『ゴースト 血のシャワー』
あれからかれこれ数十分は経ったかもしれない。
私は別に汚れてたりしたわけでもないけど、とりあえず『シャワールーム』のある雑居ビル三階へと足を運んだ。
脱ぐ順番はいつも靴下から。
そこから上着を脱いで、穿いてる物をロッカーに畳み入れる。セオリーがあるわけでないけど、思い返せば公衆浴場のときはいつもこの順で脱衣をしていた。
人の気配は無の、明るいロッカールーム。
下着をフトモモから爪先にかけて下ろすとき、思えば常に謎な法律違反感と軽い恥辱感が体の底で軽く震える。
回想してみれば…、
アイツ………。────黒木と初めて絡んだときもシャワーに入ろうとしたその時だった。
修学旅行最終日、たまたま私と同室になった、あの黒木………。
シャ────ッ
水栓を捻れば無数の熱帯雨が。かきあげたオールバック髪をしんめり包んでくれる。
シャワーの雨を弾き返し、そして同時に温かく潤っていく私の肌、手、腰、そして全身。
…私と黒木の『初めて』があの日のシャワー中。
だから、私の殺し合い初行動も。
シャワーの音をスタート合図とさせてもらう。
「…はぁ…………………。、黒木…………………………」
( ' - ' )集合体に並ぶ個室シャワールームから、とりあえず四番目のとこを選んだ私。( ' - ' )
( ' - ' )──…さてさて。とりあえずボディソープで身体を洗い終わるとこまで一旦話を割愛します。( ' - ' )
( ' - ' ) By──えみり。( ' - ' )
………
……
…
…おでこに汗がジンワリ…湧いてきた……。
私のスッピン卵肌の毛穴が膨大してくる………。
語弊がないよう言っとくけど、これは別にシャワーで体がポッカポカだから…というわけじゃないっ…………。
「ウソ…。えっ、待って…!! ウソ…ウソ、なんでドア…開けなくなったのっ??!!」
すんごくヤバいことになったから、焦りに汗っているわけなのだ…………。
いやいやほんとにやばいんだけどっ!!!
やばっ!!!!
やばい、やばやばやばやばヤバい!!! ヤバすぎて気持ち悪いっ!!!
個室のドア──そいつは引き戸式だったんだけども、…引こうが押そうがビクともしないし!!! ドアは完全にただの壁状態!!!!
…いや、ていうかドアノブからして急に回らなくなったしっ!!!
ナニコレっ!???
なんの前触れもなく、急にすごい固く回らず…で。ヤバキモッ!!!!
「な、なんでなんでなんでなんでっ!!? 全然動かない!!! なんで?! なんでっ??!!!」
…やばいっ、やばい……っ!!
焦りが原因の手汗でヌルヌル滑って、余計ドアノブが回せなくなるし……!
いやそもそもココどうあがいても湿気が溜まる場所だから、手汗拭っても滑るしぃ………!!
ツルッ────
……回せないっ!!!
バンッ────
……タックルしてみても開かないっ!!!!
ジワッ……………
────どんどん滲む汗が鬱陶しいっ!!!!
「はぁ………。はぁはぁ………………。ハァ………………ハァ」
「────…どうしよ…! どうすればいいの……………!!」
バンッッ────
……備え付けのコンディショナーを投げつけてみたけど。
ドアは一切ダメージを受けていない……様子だった…………………。
……なんとなくシャワーしたかったから。
そんな軽い思いで入ってみた結果、今私の前には遥か高い壁がそびえ立っている。
…別にこの個室は完全なる密閉空間というわけじゃない。
チラッと上を見れば、天井とドアの間──50cmくらいの隙間があり、そこから脱出はできるわけだけども………。
さっきも言ったが目の前にそびえ立っているのは『遥か高い壁』だ。
よじ登るのも不可能なくらい、無駄にドアが高く設計されてるから、実質出口0の八方塞がりが現状…………。
ほんとに、待ってよ……。
ほんとに、ほんとに…………どういうこと……………??
なんで急にドアが壊れちゃったわけなの…………………?? どういうタイミングでドアの老朽化発動しちゃってるわけなの…………………??
なんで、開かないの………………。
「────ヒッ!! ……あっもしかして──」
「──もしかして…。…もしかしてだけど、これは……………。────悪霊の…しわざっ……………」
…ゾゾゾっ!!!
…やばいっ……。キモイっ………。
今すぐシャワーに浴びたくなるくらいの寒気が、急に走ってきた。
………そう。
これは…悪霊の仕業と捉えるのもあながち変な考えじゃないかもしれない…………………。
もしかしたら……この現象…………。
私に常日頃から取り憑く…………、雁字搦めにしてくる悪霊の行い……。
その証拠に、なんだかドアの向こうでとてつもない気配…、霊気が感じる気がしてならない。──キモい霊気がっ…………!!
「…悪霊と化した黒木が………!! 私を閉じ込めてペット(違う意味で)にしようとっ…………!!! キモ怨念パワーを使ってる可能性が…………………──」
「──っっっ!!! …モッ、モッ……。キモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモッ…………………」
「────キモ怖いっ!!!!! キモホラーっ、キモ供養っ、キモ南無妙法蓮華経っ!!!!」
シャアアァァ────ッ
…シャワーで洗汗と、凍った背筋の解凍に勤しみ私…。
身を震わせながらこの場をどうするか、ブルブル震えながら頭を煮え切るこの時………。
──ガラガラガラガラガラ………、って。
悪霊ではない正真正銘の人間の気配が、シャワールームの玄関を開ける音と共に感じた。
後に響くはペタ、ぺタ、ペタぺタ…。裸足でタイルを踏みつける音も。
「…………………!!!」
勿論、私は今がバトロワ中であることを忘れてるバカなんかじゃない。
大声を上げて「助けてー出してぇ」なんて求めることは命取りだなんて、分かっている。
息を潜めて隠れたほうが本来ならすべきことだ。
…でも、他の個室がガランガランな中、四番目の個室だけシャワーが流れてる時点で、中に誰かがいることはバレバレなわけで……。
そう考えると、一か八か殺されないことを願って………。助けを求めるべきだな、と私は思った。
バンバンバンバンッ
「ちょっと助けてっっ────!!!! このドアなんか開かなくなったんだけどっ────!!!! ねえどうにかしてくれる────!!!!!?」
「うわっ! …ビックリした……。…助け……、ですか…」
「そうなんだけどっ────!!!! 出られなくなったから────!!!! お願いっ!!!!」
「……今、殺し合い中なの分かってますよね?? それでいてヘルプ……ですか…。まぁ、永遠に苦しみから『救われる』って意味合いもありますがね」
……ぃっ!
そういう返答まったく求めてないんだけどっ…!!
「…もおっ! ねえ────!!!! アンタが殺し合い乗ってるかとかそんなのどうでもよくてさ────!!!!」
「…はあ」
「私裸なんだからっ!!!! 装備0のパフパフ状態なんだからァっ!!!! そんな人を殺してさ、アンタどう思うのっ!!!! 恥ずかしさとか感じるでしょ!!!!! もう────!!!!」
「………まあ、それもそうです………かね」
そうっだよっ!!( ' - ' 💢)
「………はぁ、仕方ありませんね。…………今からカギ壊すので、ちょっと離れてくださいよ」
「えっホント!! …とっ、とにかくお願い!!!」
…ドア越しで、顔も知らない相手だというのに何故だか彼女の呆れ顔がはっきり浮かぶ。
まぁとりあえずは、必死に叫んで説得したお陰でこれにてどうにか協力を得ることができた。
ホッ…と一息。壁に…黒木。
ちょっと間を置いて、
ドアが派手にバァ─────ンッッッと天井向かって吹き飛んでいった。
ズボッと亀裂が走る真っ白な天井。…それにめり込んだドアが、半分残して床に儚く落ちていく。
「…あっ…………………」
私のヘルプコールに応えてくれた…心優しい………かどうかはまだ分からない、目の前の彼女。
────結論から言えば、彼女は【マーダー】。殺し合いに乗った参加者だった。
「……とりあえず、大丈夫…ですか?」
バトルロワイアル開始からまだ数時間も経ってないというのに……、
決意が早い。早すぎる。
サイドテールで纏めた金髪の彼女は、顔と手が真っ赤に塗れ、ヒョウ柄のごとく血飛沫で全身をコーティングしていた。
…シャワールームに入ってきた理由も頷ける。
…そしてなによりも………──…、
「…大丈夫。……一応…お礼は言っとく。ありがと」
──その重苦しそうなくらい大きな胸と、くびれて質感あるアダルトなボディライン。
肉感ある柔肌の太ももラインが重点的に返り血を浴びてるように見えて………………。
その体型に、黒木に似た『キモさ』を感じ、私は思わず生唾を飲み込む。
ごくりっ、て。( ;' 。 ' ’ )
◆
……ただ、Blood Girl──早坂 愛にキモさの可能性が魅えたのも一瞬。時間にしてほんのわずかコンマ.015のこと。……
……比べるのもおこがましいけど、常にキモオーラを出す『キモイ』の化身・黒木には到底及ばなかった。……
……黒木、には。……
◆
水栓を捻れば噴射される──温かな雨が、同じくらいに生暖かい『返り血』を洗い流してくれる。
血液、とシャワーの水。同じ温度で、そして同じ液体。
それだというのに、清涼な水が体に浴びることのなんて気持ち良いことか。
とにかく最初は返り血が特に付着した部位を中心にシャワーを浴びていく。
一先ずブロンド髪を湿らせて、真っ赤でベタベタな手から、腹部、邪魔なくらいに実った胸にかけて、シャキシャキと。
胸から最後の血の一滴がしたたり落ちた──その折で下半身も入念に洗い、太腿を一撫で──付着した血を払い除けとりあえず洗い流しはここまで。
誰だか知らない、顔もよく見えてない、そんな男子生徒の血が排水口へと流れ消えていく…。
…かぐや様と対面した時、こんな姿を見られたくないから──。と。
タイミングよく見つけたシャワールームにて、私は存分に裸体を洗っていた。
「──うわ気持ち悪っ!!! ……ちょっと早坂!! 血こっちまで流れてきてんだけどっ!!!」
「あぁ申し訳ありません。こっちも気をつけてはいるのですがね。………っていうか………」
…隣の個室にて、何故かこの場に居座る絵文字みたいな顔の──内 笑美莉という女と共に。
シャ─────
シャ─────……
……。
…えーと。
彼女の行動理念が全く察せないんですが、なんでまだ能天気にシャワーしてるんでしょうかー…。
自分で言うのもアレですけど、私殺人鬼ですよーー??
危険じゃないですかー??
おーい???
……シャンプーで髪についた血の匂いを流しながら、私は隣に問いかけた。
「…しかもトナラーだし………。隣の個室使っといて「血が流れてくるんだけど~っ ' - '」とか文句喋るわけ?………」
「えっ、早坂何か言った?」
「…あの……、一つ聞きたいんですが。なんでまだココにいるんですか? 普通なら逃げたりするでしょうが。……血塗れのヤバい奴に遭遇したら」
「そんなの別にいいでしょっ!!! 言ったら、私が着替えてる隙に早坂が攻撃してくる可能性もあるでしょ!!! そう考えたら、こうやって監視したほうが安全じゃん」
「…はあ」
…それは確かに一理ある……──とはならないでしょ。
この内という女、個室に閉じ込められてたようで、さっき何となくでまぁ助けてみたものだけど。──その時披露したドアを一撃でぶっ飛ばす私の力見たんだから、監視とか無意味って分かるでしょ…。
着替え中だろうが警戒中だろうが関係なく、捻り潰される可能性とか思いつかないのかな。
……しかも、そんな武力戦を別にしなくともさぁ…──…、
「では内さん…ご自由に……」
備え付けの石鹸を、床と壁の隙間にヒョイ────ッと。
ツルツル勢いよくターゲットへと滑っていく石鹸は、あっという間に隣の個室へと移動していって。
「────おわっ!!!!」
ガシャンッ、ガシャガシャゴロゴロ…
バンッ!!!
…と。隣から頭を床に激しくぶつける音。
こんな風に労力要らずして簡単に殺すこともできるのだし。
殺意満々の人間と隣り合わせにして、良いことなんかないから逃げればいいのに。
彼女が何を考えてるのかサッパリだ。私には…。
「………………………」
「あっ、もしかして今ので死んじゃったりしましたか? 死んでたらとりあえず返事お願いします」
「………………………」
「……い、生きてるよっ!!! …いっだぁ~~!!! 何いきなりっ?!! キモッ!!!! キモさに可愛げが全くないんだけど!!! なんなの!!!!」
わお。そりゃラッキーなことだ。
どうでもいいけど、内…。これで『キモい』と発した回数十五回目。
口癖なのかは知らないけど(てかそうなんだろうけど)、凄まじいペースでキモいを連発してるのでギネス記録間近になったら記録でもとっておこう。
「…ほんと早坂やめてくんないっ?! …ぶっちゃけ、私今テンパってんだから」
「え? はい?」
「あんたと遭遇してテンパってるんだから、余裕がないのっ!!! だからキモいたずらしてこないでよっ!!!! キモッ!!!!」
「………それは失礼しました」
『いたずら』って可愛いレベルのことしたつもりはないんだけどなぁ…。
とにかくこのタイミングで、彼女が謎にトナラーしてくる理由も判明。
要は焦ってどう行動するのが正解か分からないから…と。
まぁ確かに、いきなりドアが開かなくなって親切な人に助けてもらったかと思ったら、そいつは殺人鬼だった。…だなんて、脳がバグるのも仕方ないかな。
私からしたらそんなのどうでもいいんだけども。
「てゆーか、早坂また血流れてきてるしっ!!! …あれなの? もしかして『あの日』なの?? 生理中に加えて鼻血も、上下から噴出してるの???」
「えっ? キモ…────あっ、申し訳ありません。ほんとこれ不可抗力みたいのものですから…。ていうかそれより、今やばい発言聞こえた気がしましたけど。せいりちゅう…とか──…、」
「って、黒木ならそんなキモいこと言うかもしれないって話なんだけどっ!!! ほんと血気をつけてよっ!!!」
…黒木……ってのは確か内が長々と話してくれた友達の中で一番キモい女子…とのことだったか。
数分前。恐らくテンパってたであろう、唐突に自己紹介の交流を提案してきた内は、自己紹介の内訳八割使ってその黒木の説明をしてくれた。
…って、なんなんだそりゃ。
…なんていうか、もう。
隣の内のことを考えたら尽くしんどい…っていうか。シャワーに集中できないから。
テンパリ絵文字女のことは洗い流すように考えず、一人の時間を意識…と。
コンディショナーで結ったサイドテールから全てにかけて、髪を纏めあげて。────温水で洗い流した。
「……ふぅ…………」
シャ─────
シャ─────
「……………あっ、早坂。ボディソープ足りてる? 良かったら貸すけど」
「お気遣い感謝ですがちゃんとあるので大丈夫ですよ。…てかなんかやけにフレンドリーですねー内さん……」
「あっそう。──」
「──…あとさ、フレンドリーとか言ってたけど、別に。早坂と仲良くなりたいとかそんなこと考えてないから。ただ、助けてくれたんだから冷たく対応するのも変でしょ」
「………それもそう…かな。そうですかね」
シャ─────
シャ─────
真っ白な泡が身体中の汚れを鷲掴み、綺麗にコーティングしてくれる。
胸の膨らみの曲線をなぞるように泡が付着し、そこから腰骨に向かい、背中側へ。
太ももの外側をマッサージするように泡が包みこまれれば、ふくらはぎ、足へと。残りついた血痕が泡と混ざり合う。
足先にて、指の間を一つひとつ確認するように丁寧に行き渡る泡。
あまり悠長な時間もないから、と。ついでに洗顔もスタート。
鼻先に付いた、蜜のような香りの泡が、湯気とともに広がった。
…まぁ、この辺でいっか、と。
いつもの倍近く時間を短縮させて、シャワータイムはこれにて終わり。
水栓をひねってシャワーを呼び戻し、肌から肌へと水を滑らせていった。
濡れた金色の髪をかき上げると、したたる水滴の中。ごく僅かな物思いが一瞬心のなかで走っていく……。
「ねえ早坂。いきなりだけど心理テスト…いい?」
「…本当にいきなりですね……」
「軽い雑談くらいいいでしょっ! シャワー中みんなするんだから」
「私もうすぐ出るんですけど…。……まぁいいですよ」
…相も変わらずフレンドリーというか……そんな方だ。
シャワーを顔に浴びながら、話半分でとりあえず聞いてみることにした。
「じゃ、いくよ。『あなたは歩いています。すると道が二つに分かれていました』」
「はあ。二つに」
「『A:林に行く』/『B:片方の森に行く』。さぁどっち?」
…………………。
どっちでもいいかこんなの。
「…………………………『A』?」
「…A。Aに行くんだね」
「……別に深くは考えてないですが、それで」
「………………やっぱり」
…………………やっぱり……って。
その答えとは……?
「ちなみにこれ、Bを答えた人は…処女。Aを答えた人は恋人。つまり『想い人』がいるって診断なんだけど」
「…………そうですか。私らの年頃だと大体好きな人くらいいると思いますが」
「要はそこなのっ! 私、早坂がなんでそこまで血塗れになるほど殺し合いに乗っちゃったか、聞きたかったんだよね。でもこれでハッキリした──」
「────早坂、参加者の中に想い人がいるでしょ」
「……………………」
「────しかも、女…の」
「……………………はぁ??」
じゃあ違いますよっ。…って言いたいところだけど、ズバリとまではいかないが言い得て妙ではある。
私が殺し合いに乗った理由は、『女子』。
こんなゲームに参加させられた『かぐや様』を救う為だった。
主従関係であるかぐや様をここから脱出させるには、こうするしかない…と。手始めに知らない高校生を八つ裂きにしてしまった。
だから、内の心理テストが内面を的確に言い当ててるのは事実でもある。
────ただっ!!!!
かぐや様が想い人かって言われたら全く違うわけでっ!!!!!
そんな女子同士のイチャイチャなんて求めてないのだからっ!!!!
変な誤解解くためにも私は訂正で横槍入れることにしたっ!!!!!
「そうでしょ。その子のために、やってるんだよね」
「そうですけど、違いますよっ! …あの、何言いたいんですか……」
「違わないのっ!!! …いいから聞いて。私も同じなんだから」
「誰とっ?!」
「…早坂と」
「はぁ???」────と言いたかったのに。
間髪入れずして放たれたのは、「あれは高校二年の頃。修学旅行最終日の夜」って内の語り口調だった。
…物語の幕開けというように、内の個室からキュッ、とシャワーを止める音が響いた。
何が主張したいのか。
そして、その話した内容で私に内面の何か変化があるのだろうか。
…私は棒立ちでとりあえず話を聞いてみた。
「私はその晩。ある女と同室になった──」
ヒタ、ヒタ、ヒタ…
「──その女は私がシャワーを浴びている最中、私の荷物を物色していたようで──」
ヒタ、ヒタ、ヒタ…
「──私がシャワーを浴び終え部屋に戻ると私は自分のパンツがそいつに盗まれていることに気づいた」
「…全く何喋ってるのか、わけが分かりませんが」
「そう。分からない。私も何故その女がそんなことをしたのか理解できず。私はそいつの顔を見た」
「……………」
「そいつ──黒木は何も答えないでニヤニヤ笑みを浮かべるだけだった。……私はその瞬間とてつもない嫌悪感と、ゴキブリが背中を走ったかのようなゾワゾワが駆け巡った──」
ヒタ、ヒタ、ヒタ……
「──その日以来、私は黒木のことを徹底軽蔑した。前々からぼっちの終わってる奴と認識してたけど余計イメージは悪くなった──」
ヒタ、ヒタ………
「──だけども、不思議なことに。同じくその日以来、頭の中は黒木で常に埋め尽くされてしまった。視界に黒木が入りそうな予感がしたらつい見てしまう。三泊四日に渡る修学旅行の思い出もパンツ盗みで全て上書き──」
「──全てが黒木黒木黒木黒木黒木黒木黒木黒木……。いっぱいいっぱいだった」
ヒタ……………………
「──なぜ私は黒木のことを想うようになったのか。なぜ私は黒木に頭を支配されてしまったのか──」
「────それは、同じく。早坂が殺し合いに乗った真の理由にも繋がる」
「……………と、言いますと……」
「うん、聞いて」
──ポチャンっ
「あの日、私は黒木の発したKMI-virus『キモい風邪』に感染した為、黒木のキモさに魅了されてしまった!!──」
「──つまりは早坂も。…かぐや…って子のキモウイルスの罹患者になったわけ!! つまりは分かる? 早坂が今すべきことは殺し合いじゃなく、キモ病院キモ科にてキモワクチンを打つことだって。だから一緒に克服しよう、キモの魔力から!!!!」
「…聞いて損した。出まーーす」
ガチャッ
「えっ??!! なんでっ!!! ちょっと待って!!!!」
最初は私とかぐや様の関係の裏──今までは気づかなかった何かを紐解いてくれるのかな…と微妙に期待はしたけど。
結局何を言ってるのか理解できなかった。
──理解できない自分でよかった。
「待ってってば!!! 私も出るから!!」
脱衣所への自動ドアを向かう手前。
振り向きざま、ガチャッと個室から飛び出る音が聞こえた。
…いや、内の奴ついてきたし!! なんでついてくるのっ??
「待って!!!」
「私に待つ理由がありますか? …あっ、キモウイルス罹患~だかなんだかで私とシンパシー感じたとかなら、それ勘違いですからねっ?!」
「はぁ!!? いやそんなこと言っといてさ!!! 早坂もかぐやって子に感じてるんでしょ!!!」
「何をっ??!!」
「キモさをっ!!!」
「感じるかァーっ!!!!」
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ……。
青いタイルを踏む音がこちらに近づいてくる…。
迫りくる顔面──絵文字……。
わけが…、わけがわからないっ。
──この殺し合いが始まって以降、私はやたらと個室で変な女と出くわすサイクルにハマらされてるんだけど。
どういう運命なわけ…?
ブツブツなんか言いながら──多分「キモい」とか連呼しながら近づいてくる内。
…やはり、あの時助けなんかせず首の骨を折っとけば良かったか……。…と。
自分の行動力の先見性に悔いながら、どうすべきか頭を働かせた…──その時。
────あっ、そういえば内のやつ。テンパってるんだな……って。
「──うわっ!!!!!!」
「あっ」
内は、焦りからか。
足元に転がる『石鹸』に全く気づかず、思いっきり滑って。前のめりになり転んだ。
ズドンッ
「…いってて……」
「……………」
ちなみに、転ぶ前の内と、私の距離は若干1メートル。
従って、彼女の『前のめり』…とは。
「…………あっ」
「…あ」
──全裸の私を押し倒した上でのすっ転びを意味する。
「………………え、え……」
「…………あっ」
…言うまでもないけど、下着、靴下すらつけぬ裸の姿は、内もまた同様………。
内の膝、そして私の膝が互いにまたぐらに入る形での……押し倒し。
互いの太ももが重なり合い、その湿った感触を共有する形での……押し倒し。
内は転んでも怪我をしなかった。──何故なら私のたわわがクッション代わりとなったから。
胸を互いに押し付けあった形での……押し倒し。
「………………は……っ早坂…………」
「………内…………さんっ…」
思わず、吐息が漏れてしまう。
内の甘い吐息が鼻に通し、視界は絵文字の柔らかそうな顔でいっぱい。
ちょっと口を尖らせれば、唇同士が重なり合う。
……………そんなほぼ0距離での、押し倒し。
「…わ、私…………。はぁ…………。私は………………」
「…………………はっ、ん……早坂………………」
全裸の女子同士が。
ふとしたトラブルがきっかけで、絡み合い……、……胸の先っぽが擦れる。
時間が止まったかのように、動けない………。
内も私も、膠着しかできない…………。脳も甘くとろけて麻痺している……………。
こんなのガラじゃないのに………。
私はこんなの興味なんか、ないのに…………………。
「…はぁ…。はや、………早…坂ぁ……………」
「内さ……………はぁ、はぁ…………。んっ……………」
────唇と唇の距離が…、
ゆっくり、ゆっくり縮まって、行────ッ……………………。
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
「…え?」
「あっ」「あ」
…とはいかなかった。いや、行かせるわけなかった。
突然の来訪者の登場で、我を忘れていた私たちは慌てて離れる。
「………えっ??? え???!」
「……あ?」「はぁ?」
──────『男』の来訪者によって。
◆
……思えばさっき。……
……『新田義史』は危険だ──という拡声器による告発が響き聞こえた。……
……真偽はともかく、私はそいつに出くわしたらできるだけ関わらないようにしようと。そのとき思った。……
……関係ない話を失礼しました。以下、腰にタオル一つで正座させられている男をお送りします。……
◆
よくよく考えたら。
殺し合いだのトネガワだの渋谷だの。──全部、夢なのかもしれない。
いや、思い返せば昨晩浴びるように酒を飲んだから、悪酔いしてるだけなのかもしれない。
全部が全部、現実でない可能性もあるのだ。
それに気づいた俺は、傷心をさすりつつもシャワールームへと立ち寄った。
…え? なんでシャワーをするんだ? ってか。
なに。気まぐれみたいなもんだ。
まぁ話せば長い時間巻き戻すことになるが、あの時も。
ヒナの奴がキモい見た目で未来からやってきた──初・対面の時も俺はシャワーを浴びたものだった。
あぁ、これは全部幻覚だ。酔いを覚まさないとな、ってな。
だから、今回も俺はシャワーで心と頭を覚ましに求めてきたんだ。
野原さんらに捨てられ、新田義史という男が危険人物と広まった────この現実から、温水で癒されるために…な。
…だが、それが現実逃避であることに変わりないわけで。シャワーをどれだけ浴びようがこの『殺し合い』という現実は変わらないのかもしれない。
──いや、断定する。この現実は変わらないだろう。
思えば、あの初・対面の時もシャワーから戻ったとき普通にヒナがいた。まったく幻ではなかった。
……分かってはいた。分かっていたんだけどもさ。
「早坂!!! 早くこの変態を殺して!!! 早く!!! ほんとに気持ち悪い!!! キモキモキモキモキモキモキモ!!( ' - ' 💢)」
「いえ内さん。このまま彼を殺してしまえば、私は『覗きオヤジを殺した』という汚点が残ってしまうわけです。…ここはどうにか」
「は??? なにっ!!!!! こいつ庇うわけ?!!!」
「自分が最低最悪以下の下劣で、脳よりも性欲しか働けない生きる価値のない人間であることを、たっぷりの説教で自戒させてから斬首すべきとしたいです」
「あっ、じゃあそうして!!! 何事も下処理が肝心ってわけか!!( ' - ' )」
ただ、俺は、今一番現実逃避がしたかった。
脱衣所にて、死人みたいな顔をしている俺。
乾いた冷や汗の感触に苦い思いをしながら、タオル一枚で正座させられる……俺…っ。
そして、目の前────つっても俯いてるんだが…、俺の前には二人の女子高生がネチネチ嫌な言葉を投げかけてくる。
…痴漢して逃げた先で電車に撥ねられるヤツって。多分、このくらい惨めで狭苦しい思いなんだろな。
…あぁ。
言い訳をする気はねぇ。
この女子シャワー室におっさんがズカズカ入ってきたのは事実。…自分の意思でここに踏み入れたのも、また事実。
そりゃ、もう悲鳴いっぱいにキレるよな。あんたらお嬢さんたち。
そら、な……。
言い訳の余地はねぇが、…ただ聞いてくれ。
俺はほんとに知らなかった。気づかなかったんだ。
入り口に赤いマーク──『女子専用マーク』があっただなんて。
精神的にキツイことがあって、まじで気づかなかったんだよ…………っ。
「あのー、あなた話聞いてますか? さっきからボーーっとしてるようにしか見えないんですが。反省してませんよね」
「ほんと気持ち悪いっ!!! 早くこいつを死刑にできる世の中になってほしいくらいっ!!!! キモッ、キモッ!!!!」
…………。
それと、もう一つ誤解を解きたい。聞いてくれ。
あんたら、JKだかJCだかJDだか知らねぇし、クソどうでもいいけどよ。
俺はどちらかというと、自分と同い年…か大人の女性の方がタイプなんだよ。
例えるならバーテンダーの詩子さんとか。朝テレビに映る女子アナウンサーとか、な。
だから、今までヒナの下着をいくら洗おうが、三島のガキがチラチラ見てこようが俺は一切欲情しなかったんだよ。
…興味ねぇから。
「なんか喋ったらどうですか? あなた。最低すぎませんか??」
「ふざけてるよね?! こいつ!!! 話せないの?!!!」
まあ聞いてくれよ。ガキンチョたち。
俺の……、闇の社会で生きる俺の『理想』…ってのをな。
あんたら、映画の『ゴースト ニューヨークの幻』って見たことあるか。
かく言う俺も金ローが初見でそれっきりなんだがな。
…あっ。別にその洋画の面白さを熱弁する感じではないから。そこんとこは勘違いするな。
……その映画のワンシーンでな。
社会人の主人公が壺の陶芸に熱中してる折、幼馴染の彼女がやってきて和気あいあいとするってのがあんだよ。
夜の自室でな。互いにドロとか顔につけてじゃれ合ってさ。
ムードが高まる中、二人は恋に落ちてロマンスな映像が流れる。って。
そんなシーンがあるんだわ。
ライチャス・ブラザーズが歌う”アンチェインド・メロディ”をBGMに、な。
分かるか?
壺を愛してやまない俺の『理想』が、まんまそれだったんだよ──────っ。
『♪“Unchained Melody” lyrics(1954 America)』
(♪Whoa,~ my lvoe~~……)
「おーい、もしもしー。はぁ…とりあえず自己紹介から始めますか? あなた名前なんていうんですかーー」
だから。
(♪My dariigu~…)
(♪I’ue hungdrew for yaur touuh~~)
「もういいでしょ!!! 早坂、サクッと殺そ!!! サクッとチェンソーで!!!!」
だから…っ。
(♪A long, louelr tiwe)
(♪And tiwe gwes dy su slooly~)
「はぁ。せっかくシャワー入ったのに。…そうですね。私も暇ではないので、殺っちゃいますよ」
だから…ッ。
俺はッ。
(♪Run naked, town~)
(♪Run naked, town~~)
(────直訳:裸で駆けろ、町中を)
我ながら唐突にして、この場から一目散に逃げ出した。
「「あっ!!!」」
シャワールームを一瞬で飛び出し、階段をハイジャンプで一気に降りる。
雑居ビルを出た途端、ネオンの明かりが俺の体をカラフルに照らしてくれた。
俺の、裸体を────。
色とりどりに────。
『ゴースト ニューヨークの幻』…………。
俺も早く楽になって、幽霊みたいに透明になりたい。
なあ。
なんなんだろうな、人生〈バトル・ロワイヤル〉って。
なあ………………。
◆
……とりあえず、行く先は──ユニクロだな。……
【1日目/D4/繁華街/AM.03:33】
【新田義史@ヒナまつり】
【状態】半裸、放心状態
【装備】AT拳銃
【道具】???
【思考】基本:【???】
1:ユニクロに行きたい。──夏の日の変態。
◆
………
……
…
「…とりあえず早坂。さっきは転んで……ご、ごめん……………」
「…………いや、忘れましょうよ…。もう、それ…」
「で、早坂。かぐやはどこにいるの? これからどこ行くつもり??( ' - ' )」
「えっ。ついてくるんですか…。何故に?──」
「──まぁ、別に。いいです…けども………」
【1日目/D4/雑居ビル3F/AM.03:34】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】健康
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し。(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい。
→同盟:山井恋
2:かぐやとのいち早い合流。
3:変態覗き男(新田)を警戒。
4:後々来るであろう『個室にてヤバイ女と出会う未来』に警戒…。
【うっちー@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:早坂についていく。
最終更新:2025年07月16日 21:52