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燐葉石は星を見るか

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heikoie

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 彼は緩慢に、ずるりと粘的な音を体内に響かせながら硬く揺れる床の上へ立ち上がった。
「おもたい」
 ず、ず、ずる。目覚めたばかりの頭では精密な身体操作は難しく、何回か転びそうになりながら合金をぐにゃぐにゃとアゲートの足から浸出させ、高い厚底ブーツのように形成する。襟を引っ張り胴体を覗いて彼は安堵したように呟いた。
「ヒビは…入ってないな」

 顔を上げ、慎重に合金を操作しながら周りを見渡す。上がった視界には黒々とした闇だけが広がっていた。見えないな、と目をこらそうとした瞬間彼の脳裏に声が響く。

「ルイ・サイファー?観測したい?……何言ってるんだ」
 どこからが響く声へ警戒する彼のショートカットが揺れる。美しい薄いエメラルド色の髪だ。
いや、エメラルド色と形容するのは不適切だろう。それは固有の名前を持った色だった。

 フォスフォフィライト。彼を形容するならば、それが最も的確だ。モース硬度3.5、単斜晶系の脆く美しい宝石。西の浅瀬色の髪をし、白粉で腕以外をまっさらに隠したフォスフォフィライトは波に揺られる小舟へ座り込みぐるると呻く。

「……観測都市つってもさ、建物とか、なくない?」
 彼は海のど真ん中、小さなボートに1人きりであった。穏やかな波の音が絶え間なく響く。

 フォスフォフィライトは弱い。少しの衝撃で砕け散る。波間に身を投じればすぐ粉々になってしまうだろう。
 そもの話、彼の体を動かすインクルージョンは光で活動している。アンタークチサイトとの邂逅後ほかの宝石に比べれば動けるようになったが、それは薄い冬の陽光の中でも跳ね回れるというだけで完全な暗闇の中十全に行動できるということでは無いのだ。転移するまで太陽光をたっぷり浴びていたことで多少の余裕はあるにしろ、いつ動けなくなるかも分からなかった。

 手漕ぎの簡素な舟を漕ぐ気力もなく、ぼんやりと眼前の海を眺めていた彼の目に光がちらつく。
 白い光。雪のように白い髪の一筋一筋に小さな煌めきが舞い降り、切れ長の三白眼に冬の色が映り込む。短く厚手の黒い手袋が遠目から良く見えた。
 アンタークチサイトが奥を指さして海に立っている。
「──行けってことかい、アンターク」
 割れる。美しく精巧な眼球が飛び出て、彼はそっと口元に手を添える。フォスフォフィライトの幻覚は自壊し、浅瀬色の宝石へ役目を与えた。
「休んでる暇はくれないんだね。はは、君らしいや…」
 合金を鈍く動かし、オールを握ったフォスフォフィライトは夜の静かな闇へと漕ぎ出した。


 ――

 F・Fが初めてソレを見つけた時、思い浮かんだのは彼女の友人の目だった。綺麗なエメラルド色の目。強い意志を持ったあの瞳。そのグリーンを薄めたキラキラと輝く髪の人間を見て、F・Fは思わず声をかけたのだ。
「ちょっと、生きてるゥ?」

 手漕ぎのボートにぐってりと横たわり、虚空を見つめる金色の腕の華奢な少年。死体のような不動に痺れを切らしたF・Fがボートから引きずり出そうと手を伸ばすと、少年は疲労困憊と言った様子で言葉を吐き出した。
「…………つらい」

 生きてはいる。しかしどうにも危うい印象を受けた。陽光を糧とするインクルージョンたちの機微を読み取れるのはF・F自身微小の生物であるからだろうか、彼女の目には少年の精神が極度に疲労していることが見て取れた。それと同時に、少々の同情心も湧く。

「あんたさ、何も食べてないの?」
 これはF・Fの預かり知らぬことではあるが、宝石達の間では太陽光を浴びることを「陽を食べる」と表現する。摂食をしない生物であるフォスフォフィライトと会話が成り立ったのはある種の奇跡だった。

「え……まあ、夜だし…クラゲもいないし……てゆーか誰?」
「あのさァ〜、まずあんたから名乗るのがマナーってもんじゃあない?」

 そうなのか、とフォスフォフィライトはノロノロ頭を振った。学校では皆が皆名前を知っているのが当たり前だったから自己紹介をする機会などない。尤も先に話しかけたのはF・Fなので、本来ならばF・Fから挨拶すべき場面ではあるのだが。

「フォスフォフィライト。長いからフォスでいいよ」
「あたしはフー・ファイターズ。F・F(エフ・エフ)でいいわ」
 お互いに名前を告げ合い少しの間沈黙する。フォスフォフィライトは疲労の為、F・Fは思考の為。友好的な態度ではある。とりあえず金の腕に注意して、それから舟を借りて。そんなことを考えているとフォスフォフィライトが口を開いた。

「ここが観測都市ってところ?ルイサイファーとかいうやつ、なんなんだよ…きみは知ってる?」
少年もこのふざけた事態に巻き込まれた被害者ということか。フォスフォフィライトの質問にF・Fは首を振った。少なくともこんなしらけた無人島が都市という訳では無いだろう。どこか別の土地があるはずだ。

「多分違う場所よ…ここに街っぽい場所は無いわ」
ねえ、とF・Fは言葉を続ける。
「あんたの船、乗せてくれない?多分目的は一緒だわ」あたしはあのクソッタレを殴りたいの。少年は身を震わせた。宝石同士の接触は御法度である。殴る蹴るだなんて、そんなそんな。
「怖っ…きみ結構クレイジー?……乗るのはいいけど漕いで欲しいんだよね。ぼくもう動けなくて」フォスフォフィライトは足を折りたたみ座れるだけのスペースを開けた。それも随分ノロマに。

「Good。とりあえず観測都市とやらを目指しましょ」
 こうしてプランクトンと宝石の奇妙な2人組は海へ漕ぎ出した。それも偶然観測都市の方向へ。

「もうちょっと奥に行けない?漕ぎにくい……重たッ!100キロぐらいあるんじゃあないッ?」
「うわ!触られたのに割れない!怖っ」


【H-4『絶海の孤島』→G-3『大海原』/フォスフォフィライト(宝石の国/原作4巻時点)、フー・ファイターズ(ジョジョの奇妙な冒険)/0:15】

ベイビー・スターダスト フー・ファイターズ
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