『魔神 が 生まれた 日!』
ここは、
────どこだ………。
私は、
────一体………。
「…ぐうっ!!」
頭が猛烈に痛む…。
二日酔い状態に酒瓶で殴られたかのような狂おしい激痛。
目が何も見えない…。
いや、これはどこか暗い場所に閉じ込められてるのか。
とにかく光源らしい光源が一ミリたりとも見当たらない。
そして、全身が動かない。
手も足も、うねることさえできない。
なにも、
思い出せない。
私は、
私は一体………。
──なんでも願いかぁー……。
──とりあえずー…、あたしを一級悪魔にしてもらえませんか?
私は一体………………一体………………………。
────我が魂を呼び起こし者よ。
────魔人の掟にのっとり願いを一つ叶えてしんぜよう。
────さぁ、我が主《マスター》。望みを一つ言うがよい。
………私は。
………私は。
「……………私…は────ッ。」
──────【残り66人】
【+1】
◆
《ウソかホントか分からない》
《やりすぎ都市伝説!!》
────『渋谷で遭遇したUMAの謎を追えッ!!』
♫テレレレン
♪テレンテレンテ テー……
♫テーーテーテーテーーテー↑テー↓………
ごほんっ…!
皆さんこんばんは、今回のストーリーテラーを務めさせていただきます──わたし、新庄マミです…!
X-FILEのテーマ曲と共にしばらくこのマミが語らせていただきます……。
あらゆる困難が科学で解決するこの平成の時代……。…とはいえ、科学というのもまだ発展途中の分野。
この世にはまだまだ説明のつかない怪奇現象──いわば神秘が、まるで海中のプランクトンのように…目にはつかずとも山程潜んでいるのです……っ!!
例えるなら、未確認飛行現象『UPA』…!
例えるなら、『陰謀』…! オバマ大統領の火星探索や、日本による宇宙自衛隊派遣…!
幽霊、心霊、超能力、エスパー、未来人の存在、悪鬼、村の風習、CIAによる戦争、AIの脅威………。
つまりは、『オカルト』…!!
我々人類は未知なる者をすべて『恐怖』と一括りにしてしまうもの…。
──って、わたしが今持ってる月刊マー五月号に書いていました。
さて、今回わたしはそのオカルトの中でも、『UMA』について……っ!
本邦初公開、ことの始終を読み聞かせしましょう…。
嘘まやかしは一切ありません…!
全てはこの恐怖を生き延びた哀れなわたしの証言に基づいたもの。
「…さあ、もうこれ以上隠しておくことはできません」
「果たして皆さんの心臓はこの悪夢の如し衝撃に耐えることができるでしょうか……?」
「早速、お聞きください──。」
「────わたしが渋谷で出会った一匹の『超越生物』の…。その全貌を………っ!!」
「────って………」
ピコ、ピコピコ
バキュン、バキュバキュ…グシャッ
「よっしゃぁー! エリア殲滅完了~…。我ながらうまるの射撃テクニックはプロ並みに達してるなぁ―ー」
「はいッストップ────!!! もう雰囲気がぶち壊しだよ、うまるちゃんーー!!!! ゲームなんかしてないでUMAらしいことしてよーー!!!!!!」
「はいはーい。ちゃんと聞こえてるから話し続けていいよ~~」
「聞こえてる…って……。真面目に聞いてはくれてないんでしょっ?!!! もうーー!!!!」
「はいはい聞いてます聞いてます」と、うまるちゃんは左手を動かす…。
袋からポテイトを手に取り出すと、ぽーーん……って投げて。
まるで地球の周りを公転する月のように、宙を漂うポテチ。…そして、そのまま重力の元、寝っ転がるうまるちゃんの口へと入っていった。
「あんむっ。バリバリ」
「あんむじゃなぁーーいっ!!!!」
「バリバリバリ~…、…マミちゃんの言ってること真剣に聞いてたら頭おかしくなるなこりゃー」
「なにそれ?!! 酷すぎるよ?! もう~~っ、とにかく早くUMAっぽいことして魅せてよぉぉ~~~~~!!!!」
「はいはい。もうしゃーないなぁ。やりますよ~っと……」
…ここらへんでひとまず回想するね。
殺し合いに参加させられたわたしは、渋谷のとあるコンビニにて超常生物“Unidentified Mysterious Animal”──U.M.Aに出くわしてしまったのだ………。
人類に化けて普段は生活を送るそのUMA。通称『うまるちゃん』……!!
その存在は、長年超常現象やUFOを追いかけ、オカルト雑誌『週刊マー』を愛読していたわたしにとっては…もうねっ。もう~、ねっ!!!
たまらない存在だったんだよ…!!!
心臓なんてもう興奮いっぱいでびよんびよんっ!!
インフルエンザ感染に似た熱気で全身が叫ぶように燃えていく中…、
その内たる感動を秘めつつ、冷静に。これからこのUMAるちゃんをどう解析し、そして如何にその神秘たる生態を解き明かそうかニタニタしてたんだけども…………。
「はい、うまるのUMA特技~~。今から誰もが羨むJKに変身しま~~~す」
うまるーーんっ────ポンッ
「はい、元の姿に戻りま~~す」
うまるーーんっ────ポンッ
「…はい、おっしまいっ! 以上っ!!」
「それ以外はっ?! それ以外をしてよ!!! もうっ!!!」
──この通り、うまるちゃんは「二頭身→普通の姿」の変身以外…なんもしてくれないのだった…………。
「ねぇお願ぁ~~~い!!! うまるちゃん!!! もっと未確認生物らしいことしてよっ!!!!」
「あんむっ。バリバリゴクゴク……。そんな無茶言わさんなってマミちゃ~ん」
「た、例えばさぁ~!! 空を飛ぶとか、目からビーム出すとか、ソニックブームで走り出すとかさぁ~~~~!!! それくらいならお願いしてもいいでしょぉ!!!」
「…うまるはポケモンかっ。あ、アイテムGet~!! これで次のボス戦楽になるぞ~~~」
「もう、もうもうもうっ!!! とにかくゲームやめて!!! やる気出してぇえ~~~~!!!!」
……。
…ぐすんっ。
ぐすん…だよ……。
「ぐすん、って…。選択肢『いいえ』連打したあとのドラえもん(FCギガゾンビの逆襲)じゃん~」
「う、うるさいなぁ!! もう!!!!」
…ほんとに、ほんとにぃ……。
うまるちゃんを学校で見せびらかして、みんなに自慢できる…ってすごい嬉しかったのにぃ………。
『ET』みたいに未知との交信ができて、ゆくゆくは月刊マーとかオカルト番組に引っ張りだことだと思ったのにぃぃ………。
UMAの実情は、バリバリおかしを食べてゲームばっかして、くつろいでてさ…。
ゴロゴロしてて、グータラで、見た目はただのタヌキ。喋れるただのタヌキ。
これじゃあなんもスゴくないし注目も集めれないよ~~……。
「そう、『ドラえもんじゃんっ!! 』──はわたしのセリフだよ~っ!! お喋りぐーたらタヌキのUMAるちゃん!!! きみはドラえもんかってゆーの!!!!」
「はいは~~~い。まっ、あまり興奮しないでマミちゃーん」
…うぐっぅ~……!!!
「…もういいっ!!! うまるちゃんなんか知らないっ!!!」
ゲーム画面に映る、グチャグチャと射殺され続けるエイリアンたちが泣いてるよ…っ。
UMAの風上にも置けないやる気なしのうまるちゃん。…最低にもほどがあるわ~っ!!!
腹いせというようにわたしはドアをバーーンッ!!! って叩き開けて…、
月刊マーの次刊を取りに行くため、この狭い『個室空間』から出ていくのでありました…………。
全く、もう…っだよ………。
「あっ、マミちゃんトイレ行くの?」
「いや催してなんかないよっ!!! 雑誌持ってくんだよ! 雑誌!!」
「ふ~~~ん。じゃあついでだし、うまる喉渇いたからコーラ持ってきてぇ~~~! 頼んだよドラえもぉ~~~ん」
「いや、やだしっ!!! 知らないよっ!!!」
「よろしくー。…ふんふふふーん♪」
…はぁ~あ。
わたしのとこに、来てほしいくらいだよ。
……ドラえもんみたいなそういう未来からの使者とか、タイムパトロールとか~……。
ちゃんとした…UMAとか、さぁ………。
◆
〔『△Head's.6 Cafe 渋谷店』──当カフェをご利用いただき誠にありがとう御座います。〕
[五感に響く大人のためのプライベート空間……。洗練された居心地の良い空間を追求したネットカフェへようこそ。]
[全室防音個室なのでワーキングスペースにも最適です。ジュース飲み放題、漫画読み放題。二階にはシャワールームも完備しております。]
[初めてご利用の方は、受付についてカードの作成の方をお願いします。]
[1hour 600円。18歳以上からご利用お願いします。]
……
…
個室、個室、個室、個室、個室、個室、個室……とループしてるかのような廊下をズカズカ歩き続け一分。
「とりあえず渋谷といえばあそこでしょ!!」とのうまるちゃんの提案で、今わたしたちは最寄りのネットカフェにいる。
普段はカタカタとパソコンのタイプ音が響いてるだろうこの場所も、今はシーーンと人影一つなく…。
ただヒンヤリ、冷房が効き続けるこの無人の空間は、小さな明かりが点々とするだけだった。
「って、そんなのはどうでもいいっ!!! ほんとに、うまるちゃんのやる気のなさムカムカするよっ!!!!」
いや、ほんとにっ!! うまるちゃんにはイライラさせられるっ!!
例えるならサーカスの猛獣…!
例えるならポケモン…!!
どれもそれも、主従関係を厳しく守って、主人に忠実な姿勢をとるものだ!!
それはわたしとうまるちゃんの関係だって例外じゃない!
初めてUMAるちゃんと出会って以来、さすがの私もアメとムチ…というか?
とにかく未知なる生命体と友好関係を結ぼうと色々おだててあげたんだよっ!
やれ「喉乾いたからジュースおごって~」とかさっ! やれ「このお菓子全部会計して~」とかさ!!
うまるちゃんの命令は全部従ったつもりなんだよ!! 財布の減りゆくカラッカラぷりに涙を飲みながらさぁ~!!!
上手く我々人類側を信用させて、その対価としてUMAとしてのすさまじいパワーを引き出してもらおう、って、そんな考えでたくさん尽くしてきた!!
尽くしてきたっていうのにぃ~!!!!
「全っ然…言うこと聞いてくれないんだからっ!! うまるちゃんはっ!!」
パワーを引き出すどころか現状UMAになめられまくってるこのわたし……。人類としてなんたる屈辱だよっ!!!
さっき『アメとムチ』って話したけど、なんだかそのヒモを犬用リード代わりに使われて、わたしは飼われてるイメージだ…。
…うまるちゃんが飼い主でっ!! ベロベロアメを舐め倒しながらの散歩って感じ!!!
ほんとになめられまくりの舐め放題されてるよ!
本来なら、わたしが飼いならす役目だっていうのにぃ~!!!
ドカドカドカドカッ……。
大股で歩いて、うまるちゃんへの怒りを地面に踏みつけていくっ。
「ほんとにうまるちゃんは~~~…!!」
「うまるちゃんって奴はぁ~……!!!!!」
──UFOに乗ったことある、って? ぷぷっ…! そんなのいるわけないじゃ~~ん! マミちゃぁ~ん
「…もうっ!!!!!!!」
ドカッッッ
というわけでっ。
今、わたしがたどり着いた場所はドリンクバーコーナーだ。
ほんのりコーヒーとインスタントスープの匂いが漂うこの空間。
ふと下を見れば雑誌が壁に沿って並べられている…。
そこから一冊。月刊マーの七月号をペラペラペラりながら、わたしは空のグラスに飲み物を入れていくのだったっ~。
ペラッ────154頁目。
『大ピラミッドはノアの方舟だった!!! 衝撃の五ページ特集!!』
Why→わたしがなぜドリンクバーに足を運んだのか。
…それは何も喉を潤すためここにいる訳ではないっ。
ペラッ────160頁目。
『2025年原点。マヤ文明の予言により世界の【宗教】が終わる。Mr.都市伝説が語るファティマの予言とは…。』
──そしてっ!!!
うまるちゃんに頼まれたコーラをパシられ注ぎ入れてるわけでもないっ!!!
「すべてはぁ~~……、」
ペラッ────164頁目。
『【特別マル秘情報】UMAの正しい飼い方 五選。これを読めば君もUMAマスターだ!!』
『チュパカブラ「きえーーっ。」』
「そうっ、このページ!!!」
この特集に書いてある正しい飼い方NO.2『言うことを聞かないチュパカブラには『精力剤』を飲ませろ』を実行すべくっ!! 今ここにわたしは来たのだ!!
んん~~!! このページを見た瞬間「これだっ!!」って目に流れ星が走ったね!!
ほんと有り難いよ月刊マーは~っ!!!
わたしが今欲してる情報をタイムリーに載せてくれて!! ほんとありがとー!!!
でっ!!
さっそくその精力剤たる飲み物を汲みに来たわけだけども、さすがにドリンクバーにそんなものが無いことくらいは分かっている………。
ただっ! 作ろうと思えばもしかしたらいけるわけで!!
作り方はマーに載ってないし、だいたい精力剤ってなんなのかよくわかんないんだけども、熱意さえあればいけるでしょ!! って考えのもと。
すべては言うこと聞かないワガMama UMA──うまるちゃんをムチで調教すべく……っ!!!
さっそくわたしはオリジナル精力剤ドリンクの調理を開始するのであったのだ!!!
「クッキングマミ!! イッツ・ア・START~~~~!!!!」
まずは原液作りだねっ!!
コーヒー、紅茶、コーラ、そしてオレンジジュースにその他もろもろ飲料水。
八つあるボタンのうち、…とりあえずすべてをグラスに入れて混ぜます!!!
ジャババババババババババババババババババババババババババッ
「子どもの頃もよくこうやって飲み物ミックスさせてたなぁ~~。はは、なんかちょっと楽しくなってきたかも!!」
お次は、なんとなく目に入った隣のドリンクコーナーから液体を注入!
デカデカと黄色く『二十歳から』と書かれたそこには、焼酎、ビール、テキーラ、白ワインその他……と押せばお酒が出てくるみたいだった。
…あれっ? そういやうまるちゃんって何歳なのかなぁ~??
見た目はわたしと同い年か、ちょっと上くらいだと思うけど、UMAと人類じゃ年齢っていうのはかなり違うと思うし…。
未成年にお酒はさすがにまずいかなぁ~~……??
「まっ、いいか。UMAに味覚なんかあるわけないし入れてもバレないよねっ!!!──」
「──ていうかもう入れちゃったし!!!」
ジャババババババババババババババババババババババババババッ
全部まんべんなくブレンドして、指でかき混ぜたら…。
アルコール度数が限界突破した精力剤のできあがり~っ☆
ふむふむっ…!
これはこれは中々のドス黒い色になってきたじゃあありませんか!!
「あっ、なんか粉チーズと胡椒とタバスコとパクチーとシナモンもあったからそれも入れてっと!!」
ドバッッッ
え~~~と………。
これでもう完成でいいんだろうけど、なんとなくもう一品が欲しいな……。
よくわかんないんだけど、これじゃまだ未完成…って感じ??
…じゃっ、とりあえず~~~。
ブチッ
「いてて…。自分の髪の毛入れてみよっと」
なんか精力剤といえばやばいのが入ってるイメージあるしねっ。
おさげから一、二本拝借してハサミで刻んだあと細かく入れてみました!!
え~~~と。
あとは~………。
ブチッ ──殺鼠。
「近くを走ってたネズミの尻尾も少々~っと」
チャポンッ ──床虱。
「あと個室の中で見つけた茶色くてキモい虫も少々~~っと」
なんか魔女ってよくクスリ作ってるよね??
あれの材料になんかヤモリとか虫使ってるけど、そのイメージで入れてみました~!!!
…変な虫に関して。殺すのイヤだから生きたまま入れてみたけど……、まあ部屋に運ぶ頃には死んでるか!!!
「あっ、うまるちゃんはコーラ好きだからそれも少々入れて…」
ジャバッッ
「…完~成!!! マミのおしおきっ調教用ウェルカムドリンクがついに登場~~!!!!」
シュワシュワと登る真っ黒な泡!!
ガソリンスタンドみたいな凄い刺激臭のするそのエナジー!!
そして、どういった化学反応からか、なんか中国の工業地帯の川みたいなスゴぉい色をするそのパワー!!!
「…試しにちょっと一口あじみ!!」
ペロッ
「…………。 ❩(T~T;)❨ 」
…な、なるほど……。
これは凄まじい………。
多分青酸カリってこんな味…………。
でもっ!! でもこれならっ!!!
これを飲ませればUMAるちゃんもついに覚醒間違いなしだねっ!!!
故郷の味を思い出しついに正体を現したうまるちゃんは、もう未知とかそういうレベルじゃない大生物になるかも!!!
超越生物DOMA UMAruに、それを従えるわたし………。
これからの未来を想像するとニヤニヤが止まらないっ!!!
「まずはクラスで自慢して~、それで全校に広まって、文化祭で発表することになってぇ~…」
「で、ある日突然、陰謀の国アメリカからCIAが教室に来て、わたしとうまるちゃんは連行されてぇ~…」
「何をされるのかな…不安だな、怖いな…。と思う中連れられた先はなんと月面…!! そこには滅びたはずのナチスがいて、わたしたちは戦争することになってぇ~……」
ふふふっ、フフフフ………!!!
「あはははははははっ!!!! アハハハハハハハハハ!!!!! これで世間から大注目されること待ったなしだよ!!!」
あははははははははははははははははっ──……、
「…そこにいる…貴方。…どうか………、助けてはくれない………でしょうか……………」
ははははははははははははははははは………。
──は、ぁ…………………??
エッ!
コワッ!!!?
今、どこからか声が聞こえた…よね……っ??
この空間にはわたししかいないはず…なのに、どこからか声……。
男の人の声が、しかも「助けて」って………。
これって、まさしく…。
島田秀平ホラー────幽れ…、
「あなた…です。…そこの………おさげの………………。私の声が…聞こえますよね…………」
…って思ってたら、幽霊の正体見たり枯れ尾花…………。
声の主はドリンクバーの台に置かれている──金のランプ。
あの本格的なカレーとか入れる、あのランプから声がしたのでした……。
具体的には、ランプの口のとこから。
響くように……、奥底から苦しそうにその声が…………。
「はい……。私はそこ…に……います。だから、どうか………。ここから…出してくれませんか…………………」
「あっ。喋るランプってのも十分怪奇か」
「…怪奇とか……そういうのは…今はどうでもいいでしょう……。お願い…します……。私を助けて…く……ださい……」
…なんだか唐突にランプ??に助けを求められてしまったわたし……。
すごい変な絵面だとは思うんだけど事実なんだから仕方がない。
……さて、どうしよっかな~…。
困ってるようだし助けてあげたい気もするんだけども。
…いや待てよ、と。心の中で「知らない人についていってはいけません」と注意喚起するわたしもいる…………。
う~~~~~~~ん。どうしよう??
「どうしよう~…じゃないですよ……。早く…助け……てくださ……い」
「えっ?! 心の声読んでいたっ?!!」
「あなた……自覚ないんですか。さっきから独り言というか…心の声…一字一句喋ってますよ……………」
えっ、嘘!?
ほんと?!!!
はずかしっ!!
「ぐっ…………!! 蓋を開けるだけで…いいんです。あなたに危害は……加えませ……ん。ですから、早く………」
あっ、ど、ど、どうしよう…~!!
なんだかランプすごい震えて、ガタガタガカダガタって…とても苦しそうだっ。
わ、わたしはどうすれば……。
一体なにをしたら…………。
「…早…………く」
………。
…うんっ。
利になるか害となるかはよくわからない。
……でも、とりあえずわたしはランプを救ってみることにした。
その苦しみから解放すべく。
行動へ…………。
ジョボボボボボボボボ~~~~~~
「…………は………………っ……?」
「…勿体ないけど仕方ないや。今、精力剤飲ませたから元気になれるよ!! がんばって!!」
ドッヒャぁ──────────んんんんんんんっ!!!!!
ガシャンッガシャンッ、ドチャンッガッチャンッ
ガシャンッガシャンッ、ドチャンッガッチャンッ
バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ
バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ
プシュ──────────ん……
……ランプは勢いよく暴れ出してあちらこちら四方八方、棚の上から床の隅まで、とめちゃくちゃに飛んでいった!!
まるでそれは操縦不能になったUFOみたいに!!
あるいは弾丸みたいにっ!!!
湯気を猛烈に吹き出しながら暴走列車はネカフェの本棚を荒らしつくしていったのだ!!!
「…あっ!」
…そして気がつく頃には、ランプは粉々に壊れて。
中から精力剤がバチバチと漏れ出てくる。
バシャリッ
ゆらゆらと蜃気楼みたいに揺れ動く白い湯気。
そして、足音。
その音を聞いてふと顔を見上げれば、黒い一つの人影が浮かび上がっていることに気づかされた…っ。
「…ごほっ!!! がはっ、ごほっ!!!!」
湯気が蒸発していくこの一秒ごと。
ランプに閉じ込められた数奇な運命の男、その素顔が……。
徐々に徐々に、一秒一秒にはっきりとしていって。
────その黒いスーツを着こなし、耳の尖った男の人が『魔人』だなんて。
────このときは当たり前だけど、知るよしなんかなかった。
happy birthday satan!
【魔神 が 生まれた日!】
「……ハァ、ハァハァ………。なにを…」
「え??」
あっ、あと。
湯気が完全に消えたそのとき。
その魔人は無表情ながらも物凄い睨んでることに、わたしは気付かされた…。
「なにを飲ませたんですか…………ッ」
………
……
…
◆
[ひとみーん@hi103 ところでみんな何願ったしー? ∧∧]
[ザキヤマヤマ@yamafxck えっ。なに唐突w]
[U.M.R!!@umaaaaaaa 次のクエストの話??]
[かわい様は告らせたい@bunt おまえらほんと節句に無関心やなぁ]
[海老谷@ABroll25 せっく??]
[ザキヤマヤマ@yamafxck 下の話か???笑]
[ひとみーん@hi103 いや違うわ!!(汗)^^; ほら、今日は七月七日でしょーが(^_^;)]
[かわい様は告らせたい@bunt 『七夕』だから何願った聞いとんのやろ!笑]
「あっ、今日七夕かぁ~~…。うまるのお願い事は~~…。とりあえず『人をだめにするソファが欲しい!!!』…とかかなぁ」
チラリっとパソコンの日付欄を見て、ようやく今日が七夕であることを理解。
そっかそっか~。今日はみんな願い事とにかく書きまくる日だよねぇ。
うまる的七夕の思い出といったらかれこれ一年か二年前。
お兄ちゃんに節句だからと願い事を書かされ、バカ正直に「ネコロンブス(ぬいぐるみ)もう一体欲しい」とか「いつまでもぐ~たらナマポりたい」とか書いたら凄い怒られたという口うるさい思い出がある……。
まぁ、だからって別に七夕に苦い思いはないんだけどもね~~~。
「………って……。こんな日にうまる殺し合い参加させられてるわけ…………………?」
カタカタカタ、タンッ
[U.M.R!!@umaaaaaaa わたしの願い事はとりあえず次のギルドクリアーすることかなぁーー]
[U.M.R!!@umaaaaaaa とゆわけで皆早くギルドやりましょや!! さっきからひとみーんチャットばっかやりすぎ!!!]
ピコンッ
[ひとみーん@hi103 そこまで言うならギルマス一人でやれば??(*´∀`)]
「……。…………はぁ~~~あ──」
「──……ほんと、何でうまるがこんな目に………」
オンラインゲームをピコピコしながら、私──うまるはお手本のようなため息を漏らす。
ふとここで思い出されるのはあのバカ主催おじさん・トネガワのワンシーン。あの、一言。
「優勝した人には願い事をなんでも叶えますよ~」
…って~、セリフだ。
そのセリフは今日が七夕であることを狙っての発言か、偶然シンクロしただけなのか。
とにかく、うまる達参加者何十人はその願いを掛けてバトル・ロワイアルを無理矢理やらされる形となっている。
……うまる的には人殺してまで願いなんか叶えたくないし、バトロワ反対のノーベル平和賞候補人間だからやる気なんてさんさらないんだけどね~。
カタカタカタカタカタカタカタ、タンッ
[U.M.R!!@umaaaaaaa あぁもういじわる言わないでよ!!! てか割と正論でしょ!! わたしの発言!!!]
「殺し合い……。う~~ん、願い事…………──」
「──てゆ~か。うまるもマミちゃんも殺し合いの参加者らしいこと一切やってないなぁ。今のトコ………」
はぁ~~~~ぁ~~あ。
…そうそう、マミちゃんおっそいなぁ。
なんか半泣きしながら出ていって、あれから三十分くらい経ってるけども。未だに帰ってこないし。
もうっ~~、うまるのコーラはまだ持ってこないのぉ?? …いや、そりゃコーラの期待はしてなかったけど、それにしても遅すぎだよぉ。
…一体何をやってんだか。変人のすることは全く想像できないや。
はぁ~あ~~~~~…。
退屈ぅ~~。
「うまるちゃんっ!!! 願い事を叶えてせんじよう!!!!!」
扉バーンッ!!!
「うわっ!!!」
…だなんて思ってたら帰ってきたし。
なんたるシンクロ…………、
「まずはわたしの願いから!!! 魔人よ魔人、『うまるちゃんからゲームを取り上げてください!!!』…はいっ、お願い!!!」
「…マスター。そんな下らない願いでよろしいのですか…?」
「いいからいいから!! あと何回かは余裕で叶えられるんでしょ!!!」
「……まぁ、本人がそう望むのであれば……。なら、行きますよ」
………はひ??
え、マミちゃん誰かとなんか話してるし。
知らない間に男連れ込んできたのっ???
気になってうまるはちらりと後ろを振り返……──…、
「…『ゲームよ、────壊れろ。』」
「…えっ??」
バンッ
[ERROR デバイスに問題が発生した為、強制シャットダウンします。]
「…はぁっ!!!???」
えっ!!? なにナニ?!
どゆこと!!????
パソコンからイヤァ~な音が聞こえたかと思ったらあっという間のブルースクリーンに…シャットダウン!!??
なにっ???!!!!
クエスト途中だったのに、なんでいきなり壊れたわけ!!!!!!??????
「…おおっ!! さすが魔人!!!」
「お褒めに預かり恐縮ですが、…こんな願い事で褒められても嬉しさはあまりないというのが本音です。マスター」
「じゃっ、次はうまるちゃんの願いも叶えてあげよっか!!!」
「…うまるちゃん……とは。あの妙な一頭身の生き物で?」
「そう!!! わたしの友達の、あのチンチクリンだよ!!!」
…は??? は、は、はぁ????
パソコンが壊れたと思ったら悪口大会!!???
その変な格好の男と一緒に……。なにゆってんのマミちゃ──…、
「…じゃ、そんな感じでお願いっ!!!」
「…また下らない願い事を……。まぁいいでしょう──」
「『うまるの手にコーラよ、────現れよ。』」
ポンッ………
「…え????」
…気がついたら。
うまるの手にはドカ飲みサイズのコーラがひんやりと握られていた。
いや、気がついたら…というか。
何もない場所から唐突にっ………。そのコーラが現れたのだ………っ!!!
「へへへ~!!! すごいでしょ、うまるちゃん!!!」
氷点下ギリギリの温度でうまるの手を侵食していくコーラ…。
ふと我に返り、前を見上げてみればしたり顔が愛憎たらしいマミちゃんと、
パンパンッと白手袋を叩く謎の男の二人。
この唐突で理解に難しい現状をどうにかして理解しようと…。
見た目はまんまる、中身は干物。その名も名探偵ウマルの頭脳は高速に回転するのであった……。
(え~っと…。とりあえずこれまでを振り返ろう…!!)
- マミちゃんの発した『願いをかなえて』との言葉
- それに応じて隣の謎男は、呆れ顔ながら指をふるわし、『願い』を忠実に『叶える』
- 二つの『願い』通り、壊れたゲームPCに、無から現れたコーラ
- マミちゃんはそれを見て、男をこう呼んだ。『魔人』
- まるでなんたるA Whole New World………
(そ、それって…)
(いや、まさかだけど…。それはつまり……………)
「この人は『魔人デデル』!!! ランプの中から飛び出てきて、なんかわたしのマスターになったんだっ!!! よくわかんないけど、わたしの体力と寿命と引き換えに願いを叶えてくれるんだって!!! すごいでしょ!!!」
…結論を出そうとした直前、マミちゃんは長々と説明をしてくれた。
「──って!!! マミちゃんなんかやべぇ発言したの分かる??!! 寿命と引き換えに~…って!!!! 何言ってるか理解できてんの??!!」
「………?? えっ、さぁ??」
「さぁ…って…………」
「あの。うまる…さんで宜しかったですよね」
「うおわ!!! 自称魔人話しかけてきたし!!!」
…そのデデルという人は、耳元でひそひそとうまるに喋りかけてきた。
「(…もちろん願いは叶えられるのですが、一般庶民であるマスターの体力如きでは微々たる力しか吸収できず…)」
「(え? なに??)」
「(したがって、彼女の友達…いや、知り合いである新田ヒナという方からも無断で魔力を貰うことにしています。ヒナという者を紹介してもらったのですが、どうやら常人離れした力があるようなので、担保にしてもらっている形なのです)」
「(…うわっ!? そりゃひどっ!!? かわいそっ、そのヒナって人!!!!)」
…いやていうか、さり気なく『友達→知り合い』に訂正してたし、魔人。
ヒナって人とマミちゃんが友達でないかのような言いよう………。それもひどっ!!!
「だからうまるちゃん!!!!!」
「な、なに…………?」
「有限ではあるけども、通常一つしか叶えられない願いもこれでいくつかは叶えられるらしいんだ!!! すごいでしょっ!!! あははははは!!!!!」
「………………………」
……はい、はい。
魔人が相棒にいて、そいつがなんでも願いを叶えてくれて、嗚呼非現実非科学の極みに今置かれている…と。
成る程ねぇ~………。
そんな馬鹿みたいな狂言、普段なら信じるわけがないし、クラスメイトに話したら口を揃えて「…そんなアニメ流行ってんだぁ」と相手にされないだろ~な。…普段なら。
ただ、これが現実……。
手に持つこのコーラこそが現実の証明……。
なにせ、開幕セレモニーで生き返った海老名ちゃんを見させられたうまるだ。
こういう非現実なのも目に映ったまま、受け入れなきゃいけない立ち位置ではあるんだろう~。
うん、成る程…ね。
「じゃあマミちゃん尚更おかしいって!!! なに貴重な願いを下らないことで二つ消費してるの!!!?? き、気づこうよっ!!!!」
「…あっ、『月刊マー最新号ください』もお願いしたから三つだよ!」
「いやいや!!!! ~~~~~~~~~~っ!!!!! そういうんじゃなくて!!!!」
「──うまる達が今一番叶えたい願いは他にあるでしょっ。言ってしまえば『殺し合いからの解放』、『渋谷からの脱出』だよっ!!!!」
「──あっ、そうか!!! そだね、わたしたちバトロワ中だもんねっ!!!」
「…マスターにうまるさん。二人して何をヒソヒソと?」
「あっ、魔人さん!!! わたしから一番お願いしたいことがあってぇ~」
「はあ」
…あっ、マミちゃん開口一番にしゃしゃり出した!!!
何とんちんかんなこと言い出すか分からないからうまるが代わりに言わないとっ!!!
「ちょ、ちょっと!!! 見てよ、この首輪!!!」
「……首輪…。そういえばお揃いの首輪で。それが何か?」
「今うまるたち殺し合いさせられてんの!!! …詳しいことは後で話すけど~…。とにかくっ、この首輪には爆弾があって外せないからさぁ!!!」
「…はい」
「これを外してっ!!! それが願い!!! とりあえずお願いねっ!!!!」
…ふうっ。
我ながらベストアンサー!!
変に『ここから脱出させて』ってお願いしても、エリア外に出た途端首輪が邪魔してBOMB!!! がオチだからね。
まずは首輪の処理からだよ。首輪から!!
「…分かりました。では叶えましょう」
「おおっ!!!」「よっ、待ってました!!! わーいわーい!!!」
頬を掻きながら、…多分思うところがありつつもであろう、魔人デデルは人差し指を突き出し始めた。
その指先からじわじわと溜まっていく光の結晶。
…それがなんなのか分かんないけども、多分首輪を外す魔法かなんかに決まってるはず!!!
僅かの間空いて。
デデルは一呼吸置くと指をうまるたちの首輪に向け出し。
「『首輪よ────外れよっ。』」
って、『願い事』を唱え始めていった!!
「うまるちゃん………!!!」
「…うんっ……!!」
歓喜を前に、思わず見合わせてしまううまるら二人………。
その表情、互いにして花盛りのスマイルであることは言うまでもないだろう!!!
希望を乗せてふわふわ。
ゆっくりと飛んでいく魔法の結晶。
その光の眩しさといったらこれほどまでもない……。
そう思った束の間、気がついたら魔法は静かに首輪へと入り込んでいった。
まるで、粉雪が溶け込むかのように…………。
ピッ─────────────────────────
『首輪の取り外し行為が見られました。ルール違反の代償として、三十秒後、爆破します』
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
【1日目/G2/ネットカフェ店内/AM.02:46】
【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ッ!!??
【新庄マミ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】ランプ@メムメムちゃん
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ッ!!??
【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:マスター(マミ)に従う。
2:この珍妙な一頭身は一体…?
最終更新:2025年06月20日 20:34