夜。男が一人、立っていた。
──────あんた、何処から来た?
男は、壁を見ていた。
──────壁の中から来たなら悪いことは言わない、家へ帰りな。
男は。ただ。
◇◇◇◇◇◇◇
「有り金全部置いてって。そうすれば命だけは助けてあげる」
スラム街、と余人が聞けば一体何を連想するであろうか。路上で貧困に喘ぐ人々、横行する犯罪の数々といったところか。事実、この街ではそのような光景を日夜見続けることができる。正しく、人々が想像するのであろうスラムの風景だ。深夜の街並み、その一角で、また。犯罪の一つが、行われようとしている。
「くだらんな」
丸眼鏡を掛けた、無精ひげを生やした青年。スラム街、その裏路地の一角にて、彼は言葉を発した。その眼光は鋭く睨みつけるようにも見える。工業力、技術力が発展し、生活基準が高水準のそれに達した先進国。そこから、あの男はやって来たのだと、道行く街の住民達は、彼の身に纏うジャージやジーンズを見て、皆一様に思う。それらを買う金すら枯渇していて存在しない彼らにとっては、貴重品であるのだ。
……そんな彼が、今この瞬間において、犯罪に巻き込まれるというのも、このスラム街においては何らおかしなことではなかった。無精ひげの青年の首元に、ナイフがあてがわれる。十歳にも満たない、泥だらけのみすぼらしい身なりをした少女によるものだった。明日を生きる為の食い扶持すら、彼らには保証されてはいないのだ。故に、金を、果てにはその身ぐるみをはいで、明日の、そのまた明後日の食い扶持にする。弱肉強食、強いものが弱い者を餌として喰らう古来より存在する自然の摂理。このスラム街は、その弱肉強食の概念が常であるアフリカのサバンナと何ら変わりはないな、と青年、『佐田国一輝』は実感していた。
「その程度で、この俺が屈すると思っているのか?笑わせるな」
嘲るように、佐田国は笑った。途端にナイフの刃が、首にほんの少し食い込む。ぐっ、と周囲の空気が圧迫されるような錯覚すら、感じる。一触即発の、張りつめた空気。「ほんの少しでも口答えをしてみろ、今すぐにでもその首を掻き切ってやるぞ」、ナイフをつがえる相手の主張としてはそんなところだろうか。
「もう一度言うよ、有り金全部置いてって」
佐田国を襲った相手としては、別に殺しても良かった。何故なら、彼は何一つとして武器を持ってはいないのだから。それでも、こうしているのは、少女の僅かに残った善性故のものだろうか。
「断る。俺には成さねばならないことがある。こんなところで貧乏人に恵んでやるほど、物資に余裕があるわけでもない」
「あんたに選ぶ権利なんてないんだよ。……その目はお飾り?この状況が分からない?」
「生憎と、全盲でな。お前の顔すら分からん。しかし、これだけは分かるぞ。貴様は一人で、武器はナイフ一つ、それだけでこの俺を脅している、ということが」
「だったら何かしら!?平和ボケしたあんたなんかこれで十分だよ!!毎日毎日、生きるためにあたしたちがどれだけ苦しんでいるのか、分かるか!!」
「あんたに選ぶ権利なんてないんだよ。……その目はお飾り?この状況が分からない?」
「生憎と、全盲でな。お前の顔すら分からん。しかし、これだけは分かるぞ。貴様は一人で、武器はナイフ一つ、それだけでこの俺を脅している、ということが」
「だったら何かしら!?平和ボケしたあんたなんかこれで十分だよ!!毎日毎日、生きるためにあたしたちがどれだけ苦しんでいるのか、分かるか!!」
淡々と、返答を返す佐田国にしびれを切らしたのか、どんどんと語調が荒くなってくる少女。羨望、嫉妬、憎悪。その心情の吐露は、佐田国に対する負の感情で占められている。明日食べるものにも困らない平和な日々を送っているであろう佐田国へのものだった。どこまでも人間的な、感情だった。
「そんなあんたなんかに、あたしは」
「もう一度言うぞ、くだらん」
「お前っ……!」
「“生”への執着など、下等な獣の如き本能だ……まだわからんか?」
一歩、踏み出す。大股だった。少女ではない、動いたのは、佐田国の方だ。突き付けられたナイフの刃が、その一歩の分だけ首筋の皮膚を裂いていく。逆に一歩、少女は後ずさり始める。この眼前の青年のただならぬ気迫に、圧されたのだ。
「俺は、革命という偉業を成す、その為だけに生きている!!」
「何をッ──────」
「何をッ──────」
少女は、その言葉に何か返す前に、死んでいた。
「………………お前は?」
少女の首は、突如として乱入した男によって両断されていた。切断面から噴き出す血液。
その凶器が、とある世界では『超硬質ブレード』と呼ばれることを、佐田国は知らない。
死臭が蔓延し始める中、佐田国は笑みを浮かべた。
その男の顔が、彼の求める同志のそれと同じだったから。
『ルイ・サイファー』に従うつもりなど毛頭もない。
斯様な世界がどうなろうが知ったことではない。だが、自身の野望の邪魔をした輩に下してきた罰が何なのかは、言うまでもなかった。
その凶器が、とある世界では『超硬質ブレード』と呼ばれることを、佐田国は知らない。
死臭が蔓延し始める中、佐田国は笑みを浮かべた。
その男の顔が、彼の求める同志のそれと同じだったから。
『ルイ・サイファー』に従うつもりなど毛頭もない。
斯様な世界がどうなろうが知ったことではない。だが、自身の野望の邪魔をした輩に下してきた罰が何なのかは、言うまでもなかった。
「アンタ、革命を起こすって言ってたな」
「………………」
「オレに手を貸せ。ルイ・サイファーごと、この世界をひっくり返してやる」
だから、佐田国一輝は。この提案に……乗ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
世界があなたを変えれば、あなたは世界を変えられる。
──────チェ・ゲバラ
【C─2・スラム街/エレン・イェーガー(進撃の巨人)/一日目・午前0:30】
【C─2・スラム街/佐田国一輝(噓喰い)/一日目・午前0:30】
【C─2・スラム街/佐田国一輝(噓喰い)/一日目・午前0:30】
| GAME START | エレン・イェーガー | |
| GAME START | 佐田国一輝 | |
| GAME START | ERROR | Wな怪盗/意志ある者には力を |