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もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q.



キャスターからの『協力』の要請にフェイトが言葉を濁したのは、なにより自身の置かれた境遇が関係していた。
フェイトは今、全参加者を対象にした捕獲令が敷かれている。
捕獲したフェイトの受け渡し場所が図書館ということは、図書館にはフェイトを待つなにかが潜んでいるのだ。
それはもしかしたら、あのルーラーかもしれないし、別の何者かかもしれない。
そして、その何者かはフェイトに対して会うべき理由を見出している。
フェイトも気づかないうちに、相手は勝手にフェイトと会わなければならないと決め、捕獲令まで持ち出した。
それが空恐ろしく、その先に何があるかもまた闇の中であるがゆえに、フェイトは言葉を濁すしかなかったのだ。

フェイトは戦い続けなければならない。最後の一人になり、聖杯を手に入れるその日まで。
だからこそ、不用意な行動を起こしてはならない。

(ランサー)
『何』

静かな声が、耳からではなく脳に直接届く。
確かな魔力の感触が、あの死体のように青白い英霊の少女が傍にいることを教えてくれる。

(私は、どうするべきだと思う?)

ついて出た問いは迷い。
不用意な行動を起こしてはならない、とわかっているが、それでもフェイトは迷っている。

『私には分からないわ。他の人ならきっと上手な答えを見つけられるんだろうけど』

ランサーは淡泊にそう答えた。
それは半ば予想通りの答えといってもいい。
結局、最後の判断を下すのはフェイトだ。フェイトが考え、答えを導かなければならないことだ。



ちらりと見上げた先にあるのはキャスターの背。
キャスターは何も言わず、ただ『当然そうなる』と確信しているように図書館へと向かっていた。
フェイトは黙ってその背を追っている。しかしなお、フェイトの方針は定まっていない。
いっそこの場でキャスターに闇討ちをかけ、そのまま逃げてしまおうかとも思った。
だがそれで事態がいくら好転するというのか。
しかしこのまま彼についていっていいのか。
ぐるぐるとまとまらない思考のまま、ただ足だけは休まず図書館へと向かっている。
まるで運命の糸が手繰り寄せられるように、星々が互いの引力で引き寄せられあうように。

『不安?』

再びランサーの声が脳内で反響する。
フェイトが答えあぐねていると、ランサーはもう一度同じ問いを口にする。

『不安なの?』
(……うん)

ランサーは少し黙した後で。

『不安なことから逃げていれば、いつかはその不安なことが消えるの?』

まるで子供が大人に問うように、ランサーはフェイトにそう問うた。
問いというより謎かけか。それとも単なる皮肉と呼ぶべきかか。
しかし、その一言がフェイトの心の整理にもたらした影響は大きい。

(……そうだね)

問題から逃げても問題は解決しない。当然といえば当然のことだ。
このままキャスターをやり過ごして図書館から退いたところでフェイトを取り巻く不安は消えない。
この問題は、いつかは決着をつけるべきことだ。
いつまでも捕獲令に怯えていても始まらない。それどころか、今回を逃せばまた何かフェイトに不利になる情報が撒かれる可能性もある。

(ランサー、行こう。戦うことになるかもしれないから、その時はお願い)

ならば捕獲令を下した相手と会い、捕獲令の真意を問いただすべきだ。
ようやく前を向く。既に図書館は目と鼻の先の距離まで来ていた。
フェイトの足はもう止まらなかった。

「フン、ようやく心が決まったか」

少し威勢良くなった足音を聞きわけてか、キャスターがフェイトの方を振り向いて笑う。
フェイトの迷いも、決断も、すべて見透かしたように笑っている。
つくづく気味の悪い奴だと思った。



図書館に踏み込む。
中身は本当に普通の図書館だった。
普通に本棚があり、普通にNPCたちが読書に勤しんでいる。
大きな施設内を満たすのは、数多の本とNPCと、ページをめくる音。そして少しのささやき声。
ただ、それだけに異様で恐ろしい、とフェイトは感じた。
この風景だけ見ればここが聖杯戦争における重要施設だなんて誰も思わないことだろう。
そして、一歩間違えばここが戦場になり、このNPC達が全員犠牲になる、ということなんて、フェイトたちと、ここで待つ人物以外は思ってもいないことだろう。

「あの、間違っていたら申し訳ないんですが、フェイト・テスタロッサさんと……お連れの方ですか?」

フェイトとキャスターが周囲の様子を伺っていると、貸出カウンターで作業をしていた少女が一人、ぱたぱたと駆け寄ってきた。

「お前は誰だ」
「私はここの職員です。図書館の営業時間中にあなたたちが訪れてきた場合、ご案内するようにと承っているだけです」

図書館の職員(どうやらNPCらしい)と名乗った眼鏡の少女はキャスターの問いにそう答え、説明を続ける。

「フェイトさんが来た場合、司書室に通すようにと言われているんですけど……」

眼鏡の少女はうかがうようにフェイトとキャスターを併せ見た。

「お願いします」
「はい。それでは、案内しますね。ついてきてください」

NPCの少女はそう言って頭を下げ、二人を先導して歩き始めた。
向かう先は、図書館の奥の、係員の控室のさらに奥。図書館にはやや場違いな、大きな門の前で職員が立ち止まる。
職員が門の横のスイッチを操作すると、すぐにその戸は開いた。

「地下の司書室まで連れてくるように、とのことなので」

職員の少女に促され、フェイトも、キャスターも、エレベーターに乗り込む。
二人が乗り込んだのを確認した後で、少女もエレベーターに乗り、そして階層を入力した。



がたん、と大きな音を立ててエレベーターが動き出す。
エレベーターはまるで地獄まで落ちていくように、下へ、下へと降りていく。
しばらくは階層を表していた簡素な電光掲示板は既に数字を表すのをやめてしまった。
下へ。
下へ。
まだ下へ。
地面の下のその下の、地球の真ん中まで下っていくんじゃないかというくらい、際限なく降りていく。

「司書室 ドスエ」

電子マイコの音声が、終着を告げる。
声に押し開けられるように、地獄の門にしてはやや質素なエレベーターの扉が開く。
目の前に広がっていたのは、図書館の大きさに比べればとても小さな部屋だった。
まるで誰かの研究室だ、と
壁の代わりに並べられた本棚には所狭しと本が並べられている。
部屋を照らすのは不気味な色のカンテラで、風もないのに揺らめいている。
フェイトが目を剥いたのは、その司書室の奥に控える巨大な円柱型の水槽のせいに他ならない。
司書室には似合わない、まるでどこかの研究室からそこだけ抜き取ってきたかのような、異質な水槽。
その水槽の中で眠っている少女の姿を観た瞬間、フェイトの呼吸は知らず止まっていた。

「ご報告のあったフェイト・テスタロッサさんと、お連れの方を連れてきました」

職員の少女が部屋の奥にいる誰かに向けて声をかける。
その声に、静かな声が答えた。

「そう。来たのね」
「はい」
「ありがとう。下がっていいわ、大淀」

大淀、と呼ばれた少女はフェイトたちに一礼を残し、仕事は終わったとばかりにそのまま背を向け歩いていった。
かつりかつりという大淀の足音がフェイトに呼吸を思い出させる。息を吸い、吐き、そのたびに頭の中の困惑を抑え込み、必死に声の主を探す。
司書室の奥、世界すら反射しそうな大きな大きな鏡の傍。
本の山がうず高く積まれた木製のテーブルの向こう側に、その背中があった。
愛おしげに、薬液の中で眠る裸体の少女を眺めている女性。
いつか見た背中だった。
いつも見ていた背中だった。

「成程、お前が」

キャスターもまた、フェイトと同じように困惑していたのか、しばし言葉を失っていた。
ようやく口から出た言葉も、不敵で饒舌な彼からは程遠い、短い二言。
その二言が、フェイトとキャスターの受け取ったショックの全てを説明しつくしていた。

「初めまして、というのはちょっとおかしいかしら。
 あなたにとって、私は初対面というわけではないのでしょう」

女性が手に持っていた本を置き、振り返る。
その背中の向こうにあったのは、いつかに置いてきたはずのいとおしい姿。

「といっても、あなたが知っている私は……『巻かなかった世界』の私、とでも呼ぼうかしら。
 全くの同一人物で、全くの別人」

揺れる黒髪が。
愁いを帯びた瞳が。
柔らかな体のラインが。
抑揚の少ない声が。
そして、いつか見せてくれたそのすべての愛が、フェイトという少女の全てだった。フェイトという少女にとっての全ては、その愛だけだった。

「それにしても、あなたを連れてきたのがそのキャスターというのも……つくづく」

運命とでも呼ぶべきかしらと、彼女は目を伏せ、呟いた。
まるで魂を吐き出しきってしまったような声が、重苦しい地下の空気に溶けていく。
ごぼりという音。水槽の少女が吐き出した気泡の音。
そこに浮かんでいるのは、フェイトによく似た少女。
物憂げな母、水槽で眠る自分によく似た少女、聖杯戦争、捕獲令。散りばめられた意志を繋げられず、ただ困惑ばかりが増していく。フェイトは母の期待に答えられる聡明さを持ち合わせていなかったから、母の気持ちが分からない。

「自己紹介の必要はないでしょうし、すぐに本題にはいりたいのだけど……
 どちらからがいいかしら」

世界で唯一だと思っていた大切な人がもう一人、見送られた先の世界でこちらを見つめていた。
フェイトはしばし言葉を失い、見つめ返すことしかできなかった。



【D-2/図書館 地下司書室/一日目 夕方】

フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 疲労(中)、困惑、ストレス、魔力消費(極大)、右肩負傷(中)
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1. 何故お母さんがここに……
[備考]
※ランサー(姫河小雪)、キャスター(木原マサキ)、大道寺知世&アサシン(セリム)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。
木原マサキがプレシア・テスタロッサやアルフについて知っていることを知りました。
※小学校に通うつもりでいます
※プレシア・テスタロッサの存在を知りました。

【ランサー(綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康、霊体化中
[装備]
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う



【キャスター(木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.フェイト・テスタロッサをダシにして主催者に探りを入れる。
2.予備の『木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『木原マサキ』の触媒とする。
4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
5.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
6.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※フェイト&ランサー(レイ)、ランサー(姫河小雪)、輿水幸子を確認しました。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
  あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
  見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で木原マサキの全人格を投影。
  『今の』木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。
※プレシア・テスタロッサを確認しました。

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最終更新:2020年06月18日 20:49