『終活』
────………。
────…あー、もしもし………っ。
『…あっ……! これはこれは………、黒崎さまっ………!!』
────うん。悪いね……。
────夜分遅くに………!
『い、いえっ…!! とんでもない………っ! ──…ところで私めにどういったご要件が………?』
────…それがなんだがな………。
────宮本くん…、悪いけどちょっと人数集めてくれるかな………?
────今すぐ……! 圧倒的大至急………!! 呼べれる奴ら全員を…用意さ。
『……と、仰いますと…?』
────あのーー………、今スゴイことになってるらしいだろう? …渋谷………っ!
『えぇ、確かに…。──深夜、渋谷に突如として出現した巨大ドーム型バリアー。警察は原因解明と住民の安否確認を急いでいる……。──大変な事態になってますね………』
────…その、渋谷の中にね。いるわけなんだよ………っ。
────………兵頭会長がさっ…! どうやら………。
『──えっ??! 会長がっ…!? そ、それは確かな情報ですか…!?』
────うん。
────情報源は明かせないけど、確かにいるんだわ………。会長………。
────だからさ、警護の連中とか…もう誰でも良いから、とにかく人集合させて、……壊しちゃってくれない? そのバリアー…………!
『…は、はい!! 畏まりました…!! では総動員で向かわさせていただきます……っ!!!』
────うん、じゃ頼んだよ。
『はいっ………!!』
────あっ。
────それと、もう一つ。…まぁこれは小さな頼み事なんだけどもな………。
『………あ、ご命令とあらば何とでも』
────わしの部下たちに、伝言頼むよ。
────『すまない』…………って。それだけでいいや。
『……………え? 黒崎さま………?』
────…ハハッ。わしからは以上だ。…悪いがこちらも急いでるんでね。…詳しいことはまたかけ直すよ。
『……あっ、畏まりました……』
────…うん。かけ直す、さ………。また……。
────それじゃあ失礼するよ。
[通話終了]
………
……
…
◆
廻る、廻るよ、時代は廻る。
(♪The times go around and around.)
──コインランドリーにて、控え目に響くラジオのリクエストBGM。
どくフラワーと名乗るふざけた着ぐるみに、川へ突き落とされて十数刻経った現在。
コインランドリーにて唯一、黒崎が使っている洗濯乾燥機だけが、低い唸り声をあげながら回転を続けている。
ガコン、ガコン──。乾燥機の中で貴高い衣類がもみくちゃになって回った。
家内と娘へ、軽い別れの挨拶をLINEした黒崎は、バスローブ姿で古びたベンチに座っている様子。
彼はスマホを懐にしまうと、代わりに二枚の紙を取り出し膝元に置いた。
一枚は──参加者名簿。──厳密にはその裏面にて、黒崎は文章を綴り始めた。
黒崎の足元にて、床に散らばるおつまみのゴミや空になったハイボール缶達。その酒缶の量たるや、常人なら既にへべれけ状態であろう数だったが、ペンを握る手は真っすぐで一切震えがなかった。
殺し合い中──。
──自分が死するその時だというのに、文字は歪むことなく。
慎重居士かつテキパキと。
数分後、黒崎は財布を文鎮代わりに、完成した『遺書』を畳んでベンチ隅に置く。
これを読んでくれた方へ。
もし、貴方様がバトル・ロワイヤルに怯え、不安で恐怖で潰されそうな思いなのだったら、利根川幸雄という参加者に頼ってください。
主催者のトネガワとハンを押したかのような男が渋谷にいますが、その瓜二つな彼に助けを求めるのです。
こちらが、『本物』の利根川さんなのですから。
信用できない気持ちは重々承知ですが、これも貴方様の為。──そして、利根川さんの為にも。
この遺書を信じて進んでみてください。
そして、もしこれを読んだ貴方が殺し合いに乗っているのだとするなら。
──勝手にすればいいんじゃないですか。私から伝えたいことはありません。
長々と失礼しました。
『プランA』が成功し、そしてこの醜悪な殺し合いが破綻で終わることを、私は天から見守っています。
…いや、『地』の底から見上げて願っています。
一参加者として以上を記す。 黒崎 義裕
「…………………。…遺書なんて初めてだったが…良く書けたな………っ。我ながら…! …はははっ」
一般論として、普通遺書を書くまでに至った者は、絶望…そして破滅しきった真っ青な顔をするものだが、黒崎は喜怒哀楽の『楽』が張り付いた表情。
一切とて心の動揺見られぬ様体で、そいつを無事書き上げた。
この落ち着きぶりも、長年帝愛に勤め続け、遂にはNo.2候補に登り詰めた彼にしか為せぬ技巧であろう。
続け様、余ったもう一枚の紙にも筆を走らせる。
罫線並ぶその紙に書かれた内容は、律儀にも弊社への退職届だった。
迅速かつ迷いなく文字を連ね、乾燥機が『ピーピー』と終わりを告げた折に書き終える。
「……おっ! もう乾いたか」
文書を丁寧に折りたたみ、封筒に入れるとそいつを片手に黒崎は腰を上げた。
向かう先は無論乾燥機。
バスローブを脱いでスーツに袖を通すと、乾燥機の温かさが鳥肌を包んでくれる。
封筒を懐にしまい、一瞬腕時計を確認した黒崎は「もう君は不要だよ」と言うように、バスローブをゴミ箱へ投げ捨てた。
宙を舞い、ヒラヒラと放物線を描いてシュートされる白上着。
綺麗に中へと捨てられたバスローブだったが、ゴミ箱は既にパンパンの状態でいる。
そのゴミの内訳としては大半──というか全てが黒崎の私物だ。厳密に言えばバカでかいデイバッグに支給品の数々。
捨てるのは勿体ない、と思ってしまうところだが、支給品はサイコロ三つにパチンコ玉に紙パックジュース(一日分の野菜)…と、何の役にも立たない物ばかりなので仕方ないだろう。
よって、黒崎は武器であるロケットランチャーと弾薬以外、今は何も持っていない状態だ。
「…。……ははっ。これももう必要ないな………っ!」
最大までに身軽となった黒崎は、最後にブランド物の腕時計を外し投げ捨てる。
ドサッ──とゴミにまみれる腕時計。電池は抜いていないので、不要と判断された今でも針は時計盤を周回し続けた。
「…今まで、共に…。感謝するよ。……わしの、時計…」
廻る時代。
そして、巡る回想。
「………………」
自動ドアが開く所まで足を進めた黒崎は、ふと立ち止まる。
────思えばこれまでの人生、ずっとずっと働き続け、邁進に身を捧げたものだった。
バブルの始まりが漂う時代に、黒スーツを着て望んだ帝愛の面接…。
無事面接が終わり、退室しようとした矢先「…それではあちらにお進みください……!」と促され、暗い部屋にポツンとあったサングラスをかけたら、『Congratulations…! Congratulations…!』と……。────合格通知…。
黒服デビュー以降、振り返れば弓矢の如く早い人生だった…。
拘束時間は漆黒に長く、残業の毎日だったというのに、若かりしあの日々は一瞬に感じる。気がついたら幹部候補に推薦され、気がついたら誰よりも権力者になっていた…。
同期は皆辞めたか、自分よりも下の役職で、上へ上へとトントン拍子に登っていく…。
別れと出会いをたくさん繰り返し、新元号『平成』を迎えて暫く経っても、会社を辞めず上昇し続け…。
そして、天皇退位が報道された現在──平成末期には帝愛次期会長候補にまでいる……。
「…はは、ははは………」
乾いた笑いが思わず漏れ出た。
これまでの長きに渡る人生、それに終止符を打つ場がこの渋谷なのだと、──黒崎は何を考えたか。
『自分のような悪役が生還など似合わない』と、律儀に遺書と退職届を書き、身辺整理を終えた黒崎は────何を思いに人を殺めるのだろうか。
「………悔いは、もうないさ。……さて、始めるとするかっ………!」
中年重役は、【マーダー】としての使命を全うする為、薄暗い町中へ歩を進めるのだった。
「…あっ!」
「そうだ、スマホスマホ〜っと。ちょっと嗜んでから事を起こすとしよう。…わしの趣味……、『裏アカ探し』を…………っ!!」
「………どれどれー。……ふーん……」
「…………」
「クク…クククッ、はははっ!! 人前じゃあんなに真面目ぶっても………。やっぱり裏アカじゃ年相応のツイートをするんだなっ………!! ──三嶋のお嬢さんは……!! はははは……!!」
「……はははは………」
「────よし。続きは後で、で…」
ブロロ、ブロロ…
ブオオオォォォォン────。荒い運転の車が目の前を通り過ぎていく。
一瞬ではあるものの同乗者の数を確認ができた。──ロン毛の運転手と男子学生、女子学生の、三名。
「さて、今度はちゃんと当たるかな…?」
ボウリング玉のような大きい弾薬をロケットランチャーにリロードし、肩に担ぐと、ホッと黒崎は一息。
もう、何のためらいも必要はない。
標準を暴走車に向けると、ゲーム開始宣言代わりの一言を吐き、簡単に引き金を引いた。
「…言っとくが………。『192』さっ……! ──わしのボウリング…ベストスコアは…………っ!」
ボンッ、シュウゥゥゥン…───────。
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.01:59】
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】グレネードランチャー
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝を目指す。
2:その一方で、利根川幸雄と三嶋瞳には不殺でゲーム終了達成を願う。
3:車に向かってランチャーをぶち込む。
4:会長を保護したい。
5:わしはどうせ、死ぬのだろう………。
最終更新:2025年02月18日 20:39