『世界一やさしい殺人鬼』
美味しくウィダーインゼリーを食いたい────。
それだけだったはずなのに、俺は──────。
◆
「うわくっせっ!!!!」
支給物品である弁当箱。
タッパーを開いたらプゥ~~~~~ン……と凄まじい腐敗臭が広がった。
──奇妙な手紙と共に。
{{畠山くんへ。}}
{{せっかく僕が朝早起きして君のためにお弁当を作ってあげたのに一口も食べないとは人としてどうかと思う。}}
{{君に良心があるのならどうかこれを全部食べてほしい。}}
{{僕をあまり怒らせないでくれ。 ──N}}
「……は?」
「…畠山? 誰だよ…。このNってのは主催者の名前か? …訳が分からない」
ネッチョリ…と納豆のような粘つきを見せる弁当箱。
…こんなモンを食えと? この俺に?
ふざけるなよっ?!
「まぁ…俺、畠山じゃないし……。別に放置でもいいよな…。これ」
弁当にそっと蓋を閉じて、とりあえず今座ってるベンチの横に置くこととした。
──……いや、やっぱ臭いがヤバすぎるから投げ捨てた。
俺の名前は田宮丸二郎。
周りからはジローちゃんと呼ばれており、特に婚約者のみふゆからのモーニングコール──「ジローちゃん、朝よ~!!」はこの上ない幸せだった。……だなんて、まぁどうでもいいわな。
明日に備えて早寝をした昨夜、目を覚ましたら「殺し合いをしてください…!」とは。
キャンペーングッズの抽選をコツコツ応募するのが趣味な俺であるが、人生初の当選がまさかのバトロワ参加権……。
いらんっ、いらんぞ。
犬にでもくれてやれっ。ンなもん。
…ため息は嫌いだからつかぬようしてきたものだが、さすがに許してくれ。
「…はぁあぁーー…………」
ンだよこれ……。
ワケわかんねぇし…、こういう時どんな顔すりゃいいか途方に暮れるわ…、これ。
…そうそう。
一番訳わからんのが、俺の支給武器だ。
バスから転送され目を覚ましたとき、まっさきに目に入ったのが横に座る『こいつ』。──……こいつ、はおかしいか。人間じゃないもんな……。
顔はバカでかく、鼻水を垂らし目はギョロギョロ。
おまけに寸胴で一見全く頼りになさそうなこいつ。
──そいつの名は正義のヒーロー『どくフラワー』だ。
…言ってしまえば、スーツアクターが職業の俺が着る 着ぐるみというわけだ。
ご丁寧にも値札のように、『田宮丸様専用武器』と貼り付けてあるのだから、これを着て戦えと申すのだろう。
「…きったねぇ弁当誤支給した割には律儀によこしやがってなぁっ!!!」
…全く参った話である。
確かにどくフラワーは毒の力で敵を倒す正義の味方だ。
相手を一発で戦意喪失させるパンチに、とんでもないキック……、いざバトルとなれば彼に敵うやつなんかいないだろう。
「…がっ!!! あくまで、それは設定のはなし…」
こいつを着ていざ殺し合いとなってみろ?
ノー装備時に比べて動きづらい、視界も狭い、暑苦しさが半端じゃない……。パワーダウンもいいところだろうが。
なにが田宮丸様専用だ?! なにが俺専用武器だ?!! シャアかよっ?!!
……どうせ殺し合いをするんだったら、せめて有能な主催者の元やりたかったよ。うん。
「……で、俺はこれからどうすべきか…という話だが………」
…早い話、弁当ぶん投げた時点でもう俺の支給品はゼロなわけだ。
他の参加者みなさんもこんな感じのカス支給っぷりに困り果ててるだろう……と思ったが、あの主催者のことだし意味不明な支給格差がついてる可能性は大だ。
…なぁ?
俺はどうすりゃいい??
死亡率が凄まじく高い気がするんだが、ほんとに何をすれば助かるんだ。俺は……。
それとも諦めてさっさと自サツをしろという神の思し召しなのか??
「いや死にたくねえよ…。こんなバカげたことで……」
…とりあえず、
とりあえずだ。
俺は支給武器であるどくフラワーの中に入り、でっかい頭を被ってみることとする。
──とりあえず、
ここが一番の隠れ場所だから、な……。
◆
川のせせらぐ音。
屋根のない車修理場にて、一人の女性が歩いているのを確認した。
辺りは小休止中の大きな歯車、鉄片の数々に、事務所へ続く扉、至る所落ちている吸殻たちに、そして着ぐるみ。いずれも月明かりに辛うじて照らされるのみ。
一見して、OL風といったメガネの彼女。
バカか、否か。…恐らくバカであろう。
今がどういう状況かは分かってるだろうに、メガネ女は大声で周囲を見渡していた。
「おーー~~~い! ココノツ店長いるスかぁ~~~~? ほたるさんは~~~?」
「…いない、か……。お~~~~い! ハジメは自動車工場にいるっスよ~~~~~~!!」
大胆、と評せば聞こえはいいが、『ハジメ』と名乗った女性は大声を出して暫く経っても、この場に残り続ける。
ナンタラ店長だか、ほたるさんだかと早く出逢いたい──そんな思いは理解できるが、彼等よりも先に違う参加者と鉢合わす可能性の方が高いだろう。
ましてや、そうドでかい声を上げたら、絶対に出会いたくなんかない──ゲームに乗った参加者に会う確率の方が……。
ザッ……
「あっ! ココノツ店長ッスか────…、」
「…って、違ったしー…………」
…即落ちにも程があるだろう。
ハジメの声を聞きつけ、足音を立ててきた男が一人……。
シワ一つないスーツを着た…なんだか権力者、重役と思える男が工場入口に立っていたのだ。
ハジメとヤツとの距離は推定十メートルほど距離が離れている。
そのためか彼女は声を届けたいと大声で、しかもこれといった緊張感皆無で男に接し始めた。
フレンドリーにメガネを光らす彼女…。やはりバカだった。
「すいませーーん!! 私、尾張ハジメって申しまーーす!!! …あっ、殺し合いには乗ってないんでーー、まぁ仲良くやらないスか~~?」
「……………………………」
尾張ハジメ。──…おわりはじめ……とは何たる因果な名前だろう。
ニコやかに叫ぶ彼女へ、男は無言で返す。──といっても、軽く微笑み手を振るといったアクションも含めて返事を返したのだが。
カッ、カッ、カッ、カッ────とハイヒールを鳴らし、彼へと近づくハジメ。
警戒心ゼロで歩み寄る彼女は、会話一つさえしていない男を完全に信頼しきっている面持ちだった。
「ところで~~、おじさん…名前なんて呼べばいいスカ? あっ、私は適当にハジメでいいんスけどーー……」
…例えば、ペットボトルがあるとしよう。
『ペットボトルの形はなんですか?』と聴かれた時、そら『?? ボトル状でしょう』と答えるはず。
ただし、ペットボトルの向きを回転させたとき。すなわち奥底を見せつければ、『いいえ、丸です』と答えることができる。
…つまりは、だ。
「あれーー? おじさん無視しちゃいますかぁ~~~~? まー、別にいいっスけどー……」
──視点を変えた時見えてくるものがある。
男と対面しているハジメは決して気付かないだろう。
彼が右手に隠し持っている『バズーカ砲』が────。
刹那。
──ボンッ、ドガァァァアアアアアアアアッッッッ
「……………………え?」
ハジメのすぐ背後が焼け野原で覆い尽くされる。
燃ゆる地面、一瞬にして湧き立つ煙、そして揺れる足元。
爆発音が静まった後、バズーカ男は口を開いた。
「動くのを、やめなさい…………!」
「…え??」
もう隠すまでもない。
銃口ははっきりとハジメを捉えていた。
「ははっ…! やはり反動を抑えるのが難しいな……。外してしまったよ……」
「…ちょ、ちょっ!!! な、なにやってんスか!!? 普通にやべ──……、」
「二回目だ。動くのをやめなさいっ………!」
「……………」
「この『動くな』は体あらゆる部位全て。口も開くな、を意味している……! 分かったかな………?」
男に一喝され、ハジメは静止をせざるを得なくなった。
冷静に考えてみれば、動こうが止まろうが待っているのは死一つのみなのだが、焼け燃える背後と男のマムシのような目が、まともな思考を許さなかった。
冷や汗がサラーっと顎から落ちるハジメ。
驚愕の顔を維持したまま、彼女は立ち尽くし、口をあんぐりと開け、ただただ。
────震えた様子で言葉を発した。
「…そのスーツ、『帝愛』の…っスよね…? だったら察するんスけど、おたく利根川幸雄か黒崎義裕…っスか?」
「……………………」
「その無反応は『御名答』を意味してますかね…? はは、私就活のとき大手を色々調べたんで、分かるんスよ……。ねえ、──黒崎さん?」
「……………ふぅ…」
「こんなことしていいと思ってるんスか…? 例え、私を殺せたとしても、立場上かなりやべーんじゃな──…、」
「わしはな………っ!」
「…え?」
「わしは、『四回まで』ならミスを許すことにしてるんだよ。自分の部下が……、一度注意したことをやらかそうとも……………! 四回までは穏便にしとるんだ…………。いつも…………」
「…な、なんの話──……、」
「だが君は、わしの部下ではない………っ!!! 無論……!! 『動くな』という指令を君は破り、これで三回目………………──」
「──三回も許してあげたのだから、優しい方だろう?」
「えっ………。ふ、ふざけるなっスよ──……、」
「言い訳は嫌いだ…。とどのつまり、これ以上の会話は圧倒的不要………っ! ──さようなら、お嬢さん……!」
間髪なく。────ボムッ…と。
ハジメの最期の言葉を待たずして、発射される弾丸。
ボーリングサイズのそれは、火の玉ストレートのように。
どこまでもどこまでも真っ直ぐにキレを保ち、そして、破裂。
「……………えっ」
光が、見えた。
──ドガァァァアアアアアアアアッッッッ
ガァァァァ、ァァァァ………
ガシャンッ、ガタガタ…………
バタリッ──、ゴロゴロガタッ…………
「…ぁがああぁぁぁっ!!!?!」
はじき飛ばされ、転がっていく────『男』の身体。
「…えっ?? ……………えっ??」
二発目の弾丸が当たった先────『壁』がホツホツと焼け爛れる。
鉄パイプ山にぶつかり、ようやく静止した男。その驚きの顔を隠し切れなかった。
…それは、ハジメとて同じ様子だ。
男は問い掛ける。
「な……、何だね………? き、『キミ』は…………??」、──と。
フフッ…。
思わず笑ってしまった。
今までの敵たち、奇襲を食らったら口を揃えてそのセリフを吐いてたのだから。
マジの殺し合いでの、そのセリフに笑わずいられない。
あのとき、バズーカが放たれる寸前。
俺は飛びかかり男に向かってキックをお見舞いした。
強烈で、たまらない一蹴りだ。
お陰でハジメは爆散なんてせず、今もこうして立っているわけなのだが。
……え?
何故、そんなピンチになるまで黙って見ていたんだ。って…?
簡単さ。
────ヒーローは、ピンチの時に駆けつけてくるんだよ。
「毒の力で平和を守る……──どくフラワー、参上!!!!!」
「…………………あ、あー?」
「帝愛の黒崎といったなッ!!!! お前はこのボクが、闘志乏しくなるまで叩きのめしてやるッ!!!! 覚悟しろッ!!!!」
…ほんとはどくフラワーは喋っちゃいけない設定なんだが、まぁ…いいだろう?
毒のヒーロー…もとい俺、田宮丸二郎は、正義の味方としてこのバトル・ロワイアルと対峙するのだった────。
「ど、どくフラワー………………!」
歓迎、歓喜の声…。
ハジメから発せられるその声になんだか痺れてしまう………!
「…やれやれだな…………。どく何とかクン、警告だ………! キミも動くのをやめな──…、」
「♪どーくの力で咲くフラワー♬♬」
「は? ……何をしてるのかね? き──…、」
「♬どくでー、花をー、咲かせましょーー♫♪」
♪どーくの力で倒そう~、敵を~
♪毒は怖くないよ~~、強いだけなんだ~
♪さぁ、みんなもドクドクドクドクッ!
「♬ドックンドックン、ドックンドックンドックンドックン!! バックンバックン、バックンバックンッバックンバックンッッ!!!!」
「……………………」
動くな、ってか?
…そんなのどくフラワーには通じないんだよっ!!
どくフラワーは誰にも縛られないし、誰の言うことも聞かない…っ!!
それ故に、いつも孤独に戦い続ける正義のヒーロー…。だが、『どくフラワー体操』だけは毎回かかさず行う。
それが俺なんだよ……。
それがヒーローなんだよ…っ!!
俺の体操は誰にも止める権利はないんだよ………っ!!!!!
──…いや、あまり冷たい目で見ないでくださいよ……。黒崎のおじさん…。
「はぁー………。ここは問題児ばかりだな……。…なあ、勝てるというのかね? わしに……………、キミは…………………っ!」
「…勝つか、負けるかじゃない……。闘いたくないんだ…………。なぁ…」
「………おやおや──」
「──本音が出たようだね。ダメじゃないか……!! キャラにちゃんとなりきらなきゃ……! 」
「…ボクは闘いたくない……。…ヒーローといっても綺麗事だ。…倒された敵は死んで、遺体は無惨に爆散で、…敵にも遺族がいる……」
「…………何が言いたいんだね」
「…ボクは……、ボクは……っ!! あんたをボコボコにして怪我させたくなんかないんだっ!!! 闘いをやめる選択肢があるなら、あんたはバトルを諦めるべき!!! さぁ選べっ!!!! ボクは倒したくないんだよっ!!!! あんたをっ!!!!」
「…やれやれ。そこまで勝てる見込みがあるのなら、わしも手加減は失礼に値するな……!」
「────やるのかい、黒崎?」
「────やるさ……! どくフラワー……──」
「──くんっッッッッ!!!!!!」
素早くリロードされたバズーカから、弾丸が飛び出される。
俺はそれを軽くかわして刹那────真っ赤な光と爆音。始まりのゴング代わりにはちょっとうるさすぎた。
「わっ!!!! ど、どくフラワーさん!!!」
俺は一気に距離を縮め──いわば飛び蹴りで闘いにかかった!
…が、二度目はないぞ。と、黒崎は軽く避け、間髪入れずに襲いかかってくる右フック、左フック…。
さすがにこればかりは避けきれず図太い頭に直撃。
熱々の汗水がほとばしり、飛び散る。
…着ぐるみという名の厚い鎧のおかげでダメージは少なかったが、それでもスタンガンを受けたかのような痺れはあった。
「フンッ…………!!」
ゴシュッツッッッ
…ぐえっ!!! 蹴り強っ?!!
三発目、蹴りを腹にぶち込まれ、尖った靴の先が内部にまで染み渡っていく。
このとき俺はキックの衝撃を堪え、後退りしないよう足に力を込めるので必死だった。
仮に突き飛ばされた場合、待っているのはバズーカの破壊光線……!
接近戦では飛び道具…、ましてや爆撃範囲の大きいバズーカは使うまいと、黒崎は考え肉弾戦に持ち込んでいるわけで。
ヤツと距離を遠くすることは死を意味するのだ…ッ!!!
「……ハハ。わしは空手を少しかじっていてね。まぁ、運動不足解消にと始めたものだが……。役に立ってよかったよ……………!」
ドスッ
ドスドスドスドスッッ
…そう言いながら奴は顔面めがけて正面突きをしてきやがった………!
ぐにゃり…とへこむどくフラワーフェイス……。──内部の俺もどんな顔になったかは言うまでもない。
正直、後悔した…。
クズいことを言うようだが、ヤツと闘ったことを後悔したよ。
汗とよだれと鼻水で内部はめっちゃめちゃだし、吐き気もすっごいくらいに止まらない。…もしかしたら、吐いたのかもしれない。
たった五発ほどの攻撃で。
俺はもう白目寸前で、立ってるのさえやっとだった…………。
「どうだね。どくフラワーくん。疲れたようなら、言いなさい……。すぐわしが楽にさせて──…、」
────だが、それが何だと言うんだ?
ゴシュッ────どくフラワーパンチ。
「…っがぁっ!!!!」
ドスッ、ドスドス────どくフラワートルネードキック。
「…ッッ……、…なっ??!!──」
「──ぐいぎいぃぃがぁぁぁぁああああっっ!!!!!!」
ッ、パァァァァァァン────どくフラワーアッパー…!!
「…ぐほっがぁぁぁあぁぁぉっ!!!!!」
どくフラワーだって生き物だ。完璧超人なんかじゃない。
これまで何度も何度も何度も何度も……、もうワンパターンなくらいに敵に捕まり、死寸前まで追い詰められてきたというじゃないか。
毎回ボコられ、痛くて、辛く苦しくて。
投げ出したい。
投げだしたいけど………、
彼にはいた。仲間が、みんなが。
応援してくれる子どもたち、お客さんが……ッ!!
それは中身の俺とて同じだ。
俺にもみふゆ、近藤さん、大貫、服部、靖雄、亜希ちゃん……………、
そして、
「ど、どくフラワーさぁーーん!!!! 頑張ってッスーー!!!!!」
応援してくれる『お客さん』がいる…!!
大声を出して声援を送る彼女が、今…!!
だから、だから……………!!
「俺は……、ボクは絶対負けないんだぁアアアアァァァァアアアア─────────ッッ!!!!!!!!!!!」
「…ぐぅうっ…………! ──…あっ、あぁっ……!!!?」
最後の一発を、よろける敵に向かって。
渾身の必殺技──どくフラワータックルをお見舞いしてやった。
…これもハイになった副作用から、か。その一撃の直前はなんだかすごくスローに俺は感じた。
「…す、素晴らしい……! ハァ、ハァ……きみは…どこでこの体術を……得たのかな…? 称賛に…値するっ……!! コングラッチュレー──…、」
「俺は、スーツアクターだ。…もっとも近藤さんには敵わんがな」
ズッガァァァァァァァァァォァァァァッ─────
…ドボンッ。
飛ばされた黒崎は、川の中へと落ちていった。
【1日目/D1/自動車整備場/川/AM.1:20】
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】気絶
【装備】グレネードランチャー
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:バトル・ロワイヤルを楽しむ
2:会長が心配だけど一旦置いておく
3:どくフラワーを称賛
◆
…
……
「いや~~!!! ほんっとスゴかったッスよ!!! ありがとうございます!!! 田宮丸師匠!! …てか師匠ほんと何者なんスか??!!」
「はははっ…。とにかく尾張さんが無事で良かったよ」
…師匠って……、ハジメもスーツアクターするつもりなのか…?
工場を出て走ること十分弱。
近くにあったマクドナルドで疲れを癒やすことまた十分弱。(…この『十分』が大切なのだ。)
俺たち二人は色々話し込んで、このあとの方針を定め中なのだった。
「…あっ。失礼、師匠。鼻水が出てらっしゃるッス」
……あぁ。
「いや、いいんだよ」
「えー? よくないっスって!! ほらティッシュ渡しますから……、」
「…ふっ、いいんだ──」
「──どくフラワーにとって、演者の鼻水は勲章の証……だからな」
「…は、はぁッス……。よくわかんないスけど、あとでかんでくださいよ~~」
……分かりはしないだろう。
あぁ分かるわけがないんだ。
これは、どくフラワーを着た者たちにしか分からない……、特権なんだからな。
はははっ………。
「みふゆ…………。俺は絶対生きて帰るからな……! みんなを連れて……」
不謹慎ながら、これが勝利の甘美ってやつか……。
俺は思わず、ボソリッ独り言を漏らしてしまった。
「…ところで、ハジメさん。そのウィダーインゼリー………」
「…へ? なんスカ??」
「いや、変わった飲み方だな…って。なんでそうやって手に持たず、ちゅ~~~~~って飲んでるんだ? おかしくないかな?」
「え??? 別に意味なんてないスけど……、強いて理由あげるならー…このほうが飲むの楽だから、ッスかね?」
「…楽……?」
「…はい。こう…ちゅ~~~~~~って一気に飲んで、十秒くらいで飲み干したらポイ~、みたいな。みんなやってる飲み方っスよ」
「……みんなやってる…………? これが…『普通』…………?」
「え~~~? 師匠はじゃあどう飲んでるんスカ~~~? アイスのバニラの吸うあれも同じように飲むッスけど~」
「ク…クーリッシュをか……?」
「あぁそれッス! 具体的名称すぐ出せるとかココノツ店長みたいスね~~。あははは~~~」
「…俺は、クーリッシュを限界まで溶かし、容器を握りつぶして……、一瞬で飲むのが好きだった」
「…え?」
「…それはウィダーインゼリーも同じだ……。握りつぶして一瞬で口いっぱい……。あの旨さが好きだったんだ…」
「…師匠、失礼ながら怒ってます?」
「…………怒ってなんかねぇよ」
「……いや、えぇっ……?」
「怒ってなんかねぇけど、納得いかねぇって言いたいんだよ。俺は……」
「正直自分も何言いたいのかわけわかんないッスが…」
「俺は秋田の頃からずっと握りつぶして飲んでた。それは周りも同じだ……、みんなやってたんだ。…なのに、なのに………」
「どうしてお前の飲み方が普通と断言できるんだぁぁぁぁ─────────!!!!!!!!」
「俺が異常だと………そう言いたいのかぁぁぁぁ─────────!!!!!!!!」
◆
気がついたら俺は椅子でハジメを滅多打ちにして殺していた────…。
【1日目/D2/マクドナルド店内/AM.1:45】
【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】どくフラワー@目玉焼き
【道具】なし
【思考】基本:【???】
1:…。
【尾張ハジメ@だがしかし 死亡確認】
【残り66人】
最終更新:2025年02月28日 23:38