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青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q.



  夕方だった商店街を抜ければ、外はもう、さっきまでの空色が嘘だったみたいに薄暗く紫がかっていた。
  古ぼけた街灯が、ちかりちかりと瞬きながら明かりを灯し始めている。
  夜がだんだんと近づいてきている。世界はずんと冷え込み始めて、絵理の体から熱を奪っていく。
  絵理はそんな思いのほかやさしくない世界の真ん中の、端っこのほうで、段差に座り込んで時が経つのを待っていた。
  理由は言うまでもない。チェーンソー男と決着をつけるためだ。

「ずっと外に?」

  声につられて絵理が顔を上げれば、ボンヤリとした街灯に照らされて鉢巻をつけた青年が立っていた。
  見覚えはない。どうやらこのあたりに住んでいる人らしい。

「もう月も昇ってしまいましたよ。それにホラ 最近物騒だし」

  青年の声と視線につられてつい、と目を動かせば、そこにはいつからあったのか、人型の白線と血の痕があった。

「チェーンソー殺人鬼。
 このあたりに出るかもしれませんよ。そのうち来るかも」
「……このあたりにも、出るの?」
「出るなんてもんじゃないよ。もう四人くらい殺されてる」

  それはとてもおかしな話だった。
  絵理は夕方のごたごたを除けばチェーンソー男の出てくる場所のすべてに到達している。
  そんな絵理が初めて訪れたこの地域では、チェーンソー男による被害がすでに四人も。
  また少しだけ、チェーンソー男についてのあれこれがあやふやになる。

「それでも変わらないわ。私は、ここで待たなきゃいけないの」
「なんか分からないけど、つらいことがあるなら相談に乗るぜ」
「そういうのはもう間に合ってます」

  おせっかいな人間は山本だけで十分だ。
  山本も山本でそんなに必要ではないが、彼は言っても勝手についてくるので仕方ない。
  鉢巻の男性は、少しだけ絵理と見つめ合うと、何かを理解したのか(それとも理解するのをあきらめたのか)そのまま立ち去ってしまった。
  絵理はまた一人になって、街灯に照らされながらぼんやりと考えはじめた。
  チェーンソー男について。
  そしてこの周辺に出るチェーンソー男(鉢巻の青年の言葉を借りるなら『チェーンソー殺人鬼』か)について。
  でも、結局思考はまとまらず、絵理の頭の中を表すように、周囲には青白い霧が立ち込め始めていた。



  ―――どるん。

  不意に、霧の向こうから音がした。
  もううんざりするほど聞きなれた音だ。いつもどおり、変わらぬエンジン音だ。
  だが、違和感がある。
  確かに夜は訪れているが、時間はまだ六時を回ってしばらくといったところだ。奴が出るには早すぎる。

(とは言っても、今日に限って言えばそうでもないか)

  朝からずっと予想外の出現ばかり。その理由は今の絵理には見当もつかない。
  絵理の理解を乗り越えて、霧の向こうから一人の男が現れる。
  それは見慣れない、というより見たことのない男だった。だが、存外知らない相手というわけでもなかった。
  少なくとも絵理にとっては、因縁浅からぬ相手といって間違いなかった。

「……二人目、ね」

  それは鉢巻の男性の言葉の通りのチェーンソーを持った殺人鬼。
  絵理にとってのチェーンソー男とは、全身真っ黒で、黒いフードで頭をすっぽり覆って顔を隠した存在だ。
  だが、目の前の男は。
  上半身裸にカーキ色のズボン。顔は子供の落書きのようにも見えるし、変色した頭を合わせればチープなゾンビのようにも見える。
  携えているものは絵理の知るそれよりも幾段劣る、簡素なチェーンソー。
  だが、そのチェーンソーもいかにも何かありそうな雰囲気を醸し出している。
  その立ち姿を見ながら、白坂小梅の言葉を思い出す。
  彼女いわく、この場にいるチェーンソー男はいつの日か倒された未来からやってきたチェーンソー男かもしれないとのこと。
  ならば絵理にとってのチェーンソー男とは別に、過去か未来かに存在した、どこかの誰かにとってのチェーンソー男がこの場に呼ばれていたとしても、なんらおかしくはない。

  絵理がこの場所に来たことはない。つまり、絵理の知るチェーンソー男がこの場に来たこともない。
  ということはこれが、白線と血痕を生み出した犯人に違いないだろう。
  チェーンソー男とはまるで違うゆったりとした動きでチェーンソー殺人鬼が絵理との距離を詰め始める。
  ある意味想定内、ある意味想定外の敵と対面した絵理の方針はとても単純だった。

(二人居るなら、二人倒す―――!!)

  小梅と会った時の結論に代わりはない。
  低い姿勢のまま腿のガーターリングに仕込んでおいたナイフを三本抜き、構える。上着の下で、かすかに鎖帷子の揺れる音がする。
  そしてそのまま、チェーンソー殺人鬼のむき出しの上半身めがけて投擲した。



  チェーンソー殺人鬼は一歩も動かない。チェーンソー男よりも頑丈さに自信があるのか、手に持ったチェーンソーで弾こうとも避けようともせずに、ただそのままナイフを受けた。
  とすんと三度、軽い音を立ててナイフが肉に突き刺さる。狙い通り、胸の左右に二本と額に一本。
  しかし苦痛の声もあげず、血の一滴も流れることがない。突き刺さる前と同じ速度でエンジンの音を従えて絵理の方へと歩みを進め続けている。
  いよいよもって、チェーンソー男と同じ『怪人』で間違いなさそうだ。
  襲い掛かってくるまでに時間があるのでチェーンソー男よりも戦いやすいだろうが、倒す方法が見えないというのはどうにもやりづらい。
  もう二本、ナイフを抜いて構える。
  既にチェーンソー殺人鬼との間合いは数メートル、といったところでようやくチェーンソー殺人鬼は動いた。
  やおらチェーンソーを振りかぶる。
  チェーンソーの射程距離まではまだ遠い。相手が距離を詰めようと動き出せばその動き出しを叩く。
  そう絵理が睨んだ瞬間、青白い霧の一点が真紅に染まった。
  寒気を覚えて一歩後退る。絵理の目の前を真紅の刃が通り過ぎたのはちょうどその瞬間だった。

「なっ―――!」

  その真紅の刃は、チェーンソーが纏う『オーラ』のようなものに見える。まるでありきたりな少年漫画の武器のような感じだ。
  それはとある世界で『マ剣』と呼ばれた魔法の刃。絵理が絶対に知らない殺人鬼の秘中の秘。
  殺人鬼は、後ろに退いた絵理に向けて、ただの剣からマ剣へと昇華したチェーンソーが襲い掛かる。
  不意打ちの一撃にはやや驚いたが、その一撃で把握した射程距離はもう忘れない。
  それどころか、この薄暗い夜の青白い霧の中でも煌々と光を放ってその存在を際立たせ、絵理にわかりやすくその存在を象徴し続けている。
  自由に伸び縮みでもしない限り、ちょっとやそっとで絵理の目算が狂うことはないだろう。
  だが、射程距離がはっきりわかったところで絵理の不利は変わらない。
  普通のチェーンソーよりも長い射程に、投げナイフ程度ではびくともしない耐久力。この深い霧もあいまって、攻めあぐねるのは当然だった。
  特に耐久力の方は致命的だ。倒す方法がわからないとなると、手の出しようがない。

  絵理は抜いたままだったナイフを二本とも投げる。狙いはチェーンソー殺人鬼の、どこを見つめているかわからない両目だ。
  流石に目を傷つけられると行動に差支えが出るという知識はあったのか、さしものチェーンソー殺人鬼も今度の二本はマ剣を用いて防御した。
  その隙を突いて駆け出す。
  逃げるのではない。チェーンソー殺人鬼が追ってくることを想定して、あの恐ろしいほどの耐久力を持ったチェーンソー殺人鬼を倒せるであろう可能性の方へ。
  振りぬかれたマ剣の横を抜けて、足音が追ってきていることを確認しながら全力で駆ける。向かう先はすぐに見えてきた。
  しらぬい通りを曲がり、石作りの階段を駆け上る。数十段の石段の先には神社があった。だが、神社自体に用はない。

  ナイフを急所に刺すでは傷つけることができず、今の絵理はナイフより強い武器は持ち合わせていない。
  そこで絵理が目をつけたのは待ち伏せ場所に来るまでに見つけた『数十段続く石段』だった。
  石段の最上部から突き落とす。ナイフでダメージを受けないとしても、普通の人間が何回か死ねるだけのダメージを与えればさすがにチェーンソー男同様に消滅してくれるだろう、という見立てだ。



  神社を背負ってチェーンソー殺人鬼を待ち受ける。
  数十秒か、数分か。
  どるるるるる、るるるるるる。石段を踏みしめる靴の音の代わりに、聞きなれた足音が、だんだんと近づいてくる。
  姿は青白い霧にさえぎられてまだはっきりとは見えない。
  だが、霧の向こうで真紅の刃が揺れている。まるで血に濡れたギロチンのように、右へ、左へ、また右へ。

  揺れる光の高さが変わらなくなったのを認めた瞬間、絵理は背後にあった賽銭箱を引っつかみ、光めがけて放り投げた。
  年頃の少女が投げたとは思えない物凄い速さで、賽銭箱がチェーンソー殺人鬼めがけて飛んでいく。並みの人間ならばこれに当たっただけでも昏倒してしまうだろう。
  瞬間、赤い閃光が走り、逆三角形を描いた。
  絵理がそれを斬撃だと認識できたのは、賽銭箱がばらばらに切り開かれて、中に入っていた小銭の山を血反吐のようにぶちまけた後だった。
  想定していた以上に素早い反応に、ぎょっと目を剥く。切り裂かれた賽銭箱と霧の向こう側で、チェーンソー殺人鬼はやはり死人のような目で絵理の方を見つめている。
  そして、チェーンソー男のように駆けてくる……わけではなく、チェーンソーを担ぎ上げ、ただその場で構えたまま立ち止まった。
  ぐわんぐわんと大気がうねっている。チェーンソーを基点に霧が渦巻いている。何かを溜めている。何故かそう理解できた。
  何が来るかは分からないが、勝手にさせて絵理に有利になることはない。

  衝撃から立ち直り、当初の予定通りチェーンソーの殺人鬼を突き落とそうと駆け出す。
  しかし絵理がたどり着くより一手早く、チェーンソー殺人鬼はチェーンソーを右肩に構え、そして、絵理に向けて何かを放った。
  ぶわりと広がった風に乗って、絵理の頭にいくつものイメージが押し付けられる。
  事故の日に見送った両親と弟の顔。酒臭い運転手。
  傷ついてしまった山本。望むはずのないいつかの別れ。死んでしまった名も知らぬ少女。白線に血痕。
  絵理の中にどんと居座り続けているおびただしいほどの『絶望』たちが、突如湧き上がって絵理の頭を埋め尽くす。
  駆けていた足が恐怖に震え、腰が砕けてしまう。攻めようとしていた気持ちが一気に萎む。
  それでも倒さなければならないと無理やり足を動かして攻撃を仕掛けても、へっぴり腰な状態で繰り出す攻撃なんて物の数にも入らない。
  渾身の体当たりですら、彼のバランスを崩すには至らない。
  どころか、絵理はチェーンソー殺人鬼に完璧に受け止めきられ、腕を振り払う勢いで大きく跳ね飛ばされてしまった

  石畳の上を無様に転がり、切り裂かればら撒かれていた賽銭箱の残骸や小銭で体のあちこちが傷つく。
  その痛みでも、絶望は晴れない。
  頭の中ではぐるぐると、後ろ向きな思い出ばかりが走馬灯のように駆け巡っていた。
  それでも負けずに顔を上げた絵理の前にあったのは、そのカーキ色のズボンのしわが見える位置まで近づいて来ていたチェーンソー殺人鬼と、まるで血みたいに真っ赤なマ剣。
  更に顔を上げれば、うつろな瞳の殺人鬼が絵理を見下ろしていた。
  ゆっくりと、ゆっくりと、真紅のマ剣が振り上げられる。
  死が近づいてくる。逃げ場はない。  

  へっぴり腰の腰砕けのまま見上げた先。
  真紅のマ剣の向こうに広がる空に、絵理は不思議なものを見た。
  あたり一面を埋め尽くすほどの氷の結晶だ。



   ――るる


  霧が、凍っている。
  空気中を漂っていた霧を構成する水の粒一つ一つが、氷の結晶に変わっている。
  それはまるで雪のように、白く、美しく輝いている。
  そして、その全てが、空に向かって登っていく。
  月に向かって飛んで行く。
  舞い上がる。
  舞い上がる。
  皆、皆。


   ――るるるるる


  幻想的な光景だった。
  目の前でチェーンソーを振り上げている殺人鬼すらも、その幻想的な空気と天上から近づいてくる足音に呑まれていた。
  振り上げられた真紅のマ剣の奥。空へと吸い込まれていく雪の行方を追い、見上げれば―――


   ―――どおるるるるるるるるる!!!


  月を背負ったバケモノが、空からまっすぐに降りてくる。
  振り上げられていた真紅のマ剣が、もう一本のチェーンソーによって割断される。
  絵理が後ろへ飛んだのはほぼ反射だった。そうしなければ死ぬと体が覚えていたから、考えるよりも先に体が動いた結果だった。
  飛び退った絵理の目の前を駆動する銀の鉤爪の群れが通り過ぎる。見慣れたチェーンソーだ。
  ぎゃんぎゃんばりばり、切り裂く音。黒いコートの切れ端が宙を舞う。
  音に釣られるように、チェーンソー男が振り返り、チェーンソー殺人鬼と顔を突き合わせる。
  絵理の目からは確認できないが、チェーンソー男の背後で振りぬかれている殺人鬼のチェーンソーから判断するに、男を殺人鬼が斬りつけたということだろう。
  つまり、チェーンソー男の標的が切り替わった。立ち上がれずにへたり込んでいる絵理から、絵理との闘争を邪魔する別人へ。


  どるるるるるるるるるる。
      どぅるるるるるるるるるるる。


  駆動するエンジンの音が、重なる。
  誰かの絶望が誰かの絶望と顔を突き合わせる。




  まさに化け物同士の戦いだった。
  チェーンソーの殺人鬼がたたっ斬られた真紅のマ剣を再びチェーンソーに投影し、やたらめったらに斬りかかる。
  しかしチェーンソー男は化け物じみた身体能力でそれをすべて避けきり、逆に懐に潜り込んでチェーンソーで殺人鬼を傷つけていく。マ剣とチェーンソー、射程距離で大きく水を開けられているにもかかわらず、だ。
  チェーンソー男が殺人鬼を傷つけるたびに、空間にノイズが生まれていく。
  あれはきっと、チェーンソー殺人鬼にとっての『出血』を意味しているのだろう。
  マ剣や耐久力で感じていた化け物を敵に回しているという実感の裏づけとともに、もうひとつの実感を得る。
  ひょっとすれば、チェーンソー男ならばあの不倒の殺人鬼を正面から倒せるのかもしれない。

  無言で斬りあう二人の怪人。声よりも雄弁に、絡み合い弾き合う刃の音が語る。
  一進一退、弾きあげては弾き返し、押しては引いての斬り合いだ。
  殺人鬼は神社を―――この見慣れぬ町を背負って、侵入者である絵理たちを排除するように。
  チェーンソー男は絵理を背に、まるで殺人鬼の凶刃から絵理を守るように。

  自身のためにチェーンソー男が戦っている。絵理にはその光景は到底理解のできないものだった。
  確かに小梅から、サーヴァントとはマスターとともに戦うものだとは聞いていた。
  それでも絵理にとってのチェーンソー男とは倒すべき相手であって、ともに戦う理由なんてない。
  そんなことが出来るなら、こんなことにはなっていない。
  だが、それにしても。
  絵理に背を向けて絵理を殺そうとしていた何者かと戦うチェーンソー男の姿は、まるで―――

  殺人鬼が初めて間合いをはかり、チェーンソーにマ剣を灯したまま肩の高さまで持ち上げてチェーンソー男に向けて真っ直ぐに構えた。
  すっと空気が尖り、またしても大気がうねり出す。
  あの『絶望』が押し寄せてきた時よりも、構えている時間が長く、大気のうねりも大きい。
  何かが来る。しかもマ剣や『絶望』の波すら超える、強大な何かが。
  直感的にそれを悟った絵理は、すぐに行動に出た。
  チェーンソー男を助けるようで癪に障るが、それでもあの殺人鬼に太刀打ちできるのは現状チェーンソー男の攻撃だけだ。
  『絶望』を超える脅威が放たれたならば、絵理にきっと勝ちの目はない。
  『チェーンソー男ならば当然のように致命傷を与えることができる』という一点だけに、すべての希望を乗せる。



  ガーターリングから新たに三本のナイフを取り出して投げる。
  放たれたナイフは夜霧を切り裂き、チェーンソー男の右肩、右胸、左わき腹へと迫る。
  チェーンソー男は当たり前のように振り返り、そのすべてを右上からの斬り下ろしで弾き落とした。
  チェーンソー男の体が、チェーンソーに引きずられるように少し沈む。その瞬間を絵理は待っていた。
  一気に駆け出し、チェーンソー男の頭を飛び越え、チェーンソー男と殺人鬼との間に割り込む。

  どるるるるるるるるるるるるるる!!!!

  聞きなれた音が背後から迫ってくるのを聞いて、絵理は地を蹴った。
  殺人鬼の横をすり抜けて背後に回りこみ、そのまま殺人鬼の背も強く蹴る。

  ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ!
  大量のノイズが空間に散らばる。
  蹴り足を地に付け構えを取る絵理の眼前に広がるのは、左肩にチェーンソーが深く食い込んだ殺人鬼の姿だった。
  体を一刀両断できずに胸の半ばほどで止まったチェーンソーの刃を、それでも無理やり押し進めるように、何度も、何度も、何度も力が込められる。
  その度に殺人鬼の体を切り開きながらチェーンソー男のチェーンソーが押し進む。
  それ以上進まなくなったチェーンソーを、チェーンソー男は力任せに抜き、抜いた勢いに任せて天を突くように高く振り上げる。
  まるで白い血飛沫のように、殺人鬼の体から飛び散ったノイズが宙を舞う。

「今!!」

  それにあわせて絵理も持てる力の全てを込めて、殺人鬼の体を強く蹴り上げた。
  絵理の渾身の蹴りの力で殺人鬼の体が浮き上がり、そこに合わせるように追撃のチェーンソーが振り下ろされる。
  怒声のようにチェーンソーが叫び。
  悲鳴のようにチェーンソーが鳴く。
  殺人鬼の手から離れたチェーンソーが暴れ、石畳をのた打ち回りあちこちを傷つける。
  途切れ途切れに響く、悲鳴のように甲高い石畳を削る音に、どさりという肉感的な音が加わる。
  見れば、左肩から腰のすぐそばまでを袈裟切りに切り落とされた殺人鬼の上半身が地面に落ちていた。
  殺人鬼の上半身は、血を流すことなく、そのままノイズになって消えていく。
  つられるように、切り伏せられる時に棒立ちの状態で固定された下半身も、さらさらとノイズとして溶けてなくなっていく。

  ノイズの晴れた跡には、持ち主を失って命を失ったようにおとなしくなったチェーンソーだけが残された。


【チェーンソー殺人鬼 消滅】



  重なっていたエンジンの音が消えた。
  残ったのは、いつもと同じ。生を実感させる絵理の鼓動と、重なるように脈打つエンジンの音。
  チェーンソーが空回り、重く空気を揺らし続ける。
  どっどっどっどっど。どっどっどっどっど。
  先ほどまでの共闘はまるでなかったことのように、絵理とチェーンソー男はいつものように睨み合っていた。
  絵理に関していえば、とてもいつものようにとはいかない精神状況だったが。

  空気が一段と冷えているのを感じながら、絵理の頭の中には先ほどまでの絶望的な走馬灯の代わりにいくつかの事実がぐるぐると回っていた。
  聖杯戦争という異常と、そこに呼び出された絵理とチェーンソー男。
  当然のように現れたチェーンソー男とは別のチェーンソーの殺人鬼。
  絵理の知らない場所で出つづけている被害者。殺人鬼に殺される寸前に押し付けられた絶望の数々。
  今日の間だけで連続して起こり続けたイレギュラーの数々。
  すべてをそれぞれ個別に『そんなこともある』で切ってしまえばそれで終わり。
  でも、それで終わりにはできない何かが、絵理の頭の中で組みあがろうとしていた。産声を上げていた。

  チェーンソー男は複数居た。
  つまり、絵理にとってのチェーンソー男が居るように、誰かにとってのチェーンソー男も居るのだ。
  例えば、先天的に見えてはいけないものが見え、両親からも忌まれた少女がその扱いに元凶が居ると思ったなら、その少女の前にもチェーンソー男は現れただろう。
  例えば、愛する娘のクローンの失敗作として母親に疎まれ、無残な扱いを受けていた少女が何かに原因を押し付けたなら、その少女の前にもチェーンソー男は現れただろう。
  例えば、最愛の少女を海の底に引きずりこまれ、世界中に絶望していた少女がその理由なき絶望に理由を求めたなら、その少女の前にもチェーンソー男は現れただろう。
  魔法の国の試験で手違いで悪魔と殺しあった少女にだって、その少女の手引きで殺し合いに巻き込まれた少女にだって、彼女たちにとってのチェーンソー男が現れる可能性はあったかもしれない。

  世界のつらいこと、苦しいこと、悲しいこと、酷いことの原因は全てあのチェーンソー男だ。
  でも、チェーンソー男は何人も居る。絵理の知っているものだけでなく、あのチェーンソー殺人鬼のように別の人物にとってのチェーンソー男も居る。
  殺人鬼のような別のチェーンソーを持った怪人が、夜な夜な人に絶望を押し付けながら殺していく。
  『世界に悲しみをもたらす黒幕である存在』が『複数存在する』。
  その答えはきっと、矛盾しているようで矛盾していない。
  チェーンソー男はきっと無数に存在するのだ。それこそ人間の数だけ。七十三億体くらい。
  聖杯戦争というやつでも絵理がチェーンソー男と離れられなかったのは、きっとこのチェーンソー男が、『絵理の抱えている』チェーンソー男だからなのだろう。

「……」

  そこまで巡り、絵理の頭にひとつの答えが浮かぶ。
  チェーンソー男が何者なのか。
  絵理がこれまで戦ってきた『世界に悲しみをもたらすもの』とは、結局なんなのか。
  有体に言い換えるならば、チェーンソー男の真名はなんなのか。
  数ヶ月の戦闘と積み上げられてきた雪崎絵理という個人の経験と、チェーンソー男が複数存在する事実と。
  出会ってきた要素たちが重なり合い、そしてようやく絵理はたどり着いた。あの日出会ってしまった存在の、その正体に。
  ああ。
  チェーンソー男とは。
  絵理の日常を狂わせた、世界に悲しみをもたらす悪の怪人の正体とは。

「あんたは―――」

  しんと静まった空気の中。
  絵理が口にした、『チェーンソー男』の正体。
  それは奇しくも、あの日―――この絵理の辿り着かなかった未来、絵理と山本がチェーンソー男との決着をつけた日、山本が口走った言葉によく似ていた。



  そうして、絵理はようやく顔を向けた。
  絵理の戦ってきた『チェーンソー男』……両親と弟を失った日、絵理が出会った『    』に。





『そうだ』

  声の主は、チェーンソー男。
  無貌の奥の表情が、闇に浮かんだ三日月が、誰かの言葉を並べだす。

『お前だけじゃない。
 世界中の人間が、傷ついている。失う何かを諦めて、いつかの死を受け入れて、傷つきながら死んでいく。
 尊い戦いなんてない。名誉も、価値も、その場限り。いつか全てが無意味だと分かる。溶けて消えていく、この世のどこかに。
 全ての人間が、泣きながら、呻きながら、それでもどうしようもなく、失いながら、逃れられない死に向かって生きていく』

  チェーンソー男の言葉に、記憶の鍵がこじ開けられ、絵理の頭の中を常識で満たす。
  絵理だって本当は知っていた。
  心のどこかで気づいていた。
  両親と弟を奪ったのは交通事故だ。
  大事な人が死ぬのも、好きになった人が消えるのも、友達が遠くに行っちゃうのも、絵理に知ることができなくても必ず何か理由がある。
  悲しみは、誰かが、どこかで、何かをしただけなんだ。
  世界中の悲しみに黒幕なんか居ない。そんな都合のいい存在が居るはずがない。
  世界は誰かの都合の理不尽ばっかりだ。自分じゃどうにもできないやるせないことの連続だ。
  それでも、皆生きていくしかない。
  悲しくても辛くても理不尽でも生きていくしかない。誰かは死んでも、自分は生きているんだから。
  絵理がそこから目を背けただけで、世界はあいも変わらず回り続けて、皆が同じように誰かの間違いで傷つき続けているのだ。

『お前の戦いは、何も残さず消えていくだけの細雪。
 いつか無意味を噛みしめるために積み重ねられている細雪。
 全ての人間が積み重ねてきた、変哲もない、意味もない、無意味の積み重ね』

『お前は死ぬ。どれだけ何かを積み重ねても、最期には全てを失って悲しみ、苦しみ、孤独に死ぬ。
 お前は失いながら傷つくことしかできない。失うことと戦ったところで、勝利などそこにありはしない』

  チェーンソー男が言っている。
  いや、彼はずっと言っていたのかもしれない。
  受け入れろ、と。
  絶望を、理不尽を、不幸を、『チェーンソー男という存在を否定するもの』を、世界中の人々と同じように受け入れろ、と。
  そして『    』に向き合い、それと折り合いをつけて生きていけ、と。
  そうでなければ死ぬしかない。チェーンソー男に襲われて、永遠に治ることのない傷口から血を吐き出し続けて死ぬしかない、と。
  積み重ねられた過去の絶望に固執せずに、悲しみや苦しみや失うことをすべて受け入れて生きていけ、と。



  もし、絵理がすべてを受け入れたならば、きっと絵理は楽になれる。
  チェーンソー男と戦うことはない。
  何時間も寒空の下で待つことはない。
  山本とだってもっと気を抜いて付き合うことが出来る。
  限られた時間の中で、くよくよせずに、出来る限りの幸せを謳歌できる。
  きっと賢い生き方だ。きっと今より胸を張れる生き方だ。
  遠い昔に置いてきた家族が見たら、きっと微笑んでくれる生き方だ。

『受け入れろ』

  今度ははっきりと、力強く。その一言が告げられる。
  すべてを受け入れる。チェーンソー男を生み出してしまうような『    』と向き合い、それを受け入れて生きていく。
  きっと大人なら。
  大人じゃなくても、頭のいい子なら。要領のいい子なら。物分りの良い子なら。
  なにかを失ってしまって悲しみや苦しみでその場ではわんわん泣いたって、そのうち心のぽっかり空いた部分に別の何かを埋めて。
  そして、いつかはそうやって受け入れることに慣れていって、大人になって、理不尽な世界と折り合いをつけて生きていくんだろう。

『受け入れろ』

  それは賢くて、胸を張れて、失った誰かも喜んでくれて。

「……嫌」

  でも、駄目だ。
  絵理には出来ない。
  絵理はまだ大人じゃない。
  絵理はまだまだ、大人未満の少女だ。
  あの日突然押し付けられた悲しみを、苦しみを、絶望を、理不尽を、不幸を、何もなしに受け入れるなんて出来はしない。

『受け入れろ』

「そんなの、嫌」

  声に出して否定する。
  涙に濡れて、後ろ向きになって、いつかの傷口を気にしながら傷を増やして生きていくなんて絶対に嫌だ。
  誰かがそんな絵理を許しても、絵理はきっとそんな自分は許せない。
  許せたならそもそもチェーンソー男になんて会っていないに決まっている。
  それでも、受け入れろというならば。  

「私はたぶん、なんて言われても絶対に受け入れられない……だから私は、あなたを倒す」

  結局、そこに帰結する。
  チェーンソー男との戦い。それが絵理の青春だ。
  ついでに言うなら山本と絵理の二人の青春だ。呆れるほどに死にたがりでも、それが絵理の青春だ。
  チェーンソー男と、あの日以来チェーンソー男という形で絵理に関わってきた『    』と戦う。
  たとえその結果体をばらばらに引き裂かれて死ぬかもしれないとしても、あの日出会ってしまった『    』に真っ向から食ってかかり、納得いくまで殴りあう。
  この判断を、きっと誰かは愚かだと笑うだろう。
  でも、誰かに納得されなくてもかまわない。他人の理解なんて必要ない。
  青春に意味なんてない。理屈なんてない。王道も、邪道もない。
  絵理が走ると決めたこの道が、絵理の青春だ。

「決着をつけにきたわ。これまでの決着を」

  『これ以上チェーンソー男の犠牲は出さない』という戦う理由は、いくつもの出会いのせいで少し変わってしまったが、それでももうこの足は止まらない。
  決着を付けに来た。
  チェーンソー男と『    』に打ち勝つことで、この戦いの幕を引く。
  死にたがりの青春が走り出す。
  眼が眩むほどの巨大で強固な絶望に向かって。





  チェーンソーが再び唸り声を上げ、ぎゃんぎゃんぎゃりぎゃりと地を駆ける。
  軌道の見切りやすい、右下からの斬撃だ。
  もうへっぴり腰は治っている。絵理はまるで柔道の受身のように体を回してチェーンソーとは逆側へと避ける。
  体勢を立て直しながら太もものガーターリングに手を伸ばす。ナイフはもう一本しか残っていない。この一本は、確実なとどめの瞬間まで取っておく必要がある。
  目に付いた賽銭箱の残骸といくらかの小銭を拾い、がむしゃらにそれをチェーンソー男目掛けて投げた。
  プロ野球選手にも引け劣らない速度で放たれた小銭と木片がチェーンソー男にぶち当たる。
  だが、絵理だってその程度で彼を止められるとは思っていない。

  チェーンソー男が絵理の即席散弾攻撃に対応している間に少しだけ距離を取り、手水鉢に置いてあった柄杓を二本引っつかむ。
  振り返れば、もう目の前までチェーンソー男が迫っていた。
  手水鉢を足場にして、チェーンソー男の頭上目掛けて飛び上がる。と同時にチェーンソーが横一文字に振りぬかれ、絵理の真後ろにあった手水鉢を真っ二つにたたっ斬った。
  ぎゃんぎゃんぎゃりぎゃりという音とともに、手水鉢が上下で半分に切り分けられる光景は、おぞましくもあり、けれどもなんだか馬鹿らしくもあった。
  そのままくるんと空中で体を回し、姿勢を低くしたまま着地。と同時に、ナイフと同じ要領で柄杓を投げる。
  手水鉢を斬り終わって振り返ったチェーンソー男は、やはり当然のようにその二本の柄杓をチェーンソーで迎撃した。
  それがナイフなら、チェーンソー男の超人的な技量によってまったく同じ軌道で絵理の方に跳ね返されていたことだろう。
  だが、今回投げたのは竹製のかなり細身の柄杓だ。そんなものをチェーンソーで迎撃すれば当然切断してしまう。
  切断された柄杓が上空に放り出され、そのまま落下。かぽんかぽーんと小気味のよい音を立ててチェーンソー男の頭の上に降り注いだ。
  別にチェーンソー男を馬鹿にしたかったわけではない。時間を稼ぐために『迎撃』を誘い出したかっただけだ。
  チェーンソー男が迎撃していた間に、絵理はすでに目的を達成している。

  迎撃が行われる数秒の間に絵理が手に取ったのは、殺人鬼が残したまま消えてしまったチェーンソーだった。
  マ剣や『絶望』やそれ以上の力に期待したわけではないし、そもそも絵理はチェーンソーの使い方がわからない。
  だが、太ももに残ったナイフ以外で唯一の武器として使えそうな武器だ。倒したいならこれも使うしかない。

「こ、んのっ!!」

  ハンマー投げのようにぐるんと一回転して助走をつけ、チェーンソーを投擲する。
  チェーンソーはぐるぐると回転しながらチェーンソー男の胴体目掛けて飛んでいった。    
  勢いは十分。当たれば大事な骨の一本や二本はへし折ってしまいかねない攻撃。
  だが、チェーンソー男はやはりその超人的な身体能力で体をねじり、飛び上がり、走り高跳びのようにチェーンソーを飛び越え、そのまま石畳で削りながら走り出した。
  逃げなければ。
  そう思っても、咄嗟に体は動かない。体はチェーンソーを投げた際の遠心力に引っ張られたまま、バランスは即座には立て直せない。

  チェーンソーが下から上へ、絵理の体の真ん中を通るように振り上げられる。
  無理やり上半身をそらすが、チェーンソーの刃は無慈悲にも絵理の体に食い込んでいた。
  ぎゃんぎゃんばりばり音を立てて、絵理の体が、縦に半分、真っ二つに割られる。
  そして絵理はチェーンソーを降りぬかれた勢いで、上空に跳ね上げられてしまった。
  視界の端には、絵理の未来を示すように、真っ二つに切り開かれ端々が血に濡れた鎖帷子が映っていた。



  やっぱり粗悪品じゃ駄目だ。
  それ見たことか。鎖と呼ぶには弱すぎる。
  一振り受ければ見てのとおり、真っ二つのバラバラだ。

「……まだ、まだ!」

  だが、立ち止まってはいられない。
  跳ね上げられた勢いそのままにくるりと宙で一回転し、着地をこなして前を向き、疲れ知らずの両足に力を込める。
  武器はないけど。
  勝ち目もないけど。
  どうすればいいかなんてわからないけど。
  それでも走るしかない。
  走り続けるしかない。
  血が流れても。
  傷が傷んでも。
  力が続くなら走るしかない。
  青春ってのはそんなもんだ。
  一山いくらの高校生、雪崎絵理の青春だって、結局、がむしゃらに走り続けるものなんだ。
  どこまで?
  無論死ぬまで。もしくは満足するまで。
  立ち止まってしまったあの日から、未来に辿り着けるまで。
  絶望を乗り越えると決めた青春が、輝き出すその日まで。
  走って、走って、走り続けて、ゴールテープを突っ切って。
  千年の冬を突き抜けて、あの日霧の向こうに消えた青い春が始まるまで。

  目の前に広がる海より広い絶望を、助走をつけて飛び越えろ。
  迫る鈍色の波音。エンジン駆動の潮騒。砕ける飛沫は鉄の爪。
  世間の荒波が、この世界を満たす大渦が、絵理を飲み込もうとしたって。
  怖気づいて、立ち止まったらそれで終わりだ。

  蹴りをつけろ。蹴りをつけろ。何度も何度も心が叫んでいる。
  心の叫びを受け止められなかった、耳をふさぎ続けた根性なしな絵理はもう居ない。



『鎖帷子だ!!』

  直感が叫ぶ。

『脱ぐんだよ!! 脱いで捨てればいい!!』

  的外れな直感。
  びっくりするほど鈍感で周囲の見えていない、まるで山本のような直感だ。
  脱いでる隙に攻撃されたらどうするとか、脱いだあと何になるとか考えられてない。

  だが、あえて従うことにした。
  ロマンチストになったつもりはないが、それでも、その直感はチェーンソー男と戦ってきた絵理の直感でもある。
  信じる根拠なんて、その程度でかまわない。
  上段から唐竹割りに振り下ろされたチェーンソーを急ブレーキで避け、一歩バックステップして追撃もかわす。
  同時にジャケットごと鎖帷子を脱ぐ。多少上半身の動きは楽になったが、それで何が変わるというのか。

『持ってちゃ駄目だ、邪魔だから! 投げろ! 投げちゃって! ほら、ぽいって!』

  直感が叫ぶ。くだらない言葉を、まるで警鐘のように何度も何度も。
  言葉に導かれるように、体が動く。
  これまでの戦いで見せた力強い投げではなく、非力な女の子みたいな下投げで、チェーンソー目掛けて鎖帷子を放る。
  チェーンソー男は知ったことかといわんばかりに、鎖帷子ごと絵理を斬ろうとまたチェーンソーを振るった。
  横薙ぎの一線が鎖帷子を跳ね除ける。その勢いに、絵理も思わずバランスを崩し、こけてしまう。

  どるん、どるん、どるん。

  こけた衝撃から立ち直れば、絵理のちょうど真上に、チェーンソーが構えられていた。
  万策尽きた。最期の審判の時が来た。
  あとは、絵理に向かってあのチェーンソーが振り下ろされ、ぱかっと頭を割られれば、それでこのお話は終わりだ。

  ――がが、が

  だが、絵理の悲鳴よりもさきに、チェーンソーが異音をあげた。
  異音に不意を突かれ、絵理も、チェーンソー男も、揃って異音の元へと視線を注ぐ。
  見れば、鎖帷子の無数の鎖がうまいことチェーンソーの刃に引っかかってしまったらしく、鎖帷子がチェーンソーの露出していない部分に巻き込まれていた。

  どぅるん、どぅるん、ど、ど、ど―――が。

  切り崩せない量の鎖帷子を巻き込んで、チェーンソーの回転が止まる。
  途切れないと思った足音が、ついに止まる。
  いや、止めた。
  絵理があの日以降に手に入れたこれっぽっちの『幸福』が、痛みを伴う絶望の連鎖を止めたのだ。
  その程度の幸福でも、絶望の足音は、『世界に悲しみをもたらす悪の怪人』は止まるのだ。
  頭の中に響いていた山本によく似た短絡的な直感は、知ってか知らずか、絶望への特効薬を差し出していたのだ。



  振り上げられた最後の審判は、振り下ろされない。
  理解したその一瞬。
  足は勝手に動いていた。
  絵理は絶望と向き合い、立ち上がり、歩き出していた。
  立ち上がった勢いでむき出しの心臓に向けて、太ももにつけたままだった最後のナイフを突き出す。

  一撃を繰り出すその刹那、フードの向こうの顔と目が合った。
  男なのか女なのか、妙齢なのか若年なのかも分からない顔。
  しかし、最後の瞬間だけは違っていた。見覚えのある顔をしていた。
  絵理の父の顔。
  絵理の母の顔。
  絵理の弟の顔。
  そして、泣き出してしまいそうなままの今より少し幼い絵理の顔。
  チェーンソー男は……あの日以来絵理の世界の真ん中だった存在は、あの日のままの『    』は、そんな顔をしていた。

  突き刺さる一撃。
  その一撃は決別ではない。
  その一撃は、踏破。遠いあの日を乗り越える一撃。
  ナイフ越しにチェーンソー男の心臓が、大きく脈打つ。




  チェーンソー男の心臓が一度大きく跳ね、そして体を巻き込んで爆ぜた。
  同時にチェーンソーも爆発し、あたりに鎖帷子の破片がばら撒かれる。
  空中の何かが遊爆を起こし、強い力が渦巻く。
  青白かった夜の神社の真ん中に、眩い橙色の光が生まれ、天に昇っていく。
  まるで『憑き物が落ちた』ように、チェーンソー男の纏っていた強大な力が天に登っていく。

  絵理には到底理解できないその力。
  それはきっと、魔力と呼ばれていたもの。
  それはきっと、『チェーンソー男』を……絵理がずっと戦ってきた何かを聖杯戦争に繋ぎとめていた鎖。
  そしてそれはきっと、数ヶ月間絵理に生きる希望を与えてくれていた後ろ向きな幸せの鎖。
  前を向いて歩いていくと決めた絵理にはもう必要ない、絵理がばらばらになってしまわぬように絵理という形に保ってくれていた鎖。

  ぐらりとチェーンソー男の体が揺らぐ。
  眩暈でも起こしたように、頭を抱えて体を捩じらせ。
  そして、月に上っていった魔力を追うように、空へ向かって飛び上がっていった。
  絵理が見上げても、すでにそのありきたりなホラー映画の悪役みたいな姿はない。
  まるで夢か幻かのように、さっぱり消えてしまっていた。
  いつもとは違う、まるで本当に消滅してしまったかのような消え方。
  だが、絵理は知っている。
  不死の怪人は死なない。
  チェーンソー男が死ぬことはない。
  絵理があの日出会った『    』は、決して消えることはない。
  死んだように見せかけて、消え去ったように見せかけて、再びどこかに姿を隠すだけだ。
  そしていつまでもいつまでも、絵理を殺す機会を伺い続けるだろう。

  それでも、絵理にはわかっている。
  少なくともチェーンソー男がこの先現れることはきっとない。
  夜が来ようと、絵理が危ない目に会おうと、
  雪崎絵理が再び『この世には悲しみの原因たるチェーンソー男が居るのだ』なんて馬鹿なことを思わないかぎり、きっと。
  雪崎絵理が『    』に打ち勝って、後ろ向きな幸福に憧れず、前を向いて世界と戦い続けているかぎり、きっと。

「さよなら、チェーンソー男」

  言葉が夜の風に乗って消えていく。
  チェーンソー男が吸い込まれていった先。
  霧の晴れた夜空の向こうでは、今にも落ちてきそうな満月が駆け抜けた絵理の青春たちを見守っていた。

「さよなら、私の青春」

  絵理はもう一度だけ、夜空の向こうに消えてしまった死にたがりだった青春にさよならを告げて。
  そのまま天を仰ぐように仰向けに倒れた。


【チェーンソー男  打倒、もしくは踏破(実質的脱落)】





「はは、痛いなあ、もう」

  縦に切り裂かれた傷口の傍を撫でる。血はもう止まっていた。
  真っ二つだったところが、鎖帷子のおかげで皮一枚からもう少し程度でチェーンソーの刃を防げたらしい。
  防御力1.65倍。成程、馬鹿には出来ない。
  それでも胸に縦真一文字の傷跡が出来てしまった。時が経てば目立たなくなるだろうが、お嫁には行きにくい身体になってしまった。

「でも、さ」

  体力はもうかけらも残っていない。
  人間離れした身体能力も、チェーンソー男とともに手放してしまったらしい。
  体がだるい。そして鉛のように重い。もうバク宙なんて絶対にできないだろう。
  でも、この地に足ついた体の重さは、絵理も嫌いじゃなかった。

「上出来、じゃないかしら」

  チェーンソーの炸裂に巻き込まれて破裂した鎖帷子の鎖を一つ拾い上げる。
  もし、チェーンソー男を倒したといえば、山本はなんというだろうか。
  「あれに勝てるのかよ」と驚くだろうか。「なんで置いてくんだ」と怒るだろうか。
  「どうやって倒したんだ」と聞くだろうか。「一人で行くなんて、危なすぎる」と呆れるだろうか。
  たぶん全部だ。
  驚いたり、怒ったり、呆れたりしながら、二人でずっと話すんだ。
  もう戦うこともないのに、二人で集まって、あの日は危なかったとか、あの日は死んだと思ったとか、話すんだ。
  冬の寒い日に、あの日以来のお鍋を食べながら。
  そしていつか。
  この一風変わった青春も、昔のことになるんだろう。
  二人揃っての命がけの日々も、笑い話になる日が来るんだろう。

「……会いたいなあ、山本くんに」

  口元が緩んでいるのが分かる。自然に笑みがこぼれていた。
  笑顔のおかげでようやく分かった。
  雪崎絵理は、きっと、乗り越えられた。
  あの日の『    』を泣きながら受け入れるのではなく、涙を拭いて乗り越えられたんだ。

  ちぎれた鎖を、指輪のように指に重ねてみた。
  空に透かせば、月の光が、指輪にあしらわれた宝石のように輝いていた。
  なんだか、ちょっとだけ大人になれた気がした。
  何者にも遮られない月明かり。歪に残った青春の欠片。
  死にたがりの青春を一歩踏み越えた絵理への、世界一の贈り物だ。





「どう?」

「死んではいねえな。気を失ってるみたいだ」

  ハートの女王を倒し、いつの間にかロンドンの市街から元通りの様相へ戻っていたさいはて町を歩いていたシルクちゃんたちの耳に届いたのは戦闘を知らせる音だった。
  音を頼りに駆けつけてみれば、一人の少女がサーヴァント(バーサーカー)と争っていた。
  少女のほうはどうやら肉体強化系の魔術か宝具が付与されているらしく、まさに人間離れした大立ち回りを繰り広げ。
  そしてバーサーカーを倒したと同時に少女の身に影響を与えていた宝具も消え去り、後には気絶した少女だけが残った。

  少女が月にかざしていた手が力をなくして倒れたのを見計らい、シルクちゃんたちは彼女に近寄り、様子を確認する。
  少なくともランサーが近くに魔力の反応を感じていない以上、導き出せる結論は『彼女が自身のサーヴァントを自身のサーヴァントの宝具で倒した』ということくらいだ。

「にしても、おかしな話だな。ってことはつまり、自分のサーヴァントと戦ってたってことか?
 なんでそんな意味のないことをやってたんだ」

「誰かにとって意味が無いから、いいんじゃないか」

  彼女に何が起こっていたかはシルクちゃんにだってわからない。
  それでも、彼女にとっては意味があることで、達成感や満足感があることだったはずだ。
  横たわっている少女の笑顔が語っている。『何者にも理解できない、余計なものを手に入れた』と。

「無意味で無価値でくだらないけど最高のエンディングだよ、彼女にとっては。きっと、ね」

  散らばった鎖の欠片を一つ、預かっていく。決して今の彼女の笑顔を忘れないように。
  いつか。もし、シルクちゃんが復讐を遂げて……いつかの未来に忘却の彼方から『世界』を取り戻せたならば、彼女もその世界に残したい。純然たる『余計なもの』として。そう思ったからだ。

「じゃ、終わりだ」

  拾い上げた鎖の欠片をポケットに入れ、シルクハットを深くかぶり直す。

「感傷に浸るのは終わりだ。都合のいいことに、どっかの一組が勝手に脱落してくれた。
 彼女がどんなエンディングに辿り着いたとしても、私たちにとっては、それだけで十分だ。
 少なくともまだ二体居る。バネ足ジャックか、ここの主か。どっちか、倒しに行こう」

「そいつぁいい。丁度、消化不良だったんだ」

  階段を下りる前、シルクちゃんは後ろ髪を引かれるように、一度だけ、神社の方を振り返った。
  やはり心のどこかでは少しだけ、彼女をうらやましく思っているのかもしれない。
  シルクちゃんの戦いはまだ始まったばかりで、当分素敵な結末も見えそうにない。
  彼女のように笑える日が、いつかシルクちゃんにも来るのだろうか。

  そんな些末な思いを乗せながら眠っている少女の姿を一度だけ確認すると、シルクちゃんはまた何事もなかったかのように歩き出すのだった。



【???/さいはて町 神社/一日目 夜】

【シルクちゃん@四月馬鹿達の宴】
[状態]魔力消費(大)、魔力回復中
[令呪]残り三画
[装備]魔法の羽ペン
[道具]マツリヤの名刺、古ぼけた絵本、ぬいぐるみ、鎖帷子の欠片
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、復讐する。
1.さいはて町に興味。『バネ足ジャック』とさいはて町のサーヴァントを打倒?
2.探索が終われば、一旦帰還する。
4.フェイト・テスタロッサに対しては――
5.ルーラーへの不信感。
6.時間があれば『本』について調べる。
[備考]
※アサシン(ウォルター)を確認しました。真名も特定しています。ただしバネ足ジャックとしての姿しか覚えていません。
※偽アサシン(まおうバラモス)を確認しました。本物のアサシンではないことも気づいています。
※フェイト・テスタロッサを助けるつもりはありません。ですが、彼女をルーラーに突き出すつもりもありません。
※令呪は×印の絆創膏のような形。額に浮き上がっているのをシルクハットで隠しています。
※出展時期は不明ですが、少なくも友達については覚えていません。
  例の本がどの程度本編を書いているのかは後の書き手さんにお任せします。
※魔法の羽ペンは『誰かの創った世界』の中でのみそうぞう力を用いた武器として使用できます。それ以外ではただの羽ペンと変わりありません。
※『ハートの女王様』を倒したので、古ぼけた絵本とぬいぐるみを手に入れました。


【ランサー(本多・忠勝)@境界線上のホライゾン】
[状態]魔力消費(中)
[装備]『蜻蛉切』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:主の命に従い、勝つ。
1.さいはて町散策。
2.『バネ足ジャック』ともう一戦交えたいが。
3.鹿角に小言を言われちまうな、これは。
[備考]
※『バネ足ジャック』の真名を知りました。
※宝具『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』である鹿角は、D-7の奉野宅に待機しています。



☆エンブリオ


「やってくれるよ」

  その一言が、今のエンブリオの感情の大部分を表していた。
  彼女が見上げているのは、『近づいてはいけない場所』と呼ばれていた場所だ。
  ただし、もともとそこにあったはずの傾いた微笑みの像はどこにも見当たらない。
  その代わりに、代わりというには大きすぎる古めかしい時計塔が聳え立っていた。

「好き勝手に書き換えられてる。気分がいいもんじゃない」

  侵入者の宝具によって展開されたロンドンの街並み。
  それは侵入者が宝具の解放をやめれば自然と消えるはずだった。
  事実、立ち込めていた霧とほぼすべての建物は、さっさと消え去ってしまった。
  ただ一つ、時計塔だけを残して。

「やんなるなぁ、これ。景観ぶち壊しだよ」

  『近づいてはいけない場所』に聳え立つ時計塔。
  このさいはてで最も罪深い場所に現れた誰かのために鐘を鳴らす場所。
  その建物の持つ意味を、エンブリオはまだ知らない。

「で、君はこんなところでなにやってるの」

  時計塔の下、押しても引いても開くことのない入り口のすぐ横。
  どこから用意したのか屋台を引いてきていた番人・金に汚い天使に声をかける。
  金に汚い天使は細い目の端を下げてどこか誇らしげに笑いながらこう言い切った。

「折角ですしここを新名所にしようかと」
「別にいいけど、ここもともと『近づいてはいけない場所』だし今も瘴気出てるから観光客は来ないと思うよ」
「なんですと」



  屋台に大量に詰まれた『さいはて銘菓 時計塔饅頭』を前に呆然と立ち尽くす金に汚い天使を見ながら考える。
  『やってくれる』と言ったのは時計塔についてだけではない。
  時計塔の出現と前後して、用意していた番人・チェーンソー殺人鬼の消滅を確認した。なんとなくそう感じた。
  それもまた侵入者の仕業だ。時計塔の宝具と同一人物かは分からないが、脅威がさいはてに残っていることに変わりはない。

「それで、チェーンソー殺人鬼が負けちゃったんだけど」
「ふふふ、チェーンソー殺人鬼がやられましたか……まあ、彼は番人の中では私より強力……
 あれ、もしかして私ヤバいんじゃないですか」
「そりゃあまあねえ」

  金に汚い天使はマホウこそ使えるが、全てのスペックでチェーンソー殺人鬼を下回っている。
  その殺人鬼が倒されたとなると、相手は金に汚い天使を遥かに凌ぐ力を持っているに決まっている。
  もし殺人鬼を倒した人物と金に汚い天使が出会って戦うことがあれば彼女も即座に倒されてしまうだろう。

「一日目からこれっていうのはちょっときついなあ」

  侵入者が現れることは想定内だ。だが、チェーンソー殺人鬼があっけなく倒されることまでは考えていなかった。
  正直、敵の力量を下に見ていたかもしれない。あるいはさいはての住民たちを高く買いすぎていたかもしれない。
  子供向けの戦隊物番組じゃないんだから、ご丁寧に番人を一体ずつ向かわせる必要はない。相手の力量に合わせて囲んで棒で叩くべきだったのではという後悔も、今となっては意味がない。
  そして追い討ちのように、チェーンソー殺人鬼が二度と出せないように彼の存在の上に何かが塗りつぶされている。
  単なるノイズならまだしも一度完全に倒された『特殊なキャラクター』は二度と現れない、さいはて町での自然の摂理だ。まあ金に汚い天使のように例外も居るが。

「どうするかなあ、本当」

  ヨウスケとトオルが出せないのはまあなんとなくわかっていたが、昼食会のメンバーすら出せないというのは完全に予想外だった。あれから数時間経つのにいまだにショックが抜け切れていない。
  とりあえず出しておく必要があるからいずれ追加はしておくが、開拓者と昼食会という選択肢無き今呼び出せる番人はかなり数が限られている。
  その上更に一度出した番人は二度と再利用することが出来ないとくると、今後は出す順番や出す人数など戦略を立てていく必要があるだろう。

「はあ、何の因果でサーヴァントになってまでこんなやりくりしなきゃならないのか」
「大変ですねえ。お饅頭食べます?」
「じゃあ一個もらおうかな」
「えっ、じゃあ3000Gです」
「……」

  生意気な番人をぽかしと叩き、顎に手をやり考える。
  侵入者は依然さいはて内をうろついているとみて違いない。きっとこれから先も町中で好き勝手に暴れていくだろう。
  タイミングの悪いことに玲もさいはてに帰ってきたらしい。
  町を守らなければならない。玲も守らなければならない。侵入者にはさっさと出て行ってもらって、いつかの未来が来る日まであの日のままのさいはてを営み続ける。
  やるべきことはいくつもある。
  しばらく休んだことで魔力が少しは回復したが、ここから先にはまだまだ困難が待ち受けていそうだ。
  エンブリオは、ひったくった饅頭を食べながら行動の優先順位を整理し始めた。



【???/さいはて町 時計塔前/1日目 夜】

【エンブリオ(ある少女)@さいはてHOSPITAL】
[状態] 魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもりながら玲を見守る。
1.さいはて町の守護者を作り、さいはて町を破壊から守る。
2.玲が緊急事態に陥った場合はさいはて町から出るのもやぶさかではない。
[備考]
※『金に汚い天使@さいはてHOSPITAL』を召喚しました。現在、特に指示は出していません。強さはチェーンソー殺人鬼よりも弱いぐらいです。
※紳士の昼食会を召喚することは出来ませんでした、原因は不明です。
※一度倒された番人の再生産は出来ません。現在倒された番人は『チェーンソー殺人鬼』です。



[地域備考]
※さいはて町まんなか区近づいてはいけない場所にあったEX【不思議の国のアナタ】が消滅し???【時計塔】が現れました。
 現在は入ることはできません。いつか入ることができるようになるかもしれません。
 入り口付近で名物時計塔饅頭が売られていますが、外の包み以外は普通の饅頭です。
 騙されないように注意しましょう。ストップ詐欺被害。
※さいはて町しらぬい通りあたりに漂っていた霧が晴れました。





  る、る―――

  歌が聞こえる。
  誕生を祝う歌が。
  退院を祝う歌が。
  再起を祝う歌が。

  り、ら、り―――
  らら、りら、り―――
  凍りついた霧の結晶が地面に落ちて溶けていく。
  溶けた雪が水になり、月の光を浴びて鏡のようにきらりと輝く。

  月下にふわりと人形が舞い降りた。鏡の世界の向こうから、宝物を探しに。

「素敵な笑顔」

  散らばった青春の残骸を踏みにじり、眠り続ける絵理に歩み寄っていく。

「そのまま、幸せな夢の中で眠り続けましょう」

  白い薔薇の茨が絵理の身体を包み込む。
  そして、霧の生み出した水滴の鏡面に、彼女を引きずり込んだ。

「おやすみなさい、いい夢を」

  りり、らら、り―――

  歌を聞き届けるのは魂を持たない二体の裁定者。二体は、再びどこかへ消えていく。
  駆け抜けた死にたがりの青春を踏みにじり、自分勝手な殻の中へ。

  る、らら、るるる。

  ついにずっと引きずっていた昨日を乗り越え、明日へと歩き出した少女。
  少女はこれから先、ずっと幸福な明日の夢を見続ける。
  チェーンソー男を倒してからの『めでたしめでたし』の先にある、そうなっていたかもしれない世界の夢を。
  目覚めることのない眠りの中で。
  いずれ肉体を失い、魂を失い、完璧な少女の血肉として世界から消えるその時まで。




―――「さようなら、私の青春」
     少女は青春を乗り越えて大人になる代わりに、少女ではいられなくなりました。
     そうしてかつて少女と呼ばれていた子は、少女たちだけの舞台の上には居られなくなったのでしたとさ。
     めでたしめでたし。


【雪崎絵理 脱落】

BACK NEXT
032:友情に火を点けて - Friendly Fire - 投下順 034:もう一度、星にひかれ
041:崩壊ウォッチ 時系列順 035:宣戦布告

BACK 登場キャラ NEXT
029:少女たちの青春診療録 雪崎絵理 GAME OVER
026:ALL HAZARD PARANOIA バーサーカー(チェーンソー男
031:さいはて町に鐘が鳴る シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝 037:思い出が窮屈になりだしたこの頃の僕らは
024:きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの エンブリオ(ある少女
030:ティー・パーティーをもう一度 ルーラー(雪華綺晶 048:―――を斬る
人工精霊(ファヴ

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最終更新:2020年06月28日 00:29