『十年ごのボクへ』
「ミュージアム♪ …ミュージアム♪ かけがっえの、な〜い〜♪──」
「──たいせつなみっらいを〜〜♪ なんたら、かんたら、ふふふふ〜〜〜ん♪………──」
「──……………──」
「──…なんだっけ────!?!! この曲────────────っ!!!!」
【答え:ド●えもんかなんかの映画(多分)】
……
…
オッス!
俺の名は鹿田ヨウ!! 好きなものは駄菓子と巨乳だ!!!
日夜オイシイ駄菓子を追い求め全力疾走しッ!!!──ふと、おっパイ姉ちゃんとすれ違ったら思わず立ち止まってしまう…!! そんな俺はまさしく『永遠の青春期』………。
サンデー的言い回しで「見た目は大人、頭は………」とは、────この俺のことだぜっっ!!!!(あっ、あとシカダ駄菓子店も経営してるよ!! ヨ・ロ・シ・クねっ☆)
そんなEccentric Shounen Boyな俺が、この度馳せ参じられたのが……バトルロワイヤルっ……!!
なんだかよく分かんないけど殺し合いをすることになっちまったんだ…。やぁ〜ねぇ、もう聞いてヨ~奥さんっ!! 殺し合いですとよっ?!!!
この人生、毎日毎日駄菓子について切磋琢磨し、…時には妻に逃げられ、…時には売上低迷に頭を悩ませながらも………、それでも俺は男手一人でココノツを育て上げたんだが…。
四十五年間必死で生きてきた結果が……──これなのか……………?
…うまい棒めんたい味よりも塩辛い涙が頬を伝う俺だったぜ…………。
うぅっ…〜〜。
「………フッフフフ。──なーんちゃって…っ!!!」
──だなんて思っただろっ!!!
殺し合いを前にして俺が泣き上戸になってると思ったでしょ!!? ざ〜んねん!!!
違いまーーすっ!!!!
主催者のトネガワ先生!!
残念だが、バトルロワイヤル如きで俺の『駄菓子魂』は燃え尽きたりしねぇーぜっ!!!!
いや、むしろこの駄菓子魂でバトロワを終わらせようとか考えちゃっている!!!! 俺は!!!!
見てろよ────? 刮目しろよ────? そして味わう準備はできたか主催者くん────???!
俺の魂が発する、おやつカンパニーパワーで……、バトルロワイヤルを満腹に…。──いやっ、満腹とまでは行かないけど駄菓子を頬張った時のような微々たる幸福感に…っ!!!
──今、包みこませてやるぜっ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!
「それにっ!!! 俺には今最高の相棒──佐野ちゃん《…とはあくまで仮の名。彼女の正式名称はヤングドーナツ星人!!!》がいるんだからなっ!!!! これもうフラグ立っちゃったねっ!!! HAPPYENDフラグが!!!! はーはっははは!!! はーはは、はは──……、」
……………。
「あ、佐野ちゃん見失ったんだった………………。は、はははㇵ………」
…というわけで。
どっかに行っちゃった佐野ちゃんを探しに、血眼になって走っていた俺は、気付いたらこの『渋●区美術館』の中にいたんだ。(…くぅっ〜!!! 美術館に佐野ちゃんがいるはずないっていうのに俺は……。この方向音痴めっ!!! めっ!!)
…ごめんよ。ヤングドーナツ佐野ちゃん………。おじさん、バカで………。
せめて彼女が怪しいオジサン達に惑わされないことを願うばかりだぜ………………。
ま、それは一旦置いといてっ!!!!(ホントは置いといちゃダメかもだけど話を進めるぞ!)
世界各地から選りすぐりのアートを展示してるという、このナイトミュー●アム(またの名をib!!)…。
美術の成績はお世辞にも良くない俺だから、ほとんどの展示品の価値が分からず……。
佐野ちゃん探しという名目でプラプラ展示品を流し見してたんだがよ~…。
そんな俺が食い入って見てしまった芸術品が、一つ存在したっ!!
────それが、この『甘美なる駿馬』!!!!
【作者】カンビィー・ウォーホース
【作品名】
『甘美なる駿馬』
何が凄ぇ、そして痺れるッ憧れるッ作品なのか…って──。
──この馬はマーブルチョコ数十万個を積み上げて模したものなんだっ!!!!!!
銅は黄色、顔は赤、蹄は青!!! カラフルな集合体が成す、この大きな馬はまさしく努力の結晶!!!!
作るの大変だったろうなぁ〜。何時間もかかったろなぁ〜。…俺は思えば思うほど、息を呑んだぜ………。
息をゴクリッ…ってな………。
──……あと、涎もゴクリッ…ってな。
「(キョロキョロ)…………………。……誰もいない…よね……?」
……誰もいない…な!
周りを入念にチラリズムした後、俺はこっそりと一粒。──プチッとマーブルチョコをつまみあげた。
「……これでよし、っと!!!」
…あぁ分かってるぜ。…やっちゃいけないってのは重々承知よ…。
だけども、一つ、言い訳させてくれ。
俺がつまんだこの青マーブルチョコは、黄色い胴体の中に一つ紛れ込んでいたやつなんだ。
まるでスイミーみたいな場違いっぷりだよ。…きっと作者のカンビィーさんも間違えて配置したんだろな。
違和感まみれで、ウズウズしちゃって。…つい! つい、取っちゃったんだよ………。
A型の人ならきっとこの気持ち分かるんじゃないかな…?! しかも何十万粒の中の一粒だし抜けてもバレないでしょっ!!
俺はスッキリした面持ちで、その一粒のチョコを口に放り込んだんだ─────…☆
──そんなことしたら次の瞬間。
────馬の模型はバランスを崩して、雪崩のごとくジャラジャラ崩壊しちまった。
──────僅か一粒消えただけで、原型なくスッカラカンに。
「……………あ」
……。
…制作者さん、ほんと申し訳ありません。
警備員さんもいたらボクを捕まえてください。
防犯カメラは……。いやん、見ないでエッチ……………。
俺は済まし顔しながら、この場を早足で去るのだった。
◆
マ〜ジカル☆駄菓子!!
駄菓子といったら、うまいっ!!!
上手いといったら、絵画!
絵画といったら、なんでも●定団!
なん鑑といったら、価値が高い!
価値が高いといったら、ワイン!
──ワインといったら……ぶどう!!!
「あなた何ボサッとしてるの!! さっ、これを運んで!! まったく人手が足りないたらありゃしない…」
「あっ! い、今運びますので〜!! そんな怒らないでお姉さん〜〜!!!」
────そして、ぶどうといったら…今俺が運んでいる果物…………!
ようっ!! また会ったな!
俺、鹿田ヨウまたまた馳せ参じ…!!
Mr.駄菓子とのこの俺は今、洋風な部屋の中でアルバイト中!!!
果物やら料理やらを、よくわかんないけどメイドみたいなお姉さんと一緒に運んでるぜ!!!
小耳に挟んだところによると、ここはどうやら王様の持ち家らしく、祝福なことに赤ちゃんが産まれたらしいんだ。(Happy──Birthday ☆)
赤ちゃんの名前は確かデルガルって子!! いやぁ~、良い名前だなぁ! そう思わない?!
ヒゲの王様に奥さん、そして耳の尖った子?に抱えあげられるデルガル坊の、その姿……。
部外者ながら、その幸せな光景に熱いものが込み上げてきちゃうぜ………。 いやぁ、おめでとう!!
「というわけで俺からもご祝儀さ! 果物カゴにハッピーターンを入れて、っと!! …ハッピーターンは厳密には駄菓子じゃないけど、俺からのせめてもの思いさ…。デルガルくん!!」
「こらっ!! 何ヘンな物を入れてるの!?」
「ヒッ!!! お、お姉さんすみません!!! こ、これは些細な粗品でございまして〜──…、」
「もう…っ!!! いいわ!! あなた邪魔になるから出ていきなさいっ!!!!」
バンッ
「ひぃ〜え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! すみませぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
ご、ごごごご、ゴゴごめんなさいぃ〜〜〜!!!! 不機嫌になるくらい忙しいってのにふざけちゃって〜〜〜〜〜〜!!!!!
怒ったメイドさんは大きなほうきで俺をバーンッと!!
そのまま俺はゴミを掃かれるように、この『絵』から追い出されるのでありました……………。
これでバイトクビ!!! 『鹿田ヨウバイト編』、これにて完っ!!!!!
────────────────────────────
………
……
…
………ふふっ、さーて。
──聞こえるぜ?
隠さなくたっていい。君の心の声は、マインド駄菓シーカーである俺には筒抜けなのだからな……。
「そう!!! 諸君らは突っ込みたいわけだ──────っ!!!!」
「『絵から追い出された』、ってどういう意味だァあ!!??──ってな!!!」
「そりゃ意味不明もいいとこだろう…。ほかには『なんで唐突に美術館から王の家に場面転換したんだ』、とか『前触れもなく何故バイトを?』とか…。あぁ聞こえてくるぜ、疑問の鬼電が……」
──だがっ!! しかしっ!!!
「これらは、比喩表現でも突飛な展開でも何でもないっ!!!! …今から言う話を全部信じてくれよ? 信じないと話が進行しないからなぁ!!!」
この渋●美術館…………。なんと驚きっ!!!
「絵画や展示写真が…“動いて”っ、──しかもその中に…“入れ”ちまうんだァ─────────!!!!!!!!」
【作者】不詳
【作品名】
『ぶどうを持つ女性の肖像。〜王の誕生』
………………ん? ────え゛っ!?
いやいやいやいや!! 別に俺はアヤしい粉やってラリってるわけじゃないよ!!?? 正真正銘シラフだから!!!
(そりゃ…俺は毎晩こっそり怪しい粉(ビンラムネ)ヤっちゃったりはしてるけども……。)
ともかく幻覚症状見たわけでないよっ!!??
(──あっ、これはさすがに岡田商店さん(ビンラムネ製造元)に怒られるかな………。ゴメンナサイッ!!!!)
「……まぁ、百聞は一見にしかず……。今から絵の中に入る様子をご覧させてやんよっ!!!」
【撮影者】秀知院学園校長
【作品名】
『記念撮影』
【被写体】四宮かぐや、白銀御行、藤原千花、石上優、伊井野ミコ
↑↑↑
とりあえず隣にあったこの写真に今から入らせてもらうぞ!!!
カメラ目線でにこやかに微笑む生徒の写真………。
この中へイッツ・ア・ダイバー──ヨウッ!!!!!!
ジャーンプ!!!!!!
…
……
………
────────────────────────────
「…えっ!!? わぁびっくりしましたっ!!!! い、いきなり誰ですかぁ〜オジサン!??」
「き、きゃぁあああっ!!!! …め、…名門ある、この秀知院学園に…………不審者っ…!? 誰か、誰か!!! 警備の者を!!!!」
………ふぅ!!!
輝く俺、黄色く眩しい太陽、そして黄色い悲鳴………。
歓迎ムードで出迎えられたみたいだなぁ~!
「か、会長!!! どうすれば……。ど、どうします!!? ねえ!!」
「………落ち着け四宮。そういえば今日庭の噴水にある甘いリンゴとさくらんぼのレリーフの奥深くに蝸牛が……」
「見て見ぬふりをしろ、って言いたいんですかぁー!!? あの不審者を!!! …もうっ。ちょっと、石上くん! 貴方が何とかしてください…」
「……あっ、すみません今クエストいいとこなんで。てか、こういうのは伊井野が担当でしょう」
「「はぁっ!!????」」
俺の登場で一気に賑わいだしちまったみたいだ!
グッ、ここまで注目の的になるだなんて…。我ながらツライぜっ………!!
…と鼻をこすってたら、一番ちっちゃな女子生徒がヨロヨロ近寄ってきたぞ!!
さしずめ彼女は飛び級のエリート小学生かな?
おさげヘアーも子供っぽいしね!
「…あ、あなた!! 刑法第130条【建造物侵入罪】!! 今から警備の者が連行しに来ますので……、ぜ、絶対変な真似はしないでください!!!」
「ふふふっははははっ!!! この歳で高校入学とは流石だねっ!!! 勉強大変だったろ? …えーと……。君はたしか、…御行ちゃん!!」
「ヒッ!!! 気持ち悪いっ……。わ、私は伊井野!! 伊井野ミコですっ!!!」
「おっと…! 名前間違えてゴメン!! …とにかく、頑張ってるミコちゃんと友人四人にオジサンからプレゼントだよっ!!!」
懐から駄菓子を取り出し、俺は突き出すっ────!!!!
「ひぃいいっ!!! 気持ち悪い気持ち悪い!!!」
「い、伊井野さん。絶対それ受け取らないでくださいよ!!! 言うまでもないですが!!!」
「…ひぃい……。──…えっ?」
俺の手に握られていたのは子供から女性まで大人気のお菓子──『トッポ』五袋だぁ!!!
…ほんとはビンラムネをあげたかったんだけども。……勉強疲れの子にはやっぱりコレだよね〜? ロッテのトッポ〜〜♪
(厳密にはこれも駄菓子じゃねぇーぜっ!!! セルフツッコミ!!! )
「…………………ごくりっ」
「いやゴクリッじゃないぞ伊井野────っ!!?」「この大食漢──────っ!!!!」
「…わぁ〜!! わたしちょうどお腹空いてたんですよぉ〜〜〜。優しいおじさん、ありがとうございま〜〜〜〜す!! ミコちゃん一緒に食べましょ〜」
「……あ、藤原先輩がそう言うのなら、…頂きますか………」
「あぁもう伊井野さんあっさり傾いちゃったしー!!!」「…だから藤原先輩をあっち行かせろって言ったでしょ僕!!!」
…ハハハッ。
マシュマロみたいな豊満ボディの子に手に渡ってトッポ(と俺)も幸せ者だなっ……。
じゃっ、役目を終えたことだし駄菓子サンタはクールに去るとするぜ……。
バイバイ!!! 秀知院学園のNEWフレンドたち!!!!
「あっ、逃げた!!!」
「…………ポリポリモグモグ。…あんな不埒な男。絶対捕らえてほしいものですね。モグモグ…」「もぐもぐ〜。ほんとですよ〜!」
「口ではそう言いつつも体は〜…って奴ですかッ!!?」
「…よもやよもやだな。………全く…」
────────────────────────────
………
……
…
さっきまでは普通の記念写真だった【作品名『記念撮影』】が、今では楽しげな菓子パーティに変わっている……。
ほれ、見たことか!!! 凄いだろっ!!?
この通り何でか知らないけど、展示絵画の中に入れちゃうんだよ!!!! スゲーねっスゴイです!!!! ス・ノーマン・パーもおったまげ〜!!
さしずめ、『生きる絵画』と言っていいこの展示コーナー…。
まだまだたくさん絵が飾られてるわけだから、童心思い出して遊び放題ってわけよッ!!!
これって例えばさ!! もしかして、俺が描いた絵をここに持ってくれば、オリジナルの世界で遊べるってことなのかな?!
別れた奥さんの写真とか持ってきたら、あの頃に戻った気分で懐かしめるってわけだろ?!!
うひゃー!! 最高じゃねーか!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!! また会いたいぜ、また話したいぜ、俺のカミさん───────────!!!!!!!
「……………………」
「…あっ、ごめん。出ていかれた日のこと思い出してちょっと萎えてきた」
「…………………うわ、虚しっ……」
…………………。
…まァッー、そんなことは忘れといてっ!!!
このテーマパークで遊びに遊びまくろうじゃねーーか!!!!
……
…
【作者】林あんず
【作品名】
『らーめん祭り』
【作者】城田
【作品名】
『夜景の写生』
【作者】黒木智子
【作品名】
『安藤の似顔絵とかテキトーにこんなもんでいいっしょ…』
「これらは幼児の部の入選作品かな? みんなイキイキ描けてて微笑ましいねっ!!!」
もし大人が描いた作品だとしたら、ピカソ級の独創的画風な絵達を俺は今眺めているぜ!!!
うん!! 本当に素晴らしい絵だなぁ〜!
特にこのあんずちゃんが描いたラーメンの絵なんか……、メンマやチャーシューが踊り騒いでてキュートっ!!!!
俺がこの絵の作者なら『ヤッターメン』のマスコットキャラを赤塚プロに訴訟覚悟で書き加えそうだぜ〜!!
…ま、俺の懐にある駄菓子も残りあと少ない現状。
幸せそうなこの絵のキャラクターたちにあげるのもまた別の機会…というわけで!
俺は安藤似顔絵の隣に飾られた──ひろ子さんの風景画に入ることにしたぜ!!
ホップ、ステップ、カールイス!!
ダイビーング、────鹿田ヨウ!!!!
【作者】ひろ子
【作品名】
『コーラを飲むコースケくん』
…
……
………
────────────────────────────
「ぷはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。(ドンッ」
「(満点の桜のもと、オレは花見の場所取りをしていた)」
「(大家やカノジョ達を待ちながら飲む炭酸飲料はなかなかのモノだ)」
「(…ただ、花より団子という言葉がある通り、オレは今絶望級の空腹に襲われている。まだか、まだか…と待ちくたびれて力が出そーにない)」
「…あー。……………お腹すいたな………」
…そんなときに現れた救世主ってのがこの俺なわけよっ!!!
「…………え」
えーと……。コースケくんっ!!!
「………………あ、ども。……てゆーか、誰ですか」
…………フッフフッフ!!!
名乗るまでもないぜ…。
「俺の名前は正義のヒーロー『駄菓子マン』!!!! 空腹に苦しむコースケ君を救いにただいま参上だっ!!!!」
きらーんっ☆
「…………思いっきり名乗ってますよ」
「まぁ細かいことは桜の木の下許してくれっ!! とにかくこの駄菓子を一粒味わってみな!!! 美味いよ! オイシイよ!!」
「……………。………(ぱくっ」
「(謎のオヤジから貰った飴のようなもの。噛んでみたら案外脆かったので、だとしたらガムなのかもしれない)」
「(まー、どちらにせよ美味いことは変わりない。グレープ味のそのお菓子は俺の空腹をいとも簡単に満たして魅せた……)」
「…………………(かむかむかむかむっ」
「どうだ美味いだろ!!? これはなぁ、俺の息子も小さい頃すごい好きでな………。だから色々思い出の駄菓子なんだ……!」
懐かしいあの頃…。十年ほど前…。
まだ「父さん父さん〜」と懐いていたココノツはこいつを見るたびによくせがんだものだった………。
今では顔を合わせるたびに軽蔑の目を浴びせてくるココノツだが……。…あの頃は可愛いヤツだったよ…………!
「ただァ────!!! 時がつれて早十年!! なんとこの菓子は今若者の間で再ブームとなってるんだ!!! コースケくん!!──」
「──その要因はSNS!! つまりは『YouTuber』!!! 分かるかな!? コースケくん!!!!──」
俺は近くにあったコーラの缶を手に取り、春一番の雄叫びをあげるのだった!!!!
「──この『メントス』をコーラに一粒入れると…なんと大噴水の大噴射をするってことで!!!! YouTuberたちが続々動画にし、真似する人が続出したのさ!!!!! 化学反応でこういう噴射が起きるらしいけど……スゴイよねっ!!!!──」
「──なぁコースケく…──……、」
「………………………………………あ」
………俺は無かったことにして、トボトボとこの絵画から逃げ出した。
────────────────────────────
………
……
…
【撮影者】不明
【作品名】
『黒い巨塔』
「……〜〜?? 黒い……、黒いか??」
さてさて、お次は風景写真。
タイトルは黒い巨塔…とのことなんだが〜……、どう見てもごく普通のありふれたビルにしか俺は見えない…。
看板マークに「(帝)」とデカデカ乗ってる普通のビルなんだけども〜…。…これはあれか?
芸術的ブルジョア感性があれば黒く見えるってやつなのかなぁ???
…ごめんっ! 撮影者さん!! 俺にはただのビルにしか見えね〜~~…!!!
「…と、そんなコトはどうだってよし。………それよりも俺の目が引いちまう絵がありやがったぜ…………………」
……なんで、この絵が展示されてんだ……?──ってな。
俺はその素晴らしい絵画に思いっきり食い入ってしまったんだ。
その絵が……これだ………。
【作者】────
────────鹿田ココノツッ!!!!
【作品名】────
────────『少女漫画──“恋の港町”生原稿』ッ!!!!!!
「──ぶっ!!! だっはははははははははははははぁあ──────!!!!!!! へひっひっひひひひひひひひひ!!!!!!!!!!!!!」
ひぃーひひひひ!!!! おかしっおかしい!!! あーはははっはっはっは!!!!!!
なんで!!! なんでココノツの漫画が展示されてんだよっ!!!
なに???! ココノツの奴持ち込んできたってことなの??!!!
編集部ではなく美術館に!!????? ぶふっ!!!!
しかも、わざわざ豪華なフレームに入れられてさぁ!!!
しかもわざわざ生原稿でさぁ!!!!!
いとお菓子すぎて涙が出ちゃうよ!!! だはっはっははっはっは!!!!!!
「いやぁ〜、しかし悪くないけど相変わらず女キャラに理想入りすぎてて若干だが童帝くさいな!!! それとここのセリフなんだけどちょっと読者に伝わりにくい感じがしてもう少し分かりやすさを追求してほしいな!!! あははははははっ!!!!!──」
「──って、なに長々と息子の描いた漫画に真面目な審査コメントしてんだァアアアア!!!! この俺ぇエエエ!!!!!──」
「──だっははははははははははははっはぁあァアア──────!!!!!!!」
……。
しーん………。
「…う〜ん。やっぱりココノツ《ツッコミ役》がいないとどうにも締まらんな……………」
…これ、傍から見たら一人で大爆笑してるヤバいおじさんなわけだからなぁー……。
……トネガワ先生…。次からはココノツを頼むぜ〜……? 俺一人じゃ寂しくて虚しくて馬鹿みたいじゃんかよっ!! もうっ!!
(──あっ!!! ココノツ死んだら跡継ぎいなくなるからやっぱナシで!!! 撤回!!!!)
「…ふぅ。……さて、そろそろ出るか。一通り絵画も見終わったことだしな!!」
締めにまさかのココノツを見れたことは儲け物だったが、ちょっと疲れてきたしな……。
遊び疲れた夏のボウイ──俺は美術館を出ることに決めたぜ…。
…てかよく考えたら真夜中の暗い美術館とか怖っ!!!
今更だけど動く絵も心霊的な意味で怖っ!!? 一人ぼっちでこの体験とか怖すぎじゃん!!!!
…おいおい今になってゾワゾワしだすなよ背筋ちゃん…!! もう夏だっていうのに寒気が凄いんだけどぉっ!!!!
「………あー怖ぇ。……最後の菓子でも食べて紛らわすか…」
バリッ──と、『かっぱえびせん』の封を開けてバリバリもぐもぐ。
消灯した美術館管理者に恨みを抱きながら、俺はここを後にしたぜ………………。
ビュウゥゥウウウ………
────ベラッ
「………おっ?」
…悪いな。ここを後にするのはもう少し先の話になるぜ………。
何処からともなく風が吹き、そして何処からともなく現れた──一枚の紙。
足元に落ちていたソイツは畳まれていて……。なんか面白そうって理由で、俺は紙を拾い開いたわけよ。
そしたらもうっ、驚き!!!!
──ってほどでもないか…。
その画用紙に描かれていたのは住宅街の風景画だったんだ!
多分作者さんは小学生なんだろうな…! クレヨンで描かれたその夕焼け街は子供特有の良い味わいがあったぜ………。
恐らく【幼児部】から外れたんであろうこの絵は、【作者: 作品名:『十年ごのボクへ』】と札付き!!!
俺が唯一見逃していた絵画がポツリと落ちていたんだ──。
「…ごめんよ、君のことを忘れていて。…わざわざ見てもらいに俺のとこまで来てくれたんだな…!!」
────というわけで予定変更!!!
美術館なんて怖くなんかないさ!! 怖いなんて嘘さっ〜♪
この最後の一枚に飛び込むことで【鹿田ヨウ ナイトミュージアム編】は幕引きとしようじゃないか!!!
「──行くぜ………っ」
「ダイバー…………………──ヨウッ!!!!! ──とうっ!!!!!!!!」
レトロなその街の風景へ、最後の旅だ!!!
俺はちっちゃな画用紙に向かって、体をまっすぐに飛び込んでいった!!!
スーパーシカダ64!!! ────イッツミー…YAHOOOOOOOOOゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!
(ふぁふぁんふぁんふぁふぁん、ふぁん♪)
…
……
………
────────────────────────────
秋の風が冷たく頬を撫でる。夕焼けに染まった住宅街を、一人の少年が泣きながら歩いていた。
「……なんで、なんでだよ……」
肩を震わせ、小さな声でつぶやく。
制服の袖で涙を拭うが、すぐにまた溢れてくる。
電信柱の影が伸びて、少年の小さな背中を包み込んだ。
家々の窓には温かい光が灯り、晩ごはんの匂いが漂ってくる。
どこかから子どもの笑い声が聞こえた。
その音が少年の心を余計に締めつける。
「なんで、皆あの良さが分からないんだよ…。なんでボクを異常だって決めつけるんだよ………──」
「──悲しいよ…。辛いよ………。うぅっ……」
────そんな哀しき少年を、この俺がほっとけるわけなんか当然ないだろ…?
「…やっ!! まぁ元気出しなよ、おもしろボーイ!!!」
「わっ!! (…なんだよおもしろボーイって)…おじさん、誰? ボクになんの用だよ……っ」
「オジサンはヨウ・シカダ!!! 略してマスター・ヨーダとでも呼んでくれいっ!!!」
「……いや略せよっ!! …意味がわからない。早くどっか行けって…!!」
「まあまあ〜……。とりあえず何があったのか相談に乗るぜ? どんな悩みでも、オジサンに心の内を話してごらん………!!」
「なんでだよ。お前には関係ないだろ…」
「あぁ、たしかに関係ないな」
「は?」
「でも、もう二度と会わない他人相手だからこそ、心の底からのモヤモヤを好き放題話せるんじゃないのかな? おもしろボーイ!」
「………………………──」
「──じゃあ、話すよ……」
………
……
…
「…でさぁ!! ボクがその『バトル・ロワイヤル』の良さを話したらみんな嫌な顔しだして………っ! 終いには、先生にチクられて「異常だな」とか言われたんだよっ……!!! まさしく理不尽、絶望だっ!! ありえないだろッ!!!」
「…………へ、へー。バ、バトロワねぇ…」
藤原●也「どうしてみんな簡単に殺しらうんあお゛お゛おおおおん!!!!」でお馴染みのあの映画…。
あれの良さを教室で熱弁したこの少年は、軽いイジメ…? ──というかドン引かれたらしく。
その悩み相談を受けた俺は、急激に居心地が悪くなってしまった……。
俺、…そのバトロワの当事者なんだからな………。
「…ちょっとマスター・ヨーダ聞いてんの?! ねえ、ボクおかしくないよね?!! あの映画面白いよね!!?」
「…ㇵは、…ごめん。知らぬが仏」
「はぁっ!!? おま…、どんな悩みでも聞くつったじゃん!!!!」
「…ごめん。…じゃあ知ってキリスト」
「ふざけんな不審者オヤジッ!!!」
だって…仕方ないじゃん……。
もうね、もう…。何を答えればいいんだよ……?!
…懺悔室で「神父様、私は人を殺してしまいました」とか言われたクラスの困惑さ………。
返す言葉がないんだよ…。ごめんな、おもしろボーイ……。
「…はぁ。なんで誰も理解してくれないんだ………。ボクを、あの映画を………。みんなボクをバカにして……。馬鹿にしやがって……っ」
「……………」
…ただ、強いてボーイに返す物があるとするのなら……。
────まぁ、俺にはこれくらいしかできないよな。
「……フフッ。あまり気にするな!! ほら、これを食べて元気出すのさっ!!!」
「…はぁ? なに、これ……」
〜〜〜〜〜
【かっぱえびせん】!!!
カルビーが販売するロングセラーのスナック菓子────っ!!!
主な原料は小麦粉とえびで、独特のサクサク食感が特徴。
もはや説明不要!! 実はカルシウムたっぷりで成長期にはかかせない菓子!!(…かも!!)
〜〜〜〜〜
「……。…………──」
「──…いただきます(ボリボリ」
「…俺もな。元気がない時や苦しい時があって、そういう場面では必ず『かっぱえびせんだぞ…っ!』って呟いたもんだ」
「………(ボリボリ、ゴックン」
「かっぱえびせんは不思議な力がある。俺はこの味を忘れられな──…、」
「は? いやまっず。要らないよこれっ。あとは全部あげるね……」
…えっ?
「へ? えっ!!?? エエェェェェエエエ工工工ッ!!?????? そ、そりゃないよ!!!! あんまりだよボーイ!!!!! ボーイボーイボーーイッ!!!」
「…ショックから『おもしろ』外しやがったなこのオヤジ……。美味しくないんだし仕方ないじゃん」
「いやいやいやいや!!!! もう一回食べてみて!!! キミえび大好きだろ?!! それと同じだからほら!!!! ほら!!!!」
「うわ!! うっざいなぁ……。えびは大抵の人間好きだろ!!! 絡んでくんなよ!!!!」
いやいやいやいやいやいやいやいや引き下がれないよっ!!!!
駄菓子を否定すること=俺のアイデンティティも否定することになんだからっ!!!!!
これじゃあ「返す言葉が思いつかないから代わりに駄菓子で…」ってプレゼントした俺が馬鹿みたいじゃん!!!!!!
訂正してよ!!!!!!! うわぁぁぁおおおおおん────…、
「あっ!!! お母さん!!!」
「…えっ?」
少年に号泣しながら抱きつくという…極めて犯罪者スレスレだった俺だけども……。
ボーイは眼の前に現れた揺れる影を見て、一目散に走っていった………。
女性の影へ、抱きつくように…………。
「ねえお母さん聞いてよ!! 今日さー、映画のバトロワ見たって話たら皆に馬鹿にされたんだけど……。お母さんなら分かるよね!?」
「あらあら、どうしたの…もう」
「バトロワは傑作だよね!? ボクは間違ってないよねっ!! ねえ!!」
「………、──」
「──なにクヨクヨしてんのよ。自分が面白いと思えばそれでいいじゃない。…安心して、母さんもあの映画好きだから……っ!」
「…お母さんっ!!!」
…へへっ。
どうやら俺もかっぱえびせんも、出る幕じゃなかったみてぇ〜だな…!
ボーイに必要なのは、菓子でもなんでもない。──母の愛だったんだ…!!
夕焼け空が目に染みるぜ…。
二人は手をつなぎ、仲良しげに話しながら帰路へつく。
おもしろボーイよ、…バトロワが面白いかは一先ず置いといて。
その母との日常も今のうちの幸せだから……、後悔しないくらいに楽しんでおけよっ…!!
…じゃあなっ!
「あっ、おじさぁーーん!!!」
「えっ?」
「かっぱえびせん…ありがとねーー!! ボクの愚痴聞いてくれてありがとーー!!! またねーー!!!」
………振り向きざま、おもしろボーイは手を振ってくれた。
なんだアイツめっ…!! ちょっとは見直したぜ…おいおい……!
「あぁ!! またネッ☆ 次会う時はえびせん(高級味)でリベンジだぜ!!! おもしろボーイ!!!」
…君とかわしたこの五分間……。忘れないぜ、俺は。
夕焼けに照らされる中、男・鹿田ヨウ。元の美術館へ戻るのだった────。
ははっ…。
「…あっ、あとさぁー。おじさーーん!!」
…ん? なんだなんだい?
別れの挨拶が物足りないのかな…?
「お前参加者だろ。」
………………え。
「お前はここで、見てはいけないものを見た。知りすぎた。──」
「────さらばだ。鹿田ヨウ。」
ピ──────────ッ
【三十秒後、首輪が爆発します。】
え。
えっ。
え?
─────ボンッ
◆
………
……
…
「────はぅあっ!!!!!! なに急に?! 怖っ!!!! 怖っ!!!!!!!」
…俺、疲れてんのかな……。
めちゃくちゃ怖い夢見たんだけど……。なにあの夢…。急展開すぎないっ!??
…いやぁー。冷や汗がヤバい………。
落ち着け、落ち着くんだ鹿田ヨウ…。
とりあえず一服(ココアシガレット)で冷静になろう……………。
「……はぁ、ひぃ、…ふぅーー………」
辺りは真っ暗で人の気配一つない美術館…。
メディアギャラリーにたくさんの絵や写真が飾られているが、──一切動きを見せず、固まりきっている。
…まぁ、そりゃ当たり前だよな。絵が動いたり、中に入れたりなんてできるはずないんだもの。
…そんな絵空事、『夢』じゃあるまいに…………。
「…よいしょっと。ちょっとばかり眠りすぎたが…、まぁ体力回復はされたしいっか!!──」
「──さてそろそろ佐野ちゃん探し再開すっかぁ。美術館に長居なんてガラじゃないしな………」
汗をぬぐって俺はゆっくりと歩き出した。
…あばよ。作品たち。
名だたる絵画たちを横目に通り過ぎていく……。
『少女漫画──“恋の港町”生原稿』、『コーラを飲むコースケくん』、『安藤の似顔絵とかテキトーにこんなもんでいいっしょ…』、『夜景の写生』、『らーめん祭り』、『記念写真』に、『ぶどうを持つ女性』………。
君たちを眺めていたら変な夢を見ちゃったよ。
またいつか、会えたら良いな…。はははっ。
駄菓子マイスター鹿田ヨウ──。
俺が成す行動はもはや一つしかない。
月光眩しい出口をただ歩むのみ。
それだけさ……………。
「…あっ! 『馬』は夢じゃないんだな………。チクショウゥ!!!」
入口隣の、床に散らばったマーブルチョコを見て見ぬふりしながら────。
【1日目/C7/渋●美術館/AM.3:25】
【鹿田ヨウ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子レボリューションを起こす。
2:佐野ちゃん(改めヤングドーナツ星人)を探す。
…
……
………
"お母さん"
"…お母さん、ボクね。"
"ボク…、大人になったらね。絶対やってみせるから…。絶対にこの夢を成し遂げようと思うんだ…っ。"
"…………えっ? どんな夢なの、って? …もう、そんなの聞くまでもないでしょ。"
「『殺し合い』だよ! 悪魔のゲーム・『バトルロワイヤル』の実現さっ!!! …絶対に主催者になって、あのいけ好かないクラスメイト共を見返してやるんだっ!!」
【作者】『』
【作品名】
『十年ごのボクへ』
※ナゾ2【主催者の正体】…浮上
「バトル・ロワイヤルの黒幕は一体誰なのか。影武者利根川か、それとも……」
→鹿田ヨウが#046『十年ごのボクへ』にて、主催者の幼少期を確認。
最終更新:2025年08月05日 22:48