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宣戦布告 ◆2lsK9hNTNE


居間に案内して食卓の椅子を進めると大道寺知世は大人しく座った。
落ち着かない様子でキョロキョロと目を動かしている。
いや、状況を考えればむしろ落ち着いている方か。
サーヴァントを失ったとはいえ、他のマスターの家に連れてこられたのだからもっと怯えたり、緊張したりしても良さそうなものだが。
肝が座っているのか、感情を隠すのが上手いのか。まあ前者だろう。

「夕飯食べる? 作り置きのカレーならあるけど」

聞くと彼女は遠慮がちに頷いた。
なぎさは冷蔵庫からカレーを取り出す。料理に時間を取られないようまとめて作っておいたものだ。
自分の分も含めた二人分を皿に入れて電子レンジで温める。
待つ間、後目に知世を見やった。先程と変わらずあちこちに目を向けている。テーブルに置かれた腕には縄の跡が残っていた。
視線に気づいた知世が慌てた様子で腕を下ろす。なぎさは視線を電子レンジに戻した。
数秒して、知世が遠慮がちに言う。

「……あの」

なぎさは振り返らずに答える。

「なに?」
「家の方の姿が見えないのですが、どこかに出かけてらっしゃるんですか?」
「家族はいない」

知世が息を呑んだ気配がして、なぎさは紛らわしい言い方だったことに気づいた。

「母と兄と三人暮らしだったんだけどね、この町では遠くで仕事しながら仕送りしてるって設定になってる。
ほんとにそんなNPCがいるかは知らないけど」
「そうなのですか」

その言葉には安堵したような響きがあった。誘拐犯の家族なんてどうなってようが関係ないだろうに。
電子レンジが鳴って、カレーを取り出す。半分を別の皿に移して、両方にご飯をよそう。
スプーンを載せてテーブルに並べ、知世の正面の椅子に座った。
知世は少し躊躇したあと両手を出した。行儀よく手を合わせ、「いただきます」と言って、音も立てず上品にカレーを口に運ぶ。

妙に丁寧な言葉遣いから薄々感じていたが、彼女はどこかのお嬢様かなにかなのだろうか?
気になったが聞くのはやめておいた。ヘタに素性を聞いて情が移っても困る。重要なのはいかに彼女を使うかだ。
令呪の受け取りの際にどんな現象が起きるかわからない。
だから他人の目がある外で貰うわけにもいかず、家まで連れてきてしまったが、今後の処遇についてはなにも決めていない。
できればアサシンが戻ってくるまでに案を出したい。
具体的な策もないのに生かしておくと言ったらアサシンと揉めるかもしれない。

しかし知世を危険に晒すような策ではダメだ。それでは直接か間接か違いだけで結局は海野雅愛と変わらない。
だが彼女を危険に晒さず、かつアサシンが納得できるだけのメリットがある作戦なんてまったく思いつかなかった。
そもそも今までの人生、戦いなどと無縁に生きてきたのだ。考えたところでそう簡単に浮かぶはずもなかった。

「……なぎささん?」

呼ばれていることに気づいて顔を向けた。知世の不思議そうな表情を見るにどうやら何度も呼んだ後らしい。
彼女はいつの間にか食事も終えていた。
考えに浸りすぎていた。なぎさはカレーを口に入れながら目で返事を促す。知世が口を開いて、

「電話をお借りしてもよろしいでしょうか? 家族や友達が心配していると思うので」

ケータイで掛ければいいと言おうとして攫われてきたとき、彼女はなにも持っていなかったことを思い出した。
ケータイに限らず荷物は全部学校に置きっぱなしだろう。

「悪いけど許可できない。ここの番号を知られたくない」
「せめて家にだけでもお願いできませんか。家にはマスターの可能性がある歳の人はいません」
「いいじゃない心配させるくらい。
そりゃ一緒に暮らしてれば情も湧くだろうけど、所詮は偽物。聖杯戦争が終わるまでの付き合いでしょ」

わざとキツめに言っておく。
こうすれば意気消沈するか――でなければ怒って反論してくるだろうと思った。
しかし知世の反応はそのどちらでもなかった。

「……アサシンくんも同じようなことを言ってました」

アサシンという言葉に自分のサーヴァントの姿が浮かび、一瞬なにを言ってるのかわからなかった。
だがすぐにそれが彼女の消えたサーヴァントのことを指しているのだと察した。

「私が友達の誕生日プレゼントを作ってると、NPCにそこまでする必要ないって。
アサシンくんって結構言葉がきついんですよ。でも本当はとっても優しいんです。
そのときだって夜遅くまで作業してる私を心配してくれて。
アサシンというクラスが意味することはわかっています。
でも私にとっては頼りになるお友達で……」


楽しそうに語っていた口が不意に止まった。顔を歪ませ、震える声で言葉を続けた。

「私、アサシンくんの本当の名前も知らないんです。
私から漏れるかもしれないからって……教えてくれなくて」

知世はそう言って嗚咽を漏らした。それでも言葉を止めずサーヴァントのことを語り続ける。
好きな食べものや音楽といった好みから、彼女がサーヴァントとした何気ない会話まで。
どれも他愛のない話ばかりだ。あるいはそれくらいしか話せることがないのかもしれない。
それはほとんど独り言のようなもので、なぎさには適当に聞き流すことも、あるいは強引に話を遮ることもできた。
だがなぎさはなにもしなかった。黙ってずっと話を聞き続けた。食事が終わっても立ち上がらずにずっと。
やがて知世が語り終え、指で涙を拭った。まだ少し涙ぐんだ声で言う。

「すみません。みっともないところをお見せしました」
「誰かの死を悲しむのがみっともないってこともないでしょ」

言った後でクサすぎると思ったが、こんな言葉でも気が楽になったようで知世は少しだけ笑みを浮かべた。
それから顔を引き締めて、

「アサシンくんのことを話していて一つ思い出したことがあるんです。
なぎささんは聖杯戦争専用の掲示板にある『小学生の死亡事件について』というスレッドをご存知ですか?」
「まあ一応。レスもまったくついてなかったからあんまり気にしてなかったけど」
「あれはアサシンくんが立てたスレッドなんです」

意外な話ではなかった。彼女たちは小学生の事件のことをずっと気にしていたらしいし、掲示板で情報を集めるくらいはするだろう。
もっとも結局なんの情報も集まらなかったわけだが。

「あそこに一連の事件の首謀者として、死神様の絵を載せてもよろしいですか?」

絵なんて描けるの? という疑問が最初のに浮かんだが聞くのは辞めた。
描けないならこんな提案はしないだろうし聞くだけ無駄だ。それよりも問題は別にある。

「よろしいっていうか、意味あるの? 
誰が描いたかもわからない情報を鵜呑みにする人なんていないだろうし、死神様だって普段は霊体化してるでしょ。
むしろ絵を描いたのが誰かバレたときに余計な恨みを買うだけじゃない?」

知世は口元に手を当て、少し考えこんでから言った。

「だったら逆に誰が描いたか死神様に伝わるようにするというのはどうでしょう?」
「自分を囮にするってこと?」

自分の声が思いほか低くなっていてなぎさは少し驚いた。
それを表に出さないよう努めながら知世を睨む。彼女は狼狽える素振りもなく頷いた。

「私を狙ってきた死神様と戦う人が必要なので、なぎささんのサーヴァントが協力してくれるならですけど」
「あたしのサーヴァントをあんたに張り付けるってことか」

この提案はなぎさにとって悪いものではない。
死神様が知世を狙えばそれだけアサシンが隙を突く機会は増える。仕留めるには至らなくても、情報を得られればそれだけで収穫。
どこかの正義感の強い間抜けが掲示板の内容を鵜呑みにして、死神様と戦う可能性もゼロではない。

一番大きいのは、これが知世の方からの要望だということだ。
彼女がどんな目に会おうとも――それこそ死んだとしても――それは彼女自身の責任ということになる。
なぎさが罪悪感を抱く必要はまったくない。
だが、

――そんな理屈で人の死を割り切れるなら、そもそも友達を生き返らせようとなんてしてないか。

「わかった。ただどうせ張り付けるなら、あんたにはあたしのサーヴァントのマスターを演じてもらう」
「それは……他のマスターたちと戦えということですか?」
「そこまでは言わない。どの道最初は安全策でいくつもりだったし。
マスターはあんただと周りに印象付けて、あたしの存在を隠してくれればそれでいい」

知世は少し迷ったようだったがやがて頷いた。

「わかりました。やってみます」

この作戦ならアサシンも強く否定はしないだろう。それに知世が襲われたときにアサシンが守る理由にもなる。
だが念のためもう一つ理由を作っておく。

「それと令呪は一つはあんたが持ったままでいい。その方がマスターとしてリアリティが出る」
「よろしいんですか?」
「あくまで一時的にだよ。時がきたら渡してもらう」

令呪が残っていればアサシンも簡単に見捨てはしないだろう。
これで知世が生き残れる土壌は作った。これ以上の過保護はなぎさにとっても知世にとってもマイナスにしかならない。
なぎさは立ち上がった。「画材取ってくる」と言って居間を出ようとすると、背中に知世の声が掛かった。


「なぎささん」

振り返ると彼女も立ち上がっていた。こちらをまっすぐ見て、頭を下げた。

「ありがとうございます」
「別に。あんたのためやるわけじゃない」
「それでも私は助かりました」

そう言って顔を上げる。
綺麗な目をしていた。世界が優しさとか希望とか愛とか――そういう甘いもので出来ていると信じている目。
現実を知らない目。

「……お皿」
「え?」
「感謝してるんだったら洗っといて」

言い残して今度こそ居間を出た。彼女がちゃんと洗うかどうかはどうでもいい。十中八九洗うと思うが。
ふと思い出した。そういえばまだ彼女を家の件が解決していなかった。
大事になって警察に動かれたりしても困る。まあアサシンと一緒なら帰しても問題ないだろう。
伝えに戻ろうかと思ったがやめておいた。
そもそもアサシンが別行動していることを彼女には言っていない。
それにいま伝えれば彼女はまたお礼を言う。あの綺麗な目で。
それはなぎさにとってあまり気分のいい話ではない。



【D-5/山田なぎさの家/一日目 夜】


山田なぎさ@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】
[状態]健康、若干憂鬱(すぐに切り替え可能)
[令呪]残り五画
[装備]携帯電話、通学カバン
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、海野藻屑に会う。
1.大道寺知世を手伝う……?
2.お人好しな主従と協調するふりをして、隙あらばクロメに襲わせる。
3.ただし油断せず、慎重に。手に負えないことに首を突っ込まないし、強敵ならば上手く利用して消耗させる。
[備考]
※暴力に深層心理レベルで忌避感があることに気づきました。



大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態]健康、手首足首などに縛られた痕
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
1.『なぎさ』に『死神様』事件について協力してもらう。
[備考]
※死神様について
小学校の生徒を自由に操れる『エプロンドレスのキャスター』が裏側に居ると知りました。
※サーヴァントを失ったため、ルーラー雪華綺晶に狙われています


小学生の死亡事件に関してのスレに下記の書き込みがされました。ageです。

小学生死亡事件を起こしているサーヴァントが判明しました。
絵を描いたのでここにお載せします。【URL】(誰かちゃんと判別できるくらいには似ている絵が載っています)
小学生の間で死神様という呼び名で噂されている存在です。
それからもし見ているのであれば死神様。鬼ごっこはまだ終わっていません。

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最終更新:2020年06月21日 23:38