夜の闇が、深い森の空気により一層の緊張を与えていた。
僅かな光源である月明かりすら、木々に阻まれて道を照らすことさえままならない。
進めど進めど光の見えてこない道を歩き続ける。
人から逃げているのか、それとも人を求めているのか、それさえも分からない。
ただひとつ分かることは、人は死ぬんだということ。
それが幸福に包まれたものであろうとも、あるいは不条理に奪われるものであっても、行き着く先は同じだということ。
普段なら虫や鳥の声でも聞こえそうな大自然を前にしてもなお辺りを支配し続ける静寂の中で──むしろ、こんな静寂の中だからこそ、恐怖は絶えず襲い来る。
そんな中、2人の少女が出会った。
片や、自分の心の闇と対峙し、自らの力として操ることが出来る『ペルソナ』の持ち主、里中千枝。
片や、ハイラル城に巣食う厄災を100年にわたって封印し続けてきた姫君、ゼルダ。
両者ともにそれぞれの世界の悪と対立してきた英雄たちの一端である。
そんな彼女たちは目の前の相手を認めると共に、開口一番、叫ぶ。
「ペルソナ!!」
「ナイト!!」
それは挨拶などではなく。
それはしりとりなどでもなく。
それ即ち──開戦の合図。
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里中千枝は、人一倍の正義感を持った少女である。
例えば悪そうな少年にカツアゲされている人がいれば、それが赤の他人であっても助けに入る。
それで友達の身に危険が及ぶかもしれないとなれば、自分の身を差し出してでも守ろうとする。
少し危なっかしいところはあるが、確かな正義感を持った少女。
彼女は、自称特別捜査隊として友達と一緒に連続殺人事件の解決に努められたことを誇りに思っていた。
そしてそれは、彼女にとって自分を唯一認められる事でもあった。
だけど次第に彼女の正義には小さい──だけど確かにじんわりと──ヒビが入っていった。
怒りの感情のままに生田目の病室へ飛び込んだ自称特別捜査隊の皆。
そこでマヨナカテレビに映し出された、邪悪な犯人の"本心"。
それまでにも彼女は、シャドウを巡る戦いの中で人々の中で抑圧されてきた"本心"に触れる機会は数多くあった。
ただし生田目の場合は、本当の自分を受け入れることを是としてきた自称特別捜査隊の活動の中でも初めての、受け入れられない邪悪であった。
『お前が受け入れようとしている人間の心は、こんなにも邪悪で醜いものなんだぞ』と、誰かにそう言われているような錯覚さえ覚えた。
早い話、彼女はふと思ってしまったのだ。
『生田目は、このまま殺したほうが良いのではないか』と。
彼女は本当の自分の、正義に背く声を聞いてしまった。
確かに友人への嫉妬や羨望といった本当の自分は受け入れることが出来た。
だけどこの正義感だけは否定したくなかったんだ。
悠くんが、それが自分のいい所だと言ってくれたから。
そしてそんな自分の"シャドウ"を見透かされたかのように、悠くんは雪子と特別な関係になった。"いい所"を無くした私が選ばれるはずなんてなかった。
『もし自分が正義の道だけを選べるような人間であったなら、彼の隣に居るのは自分だったかもしれない。』
思い上がりだってことは分かっている。
単に雪子の方が自分よりも彼にとって魅力的だったというだけ。
きっと彼にとっても自分は"男友達"だったというだけ。
堂々巡りする複雑な思考。
そんな中でも、たったひとつハッキリしていることがあった。
もう私は、私を認められない。
一時は認めたはずの私のシャドウ──雪子への嫉妬心が、もう認めたくないほどに肥大していた。
そして、私が私自身を認めることが出来る唯一の要素だった正義感さえぐらつき始めていた。
それらの事件は、里中千枝の元々持っていた正義を狂わせるには充分だった。
ただしそれでも里中千枝は正義感の強い少女である。
極めつけとなったのは、見せしめと言わんばかりに殺された自称特別捜査隊の仲間、巽完二だった。
ペルソナの能力を持っていても、シャドウを倒すことが出来ても、そんなの関係無しに主催者の指先ひとつで、気まぐれひとつで命を奪われる。それは単純にして明快な恐怖。
なまじテレビの世界で様々な人々の本心に触れてきたからこそ分かる。
人は心に影を飼っている。
どれだけ殺し合いに反抗していようとも、完二くんのようになりたくないという本当の声は誰しも持っているはずだ。
『殺さないと殺される。
元々不安定だった正義など、もはや完全に捨ててしまえ。』
彼女はそんな本当の自分の声に逆らわなかった。
シャドウとの戦いの中で、認めるべき本当の自分と逆らうべき本当の自分との区別がつきにくくなっていたのかもしれない。
こうして、里中千枝は殺し合いに乗った。
【B-4/森/一日目 深夜】
【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される
1.完二くんみたいに殺されたくない……
2.願いの内容はまだ決めていない
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ゼルダは、人一倍壮絶な人生を送ってきた少女である。
先祖代々厄災ガノンを封印する術を扱ってきた家系に産まれたのだが、母の病死によってその術の継承が上手くいかず、国民たちからは『役立たずの姫』と呼ばれ続けてきた。
迫り来る厄災ガノンとの決戦。
周りの英傑たちが各々の役割を果たしている中、特に厄災との戦いの鍵を握る自分だけが術を使えないことへの焦燥。
そんな自分を非難する父親や国民たちの目。
全部投げ出して逃げることが出来たなら、どれほど楽だっただろうか。
しかしそれは、自分の立場と、隣に居てくれた彼──リンクの存在が許さなかった。
役立たずの姫の分際で──退魔の剣に選ばれた天才──リンクに恋をしていたのだから。
彼が見ている前で逃げ出すことは出来なかった。
さらに言うと、彼の隣に並び立ちたかった。
さらに言うと、自分が居てもいい理由を彼の中に見出したかった。
役立たずの姫は彼に護ってもらってばかりだ。
彼の背中しか見えない。
彼と向き合う資格がない。
だけど一向に封印の術が使えるようになる気配は見えなかった。
そしてそのまま、決戦の時は訪れた。
ハイラル王国を、世界を、守るために神獣とガーディアンを結集して英傑たちは戦いに向かった。
その結果が、惨敗だった。
神獣もガーディアンもガノンに奪われ、彼女はリンクと共に追い詰められる。
皮肉なことに、封印の力に目覚めたのはその時だ。
自分を庇ってガーディアンの攻撃を受けそうになっているリンクを何とかして助けたい。その一心で放った封印の術は何の問題もなく発動した。
こうしてリンクは回生の祠で100年の眠りにつき、ゼルダは厄災ガノンを抑える役目を負うこととなる。
いつか、彼が迎えに来てくれることを信じて。
いつか、彼が厄災ガノンを討伐してくれることを信じて。
そして100年の時が経過した。
100年間の希望の通り、リンクは厄災ガノンを討伐した。
ようやく、彼と正面から向き合うことが出来る。
ゼルダはそう思っていた。
自分を護るために敵に立ち塞がる彼の背中にではなく、今度こそ正面から。
100年分の期待を込めて、彼に問いかけた。
『私のこと・・・覚えていますか?』
──百年ぶりの絶望は、一瞬で訪れた。
私の質問に対し、何も言わずに俯く彼。
答えは、それで充分だった。
回生の祠での眠りで彼の記憶が無くなっていることなど本当は分かっていたはずだ。
だけど信じていた。
私を助けに来てくれるリンクは、あの時のリンクだって。
だけどもう、彼は。
天才であることに苛立って辛く当たったにも関わらず私の傍に居てくれた彼は。
イーガ団の襲撃から私を護ってくれた彼は。
最初はよく分からない人だと思っていたけど、理解していくに連れて次第に私の居場所になってくれていった彼は。
本当に辛い時に大丈夫だと励ましてくれた彼は。
もう、いないのですね。
「貴方は私が恋したリンクじゃない。」
彼は何も悪くないのに。
むしろ彼こそが、厄災ガノンから人々を救ってくれた英雄なのに。
『リンクの姿をした別人』と認識してしまった瞬間から、もう彼のことをかつてのように大切な人だとは思えなくなってしまった。
「ええ、本当に愚かな話。私のために命懸けの冒険をしてくれた彼を拒んでしまうなんて。だけど私は──」
──"リンク"を、取り戻したい。
こんな殺し合いでも何でも勝ち抜いて、100年前の"彼"の記憶を取り戻す。
そのためなら、今の"リンクの姿の者"を殺すことになっても一向に構わない。
死者の蘇生も可能な願いとやらで、100年前のリンクを生き返らせてもらえばいいのだから。
「それまでは、貴方が…貴方だけが私の騎士です──ナイト。」
支給されたモンスターに声を掛ける。
彼女に支給されたのはキリキザン。
ちょうど青色の衣装に身を包んだリンクとは真逆の、赤色をベースとした体色のモンスターである。
そんなキリキザンに騎士を意味する名を付けたのは、今のリンクを騎士として拒絶する、彼女の無意識の心の表れであった。
元々彼女はこんな催しに乗るような性格ではない。
しかし100年の時は、既に居ない想い人を待ち続けるには永すぎたのだ。
こうして、ゼルダは殺し合いに乗った。
【B-4/森/一日目 深夜】
【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、木の矢×10、雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド モンスターボール(キリキザン)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針: 殺し合いに優勝し、リンクを100年前の状態に戻す
1.今のリンクは、騎士として認めたくない。
2.最初の会場でダルケルと目が合った気がするけど、そんなはずは…。
【オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ゼルダに支給された弓。
元の世界ではリーバルが愛用しており、029話『
みなさんご存知のハズレ』でも言及されている。1本の矢で3発同時に撃つことが出来るのだが、正直原理はよく分からない。
【雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ゼルダに支給された、雷属性を帯びた矢。木の矢×10とワンセット。ちなみに元の持ち主はライネルだったりする。
【モンスターボール(キリキザン♂)@ポケットモンスターブラック・ホワイト】
ゼルダに支給されたポケモン。
元の持ち主はゲーチス。
レベル52。おぼえているわざはつじぎり、シザークロス、ストーンエッジ、メタルバースト。
最終更新:2021年01月17日 12:43