刹那「そういやお前達、いつの間にくっついてたんだ?」
リヒティ「アハハ。色々あってね」
クリス「ま、あんな事されちゃーねー♪」
刹那「あ、あんな事……!?ドキドキ」
リヒティ「確か刹那が消えて少しした後の事だったかな……
クリス「ほらほら、早く来なさいよーっ」
リヒティ「ま、待って下さいッスー!」
クリスはキャリーバッグを引きずりながら、リヒティを急かした。
搭乗時刻までまだまだ時間があったが待ち切れない様子でそわそわしている。
クリス「まだかな、まだかな」
リヒティ「後一時間ッス」
クリス「えー。……それにしても旅行行こうなんて珍しいね」
リヒティ「え…うん。やっと仕事も一段落ついたッスから……自分へのご褒美?」
クリス「あはは。女の子みたい」
笑いながらリヒティを小突く。
ご褒美に何故自分も一緒に…とは思ったが、楽しみの方が勝ったようである。
そうこうしているうちにやがて搭乗時刻は迫り、二人は飛行機に乗り込んだ。
クリス「17…17…ここね」
リヒティ「そっス。あ、どちら側に座るッスか?」
クリス「ん~。窓側!」
二人は荷物を上に置き、シートベルトを閉め、たわいない話を始める。
少しするとアナウンスが流れ、走行が開始された。ゴト、ゴトと尻に地面を走っている感触が伝わる。
クリス「んん…ん!」
リヒティ「唾を飲んで……」
クリス「……っふう…わぁ、良い眺め……」
目下に雲が流れ、青い空がクリスの目に入り込む。
星の海とは又違った美しさ、壮大さがそこにはあった。
リヒティ「あ、飲み物何か要るッスか?」
クリス「えっとね……ん……お茶で良いかな」
リヒティ「すみません、お茶で」
CA「畏まりました。空の長旅をお楽しみ下さい」
クリス「……本当に綺麗……」
リヒティ「クリスは飛行機に乗った事は無いの?」
クリス「ううん。何回か。でも、何故か今日は特に澄んで見える……」
リヒティ「そっか……俺にも何だか澄んで見えるっす!」
彼女は単に天気が良いだけだろう。そう思っていた、思いこんでいた。
薄々感じている感情を押さえ込むかのように、顔をガラスに張り付ける。
翼が壮大な空に堂々と伸びているのが見えた。
クリス「……ん」
いつの間にかまどろんでいたのだろう…ふと目が覚めた。
体には上着らしきものがかけられており、横にはリヒティが眠っている。
上着を脱いだ状態で。
クリス「……ん。ありがと、リヒティ」
リヒティ「んん~クリス…クリスの…なら…は……る」
クリス「え?何て言ったの?」
リヒティ「んぁ……あ、おはようさん……」
クリス「おはようじゃないわよ、バカ。寝言で何私の名前を呼んでるのよ」
リヒティ「え?わわ、何でもないっす……そ、そう。クリスタルを買った夢を見たの、うん!」
クリス「……なんだ……はぁ」
リヒティ「クリス……」
クリス「なんてね!勝手に夢で呼ばれると……」
笑いかけたその瞬間、轟音が機内に走り、動揺が広がる。
やがてアナウンスが入ったが、それは人々を絶望に落とすに充分な物であった。
『皆様方、誠に申し訳ございません。この飛行機は間もなく墜落致します!』
クリス「つ、墜落!?」
リヒティ「そんな馬鹿な!?」
『マイク、貸せ……お前達には悪いがその命貰うぞ!』
クリス「貰う……?まさか!?」
『俺達はカ……今更そんな事はどうでもいい。この便には地球連邦の要人の関係者が多数乗っているとの情報を得た。
……そこで諸君等は無能な連邦共に我らの叫びを届ける為の尊い犠牲となってもらう。みせしめという奴だ』
……そこで諸君等は無能な連邦共に我らの叫びを届ける為の尊い犠牲となってもらう。みせしめという奴だ』
クリス「な……にを無茶な事を言ってるの!?」
リヒティ「カルト宗教の狂信者か!?これだがらタチの悪い!」
『大多数の一般人には誠に申し訳ない。しかし、これは新しき世界を作る為の栄光ある第一歩である!
その一歩の犠牲となれる事を光栄に思ってほしい』
その一歩の犠牲となれる事を光栄に思ってほしい』
クリス「言っている事が無茶よ……」
リヒティ「ぐっ……」
『……喋りが……ぎた。も……10分……に……落す……だ……。
その…神の……なり何なり……げるが…い。……に栄光あ……』
その…神の……なり何なり……げるが…い。……に栄光あ……』
ノイズが酷くなり、死刑宣告はとぎれとぎれの言葉で締め括られた。
泣き叫ぶ者、神に祈りを捧げる者、ドアより飛び降りる者、気が触れた者、機内はまさに地獄絵図である。
その中、リヒティはクリスをしっかりと抱きしめていた。
クリス「嫌……嫌よ……死にたくない……」
リヒティ「クリス……クリス……っ」
クリス「パパ……ママ……助けて……」
リヒティ「気を……しっかり持つんだ……君は…強い子だろ!」
クリス「リヒ……ティ」
リヒティ「……すまない。俺が……君を誘ったから…こんな事に……」
クリス「……ううん…行く事を選んだのは…私の意思よ。あなたは…悪くない…」
リヒティ「……ありがとう……君だけは……」
クリス「え……?」
リヒティ「君だけは……俺が守る………!」
リヒティはそう言うとクリスの頭を抱え込み、包むように抱いた。
そして――飛行機が業火に包まれる―――
あれ……わたし、どうなったんだっけ……
凄まじい音が耳を貫いた、炎が機内を包み、乗客を焼いた事は覚えている。
まるでスローモーションのように思えたからだ。
それから……どうなったんだっけ……ああ、そうだ……リヒティが……
リヒティ「大……丈夫っすか……?」
クリス「リヒ…ティ……!?」
ふと安堵した途端、驚愕に目を見開いた。
彼の体は右半身――肩から腰に至るまでの服が焼かれ、その下の皮膚も焼かれ、黒い光沢を放つ機械の体があったからだ。
サイボーグ――!?その言葉が彼女の頭をよぎる。
リヒティ「大……丈夫っすよ…俺は……昔…親と一緒に…巻き込まれてこんな体に……」
クリス「あ…ああ……」
リヒティ「ずっと……忌まわしく思ってた……改造人間のようだ、って……
だけど……始めて良かったと心から…思えた……愛する人を……守れたから……」
だけど……始めて良かったと心から…思えた……愛する人を……守れたから……」
クリス「……リヒティ…」
リヒティが身をていし、座席に押し込まれていたたお陰で奇跡的に彼女の傷は浅かった。
彼は血のついた唇でニッと笑い、クリスも又微笑みを向ける。
クリス「……わたし、バカね…すぐ近くに、こんないい男……いるじゃない……」
リヒティ「……ホントっすよ………」
クリス「……見る目ないね、わたし……」
リヒティ「ホン……ト……」
クリス「……リヒティ……」
リヒティ「俺は……死にませんよ……夢、叶った…から……ヒーローは……死なないから………」
クリスを抱きしめながら、リヒティの瞼が閉じられた。
彼を抱きしめた、クリスの慟哭が場にこだまする――
刹那「え…ええ話や……泣かせるじゃないか!!チーン」
リヒティ「……なーんて。感じだったら劇的っすよねぇ」
刹那「……は?」
リヒティ「いつになっても刹那は騙しやすいっす」
刹那「……この鬼!!悪魔ァ!!!」
リヒティ「……ごめん。嫌な事思い出させちゃったかな」
クリス「……ううん。私にも忘れられない出来事だから……」
リヒティ「我ながらよく助かったよ……いくら機械面しか焼かれなかったからって……」
クリス「ふふ。ヒーローは死なないんでしょ?」
リヒティ「ん?」
油断していたリヒティの唇に唇を重ねる。
クリス「だって、リヒティは私のヒーローだもの」
おしまい
クリス「所で、あの寝言は何だったの?」
リヒティ「あぁ。『クリスの為なら俺は死ねる』っすよ」
クリス「……バカ」
リヒティ「えへへっ」
