『ふたりだけの危ないGAME~Love is War』



[登場人物]  四宮かぐや白銀御行島田虎信





 ──バトル・ロワイヤル────!!

それは、数多くの参戦者たちに生死を賭けた競い合いを強要し、最後の一人になるまで争わせる悪趣味な殺人遊戯。
まるで古代中国において用いられた呪術『蟲毒』に相似しているが、その蟲毒と決定的に違う点が一つある。
──それは、虫ではなく生身の人間に殺人をさせることだろう。
地面を這うことしか能のない虫共と違い、我々人間には人を信用し、時には疑い、極限状態で悩み考えぬく『思考』がある。
すなわちバトル・ロワイヤルとは、本質的にはコンゲームでもあるのだ…!!


 時は、スーパームーン観測報道が出た日の夜。厳密には某月七日。
その夜の神秘的光輝さといったら、まるで朝の如し。
満月が太陽の成りすましをしたかのような明るさで、そのリアリティのない光により屋外にいようとも作られた舞台セットにいる錯覚に陥られる。
──あの古典御伽『竹取物語』のかぐや姫も、きっとこんな月夜の晩に降り立ったのだろう。

そんな幻想的な真夜中、
──一人の男が微動だにせず、静かに直立していた。


(…フンッ。俺に殺し合いをしろだと…? 愚かな人間がいたものだ……)


純金飾緒が目立つその学ラン。
微風が彼の体をかすめるが、なびくのは黒い制服とやや金色がかった髪のみである。
男の名は────、白銀御行。以下、俗称:白銀会長。
そう。『会長』と冠するに相応しい彼はまさしく──、


「主催者。…トネガワだか、黒幕が誰だか……そんなことはどうでもいいのだが…──聞け。お前に特別、後悔する時間を与えてやろう」


「────この秀知院学園『会長』である俺をゲームに巻き込んだことをな…ッ!」



『天才』だった────。


 かつて貴族や士族を教育する機関として創立された名門校『私立秀知院学園』。
貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ将来国を担うであろう人材《スチューデンツ》が多く就学している。
そんな彼らを率い纏め上げる者が、凡人であるなど許される筈もなく…。
云わずもがな、白銀会長は白眉──聡明叡智の頭脳的カリスマなのだ。


(…全くやれやれなものだな………)


 キャットストリート。──旧姓:渋谷遊歩道。
渋谷から原宿に抜ける約一キロメートルの道にて、天才の彼は一人直立不動を維持し続ける。
ただ、その不動っぷりもゲーム開始からかれこれ数十分が経過。
トネガワの説明通りこの殺し合いには制限時間がある。
普通たる凡人なら僅かな時間も無駄にしたくはないと慌てふためき、自分を見失うほど悪鬼に駆られるが顛末なのだが。──白銀は何故、動かないのか。
何故、ここまで膠着を崩さず、静止画状態を極めているというのか。
…もしかしたら、彼は『殺し合い』を前に、ヘビに睨まれた蛙のような憂虞を感じてるのではないのか──?


「…くく…。ふはは、ははっ………」


──否。違う。
白銀は耐えかねず、己の身体を震動し始めた。


「…くっはっははははは…、はっははははははははははっ!!!! はははは──!!!」


彼の震えは、何も自分の置かれた運命に臆した訳では無い。
古来、不戦神話を誇った剣豪・宮本武蔵は戦いの前夜、早く斬りたくて斬りたくて仕方ないと体をうずめかせていたものだが、それと同等の震えが今白銀が魅せる『武者震い』。
戦いを前にしての『興奮』。


「はっはははははははっはっはっははははははははははははっ!!!!!!」


100%の計画成功。
すなわち絶対的な脱出をその頭脳から導き出し、笑いという形で武者震いをしたのだろう、白銀は彼らしくもない高笑いを響かせた。
そう、白銀会長は可笑しくて可笑しくてもう仕方なかったのだ。

それは主催者のボンクラぶり、それに係りバトル・ロワイアルのルールの穴だらけっぷりにも笑いが止まらなかったのだろうが、これはあくまで一割程度。

──笑いの大部分の理由。それは。

どんな危機的状況に陥ろうとも、最適解を短時間で導き出せる自分自身────。
そんな自分に我ながら敬意を評して笑っていたのだ。


天才たちの頭脳戦~BATTLE ROYALE~。
──彼はその悪しき物語に終止符を打つべく。
時はAM.0:41にして、眼前の長い坂道を下るべくついに…。

動き出すのであった──────。



「……主催者のヤツめ。ふははっ………──」










「──…が、まあ、──」










「──『どんな願いでも叶えてくれる』というのなら……。望み通り殺しに参加も、考えてやらんこともないがな?──」


「──…くははっ」



…訂正しよう。



(…例えるなら…四宮かぐやという女の生徒がいたとする……)


「そんな彼女の猫耳姿が見たい──ッ、だとか…彼女のメイド姿が見たい──ッ、だとか…彼女をスク水にしろ──ッ、だとか…彼女を常時デレデレにしろ──ッ、だとか……。四宮を我が下僕にしろだとか、四宮に俺の弁当を食わせろだとか、四宮に俺の体をマッサージさせろだとか、むしろしたい…だとか…。ははは──」


「──ははははははは!!!!! はっはははははははっはっはっははははははははははははっ!!!!!!」



 白銀御行。
彼が笑い出した理由、引いては彼が何十分も考え事をしたかのように動かなかった理由…。
それは、かの四宮かぐやに対する願望を妄想していたから。
そしてそれがワンチャン叶うかもしれないと堪えきれなかったからだ。


「面白い……。制限時間四十八時間とは言わず今すぐにでも終わらせてやる。待っているんだな、主催者」


「──そして四宮かぐや!!!」


神。
何故、神は人間に『煩悩』という最悪のカルマを背負わせたのだろう。

彼がぎゅっと握りしめるは、いつぞやの記憶かマニュアルを既にラーニングしていた銃。
かぐやのことで頭がいっぱいになった質実剛健──白銀は過ちにもほどがある方向に頭脳を使うため…。
おしゃれなカフェが集うこの坂を一歩、一歩下っていく……。






「……しかし、殺し合いに乗った以上油断は禁物だな。出会う参加者をよく見定め泳がせるか、始末かを見極めねばなるまい。…バカな参加者を相手にした時は見なかったことをすべきだ」


──何故なら、バカは何をしだすか分かったものじゃないから扱い難い…と。
ディープな街を練り歩きながら彼は言葉を漏らした。
メンズ・レディースを問わず沢山の古着屋が軒を並べるこのキャットストリート。
なかなか手に入らないようなアイテムを宝探し感覚で探し求めるのが、古着屋巡りの魅力だが、白銀も目をギラつかせて獲物を探る。
ただでさえ目つきの悪いだけあり、もはや虎か彪かの威圧感さえ醸し出していた。


 スタ、スタ…

  スタ、スタ……


クマまみれの目がギラギラ光っていく。

毅然、誰かが指示を出すまでもなく輝き続けるスーパームーン。


「…ただ、問題が一つだけあるな。…もしも、あの参加者に。『彼女』に出くわした時…」


スーパームーンの月光がタイル敷きの道路を塗装していく。
いわば、ブレイブ・メン・ロード《光の道筋》。
幻想的な明るさ故、もはや白夜同然と化した渋谷遊歩道にて、一人────舞い降りた。



「あぁ、『彼女』に出会った時……。俺は果たしてどう行動すべき──…、」




「──か……。あっ」

「あっ……!」




『彼女』を前にして、白銀は思わず立ち止まることを余儀なくされた。


無防備な銃口を前に、気づけば立ち塞がっていたその彼女。

黒い艶のある髪を、紅のリボンで一本結びし、
小柄だが気品あふれる佇まい、そして圧倒的な令嬢のオーラを醸し出し、
──何よりその整った童顔が、美術品クラスだった。

──そして、今白銀が何よりも会いたくない顔だった。


「……………くっ…」

「…あ、あの………………。あのっ…!!」



 正真正銘の天才にして生徒会副会長。三年。
産まれたばかりの子鹿のように体を震わし、目には涙を浮かべ打つ…。
満月のスポットライトを集中的に浴びる──月からの姫に。

白銀はこの時出会ってしまった。




……

今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに 使ひけり。

名をば、さぬきの造となむいひける。

その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。怪しがりて、

寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。


……




「…会長……。会長……!! …会えて嬉しいです……………!」



「…………四宮…かぐや…………っ!!」




────名は、かぐやと申した。







「…ってなんや知り合いかいっ! おい姫、…なんやこいつごっつう目つき悪うて……。大丈夫なんか?! おい!!」



「…いや、え?」


……彼女の背後にもう一人。
脇役というように、ガラの悪い男を添えて。


「あっ…。会長、大丈夫です…。この人は島田虎信さん。…案外優しい人なので警戒はする必要ないですよ。…ねっ……?」

「ほーん。お前は会長ゆうんか。とりあえず一緒に行動や。ボゲのトネガワは俺がボコったるさかい、姫と一緒に安心してついてこい!!」




彼女らと出会い、こうして十数秒経ったものだが。
その僅かな間の後、白銀はとりあえず一言絞り出すのだった。


「四宮……。お前『姫』って呼ばれて…。──いや、呼ばせてるのか………………?」



かぐや『姫』──だからか?、と。






 満月にて人知れず栄える都『黄泉の国』。
月からの使者である異星人が、仮の姿をまとい、渋谷の地に降り立つ。
異星人が模すは、『蚊』の成。
蚊は途方もない長旅にて疲れた身体を癒すべく、水たまりにふと着陸すると──…、


 ブロロロロロロロロロロロロ……


  ────ブチッ


ハマーH2のタイヤに轢き潰され敢え無く死亡した。



夜間を中古車が走りゆく……。





「……いや、この人が勝手に姫って呼んでるだけですからね? 島田さんが勝手に……」

「あ、あぁ。…そりゃそうだよな………」

「いや待てッ!! そんなんゆうてお前…、かぐや言うたらかぐや姫やろがい! 男からしたら素直に女の名前呼びなんかできんねんて!! はずいやんか!!!」


「…ちょっ。とりあえず島田さん。前向いて運転してくれませんか……?」

「…チィッ!! 言われんでも…分かっとるわい!!」



 どのような人間でも、誰しもが『仮面』を被っている。
一度は【マーダー】になることを意思表じた白銀御行も、この車内では【善良一般人】という厚くて頑丈な鉄仮面を被りきっていた。

かぐや『姫』との鉢合わせを経て、あれから幾ばく経ったのか。
島田虎信──以下:トラ運転の下、二人は後部座席にて微妙な距離感を保っていた。


(………くっ、この男…。前を向いて運転しろ……どころか運転するなと言いたいものだ。なんなら俺に代わった方がまだマシだろう…)


移りゆく車窓。巡りゆく古民家カフェ達。
まるで山道を登っているかのような激しい揺れに、白銀は酔いを堪えながら窓を眺めていた。
意味もなく刻まれ続けるハンドルに、浮き沈みの激しいアクセルの踏み具合。
間違いなくペーパードライバーであろう運転手──…、


「とりあえず腹減ったしなんか飯行こか。…安心せえ。俺はゴールド免許やからドライブ中の危険はナッシングまち子先生やて! かははっ~」


──いや免許持ちとはいえAT限定のトラの、MT車ドライブ捌きといったら、かぐや白銀両名、口に出さずとも不安が募るばかりである。

白銀が眺める窓の下。
そこにはかぐやの青ざめがかった表情が反射していた。


「なぁ、四宮…」

「…はい」


「ゴニョゴニョ…(このままではヤツ《島田某》のキルスコアに『+2』が付く。…しかも意図せぬ事故でだ)」

「ヒソヒソ…(会長、ごもっともですが…。そんな失礼な……)」

「ゴニョゴニョ…(悪意のない泥棒が一番厄介とはよく言ったものだが。…俺はこの走行中の車から安全に脱する方法を考えている。…だがどうだ? 四宮も思いついたりするか?)」

「ヒソヒソ…(思いつきませんが…。…そうそう、仮に事故ったとして島田さんだけはエアバッグで助かるのがなんともですよね…)」



「…全く、とんだ厄介事に巻き込まれたな……。俺も……」

「せやな、白銀。だが諦めんなや? 俺やて、絶対死にたくないし、殺しもしとうないんやからなっ……!!」


「…………」「………あぁ、はい……」



白銀とトラとで齟齬ある会話だったことに、トラだけが気付いていない。



 時速100km/hでキャットストリートの道を走り抜け数分。
表参道を依然変わらぬスピードで湾岸ミッドナイトしていくが、地面が塗装されたアスファルトな分、地獄のような車内揺れは収まっていた。

顎を手の甲に乗せ、巡りゆく並木を眺める白銀は、脳裏で密かに計画を組んでいた。
天才である彼の脳は休むことを知らない。
日夜、寝ているときさえ働き続ける白銀ブレインはこの時、信じられないくらい高速回転する車輪と競うかのように回り続けていた。



 ──四宮かぐやをどうするか、について。…だ。



(…四宮………)



白銀には、夢があった。
それが、願いだった。
殺し合いという異常非常事態が起因となり、悪に堕ちた彼の願い──、それはかぐやを好き放題自分好みにすること。
このゲームに生き残るだけで、そんな夢が簡単に叶うのだから殺し合いを拒む理由なんか無かった。

だが、無論。
それは四宮かぐやの『死』とイコール付られる。

愛しの彼女が誰かに殺され──いや、自分が手に掛けるようでないと、優勝は理論上できない。
避けては通れぬ茨の道であったのだ。
優勝の褒美で後々生き返らせるとは言え、今は暫定的に死なせなきゃいけないのである。


(……………………だから会いたくなかった。できれば先延ばしにしたかったんだ……。この『四宮かぐや問題』は………………ッ)


この問題だけは、さすがの努力の賜物である頭脳を持ってしても解くことは容易くなかった。

 殺したくないけど、殺さなきゃいけない。
 生き返らせるけど、殺さなきゃいけない。
 殺さなきゃいけないけど、生き返らせたい。

『結果』はさておき、この殺す『過程』をどうにか自分が傷つかないようこなさねばならず。
その過程に、白銀は延々と苦しめられていた。

ブロロロロ…と暴走運転する車内にて。考えるごとに、まるで永遠のようにも感じた。




(ぐっ………………)




(俺は自分の都合ばかりだ……っ。自分が傷つかないように、自分の願いのために…と。自分自分自分自分ばかり……………)



(本来なら、俺は四宮を絶対殺しちゃいけない。守らなきゃいけない筈だというのに………………。俺は……)



「だが……………。…だが、しかし……なんだ………」

「なんやて? 白銀の坊主お菓子食いたいんか? こんな事態やっちゅ〜のに、気楽でええなぁお子様は…っ!」

「………。…いや、なんでもないです」



車内の揺れは収まったというのに、吐き気に似た葛藤の苦しみがピークに達しそうだった。
心中泣きたいようなもどかしさで込み上がっていた。
光を包み込み全反射する、その涙。
そんな涙が吐出口を求めて暴れていた。




そんな、涙が────こぼれ落ちた。




「………──えっ?」



────自分の隣に座る、殺したくて殺したい『彼女』の目から。




「…えっ?! …ど、どうした………。四宮……………」

「…あ、あれ。なんでだろう、なんか……。泣けて来ちゃって………。すみません、会長……………。なんだか…、急に──」



「──うっ…ううぁあ…ぁぁぁぁあああ!! …ぐっ、ひぐ…。あぁぁあぁ…………っ!!!」



「なっ?! し、四宮!!」




 涙は一粒。二粒。三粒。
…気づけば完全なる液体の塊と化し、濁流となくこぼれ落ちる。
しゃっくりをあげ、息が詰まるほどに顔を赤くしながら泣き続ける彼女、四宮かぐや。
白銀の知る普段のかぐやは達観的かつ冷静、そして仮面を被ったかのように隙など見えない女の子である為。
今の彼女の豹変ぶり、普段絶対見せぬその顔に戸惑いを隠しきれなかった。

彼女の涙は、か弱さを露わにした。
それほどまでに、殺し合いの中にいる彼女は無防備だった。


雄──、生物学的に男という生き物は、弱みを見せる物・か弱い対象相手にはそっと優しくなるものだ。
優しさを魅せるアピールとしては、例えるならハグするなり、抱きしめるなり、抱擁するなり…と弱者を包み込む。


「…と、とりあえず落ち着──…、」


そんな男としての本能からか、無意識にもだだっ広く開かれた白銀の懐は──。



 ギュッ…


「──おわっ!? し、四宮?!!」


──泣き通すかぐやが飛び込むに十分の広さだった。


「…会長…………っ! ぐっ、うぅ……ひぐ……………」


急ブレーキをかけたわけでもない。自発的な飛び込み──末の抱擁。
かぐやの柔らかな身体、
そして髪から透き通る甘い匂い、
背中を回り込む細い腕に、
黒い制服から漂う果実のような芳しさ。

予期せぬ言動と、現状に。白銀はマネキン同然をせざるを得なかった。
それゆえに、耳元で泣き声をあげるかぐやへ、ただ反論もできず耳を貸すこととなる。
涙ながらに語る乙女の想いを、ただただと。


「…私怖かった…。逃げ出したいし、もう何もかも嫌だったんです………っ」

「し、しの──…、」


「殺し合いなんて、もうどうにもできないと思ったんです……。絶望しかなくて、氷のように心が冷えてたんですよっ……………」

「……………………」


「会長と、さっき…会うまでは………────っ…!」

「…………………ッ!」



その白くて細い指で、涙を一回擦った。



「…会長は……、決断力に英断力、そして…何より希望を持たせてくれる……唯一の参加者………じゃないですか…………」

「……し、四宮。……お、俺は…」


「だからっ……………、あの日の…夏の。…花火大会もっ……………」

「…………っ」


「私…救われたんです………。救われたんですよ……。いつの日も…、会長のお陰で………………」





「………………………………四宮…」



かぐやが次の台詞、何を言い出すか。
すなわち彼女は自分に何を求めているのか。
自惚れてるつもりはないが容易に察することができた。

それと同時に白銀は思った。


「……俺はなんてバカなことを考えてたんだろうな。馬鹿すぎて生徒たちから呆れられるだろう、もう…」

「…え?」


思うままに口に出し、彼はかぐやの台詞を遮った。

…何故彼女に抱きつかれるまで気が付かなかったのだろう。
何故彼女が泣き顔を見せてようやく気づくぐらい、自分は愚かで間抜けだったのだろうと。

四宮かぐや──。
──彼女が殺しても簡単に生き返らせていいだなんて、そんなレゴブロックのようなチープな存在ではないことに。
ここまで経てやっと理解した自分へ、思わず白銀は嘲笑してしまった。
──思えば、ゲーム開始直後以来久しくの笑い声だった。ただあのときとは笑いの成分は大きく異なる。


「…あっ、会長…………」


気が付いたら、胸元のかぐやを両の手でギュッ…と抱きしめ……、
──は恥ずかしながらできなかったものの、彼女の頭にポンと手を置いた白銀は、…いや白銀『会長』は。

今度ばかりは恥ずかしげもなく、はっきりと宣言するのだった。



「…富士そばに月見は似合うと言うが……、四宮。お前には到底似合わん。──その涙がな」


「会長…………」




「…辛いか? …苦しいか?」


「……それは──…、」






「なら俺が見せてやる──」





「──涙のいらない拍手のエンドロール。──俺とお前の『ハッピーエンド』…を」





…正直あとあと思い出して恥ずかしくなるセリフかもしれない。
だが、焦燥し切るかぐやにはこれが一番ピッタリなセリフでもあるかもしれなかった。

AM1:01を以て。
白銀御行生徒会長は『打倒主催宣言』──ならびに『四宮かぐや守護宣言』を終えたのだった。


密かに…────。










(…フフ………。ハハハハハ………………)














(──いやぁああぁぁぁぁっ、よく平常心を保てたな…ッ!!! 俺!!!!! )


(……かぐやを守るだと…………? バカを抜かせっ!!!)





(四宮がこんなに泣くには『裏』があるに決まってるのだ…ッ!!!! そうそう騙されてたまるかッ!!!! ハハハハハハ!!!! フハーハハハハハハハ!!!!!!)




『かぐや守護宣言』
─────嘘であるッ!!!
白銀会長…いや白銀はまったく優勝願望をあきらめてはいなかった!!!!





「…ところで四宮」

「……はい…」

「あのトネガワ某、優勝した暁にはなんでも願いを叶えるとほざいたが…。愚かな参加者の中にはこう願うやつもいるだろうな。『〇〇(参加者)ちゃんをオレ好みにしたい!!』とか」

「…は? …はぁ……」

「愚問なことは承知だが答えてくれ。まさか、四宮もそんなことを企んではないだろうな??」





「………何言ってるんですか……。考えてるわけないじゃないですか……! 会長、ひどい………っ!!」



─────嘘であるッ!!!
この女…四宮も優勝の願い事で白銀相手にあれやこれ…とよからぬ妄想を抱いていた!!

その証拠に彼女の右手には月光を反射するナイフが持たれている!
泣き芸効果で隙を見せた白銀を一突きにしよう…と、かぐやは既に道徳も倫理観も捨てていたのだ!!!




「ほう。…それはすまない。軽い冗談のつもりだったが、…悪いな。俺も四宮のこと信じていたよ」

─────嘘であるッ!!!



「…ほんと、酷いですよ。…それにしても……藤原さんたちが心配でなりませんね。早坂も…」

─────嘘であるッ!!!
証拠に早坂のことが気になるなら、さっきから通知うるさいラインの返事をしているはず!!
なら何故返さないのか…。──それはレスポンスの仕方も、早坂の約束も忘れたからだ!!



「全くその通りだ。しんぱいだなーーー」

─────嘘であるッ!!!




「なーんや。黙って聞いてりゃ変な会話しよって。『おかわいい』やっちゃなお前ら~~」



「……」「……」

(お可愛い…………だと?!)(お可愛い……ですって?!!)






……嘘と嘘で塗り固められていく車内。

そして、マーダー二人と山程の嘘を乗せた車内。


互いに疑心暗鬼が沸き立つ、一触即発の空気感の中、車は目的地も知らず走り続けた。
この三人が、殺し合いという『コンゲーム』をどう完走し切るか。
それは、まだ凡人の我々には到底予想がつかない。…誰も分からないのである。






──後輪右タイヤにて、極めて微かな血痕を引きづらせながら。
一旦はここいらで幕引きとなる。




【本日の勝敗】

【月からの殉職者『蚊』の────勝利。】



【1日目/D8/表参道/ハマーH2車内/AM.1:20】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】拳銃
【道具】???
【思考】基本:【ステルスマーダー】
1:優勝する。
2:優勝の願いで四宮にあれやこれをする。
3:四宮は割と警戒、トラは経過次第で始末予定。

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】ナイフ
【道具】???
【思考】基本:【ステルスマーダー】
1:優勝する。
2:優勝の願いで会長にあれやこれをする。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】健康
【装備】丑嶋の車@ウシジマくん
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:トネガワみたいなクソったれ野郎をぶっ潰すんやっ!!
2:とにかく参加者を多く集めて守りたい。


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白銀 048:『空に消えてった 打ち上げ花火
かぐや 048:『空に消えてった 打ち上げ花火
トラ 048:『空に消えてった 打ち上げ花火
最終更新:2025年04月10日 23:12