「全ての人間にとって究極の『目標』とは何なのか……解るかな?」
ブラックゲート刑務所、教誨室にて。
テーブルを挟んで座る神父が、目の前の囚人に問いかける。
全ての人間にとっての目標―――哲学的とも言える問いの前に、囚人は何も返せず口籠る。
暫しの沈黙の後、神父は再び口を開いた。
「それは『天国へと行くこと』だよ。
人生とはいわば終着駅の決められた冒険…誰もがいつかは最後に死を迎える。
だからこそ人は『天国』を求める……救いを求めるのだ」
黙々と、しかし穏やかに神父は語る。
罪を重ねた咎人たる囚人はその言葉に耳を傾け続ける。
まるで父や師から諭されているかのような心地良さを感じていた。
囚人は目の前の神父の言葉に安らぎを覚えていたのだ。
「しかし、私は数々の罪を犯してきました。
犯罪組織に属していた私はこの社会の秩序を何度も踏み躙った。
そんな私に救いは齎されるのでしょうか…?」
囚人は此処に至るまでに多くの罪を犯してきた事を追憶する。
彼は元々マフィアの構成員だった男だ。
時には脅迫し、時には人を殺し、時にはクスリを売り…そうやって数々の犯罪を犯してきた。
そんな過去を悔やんでいた。恥じていた。
ある体験を機に、彼は犯罪から足を洗う事を決意したのだ。
しかし、足を洗ったとて犯した罪は決して消えない。
それ故に神父に問う。自分に救いは与えられるのだろうか、と。
「安心しなさい。例え君が、己の愚かさに苦しんだとしても。
罪と向き合い、悔い改めれば……慈悲深き父は赦して下さる。
父は善悪を問わず、全ての者に『救い』の機会を与えて下さるのだ」
対する神父は、柔和に諭す様に『救いの言葉』を述べた。
罪を悔い改めれば、神はそれに応えてくれる。
慈悲に満ちた言葉を、目の前の囚人に語る。
「しかし――――生者は兎も角、死んだ者は誰もが『天国』へ行けるのか?
ましてや自分の様な悪人は、本当に『天国』へ行けるのか?罪を犯した者は誰もがそう思うだろう」
直後、神父の言葉に僅かな熱が帯び始める。
その変化に気付くこともなく、囚人は話を聞き続ける。
「されど、悪人だからこそ『天国』へ行ける機会があると言える。
墜ちているからこそ、満たされる事を強く望む。
愚か者だからこそ、より幸福を強く欲する」
罪人だからこそ、天国をより強く望むことが出来る。
善良なる者は、初めから満たされている。
渇望せずとも既に天国へ行く資格を得ているのだ。
本当に天国を心の底から望むのは、罪を背負った者。
地獄へ堕ちるかもしれない悪人こそが、天国という幸福を強く望むのだ。
「そうやって父は罪人に心を入れ替える機会を与えて下さるのだ。
罪を悔やむからこそ、『天国』にふさわしい人間となれるよう努力することが出来る」
だからこそ悪人は努力する事が出来る。
地の底から這い上がり、天国へ行く為に己を戒め改心することが出来る。
そうして悪人は過去の罪を洗い流し、善人へと転じることが出来るのだ。
そう語る神父の言葉に、囚人は感銘を受けていた。
犯罪から足を洗い、心を入れ替えようと誓った囚人にとって、神父の言葉は救いそのものだった。
「神父様…」
「君も自らを省みて、そして努力すればいい。
さすれば君は自ずと『天国』へ行くに相応しい人間となる」
穏やかな微笑を浮かべながら、神父はそう言った。
神父様は自分のような悪人にも救いの言葉を述べて下さる。
悪人であろうと天国へと行くことは出来る。
ならば、善行を摘もう。しっかりと心を入れ替えよう。
もう二度と、あんな体験は御免だ。
囚人は己の心にそう誓い、神父に礼の言葉を述べようと――――――――――――
「――――――『ホワイトスネイク』」
瞬間、囚人の身体が崩れ落ちた。
神父が唱えた奇妙な言葉が耳に入る前に、彼の意識は闇に沈む。
◆◆◆◆
(聖杯戦争の参加者として立ち回り…尚かつ神父としての職務もこなす…
些か面倒なのは確かだが、仕方無いことでもあるか…)
教誨の時間は唐突に終わりを告げる。
この時間も所詮は『ロール上の職務』に過ぎない。
故に囚人への感傷を覚えることなど無い。
神父は崩れ落ちた囚人を無感情に見下ろし、片手に持ったDISCを自身の頭へと『挿入』する。
(さて…まずは一人目)
神父――――
エンリコ・プッチは、心中でそう呟く。
彼のスタンド『ホワイトスネイク』は記憶とスタンドをDISCに変えて奪う能力を持つ。
それによってプッチは囚人の記憶の一部を奪い、彼が体験した出来事を読んでいたのだ。
記憶を抜かれた囚人は気を失い、物言わぬ人形の如く地面に横たわっている。
刑務所内で一定以上の権限を持つプッチは教誨を受けに来る囚人の情報、犯罪歴を大まかに把握していた。
その中でも『めぼしい件』に関わった者に目をつけ、こうしてホワイトスネイクで情報を引き出すという魂胆だ。
囚人のプライバシーやリラックスの為といった名目で教誨の部屋に監視カメラは取り付けられていない。
更にプッチは職員達からの信頼が厚く、そのことも教誨室に監視の目が付けられない要因の一つとなっている。
だからこそ遠慮無くスタンドを使い、囚人を気絶させることが出来る。
職員や囚人からの信頼の厚い教誨師――――思えば、本来の世界で務めていたG.D.st刑務所での役割に似ている。
刑務所内を殆ど顔パスのみで通れるという点においても元の世界と同様だ。
この世界で与えられる役割とは、元の世界での役職や権力が少なからず反映されているのだろう。
プッチはそんなことを思った後、目をつけた情報について今一度纏めることにした。
余りにも暴力的な侵略を繰り返す『新興勢力のマフィア』。
優れた実績とリーダーのカリスマ性によって着々と勢いを伸ばしている自警団『グラスホッパー』。
過激な私刑行為を繰り返し、警察からも敵視されている『二人の覆面男』。
夜間に姿を現し、犯罪者を取り締まるという『ブルーラインのコスチュームを身に纏ったヒーロー』。
この街で指名手配されている少女『
ヤモト・コキ』。
プッチが怪しいと感じている件は主にこの5つ。
このゴッサム・シティは仮想空間だ。
ロールに従い、己の『役割』をこなすNPCによって構成される偽りの街。
そんな中で彼らは余りにも異質な行動を取っている。
ゴッサムが犯罪都市である事を加味しても、彼らの存在は非現実的とさえ感じられる。
マフィアやゴロツキが山ほどいる犯罪都市で自警団と私刑人が活躍―――そんな連中、普通ならばすぐに潰されるのがオチだ。
暴力によって勢力を拡大させる新興勢力のマフィア―――噂を耳にしているが、その動きは余りにも急速すぎる。
橋を破壊してでも警察から逃げ続けているという指名手配犯――――10代後半程度にしか見えない少女にそれだけの事が出来るのか。
その上彼らはいずれも最近になって活動が更に活発になり、噂も広がっていたのだ。
その点からプッチは推測する。
自分がマスターとしての記憶を取り戻し、聖杯戦争で勝つ為の行動を取り始めたように。
彼らの中でもマスターとして覚醒し、より精力的に動き始めた者がいるのではないか。
確証は無いが、手探りで他の参加者を探さざるを得ない現状において数少ない手掛かりだった。
(『包帯のサムライ』……そして『軍服の女』………)
直後、プッチは驚愕する。
彼がDISCで読んでいたのは足下で横たわる囚人が逮捕される少し前の記憶だ。
先も述べた様に、此処最近になって台頭してきているマフィアの『新興勢力』がある。
この囚人は彼らと敵対し、潰された組織の一員である。
彼は新興組織の強襲から奇跡的に生還したものの、その後逮捕されこの刑務所に収監された。
囚人は記憶していた。
たった二人で事務所に乗り込み、ギャングを蹂躙していく苛烈な男女の姿を。
超人的な動きで銃弾の雨を防いでいく『女』の姿を!
彼がその光景を見ていたはごく僅かな時間だった。
この囚人は一目散に現場から逃げ延び、奇跡的に命を拾ったらしい。
その時の凄まじい恐怖によってこの囚人は犯罪から足を洗うことを決意し、心を入れ替えようとしていたようだ。
プッチへの絶大な信頼もそれに起因するものらしい。
(こうして記憶を介して見るのは初めてだが、やはり知覚できる!
この女が『サーヴァント』であると理解することができるッ!)
記憶とは過去の経験を保持したデータというべきものだ。
それを自らの脳内で『読む』と言うことは、他人の経験を感覚的に知ることに等しい。
だからこそ彼はその記憶の中の人物について感じ取ることが出来る。
あの『軍服の女』が
セリュー・ユビキタスの同類であると認識している。
スタンドという異能力を持ち、通常の人間よりも魔力に敏感なプッチだからこそ理解出来た。
やはりそうだったか、とプッチは心中で思う。
これならば急速な勢力の拡大も頷ける。
件の『新興勢力』は頭領がマスターであり、自らのサーヴァントを用いて敵対組織の縄張りを侵略しているのだ。
人知を超えた存在であるサーヴァントを侵略の兵器として使えばどうなるのか。
その答えは簡単――――――『敵無し』だ。
どれだけ武装したマフィアであろうと、サーヴァントの前には赤子にも等しいのだから。
(敵の情報は得られた…これだけでも収穫と言えるだろう)
プッチは『ホワイトスネイク』を操り、自身の頭部から囚人の記憶DISCを引き抜く。
スタンドは記憶DISCに少しの間触れた後、気絶している囚人の頭部に再びそれを挿入した。
本を読んで内容を頭に叩き込むのと同じ様に、既に囚人の記憶の内容は自分の頭の中に入れている。
最早記憶DISCは必要無い。されどこのまま彼を処分すれば職員から何かしら怪しまれるだろう。
故に囚人にDISCを再び挿入し、彼を目覚めさせることにしたのだ。
DISCに『命令』を書き込むことで気絶する直前の記憶に細工をしている。
それによって囚人は「プッチに何かをされた」ということを思い出せず、その認識すら覚えることはない。
じきに目を覚まし、せいぜい「少し意識が曖昧だ」といった認識を抱く程度で教誨室を去ることだろう。
尤も、前述の通り少しでも違和感を覚える可能性は高い。
それ故に記憶を読む囚人は限定するつもりだ。
先程も述べた様に、めぼしい経歴を持つ囚人のみを狙う―――――それが神父の魂胆だ。
(それにしても…既に数組の主従が脱落しているらしいな。
今はこうして役職をこなせているが、いつそれが崩れるかも解らない。
それに、この街にはルール違反を犯しているサーヴァントの殺人鬼も存在するらしい…
恐らく例の『コールタールのようなモノで人を殺す殺人犯』だろうが…警戒せねば…)
神父は気を引き締める様に心中で呟く。
彼は未だ気付かない。否、気付く筈が無い。
囚人の記憶を介して知覚したサーヴァントが、己の従者――――セリュー・ユビキタスのかつての上官であると言うことに。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
武器を揃え、蹂躙を繰り返し、敵を支配し。
幕末の乱士は異邦の地で戦火を広げていく。
地獄に堕ちて尚、彼の野心は留まることを知らない。
力によって敵を討ち滅ぼし、踏み躙り、征服する。
彼は彼のままに――――
志々雄真実として、振る舞う。
強き者が勝ち残り、弱き者が死ぬ。
勝ち残った者は富と権力を勝ち取る。
敗残した者は地の底で這いつくばる。
戦いすら放棄した者は、泥を餌に死体の如し生き様を晒すのみ。
この街は、この戦争は、まさに彼が望んだ弱肉強食の縮図そのものだ。
事務所の一角、頭領の部屋にて。
椅子にどっしりと腰掛け、時代錯誤な煙管を口に銜えながら志々雄は思慮する。
組織の運営や管理は主に側近である佐渡島方治に担わせている。
頭領である志々雄の主な役目は侵略の指揮、そして聖杯戦争の対策だ。
正午の通達曰く、既にセイバー・アーチャー・キャスターの三つの陣営が脱落しているという。
(アーチャーと言やあ、あの餓鬼共々俺達に負けた雑魚か)
志々雄は記憶の片隅より過去の出来事を思い返す。
彼は以前、犯罪組織を潰して回っているという若きマスターと戦った。
多少の武術の心得はあったようだが、所詮は弱者に過ぎなかった。
そのサーヴァントであるアーチャーもまた、志々雄の従者たるランサーの凄惨な暴力の前に蹂躙された。
彼らに対して思う所など一欠片も無い。
せいぜい「そういえば以前にそんな弱者共がいた」といった程度の認識だった。
(まあ、あんな雑魚共のことはどうでもいいがな。
気になるのはセイバーとキャスターとやらも脱落したということだ)
志々雄はすぐにそちらの件へと思考を切り替える。
アーチャーは自分達が殺した。しかし、セイバーとキャスターとやらの存在は捕捉していない。
志々雄達の把握していない所で、既に別の戦いも始まっていたと言うことだ。
あの通達を伝えたサガラとかいう男曰く、『喧嘩早い連中に目を付けられたのが運の尽き』。
自分達以外にも早々に戦闘を仕掛けた主従が他にも居るのだろう。
(あの少佐が言ってやがった『果実を纏う』とかいう野郎…
それに、此処最近になって俺の縄張りを嗅ぎ回ってる『赤覆面』とやらも気になる)
怪しい事案は幾つか存在するが、中でも志々雄の興味を引くことがある。
一つは同盟者であるネオナチの少佐から聞いた『果実を纏う戦士』という存在。
UPTOWNで存在が確認され、彼の活躍で一部地域の治安が改善されたという。
果実を纏って戦うという荒唐無稽な情報からして、その者が単なる街の住民であるとは思えない。
聖杯戦争に関わる者である可能性は極めて高いと言える。
もう一つ、赤い覆面の私刑人。
最近に姿を現し、志々雄の縄張りで暗躍しているという。
奴には部下も何度か殺されている。
自分達の組織に明確な敵対意識を持っているのは間違い無いと志々雄は考える。
たった一人でマフィアを敵に回し、今も尚戦い続けている男――――その度胸と実力には興味がある。
志々雄は思う。面白い、一度この目でそいつを見定めてみたい、と。
(それに、蝗“バッタ”共か…)
そして、彼が特に警戒する事案。
それはグラスホッパーという自警団の存在。
ある時から突然姿を現し、優れた統率と行動力によって急速に勢力を伸ばしているという連中。
ただのガキ共の警察ゴッコかと思えば、今やその勢いはマフィアさえ畏れる程だという。
現に彼らの活躍で勢力を衰えさせているマフィアも存在しているという。
志々雄はある意味でグラスホッパーと自分達が似通っているとも思っていた。
どちらも『ある時を境に姿を現し、この街の勢力図を急激に塗り替えていった新興勢力』なのだから。
正義と悪。その立場は真逆だが、自分と似通ったモノを感じずにはいられない。
自分と同じ様に、マスターが組織を統率している可能性も有り得る。
故に志々雄は警戒する。この街で最も勢いのある『正義の集団』を。
「――――終わったぞ、志々雄」
直後、室内に唐突な声が響く。
次の瞬間、志々雄の目の前に霊体の如く『軍服の女』が姿を現した。
ランサーのサーヴァント、
エスデス。
志々雄の従者にして、このマフィア組織における鬼札とも呼べる存在。
その衣服は浴びてから間も無い返り血によって汚れていた。
「で、どうだった」
「暇潰しにはなったさ。簡単に壊れてしまったがな。
しかし、奴の口から大した情報は引き出せなかった」
「そうかい、やっぱり『ハズレ』という訳か」
今朝、組織の周辺をこそこそと嗅ぎ回っていた男を志々雄の部下が捕らえていたのだ。
男はその後ランサーの下へと回され、口にするのもおぞましい凄惨な拷問を受けた。
彼女の返り血はその時に出来たものである。
尤も、拷問によって引き出せた情報はいずれも大したものではなかった。
精々捕らえた男が敵対する弱小マフィアの構成員であり、逆転の機会を狙って志々雄の組織の周辺を嗅ぎ回っていたという程度だ。
既にその組織は志々雄の侵略によって壊滅寸前にまで追い詰められている。
そんな連中に嗅ぎ回られた所で何になる。
圧倒的な勢力の前では小手先の搦め手など無意味だ。
志々雄が求めていたのは敵主従の情報だ。
自身と同じ聖杯戦争のプレイヤーに関する情報を彼は欲していた。
それ故に自身の周辺で調べ回っていた男を拷問して吐かせたのだが、『ハズレ』だったようだ。
尤も、所詮は低い可能性にほんの少しだけ賭けてみたのみ。
元よりあの男に対し、情報源としての期待はあまりしていなかった。
直後、ランサーが何かを感じ取った素振りを見せた。
意識を集中させる様に虚空を見つめる。
暫しの間、沈黙を貫き。
そして、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。
「奴はハズレだったが……喜べ。どうやらすぐにでも情報は掴めそうだ。
否、情報と言うよりも追い求めていたそのものというべきか」
「つまりそれは――――『同類』って訳か?」
ランサーの発言に対し、志々雄は何かを察した様に呟く。
流石は察しが早いとランサーは嬉しげに微笑し、霊体化を行い始める。
どうやら態々情報を集めるまでもなく、『敵』が近付いてきたのだという。
これも同じサーヴァントの気配を察知する能力によるものか。
ククッと傲岸な笑みを浮かべながら、志々雄は消えゆく従者に言葉を掛ける。
「ランサー、『同類』はお前が好きにやれ。俺が許可する。
その代わり、そいつの片割れは俺が探す」
「了解だ、我が主」
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
頭領から命じられたのは、CHINA BASIN周辺の偵察だった。
『不審な行動をしている者、あるいは身体に奇妙な紋様が入っている者を探せ』とのことだ。
今朝になって敵対組織のネズミが捕らえられたのを皮切りに、本格的な炙り出しに入ったのだろう。
しかし、奇妙な紋様が入っている者とは一体何なのだろうか。
新手のタトゥーギャングでも現れたのか――――兎に角、そんな連中を探し出せというのが指令だった。
手を出す必要は無い。発見次第すぐに連絡を寄越し、追跡をしろという命令だった。
外で見回りをしていたチャカもまた、そんな命令が下された『下っ端』の一人だった。
任される仕事と言えばこういった使い走りが殆どだったが、今の彼はそれに対する不平を漏らさない。
志々雄真実という男のカリスマの前に、彼の野心はへし折られたのだから。
最早彼の捨て駒として使われることにさえ疑問を抱かない。
今のチャカは、無様な負け犬に過ぎなかった。
「…何だ、こりゃ」
閑静な街中を歩く中で、ふと視線を横に向けた。
その先にあったもの。
それは路地の奥底で茂る、奇妙な植物だった。
視界に映ったモノに、チャカは自然と惹かれていた。
夢遊病者の様にふらふらと路地裏へと足を踏み入れる。
引き寄せられるかの様に、奥へ、奥へと進んでいく。
奇怪な植物が繁殖する路地の奥底で、彼は立ち止まる。
「すげえ……美味そうだ」
彼の足下に在ったもの。
それは植物から成っている錠前の様な果実だった。
目をぎらつかせながら、チャカはその場で膝を突く。
果実をもぎ取り、己の手に取る。
チャカは涎を垂らし、食い入る様に果実を見つめていた。
まるでクスリを前にした薬物中毒者の様にもぎ取った果実に見蕩れていた。
食いたい。食いたい。食いたい。
この果実を食いたい。
なんて美味そうなんだ。
食っちまいたい。
食っちまえ。
食っちまえ。
食っちまえ。
食っちまえ――――――――――
牙を抜かれた哀れなチンピラが、禁断の果実へと一心不乱に食らい付く。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
最早見慣れてしまった街並を退屈げに眺めながら、女は歩道を歩く。
大都市の外れに位置するこの地域は比較的治安が悪い。
表向きは普通の街並であっても、その裏では犯罪者が蠢いている。
此処は溝に浸かりきったかのように穢れている。
悪という異臭が漂い、犯罪者という蟲共が蜜を啜る為に這い回っている。
殺し屋の女、レヴェッカ・リー――――
レヴィもまた、そんな連中の一員といえる存在だった。
彼女もまた、数々の犯罪を犯してきた一端の悪党だ。
まともな青春を送った過去も、真っ当な世界で暮らしてきた記憶も、彼女には在りはしない。
幼い日から彼女の世界は死人で埋もれた地獄だった。
そんな地獄の中で生きる為に此処まで来た彼女に、まともな道徳心などある筈が無い。
彼女は悪党だ。力こそ、銃こそが全てと信じる悪人だ。
故に彼女はこの街に嫌悪を覚えることは無い。
元より生まれ育った世界と、此処は何ら変わりはしないのだから。
此処は死人の歩く街だ。死臭が充満した地獄だ。
そこに人が居る限り、悪党が居る限り、仮装であろうと現実であろうと世界の本質は変わらないのだ。
(結局、大した収穫も無しかよ)
チッと舌打ちをしながら、レヴィは手元の手配書を睨む様に見つめる。
件の賞金首、『ヤモト・コキ』に関する有力な情報は未だに得られていない。
近辺の酒場等を通じて情報収集を行ったものの、結果は振るわずだ。
レヴィは殺し屋としての実力こそ優れているものの、あくまで自由契約の身に過ぎない。
人脈という点においては組織的な犯罪者に大きく劣る。
思えば、フリーランスの殺し屋という役職は少々不便だとレヴィは思う。
ダッチのようにビジネスを取り仕切り、外部との顔も利く上司は居ない。
ベニーのような情報収集に長けるハッカーも居ない。
認めてやるのも癪だが、ロックのような交渉に長ける使い走りもいない。
ラグーン商会の有り難みが此処に来て解るとは思うもしなかった
だが、与えられた役割は役割だ。
気に食わないが、不平に愚痴を零した所で状況が変わる訳でもない。
今はプロの殺し屋として仕事を果たす。それだけだ。
それに、あのヤモトとやり合うこと自体を楽しみにしている節はある。
子供でありながらマフィアや警察から逃げ続け、剰え橋さえも崩落させたという異常現象を引き起こした相手だ。
そんな相手と殺し合える。トゥーハンドとして血が滾るのは当然だった。
(橋をブチ落とすなんてふざけた芸当やらかした時点で、ヤモトってガキがマスターの可能性は高いだろうが…
後はアテ無』。現時点で参加者だって確定してんのは、あのサガラとかいう野郎が言ってた殺人鬼くらいか)
擦り寄ってきた物乞いの浮浪者を睨みつけて追い払い、レヴィは思考を続ける。
サーヴァント探しに関しては殆ど相棒に依存している。
自分はこうしてシラミ潰しの情報収集をするくらいしかアテがない。
面倒なモンだとレヴィは内心悪態をつく。
この聖杯戦争、敵に関する情報が全くと言っていい程与えられていないのだ。
ヤモトのように依頼の標的ならばまだマシだが、奴でさえあくまで『敵の一人と思わしき相手』にすぎない。
奴以外にも、素性も居場所も解らない20組前後の主従が未だこの街で息を潜めているのだ。
(…少なくとも、ヤモトって野郎を殺るのは確定だ。
折角のダックハントだからな…マスターだろうがそうじゃなかろうが関係ねえ)
レヴィの中で、一先ずヤモトを仕留めることは確定事項となっていた。
マスターである可能性が高いと言うのもあるが、先も述べた様に異常な存在である彼女と殺り合うこと自体を望んでいるからだ。
それにハントの成功報酬として相当な額が用意されているとも聞く。
この街での生活資金として頂いて損は無いだろう。
その為にも、連中よりも先にヤモトを探し出す必要が在る。
やはりDOWNTOWNでの情報収集には限界があるか。
自分のテリトリーから離れるのは少々面倒だが、北へと行く必要が在るかもしれない。
《なあ、相棒――――》
《レヴィ》
レヴィの念話での呼びかけを遮る様に、セイバーの念話の声が頭に響いてきた。
少々苛立ちを覚えつつ眉を顰めたが、黙って彼の言葉を聞くことにした。
《居たぜ、お仲間がよ。どうやら向こうさんも俺に気付きやがったらしい》
直後、レヴィの口元に笑みが浮かぶ。
セイバーはレヴィの周辺で『探査回路』を駆使し、魔力の気配を探っていた。
ここまで一向に収穫は無かったが、ようやくお仲間を見つけられたらしい。
《だがレヴィ、お前は来るな》
《あ?》
《悪いが、サーヴァント同士の戦闘になる可能性が高ェんだよ。
お前の気性は気に入ってるが、下手に首突っ込まれて死なれても困るんでな》
セイバー曰く、マスターらしき気配は探れてないとのことだ。
こちらに気付いているのはあくまでサーヴァントの気配のみ。
恐らく姿を現してくるのはサーヴァントだけだろう。
サーヴァント同士の戦闘になる可能性が高い中で、下手にマスターを連れて行くことを嫌った。
セイバーにとってはマスターであるレヴィに対する配慮という意味もある。
しかし、同時に彼女が『足手纏い』になる可能性も考えてのことでもあった。
トゥーハンドの異名を取るレヴィの戦闘力は人間としては卓越している。
それでも『ただの銃』では霊体であるサーヴァントを殺せない。
身体能力においてもサーヴァントは人間を上回っている。
つまるところ、ただの人間ではサーヴァントに勝ち目など無い。
サーヴァント同士の戦いにおいて、武装した程度の人間が出る幕など無いのだ。
「…ったく、つまらねェな」
念話を切られ、レヴィは悪態を零す。
ようやくブラッド・パーティーに殴り込めるかと思っていれば、結局は一時待機だ。
セイバーの話から、サーヴァントに喧嘩を売った所で勝ち目は無いと言うのは解っている。
初めから勝ち目の無い相手と殺り合おうなんて考える程、レヴィは愚かではない。
しかし、それでもやはり不服だった。
血塗れた戦いに自分の生き甲斐を見出す殺し屋にとって、戦いで出る幕が無いと言うのは不満という他無かった。
せめてマスターが見つかれば、殺し合いの一つや二つ出来るのだろうが―――――
「……あ?」
思考の最中、廃れた路地に悲鳴が響くのを耳に捉えた。
直後、逃げ惑うチンピラや浮浪者がレヴィの眼前を横切る。
連中の様子を見るに、ただの喧嘩――――という訳ではなさそうだ。
(…路地裏か?)
不審に思ったレヴィは息を潜めつつ、ゆっくりと路地裏を覗き込む。
壁に大量に張り付いていたのは血痕だった。
目視した限りでは、まだ生まれてから間もない痕と見える。
レヴィは更に、路地裏の奥へと目を向ける。
瞬間、彼女は目を見開いた。
未知の存在を前に、驚愕の表情を浮かべた。
彼女が目にしたモノ。
それは大口径のリボルバー拳銃を片手に握った、『化物』だった。
化物の足下に転がっているのは、全身を引き裂かれた上に銃で撃ち抜かれた死体。
恐らく、そこいらの浮浪者か何かだろう。
街に突如現れた怪物が人々を襲う――――まるでB級映画の世界だ。
レヴィの頬から汗が流れ落ちる。
蒼い蟲のような外殻に身を包んだ異形は、ゆっくりと顔を上げる。
そして―――――レヴィの方へと視線を向けた。
気配を察知したのか。
そのまま化物はガンマンさながらに銃を構え、レヴィの隠れ潜んでいる方を睨む様に見つめた。
(………ガンマン気取りかよ、糞袋野郎)
相手は既にこちらの存在気付いているらしい。
それを察知したレヴィは内心で悪態をつきつつ、腰に収めた愛銃―――ソード・カトラスに手を掛けた。
あの化物がセイバーの言っていた『使い魔らしき化物』なのだろうか。
兎も角、存在に気付かれた以上今はあの化物に対処するしかないだろう。
もし勝ち目が無ければ、癪だが逃げるしかない。
尤も、逃げることが出来ればの話だが。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
この街は溝に満ちている。
野心というものを捨て去った死人共が地を這い、地獄を謳歌している。
そんな世界に、セイバー――――
グリムジョー・ジャガージャックは苛立ちを覚えずにはいられなかった。
マスターは死人であることを受け入れた。
地の底で這いつくばり、地獄の住民となることを許容した。
グリムジョーにはそれが理解出来なかった。
豹の如く荒々しい眼差しを持ちながら、何故高みへと昇ろうとしない。
お前は諦めを許容したこの街の死人とは違う。
地の底から這い上がる力と意思を持つ、強い女ではないのか。
グリムジョーはレヴィへの苛立ちを覚えると同時に、彼女を気に入っていた。
彼女が持つ獣の様な瞳に可能性を感じていた。
あの女は強い者だ。決して地の底で這いつくばるようなタマではない、と。
聖杯を勝ち取り、天下を取る―――――それだけの野心を抱えるに相応しい器があの女には在る筈だ。
故にグリムジョーはある種の願いを抱く。
己のマスター、レヴェッカ・リーが『這い上がる意思』を手にすることを望んだ。
レヴィにとっての聖杯を単なる通過点に終わらせるには、余りにも惜しいと感じたのだ。
グリムジョーは、ゆっくりと廃ビルの屋上へと降り立つ。
腰に差していた刀を抜き、視線の先に立つ相手を見据える。
「――――御機嫌よう、我が同類よ」
視線の先で仁王立ちしていたのは、白い軍服姿の女だった。
その口元には不敵な笑みが浮かび、真っ直ぐにグリムジョーを見据えている。
妖艶な女でありながら、その身から放たれる殺気は本物だった。
百戦錬磨の猛者と呼ぶに相応しい程の気迫を纏い、女は待ち構えていたのだ。
間違い無く強者だ。
目の前の女の気迫を感じ取り、グリムジョーの口の端も自然に吊り上がる。
ようやく、退屈が凌げそうだ。
「クソッタレな街で、イライラしていた所だ」
「この街に苛立っていただと?それは驚きだな」
グリムジョーが吐き捨てた言葉に、女は微笑しつつ呟く。
彼はこの街を死人の救う地獄と認識していた。
成長を諦めた蟲共が地を這い、塵を喰らいながら生きている無様な世界だと感じていた。
しかし、女はこの街に異なるモノを感じていた。
「弱き者が地を這い、強き者が君臨する――――――最高の街ではないか」
弱肉強食。
強い者だけが勝ち残り、支配出来る――――戦乱の街。
ランサーのサーヴァント、エスデスはそう言い放ち、己のレイピアを抜いた。
【DOWNTOWN UPPER WEST HILL(ブラックゲート刑務所)/1日目 午後】
【エンリコ・プッチ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]黒みがかった紫色の法衣
[道具]ホワイト・スネイク
[所持金]数万円程度の所持金
[思考・状況]
基本:天国の達成
1. 引き続き刑務所で情報を集める
2. 志々雄真実とそのサーヴァントに警戒
3. セリューとどう付き合おうか
[備考]
※この世界での役割は、教会の神父であると同時に、BLACKGATE PRISONの教誨師です
※DOWNTOWNのBLACKGATE PRISONへと向かう準備をしています。この時セリューは連れて行きません
※クリスマス・イヴ、クリスマスに盛大なミサを行う予定が入っています
※
ジョンガリ・Aに対しては参加者なのではと言う警戒心を抱いています
※志々雄真実とランサー(エスデス)の外見を知りました。
※教誨を受けに来た囚人の情報や犯罪歴を把握し、めぼしい者の記憶を『ホワイトスネイク』で読んでいます。
【DOWNTOWN CENTRAL HEIGHTS/1日目 午後】
【レヴィ@
BLACK LAGOON】
[状態]不機嫌
[令呪]残り三画
[装備]ソードカトラス二丁
[道具]特筆事項なし
[所持金]生活に困らない程度
[思考・状況]
基本:とっとと帰る。聖杯なんざクソ喰らえだ。
0.目の前の化物に対処。
1.当面は優勝を狙う。
2.面倒だが、情報収集の為に北上することも考える。
3.ジョンガリの野郎がムカつく。
[備考]
※同業者のジョンガリとは顔見知りです。
※インベス化したチャカを発見しました。
外見はカミキリインベスに酷似していますが、大口径のリボルバー拳銃で武装しています。
【セイバー(グリムジョー・ジャガージャック)@BLEACH】
[状態]健康
[装備]斬魄刀
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:立ち塞がる敵を一人残らず叩き潰す。
1.目の前のサーヴァント(エスデス)と戦う。
2.この街が気に喰わない。レヴィには這い上がってほしい。
【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]健康
[装備]レイピア
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を愉しむ。
1.目の前のサーヴァント(グリムジョー)と戦う。
2.志々雄の国盗りに協力してやる。
[備考]
※志々雄の組織による征服行為に参加しています。
【DOWNTOWN CHINA BASIN(マフィアの事務所)/1日目 午後】
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]無限刃
[道具]特筆事項無し
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本:聖杯を盗り、国をも盗る。
1.マフィアの規模を拡大していく。
2.自身の部下を駆使し、情報を集める。
3.「果実を纏う戦士」への興味。
[備考]
※組織の資金の五分の三を銃火器の購入に費やしています。
※ミッドタウンにあるチャカ達の拠点を征服しました。
また、これ以外にも幾つものマフィアを制圧しています。
※CHINA BASINを中心に志々雄の部下複数名が偵察を行っています。
不審な動きをしている者、マスターと思わしき者を優先的に捜索しています。
既に何らかの情報を掴んでいるかもしれません。
最終更新:2016年02月12日 01:21