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意志ある者には力を

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heikoie

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だれでも歓迎! 編集
_むせかえる程に立ち込めた、人間だった者の匂い。
スラムでは特段珍しくもない、抵抗なき死体のサイン。
スラム中のハエが一同に集まり、犇く、ここは羽音のコンサート会場。
本来であればハイエナの如く人が群がり、そして尊厳無き奪い合いが起こっていただろう。
明日を迎えられなかった者から僅かにでも明日の糧を喰らおうと。
そうして一握りのハイエナの王以外がミイラ取りのミイラとなる、追い剥ぎ達の祭り。
共食いとも呼べる、自らの命を選ぶ事しか出来ない真の弱者達の選択。
凄惨で、陰湿で、残酷な、つまらない現実が起きる筈だった。

それが起きなかったのは、ある意味で彼等は強かったからだ。
スラムに蔓延る死を掻い潜り、少なくとも今日まで生きてきた。
だからこそ、その異常な程に『濃い』死の匂いを恐れ、近づかなかった。
ただの刺し傷などでは起こせない、人の血を全て注いだ様な、死神の足跡。
当然だ、そこに倒れているのは首を真っ二つにされた人間の死体。
身体を巡る全ての血を吐き出した様は、即ち『人の体を断ち切れる存在』の証拠でもあった。
その力が、もし自分に向けば…そう考えられる事が、スラムにおける生存条件。
進んで死神に近寄る者など、このスラムではとうの昔に朽ち果てる運命だ。

故に誰も近づかず、恐れを知らぬハエ達のヴェールが形作られる。
そうして宙を舞う黒い幕によって、この少女の人生は幕を閉じられた。
ただ生きようとしただけだった結果の果てを、遠巻きに"黒猫"のみが知り、見届ける。
そういう運命だった。

「…こんな『現実』は認めない、絶対に。」

突然だった。
ハエが模った死という運命の歯車が、音も無く外れたのは。
取り払われた幕の中にて、いつの間にか現れていた"白衣の男"の手で、少女の首が繋がっていたのは。

「_かはっ…!?」

少女の目に、断ち切られた筈の命に光が戻った様は、まさしく神の手と言うに相応しい。
外なる世界の手で消えた命なら、その命を蘇らせるのもまた外なる世界の手だというのか。
土汚れを気にせず片膝を付いた男に抱えられ、少女は生きていた。

「ぁ…あた、し、生きて…」

混濁していた少女の意識が、次第に目の前の男を認識する。
覚えている中で最期の記憶にいた男とは、死神達とは別の男。
何処か頼りない雰囲気を持ちながら、しかし同時に親しみを感じさせる目付きをしていた。

「うん、生きているよ。今ここで、君は確かに生きている。それが『現実』なんだ。」

暗示するように少女へ語り掛ける男。
彼もまた、死神と同じ様な新品の衣服を纏っている。
そう気付いた時、体は無意識にあのナイフを、武器を求めていた。

「ナイフなら、ここにあるよ。」

そんな考えを見透かされた様に、彼はナイフを見せる。
刃先を持って自分に向け、少女を傷つけないように。

「_ぁ…」

そして自分が何をしようとしていたのか、その事に気付いて、今まで平気でしてきたそれを初めて嫌悪した。
どんな手品か知らないが、消えた筈の命を繋いだ恩人。
そんな男にナイフを向ける等、僅かに残った善性が許さなかった。

「わ、悪かったよ、混乱してて…」
「そう、君は混乱していただけ。だからもう、誰も傷付けないし、君も傷付けさせない。」
「傷付けさせないって、どうして…」

苦し紛れの言い訳を、男はすんなりと受け入れた。
そんな様に心を許してしまい、その隙間に入り込んだ男の言葉を真に受け、聞いてしまう。

「夢物語に聞こえるかもしれないけど、僕はこの世界を変えるつもりだ。このスラムも含めて。」
「っそんなの!どうやるって言うのさ!?あたしは、あたし達はずっと…こんな。ハイエナみたいな生き方を選んでっ!!」
「それは仕方が無かった事なんだ。今日、この時になるまで"選ばざるを得なかった生き方"だったんだ。」

男は言う、仕方が無かったと。
少女は嘆いた、どうすれば良かったのかと。

「だったら何だってのさ!今更っ…!変えられる事なんて…」
「その選択の果ては、残酷な物だった。でも、その結末を僕が変えられることは、君自身が知っている筈だ。」

男の言葉が、命を繋いだ奇跡を思い出させる。
同時に、その奇跡と巡り合う事になった"あの恐怖"をも。
首が赤熱した感覚と共に天地が逆転し、最後に自分の体を見上げたあの光景を。

「_ぁ。」
「何があったかは聞かない。けど、辛いなら吐き出した方が良い。」

まただ、この男は心を見透かした様な事を言ってくる。
だがそんな言葉を、何故か少女はすんなりと受け入れてしまう。

「…男が居たんだ、あんたみたいな、綺麗な、身なりの。」

言葉の一つ一つを、ぽつぽつとこぼしていく。

「ほ、ら。スラムって、そんな、服だって、明日の金に、なるし、無防備、だったから…」
「そっか、そうするしか、生きる術は無かったんだね。」

まるで教会の懺悔室の如く、あの時…いや、今まで抑え込まえれていた罪悪感と共に、震えた言葉が少女の喉から鳴る。
それでも、男はそれを受け入れた。

「悪い事なのは、分かってたさ。でも、でも…」

そこからはもう、本音が零れるのみだった。

「あの男は、くだらないって、ただ生きているだけだって、気圧されて…」

あの時追いつかなかった感情が、今、少女の声と共に現れる。

「そしたら、く、首、を、斬られ、て。ぁたしが、あたしの、体を見上げて…!」
「もう、大丈夫だ。君は死んでなんかいない。生きたいという願いは、叶ったんだ。」

己を確かめる様に首を触りうわ言を繰り返す少女。
その手を取り、割れ物を扱う様に少女を包み、微笑みを向ける丸喜。
暖かさが、突き詰められた優しさが、少女の心を剝いていく。

「ぁ、ああぁ、ああぁ…!!!」

周り全てが敵だったのが当然の事で、今日の全てが突然の事で、この世界にとっては偶然でしかない事で。
それでも、初めての自分の味方が現れた事に、少女は運命を感じざるを得なかった。
そう思った時、ボロボロと零れだす涙と嗚咽は止まらなくなった。

「僕は丸喜拓人。君の味方だ、そうでありたいと思ってる。だからもう、怯えなくて良いんだ。」
「あ、うぅ、うあぁぁ…!!!ああぁぁぁ!!!!」

誰にも見せなかった、今日まで溜めてきたそれを、感情を止めようとは考えなかった。
薄汚れたスラムの一角、そこに現れた男の中で、少女は泣いた。
誰も近寄らなかったからだとか、そんな事は頭には無かった。
この男は、何の引き換えも無しに理不尽な死から救ってくれたのだと、本能で分かっていた。
少女にとって、彼、『丸喜拓人』は『救世主』だった。



「気は済みましたか。」

一頻り泣いた頃だろうか、白衣の視界の中で不意に響いた老人の声で、少女は漸く今の状況を思い返した。
状況が状況とは言え、今日あった見知らぬ男に泣きついて、それを誰かに見られた。

「っ---!!」

少女は生まれて初めて、羞恥という感情を覚えた。
そして覚えたての感情に突き動かされ、丸喜から離れて老人へとナイフを構える。
『黙らせたい。』『見なかった事にしろ。』そんな理由で武器を向ける。
幼稚と言われるかもしれないその行動もまた、少女にとって初めての体験だった。

「大丈夫、僕の仲間だよ。」
「え、あぁ…」

だが丸喜に静止され、その行為はすんなりと終える事となる。
暗に諭されたのだろうか、そんな考えが過る程、少女の心に丸喜という存在が居座っていた。
だからだろうか、他人を庇うような動きになったのは。
それ故に、彼の言葉には素直になれた。

「…あんたは?」

改めてその老人を見れば、やはりスラムに似つかわしくない格好をしていた。
紫色のマントを斜めに羽織り、白いスーツを来た初老の男。
こんな所ではすぐ餌食になる様な格好だが、丸喜の仲間ならば大丈夫だろう。
そんな考えが自然と湧くほど、少女は冷静になっていた。

「紹介するね。彼は東郷王我、ちょっと怖い顔をしてるけどすぐ慣れるよ。」
「人の顔について、本人の前で言及するものでは無いですよ。」
「あはは、ごめんね。」

苦笑を交えた雑談をする二人を見て、少女はすっかり警戒心を解いていた。
そんな時だろうか、体からふと力が抜けたのは。

「あ、れ…?」
「おっと、心配させたかな…?」

緊張の糸が途切れたのだろうか、それも無理はない。
今日という日が始まった深夜0時から僅かな時間に、あれだけのことが起きたのだ。
自分諸共世界が変わった様な感覚に、擦り切れて麻痺した筈の精神が、科学的に言えば自律神経が悲鳴を上げていた。
そうして覚束なくなった体を、丸喜が再び支える。

「あ、いや、大丈…うぅん、もう少しこのままで…」

ヌチャッ、と。
そんな音が丸喜の体から、正確には白衣から静かに鳴り響く。
何てことは無い、さっきまで少女が望んで出した、涙と鼻水の濁音だ。

「…悪い、服汚しちまったよ。」
「あー、良いんだ。替えはあるからさ。前にも同じ事あったなぁ…」
「?」

どこか遠い目をしながら、厚手の白衣を脱ぐ丸喜。
そして中の黒いシャツが無事なのを確認すると、"何もない空間"に"赤黒い泥の様な穴"を空け、新品の白衣を取り出した。
二着あるのは、少女の分だろうか。

「え、え?何だいそれは!?」
「あっこれは、うーん…どこから説明したら良いやら…」
「どうやら『メメントス』は定着したようですね。」

手馴れた動作で行われた、異常現象。
その突然の現象に少女が、どう説明するかで丸喜が、お互いが混乱する中、王我が口を開く。
メメントスという聞き慣れない言葉に疑問を呈し、そこから漸く少女の興味が王我へと向いた。

「…そもそも、あんた達は、何をしに来たんだい?ここはただのスラム、追い剥ぎばかりで世界を変える様なもんなんかないよ。」

遠回しに彼等を心配している言い回しをする少女に、丸喜が一息付いて、語る。
自分たちの目的を、行動を、その意図を。

「…そうだね、ここはお互いを食いつぶして、一日を生きていくしかない人ばかりだ。ただ死にたくないだけなのに、罪を背負わなければならない。」

目を伏せながら紡がれる台詞は、絶望という感情を堪えたようなトーンを放っていた。
きっと他にもそんな生き方をしてきた人間を、罪人を見てきたのだろう。

「でも、それも今日で終わりだ。"彼女"が皆を纏め上げたら、後は僕等が人々の意志を一つにする。過ちの無い、明日が来るかどうかに怯える事の無い世界を。」
「な、何を言ってるんだい!。彼女って…?」
「…逸材を見つけたな、丸喜。"もう一人"は逃したが…まぁいい。」

噂をすれば影、と言ったところか。
ヒール特有の軽い足音に重圧の乗った、灰色のセミショートをした、"黒い角"の女性が街角から現れたのは。
偶然にしては出来過ぎているタイミングだった。

「終わったのかい、タルラ。」
「あぁ、彼等は皆、同士になった。」

だが彼女、タルラに続いて現れた"白衣の人々"を見て、少女の些細な驚愕は衝撃と共に消え去った。
白衣についたフードの下に見える、"スラムの人々の顔"を見て。

「な、ぁ…あんた等…!?」

スラムでは名を持つ者は殆どおらず、故に顔が重視され、相手を顔で覚える。
その中でも特に強く生き抜いてきた、ライバルという腐れ縁を結んだ者達の顔は、別人の如く様変わりしていた。
あれは、屈服した者の目だ。
絶望、超えられぬ壁、絶対なモノ…自らが叶わぬ何かを目の当たりにして、受け入れた表情だと、少女は知っていた。

「お前は…そうか、お前も同士になったんだな。」
「同士って…一体全体何なのさ!?この集まり、は…っ!」

それほどの者なのかと、叫びを上げてタルラの方を向く。
直後、胸の内に膨れ上がった畏怖の念に反比例してその声は鳴りを潜ませた。


蛇に睨まれた蛙とはこの事かと、僅かな学を司る脳が何処か他人事の様に思い浮かぶ。
いや、他人事にすることで意識を隔離し、自我を守ろうとしたのかもしれない。
彼女から放たれる、人ならざる圧力、異質な存在感…"死神"を凌駕する気配から。
現にカラカラと乾いていく喉を潤す事も出来ない程、全身の筋肉は強張り、動かない。
あれは人の放って良いモノでは無いと、生きた"天災"だと、少女の本能は分かっていた。

_カラッ
「ぁ…」

乾き切り、粘りを持った唾液が泡立つ。
その音を立てた事に、ソレの前で行った事に、恐怖がこみ上げる。
止まった体の代わりに激しくなる脈拍音が、脳を支配する。
そうして、とうとう堪え切れなくなりそうになり、視界が暗転し始め…

「_タルラ、悪戯にこの子を怖がらせないでくれ。」
「_余興が過ぎたな。だが、間違いでは無かった様だ。」

ストンッ、と。
肩に掛けられた白衣と丸喜の手の重み。
それと入れ替わるように、少女を蝕んでいた重圧は何処かへ落ちていった。

「ッハァ、ハァ…!?」
「済まない、すぐ止めるべきだった。」

思い出した様に行われる荒々しい呼吸が、あふれ出る汗が、少女の意識を取り戻させた。
そうして再び目の前を見れば、そこには焼き焦がれたような制服の女性がいる、という認識だけが少女に残っていた。
思い出したくも無いあの重圧は、もうタルラから放たれていなかった。
文句の一つも出したくなったが、それすらも馬鹿らしく感じ、丸喜に背を預けた座り込んだ。
それほどまで、タルラという存在が少女の心に焼き付けられていた。

「ふぅ―…はぁ…あんな女ともつるんでるのかい…?命が幾つあっても足りないさ。」
「あはは、彼女もそうせざるを得なかったんだ。それより、もう大丈夫かい?」

同時に、彼女と対等に話し合える丸喜と王我に対しての印象も変わった。
頼りない顔をしていても、心臓に剛毛が生えた様に図太い連中だと。
そう思ったら、なんだが畏れる事が馬鹿らしくなってきた。

「_ハッ、もう平気さ…全く、通りであんた等が従う訳だよ。」
「お前も感じたか、だがそれだけで集まった訳じゃねぇよ。」

そう語るのは、スラムの者として少しは有名だった男。
何処か遠い物を見る、以前からは想像も付かない表情をしていた。
タルラの元に集う理由となったモノ、恐らくはそれを"感じて"いるのだろうと、少女は当たりを付けていた。
その視線の先で、タルラが語り始める。

「_今日、ここに意志を持ち集った者達よ。」

タルラの指先で僅かに振られる、腰に掛けられた大剣。
それがカチャリと音を立てれば、白衣の者達はもう、彼女の言葉に耳を傾けるのみ。
口を一文字に結び、タルラただ一人に視線を集中させる。

「今日までの命すら約束されず、それでも死に抗った者よ。」

羽音一つも無い静まり返った空間で、彼女の演説が響き渡る。
喋るたび、彼女を中心にあらゆる圧が広がっていく。
少女でさえも、丸喜と共に唾を呑んで見るのみだった。

「いつか破綻するその命運を変える時は、今日、決まった。」

その重圧に相応しい大剣を、片手で軽々と、しかし重みのある動作で掲げる。
白衣の者達が、少女が、ゆっくりとその矛先を向く。
その切先が指し示すは繁華街、そしてその象徴たるランドマークタワー。

「スラムの者の、我ら『レユニオン・ムーブメント』の生き様を、壁の向こうで見物とする者達へと。」

すぅ、と一息溜め、告げる。

「_焼きつけよ。その為の力はもう、その手にある。」

言葉の重みが、彼等の手の中に音も無く現れた『白い仮面』となって現れる。
一瞬走ったどよめき。
だが彼女の立てた剣の音が、再び静寂を取り戻す。

「身に付けよ、そして立ち上がれ。」

その言葉を聞いた彼等の躊躇は、ほんのわずかだった。
次々と『仮面』を被る音が鳴り響き、程無くしてスラムの者達全員が付け終えた。

「…ぁ、あぁ…アァァ!」

変化はすぐに訪れた。
頭を抱え、もがき苦しむ者。
身体を抱え、何かを抑え込もうとする者。
やがて叫びを上げ、"赤黒い泥の様なモノ"を噴き上げる者。


_▬▬▬▬▬…!!!

その叫びに混じったナニカの声と共に、満月が赤く染まっていく。
そこから色の無い液体と共に流れ出てくる、透明な何か。
認識できない、認識したくも無いような、冒涜的な光景。

「"アレ"も呼びましたか、いよいよ大詰めですね。」
「_な、何が起きてるんだい!?なぁ、丸喜!?」
「…意志の現実化、彼等の心にある影(シャドウ)を、疑似的に顕現させたんだ。」
「やはり、スラムの者であれば強い影を持つと思っていました。」

全てが狂っている光景の中で、丸喜と王我は淡々と喋る。
分かっていた様な素振りに、少女は声を荒げた。

「言ってる事がわかんねぇよ、丸喜!!あいつ等は、どうなっちまうんだ!?」
「彼等は影を影のまま使う、いわば『シャドウ使い』になった…ただ、それだけだ…」
「それだけって…」

苦虫を嚙み潰した表情の丸喜を見て、これが本心では無いと少女は悟った。
それでも、少女は問わずに入れなかった。
この変化の行く末を。

「…これで、本当にあたし等は幸せになれるのかい?」
「_それは約束するよ。皆、笑って明日を待ってられる未来へと導く。誰一人として、取りこぼすつもりはない。」

次いで紡がれる確かな宣言に、少女は丸喜の覚悟を感じ取った。
この狂気の沙汰を超えた先に、丸喜の言う幸せな未来が待っているのだと。
故に"奇跡を起こした男"を信じて、これ以上は問わなかった。

「…分かったよ、それよりあたしには仮面を付けないのかい」
「その必要は無い、お前には既に資質がある。」
「…そうか、君もまた『ペルソナ』を…」

丸喜への問いに、スラムの者を背にしたタルラが答える。
もっとも、今の少女に理解できる答えでは無いが。

「…そうかい、よく分からないけどあんな風にはならずに済む訳さね。」
「賢明な判断をしたな。貴様は…さて、名を聞いてなかったな。」
「そういえば自己紹介を聞いていなかったね。」

ここに来て、話題の中心が少女へと移る。
3人の視線に一瞬たじろぐが、すっかり慣れてしまったのかすぐに返事をした。

「名前なんて無いさ。皆、顔で覚えるのさ。」
「ならば、新たな名を授かると良い。生き帰った者よ。」

タルラの言葉を聞き、すぐに名前は思いついた。

「…やっぱり、一度死んだんだね、あたしは。」
「そう、だね…けど。」
「生きている…いや、蘇らせたんだろ?なら、名前は決まったよ。」

そう言って少女は自らを命名する。

「『Re:Survivor』、『リサ』。それがあたしの名だ。」

【C─2・スラム街/リサ(オリジナル)/一日目・午前1:00】
【C─2・スラム街/東郷 王我(オリジナル)/一日目・午前1:00】
【C─2・スラム街/丸喜 拓人(Persona5 the Royal)/一日目・午前1:00】
【C─2・スラム街/月の悪魔(Bloodborne)/一日目・午前1:00】
【C─2・スラム街/タルラ(アークナイツ)/一日目・午前1:00】



_スラムで生き延びるには、死を嗅ぎ取り避ける能力が必須だ。
だが中には、その裏を掻くものもいる。

「ハッ、ハッ、ハッ……!」

青い髪をたなびかせ、虫取り網を片手にスラムを駆け抜ける彼もまた、その例外の一人だった。
焦燥を抱いた表情と共に、建物をよじ登り、軽々と駆け抜けていく。
不衛生な虫等を取っては原始的な火起こしで消毒し、腹を満たす日々を送る少年。
スラムに住まう者でも遠慮しかねない暮らしを送る彼は、誰が呼んだか虫取り網の『アミ』。
彼は数少ない名持ちのスラム暮らしだった、今日の0時過ぎまでは。

「(ヤバイ、よく分からない、けど間違いない!)」

今日もまた、死神の気配を感じながらあえてその場へ赴き、そこに集ったハエや"肉"を食べようかと考えていた。
だがそこで目にした光景を、仮面を付けた人々を、そしてタルラ達を見て、本能的な恐怖がそんな考えを塗り潰した。
アレと関わってはならない、近寄ってはならない、気付かれてはならない。
そう思った時、既に体は逃走を選んでいた。
不幸中の幸いか、誰一人にも気付かれることもなく場を離れる事は出来た。

「(どうしよう、これから何処で生活しよう?いや、彼等はどこまで動んだろう?)」

だが会話を聞く余裕は無く、アレがこの世界にどう影響するかまでは分からなかった。
せめて少しでも聞いていれば…そう思いながらも、あの場に留まれる自信は無かった。
せめてもの情報欲しさか、走りながら口惜しげにスラムの方を向く。

「あぁ少しでも聞いていれば……あれ、猫…?」

いつの間にか、"黒猫"が後ろを付ける様に併走していた。
そういえば、この猫も少女の結末だったモノを一緒に見ていた事をアミは思い出した。
災いの兆しとも言える黒猫。
そんな存在もまた、あの死神を超えた何かには畏怖せざるを得なかったのだろう。
普段は獲物としてしか見てなかった黒猫に、今は親近感を覚えていた。

_ドンッ
「…あっ。」

そんな事を考えていたからだろうか、前に居た男にぶつかってしまったのは。
自らの背丈を遥かに超える、大男の二人組と遭遇したのは。
ぶつかった方の男は、事実上のタックルを受けても微動だにしなかったが。

「_?」
「ご、ごめんなさい!前を見てませんでした!痛い所はありませんか!?」

上質だったであろうボロボロな黒衣の汚れを払いながら、早口で謝罪をする。
その感触の異質さに違和感を覚えながらも、ひたすら謝り倒す。
今は"アレ"から一刻も早く離れるのが先決だと、そう考えていたからだ。

「_ん、無い。」
「それは良かったです!それでは急いでるので、これで…」
「_おい、待て。」

そうしてその場から去ろうとした時、もう一人の大男に首根っこを掴まれ、吊り上げられるアミ。
若々しい一人目とは相対的に、逞しい髭を生やした初老の男。
その男が、明らかに不機嫌そうな顔つきで、"巨大な斧"を片手で背負って此方を睨みつけていた。

「ヒッ…!」
「一方的に謝ったつもりで逃げる気か…?言葉は通じても、まるで獣だ、なぁ…?」

顔に纏った包帯の隙間から、鈍い眼光がアミへと突き刺さる。
先程の"アレ"程では無いものの、アミを怯え上がらせるには十分な恐怖だった。
ドクドクと血流が流れる音が届き、ぶわっと汗が噴き出す。

「ハァ…さて、どうしたものか。」
「ご、ごめんなさ…」

口から漏れ出る溜息、そこから見える"獣"の様な歯。
殺される、そう直感が告げていた。

「…おじさん。」
「なんだ、コイツには礼儀を…」
「その子、怪我している。」

だが、意外な事に助け船を出してくれたのは、タックルされた男の方だった。
確かにアミはスラムを駆け抜けるパルクールの中で、擦り傷等を負っている。
しかしタックルされた相手にそんな話題を持ち出されるとは、二人とも思わなかった。

「包帯あるから、コレ。」

殺人鬼か何かと見間違うこの大男を、おじさんと呼ぶ仲。
そんな相手に言われたのがきっかけか、あっさりとアミを降ろした。

「はぁ…見たところ、スラムのガキだぞ?いちいち面倒なんざ…」
「お願い。」
「……仕方ねぇな。」

渋々といった口ぶりながらも、素直にアミの治療をする老人。
手馴れた素振りで包帯を巻く様からは、先程の怖さはもう無かった。

「あの、本当にごめんなさい。」
「次からは前を見ろ。」
「ご、ごめんなさい!」

改めて謝罪を繰り返すアミ。
そんな様子にすっかり毒気を抜かれたのだろうか、何も言わずに包帯を巻き続けていた。

「君。」
「あ、はい!ぶつかってすみませ…」
「こういう時は、ありがとう。」

何処か幼い声で、男はそう言う。
今必要なのは、謝罪では無く感謝だと。

「あ…ありがとう、ございます。」
「…あぁ、構わん。俺もやりすぎた。」

一瞬の間をおいて、老人からも謝罪が来た。
謝ることなんて無いだろうにと、アミはこの男達の懐の深さを感じていた。
そうして包帯を巻き終えた頃には、もう男達への恐怖は無くなっていた。

「これでもう良いだろ。」
「…ありがとうございます!それから改めて、ぶつかってすみませんでした!」
「あー、良い。こいつも気にしてはおらん。」

ポリポリと髪を掻きながら、老人は疲れた様子でそう言った。
そこからアミの意識は男の方へと向く。

「本当に助かりました、えっと…」
「ハンター。」
「え?」
「こいつの名前だ、今のところはな。俺はガスコインだ。」

突然出てきた単語に困惑するアミに、今度は老人が助け舟を出す。
どうやら、二人の名前らしい。

「あ、ハンターさんですね、僕はアミです!ぶつかっちゃったのに助けてくれて、本当にありがとうございました!」
「ったく、怯えさせ過ぎたか…」

流石のガスコインも気の毒になったのか、気不味そうに呟く。
そんな老人を余所に、ハンターが口を開く。

「何かから逃げていた、違う?」
「え?えぇっと、何というか…」

そして話題はアミへと戻る。
そもそもぶつかる原因となった、あの光景をどう説明するか。

「その、よく分からなくて、説明が難しいんですけど、とにかくスラムが危険になってて…」
「あー、煮え切らないな。何を見たんだ?」
「えっと、仮面の化け物…?」

アミ自身の困惑が、混乱へと広がっていく。
どこかで一先ず腰を落ち着けようか、そう思った時、3人の間に何かが現れる。
咄嗟に構える3人、その眼下には、先程まで存在を忘れていた"黒猫"が居た。

「その話の続きは、ワガハイがしよう!」

そしてそんな要求を声に出しながら、煙を上げ3人を包み込む。

「かはっ、久しいな!本物の獣か!」
「…違う。」
「あぁ?」

嬉々として斧を構えたガスコインを片手で制しながら、ハンターは猫の居た場所を見る。
そこには、デフォルメ化された猫のマスコットキャラとしか言いようがない"ナニカ"がいた。



「…獣、か?いや、人形…?」
「ね、猫が変形…いや変身した!?」
「突然のことで驚いているだろうが、話を続ける。ワガハイはモルガナ、ただの猫じゃねぇぞ!!」

混乱していることを承知で、モルガナは口を開く。

「どういう事だ…?」
「詳しい話は後だ!それよりアミと言ったな?」
「あ、はい!」

二足歩行になったモルガナは、前足だった手をビシッと掲げる。

「アレを放っておいたら、世界は滅亡する!」

そして災いの兆しと言われた黒猫、モルガナはそう宣言した。

【C─1・廃村/アミ(オリジナル)/一日目・午前1:10】
【C─1・廃村/ハンター(Bloodborne)/一日目・午前1:10】
【C─1・廃村/ガスコイン神父(Bloodborne)/一日目・午前1:10】
【C─1・廃村/モルガナ(Persona5 the Royal)/一日目・午前1:10】


GAME START タルラ
GAME START 丸喜拓人
GAME START 月の悪魔
夕暮れの島、僕の戦争 リサ
GAME START 東郷王我
GAME START アミ
GAME START ハンター
GAME START ガスコイン神父
GAME START モルガナ

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