『支給品:『アシストフィギュア』について』



[登場人物]  肉蝮兵藤和尊







【特殊支給品紹介】
────『アシストフィギュア』


格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するアイテムを模した品。

電気ポット程の大きさを誇るフィギュアで、楕円状のカプセルケースに内蔵されている。
“共闘してほしい”──という強い意志と共にこのフィギュアを天高く掲げると、カプセルが砕け『実体化』。
頼もしい味方が召喚され、損得も信頼も関係なく、戦闘に協力してくれるという、そういった代物だ。

アシストフィギュアの中身は実にランダム。
主催者曰く、『誰が出てくるかはお楽しみに』とのこと。
参加者達の知人から無作為に選んだ人物《のクローン》が登場する為、フィギュアファイターがとんでもない化物や格闘家だったり、はたまた全くの無役な一般人等が出てくる可能性があったりと。
召喚が吉と出るか凶となるかは運次第。

フィギュアファイターは前述の通り、基本召喚者に忠実な働きぶりをするよう作られている。
ただ、一定時間を過ぎるか、または致命傷を負った場合、光と共に跡形もなく消えていくという特徴もある。
──一定時間とは基本約一分程であるのだが、これまた主催者曰く『例外もある』とのことだ。



身体的能力、ハンデ等全く考慮されず、適当に選ばれた一部の参加者に支給されし──このアシストフィギュア。
今後、各々の戦闘活動に於いて、フィギュアファイターの力が、ただの焼け石に水となるか。
それとも渋谷全体を大きく流し倒す大洪水となるか。

いわゆる『サブ参加者』達の行動に目が離せない現状である。



 ここで、アシストフィギュアの使用例について、場面転換することとしよう。

 バトル・ロワイヤル下にて観測上、初めてその使用が確認されたのはゲーム開始から三時間が経過した折。
──時刻04:12:23秒の事。
──場所は渋谷東●ホテルの十階、廊下にて。


支給者No.06『丑嶋馨』の所持していたアシストフィギュアがその芽を開花させた────。





「あぁ〜〜んっ!! イカせちゃうのはァ〜〜〜〜♪──」

「──馬並みの俺ェエ〜〜ッ!!! …ぎゃはははははははッ!!!──」



「──んじゃ達者でなァアアアッ!! オ●ニー尿道プレイ大好きなウシジマァアアアアアアアアア!!!!!!!」



 時刻はAM.03:56:19秒。
 真っ暗な町工場にて、ボッ──と小さな明るさが灯った。焼却炉からヘソのゴマを燃やしたかのような悪臭が漂う。


まさしく【血と金と暴力に飢えた外道】【座右の銘は強盗、殺人、SEX!!】との凶人・肉蝮は、手際よく『ブロック肉達』を焼却炉へ投げ込んでいく。
肉蝮の片手に握られるは、所々刃毀れが見られるドス黒い鉈。
鉈に血染み塗りたくったそのブロック肉は、これまでの人生を酷く冒涜するかのように、黙々と燃え滾っていた。


──ブロック肉はかつて、肉蝮にとって大切な『遊び道具』の一種であった。
──ただどんなオモチャでも思い入れが無い限り、いつかは壊れるか、飽きられ廃棄される運命。
──例にも漏れず、この『オモチャ』もわんぱく心旺盛な肉蝮は“もう使い飽きたから”という思いで。丁寧に解体された上で廃棄処分されていった。


大人になっても童心は忘れぬ、肉蝮は悪臭と共に燃え上がる火を見てこう呟く。


「……くっさ!!!──」

「──…人がせっかく子供ン頃のキャンプファイヤー思い出して浸ってた…つーのに。水差してんじゃねェぞテメェ?!! 普段何食ったらここまで臭くなンだよ?!──」

「──永沢君を見習えよなァッ?! アイツなんか家燃やされても香ばしいオニオンの匂いしかしねーつうンだからッ!!! おい!!──」


「──プッ!!! ぎゃはははははハハハハハハハはははははははハハハッ!!!! 我ながら傑作!! あーはっはっハッハッハッハッハッはははは!!!!!!!!!」



轟々と嫌な煙が昇る中。
静寂な工場にて、イカれ狂った馬鹿笑いが響き渡っていった。
純粋な少年のような目で、そのメラメラとした炎を眺める悪魔──肉蝮。
壊れてしまった肉オモチャを前にして、態度では歓喜を表す肉蝮もどこか寂し気な様子が伺えたのだが、──心配はない。

主催者がかなりの期待を込めて参加させた彼には、まだまだこれからも、沢山の『オモチャ候補』が待っている。
ゲーム強制終了までのリミットはまだ四十時間近く残す今、肉蝮が退屈する事など随分と先の話になる訳で。
今はまだ会わずとも、彼を楽しませる仲間達は十分に存在するのだ。


それに、肉オモチャが燃え切ろうとも、彼のディバッグには文字通りの玩具が一つある。



「……………つーかよォ………──」




「──トネガワの野郎、スマブラが好きなんか…………?」



最後のブロック肉を投げ捨てると同時に、肉蝮は『アシストフィギュア』を持ち上げ一言。
丑嶋から奪った支給品を眺めながら、その使用用途に「?」で一杯の肉蝮であった。





 AM.04:11:14。

 下劣な思考回路の肉蝮の事である。
恐らく、“ヤるといえばホテル”との考えで、彼は近くにあった東●ホテルへと足を踏み入れた。
一階から七階まで、解体中かのようにズタズタとされた内部の惨状には、彼も気になった様子だが特に深堀りはせず。
女の居そうな空間を求めて、彼は現在十階廊下を練り歩く。


「あの人の〜パパになるために〜〜♪ ふんふふふんふ〜〜ん♪ ホテルに来たの〜〜♪──」




「────………あァ?」



ただ、いくら独自の嗅覚を駆使しようとも、そう都合良く被害者女性が現れることなく。
ふと立ち止まった肉蝮が睨む先────、そこにはヨロヨロと老人が一人彷徨っていた。


「…………ジジイ…かぁ〜………。つまんねェー……」


 白髪頭に髭を蓄え、こちらに気付いてるのか否か、クキキキ…と一人で笑うその老人。
気品高い身なりはそこそこの銭を期待《強盗殺人》出来そうではあったが、一方で杖を付きながらも蹌踉めく足取りは、如何にも柔弱そうであった。
コツ、コツ、コツ、コツ………。
映画のシャイニングまんま生き写しかの如し静かで綺麗な廊下にて、杖を付く音のみが鳴る。


「うーーん。…じゃ、とりまコイツでいっか!!」


肉蝮は老人を見てそう呟いた。

彼は別に老人へ特別興味が湧いた訳でもない。
ハッキリとした殺意も無ければ、本当に素通りしてもいい存在であった。

──ならば、どうでもいい奴にはどうでもいい物をぶつけろ────と。

デイバッグからアシストフィギュアを取り出し、取説通り高々と掲げて見せる。


圧倒的戦闘力があり、殺害経験も豊富に持つ肉蝮にとって、全くの不要であるアシストフィギュア。
本来なら武器も握れぬ弱者救済の為の支給品である故、肉蝮には持っていても仕方ない物と言えよう。
彼もその事には重々理解をしていた為、このどうでもいい場面でアシストフィギュアの無駄遣いを結構。

実験感覚──
────というより、アリに妙な薬品をかけて楽しむ感覚で。


「出てこいッ!! ゴラァアッ!!!!!」


肉蝮は、フィギュアファイターNo.03を呼び起こした──。





 ポンッ─────



「よっ! …全く仕方ねェなァ。旦那と俺はボンナカ《友人》みてェなモンだしよ」



「………あァ?!!」




【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 召喚確認】
【概要】
→二代目猪背組理事長の極道。
 やや肥満体で顔に二箇所の刀傷が特徴的。




「あいつ撃てばいンだろ? ったく…こんなチンケな仕事させやがって。…もうこれっきりだからなァ??」

「ンだァ…?! テ、テメェ……マジで出てきやがったし……! どうなってンだこりゃッ?!!」


 肉蝮が目を丸くしたのも無理はない。
冗談半分で何となく出してみたら、本当にゲーム《スマブラ》通りに。
カプセルから巨漢の男が出現したのだから、これが夢なのか現実なのか判断に苦しむ程だった。

そんな主人を尻目に、熊倉は懐へゴソゴソと手を突っ込む。
フィギュアファイターは事前に己の『使命』を組み込まれたクローン達。
故に、「何故自分がここにいるのか」だとか「状況を整理したい」だなんて思考を働かせることは一切なく。


「とりあえずこれが終わったらさ、お礼としてよォ……、」

「は? は? はァ??」



「──新米700kg買ってくンない? 出所は言えねェーけど物は確かだ」




眼の前の老人へ向けて、銃口が正確に構えられた。




 パンッ────

  パンッ──、パンッ──、パンッ────

 パンッ────




「ぁあ?!!」



 リボルバーに込められた五発全てが、一直線に飛んでゆく。
扱い難い回転式銃とはいえ、狙撃者・熊倉は何十年も裏社会を牛耳ってきた熟練者。
老人の顔面を破壊すべく、正確なポイントで弾丸は走り抜ける。
老人と熊倉の距離は5メートルほど離れている。故に、弾丸の着弾時間は0.016秒ほど。
──無論、ほぼ奇襲で放たれた銃撃を、死期が近い老体が避けようものなどできる筈がなく。


彼の命は、虫のごとく簡単に散っていった。





ちなみに、フィギュアファイター『熊倉義道』の稼働時間は設定上、三分三十秒きっかり。
その間は、召喚者の命令がない限りはこの場に存在し続ける事となっている。
戦意静まり返り、僅かばかりだが戦場跡と化したこの廊下には、



──────断末魔をあげる暇もなく、ズタズタに消えゆく『熊倉』と、

────そして、気が付いた時には全身に妙な違和感が発した肉蝮と、



──肉蝮の後ろを、何食わぬ顔でヨロヨロ過ぎ去る老人の姿。




「ぁあッ?!!──…、」




肉蝮が振り返ろうとしたその瞬間、彼の全身に『杖による殴打』の痛みが走り切った。




 ──バシィイイッ

  ──バシィッ、バシィッ、バキバキバキバキッ、バンッッ──



「──ぎぃッ?!! ぎゃぁぁああぁぁああぁああぁああぁぁぁぁあぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」




 腹部、四股、頭部。
何箇所にも渡って響く痛みに、肉蝮とて転がり回ざるを得ない。
痛みに悶える最中、ふと患部を確認すれば、下腿前面の脛骨──弁慶の泣き所は青く腫れ上がり、頭からは軽い傷が生じていた。


“分かんねェ…ッ”

“意味分かんねェし……ッ”


“何が一体起きたんだッ………?!”


地面に投げ捨てられた水生昆虫のようにジタバタ暴れ狂う肉蝮には、この現状が到底解せなかった。



コツ、コツ、コツ………。


またもや杖の音のみが小さく響く中、半狂乱の身とはいえ、肉蝮も唯一分かっていたことがある。
恐らく、──理解も常識も超えている事だが、恐らく。


「…最初から……生まれた時から王だったら、どれほど良かったものか……………っ」

「…ぁああ……ッ?!!」


「初めて銃を握った時……ワシはまだ十五の若造じゃった。血肉貪り、貶め合い、そして米兵を絶命に至らせる…………あの頃は殺し合いの大戦下………………っ。…まだ若かりし……兵士だった頃のワシは、実に醜く…愚かじゃった」

「ジ、ジジィ……ィ………ッ!! がぁあッ……。テ、テメェ…………」


「……まぁその『体験』のおかげで、こうして貴様を返り討ちにできたのじゃがなっ…………? …衰えたものだとばかり思っておったが、案外身体はまだ覚えているものだわい」

「……テメェ……い、一体……………」



「──…………あの幾千の、戦いの記憶がっ……!! カカカ!」




「…………『何をしやがった』…ッ?! …テメェッ……………」



──刹那ほどの猶予もない弾丸の雨を全てはたき落とし、
──目にも止まらぬ圧倒的スピードで、熊倉を再起不能に倒して、
──肉蝮を全身何発も叩き殴った。

────これら全てを杖一本で。しかも0.016秒以下で。



──恐らく老人は熟してみせたのだろうと。────



“こいつは一体、何者なんだ…………ッ?!”



全身の悲鳴が癒えるのを待つ中、肉蝮はもう思考崩壊寸前で唾液を漏らし続ける。




《老兵は死なず》
────制裁の乱れ打ち【武士道】。


「ききき……。負ける訳にはいかん……いかんわけなのだっ…王は………………っ!!」





エレベーターに乗り込む老人──兵藤和尊会長。
彼の手にもまた、未開封の『アシストフィギュア』が息を潜めていた。



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 消滅】



【1日目/F6/東●ホテル/10F/AM.04:25】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】アシストフィギュア、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】全身打撲
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:不可解の集合体である現状《殺し合い下》に頭が悩む。
2:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
3:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。


前回 キャラ 次回
063:『Pulp Fiction<三文小説・第一集>(1) 065:『焔のはにかみや
062:『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)/(爻ノ篇) 兵藤
045:『バトロワ最強は超魂撃(ウルトラ・ソウル)ッ!! 肉蝮
最終更新:2025年08月05日 22:48