『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』
………
……
…
満月。
──それは夜空唯一の単眼。
深海の如く淀む真っ暗闇が見せた、刮目。
刮目、刮目、刮目……。身震いを催す光。
まんまるな眼球に一点集中で睨まれた、あの夜。あの山中にて。
あたしは、一人の悪魔と目が合うのでした………────。
◆
…よくよく思い返してみたら、魔界の周りにはあたしみたいな二頭身を全く見かけなくて〜…。
──…もしや、あたしはそもそも悪魔ですらないのではっ?
──悪魔学校時代のクラスメイトは全員、あたしのことを動物実験で入学した天才チンパンジーを見る目で接してたのでは………っ??
……自分を懐疑的に見ちゃう、そんな悲観的さで涙ぐっしょぐしょな今日この頃です……。
こんちゃす、あたしメムメム。一応悪魔をやらせてもらってるっす。
いやぁ〜、あたしね?
日頃から、バビョの奴とかレース先輩とか…悪魔だの人間だのと種族関係なく、色んな人からクズ扱いされて困ってるんですがね〜……。
…この際だからはっきり言いますよ!!
そうです! ごもっともっすよ!!
あたしはクズです!!
人間性はめちゃくちゃ劣悪っすよ!!! まさに小悪魔って感じすわ!!
性格カスですがそれがなにか? …もう開き直っちゃってるくらいの極カスがこのあたしですっ!!!
…え?
“クズな性格を直そうとは思わないの?”──って??
……ふんだっ。
あたしだって別に、好きでカッスい性格を送ってるわけじゃないんすよ。
最初期の頃こそは、それこそ純粋な心の持ち主で…、ついてくのも大変な仕事を一生懸命努力し、輝き頑張っていたんすからね。
……でもね。
…もう……ね。
ここまで自分が『魂略奪』をできないとなるんなら…………。……もう不貞腐れて開き直るしかないじゃん………、ってのが結論っすわ~~……。
────そんなあたしが一人目に選んだ、『悪魔代行』の参加者。
ブロロロロロ……
「……」
バン、バンッ…
「………をぉぉ……、さぃぃ……………………っ」
「…んっ……?」
──渋谷山の峠で。
──風で吹き飛ばされそうになる中、窓ガラスにへばり付くあたしを、…何十分も運転してやっと気付いたソイツ……。
バンッ、バンッ
「びょおおぁぁ゙ああぁぁああぁぁぁあああっ!!!! 開けてくださいぃいぃぃぃいいいぃぃ〜〜!!!! とゆーか停まってくだざい゙ぃいいぃい〜〜〜っ!!!! お願いじまぁあ゙ぁぁあずぅ〜〜〜〜っ!!!!!!」
「う、うわっ!!?」
キキィ────────────────ッッ
──車をガードレールにアタックした、『さえもん三四郎』だなんてふざけた名前のソイツは、
────カス程にも役に立たない参加者でした……。
──バンッ…
「んびゃっ!!!」
…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)
◆
……
…
ブロロロ……
──ポチッ!!
♫Spotifyにて、西野カナの『トリセツ』から→米津玄師の『lemon』にチェンジ♪
「は……っ?」
(前奏略)
『♫夢だったら、どれだけ〜〜良かったでしょう〜……』
「……………」
『♬未だにアナタ〜の〜、ことを〜、夢で見る〜〜〜……』
「────うぇ…っ♡」
「……………」
「………」
しーん………
「…今のでムラっときたりしてないすか?」
「え?? …どこで?」
「…ど、どこで…って。……あたしの歌声でですよ」
「別に…だけども…………? というか普通歌わないだろ、『うぇっ』のとこ………。しかもそこだけを…………」
「………………。………………はぁ──」
「──……あたし…えろいことで誘惑して魂を奪うのが仕事なんす………。でも、あたし自身おっぱいとかえろいことが苦手で………。だから〜、…全然魂ゲットできなくてぇ…………」
「……急に何の話を……………?? 一体君はなんなんだ──…、」
「──って!!! い、いや待てよっ………!? とどのつまり君は今、淫靡な(つもりの)歌声で僕の魂を…狩ろう《殺そう》としたのか…………っ?!!」
「あーもういいすよ? その話は。できないで片付いた事なんすから、もう」
「いや良いわけあるかっ!! 殺意を向けてきたんだな……!? 君は僕に…!!??」
「……うるさいですね………。何でもいいから前向いて運転してくださいよ。これでまた事故ったんならアンタ人としてやべーすから」
「起きる事故全て君が起因だろ………っ!!」
…はぁ〜。
↑この様に、三四郎というヤローは一言一句ツッコんできたりと、まるでバヒョみたいな男だったんでぇ〜。
…ワンチャン誘惑できるかなぁ〜? と試してみたんすが……。……ビギナーにはあたしの美惑が難しいようですね。…はぁーあ。
助手席下の駄菓子を開くこと、四袋目。
あたしは今、この三四郎運転の元、のんびりと商談しているって現状っす。
…あんむ。ム〜シャムシャ……。うん、美味しい〜…! 幸せ〜〜!
ゴクリ。
……んで、その『商談』の内容ってゆーのがですね。
まぁこの三四郎というヤロー……、サングラスに黒スーツと「ブルースブラザーズかっ!!」てツッコみたくなるくらい馬鹿な服装してて、…まぁその見た目通りバカそうだったんすが。
そんなあたしと多分同じ無能であろう三四郎にしか、頼めない──。
──…とゆーよりも、こんなヤツをアテにしなくちゃならない。
…こんなバカでもできる仕事ってゆーのがありましてね。
それをこれからコイツに話すって感じっす。
………にしてもこのサングラスのび太ヤロー。
いつまでこの山ん中走るつもりなんですかね〜……。ドラえもんの裏山みたいなココをさっきからぐ~るぐるすよ。コイツ…。
ま、別にどうでもいいんすけどねぇ〜…。
「……これで分かりましたか。見ての通りすよ三四郎。あたしはこんなカス一人の魂すら奪えない。チョー非力悪魔なんっす…」
「見た目に反して毒吐きが酷いな……。まるで利根川先生の如し……もう毒蛇だよ………っ。──」
「──…。(というか僕の事…三四郎呼び………)」
「という訳で三四郎!! お前には一つ、あたしから頼みがあるんです!!! どうか聞いてくださいぃっ〜!!!」
「………え? た、頼み………? う、うーん………。──」
「────…まさかじゃないが……っ、僕にやれと言うんじゃないよな………っ?! 魂集めとやらの……『人殺し』を…………っ!!??」
「何がまさかなんすか?」
……むむむっ、って思いましたよ。
三四郎のやつ、意外にも結構頭が回るようなんすから。
やっと「あたしより駄目なやつと出会った〜!!」って心の底でウキウキだったってゆーのに。
…やっぱりあたしが見下せる対象ってこの世にはいないんすかねぇ〜……。
「…ぐっ……………、はぁ…………。……まず、僕は男だ。…どう誘惑すればいいと言うんだよ。この僕に………っ」
「あ、あぁ〜。いや別に淫魔的誘惑とかもうアウトオブ眼中っすわ! 三四郎には刺すなり轢き飛ばすなり絞めるなり、自由なやり方で魂奪ってほしいんす」
「……君ねぇ…………」
「いやもうあたしだって形振り構ってらんねーすわ!! …あ、ほら!! このピストルで運転中、窓からバーンバーンってのもいいすよ!! グラ●フみたいに!!!」
そう言ってあたしが握ったのは、助手席に置いてあったコイツの支給武器──『ヘルペスの銃』ってタグが貼ってあるピストルっす。
…え、待って。
…ヘルペス………?
ヘルペスって、あの口周りに水膨れができる…人間特有の、あの病気の………………??
…………。
…コイツに触るのは控えたほうが身のためかもっすね。…感染対策ですわ。
「…言っておくが僕は違う……っ!! その銃が、ヘルペス銃って名前なだけだ………!!」
「…………あたし何も言ってないのに察し良すぎません?」
「顔に思いっきり出てるんだよ…君は………。バイキン見る目を向けるな……僕にっ…………!!」
「…人の顔をあんまりジロジロ見ると嫌われるっすよ〜? 三四郎〜〜」
「………勝手にほざけばいいさっ…。──」
「──ぐっ………。うっ………。何故よりにもよって、引き合う…………っ。今、こんな時に………………っ。僕はこんな性格の子と…………っ」
「は? …え、なんすか」
キキッ────
アホの三四郎は…バカなりに思い詰めたのかなんなのか。
唐突にブレーキペダルを踏んで走行停止。…頭を抱えながらハンドルに向かって顔をうずめてきました。
…いやリアルになんなんすか? こいつ。
全くあたしにはワケワカメだったすよ。もしゃもしゃ、コリコリ……(あっ、この茎ワカメって菓子おいし!!)
目をギュ~っと閉じて、アホみたいに自分の髪を鷲掴む三四郎のヤツ。
気付けばソイツは壊れたラジオのよーにブツブツブツブツ…独り言を唱えてたんす。
この時、あたしはヤツの突飛な行動にドン引きしつつも、「あれ?? もしかして時間差であたしの淫歌声に効いてきた……!?」とか軽くウキウキだったんすが~。
「…インポッシブル…インポッシブル、インポッシブル………っ。自分にはできない……そう分かっていても、なお覚悟を決めるか思い悩む……………っ」
「え……? イ●ポ………? …ひぃ、なんすかその急な卑猥ワード!?」
「……………一線を越えるか…否か………っ。……決断をやっと心に焼き付ける…その時まで………ずっと一人でいたかった。……一人で悩みたかったというのに……………。そんな僕を茶化すように……運命はなぜこんな軽薄な子と引き合わせたんだ………………っ」
「あーもしもし〜、三四郎? 聞こえてるすか……?」
「ぐっ……………………!──」
だけどもね。
三四郎のボソボソ独り言をよ〜く聞いた時。
──奴の口から、魂よりも貴重な内容が飛び出ていることに、気付かされましたわ……。
「──僕がっ………、会長を『殺そうか』…悩み苦しんでいるって……………そんな時にっ………………!」
「え…?!」
…というか、コイツの発言が予想外過ぎて、あたしの方から魂が出かかったすわ。ほんと。
聞きましたか?!
三四郎のヤツ、グダグダ理由つけて魂狩りを断ってくんだろなぁ〜と思ってたら……、…いたんすよ!!
──奴にも、どうしても殺したい参加者の一人が!!!
──つまりを魂を手に入れる目処が!! あたしの目の前に!!!
────今ここにっす!!!
「…さ、三四郎……! お前………」
「………ぐぅっ…」
…ま、人間どんなアホな奴でも、一人くらいは心から憎んでる存在ってのいますからね。
いや、むしろ三四郎みたいな無能なら、辛く当たってくる人間は身近にたくさんいるわけっすから。
その会長(?)ってゆーのにどんな仕打ちされたかは知らないですが、殺意が湧くのも仕方ないことでしょう。
……ふふ……っ!!
…気持ちはまぁ分かりますよ、三四郎。
…かく言うあたしも、同類《無能》すからね……………!
「……ぐぐぐっ……………………」
さて、そう来るとなったら同類同士、助け合うというのが筋です!
あたしはポンッ、と縮こまる三四郎の肩に手を当て、
「………。…なんだい…………っ」
「………言えたじゃないすか! 三四郎!!」
「………………何がだ。君には関係のないこと──…、」
ズバリ一言!!
こちらに情けない顔を向けたコイツへ、
──悪魔のささやきを、耳元にて呟くのでした────…。
「じゃあチャンスじゃないすか…!」
「…え?」
「会長の魂を刈っちゃいましょう!! …あなたは一人じゃない。周りにはあたしがついてるすから…!! ねっ!! 魂回収はあたしに任せて、三四郎は思う存分恨みを晴らしてください!!! よろしゃっす!!!!」
「………………」
…『一言』ではなかったすね。て〜せ〜。
ま、そんなことはどーでもいいっす。
………今のうのうと生活し、チンタラ平穏に料理を食べ進める愚かな権力者、パワハラ上司共へ。
あたしは言いたいっすね。
いいですか?
バカを怒らせた時が一番怖いんすからね?
アンタらは日々何も考えず、あたしらサンドバッグ《無能達》に怒りのままにイヤな言葉をぶつけ続けてきやがりますが…。
丸々と肉ついた顔面のアンタらが偉そうにできるのも、『社会的立場』があってこその特権なんすよ……?
もし、あたしら無能がすべてを失い、社会的立場という雁字搦めから解き放たれた時……、果たしてアンタらはどうなるものか…………。
…ふふふ。…分からないことでしょう。
バカのしでかす恐ろしい惨状なんか………。
…ただ、分からないのなら、見せてやるまでっす……。
「ね!! 三四郎!!!」
「……………………っ」
後悔してももう遅い!!
目に焼き付け、そして満月のよーに目をかっ開いてくださいな!!
憎悪と逆襲の後、まるで虹のように晴れやかな気持ちになる────そんなスカッと劇《復讐の魂狩-レクイエム》。
あたしと三四郎の二人三脚で、そいつの御手本を見せさせてやりますよ……!!
今っ…──。
ここで────……。
「…いや黙っててくれ。だから、君には関係ないことだよ…………っ」
………。
「…………………えーそう来ちゃいます……?」
「…とりあえず君は……預けるから…………、誰か優しそうな保護者のもとに……っ。それまで黙って乗っててくれないか」
「……………マジでそう来ちゃいますか………」
「子供には関係のない話だよ……………っ」
「…………」
…はいはい、我関せずっすか。
ドライな奴っすね、三四郎は………。
……全く。本当に役に立たない奴ですよ、こいつは……。
────というわけで、あたしは次なる『悪魔代行』の参加者目掛けてひとっ飛び。
「えっ……!? と、飛んだ………?──」
「──いや、待ってくれ!! …待つんだ、メムメム………っ!!」
「はいはいどーせあたしは子供ですよ。子供に見えるんでしょ子供にっ!! ありゃーした〜〜…」
──車が停まっていた場所にて、真横にはちょうど光灯る休憩所。公衆トイレと自販機があり。
──ペンキの剥がれかかったベンチにて、まるであたしを待っていたかのよーにポツンと一人。
ふわ、ふわ〜
「…モグモグ。…げぇ〜。このハッカって飴はあたし好みじゃないすね………。ブタのエサっす」
ペッ
「危ないぞ……っ! こら、メムメム……!!!──」
「──…ん? ………あっ…!」
──第二の『悪魔代行』参加者。
──…なんたらサヤという、……ベンチに座る女子。
──そいつは、淫魔にうってつけで、なおかつあたしが接しても全く平気なくらい色気0だったっす。
────名前忘れたんで、以下、呼称『ぺったん子ヨーヨー』を、この時スカウトするのでした……。
…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)
◆
……
…
「…だからヤだって。メムちゃん」
「……え、えぇ………。──」
「──そ、そりゃお前はおっぱい無いから色々出来損ないではありますよ〜…? で、でも心配なく!! お前にはあるじゃないすか!! その露出された脚が…!! 太ももこそ最大のえろだって、魔界の──…、」
「ところで佐衛門さんー、悪いけどもう少し待ってくれるかな…? アタシの連れが今トイレでさ……。お願い!! もうちょっとだけだから!!」
「…ふふっ。何も急いでなんかいないさサヤさん………! それにしても、圧倒的災難だったね……。この山の中、一人でその人を背負ってたんだろう……?」
「うん…。ほんっとしんどかったし!! もう身体中ベットベトでさぁ〜。熱中症寸前だったよ〜〜! アイツ、本当に最低!!」
「オアシス……! ここを見つけた時は砂漠の中の湖だったろうね………!!」
「あーね。あはは〜っ」
「……………。──」
……あたしの存在ガンスルーで、やたら仲良し気に接するペッタンコと三四郎の二人…。
ねえ。
この会話、何が楽しいんすか。
「──うぇっ…♡」
「…ん? どしたー? メムちゃん」 「…またlemonの変なトコか………っ」
「…いや、ワンチャン三四郎の魂これで誘惑できるかな〜って。それだけっす」
「………会話に入れないことを逆恨みして、僕を殺しにかかったな…………っ!」
「てかもう淫魔やめたら? アンタ向いてないと思うよ」
「…くそっ……。くそぉお…、ちくしょぉおおおおぉおおおっ!!!!!」
「……」 「………あ、それで佐衛門さんさぁ〜…」
その白いエプロンは真っ平らな胸を隠す為の物なんでしょうか…。
でっかい髪ピンでセンター分けにして、バカみたいなミニスカートを履く、ヨーヨー片手の嫌な女。
そのスカートの丈ゆえに、バヒョなら絶対鼻息を荒くするようなえろい脚で…、
そしてそのバカみたいなスカート同様の頭のレベルでしたよ、こやつは…。
はい、ハズレくじの連チャンっす。
このぺったん子ヨーヨーも、三四郎同様何にもあたしの役に立たないバカでした。
……はぁ……。
…今思えば、ラムネをグビグビ飲んでる最中を、あたしが急に話しかけたのが原因だったんでしょうか。
ワッ、と水を噴き出した後の、ヨーヨーガールの顔はものすごい変な顔で………、──多分第一印象から「なにこいつ…」って思われたかもしれないす。
んで、その後あたしの魂狩り説明を始めたら、…もう言葉を重ねる度に、どんどんどんどんコイツは嫌な顔をしていって…………。
「…え〜っ?! それ絶対ほたるちゃんじゃん!! どこで?! どこで見たの!!!?」
「なんだ知り合いなのか…………。そこの、海沿いで話したっきりさ。…彼女の方から急に飛び出していってね……」
「わー…、ほたるちゃんらしいアクティブさ〜……。んじゃさ、後でほたるちゃん探しも…いいかな?」
「はははっ………! 君は枝垂さん、僕は…会長。さしずめ僕らは探し人同盟だね………っ」
…気付けばこの有望な淫魔候補《ヨーヨーガール》は、あたしの後を追ってきたジョン・ベルーシ😎野郎ばかりと打ち解け合い。
あたしよりも、こいつに懐ききってるわけって感じっすわ……。
なんすか…。
シダレホタルって…。
火垂るの墓の話…っすか………?
…もうっ、お前らを墓にしてやろうかってんだちくしょおこのおおおぉぉっ!!!!! あの映画も清太が普通にクズっすよね!!! もうおおおおおおおっ!!!!!
興味ないわ!! アンタらのイチャイチャお話シーンとか!!!!
人の苦労も知らずに……こんちくしょおおおおおおおおおおおっっ!!!!
「……はぁ………」
「…にしても遅いなぁ〜おじいちゃん。何してんのさ〜…」
「おじいちゃん………っ?」
「うん、アタシの連れ。…もう三十分近くだよ。…トイレで格闘しすぎじゃんっての!!」
「………おじいちゃんか。……──」
「──って…、あっ!」
ふわふわ〜
「………………」
「…メムメム……、どこに行くつもりだ……っ?! 危ないからサヤさんに引っ付いててくれなきゃ………っ」
…はぁ。
「……老人って便器冷たいだけですぐ心筋梗塞になるんすよね?」
「…なっ!? き…君……殺す気かっ……!? サヤさんの連れをっ………?!」
「あたしはね〜…もうスケジュールが分刻みなんすわっ! お前ら人間のくだらない会話聞く暇あったら魂っすよ!! タ・マ…シ✡イ!! そんだけです」
「……なにそれ。はいはい、言われてみれば確かに心配だしね。ちゃんとおじいちゃん死んでないか見てきてね〜メムちゃん」
「うしゃーす」
「おいおいサヤさん……っ。何故行かせるんだ………っ。あの子なら本気でやりかねないよ……、普通じゃないんだメムメムは………」
「え、大丈夫だと思うよ。…虫も殺せないじゃんメムちゃんは。ほら、まさに…」
「…え?」
…はぁ。
ほんとにバカデカため息っすわ。はぁ…………。
そりゃ、魂狩り《殺人》に加担しない人ってのは、…ほんとに褒められた存在で。
世間一般じゃ良い人になるんだろうけどさ〜…。
………なんで、こういういらない時に限ってそんな『優しい人』ばっかりに出会うんすかね、あたしは……。
…普段あたしが絶望してる最中なんか、誰一人とて優しくしてくれないっていうのに…………。
「メムちゃんの周り、すごい蚊たかってるでしょ?」
ぷーんぷん…
ぷーん、ぷーん…
「『虫も殺せない』とはこのことか………っ。はは…!」
「ぐぅっ〜〜〜〜……!!──」
世の中って、なんでこうもあたしに不都合に回るんだろ…。
地球の自転どういう回りっぷりしてんすか。ほんと…………。
「──うっさいわムシケラ!!! …あ……、ひっひぃい〜!! さ、刺さないでよぉおお!!! しっ、しっ、おねしゃす〜〜〜っ!!!」
「あはは!」
…ま、こーしてあたしがフワフワ吸い込まれた先は、便所近く。
入口からアンモニア臭の渦中へと潜り込むに連れ、あたしの周りでは蚊に加えて蝿というムシケラの二重奏が展開……。…あたしはどうやら変な生き物にばかり好かれる性質のようっす。
電灯がバチバチッ…と切れかかる、辛うじて明るい公衆トイレ内。
一応、日頃掃除はされてるのかキレイっちゃキレイでしたが、汚物感を隠しきれないその男子トイレにて。
「…くくくっ………!! ききき…………!!」
「…あっ!! コイツか……。ヨーヨー娘のジジイは…」
────最後の『悪魔代行』の参加者が一人。
…
……
………
「……ところで、サヤさん。……君の…、そのおじいちゃんって人の話なんだけどさ…………っ」
「あ。別にアタシのガチ祖父ってわけじゃないからね、一応。…あんなのがリアルにおじいちゃんだったら、多分今頃アタシ少年院だわ…」
「……。……──」
「──…もしかしてだが……………っ。その人の名前さ」
「ん?」
──そのジジイは、用なんか足してなく。
──手洗い場で何がしたいのか、ティッシュ箱からティッシュを取り出しペラペラ…→グシャリと。
──…かつて『ティッシュン』ってゆう、あたしには最高の使い魔(ティッシュ)がいたから、ジジィのわけのわからない行動は妙にムシャクシャした。
──ジジィは後に、『ティッシュ箱くじゲーム』をしたかったと。この耄碌じみた行動の意図を語る。
…
……
………
「その人の名前…『兵藤和尊』…とかじゃないのか…………っ?」
「……え? ………………あの、質問で質問返すようだけど…さ、佐衛門さん」
「………なんだい……」
「…その、佐衛門さんが探してる『会長』ってのも……。もしかして……」
「……愚問だね………──」
──ジジィの足元には杖が落ちてあった。
──あたしはひたすら「それに気付かず転べ〜」と念じていたこの時だけども。
…
……
………
「──……兵藤会長。僕が殺す……唯一の参加者だっ……………!」
「えっ…!?」
──このジジィこそ、
────『兵藤和尊』様こそが、あたしの追い求めていた本物の悪魔だった────。
「……還るか…? 海…深海に漂う…藻屑…泥や砂…澱みに…!!」
「は…? 何の話すか? とりあえずお前、そこの杖で転んでみて──…、」
カチャリッ
「…え?」
──そんな圧倒的悪魔に向かって、銃口が向けられたのでした………。
…………
………
(じじょーせつめ…──…、
◆
「あぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜っ?! なんじゃ貴様はっ………!!」
「…ひっ!! め、めむめむ〜〜〜…」
「…………………っ」
「……犬っころめがっ……! 噛みよるというのか…?! 主人に向かって…黒服如きの分際で…………!!! あぁっ〜?!」
「…………………お迎えに上がりましたよ…っ。──」
「──会長…………っ!!」
…事情説明挟む間もなく、矢継ぎ早矢継ぎ早の展開っすよこりゃまた!!
◆
最終更新:2025年06月03日 13:49