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錨を降ろせ。」【タイトル】AMIDANT【作者名】

その一言を実行するまで、数時間は掛かっただろうか。
今だ鳴り響くエラー音の事を思考の隅に追いやりながら、そう考える。

「全く、何時も忙しいのが僕の悪い所だ。なぁ『J.A.S.T.I.S.』?」
『ご主人はいつも自ら大事に関わっていらっしゃると記憶しています。』
「うーん可愛げが無いな、誰に似たやら…お、安定してきたか。」

トレンドマークの青い帽子、もとい自立思考型AI『J.A.S.T.I.S.』の鍔を摘まみながら、その成長ぶりに溜息をつく。
そうこうしている内に、錨がかき鳴らしていた鎖の音が聞こえなくなった。
どうやら無事に『航空戦艦アビダイン』は孤島として安定したらしい。

事の次第はこうだ。
僕等はとある事情から並行世界やマルチバースを『アビダイン』…世界間航行可能な航空戦艦で行き来をしていた。
勿論世界相手に喧嘩を売るだのするつもりでは無く、言ってしまえばただの人探しとしての手段として「一歩間違えれば世界を破壊させかねない戦艦」を使っていただけだ。
のだが、突如としてこの観測都市とやらに引きずり込まれたらしい。
脱出の手段を尽くしたが健闘虚しくこの世界へと落ちる事になったアビダインは、無理やり引き込まれた影響か中破。
双胴艦特有の二つの船首を無惨な姿にされ、被害は船全体に波及しており、そんな状態で海に不時着する羽目になった。
浸水、漏電、火災、崩落…様々な障害に悩まされたよ。
まぁそこで終わる僕では無いけどね、何とか修理、復旧作業に取り掛かった訳だ。

『ようこそ、“観測都市”へ…』
『熱っ!あっつつつ!!あいたっ!?』

ご丁寧にも、僕の頭に直接情報を届けてくれたルイ・サイファーとやらのお陰でこの世界について知ることは出来た。
マルチタスクの一部を省略できた喜びが「そもそもこうなった元凶だろう」という怒りに変わるのにそう時間は掛からなかったが、代わりに錨を降ろしてアビダインを洋上に固定させ冒頭に至る、というわけだ。
ほら、笑いどころだぞ?

「さて、これ以上の修理には流石に材料が足りない、か。」
『研究、開発、自衛は可能です。しかし移動は不可能となっております。』

J.A.S.T.I.S.の告げる復旧状態を鑑みながら、これからの計画を立てていく。
まずこの世界の大まかな情報は知れた、だが事細かな勢力図等は一切分からない。
迂闊に動けないことには変わりないと、手元のアビダイン設計図を片目に見る。


洋上に浮かぶのが精一杯なボロ船が、ついさっきまでこの図にある純白の戦艦だったと思える者はそう多くないだろう。

「…動くしかない、か。今は仲間にも連絡が付かなそうだ。」
『危険ですが、事は急を要します。それが賢明かと。』

今だ反応を示さない世界間通信端末を懐に仕舞い、薄暗い艦橋から出る。
無傷だった僅かなライトに照らされ、鏡の様に磨かれた廊下の壁に写る120cmの少年の体。
この幼い容姿を見て、この船の主だとは思わないだろう?


自己紹介が遅れたね、僕の名はアビィ・ダイブ。
人間ではない、トゥービーシリーズと呼ばれる内の一体、その異常体のなれの果てだ。
まぁ、君達が僕等を知る術は恐らく無いだろう。
…誰にするでもない自己紹介を脳内で終えた後、外に繋がるバルブ扉を潜って、夜空を見上げる。
丁度0時だろうか、星々の輝きが絶え間なくまき散らされていた。

「さて、買い出しと行こうか。J.A.S.T.I.S.、必要な分子をピックアップしてくれ。」
『解析中…現状の設備では完全復旧は不可能と判断、設備の改修を提案します。』
「そりゃまた大仕事だ。じゃ、行こうか。」

さてここで問題だ。
先程も言ったがここは洋上、僕は一体どうやって『買い出し』に行くと思う?
ヒントは甲板で帽子を脱いだことだ。


ほら、もう分かってきただろう?なんて自問自答しながら、ついさっきまで帽子だったモノに跨り、エンジンを始動させる。
マイクロブラックホールの静かな唸りを聞き、クラッチを繋げる。
同時にウィリーしだしたじゃじゃ馬を前へ前へ抑え込みながら、海へと飛び出す。
さぁ答え合わせだ。
ボタン一つで展開されるバリアを纏い、水飛沫を上げて海に落ちる。
そして「海水に触れる事無く」海底に着陸した僕達は、周囲の海水を押し退けるバリアと共に、近くにある川の先を目指した。



【G-3『アビダイン』→D-2『繁華外』/アビィ・ダイブ(トビィアカフジシリーズ)/一日目・午前0:00】



コッソリと川を上り、バイクを仕舞い、街へと出た僕等を待っていたのは、意外にも平和な日常だった。
日本で見慣れた衣服を着こむ人々、深夜にも関わらず活気のある街並み、目を焼きそうな程のネオンの数々。
拍子抜けと言った感情を顔に出しながら、大通りを通っていく。
買い出し最初の障害は警察の補導かな?等と思い始めた頃だっただろうか。
視界の隅に「彼」を見つけたのは。

「なぁ、あれはコスプレの類いかな?」
『解析中…一部既存の素材と一致しない素材が使用されていますが、全て実用品です。未知のエネルギーも検出されました。』
「わぁお…”こっち”側、かな?」

白を基調としたスーツに鎧、そして腕に如何にもなコンピュータを付けた、サイバーチックな戦士。
そんな明らかに周りから浮いた姿の彼の眼に、何処か「死んでいる」様な、親近感を感じた。
…この世界に巻き込まれた者、だろうか。
そんな希望と、何処か放って置けない気持ちを胸に、僕は話しかけた。
「やぁ、少年。」







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