【1】


 アメリカンドリーム、というものがある。
 その名が示す通り、"自由の国であるアメリカで成功する"という意味合いだ。
 機会が均等に与えられたこの地では、努力次第で誰でも栄光を手に出来る。
 そんなお伽噺の様な題目を、この国は18世紀から叫んでいるのだ。

 アメリカンドリームが幻想に過ぎない事など、ゴッサムシティの現状を見れば明らかだろう。
 極端に開いた格差とそれにより悪化した治安、そこのどこに成功の種が落ちていると言うのか。

 だが驚くべき事に、そんな欺瞞だらけの夢を信じている輩はそう少なくないのだ。
 ゴッサムと姉妹都市提携を結んだ、沢芽市という日本の街に住む悪党がいい例だ。
 日本では掴めない更なる栄光を求めて、彼等はこの悪徳の街に足を踏み入れるのである。

 元は日本のヤクザだったチャカも、そんな悪党の一人だった。
 碌に銃も撃てない日本に窮屈さを感じたこの男は、無謀にもゴッサムに新天地を求めたのだ。
 銃社会であるアメリカに行けば銃など撃ち放題だし、激しい銃撃戦にも巡り合えるかもしれない。
 同じくゴッサムに渡った<令嬢>も上手くやってるらしいし、自分も大丈夫だろう。そんな浅い考えだった。

 幸運な事に、想像より上手く事は運んでいった。
 行き場を失ったゴロツキ共を束ね作った組織は、少しずつだが地位を上げていった。
 名の知れた組織と比べたら、まだまだちっぽけな規模の集団でしかない。
 しかし、日本でヤクザをやっていた頃と現状とでは、充実感は桁違いだった。

 アメリカンドリームが幻想だと誰かが抜かしたが、その戯言こそ幻想だ。
 その証拠に、自分は成功に向けて突き進んでいるではないか。

 このまま全てが上手くいけば、やがてはゴッサムを取り仕切る王になれるかもしれない。
 そんな根拠のない自信と野心をチャカが孕ませ始めて、数日が経った頃だろうか。
 包帯を全身に巻き、その上から和服を纏った男が、彼の組織を訪問したのは。

 その男の話なら、風の噂で聞いた事があった。
 とあるマフィアの元にふらりと現れて、瞬く間にそこの首領となった男。
 彼は組織のボスを殺害し、力を以てマフィアを屈服させたのだという。

 その噂の男は、開口一番この組織を乗っ取ると言い出した。
 今は人員が欲しいから、此処を奪って足しにするというのである。
 狂ってるとしか言いようがないし、極めて不愉快な言い分だった。

 チャカは一度激昂すると、何をしでかすか分からない。
 そして彼が集めたゴロツキも、その野蛮じみた性質を持っていた。
 彼等が逆鱗に触れた相手に何をするかなど、最早言うまでもない。

 包帯姿の男は、白い軍服の様な衣装を纏った女を侍らせていた。
 だがそれがどうした。どんなやり手であろうと、所詮相手は二人だけ。
 男は銃弾で全身を蜂の巣に、女は徹底的に凌辱してやろう。
 そんな慢心を抱えながら、チャカ達は彼等に襲い掛かったのである。

 チャカが自らの愚かさに気付くのは。
 そうして襲い掛かって、ほんの数分後だった。

【2】


 ダウンタウンのチャイナ・ベイスンに建つ、とあるマフィアの事務所。
 貿易会社の看板を隠れ蓑にし、今も活動を続ける悪党の巣窟。
 その建物の地下室にて、大量に保管されているのは銃火器である。

 拳銃やマシンガンにスナイパーライフル、果てにはロケット砲まで。
 一つの組織が持つにはあまりに過剰な程にまで、装備は充実していた。
 これほどの武装を抱えたマフィアなど、ゴッサムでも此処くらいのものだろう。

 この銃器の群れの中で、志々雄は独り立っていた
 感慨深い表情で、武器がたんまり入った保管庫の一つを見つめている。

 志々雄からすれば、これらの銃器は未知の存在である。
 なにせ、この男は明治時代の時点で全ての知識が止まっているのだ。
 彼がいた世界には、手榴弾もRPGも液体爆弾もありはしないのだから。
 この武器庫は、志々雄にとってまさに宝物庫も同然だった。

「あの、志々雄さん、ちょっといいッすかね?」

 その部屋に入って早々、こびへつらう様に志々雄に呼びかける男。
 彼こそ、その志々雄に組織を潰されたチャカであった。
 この男は今、ゴロツキ共のリーダーではなく下っ端として裏社会を生きている。

 チャカ達が意気揚々と志々雄達に襲いかかったあの日。
 ほんの数分。千秒にすら満たない僅かな時間の内に、チャカの組織は壊滅した。
 数十人もの武装集団が、たった二人に敗北したのである。
 ミッドタウンにある彼の領土は、今や志々雄の支配下にあった。

「何の用だ」
「いやァ、方治さんが志々雄さん呼んでたんで」

 方治というのは、志々雄の側近である佐渡島方治の事だ。
 なんでも、組織を乗っ取る前から彼の腰巾着として働いていたらしい。
 だが今となっては、参謀として志々雄に次ぐ権力を所有している有力者だ。

 そうか、と志々雄の返答が聴こえる中、チャカが見つめるのは武器庫である。
 日本でヤクザをやっていた頃でも、これほど大量の武装は見たことがない。
 そもそも、組織を存続させる上でここまで多く武器をこさえる必要はるのだろうか。

「何するつもりか気になるってか?」
「……ッ!?」

 気付けば、チャカの目の前に志々雄の姿があった。
 組織を潰されたあの日と同じ、肉食獣の様な笑みを浮かべている。
 そう、この表情に、チャカは栄誉もプライドも奪われたのだ。


「なに、ちょいとデカい事をしでかすのに必要なのさ」
「デカい事って、なにを――」
「国盗りだ。このゴッサムを俺のものにする」

 ゴッサムを手に入れる。それを聞いた時、チャカは茫然とする他無かった。
 この男は、ゴッサムシティ自体を自らの支配下に置く魂胆なのだ。
 まるで戦国武将の様な、極めて暴力的な発想と言うしかない。

 なるほど、街そのものを相手取るなら、この武器の多さも納得がいく。
 信じ難いが、志々雄は本気でゴッサムを制圧しようとしているのだ。
 チャカの組織を潰したあの日の様に、暴力を以てこの衆愚の街を支配する気でいる。

 チャカには知る由もないが、志々雄が戦力を蓄えるのは聖杯戦争の為でもある。
 限界まで巨大化した組織を以てすれば、マスターを炙り出すのにそう時間はかからない。
 そして蓄えた銃器と人員を使えば、発見した敵の対処も容易くなる筈だ。

 流石にサーヴァント相手では厳しいだろうが、それはランサーに任せればいい。
 彼女の実力は、かつて志々雄が従えた"十本刀"さえ容易く超えているのだから。

「愉しいぜ、国盗りは。いつの時代になってもな」

 弱肉強食、この世の理ってやつを見せつけれるんだ。
 志々雄のその言葉で、チャカが想起するのはかつての自分の姿。
 現れた敵に組織を潰され、それでもなお部下同様命を拾われた哀れな首領。
 あの瞬間、間違いなく志々雄が強者であり、チャカが喰われるべき弱者であった。

 部屋を出ていこうと扉へ近づく志々雄を、チャカは茫然と見つめるだけだ。
 この男と自分とでは、目指している場所があまりに違い過ぎる。
 襲撃の日に折られた筈の牙を、もう一度折られた様な気分だった。

「もう一つ教えといてやる。なんでお前を生かしたのかをな」

 扉も前で立ち止まり、背中越しにチャカを見つめての一言。
 見透かされた様な言いぶりに、彼の心臓が大きく跳ねた。
 そういえばまだ、自分が殺されずに済んだ理由を聞かされてなかった。
 人員を増やすという建前で部下を生き残らせるのはまだ分かる。
 だが、潰した組織のリーダーまでも取り込むとは一体どういう魂胆なのか?


「滑稽なんだよ、今のお前」

 かつて怒鳴り散らしていた男が、今では媚びる様に接してくる。
 そんな状況が、志々雄からすれば道化を見ているようで愉快だった。
 ただそれだけの理由で、チャカは今日まで生き延びてきたのである。

「今までで一番の雑魚の癖して俺に吼えてくるのも面白かったけどな……。
 お前、鏡見た事あるか?去勢された犬みてェで心底笑えるぜ」

 そう言って去って行く志々雄の背中を、チャカはただ見つめるばかり。
 かつての自分であれば、何の躊躇もなく拳銃で背中を狙っていただろう。
 だが、志々雄への反抗の牙をへし折られた今では、そんな事など想像すら出来なかった。

 それどころか、自分を犬だと嘲笑されてもなお。
 チャカの脳裏には、国盗りを宣言した志々雄の瞳が焼き付いている。
 あの獣の様に鋭い瞳と、あまりにも巨大な理想が、彼の心を掴んで離さない。

 とどのつまり、チャカは志々雄に感化されているのだ。
 日本にいた頃には、他者に心酔するなど夢にも思わなかっただろう。
 だが現在、その夢にも思わない出来事が、チャカの身に起こり始めている。

 本来、チャカは得のない側にはつかない主義だった。
 しかし、志々雄のあの瞳からは逃れられないと悟った今。
 蝙蝠の様に逃げ惑う事を考えるなど、もう二度と出来はしなかった。



【DOWNTOWN CHINA BASIN/一日目 午前】

志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]無限刃
[道具]特筆事項無し
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本:聖杯を盗り、国をも盗る。
 1.マフィアの規模を拡大していく。
 2."果実を纏う戦士"への興味。
[備考]
※組織の資金の五分の三を銃火器の購入に費やしています。
※ミッドタウンにあるチャカ達の拠点を征服しました。
 また、これ以外にも幾つものマフィアを制圧しています。

エスデス@アカメが斬る!】
[状態]健康
[装備]レイピア
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を愉しむ。
 1.志々雄の国盗りに協力してやる。
[備考]
※志々雄の組織による征服行為に参加しています。



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最終更新:2016年02月12日 00:41