぎ去った頃だろうか。
直情的な性格とは裏腹に冷静に逃げる方向を模索してたレッドの瞳が、ある一部分で静止した。
見れば、視線の先には草木に囲まれて見えにくくはあるが、暗闇の更なる先へと誘うかの如きどうくつへの入り口が存在している。
人一人分くらい余裕で通れそうな入り口ではあるが、その先に待ち受けているものが何かはわからない。
入った途端行き止まりにぶち当たる可能性も確かに存在しているし、もしかしたら別のポケモンに襲われてしまうかもしれない。
或いは、マナが言っていた様な殺し合いに乗っている存在が待ち受けているのかもしれない。
だが、このままじわじわと甚振られるよりも道が広がっていることを信じて洞窟へ逃げ込んだ方が生き残れる確率は高いに違いないと。
僅か数秒にも満たぬ刹那の間。
研ぎ澄まされた思考を巡らせ方針を確定すると、即座に方向を急転換して紫のポケモンへと向き直る。
急な反動で足の筋肉が悲鳴を漏らすが、労わるのは逃げおおせた後だ。
「いっけええええええええ!!!!!!!!」
一呼吸の後、その一瞬で呼吸を整えつつ相手の姿を視界にとらえたレッドは、先程転んだ際に掌に握り込んでいた拳大のいしころを紫のポケモンに向けて全力で投げつける。
余裕を持っていたと追い詰めていたとは言え、それなりの速度で走っていたポケモンは急停止に耐えられず地面に転び伏すことになり、思い切り地面へと投げ出される。
その隙を逃さず放たれたいしころは、的確に額のきゅうしょを捉え、一瞬ではあるがポケモンを悶絶させる。
「よっし! サファリゾーンの最多捕獲記録はダテじゃないっての!」
必死に逃げ惑っていたレッドではあるが、大切な仲間であるポケモンが傍にいない丸腰の状態で別のポケモンに相対するのは初めてではない。
レッドが生まれ育ち、数々のポケモンと出会ってきたカントー地方。
ポケモンマスターへの旅を続ける最中。
通りがかったセキチクシティと呼ばれる街に存在していた、レジャー施設である『サファリゾーン』では、入場の際に旅を共にしてきたてもちのポケモンを全て係員に預けなくてはならなかった。
いしころとエサ、それにサファリボールと呼ばれる専用の捕獲道具だけを用いて、広大な土地に生息しているポケモン達をトレーナー自らの力のみで集めていく……と言うイベントを行っている施設だったのだが、時間制限つきのそのイベントにおいてレッドは史上最多獲得数を記録しており今尚破られてはいない。
時には此方を威嚇してくるポケモン達を相手に、状態異常やダメージによる疲労などを抜きに捕獲しなければならないこのイベントに於いて何よりも大切なのはトレーナーの機転と発想であった。
いしころを当てれば、ポケモンはひるみ捕まえやすくなる。
……しかし、此方を警戒して逃げやすくなってしまう。
エサを与えれば、ポケモンは夢中になり逃げにくくなる。
……しかし、心に余裕を持ってしまい捕まえにくくなる。
いしころを投げるのが有効なポケモンがいれば、エサを与えるのが有効なポケモンもいて。
それらはポケモンの種類だけでなく、それぞれ個体差が存在している為その場その場で的確な判断を下さなくてはサファリゾーンのポケモンを捕まえることは出来ない。
そんな、楽しくも過酷な体験で結果を残し観察眼と判断力を養ってきたレッドにとって、転び伏すポケモンのきゅうしょにいしころを当てるなど造作もない事であった。
「よっし! 今のウチっと」
踵を返す直前。
悶絶し、蹲るポケモンにすなをかけるのも忘れない。
どうくつまでの距離は僅かに10メートル程。
視界を奪いさえしてしまえば、なんとか見付からずに入り込める距離である。
「――絶対、絶対お前を捕まえてやるからな! 」
レッドは、笑っている。
ジムリーダーを倒し、ロケット団を壊滅させ、四天王を倒し、チャンピオンを倒し、伝説のポケモンを捕まえ、ポケモン図鑑を完成させ、隣の地方へ足を伸ばし、新たなるジムリーダーを倒し、四天王を倒し、チャンピオンを倒し、新たに増えたポケモンを全て図鑑に記録し、更なる出会いと力を求めて伝説とされる山の深淵へ上りつめ、その全てを網羅して尚、消え失せない情熱。
個体によって変わる能力、とくせい、わざ構成。
それに応じたてもちの編成や、もちものの厳選。
ありとあらゆるポケモン達と出会い、戦い、そして別れてきた。
それでも尽きぬ、心の炎。
汲めど汲めど枯れ果てぬポケモンに対する情熱が、今新たなポケモンとの出会いを前にして激しく燃え盛っていた。
現在進行形で命を狙われる危機に晒されているのだが、そんな事レッドには関係が無い。
生物と生物が合い見える以上ぶつかり合うのはある種の必然とも言えるし、レッドとて相手ポケモンにいしころを全力でぶつけている。
そこにあるのは単純なる本能のぶつかり合いで在り、そんなポケモン達との出会いと戦いをこよなく愛するレッドにとって、今の状況は不安を感じこそすれ怒るような事ではない。
――とは言え、人の命が簡単に奪われたあの首輪での惨状は心に微かな靄を生んでいたのだが。
そうして、決意を新たにレッドは再び駆ける。
そうはさせまいと、一度静止し視界を奪うすなを大きく頭を振る事で弾き飛ばした後、紫のポケモンが去り行く背中追いかけようとするが――既にレッドの姿は消え失せてしまっていた。
時間にしてほんの数秒。
紫のポケモンからすれば、先程までの逃走劇の速度を加味した上で選択した行為であり、逃げ切れる筈がないと自信を持っていた。
それ故に、この数秒で逃げ切れるであろう範囲――先程までの速度と合わせ5メートルの範囲を隈なく探し始めるがその姿は見付からず。
不審げな唸り声だけが、月明かりに響いた。
○ × △ □ ○ × △ □
「はぁ……はぁ……うまくいったみたいだな」
息も絶え絶えにどうくつへと飛び込んだレッドは、壁に凭れ掛りようやく数十分ぶりの休息を手に入れる。
走り通しだった全身が疲労困憊しており、とてもじゃないが直ぐに動けるような状態ではない。
一番恐れていたのは、目論見が不発に終わり紫のポケモンがこのどうくつへと飛び込んでくる事であったが、どうやらその心配は杞憂に終わったらしい。
入り口から数メートル先から不満げな唸り声がこのどうくつまで届いており、苛立たしそうに地面をける音が聞こえたかと思うと全ての音が消え去って行った。
恐らく、自分を殺す事を諦めて、最初に遭遇した場所に戻っていくのだろう。
五分五分の賭けに成功した事にホッと胸を撫で下ろす。
紫のポケモンとの最初の邂逅やその後の対処から、少しずつたいりょくをうばう作戦である事を察知したレッドは、その先の保険としてランニングシューズで走る速度を微かに緩めていた。
自身の最高速度を勘違いさせておけば後々相手を引き離す際に有効だろうと考えつつ。
少しずつ此方を嬲るタイプが相手であれば速度を緩めていたとて早々致命傷を負う事は無いだろうと考えていたのだが、ドンピシャリのようだった。
最高速度を読み違えていた相手はレッドを見失い、何とか逃げおおせたのである。
懸念していた自分以外の存在や敵意を持ったポケモンの存在も無く、当面の危機が去った事で安心したように息を吐き、小さく嘆息した。
「ころしあい、かぁ……それはちょっと嫌だよなぁ」
当たり前の事ではあるが、レッドとて死ぬのは怖い。
ポケモンバトルで傷を負うだけならまだしも、人間同士で殺し合うなんて怖過ぎる。
先程巡り合ったポケモンを含めて、まだまだレッドの知らぬポケモン達がこの世界には生息しているらしいし。
ポケモンの数だけトレーナー達の新たな戦略が生まれるものであり、その全てを楽しみ尽くしていない今、志半ばにして死んでしまうのどうしたって、嫌だ。
「今みたいなポケモンに襲われて死ぬ人も出てくるかもしれないし……あぁ~~~!!! どうすりゃいいんだよ」
殺し合え、と少女に言われてはいわかりましたとそのまま殺し合いに参加する人間なんて、幾らなんでもそうそういないだろうと楽観視してはみるが、心の片隅で小さな不安が警鐘を鳴らしていた。
人間を殺意的に襲ってくるポケモンと言い、殺された男と言い、この首に嵌められた首輪と言い。
こんな大掛かりで悪趣味な催しを考え付く奴らがそんな事に気付かないとは思えないし、何らかの対策をしていると考える方が自然だろうと、度重なる経験が嫌でも思い付いてしまう。
マナはあの時『なんでも一つ願い事を叶えられる権利をくれる』と言っていた。
レッドには誰かを殺してまで叶えたい願いなんて存在しないし、そもそも自分の願いは自分の力で叶えるからこそ楽しいと思っている。
だが、例えばだが先程殺された男の人の知り合いもこの殺し合いに参加させられていたらどうだろうか。
親友なら、恋人なら、家族なら……どうするだろうか。
ポケモンマスターになったとは言え年齢的に見てしまえば未だ未だ幼い少年であるレッドに大切な人を失う喪失感は理解出来ない。
幸いな事に、これまでのレッドはポケモンタワーを利用する様な事態にもなっていないし、やせいに戻す事はあっても永劫の離別など考えた事すら無かった。
「もしママが殺されたら――」
ざわざわ、と。
考えただけでも、心の奥底がどす黒い感情に飲み込まれてしまう。
ポケモンマスターへの道をずっと見守ってくれていた大事な家族。
これまでも、そしてこれからも。
離れていたって絆で繋がっていると、心から信じられる相手。
ずっと自分を愛してくれていた相手。
そんな、そんな存在があんなに呆気なく殺されてしまい――自分が頑張れば、また出会える可能性があるなんて言われてしまったら。
「どうするかなんて、わからないよな」
その時はきっと、レッドだってこの殺し合いに積極的になっていたかもしれない。
そんな人達がこの場所に多数存在しているのであれば、その先はきっと。
結局のところ、レッドに出来るのはこれまでと同じだ。
ポケモンや、ポケモントレーナー達と戦い、心を通わせる。
殺し合いに積極的なトレーナーや、そんなトレーナーに使われるポケモン達がいるのなら殴ってでも目を覚まさせる。
協力し合える人達と出会えたなら、皆で頑張る。
そんな、当たり前の繰り返しを続けていけばきっとなんとかなる筈だと自分自身に言い聞かせ、痛む体を無理矢理に動かしてデイバッグの確認を始める。
レッド一人では無力な一人の少年に過ぎない。
いつだって、仲間達と一緒に戦ってきたからこそ今のレッドがあるのだし、ポケモンマスターと呼ばれるまでに成長出来たのだ。
出会ったトレーナーのアドバイスはレッドの戦略性を深め、巡り合ったポケモン達はレッドの才能を鍛え上げてくれた。
だからこそ、こんな恐ろしい催しの舞台でもレッドは仲間を求める。
そして、不思議とレッドには確信があった。
「へへ……やっぱり、俺と一緒にぼうけんを始めるのは、お前だよな」
躊躇う事無く取り出されたモンスターボールの中で、自信満々な表情を浮かべている一匹のポケモン。
黄色を基調として丸みを帯びた愛くるしい姿とは対照的に、鋭く研ぎ澄まされた紫電のオーラ。
ポケットモンスターと呼ばれる生物を象徴する存在と言っても過言ではない、数々のトレーナーから愛されてきた電気タイプのポケモン。
「また、一緒に戦ってくれるか? ピカ? 」
モンスターボールを軽く放り投げ、小さな破裂音と共に現れたポケモン――ピカチュウの頭を自然な動作で撫でながら、レッドは在りし日の事を思い返す。
レッドが、初めて捕まえたポケモン。
本来であればトキワの森に生息している筈のピカチュウがマサラタウンでその姿を見せた時の事。
最初の出会いは最悪だった。
それはもう、本当に。
縄張り争いに敗れでもしたのだろうか、見るからに碌な食事をとれていないであろう痩せこけたピカチュウが、家族が出掛けている隙に自宅へと侵入していた。
必死の形相で家の食料を貪っているのを最初に見つけたのは幼いレッドだった。
レッドの住むマサラタウン周辺に生息しているポッポやコラッタとは違い、バチバチとせいでんきを放っているその姿は幼いレッドの心を掴んで離さず、好奇心を存分に刺激される。
幼い子供が初めて見るポケモンに手を伸ばしてしまうのは、半ば必然的とも言える行為だ。
『チュアァァァァァァァァ!!! 』
それが相手にどんな印象を与えるか理解出来ない所まで、含めて。
当然の様にレッドへ向けて放たれる、でんじは。
この家を訪れるまでに、どれ程の試練がそのピカチュウを襲っていたのだろうか。
敵意や、怒りを超えた恐怖の色をその瞳に浮かべて、ピカチュウはレッドへと露骨な警戒心を露わにする。
乱れた体毛を必死に逆立てて、負傷を気付かれないよう傷口を隠す。
優しく頭を撫でられるなんて、当時のピカチュウにそんな発想は存在していなかった。
だがこれは、相対するレッドからすれば到底考えられない事態である。
勝手に家へと忍びこんだポケモンが、自分達のご飯を盗み食いしているのに加えてこうげきまでしてくるだなんて。
そんな理不尽、わんぱくを表現するために生まれてきた子供、家族からと称されていたレッドにとって許せるものではなかった。
好奇心は怒りへと変わり、痛みが敵意へと変わる。
『なにするんだよ! いたいだろっ! 』
結果として、取っ組み合いの喧嘩をしていた。
そんな最悪な出会いからどうしてここまで深い絆を結ぶ事が出来たのか、今でもレッドは思い出せないが――それでも、目の前のピカチュウが自分自身にとって唯一無二の相棒であり最も頼りに出来る相手なのは違いない。
答えを確信して放たれた問い掛けに対して、呆れた様にピカチュウは体を震わせる。
どんな時も、二人で乗り越えてきたのだ。
これまでだって――そう、これからだって。
こうして、一人と一匹はあたらしいぼうけんのたびへ一歩踏み出す事になった。
月明かり差し込むその先に待ち受けるのは、果たして。
【C-4/隠された洞窟内 一日目 深夜】
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:疲労(大)、無数の切り傷
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.疲れを取った後、さっきのポケモン(レパルダス)を捕まえに行く。
2.他にもやせいポケモンがいるかもしれないから探してみようかな。
※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。
※やせいのポケモンが出現するようです。すべてのポケモンが人を襲うのかは不明です。
【モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
レッドに支給されたピカチュウが入ったモンスターボール。元の持ち主もレッド。
特性はせいでんき、覚えているわざはボルテッカ、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん。
ニックネームはピカ。
【ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
移動速度は歩くより2倍程度速く、自転車より遅い。
最終更新:2021年01月17日 12:35