『クマとリボンと音楽少女(終)』
サックスが静かにJAZZを彩るバー。
バーテンダーもおらず、出されるカクテルもなく。ただただ、カウンター奥の酒々たちがしんめりと証明に照らされる。
カウンター席に座る女性客──いや参加者は、頬杖をついて一人待ち焦がれていた。
ふわふわで短いお下げ髪。
髪に絡んで、耳まで伸びる白色の有線イヤホン。
原幕高校からの招待客────田村ゆりは、彼女らしくただ一人。
誰ともつるまず、待ち続ける…。
常に無表情、そして気だるげといったイメージのゆりは、バトルロワイヤルのやる気なんかさっぱりなく。
それでいて、死ぬ気も全くなかったが──生きる気もなかった。
いや、生きる気がないというより、『生きれる気がしない』と言うべきだろう。
棚ぼたで最後の一人になれたとしても確率は1/70。──単純計算で70なのだから、実際の確率はもっと低い筈。
まるで真っ暗でどこまでも深い海底に沈んだ気分の彼女。
生きて帰れる自信は見い出せなかった。
だから、彼女は遺言を書き表した。
LINEにて。『親友』…の黒木智子宛に。
上手く気持ちを表すのが難しかった為か、淡々と。
──[今までありがとう。ごめん。 ▶]
「…………………」
押そうとする人差し指が、誰かに引っ張られたかのように動かなかった。
微動に震えはできたものの、『▶』──送信ボタンを押すことだけは許してくれない。
この疑似金縛り。ゆりが人差し指を立ててかれこれ十数分が経過している。
彼女はその十数分の間ひたすら待っていた。待ち焦がれるので費やし続けた。
──ボタンを押す『勇気』が来るのを。ひたすら彼女は。────
「…すぅ…………」
一呼吸。
勇気を沸き立たせるために酸素を送り込む。
こころなしか普段のポーカーフェイスが崩れかかったように見えたこのときのゆり。
彼女は覚悟を決め、ゆったりとスマホの画面をタップしていった。
『♬SPOTIFY』
~~~♪
「……………………ばかみたい、私…」
彼女が押した先に広がるスマホの画面は、音楽配信アプリ。
お気に入りのリピート曲が流れ出し、耳を充満していく。
…結局、ゆりは遺言を送信することができなかった。する勇気さえ現れてくれなかった。
カウンターテーブル上のグラス。
氷がひっそりと溶け、からんっ…とバックグランドミュージックと混じり合う。
おさげ髪の先っぽを指でいじりながら、女性客は誰かを待っているかのように。
一人寡黙にグラスを眺めていた………。
「じゃ~~~~~すたとぅざあ~~~~す♫ …聴いてる曲、もしかしてjust the two of usですかぁ~~~~~?」
「……………………………………………はっ?」
…そんなゆりに絡んできたのは、待ちもしていない一人の来店客だった。
「あぁー……。ス、スミマセン。邪魔したようで…。フジワラさん、失礼デスよー……!」
いや、もう一人いた。
片や、二メートルは越えよう山のような大男。
とはいえ、ヒゲもじゃの毛むくじゃらに悪意なき穏やかな表情から、まるでテディベアといった印象をゆりは持つ。
片や、頬をめちゃめちゃ近付けてにこやかに何か話しかけてくる少女。
少女といっても自分と同い年くらいであろう。桃色のセミロングヘアにちょこんと飾られた黒いリボン。
リボンをつけてるから────と、それだけで邪推するのもなんだが、随分おつむの弱そうな女の子と思えた。
片や困惑気味、片や距離感バグりまくりでウッキウキ。
人とスキンシップを取るのが苦手なゆりが、どちらに比較的好印象を持ったか。
それは言うまでもないだろうが、先に口を開いたのは不幸にもリボン娘の方だった。
「ほら! とりあえずイヤホン取ってくださいよ~~~~~! ねっ!」
「…………………………………うん」
「わたしたち~~…。メムちゃんからの頼まれ事でぇ~~~~~、ちょっと霊集めしてるんですよ~~~」
「………は? 意味…わかんないんだけど」
「あっ!! 声超カワイイーーッ!! あなたモデルさんですかぁ~~~? ──って、それはさておき~~~…。とにかく沢山ころしちゃえ~って思ってるんです~!!」
「………………なんなの?」
リボン娘が先陣切って話だしたことは、クマ男の方も割と不幸だったようで。
ゆりが握り拳を固めたのを確認して、大慌てで彼は話を遮り始めた。
「いや、イヤイヤ!! スミマセン…、フジワラさんは思いつきで話すもんデスから……。とりあえずスルーしてくだサイ…!」
「…………いや、スルーって…」
クマ男の態度に懐疑的さを抱くゆり。
何だか、隠しておくべき本来の目的をバカ(リボン)が口走ったため、クマが慌てて訂正したように思えたからだ。
ただ、
「ぷるぷるぷ~るり~~ん♪ ぷるりん~~~♫」
普通に、バカが何も考えず適当なことを言った可能性のほうが高いため…。
とりあえず大男の話を聞いてみることにする。
「ワタシたち、殺し合いの脱出を考えてマシテ。人数が多けりゃ脱出確率も高まるだろう…と。今、人集めをしてるんデスが…」
「…え? 脱出……。………プランとか思いついてるんですか…?」
「いや、それは…まだ…………」
「…………………あぁ、…はい……」
「……………デスが!!──」
「──可能性は0ではありマセン!! ただ待つくらいなら、行動して、最適解を目指す……。ワタシはそれが大切だと思うンデス!!」
「だから、アナタも。ワタシたちと行動し、力を貸してくれマセンか? ほんの一つの勇気が、何かを変えられるんデス…!」
会話途中、ゆりは気付いた。
あぁ。この人なんで片言なのかって外国人なんだ…と。
その外国人から差し出される掌。
──手の中には『希望』という名の強い意志が握られている。
大きな掌を前に、ゆりは何を思ったか。
ジャズに合わせて間の抜けた歌声が響くバーにて。
しばしの間の後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「…普通に嫌だけど」
【1日目/A2/バー/AM.1:00】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:一人でいたい。
【藤原千花@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:魂を刈り取る。
【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】軽い心労(回復傾向)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。
…
……
「って、そこは仲間になるパターンでしょ~~~~~~っ??!! ちょっとやだ~~~~!!! ねえ、ねえねえ~~!!!!」
「…私の名前『ねえ』じゃないんだけど」
「えっ?! 急にヘンなとこで我を出してきて怖っ!!?」
からんっ────
氷が溶ける音が鳴る。
続けざまというように、
カランッ────
「…え??」
気づけば、ゆりはバーの扉。
いつの間にやらこの場を後にしようとしていた。
「ちょっ~~~~~と!!! キミ待ってよ~!! ねぇ!! ねえねえねえねえねぇねえねぇねえっ、ねえ!!!!」
「……………なに」
「ねぇねぇねぇねぇってばぁ~~~~~~!!!!! ねえねえねえねえ、ねえちゃんねえちゃんってばぁ~~──……、」
ドンッ────
《怒りの鉄拳制裁・Punchi Out》
「ぎゃわぁっ!!!!!」
「…あっ、ごめん………。…つい」
飛びかかってきたリボン娘へ反射的に行ってしまったのか、はたまたしつこい『ねえ』連呼にカチンとスイッチが入ったのかはいざ知らず。
ともかく、ゆりは肩目掛けて強烈な一発をお見舞いしてきた。
黒木智子評して『哀しきモンスター』との田村ゆり。
加減を知らぬ凄まじい破壊力の拳は、リボン娘を膝つかせ、しばらく頭を下げさせるほどの威力があった。
「ががあ……んびょっ…………がぁっ………………」
イワン・ドラゴにKOされたグリードのごとく、脂汗をかき立ち直れないリボン娘…。
小柄なゆりの見た目不相応なこの力、恐らく匹敵するのは参加者の中でも──マイクくらいだろう、と。リボンは畏怖した。
「あっ、フ、フジワラさん~~~…!! キミ、な、なんてことを………………」
「…………すみません。いつもの癖で…つい」
「…イツモの癖って………。ドメスティックバイオレンスな彼女なんデスか…。あなた……」
「………いや。そんな日常茶飯事やってるわけじゃないですけど……。智子とか根元さんにしかやってないですから」
「…………酷い…。その二人がかわいそうだYO……。YO………」
……暫くして。
リボンはよたよたと、立ち上がり肩をさする。
カウンターテーブルに片手を置いた彼女は、もう一方の手をデイバッグに突っ込む。
何を取り出すのやらガサゴソと。
──暴力娘へ復讐するための『武器』か、それとも何か別の危険に曝される道具、か。
「………っ!」
罪悪感でやや表情を変えつつも、警戒心を強めるゆり。
リボン娘が「あった~」と取り出す『物体』。
ゆりの視線が突き刺さる、その『物体』は──────。
「…え~~~ごほんっ。日常茶飯事といえば~わたしは忘れられがちですが書記員なんです。…というわけでたまには書紀らしいことをしま~す」
「キミ!! わたしの『ねえちゃん』呼びが気に入らなかったようだけど~~……──はっきり言って、そう呼ばれても仕方ないYO!!」
「……………は?」
「なぜならキミはまだ名乗りもしてないんだからぁ~!! ねっ!」
「……………なにがしたいの?」
「と」
「い」「う」
「わ」「け」「でぇ~~~~~──」
キャプッ…
「──まずは自己紹介タイムの始まりですよ~~~!!! YO!!!!」
─────リボン娘が取り出したのは『油性ペン』だった。
ホワイトボード代わりに、彼女はきゅきゅきゅきゅ~~~っと、カウンターテーブルに文字を書く。
スラスラ書かれる箇条書きの羅列…。
最後に自身の似顔絵を添えて、とうとう書き終わった。
「この通り、わたしは藤原千花って言います~~!! 遊びとイタズラが大好きなじぇ~け~でぇぇーす!! よろしくお願いしま~~~~~す」
《大紹介その1》
- FUJIWARA CHIKAでーす♡
- 秀知院学園にいまーす♡♡
- メムちゃんからー、おねがいをされたのでー、今ころしあいに乗ってる最中でーーす♡
etc……
なにやら冗談にならないことが書かれているがさておき。
リボン(=藤原書記)は我先に自己紹介を終えた。
「じゃっ、次はマイク~~!! 私が書記するのでぇ~~~、どんどん名乗っちゃってください~!! 例えば好きな食べ物とかぁ~、好きな暴露系YouTuberとかぁ~~~──…、」
「藤原…さん…か」
「おっ!! キミ~~~、さっそくわたしの名前を呼んでくれたね~!! キュンっときちゃいますよ~~」
「私、藤原さんに似てる人知ってるよ」
「…え~~っ!! 誰ですかぁ~~?」
「私のクラスメイトの根元さん。…常にどこか演技臭くて大げさなアクション・台詞がアニメオタクみたいでキツい、ってとこが凄く似て────…、」
「わ、わわ、ワタシはマイクデス! ──マイク・フラナガン。祖国はカナダで…、フジワラさんとはさっき出会いマシタ」
ゆりがなんだかとんでもないことを言い出しそうになった為、クマ(=マイク)は慌ててセリフを遮った。
きゅ、きゅ、きゅっ、きゅっきゅっ、きゅきゅ~~と黒ペンが走る音が響く中、マイクは続ける。
「…えーと。好きな食べ物はチーズマカロニ。…カナダではポピュラーな食べ物で、スゴク美味しいデス」
「ほうほう~~~! そんな感じで続けてマイク~!!」
「…へー、チーズマカロニ。私知ってますよ」
「…Oh! それはホントデスかー!! 日本人で知ってる方とは…珍しいデス」
「味は知らないけど、ダーク●ンジェルで観ましたから。…だから私は知ってるけど。藤原さんとは違ってね」
「いやなんですかそのマウント?!」
「……umm……。…ハハハ………」
…
……
《大紹介その2》
- MAIKU FURANAGAN(´(ェ)`)♡♡
- 好きな食べ物はチーズマカロニ
- 好きな映画はばっふぁろー66??
- 建設業ではたらいてる!! まっする~♡♡
etc…
「藤原さんには失望した。英語スペルで書けないんだね」
「…って、おいっ!! ぶっちゃけ最初からわたしへの失望度限界突破してるよねキミ!? あたりがやたら酷いよ~~!!」
「ん、んんっ!!! …それでー、ワタシは婚約者がイマス。日本人の方デス」
「…え~~!! …あっ、だから日本語が上手いんですね~~!! どんな方なんデスか~~~~~?」
婚約者はどんな人なのか──と。
一瞬カミングアウトを考えたマイクだが、…無駄に彼女らを混乱させるのもどうなのかと。
適当に濁すことにした。
「…えぇ。いい方デシタ。二人でいる時間はこの世の何よりも幸せ……」
「うんうん~!」
「一緒にお風呂に入って、ワタシが作った料理を食べて、一緒に御酒を嗜んだあと、一緒に寝る……。もちろん抱き合って……、幸運そのモノデシタ」
「わぁあ~~~~~! ロマンチックですねぇ~~!!! 聞いてるだけでほっこりします~~。ね! キミもそう思うよね!!」
「………………あっ、うん。そう思う」
「いや興味ないオーラすごっ!!!」
字面だけだと確かにロマンチックではあるのだが。
まぁ、ともかく。
やや苦笑いをするマイクに対し、藤原書記はサラッと質問した。
「ちなみに~~、マイク。その人とは日本で暮らしてるんですかぁ~~~?」
「………エ?」
「その人も日本にいるのかなぁ~って聞いてるんですよ~~~!!」
「…………あぁ、ハイハイ。…彼はいますヨ」
そう言って、天を仰ぎだしたマイク。
同時に人差し指を作り、それをまた天へと高く向ける。
指先を眺める二人娘に対し、──マイクは笑いとも悲しみとも違う、なんともいえない表情で言葉を続けた。
「………お空に………………」
「……………………」
「……え?」
──お空って、パイロットさんですかぁ~…だなんてバカな質問は、このときさすがの藤原書記でも言わなかった。
シン…と静まり返るバーの雰囲気。
しばしか細いジャズの音だけが流れるだけだった。
「…三年前、デスね。忘れられマセン」
ゆっくりと首を下ろし、藤原書記とゆりの顔を眺めるマイク。
…これまでたくさん泣き明かしたのだろう、その目に涙は生まれなかったが、芯の入った眼をしていた。
「…………」
「…マイク………」
闘病生活、ベッドで静かに呼吸をする愛しの彼────亮二。
彼が抗病剤で髪をなくし、歩けなくなり、そして自暴自棄になっても、マイクは懸命に支え続けた。
I'm with you. (私がついてるよ)
Don't worry.(だから、安心して)……────と。
頑張れ等のエールは敢えて使わず、ただ悲しく、哀しく、最後まで付き添ったのだ。
最期のときまで。
スッ…と瞼が閉じ切る、そのときまで。
やや声を震えつつも。
暫くして、マイクは口を開いた。
「おさげのアナタ……」
「えっ…! な…なんですか」
「アナタがフジワラさんによくないイメージを持つ気持ちは分かりマス…」
「……………持ってない…ですよ」
「イエイエ、いいんデス。それに、殺し合いをさせられ、気持ちが動揺するのも確かに分かりマスヨ…」
「………………………」
「でもデスッ!!──」
「──死は、本当に辛く。本人も……、残された家族も……、お別れの時間は大切な時間なんデス…!! だから、だから…………!!」
スゥ…っと息を呑んだ。
「こんな殺し合いという酷いゲームで『死』は使われてはいけナイッ…! 死を安易な経験にしちゃダメなんデスッ……! だから、ゲームを終わらせるために我々は協力しまショウ!!!」
「………………」
マイクの顔を向く先は、変わらずゆりのまま。
最愛の人の別れから、『死』について改めて価値観を認識した男の魂の叫びは、彼女にどう通じただろうか。
──ふと耳をすませば書紀の泣き声が漏れ聞こえる。
口を軽く開けたままのゆりへ、マイクからすっと手が差し伸べられていた。
出口付近で立ち尽くす彼女へのいわば『バトンタッチ』だ。
マイクは最後こう綴って、自身の紹介を終えた。
「次は、アナタデス。我々の、欠けてはいけない仲間であるアナタの番デスヨ。…お願いシマス」
「………………………はい」
ゆりには、親しい身内の別れという経験はない。
ただ、マイクの最愛の彼を自身の親友と照らし合わせたのか、感情移入は十分にできた。
息を軽く吐いて、周りを見渡す。
涙目の藤原書記、そしてマイク。
彼らの視線が集う中、ゆりは自分の名前を明かしだした。
この時。彼女の心中は、小石を落とした湖のように、なんだか揺れて揺れてもどかしかった──────。
「私は田村ゆり。一人でいるのが好きだから。──じゃ」
カランカラン…と開いたドアへ少女は背中を向ける……。
【1日目/A2/バー/AM.1:19】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:一人でいたい。
【藤原千花@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:魂を刈り取…、
「キング・オブ・マイペース~~~~~!!!!!!???? ゆりちゃんに決定~~~~~~~~!!!!!!!! この流れでそれはおかしいよマイちゃ~~~~ん!!!!!!!!」
「私、 田 村 ゆ り だけど。藤原さん」
「いやいきなり目から光消えるの怖いんですけど~~~?! どうやってるのそれ??!! これじゃもうマイン(地雷)ちゃんだよ~──…、」
────ゴーシュッ
(怒りの鉄拳・セロ弾き)
「ぎゃわっぷすっ!!!!!」
「ゴ メ ン ナ サ イ。 ツ イ ヤ ッ チ ャ ッ タ 。 藤 原 サ ン」
「……酷い棒読み謝罪デス………」
DV慣れなんかもちろんしていない藤原書記。
さすがに二発目の鉄拳制裁は相当堪えた模様だ。
…よりによって背中の微妙な箇所に殴打されたのだから、もう痛みで這いつくばるしかない。
だが、そこは藤原書記…だ。
「ちょっと待って………。ゆ、ゆりちゃ……………」
「…………──…ぃっ!!!」
虫のように這いながら、ゆりの足首部分──真っ白な靴下をぎゅうぅっと引っ張ると、
「…自己紹介もだめなら、ゲームで親睦だYO~~………」
「…………………なに?」
「というわけでぇ~!! 第一回!! チキチキ!! ガキの使いやらへんで!! 『ワードバスケット対決』で勝負だよ~~っ!!!! ゆりちゃん!!!!」
「……立ち直りっぷり急すぎでしょ」
ポケットからカードの束を取り出し、藤原書記は一気に立ち上がった。
自己紹介で名乗った通り、ゲームが大好きなリボンの彼女。
マイクらの注目の中、ノリノリでルール説明を始めるのだった。
「(ちなみにさっき見えたゆりちゃんの……、ピンクのスパッツらしき物はいつか脅しに使いま~~~す。にやにや…)」
…
……
─────『ワードバスケット』…!!!──
言わば、疑似しりとりゲーム…!!
何人からでもプレイ可能。
『ん』を除いた、ひらがな五十音のカード五枚ほどが各プレイヤーに手渡される。
ルールは簡単。
場に出ているカードが『ま』だったら『ま』で始まる言葉を考える。
ただし、手札の文字で終わる言葉でないといけない。
例えば、『ま』しゅま『ろ』──『マシュマロ』……!
こうやって五枚の手札を先に使い切ったら勝ち…。
単純だが奥深い心理ゲームなのだ!!
……
…
場に置かれたカードは………『す』。
「ホウ、なるほどデス……」
マイクは手中のカードを見る。
「……………はぁ…」
ゆりも、呆れつつだがカードを見た。
バーから出ればよいものだが、彼女もなにか思うところがあるのだろうか。
「…………では、でゅえる~~~~~…──」
そして最後に藤原書記も見た。
ふと、にやり…と。
…どうやら自信ありげな様子だった。
彼女の一声が合図で、今ワードバスケットが、
「──スタート!!!!」
始まるのだった………────。
「はいっ、『す』たー『と』で。──『スタート』!! わたし一枚さっそく出しましたよ~~!!」
「ズルっ…」 「んな卑怯デスよフジワラさんー…」
「勝負にずるいは敗者の言い訳ですよ~~~! ほらほら~、『と』で始まる言葉ないですかぁ~~~~~~~??」
「………ummmm……。…フジワラさん、あまり言いたくないのデスが……」
「おやおやおや~~~~~? マイクさん言いたきゃ言えばいいんですよ~~~? それとも揺さぶりかけてるんですかぁ~~~~~~???」
「……………言ってもいいんデスね??」
「どうぞどうぞ~~~~~!! 言えるものなら~、アハハハは~~~!!!」
「………──藤原さんの笑い方が心底ゾッとさせられる」
「いやゆりちゃんワードバスケット関係ないただの悪口やめてぇっ??!!!」
「……フジワラさん、ワタシに歌いながら声かけてくれたジャナイデスか……」
「えっ?? それがどうしたんですかぁ~~」
「その時ワタシ、正直…アナタを……」
「『と』んち『き』、『き』ば『つ』な、『つ』かみどころな『い』──『トンチキ』、『奇抜』、『掴みどころない』人だと思いまシタ!」
一気に三枚のカードが消費される。
「は…、はぁぁあぁぁあぁ~~~~~~~~~っ??!!!!! マ、マイクそんなこと思ってたんですかぁ??!!!」
「いやいや、嘘デス!! ただ、これでワタシはあと二枚デース。面白いデスね~、HAHAHAHA~!!」
「ぐぅううっ~~~~~!!! ゆりちゃん反撃して!!!」
「……私もマイクさんに同意。これでも割と言葉を選んで罵倒したほうだと思う」
「追撃されたし~~!!! しかもまたワードバスケット関係ないただの煽り!!!──」
「──あっ!!! ゆりちゃんってさぁ~~~~、外出あんましないでしょ~~~!!!」
「……………………別にそんなことないけど」
「ならその言葉の詰まりっぷりはなんですかぁ~~~!!!! …わたしはもちろんたくさんキャンプとかサイクリングするけどね~~! ゆりちゃんと違って!!」
「…え、私の真似した?」
「ゆりちゃんみたいな根がくら~~い人のこと…世間ではなんて言うか知ってるかな~~~?? 分からないでしょ~~~~???」
「……(フジワラさん、あくびの出るような挑発を………)」
「……知ってるけど」
「じゃあ答えてごらんなさいよ~~~~☆」
「………インドア派でしょ。…もっとも私は普通に外出──…、」
──Doooooooon〈ドーンッ〉だYO!!!!
「…は?」
「略して、『い』ん『と゛』!!! ──『インド』!!!! まだまだゲームが分からなくなったね~~~!!! ムッツリインドアゆりちゃ──…、」
「…………力が思ったより制御できない」
──ドンッ
(SIMPLE THE 鉄拳制裁)
「…~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!!!!!」
「私も力抑えようと頑張った。その努力は認めてほしい。ゴ メ ン ナ サ イ」
「…アッ!! 『と゛』『ん』──『どん』。ワタシあと一枚デース」
「…??! いやいやいやマイク『ん』だから無効ですよ~~!!!」
「あぁ…、それは失礼……………」
…マイクの『ん』を別のカードと入れ替えて再スタート。
ゲームは早くもほぼ架橋。
藤原書記三枚、マイクはほぼリーチの二枚と終盤は目に見えている現状だ。
縛りプレイスタイルのしりとり…と、かなりの思考力を使うゲームだが、この試合展開はいかなるわけか。
なまじ、ゲームのことなら何だろうとガチる藤原書記に歩があるのか。
それとも、日頃誰にでも優しく、善人であり続けたマイクに幸運の女神が微笑むのだろうか。
…いやはや勝敗の予想は難しかった。
藤原書記の手持ちカードは『へ』『あ』『し』。一方マイクは『よ』『え』。
いずれも『と』から始まり手札で終わる言葉は見つかりそうにない。
手に汗握り、必死で言葉をひねり出す両者。
──ただ、考えると同時に二人は『待ち』に専念していたのだ。
それは、やる気を一切見せないビリケツ。
カードゲーマーで言うところの『ポーカーフェイス』──田村ゆりの捨て札を。
「………………………」
「……っ!!」 「………ふぅ~~……!」
彼女が何か札を場に出した時、間違いなくこのゲームは動く。
止まっていた時計の針に差される潤滑油。
二人はそれを待ち続け、それだけのたもにひたすら考えるふりをした。
「…………………ふぅ…」
「…(おっ!!)」 「(ゆりちゃんついに出すか!!?)」
五分ほどして、ゆりから一呼吸が飛び出る。
それは、二人がずっと待ち望んでいた行動…。
何を考えてるか分からない…という面では、心理戦最強王ともいえるゆり。
その手から、ついに。
均衡を破る一手が飛び出された────。
「(……タムラさん!──…、)」
「(ゆりちゃんきたぁあぁぁあ~~~!!!!!──…、)」
「『て』『も』『る』『ぬ』『や』──『てもるぬや』。はい、私の勝ち。……勝っちゃったね………!」
五枚のカードを乱雑にぶち投げ、少女は席を後にした。
実に、満足そうに………………。
「ゆ、ゆゆゆゆ、ゆりちゃぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあぁ~~~~~ん!!!!!!!!????? そりゃないよ!!!?? うわああぁぁあぁぁあぁあ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
「……また来た、死にたいやつ」
「いやそれ武☆壮のセリフ~~!!! てか殴らないでよゆりちゃん!!!!」
…hahaha……、と異国人の笑い声が一つ。
あんなに大人の雰囲気だったバーはうるせぇやつらで大騒ぎだった。
【1日目/A2/バー/AM.1:31】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:一人でいたい。
【藤原千花@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】???
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:魂を、刈り取ります!!!
2:ゆりちゃんの鉄拳を、ガードしますっ!!
3:死は、…とにかくダメですっ!! きゃ~~っ!!
【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさん、タムラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。
最終更新:2025年02月25日 22:15