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帰宅  ◆2lsK9hNTNE


夜の歩道に風が吹いた。酷く冷えた気がしてさくらは手に息を吐きかけた。
季節は春だ。そんなに風が冷たいはずもないのに寒気がする。たぶん恐怖によるものだろうと思う。
朝の薔薇のアーチャーに始まり、屋上での白いランサーとの戦い。それに喫茶店で突然暴れだしたバーサーカー。
一歩間違えば死んでしまうような状況ならクロウカードのときにもあった。
だけど、クロウカードのときは、死んでしまうことや痛くなることは怖かったけど、カードそのものを怖いとは思わなかった。
サーヴァント達は違う。怖かった。訳の分からない理由で戦うアーチャーが、理由もわからず襲ってきたランサーが、湧き出す怒りをぶつけるかのように暴れるバーサーカーが。怖くて怖くてたまらなかった。

(殺気……なのかな)

今朝セイバーが、薔薇のアーチャーがこちらに飛ばしていると言っていたもの。カードになくてサーヴァント達にあったもの。人を殺そうという感情。
さくらだってもう小学四年生だ。世の中にはそういう感情が存在していて、殺人というものが行われているのは知っている。
けれどそれはどこか現実離れした響きで、物語の中のことのように感じていた。ましてや自分がそんなものに関わることになるなんて夢にも思っていなかった。

(知世ちゃん……)

浮かんだのは親友のこと。令呪を奪われたマスターがどう扱われるか、さくらにも想像がつかないわけじゃない。
彼女にもあんな感情が向けられていたら、あるいは実際の行動としてそれが行われていたら。
それを思うとさくらは今日一番の恐怖に襲われる。

「大丈夫だよ」

まるで心を読んだようなタイミングだった。
あいはそう言ってさくらの両手を握った。

「信じてさくらちゃん、知世ちゃんは絶対大丈夫だよ。だからわたしたちで助け出そう」
「ありがとう、あいちゃん」

手の肌が触れ合い、彼女の熱が伝わってきた。それだけで少し気持ちが落ち着いた。
あいは優しく微笑んで、ステップするように身体を反転させた。
後ろ手に手を組み、空を見上げて前を歩く。一時は土砂降りだった雨も今はもう止み、夜空には星が光っている。
あいは呟いた。

「さくらちゃん、明日知世ちゃんを探すの、白いランサーさんにもお願いしてみない?」
「え」

その提案はさくらにとって悪いものではなかった。
小学校で会ったときこそ恐ろしかったが、喫茶店で見た白いランサーはとても悪い人には見えなかった。
アサシンのことも詳しいようだし、もし彼女に手伝ってもらえるならきっと頼りになる。

「でも、いいの?」

白いランサーのことを本当に心の底から信頼できるかはまだわからない。
いい人そうに見えたからといって、小学校での一件は忘れられない。
さくらはそれでもいい。知世を助けるためなら危険かもしれない人とだって一緒にいられる。
だけどあいは。
彼女にランサーに対する怯えの気持ちが少しでもあるのなら無理はしてほしくなかった。
あいは俯いて小さな声で呟いた。

「本当はね……まだ少しだけ怖いの」
「だったら――」
「でも」

遮って、あいは振り向いた。

「さくらちゃんのためだと思うと勇気が湧いてくるの。無理してるわけじゃない。心の底から力が湧いてくるの。
白いランサーさんのことは、本当はまだ少し怖い。でも信じたいって思ってる。
わたしだけだとまだ会うのは怖い。だけどさくらちゃんが一緒なら大丈夫。
だからこれは私からのお願い。さくらちゃん、私と一緒にランサーさんに会ってくれない?」
「もちろんだよ、あいちゃん」
「ありがとうさくらちゃん」

あいがもう一度さくらの手を握って微笑んだ。

『私は反対です』

そう言ったのはセイバーだった。
彼女は戦いの傷を癒やすため、霊体化している。今の言葉も念話で伝えてきたもので、あいには聞こえていない。

『友のために逸る気持ちはわかりますが、ランサーは一度は我々を襲ってきた相手。迂闊に接触するのは危険です。
さくら、もしあなたに何かあれば知世を救える人は誰もいないんですよ』
「それは……」

それは正しい言い分なのだと思う。反論の言葉も出てこなかった。
だが、知世のためとか、そういうのとは別のところでセイバーの言葉にはどこか認めたくないものがあった。
しかしそれがなぜなのかわからず、さくらは口を閉ざすしかなかった。

「セイバーさんが反対なの?」

あいも状況を察したようだった。
頷くと、セイバーがいる位置を適当に見当つけてか、さくらの横に目をやって言った。

「セイバーさん、セイバーさんが反対する気持ちもわかる、わたしやさくらちゃんのことを心配してくれてるんだよね。
だけどね、わたし思うの。疑わしいからって信じないでいたら、きっと誰とも仲良くなれないって。
盾子ちゃんも言ってたでしょ。せっかく会えたのに疑ってばかりじゃそんなの悲しい」

その言葉は聞いてさくらは自分の感情がわかった。そうだ。信じたいのだ。
知世を助けるためにリスクを恐れないとかそういうこととは別に、ただ白いランサーのことを信じたかったのだ。いい人に見えたから。

(凄いな、あいちゃんは)

今回だけではない。
彼女はいつだってさくらが言いたいこと、聞きたいことを言ってくれる。それにさくらはずっと助けられてきた。
彼女がいなかったらきっと自分はとっくに挫けていただろう。

「セイバーさん」

さくらはあいのように上手く言葉にできない。
だから呼びかける声に自分の感情を乗せる。心からの思いを込めて、その名前を呼ぶ。
短くない間が空いたあと、セイバーは嘆息混じりに言った。

『お二人の気持ちはわかりました。しかし私の考えに変わりはありません。白いランサーと接触するのは反対です。
一先ず策を練るのは明日に回しませんか。今日はお二人とも色々あって疲れたでしょう。
疲労した頭で考えた策というものには、自分ではわからない落とし穴があったりするものです』

その言葉をさくらがあいに伝えると、彼女もその提案を飲んでこの話は終わった。
何気ない話をしながら歩き、自分の家が目に入ってさくらは指差した。

「あれがわたしの家だよ」
「へえ、さくらちゃんって素敵なお家に住んでるのね」

自分にはあれが普通で、素敵と言われてもピンとこない。でも褒められたことは素直に嬉しかった

「ありがとう。でもね、知世ちゃんの家はもっと素敵なんだよ。
お庭もこんなに大っきくて、お屋敷の中もとっても綺麗で……」

身振り手振りを交えていかに魅力的かを説明する。
途中で言葉に詰まったりして、あまり上手くはできなかったが、あいは何も言わずに黙って聞いてくれた。

「……今度、一緒に遊びに行こう」
「うん!」

今度と言うのがいつなのか、アサシンから知世を取り戻せたときなのか、聖杯戦争が終わったあとなのか。それはわからない。
ただ未来のことを約束したかった。そう遠くない、明るい未来の約束。
話はそこで途切れた。だからこれでもう終わり。あとは別れるだけだった。

「それじゃあわたし、もう行くね」
「送ってくれてありがとう。あいちゃんは一人で大丈夫?」
「うん、わたしの家もここから近いから」
「そっか、それじゃあまた明日。おやすみなさい」
「おやすみなさい。また明日」

あいは背を向けて歩き出し、その姿が徐々に遠ざかっていく。その姿が夜の闇に消えて見えなくなるまで、さくらは見続けた。

「行こっか」

セイバーに声をかけて振り返る。丁度そのとき家のドアが開いて、出てきた人間と目があった。兄だった。服は所々裂け、顔には小さな傷がいくつもついていた。

「どうし――」

言いかけて気づいた。学校が終わったら一緒に帰る約束をしていたことを。血の気が引く思いだった。
知世のことが心配なあまり忘れてしまっていた。
今この街で子供が行方不明になることがどれだけ心配をかけるか、わかっていたはずなのに。
服や顔の傷はどこを探してついたものなのだろうか。

「ごめんなさい!」

謝って済む問題ではない。だけどこれしか言うことが思いつかなかった。頭を下げてギュッと目を瞑る。
こっちに近づいてくる足音がする。頭の上に手が置かれて、さくらはビクリと肩を震わせた。
兄が怖いのではない。ただ申し訳なくて居た堪れなくて、顔を上げられない。
兄の表情が見えない中、声だけが頭上から降ってきた。

「怪我とかないか」

その声があまりのも優しくて暖かくて。
さくらは堪えきれなくなった。
薔薇のアーチャーに襲われたときも、白いランサーに襲われたときも、知世がいなくなったときも、バーサーカーが暴れだしたときも、さくらはずっと泣かなかった。
泣いたら泣き続けてしまうような気がして、立ち上がれなくなるような気がして。
頭で考えたわけではない。無意識にそう思っていた。
ずっと気を張っていた。足を引っ張りたくない人がいたから。守りたい人がいたから。

さくらは桃矢の足に縋り付いて、泣き叫んだ。


近頃物騒な事件が度々起きているせいか、まだそれほど遅い時間でもないのに周囲にはひと気がなかった。
人がいない世界はそれだけで色あせて見える。比喩ではない。蜂屋あいにとって人がいる世界はそれだけ色鮮やかなのだ。

さくらにランサーを頼るという考えは与えておいた。
セイバーの邪魔で決定にまでは至らなかったが、明日誘導するのは難しいことではないだろう。
あいの目当ては江ノ島盾子だが、さくらに言った言葉も嘘というわけでもない。

白いランサーはいい人だ。
心の色や喫茶店の言動からしてまず間違いない。
さくらとセイバーは小学校での一件が後を引いているようだったが、あれは間違いなくあいだけの命を狙ってのものだ。
そしてあいの命を狙ったからとって、いい人ではないということには全くならない。

ただ白いランサーが印象通りのいい人だとした場合、一つだけおかしな点がある。
あいがまだ生きていることだ。
彼女に襲われたとき、あいはさくらが助けてくれることを見越して、自分から屋上を飛び降りた。ランサーの裏をかくために。
ランサーに心を読む能力があるならあいはあのとき作戦を読まれて死んでいたはずだ。

ではなぜ生きているのか。読心能力というのが嘘なのか、あるいはわざと取り逃がしたのか。
前者は喫茶店でランサーから受けた印象からしてありえない。後者は関しても屋上でのランサーの心の色からしてありえない。
他に考えられる可能生は。

(私の心だけが読めなかった?)

そう考え、頭に浮かんだのは父の言葉。

おまえには色がない

色とは人の心そのもの。
色がない人間には心がない。
心がないなら、心の声は聞こえない。

(違う)

あいは即座に否定した。違う。そうじゃない。
あいが知る限り、人が色を失うのは心が現実に耐えきれなくなり、崩壊したときだけだ。
父はあいよりも色を見る能力が劣っていた。常時見えるあいと違って、見えるのは精神が研ぎ澄まされたときだけだ。そんな人間の言葉を真に受ける必要はない。

白いランサーがあいの心を読めなかったのはおそらく何かしらの隠された条件があったのだろう。
あいはその条件を満たしていなかったから読めなかった。そんなところだ。

(だから、そうじゃない)

あいは声に出さずもう一度否定した。




【B-2/家の前/夜】



木之本桜@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(中)
[令呪]残り三画
[装備] 封印の杖、
[道具] クロウカード
[所持金] お小遣いと5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:知世ちゃんを探す
1.知世を攫ったアサシンの手がかりを探す。
2.白いランサーに助力を求める?
[備考]
双葉杏江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)、諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)を確認しました。
 ランサー(ジバニャン)に関しては現れたのが一瞬であったため「何かが居た」としか把握できていません。


【セイバー(沖田総司)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 疲労(中)、胸部への重大なダメージ
[装備] 折れた乞食清光
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: さくらのために
1.諸星きらり、双葉杏を警戒。江ノ島盾子、蜂屋あいは……?
2.今後どう動く?
3.鞘はもう、必要ないか。
[備考]
※江ノ島盾子、双葉杏、諸星きらり&バーサーカーを確認しました。
 ランサー(ジバニャン)の魔力を確認・姿を視認していますが、形態変化した状態であったため正確な情報は掴めていません。
※二重の極みによる胸部への強いダメージによって喀血が起こりやすくなっています。時間経過で回復します。
※乞食清光は鍔から先が粉砕しています。宝具ではないので魔力を用いれば復元は可能でしょう。


【B-2/歩道/夜】


【蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている】
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ハートのクイーンのカード
[所持金] 小学生としてはかなり多めの金額
[思考・状況]
基本行動方針: 色を見る
1.江ノ島盾子に強い興味。小学校へ向かい江ノ島盾子と会う。
2.さくらの色をもっと見たい。
[備考]
※双葉杏、諸星きらり&バーサーカーを確認しました。
 諸星きらりの『色』を見ることで、今後バーサーカーの出て来るタイミングが察知できるかもしれません。
アリスが江ノ島盾子についていっているのは知っています。自身に特別危険が及ばない限りはほうっておきます。
 ハートのクイーンのカードからアリスの分身を呼び出すことが出来ますが、分身のスペックはアリスより大きく劣ります。



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最終更新:2020年07月26日 21:13