『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』











………
……


 満月。
──それは夜空唯一の単眼。
深海の如く淀む真っ暗闇が見せた、刮目。
刮目、刮目、刮目……。身震いを催す光。

まんまるな眼球に一点集中で睨まれた、あの夜。あの山中にて。 


あたしは、一人の悪魔と目が合うのでした………────。






 …よくよく思い返してみたら、魔界の周りにはあたしみたいな二頭身を全く見かけなくて〜…。
──…もしや、あたしはそもそも悪魔ですらないのではっ?
──悪魔学校時代のクラスメイトは全員、あたしのことを動物実験で入学した天才チンパンジーを見る目で接してたのでは………っ??
……自分を懐疑的に見ちゃう、そんな悲観的さで涙ぐっしょぐしょな今日この頃です……。


 こんちゃす、あたしメムメム。一応悪魔をやらせてもらってるっす。

いやぁ〜、あたしね?
日頃から、バビョの奴とかレース先輩とか…悪魔だの人間だのと種族関係なく、色んな人からクズ扱いされて困ってるんですがね〜……。
…この際だからはっきり言いますよ!!
そうです! ごもっともっすよ!!
あたしはクズです!!
人間性はめちゃくちゃ劣悪っすよ!!! まさに小悪魔って感じすわ!!
性格カスですがそれがなにか? …もう開き直っちゃってるくらいの極カスがこのあたしですっ!!!

…え?
“クズな性格を直そうとは思わないの?”──って??
……ふんだっ。
あたしだって別に、好きでカッスい性格を送ってるわけじゃないんすよ。
最初期の頃こそは、それこそ純粋な心の持ち主で…、ついてくのも大変な仕事を一生懸命努力し、輝き頑張っていたんすからね。

……でもね。
…もう……ね。
ここまで自分が『魂略奪』をできないとなるんなら…………。……もう不貞腐れて開き直るしかないじゃん………、ってのが結論っすわ~~……。



 ────そんなあたしが一人目に選んだ、『悪魔代行』の参加者。



 ブロロロロロ……

「……」


 バン、バンッ…

「………をぉぉ……、さぃぃ……………………っ」

「…んっ……?」


 ──渋谷山の峠で。
 ──風で吹き飛ばされそうになる中、窓ガラスにへばり付くあたしを、…何十分も運転してやっと気付いたソイツ……。


 バンッ、バンッ


「びょおおぁぁ゙ああぁぁああぁぁぁあああっ!!!! 開けてくださいぃいぃぃぃいいいぃぃ〜〜!!!! とゆーか停まってくだざい゙ぃいいぃい〜〜〜っ!!!! お願いじまぁあ゙ぁぁあずぅ〜〜〜〜っ!!!!!!」

「う、うわっ!!?」



 キキィ────────────────ッッ



 ──車をガードレールにアタックした、『さえもん三四郎』だなんてふざけた名前のソイツは、
 ────カス程にも役に立たない参加者でした……。




  ──バンッ…


「んびゃっ!!!」



…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)

……



 ブロロロ……


 ──ポチッ!!
 ♫Spotifyにて、西野カナの『トリセツ』から→米津玄師の『lemon』にチェンジ♪


「は……っ?」



 (前奏略)
 『♫夢だったら、どれだけ〜〜良かったでしょう〜……』


「……………」


 『♬未だにアナタ〜の〜、ことを〜、夢で見る〜〜〜……』




「────うぇ…っ♡」



「……………」

「………」




しーん………



「…今のでムラっときたりしてないすか?」

「え?? …どこで?」

「…ど、どこで…って。……あたしの歌声でですよ」

「別に…だけども…………? というか普通歌わないだろ、『うぇっ』のとこ………。しかもそこだけを…………」


「………………。………………はぁ──」

「──……あたし…えろいことで誘惑して魂を奪うのが仕事なんす………。でも、あたし自身おっぱいとかえろいことが苦手で………。だから〜、…全然魂ゲットできなくてぇ…………」

「……急に何の話を……………?? 一体君はなんなんだ──…、」


「──って!!! い、いや待てよっ………!? とどのつまり君は今、淫靡な(つもりの)歌声で僕の魂を…狩ろう《殺そう》としたのか…………っ?!!」

「あーもういいすよ? その話は。できないで片付いた事なんすから、もう」

「いや良いわけあるかっ!! 殺意を向けてきたんだな……!? 君は僕に…!!??」

「……うるさいですね………。何でもいいから前向いて運転してくださいよ。これでまた事故ったんならアンタ人としてやべーすから」

「起きる事故全て君が起因だろ………っ!!」


 …はぁ〜。
↑この様に、三四郎というヤローは一言一句ツッコんできたりと、まるでバヒョみたいな男だったんでぇ〜。
…ワンチャン誘惑できるかなぁ〜? と試してみたんすが……。……ビギナーにはあたしの美惑が難しいようですね。…はぁーあ。



 助手席下の駄菓子を開くこと、四袋目。
あたしは今、この三四郎運転の元、のんびりと商談しているって現状っす。

…あんむ。ム〜シャムシャ……。うん、美味しい〜…! 幸せ〜〜!

ゴクリ。
……んで、その『商談』の内容ってゆーのがですね。
まぁこの三四郎というヤロー……、サングラスに黒スーツと「ブルースブラザーズかっ!!」てツッコみたくなるくらい馬鹿な服装してて、…まぁその見た目通りバカそうだったんすが。

そんなあたしと多分同じ無能であろう三四郎にしか、頼めない──。
──…とゆーよりも、こんなヤツをアテにしなくちゃならない。
…こんなバカでもできる仕事ってゆーのがありましてね。
それをこれからコイツに話すって感じっす。

………にしてもこのサングラスのび太ヤロー。
いつまでこの山ん中走るつもりなんですかね〜……。ドラえもんの裏山みたいなココをさっきからぐ~るぐるすよ。コイツ…。
ま、別にどうでもいいんすけどねぇ〜…。


「……これで分かりましたか。見ての通りすよ三四郎。あたしはこんなカス一人の魂すら奪えない。チョー非力悪魔なんっす…」

「見た目に反して毒吐きが酷いな……。まるで利根川先生の如し……もう毒蛇だよ………っ。──」

「──…。(というか僕の事…三四郎呼び………)」

「という訳で三四郎!! お前には一つ、あたしから頼みがあるんです!!! どうか聞いてくださいぃっ〜!!!」

「………え? た、頼み………? う、うーん………。──」



「────…まさかじゃないが……っ、僕にやれと言うんじゃないよな………っ?! 魂集めとやらの……『人殺し』を…………っ!!??」

「何がまさかなんすか?」


……むむむっ、って思いましたよ。
三四郎のやつ、意外にも結構頭が回るようなんすから。
やっと「あたしより駄目なやつと出会った〜!!」って心の底でウキウキだったってゆーのに。
…やっぱりあたしが見下せる対象ってこの世にはいないんすかねぇ〜……。


「…ぐっ……………、はぁ…………。……まず、僕は男だ。…どう誘惑すればいいと言うんだよ。この僕に………っ」

「あ、あぁ〜。いや別に淫魔的誘惑とかもうアウトオブ眼中っすわ! 三四郎には刺すなり轢き飛ばすなり絞めるなり、自由なやり方で魂奪ってほしいんす」

「……君ねぇ…………」

「いやもうあたしだって形振り構ってらんねーすわ!! …あ、ほら!! このピストルで運転中、窓からバーンバーンってのもいいすよ!! グラ●フみたいに!!!」


そう言ってあたしが握ったのは、助手席に置いてあったコイツの支給武器──『ヘルペスの銃』ってタグが貼ってあるピストルっす。


…え、待って。

…ヘルペス………?
ヘルペスって、あの口周りに水膨れができる…人間特有の、あの病気の………………??

…………。
…コイツに触るのは控えたほうが身のためかもっすね。…感染対策ですわ。


「…言っておくが僕は違う……っ!! その銃が、ヘルペス銃って名前なだけだ………!!」

「…………あたし何も言ってないのに察し良すぎません?」

「顔に思いっきり出てるんだよ…君は………。バイキン見る目を向けるな……僕にっ…………!!」

「…人の顔をあんまりジロジロ見ると嫌われるっすよ〜? 三四郎〜〜」

「………勝手にほざけばいいさっ…。──」



「──ぐっ………。うっ………。何故よりにもよって、引き合う…………っ。今、こんな時に………………っ。僕はこんな性格の子と…………っ」


「は? …え、なんすか」


 キキッ────

 アホの三四郎は…バカなりに思い詰めたのかなんなのか。
唐突にブレーキペダルを踏んで走行停止。…頭を抱えながらハンドルに向かって顔をうずめてきました。
…いやリアルになんなんすか? こいつ。
全くあたしにはワケワカメだったすよ。もしゃもしゃ、コリコリ……(あっ、この茎ワカメって菓子おいし!!)


目をギュ~っと閉じて、アホみたいに自分の髪を鷲掴む三四郎のヤツ。
気付けばソイツは壊れたラジオのよーにブツブツブツブツ…独り言を唱えてたんす。
この時、あたしはヤツの突飛な行動にドン引きしつつも、「あれ?? もしかして時間差であたしの淫歌声に効いてきた……!?」とか軽くウキウキだったんすが~。


「…インポッシブル…インポッシブル、インポッシブル………っ。自分にはできない……そう分かっていても、なお覚悟を決めるか思い悩む……………っ」

「え……? イ●ポ………? …ひぃ、なんすかその急な卑猥ワード!?」

「……………一線を越えるか…否か………っ。……決断をやっと心に焼き付ける…その時まで………ずっと一人でいたかった。……一人で悩みたかったというのに……………。そんな僕を茶化すように……運命はなぜこんな軽薄な子と引き合わせたんだ………………っ」

「あーもしもし〜、三四郎? 聞こえてるすか……?」

「ぐっ……………………!──」



だけどもね。
三四郎のボソボソ独り言をよ〜く聞いた時。

──奴の口から、魂よりも貴重な内容が飛び出ていることに、気付かされましたわ……。



「──僕がっ………、会長を『殺そうか』…悩み苦しんでいるって……………そんな時にっ………………!」



「え…?!」



…というか、コイツの発言が予想外過ぎて、あたしの方から魂が出かかったすわ。ほんと。

 聞きましたか?!
三四郎のヤツ、グダグダ理由つけて魂狩りを断ってくんだろなぁ〜と思ってたら……、…いたんすよ!!
──奴にも、どうしても殺したい参加者の一人が!!!

──つまりを魂を手に入れる目処が!! あたしの目の前に!!!
────今ここにっす!!!


「…さ、三四郎……! お前………」

「………ぐぅっ…」


…ま、人間どんなアホな奴でも、一人くらいは心から憎んでる存在ってのいますからね。
いや、むしろ三四郎みたいな無能なら、辛く当たってくる人間は身近にたくさんいるわけっすから。
その会長(?)ってゆーのにどんな仕打ちされたかは知らないですが、殺意が湧くのも仕方ないことでしょう。

……ふふ……っ!!
…気持ちはまぁ分かりますよ、三四郎。
…かく言うあたしも、同類《無能》すからね……………!


「……ぐぐぐっ……………………」


さて、そう来るとなったら同類同士、助け合うというのが筋です!
あたしはポンッ、と縮こまる三四郎の肩に手を当て、


「………。…なんだい…………っ」

「………言えたじゃないすか! 三四郎!!」

「………………何がだ。君には関係のないこと──…、」


ズバリ一言!!
こちらに情けない顔を向けたコイツへ、

──悪魔のささやきを、耳元にて呟くのでした────…。


「じゃあチャンスじゃないすか…!」

「…え?」


「会長の魂を刈っちゃいましょう!! …あなたは一人じゃない。周りにはあたしがついてるすから…!! ねっ!! 魂回収はあたしに任せて、三四郎は思う存分恨みを晴らしてください!!! よろしゃっす!!!!」

「………………」


…『一言』ではなかったすね。て〜せ〜。
ま、そんなことはどーでもいいっす。


 ………今のうのうと生活し、チンタラ平穏に料理を食べ進める愚かな権力者、パワハラ上司共へ。
あたしは言いたいっすね。
いいですか?
バカを怒らせた時が一番怖いんすからね?

アンタらは日々何も考えず、あたしらサンドバッグ《無能達》に怒りのままにイヤな言葉をぶつけ続けてきやがりますが…。
丸々と肉ついた顔面のアンタらが偉そうにできるのも、『社会的立場』があってこその特権なんすよ……?
もし、あたしら無能がすべてを失い、社会的立場という雁字搦めから解き放たれた時……、果たしてアンタらはどうなるものか…………。
…ふふふ。…分からないことでしょう。
バカのしでかす恐ろしい惨状なんか………。

…ただ、分からないのなら、見せてやるまでっす……。


「ね!! 三四郎!!!」

「……………………っ」


後悔してももう遅い!!
目に焼き付け、そして満月のよーに目をかっ開いてくださいな!!

憎悪と逆襲の後、まるで虹のように晴れやかな気持ちになる────そんなスカッと劇《復讐の魂狩-レクイエム》。

あたしと三四郎の二人三脚で、そいつの御手本を見せさせてやりますよ……!!


今っ…──。

ここで────……。





「…いや黙っててくれ。だから、君には関係ないことだよ…………っ」




………。



「…………………えーそう来ちゃいます……?」

「…とりあえず君は……預けるから…………、誰か優しそうな保護者のもとに……っ。それまで黙って乗っててくれないか」

「……………マジでそう来ちゃいますか………」


「子供には関係のない話だよ……………っ」

「…………」



 …はいはい、我関せずっすか。
ドライな奴っすね、三四郎は………。
……全く。本当に役に立たない奴ですよ、こいつは……。



 ────というわけで、あたしは次なる『悪魔代行』の参加者目掛けてひとっ飛び。



「えっ……!? と、飛んだ………?──」

「──いや、待ってくれ!! …待つんだ、メムメム………っ!!」

「はいはいどーせあたしは子供ですよ。子供に見えるんでしょ子供にっ!! ありゃーした〜〜…」


 ──車が停まっていた場所にて、真横にはちょうど光灯る休憩所。公衆トイレと自販機があり。
 ──ペンキの剥がれかかったベンチにて、まるであたしを待っていたかのよーにポツンと一人。



 ふわ、ふわ〜

「…モグモグ。…げぇ〜。このハッカって飴はあたし好みじゃないすね………。ブタのエサっす」

 ペッ

「危ないぞ……っ! こら、メムメム……!!!──」


「──…ん? ………あっ…!」




 ──第二の『悪魔代行』参加者。
 ──…なんたらサヤという、……ベンチに座る女子。
 ──そいつは、淫魔にうってつけで、なおかつあたしが接しても全く平気なくらい色気0だったっす。

 ────名前忘れたんで、以下、呼称『ぺったん子ヨーヨー』を、この時スカウトするのでした……。



…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)

……




「…だからヤだって。メムちゃん」



「……え、えぇ………。──」


「──そ、そりゃお前はおっぱい無いから色々出来損ないではありますよ〜…? で、でも心配なく!! お前にはあるじゃないすか!! その露出された脚が…!! 太ももこそ最大のえろだって、魔界の──…、」



「ところで佐衛門さんー、悪いけどもう少し待ってくれるかな…? アタシの連れが今トイレでさ……。お願い!! もうちょっとだけだから!!」

「…ふふっ。何も急いでなんかいないさサヤさん………! それにしても、圧倒的災難だったね……。この山の中、一人でその人を背負ってたんだろう……?」

「うん…。ほんっとしんどかったし!! もう身体中ベットベトでさぁ〜。熱中症寸前だったよ〜〜! アイツ、本当に最低!!」

「オアシス……! ここを見つけた時は砂漠の中の湖だったろうね………!!」

「あーね。あはは〜っ」





「……………。──」


……あたしの存在ガンスルーで、やたら仲良し気に接するペッタンコと三四郎の二人…。


ねえ。

この会話、何が楽しいんすか。




「──うぇっ…♡」


「…ん? どしたー? メムちゃん」 「…またlemonの変なトコか………っ」

「…いや、ワンチャン三四郎の魂これで誘惑できるかな〜って。それだけっす」

「………会話に入れないことを逆恨みして、僕を殺しにかかったな…………っ!」

「てかもう淫魔やめたら? アンタ向いてないと思うよ」


「…くそっ……。くそぉお…、ちくしょぉおおおおぉおおおっ!!!!!」


「……」 「………あ、それで佐衛門さんさぁ〜…」



 その白いエプロンは真っ平らな胸を隠す為の物なんでしょうか…。
でっかい髪ピンでセンター分けにして、バカみたいなミニスカートを履く、ヨーヨー片手の嫌な女。
そのスカートの丈ゆえに、バヒョなら絶対鼻息を荒くするようなえろい脚で…、
そしてそのバカみたいなスカート同様の頭のレベルでしたよ、こやつは…。

はい、ハズレくじの連チャンっす。
このぺったん子ヨーヨーも、三四郎同様何にもあたしの役に立たないバカでした。
……はぁ……。


…今思えば、ラムネをグビグビ飲んでる最中を、あたしが急に話しかけたのが原因だったんでしょうか。
ワッ、と水を噴き出した後の、ヨーヨーガールの顔はものすごい変な顔で………、──多分第一印象から「なにこいつ…」って思われたかもしれないす。
んで、その後あたしの魂狩り説明を始めたら、…もう言葉を重ねる度に、どんどんどんどんコイツは嫌な顔をしていって…………。


「…え〜っ?! それ絶対ほたるちゃんじゃん!! どこで?! どこで見たの!!!?」

「なんだ知り合いなのか…………。そこの、海沿いで話したっきりさ。…彼女の方から急に飛び出していってね……」

「わー…、ほたるちゃんらしいアクティブさ〜……。んじゃさ、後でほたるちゃん探しも…いいかな?」

「はははっ………! 君は枝垂さん、僕は…会長。さしずめ僕らは探し人同盟だね………っ」


…気付けばこの有望な淫魔候補《ヨーヨーガール》は、あたしの後を追ってきたジョン・ベルーシ😎野郎ばかりと打ち解け合い。
あたしよりも、こいつに懐ききってるわけって感じっすわ……。


なんすか…。
シダレホタルって…。
火垂るの墓の話…っすか………?

…もうっ、お前らを墓にしてやろうかってんだちくしょおこのおおおぉぉっ!!!!! あの映画も清太が普通にクズっすよね!!! もうおおおおおおおっ!!!!!

興味ないわ!! アンタらのイチャイチャお話シーンとか!!!!
人の苦労も知らずに……こんちくしょおおおおおおおおおおおっっ!!!!



「……はぁ………」



「…にしても遅いなぁ〜おじいちゃん。何してんのさ〜…」

「おじいちゃん………っ?」

「うん、アタシの連れ。…もう三十分近くだよ。…トイレで格闘しすぎじゃんっての!!」

「………おじいちゃんか。……──」


「──って…、あっ!」


 ふわふわ〜

「………………」


「…メムメム……、どこに行くつもりだ……っ?! 危ないからサヤさんに引っ付いててくれなきゃ………っ」


…はぁ。


「……老人って便器冷たいだけですぐ心筋梗塞になるんすよね?」

「…なっ!? き…君……殺す気かっ……!? サヤさんの連れをっ………?!」

「あたしはね〜…もうスケジュールが分刻みなんすわっ! お前ら人間のくだらない会話聞く暇あったら魂っすよ!! タ・マ…シ✡イ!! そんだけです」

「……なにそれ。はいはい、言われてみれば確かに心配だしね。ちゃんとおじいちゃん死んでないか見てきてね〜メムちゃん」

「うしゃーす」


「おいおいサヤさん……っ。何故行かせるんだ………っ。あの子なら本気でやりかねないよ……、普通じゃないんだメムメムは………」

「え、大丈夫だと思うよ。…虫も殺せないじゃんメムちゃんは。ほら、まさに…」

「…え?」


 …はぁ。
ほんとにバカデカため息っすわ。はぁ…………。

そりゃ、魂狩り《殺人》に加担しない人ってのは、…ほんとに褒められた存在で。
世間一般じゃ良い人になるんだろうけどさ〜…。
………なんで、こういういらない時に限ってそんな『優しい人』ばっかりに出会うんすかね、あたしは……。
…普段あたしが絶望してる最中なんか、誰一人とて優しくしてくれないっていうのに…………。


「メムちゃんの周り、すごい蚊たかってるでしょ?」


 ぷーんぷん…
  ぷーん、ぷーん…


「『虫も殺せない』とはこのことか………っ。はは…!」


「ぐぅっ〜〜〜〜……!!──」


世の中って、なんでこうもあたしに不都合に回るんだろ…。
地球の自転どういう回りっぷりしてんすか。ほんと…………。


「──うっさいわムシケラ!!! …あ……、ひっひぃい〜!! さ、刺さないでよぉおお!!! しっ、しっ、おねしゃす〜〜〜っ!!!」

「あはは!」



…ま、こーしてあたしがフワフワ吸い込まれた先は、便所近く。
入口からアンモニア臭の渦中へと潜り込むに連れ、あたしの周りでは蚊に加えて蝿というムシケラの二重奏が展開……。…あたしはどうやら変な生き物にばかり好かれる性質のようっす。

電灯がバチバチッ…と切れかかる、辛うじて明るい公衆トイレ内。
一応、日頃掃除はされてるのかキレイっちゃキレイでしたが、汚物感を隠しきれないその男子トイレにて。



「…くくくっ………!! ききき…………!!」


「…あっ!! コイツか……。ヨーヨー娘のジジイは…」



 ────最後の『悪魔代行』の参加者が一人。




……
………

「……ところで、サヤさん。……君の…、そのおじいちゃんって人の話なんだけどさ…………っ」

「あ。別にアタシのガチ祖父ってわけじゃないからね、一応。…あんなのがリアルにおじいちゃんだったら、多分今頃アタシ少年院だわ…」

「……。……──」

「──…もしかしてだが……………っ。その人の名前さ」

「ん?」


 ──そのジジイは、用なんか足してなく。
 ──手洗い場で何がしたいのか、ティッシュ箱からティッシュを取り出しペラペラ…→グシャリと。
 ──…かつて『ティッシュン』ってゆう、あたしには最高の使い魔(ティッシュ)がいたから、ジジィのわけのわからない行動は妙にムシャクシャした。


 ──ジジィは後に、『ティッシュ箱くじゲーム』をしたかったと。この耄碌じみた行動の意図を語る。



……
………

「その人の名前…『兵藤和尊』…とかじゃないのか…………っ?」



「……え? ………………あの、質問で質問返すようだけど…さ、佐衛門さん」

「………なんだい……」

「…その、佐衛門さんが探してる『会長』ってのも……。もしかして……」

「……愚問だね………──」



 ──ジジィの足元には杖が落ちてあった。
 ──あたしはひたすら「それに気付かず転べ〜」と念じていたこの時だけども。




……
………

「──……兵藤会長。僕が殺す……唯一の参加者だっ……………!」

「えっ…!?」



 ──このジジィこそ、

 ────『兵藤和尊』様こそが、あたしの追い求めていた本物の悪魔だった────。



「……還るか…? 海…深海に漂う…藻屑…泥や砂…澱みに…!!」

「は…? 何の話すか? とりあえずお前、そこの杖で転んでみて──…、」



 カチャリッ


「…え?」



 ──そんな圧倒的悪魔に向かって、銃口が向けられたのでした………。



…………
………
(じじょーせつめ…──…、


「あぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜っ?! なんじゃ貴様はっ………!!」

「…ひっ!! め、めむめむ〜〜〜…」



「…………………っ」


「……犬っころめがっ……! 噛みよるというのか…?! 主人に向かって…黒服如きの分際で…………!!! あぁっ〜?!」


「…………………お迎えに上がりましたよ…っ。──」




「──会長…………っ!!」




 …事情説明挟む間もなく、矢継ぎ早矢継ぎ早の展開っすよこりゃまた!!







前回 キャラ 次回
061:『らぁめん再遊記 第二話~情報なんてウソ食らえ!~ 062:『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)
022:『徘徊老人かな? サヤ
032:『菓子 佐衛門
052:『Darling,Darling,心の扉を メムメム
052:『Darling,Darling,心の扉を 兵藤会長
最終更新:2025年06月03日 13:49