ガン×ソード GUN SWORD ◆92mXel1qC6
色々あった
エルルゥ
【持ち物:
銀のフォーク、水・食料一日分】
【状況:健康】
ユイ
【持ち物:
UZI、予備マガジン*5、水・食料一日分】
【状況:尻のフォークは抜きました】
……いや、うん、あれだ。
察しろ、まじ察しろ。
流石のこのユイにゃんもこれだけじゃあ、駄目なのは分かってるけど、これだけで終わらせたい気持ちを察して欲しい。
色々あった。
本当に色々あった。
具体例を挙げたくないほどにアホなやらかした挙句にアホな結果を呼び込んだ。
っつうかアホでした。
すみません、すみません。
思い出すだけでも馬鹿馬鹿しいほどにようはあたしらはアホだった。
いや、違う。
確かにあたしらもアホだったけれど一番のアホはあの見るからに天使天使した男だ!
だいたい死んでるあたしらを前にして殺し合いってアホでしょ?
あれ、アホしかいないんじゃないですか、この島。
しかもまあ悪いことに。
「こほん。それじゃあ改めて自己紹介からですね。私、エルルゥと申します。トゥスクル國の薬師です」
よりによってあたしの尻にぷすっとやりやがったこいつは医者だっつう。
医者ですよ、医者!
こんなアホ面してアホなことをしておきながらこの獣っ娘は医者だっつうんですよ?
信じられないですよねー。
信じたくないよねー。
いや、うん、まあ、その、信じたくないというのはあたしの願望だといいますか。
正直かなりやりにくい。
なんつうか。
すんっげええ私怨なのは分かってるんすけど医者は苦手なんですよねえ。
これでもあたしは生前病人をやってたわけでして。
しかも重がつく病人で寝たきり生活。
ずっと入院していただけあってお医者さんにはそりゃもう山ほどお世話になりましたよ?
自分で言うのもなんだけどそんじゃそこらの患者とは違う年季の入りようで毎日毎日顔を合わせていたもんさ。
毎日、毎日、毎日、毎日。
あたしは死ぬまで白衣を着た老若男女の世話になった。
そう、死ぬまでだ。
あれだけの数の医者がいたにも関わらず、誰一人としてあたしの身体を治してはくれなかった。
あれだけの医者の手を借りながら、あたしは何一つ恩も返せぬまま、ベッドの上でおっちんだ。
だから医者に対しては、どうして治してくれなかったのよっていう憤り半分と、迷惑を長年かけっぱなしだった申し訳なさ半分で正直苦手。
そういう意味じゃあ最初にアホなことをやってくれたのはちょっとばっかしありがたくはあったのです。
少なくとも気兼ねしないではすんでるし。
ってか医者にため口なんて生前じゃ考えられもしなかった。
恐るべし、ノリと勢い!
「あ、あたしはユイって言います。ガールズ・デッド・モンスター、通称ガルデモっていうバンドのヴォーカルをやってます。
ユイにゃんって呼んでください!」
そんなことを意識してしまったからか、先輩達にそうするようについつい敬語で返事を返してしちまった。
でもいっかな、これで。
多分だけどあたしより年上だろうし。
「がーるず・でっど・もんすたー? ばんど? ユイにゃんさんは変わったお役職に就いているんですね」
アホだけど。
バンドを知らないってどこのお嬢だよ、ありえねー!
後変わってるのはおまえのほうだ。
役職じゃなくて姿の方だけど! 何っすか、獣耳にもふもふ尻尾って! 萌えっすか!?
おのれえ、あたしと対して変わらない胸のくせして、あんなにも飛びつきたくなる魅力的なものをひっさげやがってええ!
ぜーはー、ぜーはー。
いや、待て待て、沈まれあたしの心の声。
そこを突っ込んだら話がいつまでもすすまねえし。
天国があったくらいなんだから獣耳尻尾の国くらいあっても不思議じゃねえぞ、多分!
「それよりもエルルゥさんは医者なんですよね?」
「はい、ただしくは薬師ですけど」
薬師といえば確か医師の古称だっけ。
今までは耳や尻尾にばかり注意が向いてしまっていたけど、そういえば、エルルゥさんは服装からしても古臭い。
これはいわゆるあれですか?
病室のテレビでよく見た童話やアニメに出てきた物の怪って奴ですか?
バンドを知らないのも山の中の隠れ里かなんかに住んでたからって考えれば、おお!
辻褄が合うんじゃ!? 流石ユイにゃん、天才ですな!
となると、となると、もしかするとあたしの都合のいい想像もあたっているかもかも!?
「だったらこう全身麻痺の患者さんも治せるようなすごい薬をばばーんっと処方できたりしない?」
それはちょっとした興味。或いは未練。
エルルゥさんが本当に物の怪かどうかは置いといて、見るからに不思議生物なのは公然の事実!
それなら人類の手ではどうにもならなかったあたしん事故の後遺症もばばーんっと不思議パワーで治せないかなあっと。
……まあ例え治せると答えられたところであたしは死んでるんすけどね。
どころか死んでから対処法が見つかるってそれはそれですっげええ悔しくね?
可愛そうなユイにゃん。
薄幸の美少女という奴なのかあああ! ほろり。
でもどうやらそんな嬉しいのやら悲しいのやらな事態にはなってはくれないみたい。
「……っ。御免なさい……」
エルルゥさんは悲しいような困ったような申し訳ないような、それでいて、その感情を表に出すことを恥じるような顔をしていた。
それはあまりにも見慣れた表情だった。
あの白い部屋で何度も何度も何度も何度も私に向けられた表情だった。
ああ、もう、これだからあたしは医者が苦手なんだ。
「……いいんですよ、別に。お医者さん達が頑張ってくれてたのはあたし、ちゃんと分かってますから。
だからそんな責めてくださいって顔をする必要も、あたし達を気遣って自分達の感情を殺す必要もないんですよ」
嘘偽りのない本音だ。
一番泣きたいのは確かにあたしなのに、他の人に泣かれちゃったらきついものがあるけれど。
あれはあれ、それはそれ。
悪いのはあたしを轢いたアホですし、そしてどんな理由があれ動けなかったあたし自身なんだし。
「ユイにゃん、さん? いえ、でも、私は不安な顔をするわけにも、泣くわけにもいかないんです
私がそんな表情を浮かべちゃったらアルルゥやカミュちゃん、オボロさん、そして何よりユズハちゃんが心配してしまいますから」
どこか胸から込み上げてくるものを抑えるように語るエルルゥさん。
そりゃまあ横でお医者さんが不安がったり、悲しんだりしたら患者さんも不安になったり、悪いなって思ってはしまいますけど。
いや、それにしてはやけに真に迫ってるような。
そもそも幽霊になってからぴんぴんしている今のあたしを見ても、あたしが病人だったってことは分からないわけでして。
となると、あれ、もしかしてもしかすると、この人も不治の病か何かに侵されたあたしみたいな患者を受け持って、た?
はっ、もしかして彼女が死後の世界に来ちゃったのって、その患者さんのことを苦にしての自殺!?
やべ、あたし地雷踏んじまった!?
話からするとそのユズハちゃんってのがあたしポジション!?
そういやあの名簿にも今、エルルゥウさんが挙げた名前が全部載ってたような……。
これってまさか、ユズハちゃんとやらを追って、みんなで心中しちゃったってこと!?
お、重い、重すぎる!
なんとかして空気を変えないと耐えられない!
「んー、じゃあ後学というか来世の為にびしっとこのユイにゃんがアドバイスしてあげましょう!」
ええい、こうなりゃ破れかぶれだ!
来世とかあるかはわかんねえし、その来世に行くことを拒否してるあたしらが言うのもアホ臭い話かもだけど!
そもそも来世でお医者さんになるかもしんねえけど!
それ以前に、あたしがやろうとしてることって戦線の流儀に反しそうですけど!
未練を断ち切らせちゃって、いきなり目の前で消えられちゃうかもしれないけれど!
しかあああっし!
女が一度やるっつったからにはやってやるんじゃあああい!
「アドバイス、ですか?」
「そうですそうです。重い病にかかった女の子を元気付ける方法、それはずばり!」
「それはずばり?」
首を傾げて聞き返してくるエルルゥさんにびしっと指を突きつけて一呼吸。
すーはー。
うっし、気合充填完了、せーのっ!
「お婿さんを見つけてくることだあああああああああああああああああああっ!」
「お、お婿さん!?」
はうっと尻尾を逆立たせて飛び上がるエルルゥさん。
顔が真っ赤っかなところを見るとどうやらエルルゥさんもお嫁さんという言葉に想うところがある様子。
それならこのまま勢いで押し切る!
ノリと勢いで行動するのは反省したばかりじゃないかって?
あっはっは、今ここで熱く語らずいつノリと勢いに任せるっつうんじゃ!
「そんんのっとおおおおおおり! いいですか、女の子の究極の夢、それはずばり! はい、そこのエルルゥさん!」
「わ、私ですか!?」
「そう、エルルゥさんです! エルルゥさんが今一番なりたいものはなんですか!」
「な、なりたいものって、それは、その、立派な薬師に「ちっがあああああう」ひゃっ!」
はい却下、即却下!
そんなガールズトークらしからぬ夢は今は横に置いておけい!
いるでしょが、お婿さんと聞いた時の反応からして、思い浮かべちゃった男性の一人や二人!
「あるでしょが、エルルゥさんくらいのお年頃ならあるでしょが!
こうどろどろーっとして、めらめらーっとした熱く暗い情念が! じゃなかった青春が! つまるところラブがあ!」
ぶっちゃけちまうとあたしはそれがどんなんか知らないけど!
寝たきりだったし!
恋愛どころかボーイフレンドの一人もいなかったけど!
でもテレビはいっぱいいっぱい見てたのですよ!
いろんな恋愛も知ってるのですよ!
例えばほら、嫉妬に狂った女がこうぶすっと刺しちゃう奴とか。
いやいやそんなのはあたしの憧れた恋愛には程遠いけれど!
なんだかエルルゥさんに似合いそうだと思ってしまったのは、きっとさっき刺されたに違いないよね!
「え、えう、ら、らぶ? そ、その、確かに私はハクオロさんのことを。
で、でもそれはその、ハクオロさんからしたら私なんて、私なんて大切な家族の一人どまりですし……」
「ふっふっふ、言質してやったりいいい! つまりはそういうことなのです!」
現にユイにゃんの目の前で指を突き合わせもじもじしている女の子は、そんな切った張ったとは遠い世界の住人にしか見えないし!
「い、言われてみればユズハちゃん、あれやこれやとハクオロさんに気があるような素振りを……。
いえ、ユズハちゃんには何の罪もありません!
悪いのは、全部、ぜええんっぶ、誰にでも優しくしちゃうハクオロさんなんです! うふ、うふふ」
み、見えない、よね?
ま、まあ万一そのハクオロさんとやらが刺されちゃっても、どうせ死後の世界。
あたしには何ら一切責任はないのだあ!
だから今はただ熱く、思いのたけを語るのみ!
……うん、実はちょっと女友達とコイバナするのも楽しそうだなーって学園モノ見て羨ましく思ってたしね。
「お嫁さん、それは女の子の誰もが憧れる夢!
お嫁さん、それは女の子の求める究極の幸せ!
ラブ&ピース? NON! ラブ・イズ・ピースなのですよ!
愛が平和をつくるのです!」
ぎゅい~ん!
なんか今のあたしってすんげえロック歌手ぽくねと自画自賛しつつエアギター。
哀しいかなエアギター。
ああ、くそ、あのくそ天使二号!
やっぱバンドはヴォーカルがギターしょってくせえこと言うのが絵面的に痺れるでしょってことがなんでわかんねえんじゃ、ボケェ!
今さらだけどあたしんギターどこやっ、
「って、うあ、あれ?」
ぽてんと間抜けな音を立てて、あたしは何故かこけていて、夕焼け空を仰ぎ見ていた。
どうもくそ天使二号への怒りのあまり、エアギター時に仰け反りすぎていたらしい。
てへ、失敗失敗。
くっそお、マトリックス顔負け必須の仰け反り弾きがまだ身についていなかったとは~。
まっさかこの歳にもなって、ブリッジできないなんてことは……。
ないないあるわけない!
「ぷっ、ふふ、くすくす」
はい、そこ、笑うなあ~!
「うう、笑わないでくださいよ~」
「くすくす。ごめんなさい。ユイちゃんのことを笑ったんじゃなくて、その、トウカさんのことを思い出してしまって」
それ、正しくは、ユイちゃんのことを笑っただけじゃなくて、の間違いじゃないですか~?
しかも気づけばなんか、さん付けからちゃん付けに呼び方変わってるし。
その方が気軽であたしの方もいいですけどー。
って、む、トーカさんって誰だ?
「あ、トウカさんというのはハクオロさんのお側付きの方で。その、ちょおっぴりうっかりな――」
あたしん疑問がエルルゥさんにも伝わったのだろう。
エルルゥさんが、ハクオロさんという人とはちょっと違う感じだけど嬉しそうに語りだしたその刹那、
「そ、某、決してうっかりなどでは! うっかりなどでは!」
なんか出た。
「「え」」
なんかこう鳥の翼みたいな耳をした人型っぽいなんかが後ろから飛び出してきて、目があった。
「あ」
ぱちくりと目があうこと数秒、時間が止まる。
え、ええっと、あたしの傍らで同じく目をぱちくりさせているエルルゥさん。
話の流れからしてこの人がトウカさんでオッケーなのですよね?
だったら、だったらさ。
トウカさんが、腰に突き刺したままの“なんか戦線で見慣れた赤い色”が染み付いた木刀のことも説明して欲しいんだけど。
「ユイちゃん」
おお、さっきに続いて通じた、通じましたよ、あたしの疑問符!
そうだそうだ、その人にその血はなんなのか聞いてく
「紹介しますね。こちらが先ほどお話に出たトウカさんです」
通じてねええええ!
いやいや明らかに危機感欠けてるよ、エルルゥさん!
そいつの手に持っている木刀、どう見ても血痕ついてるって!
あ、けど、そういや野田先輩辺りはいつでも自分の血で真っ赤なハルバード持ってましたっけ。
このトウカさんって人も相当うっかりみたいですし。
自滅しまくるあのアホレベルなアホな人だというなら、血塗れの木刀を持っていたところでおかしくは、んなわけあるかああああああ!
だいたい今のも明らかに隠れてあたし達を狙ってたんじゃないんかい!?
なのについつい自分の話題だったせいで、うっかり反応してしまったってことなんじゃ!?
あれ、ってことはやっぱり一周回ってアホ?
「こほん。ユイ殿、エルルゥ殿が世話になったようで礼を言わせていただく。某の名はトウカ。
トゥスクルの皇、ハクオロ殿の御側付にして、エヴェンクルガの武士なり」
いまさらに取り繕ったー!?
アホ確定だー!
もののふなり(キリッ)って全然かっこついてねえわ、ボケ……っ!?
「否、今の某に武士を名乗る資格はないか」
――ボケはあたしの方だった
「あ……」
と言う言葉が遅れて耳に届く。
気付けば一足で瞬時に間合いを詰めた鳥女にあたしは叩きのめされていた。
後頭部が痛い。
多分そこにあの血塗れの木刀を叩きつけられたのだろう。
何故、鳥女が隙だらけだったエルルゥさんじゃなくて、あたしを先に潰したのかは分からない。
警戒心むき出しなあたしがまだしも油断しているうちに倒そうと思ったのか。
それとも、仲間らしいエルルゥさんには元より危害を与える気はなかったのか。
考えればいくらでも理由は浮かんできそうだけど、あたしはそれ以上考えるのを止めていた。
身体が、だるい。
思うように動かせない。
嫌になるほど懐かしい感覚だと、うつらうつらと夢現に思う。
意識が飛びかけている。
ああ、やだなあ……。
先輩とかはすごく平気そうに死んじゃいまくっていたけれど。
あれもやっぱり慣れだったのかなあ。
あたし、ずっと揺動班だったし。
実戦部隊のみんなと違って実はあの学校で死んだことなかったりして。
えへ。
出血ですよー、ユイにゃん、文字通り、出血サービスですよー。
まあ、でも、大丈夫、大丈夫。
どうせまた蘇りますから。
「ユイちゃん! ユイちゃん、しっかりしてください!」
エルルゥさん、そんな顔しないでよ。
「トウカさん、何故ですか、何故ユイちゃんを! こんなこと、こんなこと、止めてください!」
お母さんのことを思い出しちゃうじゃない。
「従えませぬ! これも全ては聖上の為……。我が忠義の為……」
「そんな! ハクオロさんはそんなこと、望んでません!」
アホトウカ、あんたもよ。
「エルルゥ殿もオボロ殿と同じことを言うのだな」
「当然です!」
「不思議なものだ……。オボロ殿に言われた時は、何故お前の方も殺し合いに載らないのだと怒りを顕にした某が。
エルルゥ殿、あなたの口から、殺し合いに反抗する言葉を聞けて安心している……」
天使みたいに無表情で刺しないさいよ。
「きっと、奥方であるエルルゥ殿には聖上と同じ道を歩んで欲しいと願っていたのであろうな」
「お、奥方って、そんな、私は」
そんな、もう届かない夢に手を伸ばしてたどこかの誰かみたいな顔しないでよ。
「否定してくださるな。我等エヴェンクルガの女は、生涯ただ一人の主に仕え、その愛をいただくことが定め。
されど。もはや血に汚れたこの身ではその愛をいただくことは叶わぬ……。
ならば、せめてと」
「トウカさん……」
止めてよ、ほんと。
止めてよ、マジで。
あたしはもう死んでんだって。
エルルゥさんもアホトウカも死んでるんだって。
死んでるから、死んでもそのうちひょっこり起き上がるんだって。
だから、だからさ。
そんな真剣に命のやり取りしてますよってやっても茶番なんだって。
茶番なんだから。
だから。
「とはいえ、某にエルルゥ殿を見過ごす気はござらぬ。お覚悟を!」
剣の柄に再び手をかけたアホを前に、あたしは死力を振り絞って立ち上がったのは。
何も目の前で誰かが死ぬのは見たくなかったとか。
あたしを殺した奴に一矢報いたかったとか。
そんな高尚な理由じゃなくて……。
単に
「あたしの……」
単に
「夢を……ッ」
ぶっぱなしたい程に腹が立っていた、それだけだ!
「穢してんじゃ、ねええええええっっッ!!!!!」
UZIが唸りを上げて無数の弾丸が撃ち出される!
陽動部隊だったからろくに銃を撃ったことのないあたしの弾が当たるはずもなく、あさっての方向にとんでくけど、それがどうした。
あたしがあいつにぶちこみてええのはこんな鉛玉なんかじゃない!
「違うでしょ、このアホ!」
その銃の連射音に負けないよう、大声であたしは叫ぶ!
「お嫁さんっていうのは!」
ちょこざいにも耳を頻繁に動かして弾丸をぎりぎり回避するアホに!
「幸せで、幸せで、幸せの絶頂の時になるもんで!」
銃を凝視して、驚愕の表情を浮かべつつ、後退していく影に!
「女の子の究極の夢でしょうがあああああっ!」
逃がすかと、逃げるなと、叫び続ける!
「だっつうのにオノレはなにやらかしてんじゃああああ!」
このあたしの怒りを! 魂の叫びを叩きつける!
「曇らせてんじゃねえよ! お嫁さんを泣かせてるんじゃねえよ!」
あたしの、夢なんだ! 奥方ってことは、お嫁さんってことで、それならエルルゥはあたしがずっと見続けてきた夢なんだ!
幸せで、幸せで、幸せでなくちゃいけないんだよ!
それにだ、それにお前だって、
「お前だって軽々しくお嫁さん諦めてるんじゃねえ!
なりたいんだろが、その好色家っぽいハクオロって人のお嫁さんに!」
死後だけど! 死んじゃってるけど!
それでもあたしだって未だにこの願いを叶えたいって思ってるんだ!
諦めたくないって思ってるのよ!
ほんとのあたしなんて、歩くこともままならない身体だけど。
「お、お嫁さんっ!? い、いや、某はお側付きであってそのようなものではっ!?」
「しゃああああっらああああっぷ! 言い訳するな!
何が忠義よ、じゃかあああしいいい!
お前はハクオロさんとやらが好きだから、愛してるから、死んでほしくないから殺してんだろがああ!
だったらそんな泣きそうな顔で、鬱陶しい顔で、あたしんこと刺してるんじゃねえええ!」
それを、それを、たまたま当たりそうだったあたしの銃弾を慣れたのか回避出来ちゃうようなとんでもない身体持ってる癖して。
諦めてるんじゃねえよ!
幸せとは程遠い顔して諦めてるんじゃねえよ!
「っ、某に、某に笑って人を殺せというのか!?」
「そうよ、だってあんた好きなんでしょ、その人が! その人のためにって、アホなことやってんだろが!
なら笑えよ、喜べよよ、そんな仕方無しにやりましたなんつう顔と引換にお嫁さん諦め、るな、よ」
ぐらりと、身体が傾く。
銃弾を撃ち尽くした銃が手からこぼれ落ちる。
あー、やべ、今度こそ、だめだ~。
再び視界が暗くなる。
なんとか視野を確保しようと、仰向けに寝返ったものの、しめたとばかりに遠ざかっていく影は、真っ先にあたしの世界から追いやられた。
待てよ、おい、待てよ。
まだまだあたし、お前にに文句、言い足りないんだよ。
ねえ、ねえってば。
「――さん、ユイさん!」
ふっと、あたしの上に影が落ちる。
うん、そうだ、そういえば。
あたし、この人にも言いたいこと、まだ沢山あったんだっけ。
どうしてハクオロさんの、お嫁さんなこと、隠してたのかとか。
トゥスクルって國は一夫多妻制なのかとか。
いっぱい、いっぱい、疑問は尽きない。
でも、怪我が治るのを待っていられないくらいに一番知りたいたいことは――
「ねえ、エルルゥさん。エルルゥさんが取られちゃわないか心配していたくらいですし、そのハクオロって人、すごくいい人なんですよね?」
そのユズハちゃんっていう子の夢が、叶いそうな夢だったのなら、
「じゃあ、じゃあ。例えば、家事も洗濯もできなくて。
それどころか、歩けなくて立てないような、一人じゃなんにも出来ない迷惑ばかりかけてるお荷物のような女の子でも……」
あたしの夢も、叶わない夢じゃなくて、叶う夢だったのかなーってこと。
「そのハクオロって人はもらってくれるのかな? 結婚、してくれるかな?」
「くれますよ。ハクオロさんは本当に優しい人で。誰にでも優しくて。いつも私が気が気じゃないくらいの人ですから」
即答だった。
それまでの泣いてぐずってた姿が嘘のように、はっきりと芯の通った声だった。
信頼と誇りの詰まった声だった。
なんだ、ほんとにお嫁さんだったんじゃん。
余りにも幸せそうだから、ちょっと嫌味も言いたくなっちゃうぞ。
「そんな優柔不断な人をお婿さんにしちゃったら、お母さんは楽できそうにないなー」
「大丈夫、ですよ。ハクオロさんは、それでいて、やる時はやる人で、頼りになる人で、すごく、すごくかっこいいんですから」
「惚れちゃいたくなるくらいに?」
「はい、惚れちゃいたくなるくらいに、です」
ああ、世界にはそんな人も、いてくれたんだ。
そっか、そっか、そうなんだあ。
「……さん! しっかりして――。――イ……ん!」
よかったぁ、あたしは、まだまだ、夢を、見られるんだ……
【時間:1日目午後5時半ごろ】
【場所:F-5】
エルルゥ
【持ち物:銀のフォーク、水・食料一日分】
【状況:健康】
ユイ
【持ち物:UZI(残弾零)、予備マガジン*5、水・食料一日分】
【状況:死亡】
トウカ
【持ち物:木刀、サクヤの支給品、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月09日 02:28