神と支配者(1) ◆dGUiIvN2Nw
「霊夢。真の支配者とは何だと思う?」
「え? ……それは、どういう意味でしょう」
突然の問いかけに、霊夢は戸惑いながらも聞いた。
「ただの言葉遊びだ。お前の世界ではよくするんだろう? そういう遊びを」
「……まぁ、そうですが」
「だったら答えてみろ。いつも通りの答えでいい」
「……で、でも…もしかしたら機嫌を損ねられるかも…」
「いいから」
躊躇しながらも、霊夢は口を開いた。
「……私に、倒されるべき相手です。何にも縛られないのが、主義ですから」
「フフフ。なるほど。なかなか面白い」
「きょ、恐縮です」
慌てて頭を下げる。
サカキにまともに褒められたのは初めてのことだった。
「真の支配者とはな。一人で生きられない人間を言うんだよ」
「え? そうなのですか?」
支配者というからには、花の妖怪のような強者をイメージしていた霊夢には少し意外だった。
「一人では生きられない。だから支配する必要がある。人間というのは、いつもそうやって生きる生物なんだ。数多もの個の中から、一人突出する者こそが支配者で、全員がそれを祭り上げる。そうして世界を築き、頂点に君臨する。それこそが真の支配者だ」
「……それが、サカキ様の目指すもの、ですか?」
「そうだ。……霊夢。神は信仰がなければ死ぬと言っていたな」
信仰のない神はその力を行使できない。それはつまり、神にとっての死を意味する。
霊夢はそうサカキに話していた。
「それは支配者とて同じことだ。支配される側に、支配者だと認識されなければ、その人物は支配者足り得ない。人がいて、その力を認めさせて、初めてそいつは支配者になれる。……分かるか? この理屈」
「……ええ。おぼろげながら」
「良い支配者は、時にカリスマだけでなく理解してやることが必要なのだ。その人物がどういう人物か。どう動けば、自分の思い通りになるのか。
私はずっとお前を見ている。お前の忠誠を、信仰を、私は常に試している。よく理解しておけ。私という人間は、そういう考え方をする人間で、お前の神はそういう男だ」
「……はい。サカキ様」
「え? ……それは、どういう意味でしょう」
突然の問いかけに、霊夢は戸惑いながらも聞いた。
「ただの言葉遊びだ。お前の世界ではよくするんだろう? そういう遊びを」
「……まぁ、そうですが」
「だったら答えてみろ。いつも通りの答えでいい」
「……で、でも…もしかしたら機嫌を損ねられるかも…」
「いいから」
躊躇しながらも、霊夢は口を開いた。
「……私に、倒されるべき相手です。何にも縛られないのが、主義ですから」
「フフフ。なるほど。なかなか面白い」
「きょ、恐縮です」
慌てて頭を下げる。
サカキにまともに褒められたのは初めてのことだった。
「真の支配者とはな。一人で生きられない人間を言うんだよ」
「え? そうなのですか?」
支配者というからには、花の妖怪のような強者をイメージしていた霊夢には少し意外だった。
「一人では生きられない。だから支配する必要がある。人間というのは、いつもそうやって生きる生物なんだ。数多もの個の中から、一人突出する者こそが支配者で、全員がそれを祭り上げる。そうして世界を築き、頂点に君臨する。それこそが真の支配者だ」
「……それが、サカキ様の目指すもの、ですか?」
「そうだ。……霊夢。神は信仰がなければ死ぬと言っていたな」
信仰のない神はその力を行使できない。それはつまり、神にとっての死を意味する。
霊夢はそうサカキに話していた。
「それは支配者とて同じことだ。支配される側に、支配者だと認識されなければ、その人物は支配者足り得ない。人がいて、その力を認めさせて、初めてそいつは支配者になれる。……分かるか? この理屈」
「……ええ。おぼろげながら」
「良い支配者は、時にカリスマだけでなく理解してやることが必要なのだ。その人物がどういう人物か。どう動けば、自分の思い通りになるのか。
私はずっとお前を見ている。お前の忠誠を、信仰を、私は常に試している。よく理解しておけ。私という人間は、そういう考え方をする人間で、お前の神はそういう男だ」
「……はい。サカキ様」
◇◇◇
雷電が彼らに出会ったのは、アカギと共に行動すると決めて数十分程経ってからだった。
中年くらいの男と、早苗と同じくらいの歳の女性。
どちらも、雷電の同行者達とどこか似通っていた。
女性の方は早苗の様な巫女の服を着ていたし、アカギとその男とは雰囲気が何となく似ている。
そう。雰囲気が似ている。それだけで、雷電には要注意人物だ。
そしてそれは、早苗に似ている女性もそう。明らかな敵意をこちらに向けている。
「二人とも動くな。数ではこちらが勝っている。下手な行動は慎んだ方がいい。お前達は殺し合いに乗っているのか?」
ナイフを構え、できるだけ威圧的に雷電は言った。
「……脅しなど必要ない。それに二人で行動しているというだけで、殺し合いには否定的だという証明にはなるだろう?」
あくまでも冷静に、男はそう言った。
信用するべきか?
いや、それはあまりに甘過ぎる。
雷電がさらに口を開こうとした時だった。
「霊夢さん!!」
早苗が突然叫んだのだ。
「無事だったのですね! よかった、心配してましたよ」
嬉しそうに早苗は言う。
霊夢という女性のことは早苗から良く聞いている。
しかし、これが本当に博麗霊夢か? 伝聞でしか知り得ないといっても、あまりに雰囲気が違い過ぎる。
「……誰?」
霊夢の言葉に、早苗は一瞬固まった。
「や、やだなぁ。忘れちゃったんですか? 早苗ですよ。東風谷早苗。ほら、妖怪の山の神社で巫女をやってる──」
「知らないわね。そもそも、妖怪の山に神社なんてない。……そんな見え透いた嘘をついて、どういうつもりかしら?」
明らかな敵意を持って霊夢は早苗を睨む。
早苗は思わず身を引いた。
「どういうことだ? 霊夢」
「どうもこうもありません。私の言った通りです。こいつは……敵です」
すっと、八卦炉を早苗に向ける。
まずい。
雷電が本能でその道具の危険性を察知する。
「早苗! 避けろ!!」
しかし早苗は動かない。いや動けない。状況の変化についていけない。
雷電が無理やり早苗をその場から離れさせようとした時、早苗の前にケーシィが現れた。
「リフレクター!」
瞬間、八卦炉が光を放った。その光の束はまっすぐ早苗へと突進し、しかしすぐに反射される。
「えっ!?」
「ちっ!」
間一髪。霊夢にそれが直撃する瞬間、サカキが彼女を抱きかかえるようにして横へ跳んだ。
土で汚れる二人。ケーシィは、その二人に向かって突進する。
「ま、待って下さい! 霊夢さんは私の──」
「待てない! 奴は問答無用で攻撃してきた。こいつらは敵だ!!」
早苗にしたように、ばくれつパンチをお見舞いしようと拳を構える。
が、アカギはそれが直撃する前にストップをかけた。
サカキが、霊夢を庇うようにして立っていたからだ。
「……どういうつもりだ」
「どういうつもり? その言葉の意味はよく理解できんが……少しくらい話をさせてくれてもいいだろう? こちらから攻撃を仕掛けたのは悪かった。その件も含めて話し合いたい。こんなところで争ってもお互いの得にはならんと思うが?」
アカギはその言葉に熟考する。
サカキの思惑を計りかねているのだ。
「アカギ。ここは彼らの話を聞こう。俺達の目的は殺し合うことじゃない。そうだろ?」
雷電にそう言われればアカギも首肯せざるを得なかった。
中年くらいの男と、早苗と同じくらいの歳の女性。
どちらも、雷電の同行者達とどこか似通っていた。
女性の方は早苗の様な巫女の服を着ていたし、アカギとその男とは雰囲気が何となく似ている。
そう。雰囲気が似ている。それだけで、雷電には要注意人物だ。
そしてそれは、早苗に似ている女性もそう。明らかな敵意をこちらに向けている。
「二人とも動くな。数ではこちらが勝っている。下手な行動は慎んだ方がいい。お前達は殺し合いに乗っているのか?」
ナイフを構え、できるだけ威圧的に雷電は言った。
「……脅しなど必要ない。それに二人で行動しているというだけで、殺し合いには否定的だという証明にはなるだろう?」
あくまでも冷静に、男はそう言った。
信用するべきか?
いや、それはあまりに甘過ぎる。
雷電がさらに口を開こうとした時だった。
「霊夢さん!!」
早苗が突然叫んだのだ。
「無事だったのですね! よかった、心配してましたよ」
嬉しそうに早苗は言う。
霊夢という女性のことは早苗から良く聞いている。
しかし、これが本当に博麗霊夢か? 伝聞でしか知り得ないといっても、あまりに雰囲気が違い過ぎる。
「……誰?」
霊夢の言葉に、早苗は一瞬固まった。
「や、やだなぁ。忘れちゃったんですか? 早苗ですよ。東風谷早苗。ほら、妖怪の山の神社で巫女をやってる──」
「知らないわね。そもそも、妖怪の山に神社なんてない。……そんな見え透いた嘘をついて、どういうつもりかしら?」
明らかな敵意を持って霊夢は早苗を睨む。
早苗は思わず身を引いた。
「どういうことだ? 霊夢」
「どうもこうもありません。私の言った通りです。こいつは……敵です」
すっと、八卦炉を早苗に向ける。
まずい。
雷電が本能でその道具の危険性を察知する。
「早苗! 避けろ!!」
しかし早苗は動かない。いや動けない。状況の変化についていけない。
雷電が無理やり早苗をその場から離れさせようとした時、早苗の前にケーシィが現れた。
「リフレクター!」
瞬間、八卦炉が光を放った。その光の束はまっすぐ早苗へと突進し、しかしすぐに反射される。
「えっ!?」
「ちっ!」
間一髪。霊夢にそれが直撃する瞬間、サカキが彼女を抱きかかえるようにして横へ跳んだ。
土で汚れる二人。ケーシィは、その二人に向かって突進する。
「ま、待って下さい! 霊夢さんは私の──」
「待てない! 奴は問答無用で攻撃してきた。こいつらは敵だ!!」
早苗にしたように、ばくれつパンチをお見舞いしようと拳を構える。
が、アカギはそれが直撃する前にストップをかけた。
サカキが、霊夢を庇うようにして立っていたからだ。
「……どういうつもりだ」
「どういうつもり? その言葉の意味はよく理解できんが……少しくらい話をさせてくれてもいいだろう? こちらから攻撃を仕掛けたのは悪かった。その件も含めて話し合いたい。こんなところで争ってもお互いの得にはならんと思うが?」
アカギはその言葉に熟考する。
サカキの思惑を計りかねているのだ。
「アカギ。ここは彼らの話を聞こう。俺達の目的は殺し合うことじゃない。そうだろ?」
雷電にそう言われればアカギも首肯せざるを得なかった。
「霊夢。お前は見回りをしていてくれ。彼らを配下にしなければならないからな。その時間が欲しい」
「危険です! 私がサカキ様をお守りして──」
「気持ちはありがたく受け取っておく。しかし言う事を聞いてくれ。心配せずとも、ここでやられたりはしない」
霊夢はそれでも納得がいかないようだったが、渋々と同意した。何かあればすぐにでも駆けつけると言い残し、霊夢はその場から離れて行った。
「さて。どこから話すべきか……」
「まずは霊夢さんについて聞かせて下さい! どうして彼女は私を忘れているんですか!? それに、あの態度……」
早苗の知る霊夢と、今の霊夢はあまりにも違い過ぎる。彼女は他人に対して敬語など使う人間ではなかった。ましてや人を様付けで呼ぶなど有り得ない。
自分に問答無用で攻撃してきたこともそうだ。あれは、下手をすれば死んでいてもおかしくない攻撃だった。
「……彼女は、病気なんだ」
「病気? 精神病ということか?」
「おそらくな。私もそういうものに詳しい訳じゃないから素人判断になるが……かなり厄介なものだと思う。
私が初めて出会った時、既に彼女はおかしくなっていた。どうやら殺人鬼に襲われたらしい。レッドという……私の世界ではかなり有名な人間によってな」
私の世界。その言い回しに、雷電はサカキがパラレルワールドの存在に気が付いていることを知った。
「自我を……保てなかったんだろう。私を見るなり神だなんだと言って、……ずっとあの調子だ。言葉も通じるし理性もあるが、さっきみたいに私の敵だと判断した人間にはどういう対応をするかわからない。記憶障害も、おそらくは副次的な症状の一つだろう」
「そんな……」
早苗は絶句した。
ようやく出会えた仲間がこんな状態になっていたなんて。そんな思いが渦巻き、早苗は絶望に震えた。
「……彼女は、他にも人を襲ったのか?」
雷電は躊躇しながらも聞いた。早苗には辛いかもしれないが、やはり聞いておくべきことだと判断したのだ。
「いや。良識ある参加者に会ったのは君達が初めてだ。だから私も、まさかいきなり襲いかかるとは思ってなかった」
二人は思わずほっとする。
彼女が危険な状況であることには変わりないが、それでも誰かを殺したりはしていないという事実は、二人を安心させるに足る情報だった。
「……すまなかった。許してもらえるとは思わないが、どうか彼女を責めないでやってくれ。この通りだ」
そう言って、サカキは深々と頭を下げた。
「誰も責めてなんかいない。だから顔を上げてくれ」
「そうですよ! むしろ、今まで霊夢さんを守っていてくれたことを感謝したいくらいです」
頑なに頭を下げるサカキに二人は慌ててそう言った。
「……何故サカキは彼女と共に行動しているんだ?」
今まで黙っていたアカギが口を開いた。
その言葉に、サカキは心外だとでも言わんばかりに驚いた表情を向ける。
「当然、彼女を放っておくことができなかったからだ。あの状況では何をするのか分からなかったし、なにより別行動なんて取ったら彼女自身が壊れてしまう。ならば私が彼女を支え、何かあれば私が止めようと、そう思った」
その熱意ある喋り方は確かに真に迫るものがある。
……が、
「信用できんな」
アカギはこの男の正体を知っている。
だからサカキの弁解が真実でないことは容易に理解できた。
先程の霊夢という巫女。その従順ぶりはまるでポケモンのようだったではないか。そんな彼女を、サカキがそのような考えで傍に置いているわけがない。ポケモンを道具としか思っていないこの男には。
「雷電。この男は少し危険な気がする。ここは──」
「信じよう」
雷電の意外な言葉に、アカギは驚きを隠せなかった。
「彼を信用するというのか!? いくらなんでも人が良すぎるぞ! お前はもう少し頭の働く奴だと思っていたが……」
呆れたような物言い。
しかし、雷電はその決定を変えるつもりはなかった。
「サカキは霊夢を庇った。あの行動は本物だ。サカキは、自分が怪我をすることも顧みず動いていた。本気で彼女を心配していた。……俺も、彼の気持ちが分かる」
もしも早苗が同じような状況になったら。ローズやオルガの子のこともあるが、それでも条件反射で身体が動いていただろう。
サカキがどういう人間か、雷電にはよくわからない。しかし、サカキが霊夢を想う気持ちに偽りはないと雷電は考えていた。
「サカキの彼女に対する優しさは本心からのものだ。俺はそれを信じる」
「私もサカキさんは信用できると思います。あの、改めてありがとうございます。霊夢さんを保護してくれて」
「いや、礼なんて……。君には申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。もっと早く彼女を止めることができれば、君を怖がらせずにすんだのに」
「大丈夫です! 私は何と言っても現人神ですからね! あれくらい……全然大丈夫!!」
無理に明るく振る舞っているのは誰が見ても明らかだった。
ようやく出会った知り合いに殺されかけたのだ。何も思わないはずがない。
「……彼女は私の言う事は絶対に聞いてくれる。君達に危害を加えないことを約束させれば、おそらく安全だろう。……その、だからというわけではないのだが……」
「同行したいと言うんだろう? もちろんだ。俺も彼女の病気を治すために尽力させてくれ」
「雷電! 勝手に決めるな! こいつは危険人物なんだぞ!!」
「……アカギ。お前がそこまで言う根拠は何だ?」
アカギはそこで躊躇した。
アカギはサカキの正体を知っている。ロケット団を結成し、世界を震撼させた男。
しかし、そのことを話せば、サカキが自分のことも喋るかもしれない。ギンガ団のリーダーで、神を目指す自分のことを。
サカキが知らない可能性もある。だがその可能性に賭けるにはあまりにもリスクが高過ぎる。
図らずも、今は均衡状態を保っていた。
「危険です! 私がサカキ様をお守りして──」
「気持ちはありがたく受け取っておく。しかし言う事を聞いてくれ。心配せずとも、ここでやられたりはしない」
霊夢はそれでも納得がいかないようだったが、渋々と同意した。何かあればすぐにでも駆けつけると言い残し、霊夢はその場から離れて行った。
「さて。どこから話すべきか……」
「まずは霊夢さんについて聞かせて下さい! どうして彼女は私を忘れているんですか!? それに、あの態度……」
早苗の知る霊夢と、今の霊夢はあまりにも違い過ぎる。彼女は他人に対して敬語など使う人間ではなかった。ましてや人を様付けで呼ぶなど有り得ない。
自分に問答無用で攻撃してきたこともそうだ。あれは、下手をすれば死んでいてもおかしくない攻撃だった。
「……彼女は、病気なんだ」
「病気? 精神病ということか?」
「おそらくな。私もそういうものに詳しい訳じゃないから素人判断になるが……かなり厄介なものだと思う。
私が初めて出会った時、既に彼女はおかしくなっていた。どうやら殺人鬼に襲われたらしい。レッドという……私の世界ではかなり有名な人間によってな」
私の世界。その言い回しに、雷電はサカキがパラレルワールドの存在に気が付いていることを知った。
「自我を……保てなかったんだろう。私を見るなり神だなんだと言って、……ずっとあの調子だ。言葉も通じるし理性もあるが、さっきみたいに私の敵だと判断した人間にはどういう対応をするかわからない。記憶障害も、おそらくは副次的な症状の一つだろう」
「そんな……」
早苗は絶句した。
ようやく出会えた仲間がこんな状態になっていたなんて。そんな思いが渦巻き、早苗は絶望に震えた。
「……彼女は、他にも人を襲ったのか?」
雷電は躊躇しながらも聞いた。早苗には辛いかもしれないが、やはり聞いておくべきことだと判断したのだ。
「いや。良識ある参加者に会ったのは君達が初めてだ。だから私も、まさかいきなり襲いかかるとは思ってなかった」
二人は思わずほっとする。
彼女が危険な状況であることには変わりないが、それでも誰かを殺したりはしていないという事実は、二人を安心させるに足る情報だった。
「……すまなかった。許してもらえるとは思わないが、どうか彼女を責めないでやってくれ。この通りだ」
そう言って、サカキは深々と頭を下げた。
「誰も責めてなんかいない。だから顔を上げてくれ」
「そうですよ! むしろ、今まで霊夢さんを守っていてくれたことを感謝したいくらいです」
頑なに頭を下げるサカキに二人は慌ててそう言った。
「……何故サカキは彼女と共に行動しているんだ?」
今まで黙っていたアカギが口を開いた。
その言葉に、サカキは心外だとでも言わんばかりに驚いた表情を向ける。
「当然、彼女を放っておくことができなかったからだ。あの状況では何をするのか分からなかったし、なにより別行動なんて取ったら彼女自身が壊れてしまう。ならば私が彼女を支え、何かあれば私が止めようと、そう思った」
その熱意ある喋り方は確かに真に迫るものがある。
……が、
「信用できんな」
アカギはこの男の正体を知っている。
だからサカキの弁解が真実でないことは容易に理解できた。
先程の霊夢という巫女。その従順ぶりはまるでポケモンのようだったではないか。そんな彼女を、サカキがそのような考えで傍に置いているわけがない。ポケモンを道具としか思っていないこの男には。
「雷電。この男は少し危険な気がする。ここは──」
「信じよう」
雷電の意外な言葉に、アカギは驚きを隠せなかった。
「彼を信用するというのか!? いくらなんでも人が良すぎるぞ! お前はもう少し頭の働く奴だと思っていたが……」
呆れたような物言い。
しかし、雷電はその決定を変えるつもりはなかった。
「サカキは霊夢を庇った。あの行動は本物だ。サカキは、自分が怪我をすることも顧みず動いていた。本気で彼女を心配していた。……俺も、彼の気持ちが分かる」
もしも早苗が同じような状況になったら。ローズやオルガの子のこともあるが、それでも条件反射で身体が動いていただろう。
サカキがどういう人間か、雷電にはよくわからない。しかし、サカキが霊夢を想う気持ちに偽りはないと雷電は考えていた。
「サカキの彼女に対する優しさは本心からのものだ。俺はそれを信じる」
「私もサカキさんは信用できると思います。あの、改めてありがとうございます。霊夢さんを保護してくれて」
「いや、礼なんて……。君には申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。もっと早く彼女を止めることができれば、君を怖がらせずにすんだのに」
「大丈夫です! 私は何と言っても現人神ですからね! あれくらい……全然大丈夫!!」
無理に明るく振る舞っているのは誰が見ても明らかだった。
ようやく出会った知り合いに殺されかけたのだ。何も思わないはずがない。
「……彼女は私の言う事は絶対に聞いてくれる。君達に危害を加えないことを約束させれば、おそらく安全だろう。……その、だからというわけではないのだが……」
「同行したいと言うんだろう? もちろんだ。俺も彼女の病気を治すために尽力させてくれ」
「雷電! 勝手に決めるな! こいつは危険人物なんだぞ!!」
「……アカギ。お前がそこまで言う根拠は何だ?」
アカギはそこで躊躇した。
アカギはサカキの正体を知っている。ロケット団を結成し、世界を震撼させた男。
しかし、そのことを話せば、サカキが自分のことも喋るかもしれない。ギンガ団のリーダーで、神を目指す自分のことを。
サカキが知らない可能性もある。だがその可能性に賭けるにはあまりにもリスクが高過ぎる。
図らずも、今は均衡状態を保っていた。
「ただの印象でしかないのなら、この話はここで終わりだ。それとも、俺達と別れて行動するか?」
そうまで言われたら、アカギには何も言えない。
(馬鹿共が! こんな爆弾のような女を自ら抱え込むお人好しがいるわけないだろう!)
が、それは口には出さない。もはやそれを言ったところで自分の印象が悪くなるだけだ。
ここに来て、早苗相手に強行な手段を取ったツケが出てきた。雷電は元々アカギのことが気に入らなかったようだし、早苗は当然だ。
サカキに対する信頼は、そういうアカギに対する反発心も少なからず影響していた。
だからこそ、ここは何も言わずに退くのがベスト。
「アカギといったか。君が信用できないのもわかる。だが、彼女だけは何とか助けてもらえないだろうか。彼女はか弱い女の子だ。誰かが守ってやらねばならないんだ」
真実を知る人間からすればかなり頭にくる言動だが、アカギは既に冷静さを取り戻していた。
いいだろう、サカキ。お前がそういう態度でくるのならこちらも甘んじてそれに乗っかろう。
「……そうだな。すまなかった。殺し合いの場だからといって、少し神経質になりすぎていたようだ」
「いや。分かってくれればいいんだ。……じゃあ、正式に仲間となったところで」
そう言って、サカキはすっと手を差し出した。
怪訝な表情のアカギ。そんな彼に、サカキはにこりと笑った。
「握手だよ。仲直りの印だ。これからよろしく頼む、アカギ」
アカギは思い出していた。サカキはロケット団のリーダーだったが、それと同時にトキワジムのリーダーだった。
ジムリーダーというのは世間的な知名度も高い上に、その町の看板のようなものだ。当然、町の催しなどにも顔として出席することが多い。サカキにとって、表と裏の顔を使い分けるのは容易いことなのだ。
そのまったく自然な笑顔に、アカギはこの上ない強敵の証を見た。
「……そうだな。こちらこそ、よろしく」
ぎゅっと堅く握られた手。それが友好の証でないことは、何より二人が良く分かっていた。
そうまで言われたら、アカギには何も言えない。
(馬鹿共が! こんな爆弾のような女を自ら抱え込むお人好しがいるわけないだろう!)
が、それは口には出さない。もはやそれを言ったところで自分の印象が悪くなるだけだ。
ここに来て、早苗相手に強行な手段を取ったツケが出てきた。雷電は元々アカギのことが気に入らなかったようだし、早苗は当然だ。
サカキに対する信頼は、そういうアカギに対する反発心も少なからず影響していた。
だからこそ、ここは何も言わずに退くのがベスト。
「アカギといったか。君が信用できないのもわかる。だが、彼女だけは何とか助けてもらえないだろうか。彼女はか弱い女の子だ。誰かが守ってやらねばならないんだ」
真実を知る人間からすればかなり頭にくる言動だが、アカギは既に冷静さを取り戻していた。
いいだろう、サカキ。お前がそういう態度でくるのならこちらも甘んじてそれに乗っかろう。
「……そうだな。すまなかった。殺し合いの場だからといって、少し神経質になりすぎていたようだ」
「いや。分かってくれればいいんだ。……じゃあ、正式に仲間となったところで」
そう言って、サカキはすっと手を差し出した。
怪訝な表情のアカギ。そんな彼に、サカキはにこりと笑った。
「握手だよ。仲直りの印だ。これからよろしく頼む、アカギ」
アカギは思い出していた。サカキはロケット団のリーダーだったが、それと同時にトキワジムのリーダーだった。
ジムリーダーというのは世間的な知名度も高い上に、その町の看板のようなものだ。当然、町の催しなどにも顔として出席することが多い。サカキにとって、表と裏の顔を使い分けるのは容易いことなのだ。
そのまったく自然な笑顔に、アカギはこの上ない強敵の証を見た。
「……そうだな。こちらこそ、よろしく」
ぎゅっと堅く握られた手。それが友好の証でないことは、何より二人が良く分かっていた。
◇◇◇
その村は不気味な程に閑散としていた。
ホラー映画の舞台になっていたと聞かされても何の違和感もなく納得するだろうなと雷電は思った。
当然、人が住んでいる気配などない。
「ひどい場所ですね! ずっとこんなところにいたら息が詰まりそうです!」
全員の気持ちを代弁するように早苗は言った。
「幻想郷とやらも、こういう所ではないのか?」
「こんなお化け村と一緒にしないで下さい! 幻想郷はもっと活気がありますよ。ね? 霊夢さん」
霊夢はちらりと早苗を一瞥したが、すぐに黙って前を向いた。
早苗は思わず俯いた。
サカキの説得もあって、霊夢は二人に敵意を向けることはなくなったが、やはり未だに心を許してはいないようだ。
「あ、あー……、そうだ。ここから脱出できたら、その幻想郷とやらに行ってみてもいいか? 少し興味があるんだ」
雷電が場の空気を変えようと話題を変えた。
早苗はぱっと明るくなって、すぐにそれに飛びついた。
「大歓迎です! 雷電さんなら神奈子様や諏訪子様も気に入ってくれます!」
「神奈子と諏訪子。神だとか言ったな」
アカギが前を向いたまま言った。
「はい、そうです。あ、言っておきますが、私だって神様ですよ。現人神というやつです!」
自慢げに早苗はそう言った。
「信仰を命とする神。人よりも上に位置する存在でありながら、人に依存しなければ生きていけない。……フフ、幻想郷という世界は面白いな」
嘲笑するようなアカギの言葉に早苗はむっとするも、肩に置かれたサカキの手によってその気持ちは萎んでいった。
雷電は、その様子を見て少なからずサカキを見直していた。
彼はこの短時間で、早苗という女性の人格を正確に見抜いていた。彼女がどんな発言に腹をたてるのかをよく理解している。
雷電でさえ彼女の特殊な思想には未だ馴染めていないというのにだ。
「確かに幻想郷は面白い場所だな。一度でいいから神という存在に会ってみたいものだ」
「まったくその通りだな」
サカキとアカギはそう言って笑う。仲が良いのか悪いのか、傍目からはよくわからなかった。
「……あの、それで……霊夢さん。少しは思い出しました?」
「思い出すも何も、私はアンタなんか知らない。神奈子や諏訪子なんて神も聞いたことない」
つっけんどんなセリフ。
見かねて雷電が口を挟んだ。
「早苗。気持ちはわかるが、あまり無理強いはしない方がいい。こういうことはじっくり時間を掛けた方が──」
「私は記憶障害なんか起こしてない! いたって正常よ! ただ気付いただけ。サカキ様が私にとっての神だって。……サカキ様。本当なんです。信じて下さい。私は……」
「分かっている。だからそんな心配そうにしなくていい。私は霊夢を信用している」
「ディアルガによって時間軸の違う人間を殺し合いに参加させているんだろう。厳密に言うなら、ここにいる霊夢は早苗の知る霊夢ではないということだ」
それは村に向かう道中にアカギから聞いた話だった。
伝説のポケモンといわれるもので、今のところ現在の状況を説明できる唯一の存在。
時間移動と空間移動を行うディアルガとバルキアを使えば、世界創世さえ可能だとアカギは言っていた。
ホラー映画の舞台になっていたと聞かされても何の違和感もなく納得するだろうなと雷電は思った。
当然、人が住んでいる気配などない。
「ひどい場所ですね! ずっとこんなところにいたら息が詰まりそうです!」
全員の気持ちを代弁するように早苗は言った。
「幻想郷とやらも、こういう所ではないのか?」
「こんなお化け村と一緒にしないで下さい! 幻想郷はもっと活気がありますよ。ね? 霊夢さん」
霊夢はちらりと早苗を一瞥したが、すぐに黙って前を向いた。
早苗は思わず俯いた。
サカキの説得もあって、霊夢は二人に敵意を向けることはなくなったが、やはり未だに心を許してはいないようだ。
「あ、あー……、そうだ。ここから脱出できたら、その幻想郷とやらに行ってみてもいいか? 少し興味があるんだ」
雷電が場の空気を変えようと話題を変えた。
早苗はぱっと明るくなって、すぐにそれに飛びついた。
「大歓迎です! 雷電さんなら神奈子様や諏訪子様も気に入ってくれます!」
「神奈子と諏訪子。神だとか言ったな」
アカギが前を向いたまま言った。
「はい、そうです。あ、言っておきますが、私だって神様ですよ。現人神というやつです!」
自慢げに早苗はそう言った。
「信仰を命とする神。人よりも上に位置する存在でありながら、人に依存しなければ生きていけない。……フフ、幻想郷という世界は面白いな」
嘲笑するようなアカギの言葉に早苗はむっとするも、肩に置かれたサカキの手によってその気持ちは萎んでいった。
雷電は、その様子を見て少なからずサカキを見直していた。
彼はこの短時間で、早苗という女性の人格を正確に見抜いていた。彼女がどんな発言に腹をたてるのかをよく理解している。
雷電でさえ彼女の特殊な思想には未だ馴染めていないというのにだ。
「確かに幻想郷は面白い場所だな。一度でいいから神という存在に会ってみたいものだ」
「まったくその通りだな」
サカキとアカギはそう言って笑う。仲が良いのか悪いのか、傍目からはよくわからなかった。
「……あの、それで……霊夢さん。少しは思い出しました?」
「思い出すも何も、私はアンタなんか知らない。神奈子や諏訪子なんて神も聞いたことない」
つっけんどんなセリフ。
見かねて雷電が口を挟んだ。
「早苗。気持ちはわかるが、あまり無理強いはしない方がいい。こういうことはじっくり時間を掛けた方が──」
「私は記憶障害なんか起こしてない! いたって正常よ! ただ気付いただけ。サカキ様が私にとっての神だって。……サカキ様。本当なんです。信じて下さい。私は……」
「分かっている。だからそんな心配そうにしなくていい。私は霊夢を信用している」
「ディアルガによって時間軸の違う人間を殺し合いに参加させているんだろう。厳密に言うなら、ここにいる霊夢は早苗の知る霊夢ではないということだ」
それは村に向かう道中にアカギから聞いた話だった。
伝説のポケモンといわれるもので、今のところ現在の状況を説明できる唯一の存在。
時間移動と空間移動を行うディアルガとバルキアを使えば、世界創世さえ可能だとアカギは言っていた。
何故最初にそのことを言わなかったのかと雷電は詰問すると、
「ポケモンという存在を信じてもらってからでないと、話しても意味がないと考えた。下手に話しても、よりポケモンに対する理解を遠ざけ、混乱するんじゃないかと思ってな」
と、至極当然のように言っていた。
確かにその通りだし、その情報を開示するタイミングも、霊夢の状態を考えれば完璧といえるだろう。
彼女は自分が正常だと考えている。だからこそ、他者から記憶障害だと言われれば当然のように反発する。それは霊夢を刺激し、いらぬ争いを生む元になりかねない。
アカギの説明に早苗は未だ半信半疑のようだ。しかし、サカキも信じたその情報に、霊夢は一応納得している。今重要なのはその一点だ。
「ポケモンという存在を信じてもらってからでないと、話しても意味がないと考えた。下手に話しても、よりポケモンに対する理解を遠ざけ、混乱するんじゃないかと思ってな」
と、至極当然のように言っていた。
確かにその通りだし、その情報を開示するタイミングも、霊夢の状態を考えれば完璧といえるだろう。
彼女は自分が正常だと考えている。だからこそ、他者から記憶障害だと言われれば当然のように反発する。それは霊夢を刺激し、いらぬ争いを生む元になりかねない。
アカギの説明に早苗は未だ半信半疑のようだ。しかし、サカキも信じたその情報に、霊夢は一応納得している。今重要なのはその一点だ。
「だが、わざわざそんなことをする必要性が感じられないな」
「案外、今のような状況を楽しむため、という風にとれなくない」
「そうなると、主催者はかなり遊び心の持った者というわけか」
ペラペラと喋る二人。最初に会った頃の確執などなかったかのようだ。
そのころころと変わっていく話題についていけず、自然と他の三人は閉口した。
「案外、今のような状況を楽しむため、という風にとれなくない」
「そうなると、主催者はかなり遊び心の持った者というわけか」
ペラペラと喋る二人。最初に会った頃の確執などなかったかのようだ。
そのころころと変わっていく話題についていけず、自然と他の三人は閉口した。
◇◇◇
それに最初に気付いたのはサカキだった。
「何かが光っている」
村の中を歩いていると、突然サカキがそう言ったのだ。
彼の指さす方向を全員が見つめる。確かに、何かがぼんやりと光っている箇所があった。どうやら建物が光を放っているようだ。
すぐに行ってみようということになり、五人はその光が放出する場所へと向かった。
「何かが光っている」
村の中を歩いていると、突然サカキがそう言ったのだ。
彼の指さす方向を全員が見つめる。確かに、何かがぼんやりと光っている箇所があった。どうやら建物が光を放っているようだ。
すぐに行ってみようということになり、五人はその光が放出する場所へと向かった。
そこは神社だった。
早苗と霊夢は懐かしそうに辺りを見回し、他の三人は物珍しそうに周りを観察する。
鳥居を潜り、しばらく歩いたところにある本殿。光っていたのはそこだった。
奇妙なことに、その光は電球などによるものではない。まるで本殿が意思を持って光を放っているように、建物全体が薄ぼんやりと輝いていた。
「……私が行こう。皆はここで待っていてくれ」
そう言って、サカキが拝殿へと足をかける。
「あ! 土足で足を踏み入れるとは何事です!」
「私もお供します! 一人では危険です!」
同じ巫女でもまったく違う反応をみせる。
だがどちらかといえば早苗の方が巫女らしい。霊夢は本殿が踏み荒らされることもまったく意に介していない様子だった。
「……早苗。今はそんなこと言ってる場合じゃない。それに、こんな古ぼけた神社に神様がいるとは思えないが」
雷電の素朴な疑問に、早苗はふふんと鼻をならした。
「どれだけ社が廃れていようと、神を祭る場所には神が宿るものなのです。神棚だって、大きさは違えどその性質は神社と同等のものです。当然神様は宿ります」
「……こんな場所にも神がいるというのか?」
「正確には分霊というものですね。他の場所で祭っている神を招き寄せてその力を借りているのです。分霊しても神の力は衰えることがありませんから、実質的には本家と同じだけの神徳が得られるというわけです」
「つまり、ここに神がいるわけではないが、その力はある……と?」
「んー……、まあそういうことです!」
どこか曖昧だったが、彼女は言い切った。
「なるほど。随分と便利なものだ」
アカギにとってむしろ感心したのは、今まで馬鹿な行動しか目に映らなかった早苗が比較的まともな知識を披露していることだった。
「わかった。靴を脱ごう。これで問題ないだろ?」
サカキは素足で拝殿へと足を踏み入れる。
「霊夢。お前は皆と共に待っていろ。心配するな。おそらく誰もいないだろう」
早苗と霊夢は懐かしそうに辺りを見回し、他の三人は物珍しそうに周りを観察する。
鳥居を潜り、しばらく歩いたところにある本殿。光っていたのはそこだった。
奇妙なことに、その光は電球などによるものではない。まるで本殿が意思を持って光を放っているように、建物全体が薄ぼんやりと輝いていた。
「……私が行こう。皆はここで待っていてくれ」
そう言って、サカキが拝殿へと足をかける。
「あ! 土足で足を踏み入れるとは何事です!」
「私もお供します! 一人では危険です!」
同じ巫女でもまったく違う反応をみせる。
だがどちらかといえば早苗の方が巫女らしい。霊夢は本殿が踏み荒らされることもまったく意に介していない様子だった。
「……早苗。今はそんなこと言ってる場合じゃない。それに、こんな古ぼけた神社に神様がいるとは思えないが」
雷電の素朴な疑問に、早苗はふふんと鼻をならした。
「どれだけ社が廃れていようと、神を祭る場所には神が宿るものなのです。神棚だって、大きさは違えどその性質は神社と同等のものです。当然神様は宿ります」
「……こんな場所にも神がいるというのか?」
「正確には分霊というものですね。他の場所で祭っている神を招き寄せてその力を借りているのです。分霊しても神の力は衰えることがありませんから、実質的には本家と同じだけの神徳が得られるというわけです」
「つまり、ここに神がいるわけではないが、その力はある……と?」
「んー……、まあそういうことです!」
どこか曖昧だったが、彼女は言い切った。
「なるほど。随分と便利なものだ」
アカギにとってむしろ感心したのは、今まで馬鹿な行動しか目に映らなかった早苗が比較的まともな知識を披露していることだった。
「わかった。靴を脱ごう。これで問題ないだろ?」
サカキは素足で拝殿へと足を踏み入れる。
「霊夢。お前は皆と共に待っていろ。心配するな。おそらく誰もいないだろう」
◇◇◇
本殿の中を少し探索すると、サカキの目当てのものをすぐに見つけることができた。
「……ふん。案の定か」
そこにはクリスタルがあった。どういう原理かはわからないが、光を放ち、その場で浮遊している。
「二つ目。やはり何か意味があるらしいな。これには」
意味のないものが二つも用意されているとは思えない。おおかた、いくつか集めることで効果が発揮されるアイテムなのだろう。
サカキはそれを躊躇することなく手に取ると、そのままバックの中に入れた。
「……誰だ?」
それは直感だった。根拠があったわけではない。しかし、その場に誰かがいるような気配がしたのだ。
「姿を隠している者が、誰だと聞かれて正体を明かすと思うか?」
どこからともなく声が聞こえる。
いる。何者かがここにいる。姿が見えないだけだ。
支給品の効果か? いや、姿を隠さなければならないような参加者が近くにいるというのなら、既に自分の命はない。
もしや……
「しかしそれでも明かすのが私流だ」
何もないところから男が現れた。
サカキからすれば、それは魔法のような光景だった。
「……それで? わざわざ参加者に接触した理由を聞こうか」
内心の興奮を抑え、サカキは言った。
「大した理由ではない。少し、貴様の持つそれを調べたかっただけだ。どうだね? しばらく預けてはもらえないか。ほんの十分もしない内に用事は終わる。この機会を逃せば何かと面倒なんでね」
これほど心の内の読めない男をサカキは見たことがなかった。
敢えて参加者という言い回しをしたことについても、わざと姿を現したのではないかというこちらの読みに対しても、一言の感想も言わない。
サカキは迷うことなくクリスタルを男に投げ渡した。
「良い判断だ」
にやりと男は笑い、その場に座り込むと一人作業をし始めた。
ゴーグルを装着し、奇妙な機械でクリスタルを入念に調べている。
「何も言わずに渡してくれた礼だ。聞きたいことを教えてやろう。調べている間だけだがな」
サカキに躊躇も遠慮もなかった。
「貴様達の目的は何だ?」
「私は雇われた身に過ぎん。崇高な目的とやらは、神にでも聞くんだな」
「神? この神社のか?」
「いいや。この世界の主さ」
その言葉に、サカキはますます引きこまれた。
「このクリスタルには何の意味がある」
「四つ集めたら真実を知ることができる、とだけ言っておこう。今はそれ以上の付加価値があるかもしれんがな」
「それを調べるために?」
「お前の考えている通りだよ」
これで三つの重要な話が聞けた。
敵は神で、ここは神の世界。そして、神の中にも不信得者がいるということ。
「一つ目はレッド。二つ目はアシュナードという狂王が持っている。三つ目は……未だ誰の手にも渡っていない。これも含めて計四つだな」
聞いてもいないのに男は重要な情報を喋ってくれた。どうやら自分を気に入ってくれたようだ。
好都合である。
「何故そんな重要な情報を参加者である私に教える」
「雇い主は公平な闘争をお望みだ。一方の力が強ければ、もう一方を強くする。色々と予期せぬ事態が続いたのでな。情報がとあるチームに流れ過ぎた」
「……公平な闘争を私が助長すれば、こちらに得はあるか?」
初めて、男は黙った。
「……ふん。案の定か」
そこにはクリスタルがあった。どういう原理かはわからないが、光を放ち、その場で浮遊している。
「二つ目。やはり何か意味があるらしいな。これには」
意味のないものが二つも用意されているとは思えない。おおかた、いくつか集めることで効果が発揮されるアイテムなのだろう。
サカキはそれを躊躇することなく手に取ると、そのままバックの中に入れた。
「……誰だ?」
それは直感だった。根拠があったわけではない。しかし、その場に誰かがいるような気配がしたのだ。
「姿を隠している者が、誰だと聞かれて正体を明かすと思うか?」
どこからともなく声が聞こえる。
いる。何者かがここにいる。姿が見えないだけだ。
支給品の効果か? いや、姿を隠さなければならないような参加者が近くにいるというのなら、既に自分の命はない。
もしや……
「しかしそれでも明かすのが私流だ」
何もないところから男が現れた。
サカキからすれば、それは魔法のような光景だった。
「……それで? わざわざ参加者に接触した理由を聞こうか」
内心の興奮を抑え、サカキは言った。
「大した理由ではない。少し、貴様の持つそれを調べたかっただけだ。どうだね? しばらく預けてはもらえないか。ほんの十分もしない内に用事は終わる。この機会を逃せば何かと面倒なんでね」
これほど心の内の読めない男をサカキは見たことがなかった。
敢えて参加者という言い回しをしたことについても、わざと姿を現したのではないかというこちらの読みに対しても、一言の感想も言わない。
サカキは迷うことなくクリスタルを男に投げ渡した。
「良い判断だ」
にやりと男は笑い、その場に座り込むと一人作業をし始めた。
ゴーグルを装着し、奇妙な機械でクリスタルを入念に調べている。
「何も言わずに渡してくれた礼だ。聞きたいことを教えてやろう。調べている間だけだがな」
サカキに躊躇も遠慮もなかった。
「貴様達の目的は何だ?」
「私は雇われた身に過ぎん。崇高な目的とやらは、神にでも聞くんだな」
「神? この神社のか?」
「いいや。この世界の主さ」
その言葉に、サカキはますます引きこまれた。
「このクリスタルには何の意味がある」
「四つ集めたら真実を知ることができる、とだけ言っておこう。今はそれ以上の付加価値があるかもしれんがな」
「それを調べるために?」
「お前の考えている通りだよ」
これで三つの重要な話が聞けた。
敵は神で、ここは神の世界。そして、神の中にも不信得者がいるということ。
「一つ目はレッド。二つ目はアシュナードという狂王が持っている。三つ目は……未だ誰の手にも渡っていない。これも含めて計四つだな」
聞いてもいないのに男は重要な情報を喋ってくれた。どうやら自分を気に入ってくれたようだ。
好都合である。
「何故そんな重要な情報を参加者である私に教える」
「雇い主は公平な闘争をお望みだ。一方の力が強ければ、もう一方を強くする。色々と予期せぬ事態が続いたのでな。情報がとあるチームに流れ過ぎた」
「……公平な闘争を私が助長すれば、こちらに得はあるか?」
初めて、男は黙った。
「私を雇え。使えるぞ。私は」
ふっと男は笑う。
「その自信といい、遠慮のなさといい、なかなか気に入った。だが、私の一存では決められん」
男の目的が闘争にあるというのなら、ここは事実がどうであろうと雇うと言うべきところだ。それだけのことを考える頭をこの男は確実に持っている。
これは男にとっての信用の証。そうサカキは捉えた。
「貴様の部下になることも、私は一切異論ない。どのような任務が下されようと、私なら応えられる」
「任務は何者かが下すものではない。時代が、世界が全てを決めるのだ。誰もが流動する相対敵と戦っている」
「貴様にとって今の敵が、ここにいる参加者というわけか?」
「現段階で、我々の目的はほぼ達成している。それでも尚このゲームを続けるのは、色々と思惑が錯綜した結果だといっていいだろう。要するに──」
突然、男の言葉が止まった。
「なんだ? 何か見つけたのか?」
「……クックック。これはこれは。雇い主には……やはり報告するべき問題だな」
男は機械やゴーグルをしまうと、クリスタルをサカキに手渡した。
「非常に助かった。おかげでいらぬ手間を取らずに済んだ。改めて礼を言おう」
「礼などいらん。私のことを、その神とやらに言い含めてくれたらそれでいい。少し色をつけてもらうと個人的には嬉しい限りだがね」
「優勝者を決める必要性はない。我々はただ殺し合わせたいだけなのだ。できるだけ醜く、できるだけ無様に。その過程で人が死ぬのなら好都合。とまあ、そう考えている。
……とりあえず、お前に教えられるのはこれくらいだ。これらの情報を知り、どう動くかはお前次第。お前にとっての相対敵が何者なのか。次に会う時までにその答えを用意すると言うのなら、雇い主には私が進言してやろう」
男は携帯のような小さな端末を投げ渡した。
「雇い主からの情報提供だ。せいぜい賢く使え。あくまで生き残るためにな」
端末を操作すると、現段階で生きている参加者が表示された。さらにそのプロフィール。各参加者の最新のスタンス。様々な有益な情報がこの端末には詰まっていた。
「……その助言は貴様の意思か?」
「言っただろう。私はお前を気に入ったとな。下手なことをして死なれれば、……まぁ寝覚めくらいは悪くなる。快適な睡眠は健康維持に必須だろう? 私もこれで、けっこう歳なのだよ」
数秒間、互いに見つめ合う。それは腹の探るための僅かな時間といってもよかった。
「了解した。お前の求めるものと相容れるかどうかは知らんが、その答えは用意しておこう」
「雇い主の機嫌次第では、早い段階からお前を引き入れることを了承するかもしれん。せいぜい精進するがいい」
男はそれだけ言い残すと、再び何事もなかったかのように消えてしまった。
今度は気配も掴めない。完全にこの場からいなくなったようだ。
「……けっきょく、何が目的なのかは読み切れなかったか」
わざわざ隠さなければならないほど、雇い主の目的は秘密裏に行うべきものなのか。それとも……
「っと。さすがに時間を食い過ぎたな。そろそろ戻るか」
一応、今の同行者達のプロフィールを確認し、サカキはその端末をしまった。
ふっと男は笑う。
「その自信といい、遠慮のなさといい、なかなか気に入った。だが、私の一存では決められん」
男の目的が闘争にあるというのなら、ここは事実がどうであろうと雇うと言うべきところだ。それだけのことを考える頭をこの男は確実に持っている。
これは男にとっての信用の証。そうサカキは捉えた。
「貴様の部下になることも、私は一切異論ない。どのような任務が下されようと、私なら応えられる」
「任務は何者かが下すものではない。時代が、世界が全てを決めるのだ。誰もが流動する相対敵と戦っている」
「貴様にとって今の敵が、ここにいる参加者というわけか?」
「現段階で、我々の目的はほぼ達成している。それでも尚このゲームを続けるのは、色々と思惑が錯綜した結果だといっていいだろう。要するに──」
突然、男の言葉が止まった。
「なんだ? 何か見つけたのか?」
「……クックック。これはこれは。雇い主には……やはり報告するべき問題だな」
男は機械やゴーグルをしまうと、クリスタルをサカキに手渡した。
「非常に助かった。おかげでいらぬ手間を取らずに済んだ。改めて礼を言おう」
「礼などいらん。私のことを、その神とやらに言い含めてくれたらそれでいい。少し色をつけてもらうと個人的には嬉しい限りだがね」
「優勝者を決める必要性はない。我々はただ殺し合わせたいだけなのだ。できるだけ醜く、できるだけ無様に。その過程で人が死ぬのなら好都合。とまあ、そう考えている。
……とりあえず、お前に教えられるのはこれくらいだ。これらの情報を知り、どう動くかはお前次第。お前にとっての相対敵が何者なのか。次に会う時までにその答えを用意すると言うのなら、雇い主には私が進言してやろう」
男は携帯のような小さな端末を投げ渡した。
「雇い主からの情報提供だ。せいぜい賢く使え。あくまで生き残るためにな」
端末を操作すると、現段階で生きている参加者が表示された。さらにそのプロフィール。各参加者の最新のスタンス。様々な有益な情報がこの端末には詰まっていた。
「……その助言は貴様の意思か?」
「言っただろう。私はお前を気に入ったとな。下手なことをして死なれれば、……まぁ寝覚めくらいは悪くなる。快適な睡眠は健康維持に必須だろう? 私もこれで、けっこう歳なのだよ」
数秒間、互いに見つめ合う。それは腹の探るための僅かな時間といってもよかった。
「了解した。お前の求めるものと相容れるかどうかは知らんが、その答えは用意しておこう」
「雇い主の機嫌次第では、早い段階からお前を引き入れることを了承するかもしれん。せいぜい精進するがいい」
男はそれだけ言い残すと、再び何事もなかったかのように消えてしまった。
今度は気配も掴めない。完全にこの場からいなくなったようだ。
「……けっきょく、何が目的なのかは読み切れなかったか」
わざわざ隠さなければならないほど、雇い主の目的は秘密裏に行うべきものなのか。それとも……
「っと。さすがに時間を食い過ぎたな。そろそろ戻るか」
一応、今の同行者達のプロフィールを確認し、サカキはその端末をしまった。
「どうだった? 随分と時間が掛かったようだが」
何食わぬ顔で帰って来たサカキに、アカギが言った。
「何も問題はない。探索に時間が掛かっただけだ。まさかただの結晶体があっただけだとは思わなかったのでな」
そう言って、クリスタルを取り出して見せる。
「これが光っていただけだ。大したことではない」
「何だこれは?」
「さあな。我々の走光性を利用して、バトルロイヤルでもさせたかったんじゃないか?」
「ふん。私達は虫だというわけか」
「少なくとも主催者側から見れば」
「……それ、持っていくのか?」
雷電の問いに、サカキは頷いた。
「何が必要になるかわからんからな。まぁ、最低でも懐中電灯の代わりにはなるだろう」
けっきょくサカキは、予期せぬ来訪者のことは誰にも言わずじまいだった。
何食わぬ顔で帰って来たサカキに、アカギが言った。
「何も問題はない。探索に時間が掛かっただけだ。まさかただの結晶体があっただけだとは思わなかったのでな」
そう言って、クリスタルを取り出して見せる。
「これが光っていただけだ。大したことではない」
「何だこれは?」
「さあな。我々の走光性を利用して、バトルロイヤルでもさせたかったんじゃないか?」
「ふん。私達は虫だというわけか」
「少なくとも主催者側から見れば」
「……それ、持っていくのか?」
雷電の問いに、サカキは頷いた。
「何が必要になるかわからんからな。まぁ、最低でも懐中電灯の代わりにはなるだろう」
けっきょくサカキは、予期せぬ来訪者のことは誰にも言わずじまいだった。