『ゆりこん2』
これは私が高校一年生の頃。
智子と出会う以前の、空がどんよりしてた日々の話。
…
……
「まこっちー、この本すごい面白かったんだけどー! あれどこで知ったの? また貸してよねー」
「ほんと? 良かったー。この『妄想ラノベ』って小説、打ち切りなんだけどいい本だよねー。ゆりも面白いって言ってたよ」
「えー?! 田村さんもこれ好きなの? まじー? 私と気が合うじゃーん」
「…はははっ。面白い話だったよね、美馬さん」
いつもと変わらない街。
いつもと変わり映えない天気の中。
その頃の私は作り笑顔を浮かべながら登校していた。
四人グループで、軒を並べながら。
私と真子とアイツと、そして美馬さんのグループで固まり、毎日同じ道を、同じ目的地目指してボンヤリ歩く。
女子は余り物になるのが嫌いだから、私もこうやって友達のように彼女らと喋り歩いたけど。……真子を除いて、アイツと美馬さんの二人とは心の底からのフレンドリーさは感じていない。
多分…──というか確実に美馬さんら、も私を上っ面だけの友達と認識してると思う。
マージャンで例えれば、
私→一萬、真子→二萬、アイツ→三萬、美馬さん→四萬…みたいな感じで。
いつ切られようが何とも思わない、形式上『友達』になってるだけなのが、私たちのグループだった。
美馬さんの隣にくっついていたアイツが、唐突に口を開いた。
「──…えっ?! ブフッ!!! ちょっと見たぁ~??! 今すれ違ったやつの見た目ぇ~~!!」
「え、何いきなり? 小陽ちゃんどうしたの」
「めちゃくちゃ痛い格好の女いたんだけどぉ~~~!! アハハッ!! そいつ黒い手袋に黒タイツで歩き読書しててさぁ~~、まじやばくなぁ~~い? 超ゴスロリで笑ったんだけどぉ~!! あははははっ」
「……………」
「…は、あはは……………」
「南さん、そういうの笑うのはよくないよ?」
「……………えっ…?!」
「失礼だし…、その人に聞かれてたりしたら大変な目に遭うかもよ。ねぇ、ゆりもそう思うよね」
「…え? あー…えっと……。どうなの、かな………」
「…えっ、…えーー………………」
すると、アイツの耳元に。美馬さんが引いた顔で見ながらも、ひそひそ口を当てて。
「…………──」
「──…(…小陽ちゃん)」
「……(えっ…なに?)」
「…(私もそいつ見ちゃった。めちゃくちゃ服装キモかったよねー…!!……ふふっ!!)」
「……!!(!!! だよねー!!! ほんと絶対友達いない感じの人だったし! はははは~!!)」
その漏れ聞こえた陰口を聞いて、私はただ、微妙な愛想笑いを浮かべながら無難な反応しかしなかった。
────あの頃の私は。
「…………ところでゆり、次の体育なんだっけー」
「……あー。前と同じテニスじゃなかったっけな」
本当の私は、今すぐにでもアイツに鉄槌を食らわしたい欲があるほどの暴力性があった。
本当の私は、美馬さんらに「真子とだけ歩きたいから消えて」と言ってしまうほどのわがままだった。
本当の私は、マイペースにイヤホンをはめて、会話から逃げ出すような協調性のない人間だった。
でも、そんな女子じゃ学校生活で楽しくやっていけなんかできないから。──こうして、無難で当たり障りのない女子を演じている。
あの頃の私はこの登校中。この四人で固まる時間がほんとに窮屈で、抜け出したくて。
早く学校に着いて、一人の時間でいられる『授業時間』にならないかと。
軽い憂鬱な気持ちだった。
──その憂鬱な時間は、下校時にも訪れる。
まるでタイプが違う形だったけども。
……
…
「まこっちじゃあねー。また明日ね」
「うんっ。バイバイ、美馬さん、田村さん」
「じゃあね…」
電車から真子が降りて、扉が閉じきるこの瞬間。
私は毎日毎日、嫌いだった。
「…………………」
「………」
美馬さんと、私。
共通の友人がフェードアウトして二人きりになる、この時間。
──十分弱の乗車時間が気まずすぎて、ほんとに苦手だった。
「………」
「………」
私らに会話なんか一つもない。
美馬さんはわざと私から背を向けスマホをいじり、対する私も美馬さんに気づかないフリをしてイヤホンをはめる。
別に私ら二人はかなり険悪だったとか、そういうわけじゃない。
…というか、そもそも喧嘩に発展するほどの会話なんか一回もしたことがない。
美馬さんが途中下車する帰りの──、
「……じゃ。…田村さん、またね」
「うん。バイバイ…」
──が、唯一交わされる会話だった。
美馬さん相手になんの会話をすればいいのか分からないし、相手だって私としたい話なんかない。
声には出さずとも互いに嫌なオーラを出し合うあの空気感が、ほんとに気まずくて。三家さんが作ったお菓子よりもまっずくて、
必然的に私は美馬さん(…とアイツ)のことが苦手になっていた。
うん。
私は美馬さんが苦手だった。
波長が合う合わないとかそういうんじゃなくて。
…とにかく居心地の悪い相手が彼女だった。
──だからこそ、冬休み突入前の。あの日のことは今でも深く印象に残っている。
「……………」
「………」
真子が下車したあとの、いつも通りの気まずい空気感。
あの時の空気は雪の影響でひどく冷え切っていて、補修を終えた後という時間もありよくよく見渡したら──車内は私たち二人しかいなかった。
窓に映える、ちらつく雪。
急停止し揺れる電車と、車掌からのアナウンス。
『えーー。大雪に見舞われたため、大変申し訳ありませんが六時まで停車いたします』
「………ハァッ?!!」
スマホの時間を確認すれば、その時は『17:03』。中々の長丁場が予想され、寒気が酷い瞬間だった。
一時間近くも………。この電車に缶詰状態………。
充電パーセンテージも残りわずか、十パーセントほど。
スマホがブラックアウトした暁には、仕方ないし寝たフリでもしようかな…。って、私は耳をちょっと掻いた時。
「…ねえ、田村さん」
「……えっ」
「ぶっちゃけさー、ブタ…──小陽ちゃんのことどう思う? …どう思う、ってのはつまりさぁー、…好き? 嫌い? どっちなの?」
「…えっ……。み、南さんのことが……? ていうかブタって今言いかけ──…、」
「私さぁー、あいつのぶりっ子感? ってゆーか。常にキョロキョロしてるとこが、すごいウケるんだよねーー。あいつマジな方でやばくない? 正直」
「……う、うん……。どうかなぁー…」
「ところでさぁ、田村さんはいっつも何聞いてんの? ねー?」
横にいた美馬さんと、進学以来初めて会話をした。
話題にしてる題材が題材なだけ、それはすごい醜い会話の内容だったんだけども。
…
……
「…ははははっ!! まじー? 田村さんウケるんだけどーー!」
「あはははー………! それはないって美馬さーん…!」
雪原に咲く、茎の高い白い花が風に揺らされた──あの時間。
電車が動き出した後も私らは夢中で話を続けた。
別れ際、鬱屈ないつもと違って、互いに晴れやかな顔で「またね」と交わし。
雪が降り続ける曇り空だというのに、心が晴れ晴れして清々しかった。
これが、最初で最後となる美馬さんと話が咲いた瞬間。
あの時彼女と共有した妙な楽しさは、これでもう最後。二年生以降は、彼女と別クラスになり必然的に距離を置くこととなる。
私と美馬さんの平行線がほんの少しだけ交じった時間で、他愛もない時だというのに。
今でもたまに、脳裏に過ぎる。
それだけの…。
それだけの……話。
本筋とは全く関係がない、そんな話。
◆
…疲れてる気持ちは分からなくもない。
「グオォ────────ガァ────────スピスピ…。グオォ────────ガァ────────スピピ……」
「…………」
でもこの状況で眠りこけれるなんて相当危機感がないと思う。
カナダ人のおじさんが眠り始めて何分経ったか。
バーにてしんみりとBGMをしていたジャズは、地鳴りのようないびきで完全にかき消されている。
ソファでぐっすりのマイクというおじさんにはマナーモード機能がないのか。
…はっきり言ってイライラするくらい五月蝿かった。
「…あ~。ゆりちゃんまだ起きてたの~~? 眠くないんですかぁ~?」
「………寝れるほうがおかしいでしょ。色んな意味で」
違うタイプでうるさい人がもう一人。
私の隣に座る藤原さんとかいう人も、二十四時間フェス状態のやかましい人間だ。
私は彼女気に入られでもしたというのか。
話しかけてもいないのに、さっきからやたら五月蝿く絡んできてて……、
今もこうして、ムニャムニャの面で私に話しかけてきた。
…ピンク髪の女子ってなんでこうも変なノリの人が多いんだろう。内たるストレスゲージがどんどんどんどんと溜まっていく。
「そうだゆりちゃん! マイクおじさんが眠って、女子二人のみが活動を続ける…──今こそっ! やろうよ~!! 私らで恋バナを~~っ!!!」
「…なにが今こそなの?」
「ふっふふ!! かくいう私も秀知院学園では『恋バナ探偵』と呼ばれ皆に尊敬されたものっ!!! ゆりちゃんがどんな恋をしてるのか、話を咲かせたいんだよね~っ!!!」
「……もう咲いてるでしょ。藤原さんの頭に、花畑」
「あはは~、そらもう脳内フラワーガーデン満開ですよ~~~~…って、そんなのはともかくっ!!!──」
「──知りたいなぁ~! 聞きたいなぁ~~!! ゆりちゃんの好きな人ぉ~!!!♡」
「……………………」
頭を割って中の花畑を見てみたい。
そして、枯渇剤を撒いてロボトミーさ《黙ら》せたい。
…はあ。どうして私の周りにはこうもうるさい人しか集まらないんだろう。
騒音やかましい目覚まし時計には掌で一叩き。
──ハートマークと花マークを飛ばしながらルンルンの藤原へ、私は勢いよく握り拳を振るった。
「…………………」
ブンッ────────────────、スカッ…
「──うわ危なっ!!! もうっゆりちゃんってばぁ~~~!!! 何回も黙ってぶたれると思ったら大間違いだからねっ!!! もう~!」
「………………………」
「まったくもう!! 恋バナもできないっ、攻撃も当たらないっ……そんなだめだめなゆりちゃんに私がパンチのお手本を見せてあげるよっ!! ──藤原流格闘術、喰らえぇ~~!! おらおらおらおら~!!!」
🎀🤜三🤜ぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽか~~……
…鉄槌が空振った上に余計うるさくなってしまった。
ヽ( >Д<)ノ ←こんな感じの顔で、一切ダメージのない連打を続ける藤原さん。
攻撃は右肩に集中しているから、必然的に肩叩きみたいになっちゃってるけども、疲れは取れるどころかますます増えるばかりだ。
「………はぁ…」
「おらおらおら~!! ため息を一つついたらハッピーも一つ逃げちゃいますよぉ~~!!! お客さんっ、私の肩叩きはこれからですぜ~~~!!!」
ぽかぽかぽかぽか~っ……………
「グオォ────────ガァ────────スピスピ…。グオォ────────……」
「………………はぁ…、……はぁぁあぁぁ…」
……本当にっ。
…………何もかもがうるさくて仕方ない………。
…………
………
……
…
「…──あっ!! ねえ見てみてゆりちゃん~~~!! あんなところにキノコが生えてますよぉ~~~~」
…うるささが唐突に遠くなっていった。
数分間、存在無視で相手にしてなかった肩叩きラッシュ。その肩の重みが急にスッとなくなる。
そのキノコだかを見つけた藤原さんは矛先を私から部屋の隅に向け、タタタターって走っていった。
ほんとに気ままで能天気な人って感じだ。…すごいバカみたい。
「……………」
「ねえねえゆりちゃんも見てよ~~!! ほらすごくない?? 部屋の中にキノコ生えてんだよぉ~~~」
「………」
…智子なら「エ●同人で立派なキノコ生やされてそうな人がなんか言っとる」とか言いそうな場面だけど。
対して、私は「頭に花が生えてる人が遠ざかって嬉しい」……としかこの時思わなかった。
シメジなのかマツタケなのか、見てないから知らないけど、私から貧乏神を祓ってくれたそのキノコに今は感謝だ。ありがとう。
「ほらっ!! キノコ、一本や二本どころじゃない…たくさん生えててさぁ~~。それも円形状に並んで地面に咲いてるんだよ~~~~!! 珍しい~~っ!!!」
「……………」
「ちっちゃいエリンギがみんな輪になってるみたいでさ~~~!!! ほらゆりちゃん見てよ~~~!!!」
「………」
「ぐるぐるぐる~って感じで生えるキノコですよぉ~~!!」
「……………」
「えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる~~~♫ えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる~~~♫ 余った時間でなにしよぉ~っ☆♫ あっそれ!!」
無関心。
好きの反対語は無関心らしいから、やかましい藤原さんを無視し続けた。
スルーをすれば大抵の人は嫌気が差して絡んでこなくなる。
この騒音を止めようとわざわざ席を立って殴りに行くのも面倒だし、私は得意の無視を決め込んでいった。
「ゆりちゃぁ~~ん!! えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる~~~♫ えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる~~~♫」
………だけども、相手が相手なだけあり、あまり効果がないようだった。
藤原さん…、私の敵意を全く感じていない様子でさっきから「エリンギ~」と「ゆりちゃ~ん」のリピートを鬱陶しく続ける。
…なんでこう、陽気なキャラの人って延々に絡んでくるものなんだろう。
私には全く理解できないんだけど。
…藤原さんの存在はもはや私にとって毒電波だ。
毒をもって毒を制す~じゃないけど、そのキノコの毒でも食らえば少しは中和されるだろうに。
「ゆりちゃ~ん~!! キノコのダンスですよぉ~~~!!! えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる~~~♫ えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる~~~♫」
「…………」
ほんとにっ…。
…藤原さんは『エース・●ンチュラ』のジム・●ャリー並にやかましかったっ…。
……藤原さんはそういう映画見たことないんだろうけども…。
はあっ…………………。
「えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐる…──…、」
ブチッ
「…えっ」
腰を上げた私は藤原さんの近くまで寄り中腰に、そのキノコへと手を伸ばす。
タイルの床に生えていたからどれほど根が深いのか気になったけど、ちょっと力を込めたら簡単に引っこ抜けた。
「はい。あげる」
「えっ……。えぇ…………」
ブチッ、ブチッ、ブチッ、ブチッ、ブチッ……
なんかキノコが大好きらしいから、全部引っこ抜いてあげた。
大小さまざまだけど色は白で統一されたエリンギ。
山程根こそぎぶち抜いたから、藤原さんもさぞ大喜びだろう。
「……ゆ、ゆりちゃん……。ひどい…~。なんて慈愛のない…環境破壊を……」
「………たくさん採れたね………! 私はいらないから全部藤原さんにあげるよ。ほんとに私は興味ないから。このキノコ」
「…えー………。いや、いらないデスゥ~……………。ひどすぎる……」
…手についた白い粉が煩わしい。
胞子なのかなんなのか、分かんないけどもとにかく手をパンパンッ、と祓って一息。
こうして私は藤原さんを黙らせることに成功した。
あぁよかった。
めでたしめでたしだ。
「ちょっとゆりちゃん!!! ──改め、哀しきモンスターゆり~~!!! どうすんですかぁこのキノコ達!!! すごい理不尽な虐殺されましたよぉ~~~!!??」
「…いらないならあとで私が全部捨てるから大丈夫」
「やっぱその倫理観薄いとこ好きだわぁ~~~…………。ほんとゆりちゃんはすごいよっ!!? 色々と~~!!!!?」
すごい、って褒められてしまった。あーうれしい。
さて、暫くは音楽でも聴いて時間でも潰そっかな。…と。
私はスマホが置いてあるカウンターテーブルへと足を進めた。
さっさとこの場から出ても良いものだけども、バーから出た先で殺人鬼に会ったり、……藤原さんやマイクおじさんよりも五月蝿い人に出くわしたらイヤだし…で。
とりあえず日が昇るまでここに待機することと決める。
……一人なら、すごい落ち着けるいい場所なのにな。このバー。
「……ゆりちゃん~~~………」
「………」
テーブルからイヤホンを手に取り、右耳へ。
もう片方を入れるのはなんとなく後回しにして、音楽アプリをそそくさと開いた。
スマホ画面に流行りの曲のラインナップがスラリと表示されたこの瞬間。
──気づいたら、風邪を引いたかのように身体全身が熱くなってきて。
「…えっ、ゆり………ちゃん………………?」
──発熱に気づいたと同時に、スマホもテーブルも棚も……。ぐにゃぐにゃ歪みだして、耳なりもしだして。
「…ゆ、ゆりちゃんっ………!? ど、どうしたんですかぁ~っ?!」
──真夏だというのに、背筋がゾワッと寒気がしたと思ったら…。
「…あれ。えっ」
────頭の中が真っ白になって。私は倒れ込んだ。
バタリッ
「ゆ、ゆりちゃん~~っ!!!!」
──倒れた拍子から激打した頭の痛みが、徐々に徐々にはっきりしていく……。
──この、意識朦朧の空気感。
………
……
…
◆
──………田村さんさー。前、小陽ちゃんが「小学生時代はモテてた」って言ったの覚えてる?
────…えっ? あぁ、うん。そんなこと言ってたようなー……。どうだろ。
──私さぁ、その時思い出した映画あんだって。…なんだと思う? ヒントは小学校が舞台。
────…映画ー…かぁ。分からないや。答えはなに?
──『ブタがいた教室』…!
────……ふっ! はは、はははっ……!
──で、ところでさぁー。田村さんって小学校時代どんな感じだったわけ? まこっちとは高校からの知り合いでしょ? 友達いたの?
────…え? 私の小学校時代……? うーーん。まぁ別に。
普通だった感じだよ………?
◆
…
……
………
「う、嘘…………。なっなに…………………。……これ……………」
…鏡を見て私は唖然とした。
鏡を直視するとき、必ず自分の姿が映りだす。
──ならば、今映っているこの姿が本当に真実なのか。
鏡にたくさん問いただしたけど、目の前の明らかに『おかしな姿』は一向に変わりなかった。
「フ、藤原サン……。田村サンに一体………ナニが……?! コレは一体……………」
背後に立つマイクおじさんの驚いた声も、この姿が現実であることを示し出す。
…全く訳が分からない。
意味が分からない。理解不能。理解ができない。
私は一体、…なんで。
こんなことに………。
「…これは~…。今こそ恋愛探偵・藤原千花が──全てを説明するときですね~っ……!!!」
「藤原サン……。何がどうなってるんデスか…!??」
「…ごほん。これは全て私の勝手な推理によるもの……。ですが、お聞きください…──」
「──ゆりちゃんの身に起こった『真実』のすべてをっ~……!!!」
ズダダダダダダタンッ(ドラム)
♫てーてって、テレレレー!!
♫てーてって、テレレレー!!!
♫てーてって、テレレレー!!!!
──♪てれれてってー!!!────
♫てーてって、テレレレー!!
♫てーてって、テレレレー!!!
♫てーてって、テレレレー!!!!
──♪てーーっ↑てー↓────
【劇場版名探偵チカ ~シブヤー街の亡霊~】
──私の名前は田村ゆり!! 無表情高校生探偵だ。
──ベストフレンドである藤原千花と殺し合いに入れられた最中…、白ずくめの怪しいキノコを見つけてしまった!!
──キノコを毟るのに夢中になっていた私は、背後から忍び寄る死神の気配に気づかず。キノコの毒をもろに受けてしまう…!!
──キノコの毒で意識を失い、目が覚めたときには…………っ。
「身体が『縮んで』いたっ────!!!!!」
………。
「つ、つまり。やはりこの『子供』は…田村サンなんデスねっ?!! このダボダボな制服を着た子はっ!!!??」
「そう…!! 彼女は紛れもなくゆりちゃん……!!! 見た目は子供だけど頭脳は~…我々の知るあの無表情モンスターそのもの!!! ゆりちゃんなんですっ~!!!!」
「そ、そんなマサカ…!!!」
鏡に映る……自分の姿。
それはいつもよりも童顔で、いつもよりも手足が短くて、いつもよりも体が小さくて、いつもよりも声が若干高い。
いつも通りじゃないけど、決して見覚えがないわけでない。
「………なんなの…………。これ…」
試しに手で顔を触ってみると、鏡の少女も同じ動きをする。服をタポタポ揺らしてみると、鏡の少女の服もまた同じく揺れる。
額から汗の感触がツラーーッと流れると、鏡の少女も同じく汗を流す。
息を呑めば、喉がうなる動きが映される。
鏡には、まぎれもなく私が……………。
…ほぼ十年前の姿まんまの──少女な自分がそこには映っていた………………。
「一体…この現象はナンナンデスか………」
「いいえっ!! 心配は無用ですよ~…。マイクおじさん!!! むしろこれはポジティブな出来事!!! 嬉しいハプニングなんです~~っ!!!」
「エッ??」 「………は?」
「さっきからゆりちゅんには私が和太鼓に見えるのか…。ドンダコドンタコスと殴られ続ける私でした~~…。この上ない暴力…、屈辱の悪人っ…。ゆりちゃんはなんて悪魔なんだろう。そんなことを思う日が私にもありました~…──」
「──ですがッ!!! 今のゆりちゃんはどうですか!!! 暴力の気配すら見えないか弱さ…!! もはや天使!!! カワイイーッ!!!!──」
「──心をなくした無表情デビルから、アメをあげればホイホイついてくるチョロ天使に弱体化したんですよ~~っ!!! これぞ、まさしく神様がくれた『下剋上』じゃないですかぁ~!!!」
「…ゲ、下剋上………。──アッ!? 田村…ユリチャンッ! だ、だめデスよっ!!!」 「………………はぁ」
「古くは北欧神話から…。虐げられた人々は皆最終的に王に勝ってきましたっ~!! 歴史は天地一変、逆転の連続で作られてきたんですよっ~!!! …す・な・わ・ち──」
「──ゆりちゃんさっきまではよくも殴ってくれましたねぇ~~~!!! お仕置きですよぉ!!! おらおらおらおらおら──…、」
「…ふじわらさん。あいかわらず、うるさいんだけどっ」
──ドガッ
「ぎゅわあぁぁあぁいっ!!!!?? 力強っ??!!!!!」
「フ、藤原サァン……!!」
…でも、馬鹿力だけは普通に継承されてるっぽかった。
……そんなの、どうでもいいんだけどね。
……。
この姿、治ったりするやつなのかな。
もしも治らないんだとしたら、これからの人生。
わたしはどうしたらいいの?
◆
~マイクのバトル・ロワイヤル講座~
【チェンジリング】
田村さんが触れてしまったキノコの名前は『チェンジリング』といいます。
このキノコの特性として、踏んだり、輪の中に入ってしまえば、自分と近い種族に変わってしまうという効果があるのです。
分かりやすく説明すると、田村さんの種族は【トールマン(人間)】であるため、近い種族の【ハーフフット】──つまり見た目がずっと幼子な種族に変化したのでした。
もっとも、チェンジリングは普段こそはダンジョンでしか生息しない生物なのですが、どういう訳か渋谷にも度々現れるこの現状。
これはバトル・ロワイアル開催による影響が及ぼしているのか、今はまだ謎が深まるばかりです。
ともかく、見かけても絶対触れない食べない引き抜かないように心がけましょう。
◆
【1日目/A2/バー/AM.02:41】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:どうしてこんなことに…。
2:ふじわらさんが、とにかくうっさい。
【藤原千花@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:ちびっ子ゆりちゃんカワユイ♡
2:魂を、刈り取ります!!!
3:ゆりちゃんの鉄拳を、ガードしますっ!!
4:死は、…とにかくダメですっ!! きゃ~~っ!!
【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさん、タムラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。
最終更新:2025年03月13日 21:23