ああ、あの愛の喜びに満ちた ◆EAUCq9p8Q.
◆◆◆◆
Ah
(ああ)
bello a me ritorna
(あの愛の喜びに満ちた)
Del fido amor primiero;
(美しいときがふたたび、帰ってくれば)
E contro il mondo intiero
(あなたを、どんなことをしても)
Difesa a te saro.
(世間から守って差し上げますのに。)
Ah
(ああ)
bello a me ritorna
(あのやさしく暖かい愛が帰ってくれば)
Del raggio ョtuo sereno;
(あなたの心に)
E vita nel tuo seno,
(生命を)
Ah―― Ah――
(ああ)
E patria, e cielo avro.
(故郷を、そして天国を)
Ah…… riedi ancora……
(ああ、見出すことが出来るのでしょうに。)
◆◆◆◆
オペラ『ノルマ』の一幕、「ああ、あの愛の喜びに満ちた」。
「清らかな女神」と併せて親しまれる曲で、稀代の歌姫マリア・カラスに『世界一難しいアリア』と言われたソプラノ・アリアの傑作の一つ。
失われた愛へと向けた歌。
壇上の歌姫がその歌を選んだのは、きっと夕方に出会った少女のため。
歌姫は、苦もなく歌い上げ、喝采の中一礼を残し、舞台の袖へとはけていく。
その途中不意に立ち止まり、客席に顔を向けた。
彼女の視線の先には金髪碧眼の男性が一人と、彼がじっと見つめている少女が一人。
観客に少々のどよめきが広がるが、歌姫――ララは気にせず舞台を降りた。
いつもとは違う喧騒が起き始めた客席をすり抜け、少女へと近づいていく。
少女の側にいつのまにか立っていた珍しい格好の(現代風ではない格好の)男性が少女を庇うように一歩前に出たが、ララは彼ともまた少し見つめ合ったあと、彼越しに少女にニ三言を伝えた。
そして、観客たちに向かって騒がせたことへの一礼を残し、立ち去っていった。
岬が昨日と同じように劇場を訪れ自身の『何か』を満たすような歌に聞き惚れていたところに、その歌姫は唐突に降り立った。
観客の間を抜けて歩み寄ってきた歌姫はなぜか岬の前で立ち止まる。
「話がしたい。午後九時、裏の公園で」
岬が混乱する中、歌姫がセイバー越しに岬に伝えてきたのは確かにそんな内容だった。
岬のなにが歌姫にその言葉を放たせたのかは分からない。
岬にとってあの歌姫は、遥か天空に居るような人間だ。
とても綺麗で、輝いていて、美しくて、尊くて、そしてきっとすべての他人に愛されている。
岬とはきっと、生まれも、育ちも、何もかもが違う。
中原岬にはぽっかりと抜け落ちているものがある。それは、岬自身も自覚している。
でも、その足りないものは岬にとって大きな傷だ。触れられたくない場所で、見せたくないものだ。
あの歌姫は存在そのものが岬の傷口に余りあるほどの刃かもしれない。
正直に言えば、近づかれただけで身が凍るようだった。
緊張で心臓は馬鹿みたいに高鳴り、足は震えることも出来ない木偶の坊みたいに固まって、嗚咽がろくに回らず答えることも出来ず。
それでもすぐ隣に頼もしい姿があったから、なんとか声を掛けられた瞬間に逃げ出したりはしなかった。
歌姫が劇場から出て行った直後に岬も劇場を飛び出したが、それでも、逃げることはなかったのだから上出来だろう。
「どうする」
道を歩きながら、珍しく実体化したままのセイバーが、岬の方を見つめて問う。
昼に見せた勇者としての顔よりも、自宅で見せた勇者ではないほうの顔に近い。
服装が鎧ではないからかもしれないが、そうしているとただの青年のようだ。
「うーん、どうしよう」
昔の岬ならなんと答えていただろうか。逃げていただろうか、それとも待ち合わせに行くだけ行って、同じように身を凍らせながらただ苦笑いで過ごしていただろうか。
でも、岬はもう昔の岬ではない。今の岬には仲間がいる。
世界で唯一なにがあっても岬を裏切らない頼もしい仲間がいる。
世界で唯一、駄目で、寂しがり屋で、人間のクズみたいな岬と同じ位置に居て、足並みを揃えてくれる仲間が。
それだけで、少しだけ、心の中に溜まっていた溶かした鉛みたいな重くて粘っこくて黒い淀みは、軽くなってくれたみたいだ。
岬の心を知ってか知らずか、セイバーはやや神妙な顔で言葉を継いだ。
「俺は、あの歌姫が聖杯戦争参加者の可能性もあると思う」
「そっか」
「君はどう思う?」
「うーん……わかんないや。でも、悪そうな人には見えなかったかなぁ」
彼女の歌は、岬の心を掴んで離さない、美しい歌だった。
誰かを害する歌だったら、岬は泣いたりなんかしない。その辺に岬は、きっと、たぶん、敏感だから。
だから、岬の中では彼女は、一応は信頼に足る人物の最低条件は満たしていると思えた。
あとはもう少し話しやすい位置だったら考える必要はなかったのだが、そればっかりはどうにもならない。
少し考えて、隣を見る。セイバーはまだ神妙な顔をしていて、ちょっぴりおかしかった。
深呼吸を一度。更にもう一度。凍っていた体は随分ほぐれた。あれだけうるさかった鼓動も今はフォービート程度だ。
推定悪人ではない人物との約束を反故にするのは忍びない。
例え一方的であったとしても、約束は守るべきなのだ。
いつか、佐藤がそうしたように。(結局佐藤は最後の約束は結んでくれなかったが)
セイバーがそうしてくれたように。
あの歌姫が岬になにを求めているのかは知らないが、約束通り会いに行くくらいはしても問題ない。
問題があるとすれば、家に帰り着く時間くらいだが……
晩御飯は小劇場に来るまでに食べてきた。あとは、日付をまたいだりしなければ厳しくは言われないだろう。
この世界での叔父・叔母(NPCというらしい)に迷惑をかけることになるかもしれないが。
そもそも、元の世界でも佐藤との待ち合わせでも少し帰りが遅くなったことはあった。少しくらいは許してもらえる、と思う。
会う方に意を決し、色々と会うまでに必要な過程を整理し、一つだけ不安を覚えたので、隣に控えるセイバーに向き直る。
向き直る時に踏みしめた砂利の音はおもったよりも大きかった。
岬の口から出たのはその音に負けるか負けないかくらいの、いつもより少しだけ小さな声だった。
「セイバーさん、ここで折り入ってお願いがあります」
もう令呪は残ってない手を掲げ、願いを一つ綴る。
どうか、あの歌姫と会っている時に、私を置いて帰ったりはしないでください。
仲間が居なければ、岬はまた一人ぼっちだ。それはきっと、死んでしまうくらいに辛い。それだけは避けておきたい。
セイバーはその願いを聞いて、少し困ったような笑みで頷いたあとで、安全を確認し終えたのか再び霊体化した。
【D-3/市民劇場付近/一日目 夕方】
【
中原岬@NHKにようこそ!】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]なし
[装備]なし
[道具]カッターナイフ
[所持金]あまり使えないんです。お世話になってるから。
[思考・状況]
基本行動方針:なにを願っていたんだろう
0.寂しい
1.21時にララに会いに行く
2.悪いカバを警戒
[備考]
※ララ、悪いカバ(まおうバラモス)を確認しました。魔術については実際に目にしましたが理解が及んでいません。
【セイバー(勇者レイ)@DRAGON QUEST IV 導かれし者たち】
[状態]魔力消費(小) 霊体化中
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:岬の傍に居る
1.魔王を倒す必要がある……か?
2.できるだけ宝具の解放や長時間の戦闘は避けたい。
[備考]
※通常実体化した場合、村人のような格好(DQ4勇者のデフォ衣装)です。
☆ララ
「やっぱりマスターだったか」
アサシンの声にぼんやり頷く。ララもまた、準備期間の終わりごろにこの劇場で見かけた彼女のことをよく覚えている。
声を上げるものは居た。拍手をするものは居た。だが彼女のような反応を示す人物は、たった一人しか居なかった。
季節からはちょっと外れた長袖も目立つ。まるで体の下になにか(例えば令呪か)を隠しているように見えた。
「私は」
でも、マスターかどうかなんてララには関係ない。
ララはあの少女がNPCだったとしても、同じように舞台を降り、同じように声を掛けたことだろう。
「私の歌で涙を流してくれたあの子と、もう少しだけでいいから、話がしたいの。駄目?」
「駄目じゃないが、なんだってそんなことをしたがるんだ」
少しの間を置き、自身の中であの子を初めて見た時から抱いていた思いを口にする。
「似てたから」
「似てたって、誰にだ。お前の話してた『グゾル』にか」
「……うん。あの子はグゾルに似てる。顔は違うけど、でも、似てるの」
あの少女はララにとって生涯で二人目の、ララの前で泣いてくれた人間だ。
グゾルはララと出会った時、ぽろぽろ涙をこぼしながらララの歌を聞いてくれた。
ララは人形だ。涙を流すことはできない。それでも、グゾルのくしゃりと歪んだ瞳から流れた涙の中に込められていたぬくもりは分かった。
あの少女の涙は、その時のグゾルの涙と同じだった。とてもあたたかい涙だった。
周りのすべてから迫害され、『化物』『亡霊』と呼ばれた恐ろしい人形に『何か』を見つけた、ちっちゃなちっちゃな子供の泣き顔と、その頬を伝う涙にそっくりだった。
彼女がグゾルでないことなど知っている。彼女にグゾルを見出したが正しいかどうかなんてララにはわからない。
それでも、涙を流す彼女の表情は、あの日、あの時のグゾルによく似ていたから。
もしかしたら、未だ不明のまま宙を待っているララの向かうべき先を知ることが出来るかもしれない。
アサシンは「そうか」と答え、空を見上げた。
ララも一緒に空を見上げる。既に夜の帳の落ちきった空には、まばらに星が散らされている。
星は一緒だ。はるか昔、八十年前と同じように、空で輝いている。
「あいつの側に居たサーヴァントは、俺より格段に強い。襲われたらそれまでだ」
「そうなるなら、そうなったって構わないわ」
星にでも放り投げるように口ずさまれたアサシンの言葉に、ララも空を見上げたまま答える。
あの少女がララを殺そうとするなら、あの涙の答えがそこに繋がるというのなら、きっとそれも、ララの求めていた答えの一端なのだろう。
アサシンからの返事はない。星空から視線をアサシンの方へ動かしてみれば、彼もまた、ララの方を向いていた。
その表情がどんな感情を示すのかは、ララの語彙では説明がつかない。
でも、きっと、ララが見てきた中で今の彼の顔に一番近いものは、同じように星空を見上げていた時のグゾルの表情だろう。
「今日は星が綺麗?」
「そうだな……今日は」
アサシンは再び星空を見上げ、一言、夜空に飛ばす。
「きっと怪人の笑い声がよく響く。こんな夜なら、襲われる前にひとっ飛びかもしれねえな」
かつんと一度、アサシンが腰掛けていたトランクに、彼のぴかぴかの革靴の踵が打ち付けられる。
丁度、踵の打ち付けられたタイミングで劇場のNPCが一人やってきて、ララと『ウォルター』に声をかける。
再び舞台に上がる時間がやってきたようだ。またもう少しだけ、ララは誰かのために歌を歌う。
NPCに導かれながら、ララははたと一番最初に伝えるべきだった言葉を思い出し、立ち止まった。
「ウォルター叔父様」 NPCの手前クラス名を伏せてその名を呼ぶ。
「なんだ」
「ありがとう。約束を守ってくれて」
返事のもらえなかった約束。だが、彼はその約束を忘れずにちゃんと帰ってきてくれた。
だが、当のアサシンは鼻を掻きながら「……あったな、そんな約束も」なんて呟くだけだ。
「忘れていたの?」
「どうだったかな」
アサシンの答えはこの街の月みたいに、おぼろに隠れたまま。
薄らぼんやりとした光に照らされた頬は白く、伏せられた瞳はバネ足ジャックとは違い優しい光を宿し。
「今からお願いすれば、もう一度聞いてくれる?」
「……どうだろうな、忙しいのさ。俺も」
もう月の光は雲に隠れてしまった。薄暗い闇の中では、アサシンの表情はよく見えない。
それでも、きっと、朝のときと同じように、心は伝わっている。それ以上言葉を続ける必要はない。
ララは歌姫として再び、舞台の上に戻っていく。
次の歌は、いつかの星空に似合う曲にしようと決めて。
【D-3/市民劇場/一日目 夕方】
【ララ@D.Gray-man】
[状態] 健康
[令呪]残り三画(イノセンスの埋め込まれた胸元に、十字架とその中心に飾られた花の形で)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 劇場での給金(ある程度のまとまった額。ほとんど手つかず)、QUOカード5,000円分
[思考・状況]
基本行動方針:やりたいことを見つける。グゾルにまた会いたい…?
1.
中原岬と話してみる。
2.
フェイト・テスタロッサが気になる。
[備考]
※「
フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。
※「バーサーカー(
チェーンソー男)」及び「バーサーカー(
ジェノサイド)」の噂をアサシン経由で聴取しました。
また、「さいはて町」「実体化していたサーヴァント(
木原マサキ)」「
シルクちゃん主従」の情報を得ました。
【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】
[状態] 健康、スキル『阻まれた顔貌』発動中
[装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます)
[道具] なし
[所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額
[思考・状況]
基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。
1.観客たちから情報収集。岬との会合に備える。
2.街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。
3.『町』にもう一度行く必要は……
4.『
チェーンソー男』『包帯男』『さいはて町』に興味。
[備考]
※
中原岬&セイバー(勇者レイ)、
シルクちゃん&ランサー(
本多・忠勝)を確認しました。
※「
フェイト・テスタロッサ」「バーサーカー(
チェーンソー男)」及び「バーサーカー(
ジェノサイド)」キャスター(
木原マサキ)についてある程度知っています。
※さいはて町の存在を認知しました。町の地理、ダンジョンの位置も把握しました。
※さいはて町の番人、『チェーンソー殺人鬼』を確認しました。『
チェーンソー男』との類似を考えていますが、違う点がある事もわかっています。
※さいはて町の入り口(D-3付近、C-4付近)を確認しました。もう一度行くと入り口があるかもしれませんし、ないかもしれません。
※『阻まれた顔貌』はさいはて町内、かつマスターもしくはサーヴァントの視認範囲に入ったときのみ逆効果に働きます。が、ある程度看破能力は必要かもしれません。
最終更新:2020年06月15日 20:54