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『やりなおしカナブン』








「た、高木さんっ!!! メムメムのやつ、どこ行ったか知らないか!?」

「え? メムちゃん? メムちゃんならついさっき、“トイレに行く”って言ってたけど……。それよりも廊下の様子はどうだった? 小日向くん」

「どうもこうもないんだよ、それがっ!!! …とにかく、早くアイツを探してここから逃げないと……」

「ちょっと待って。何があったの? 落ち着いて説明してくれなきゃ、私も下手に動けないよ」

「……………っ、廊下にいたんだよ…!」

「え?」


「────…明らかに危険人物な…ヤバい奴がっ……!!!」


………
……
…

◆


「ふんふふ〜〜〜ん♫──」

 …ふふっ♪
別に花摘みで個室トイレに入ったわけじゃないっすよ〜〜。催し度はゼロ%っすから!
ただっ!! バヒョやデコ娘の目の前で、魔道具の品々をおっ広げるわけにはいかないのでね…。
つまり今のあたしは、『一人作戦会議』の真っ最中ってわけっす!


「──まずはこの自縛キャンディ!! こいつは、口にしたら無意識のうちに自分をロープで縛っちゃうというやべ〜アメだからね〜〜。バヒョを無力化するにはもってこいだわ!!──」

「──で、バヒョが芋虫みたいになってる間に、デコ娘へ使い魔レーザー射撃!! あたしの使い魔と化したデコ娘の太ももギロチンで、バヒョの魂はサクッといただき〜〜!!──」

「──これにて、デコサキュバス伝説の始まりっすわ!!」


 ────『魂乱獲』の作戦会議をね…!!
ふふひひ…!!

参加者全員の魂をかき集めた暁には……宝石ザックザクに、美味しいご飯〜♫
もしかしたら六淫将に昇格〜、──だなんて転がり込むかもしれない、このチャンス……!!
だからこそ、…万年雑用以下のあたしは……絶対に掴まなきゃいけないすわ……!!


「ふふふ…ふふふ〜!!! なーんか今のあたし、頭のネジ噛み合いすぎてて怖いんすけど〜〜! ふふふふ〜♫」


ゲーム脱出?? 打倒主催?? ──そんな偽善知ったこっちゃないっす!!
所長から貰った(=盗んだ)魔道具を前に、あたしは野心でメラメラに燃え上がっていたのでした!


……もちろん、六淫将の面倒くさい仕事は、全~部レース先輩に丸投げして〜………、


 ──バンッ、──バンッ

「おい出てこいッ!!! 中にいることは分かってンだぞッ!!!!」

「びぃいっ?!!!!?」


 わ…、ビックリさせないでくださいよもうっ!!!
あたしがノってる時にドアノックしてくるとか…。…なんすか? KYっすか? 空気読んでくださいよ!!
まぁどうせバヒョの奴なんでしょうけども……。…って、ここ女子トイレっすよ??!
うわぁあ〜…きしょいよおぉ〜〜…。アイツほんと性癖歪みすぎっす〜〜……。

はぁ〜あ……、もう〜〜〜…。


「はいはい今出るっすから〜落ち着い……、」


 ────ガッギャァァンッッ

  ──メキメキィィッ

   ──バリバリバリッッ



「……え?」




「オイコラァッ!! てめぇ……杖持ったクソジジイを見てねェだろうなァ!?」


「…………ぇ…」




 …個室ドアをシャベルで破壊という、ダイナミックに登場してきたソイツは、
…こんな暑い中だというのに厚着のフードジャンバーで……、
…歯はギザギザのボロボロで、明らかに目がイッていて……、

……そして何よりも、第一印象で『ゲームに乗ってる人物』と分かる〜…。
凶悪面と〜……大柄でぇ〜〜……。




「俺はそいつを……──ぶち殺すッッ!!!」

「ひ、ひぃい!!」



神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。



◆





◆


………
……
…


 …だな〜んて思っていたのも、今や遠い過去の話♫
人は見かけによらないとは正にこのこと、──と言っても勿論こいつはバヒョでは無いんですが。
兎にも角にもあたしは……この──…!!


「お茶をお淹れしました!! よろしければお召し上がりくださいっす!!」

「おうっ。……いや…待て。てめぇ、まさか毒入れてたりしてねェよな?!」

「毒なんてまさかとんでもない!! 隠し味はあたしの愛だけっすよ〜〜♡──」

「────我が『肉蝮さま』!!!」


──肉蝮さまという、素晴らしい相棒を手にすることができたんすわ!!!
いやぁ〜〜ほんと肉蝮さまは神!! …いや神とかっていうレベルじゃないんすよ!!! もはや神の上っすか!??

……ま、そんな神を前にしたあたしも、最初は正直ビビってたんすけどね~~…。
『お帰りくださいぃ、お帰りください〜…』って唱えるのが精一杯だったんすよ……あの頃は。
──でもっ!! 話してみりゃ肉蝮さまの慈悲深いこと深いこと!!!
…いいすか? 聞いて驚かないでくださいよ?
なんと肉蝮さまは参加者全員の命を『救いたい』らしく、──そ〜ゆ〜わけであたしの『魂集め』にも協力してくれるみたいなんす~~!!!


「…では失礼ながら肉蝮様。このあたしが直々に、お茶の毒味を致し…、」

「はぁ? よせ汚ェ!! 口つけんなっ!!! ……ったくメムメムてめぇはよォ。──」


──(ズズズッ…グビグビ

「──ぬりぃ…。この夏にヌルいお茶って絶妙にムカつかせにきてンな…。ただでさえイライラしてるっつーのにバカかてめぇはよっ!!!」

「ふふ♫ 肉蝮さまともあれば最高級玉露も陳腐な味に感じますでしょう〜」


ほんと神っすよ肉蝮さまは!!!
キリストとかムハ●マドなんてこの御方に比べたら雑魚カスっす!!!
肉蝮さまがMLBなら、神様なんて千葉ロッテの九番打者って感じすよ〜!! もう〜〜!!!


「──……ところであなた様のイライラの原因とは、やはり………ナタのことで?」

「ッたりめェだボケ!!! 俺がジジイにKOされて動けねェ間に盗まれんだぞっ!!! 誰が盗ったのか知らねェが卑怯な根性が許せねェっ!! おかげでその辺にあったスコップに武器ボリュームダウンしちまったが…なンだよスコップって!!! 何でホテルにあンだよそんなもんが……、」

「………っ……〜…。……そうっすそうっすよ!! ほんとクズっすねその犯人!!」

「……おいてめぇ…今アクビ堪えてただろ?」

「ちょっと言ってるイミがわからないです♪」

「…チッ!!!」


 …うぅ~……。ぐすっ~…ひぐっ~~………!
…ふふふ……!
涙って、悲しくなくても……勝手に出るもんなんすね……!!
あたし……いま……人生で一番しあわせを噛みしめてるかもしれないっすよ……!!!
友だちができる奇跡。信頼できる味方がいる安心感。しかも強くて頼りがいまである優越感……!
こんなん……居心地よすぎて死ねるっす〜〜……!!

あたし、もう決めました。
一生どころか、死んだあとだって──背後霊になってでも、あなた様に付いていきます!


親愛なる……我が、肉蝮さま──────。



「で、てめぇは俺に何しろって話だっけ? メムメム」


「もう肉蝮さまったら〜!! さっきも言ったっすけど、あたしの魔道具を頼りに、全参加者の魂回収してほしんすよ!!──」

「──言っちゃえば皆殺し──『優勝』っす!! よろしゃっす!!!」

「…あァアッ?──」



「──…ッテメェに言われなくてもそのつもりなンだよゴラアッッ!!!!」




「…え?」



………え。

…な、なに……………?



「“さっきも言ったけど”だァ!? テメェ、俺様にダメ押しする気か!? 舐めてんのかコラァアッッ!!! 舐めてンのかっつってんだよクソガキィィッ!!!!!」

「…な、舐めてるって……。──」



あれ。

これ、もしかしてあたし…怒られてるんすか…?

え…なんで……?

肉蝮さま……、何をきっかけで…。
急にお怒りスイッチが………ONに…??



「──いや、そりゃ……あたしは悪魔で……肉蝮さまは……人間……だからその……上下で言ったら……」

「ぃぃィイイッッッ!!!!!」


 ──ガシッ


「い、痛ぁ゙ァっ!!!!」


 …あ、あっ、あっ、え゙っ?!! ちょっとストップストップ!!
な、なんで急に…?! 肉蝮さまは何でキレてきたんすか!!?
突拍子なさすぎるってゆーか……。…と、とにかく髪引っ張らないでください……っ…!!!
痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……いだいっ!!!!


「テメェみてェなクソガキがこの俺に命令してる感じが超気に食わねンだよッッ!!!! …どっちだァッ?!!! おい、どっちが上だッ!! もっかい答えてみろゴラッ!!!!!」

「うぅ…いだいっ…痛い痛い!!! …す、すませ…ずまぜん゙じだぁっ!!!! 命令では…なぐぅ…、協力……してほしぃ…んす……っ」

「協力だとッ?! じゃあ、俺のウンコ踊り食いしろ!!! チビッ!!!!」


…ぐすっ…!!!
痛いぃっ………。ぐすっ…。

────……いや、…えっ……!?

…今……、肉蝮さまは…なんと仰りに…………?



「…え……? あ、あの肉まむ…、」

 ──ゴスッ

「…っぃっだぁああ!!!」


「“え?”──じゃねェぞチビ。俺さっきラーメン食ったからよォ〜? ちょうど腹ン中にコンモリ溜まってンだわ!!! 俺がイクまでアナル舐めしてくれるっつーなら認めてやる」

「…え……」

「…ィッ!!! だから“え”じゃねぇつってンだろうが!!! おい!!! やれつってんだろッ!!! 文字通りの肉便器になれよッ!!!!」


 ──ガシッ

  ──ゴスッ──ゴスッ──ゴスッ

「うっ!!! いだっ…痛っ痛っ!!! ぁああ…っ!!」



「舐めてんじゃねェエぞッッ!!! おいッ!!!!」



………。
…どっち…すか………。
舐めりゃいいのか、舐めちゃだめ…なのか…………?

どちらにせよ……痛い………。
歯……歯の根っこが……ぐらぐらする…………。
ほっぺが……熱い……ひりひりする…………。

…肉蝮さまの…拳が………怖…い…。


「………」


……と、とにかく…鼻を…つままなきゃ……。
舌先を噛んで神経を一時的に麻痺させなきゃ……。
…む、無を…無を考えないと…………。
それでいて、気絶しないように…しなきゃ……。


「…が、がんばります………。………お舐めいたします…ぅ………」

「あァ??!!」



あぁ…。


全部は…。


すべて…は…。



「…できる範囲…で…」

「…………テメェ…」



魂回収と、
肉蝮さまへの親睦の……ためなんすから……────。



「げげぇ〜〜〜〜〜!!! げげげげぇ〜〜〜!!!!」


「…………え?」


「おまえ変態かぁ〜〜?! 俺はスカトロ趣味なんかないぞ〜〜〜〜! 気色悪ぃ〜〜〜!」

「………え」

「ったくガキのくせにマセたこと言いやがってよォ!! …この児ポ児ポちゃんが~~っ!!! げげげげぇ〜〜〜〜〜〜!!!」


「…………は、はい…。…うっ、うぅ…」



……鼻から血が、出ちゃった。
──はははー。目から涙、鼻から血、折れた歯からは歯槽膿漏ー…ぐしょ濡れじゃないすか、あたしー……。
…はは…は………。


「泣くな児ぽっち!! どーせ悪魔だから痛みなんて感じてねェだろ! ンじゃ、そろそろ行くぞ」

「…あ、は、はい!! …よろしゃっす…!!」

「敵は【2106号室】にあり!! ……楽しみだぜ!! げひゃひゃひゃ〜」

「………ははは、…しゃっす……」


 …うん。ダメ、ダメダメ!! ダメだよあたし! 肉蝮さまに対して心の中で悪口しゃべったら!
この一連の行動は、何もかも欠けてるあたしへの──愛のムチ……。
今後またミスしそうになったら、この痛みを思い出せばいいんすよ……!!

それに…日頃の…。
──レース先輩のお仕置きに慣れてる身からしたら、これなんてマッサージレベルっすよ……。
……肉蝮さまは、もう仏……いや大仏っす……。

…うぐっ………。
ありがたい、ありがた…や~………。


…
……

 ──“レース様って優しいよねぇーー…”

 ──“ほんとそれ!! メムメムみたいなダメ悪魔を庇ってくれるなんて。普通の六淫将なら即処分なのにさー”

……
…


「…………」



…肉蝮さまはありがたい。

…………ありがたいんだ。



◆


………
……
…


「祝ゥっ!!!!!!!」

「あ? うっせェんだよテメェ!!!!」

「ひっ、す…すません〜〜」


 ……祝!!(ヒソヒソ)

この、あたし!!
なんと今日をもって、めでたく改名させら…──肉蝮さまから新たなお名前を賜りましたっ!!!
わ〜いわ〜い!! へっへへ〜参っちゃうなぁ〜〜〜♫
天才たる肉蝮さまのネーミングセンスはもはや湯婆婆に匹敵!! 素晴らしいお名前をつけてもらったんすよ〜。

さて目に焼き付けろ、あたし!!
おでこに貼られた札に書いてる、新しい名前に惚れ惚れしろ、あたし!!
その気になるお名前は〜…、ワン・ツー・スリー──鏡をチラーリッ!!!


 【命名︰『ア●メ(笑)』】


「……………ア●メ…!!」


はい、どうもこんちゃっす!! あたし、ア●メ(笑)っすわ!!
「あくまのメムメム…略してア●メだっ!!笑」──肉蝮さまの由来説明も…素晴らしい〜!!

…ふふふ…♬
何もできない悪魔のあたしに、ここまで気をかけてくださるなんて……!!
感動で昔の名前なんて、もう記憶から吹き飛んじゃったっすよ……。
魔道具の一つ、『開運改名札』をあたしに使ってくれた肉蝮さまに感謝っす!!


「なんかイミわかんねェーけど、てめぇの魔道具ってヤツおもしれぇなぁ〜〜。ウケるわ〜。ぎゃははは」

「喜んでいただき大変光栄でありますっ…!! 肉蝮さま〜!」

「…こうなるンなら、もっと早くてめぇに会えばよかったぜ。そしたらあのクソッタレ丑嶋の野郎にも改名させれたのにな〜。その名はまさしく『牛糞 香(ぎゅうふん かおる)』ッ!!!! ぎゃははははッ!! 最高だろコラ!!!」

「…うしじま? 肉蝮さま、その人は一体…、」

「ゥうるせェんだよッ!!! ムカつく奴の話をしてンじゃねェよクソチビ!!!!」

「…ひっ…。そ、それはそれは失礼っしゃした〜〜。…あはは〜〜!」


 今、あたしの魔道具は全〜部、肉蝮さまのデイバッグにお納め状態♪ 気に入っていただけたようで、ほんと光栄の極みっす!

──そして更に今!! あたし達さいつよコンビは、『2106号室』を目指して廊下をズンズン進軍中!!!
シャベル片手に練り歩く肉蝮さまの背中はもう、威圧感の権化っすわ〜〜!


 …ふふふ。そうだそうだ。
記憶力の足りないばかの為に説明しときましょうか。
『2106号室』とは、────ズバリっ、バヒョとデコ娘がいる部屋!! (…あ。あと多分兵藤のヤローも)
あたしが告げ口した結果、肉蝮さまは「己の力を見せつける」ってことで突撃する流れになったんすよ〜〜!

…嗚呼、哀れなバヒョ。…それと、デコ娘…。
ええ、もちろんちょっとは心が痛むんすよ? だって一応はアイツら元仲間だったんすから。
あまりに心が痛いんで、オロナインを胸に塗りたくっちゃうあたしっすわ〜…。


「……でもっ、魂を狩れる方と狩れない方…。どっちに付くかと考えたら……!! ──あたしもばかじゃないんでね。…ふふふ〜…」

「つかてめぇ独り言多すぎ。あとなんか…臭くね? 悪魔ってガチ目にニオイえげつねぇよな!!」


 いやいやいや〜。
えげつないのは貴方様のオーラですよ〜、肉蝮さま!! 貴方様は自分から醸し出される覇気に気づかれていない!!

バヒョなんか見てくださいよ〜。
あのヘナチョコ、長いこと一緒に暮らしてるんすが、まったくもってもう…。もう~~…ねっ!! 牛乳臭い雑巾のほうがまだ役に立つって話っすわ~~!
それに比べて肉蝮さまは、もう万能ナイフを千個発注したくらいの便利さ…!!
てゆーか単純に素晴らしすぎるっ!!! 痺れる憧れるビッリビリっすよ~~!!

あたしはもう、早く肉蝮さまのキレたナイフっぷりで、魂をごっそり刈り取っていただきたいっすね……!!
魂大漁フェスティバル〜〜〜♫



 スタ、スタ、スタ、スタ…──

「おいチビ」


 スタ、スタ、スタ、スタ……──

「ふんふふ〜〜〜ん♫ 何ですか肉蝮さま〜」


「なんだっけなァ…、その、デコ娘ってガキ。可愛い?」

「え、アイツすかぁ〜? んまぁ…顔は良いっちゃ良んじゃないすかね? とにかく、胸はペッタンコすからあたし的には接しやすい人間っす!!」

「へぇーー…処女かなァ〜? マグロだったら面白みねェ〜からなぁ…」

「…あ。……肉蝮さま、えろいこと…するつもりなら……あたしが見えないようによろしゃっすよ………? あたしえろ嫌いなんでぇ〜…」

「はぁ? ンだそれ。俺的にはてめぇがいろんな意味で怖いっつーの!!! じゃあ罰としててめぇがそのデコのパンツ脱がせろ!!!」

「な?! なにが“じゃあ”なんすか?!! …それだとあたしが頑張る感じじゃないすかぁ………。嫌だなぁ……あたしがデコ娘をって…、──」


…
……

 ──“小日向くん…そんなメムちゃんを責めないでよ。まだ幼いんだから”

 ──“ね、メムちゃん。…お菓子、食べる?”

……
…



「──……………………。──」



「──ま、まぁ…肉蝮さまの頼みなら尽力つくす限りっすよ〜〜!! できる範囲で…!!」

「『できる範囲で』大好きっ子だな…、おい!! ──」


 スタ、スタ、スタ、スタ…──


「──あ。あとよォ、バヒョってガキ………なんだよ外人か? つか女か??」

「一つ目の質問はNO、二つ目はYES!! あぁ、イエス・ノー両方一回に使えるだなんて…肉蝮さまの質問は素晴らしい……素晴らしい…」

「てめぇやっぱ舐めてんだろ」

「あ、流石に持ち上げが過ぎました!! すませんっんんん〜〜〜!!!!!──」


「──バヒョは一見ただの人間の小僧っすが、…ちょっと特殊でね〜……。……聞いてください肉蝮さま……アイツ、お湯かけられると女になるんすよ!!!」

「…あ? はァ〜ア?!! 何の工夫もなくパクってきたなそのガキ!!!」

「そうそう〜!! ♫タンマタンマで〜そんなもんねとオトモダチ〜〜♫………ってね!! バヒョのヤローとは長らくの付き合いなんすがねぇ〜。ほんとアイツは駄目なやつで…、──」


…
……

 ──“メムメム!!!”


 ──“あのバカ…こら、メムメム!!!”


 ──“メムメムゥ──────ッ!!!!”

……
…
…
……

 ──『うぅ…』

 ──“…流石に今回のミスは堪えたようだな、お前もさ……”

 ──『…ん。え? あぁ、違うっす。さすがにあたし…空腹が限界でぇ〜…』

 ──“……っ……まったくメムメム…お前ってやつは…。いや俺だって腹減ってるからな!? 何故か俺も巻き込まれで魔界の人らに怒られたんだぞ!!?! お前のせいで!! …もうすっかり夜じゃないか〜〜〜!!!!”

 ──『まぁまぁ落ち着きましょうって〜!!!』

 ──“落ち着けるかぁ!!!! …くそ……。…本気で叱ったらもう疲れるよ………はぁ……”


 ──“…とりあえず……奢るからさ。付き合えよラーメン屋。な、メムメム。”

 ──『マジすか?! あの人妻のとこのラーメン屋っすよね!?! もうバヒョったら〜!!』

 ──二言目が微妙に余計なんだよっ!!!

……
…
…
……


 ──『うぅ…ぐすっ……。バヒョ……バヒョと……』


 ──『バヒョと……ひぐっ…。……一緒にいたいからっ…!!!』



 ──『…だからあたしは……ここに残りますっ……!!!』


……
…
…
……


──タンマタンマで。

──そんなもんねと、

──オトモダチ。



────………バヒョ。


………
……
…


「…………。………バヒ……、」


 ──バシンっ


「え、いだぁあっ!! な、何するんですかぁ〜!!」

「意識飛んでたぞッ!! 集中しろチビ!!」

「すっ…すませんすません〜!! …でも暴力はやめてくださいよ〜〜肉蝮さま!!?」

「だーかーらァ、俺に指図すんじゃねェつってんだろ!!! 次命令したら両親殺すからなッ」

「…あ、はいっ!! 気を付けますっ!!! ………──」


 …いたた…痛ぁ〜…。うぅ…。
あたしとしたことが、ついボーッとして躾されちゃいましたよぉ……。
しかも魔道具で殴られて!! あれ高価な品っすからね!? 鈍器にされちゃ色々たまんないっすわ!!
そりゃあたしもくだらない過去に思い更けてて、悪いっちゃ悪いっすけどもぉ〜…。

…もう〜っ、肉蝮さまったら〜〜!! ははは〜!

…………はは、はは…は……。


「──………………。」



…────くだらない、

 ────過去…。



「……」


 …ごめんね────、とは勿論言いませんからね? …バヒョに高木。

そもそもあたしは、最初から一貫してゲーム優勝狙いなんすから。
勝手に仲間意識持って…、「裏切ったな〜!!!」とか言われても……知らんがな、で終わりっす。

そもそも、あたしは悪魔。
お前らは人間。
土俵も住む世界も常識も。何もかもが違うんすから!
お前ら人間の言う義理やら人情やら…勝手に作った物差しであたしをクズと図らないでくださいよ!!


「……」


………魂一つすら集めれない、
気づけばみんなから見下され、嫌われて、だんだん自分でも「ホントにダメだな」って思うようになって。
……気づいたら、自分のことまで嫌いになる。
そんな出来損ないの気持ちなんて。



お前らには分かるわけないんすから。




「…………」


 ──スタ、スタ、スタ


「……2103、2104、2105…。──」


  ──タッ──


「────【2106号室】…! おい、ここでいンだろ? さっさとドア開けろチビ!!」

「………あ、はいはい!! この部屋で合ってます合ってます〜!!」



 ……とまぁ、そ〜こ〜している内に着いちゃいました!
バヒョと高…デコ娘らがいる部屋──あたし達の目的の場所に!!
いやぁ〜、肉蝮さまと会話してたらもう話が弾んじゃって、時間があっという間に感じるものっす〜。


「……では肉蝮さま!! …開けますよ? 本当によろしいっすね??」

「あ? とっととしろ」

「………………………あ、ところで…扉にカギ、別にされてないすけど、あたしがわざわざ開ける理由は…?」

「ッチィ!!! うるせんだよッ!!!! この部屋はテメェがいた場所だろッ?!! ンで、テメェが開けて閉めたドアノブだろうが!!! 触りたくねェんだよばっちぃッ!!!!」

「あ!!! そういうわけっすか、すませんっ〜〜!!!」


 あー…またまた肉蝮さまを怒らせちゃった〜…。
もうしっかりしてくださいよ!! あたし!!!

……ふふ♪
それにしても肉蝮さま、このあたしをまるでバイキンかなにかのように扱いなさるなんて……!!
あたしも、とうとう菌と肩を並べれるくらいにはなれたんすね…!
……いやぁ、出世したなぁ〜あたし……♪

「………。……ふう」


 …かちゃっ──。──ドアノブのヒ〜ンヤリとした感触。
無機質な扉の向こう側では、…バヒョたちは一体どんな顔をして待っているのやら♪

のんきにお菓子でも食べてたりしてるのかな?
肉蝮さまのオーラを前にしたとき、あいつらきっとビビりまくるでしょうね!!
「お許しをぉおお〜〜〜!!」とか命乞いしたりして!!

──…あっ。バヒョの奴、今、我慢できずにデコ娘とえろいことしてたりして。


……。
…く、くそぉおお〜!!! ありえる…アイツのことだしやりかねんっすよ!!!
人がこんな苦労してる時に、ヘラヘラお盛りになるとか……、余計腹立たしくなってきたっす!!!
えろい奴は全員、肉蝮さまがナマハゲの如くギッタギタにしてやりますからねこのヤロー!!!!


「……。…では仕切り直して。オープン・ザ・ドア!! 開けさせていただくっす」

「テンポ悪ぃんだよ!! さっさとしろやッ!!!」


 …とにかく!! バヒョたちの怯えきった顔が楽しみで仕方ないっす〜!!
あたしにイライラMAXで睨みつけてもムダ・ムダ☆ その頃にはとっくにあんたらは魂化してるんすから!
この調子でたくさんたくさん参加者たちの魂を集めていって〜〜♪
レース先輩をどうパシらせるか妄想ふくらませつつ、肉蝮さまの魂荒稼ぎをニコニコ眺めて〜♪
気がついた時にはあのトネガワヤローとご対面!!
…ついでだしソイツの魂も狩らせて〜、あたしも念願の優勝をして〜〜♪



 ────優勝した時、あたしはどんな顔しているんだろ。──



「………」



…はは。何で汗なんかかいてんすかね、あたし。
“どんな顔してるんだろ”って……。そんなの決まってるっしょ! 満点満開、大スマイルっすよ!!
あーもう、テンポ悪ぃな〜あたし!!

ワクワクが止まらないっすね~、もう〜!
だって今から始まっちゃうんすもん、伝説が!!
肉蝮さまと、悪魔のあたし……──あっ、え〜とえ〜と…あたしの名前なんだっけ……。
……あ。そうだそうだ。


このあたし──『悪魔のアクメ』。

二人によるサキュバス伝説の、幕開けを────…。



…
……

 ──“ひょう太とやら人間よ。…どうやら貴様はこいつと長くいすぎたせいで耐性がついたようだな。メムメム化の免疫が……”

 ──“…悔しいが、魔界の命運は貴様ら二人にかかっている。頼んだぞ”


 ──“ひょう太と……、そして、”──

……
…



「────ッ『メムメム』ゥゥゥゥっ!!!!! 早くっ!!! 早く逃げろォオオオオオオオオ──────っ!!!!!」



「あ?」




「……………え」




 おでこに貼られた命名札が──、
無風の廊下で、ひらりと剥がれ落ちていった。




「…あ……? あんだぁ……?! あのガキ…………」

「……あっ」


「逃げろって──ッ!! 逃げろつってんだろォオオオ────────ッ!!! バカァア────────ッ!!!!!」



 ……振り返る必要なんて、ないのに。
振り返らなくてもいいって、自分でも分かってたのに──あたしは。
肉蝮さまより先に、首が声の方へ向いていた。


 タタタタ────ッ、
  タタタタ────ッ、

廊下の奥から勢いよく走ってくる──『アイツ』。
武器を片手に、どんどんあたしらと距離を詰めてきて。

……普段は弱っちくて、ヒョロヒョロで、なんの役にも立たないクセに。
今だけは不相応に血気盛んな顔をして。
けど、その血気盛んさだけじゃ誤魔化しきれないくらい、顔色は真っ青で……。
無理してるのなんて、丸見えで。

──………でも、そういうのがアイツらしくて。


アイツと目が合った瞬間、あたしは思わず声が震え出た。


「ば…なん………なんで……なんすか……………」

「ハァハァ…!! 高木さん連れて…そいつから逃げろっ………ハァハァ……、逃げろよォ…!!!」

「あ、…に、逃げ……………ぁた、ぁたしは………」

「…ィッ早く逃げろっつってんだろォ────────!!!!!」

「………っ!」


…“震え出た”……って。
あたしは別に、アイツのことなんかちっとも恐れてないのに。


「…ンだぁ? おいチビ、てめぇアイツと知り合いなんか? ぁあ?」

「あ、ひ……し、知り合いっていうか…………あたしは………」

「いやてめぇなに泣きそうになってんだよ? まったく気持ち悪ぃ奴だぜ悪魔はよォ……………。──」


「──…って、あ? …おい待てよオイッ……」



…というより、アイツの方が肉蝮さまにビビりまくってるはずなのに。



 タタタタ────ッ、
  タタタタ────ッ、


「うわぁああアアァアアああああああああああ────────ッ!!!!!!!」


「…ィイイッ!!! あのクソガキィッ!!!! テメェ……ッ、ソレ……!!!──」

「…………え?」


「──俺のナタじゃねェかゴラァアアアアアッ!!!!!!! テメェが犯人かァ、この糞ガキィィィィィッ!!!!」

「…えっ」



ヨタヨタしながら重いナタを振り回して。
……無謀にも、あたしらに戦意をむき出しで突っ込んできて。

………いや、違う。
アイツは、肉蝮さま“のみ”に向かって刃先を振りかざしてきて……。


恐怖に呑まれきってるくせに、恐れ知らずみたいな態度で。
あっという間に至近距離まで飛び込んできた、アイツに──。


「ば、……バヒ………………そ、その…ナタ……」

「だッから、逃げろつってんだろうがァアアアア────────────!!!!!!!──」


──……………『バヒョ』の奴に。
バヒョに名前を呼ばれて、


「──メムメムッ!!!!! 逃げろよォオオ──…、」

「テメェエエエエ!!!!!! 死ぃいいいいいねぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!」

「…あっ………」



 ────ガシュンッ



……あたしは、自分の名前が『メムメム』であることを思い出した。




「…ぁ、あぁ…ぁ………!!」


「がぁあ…………っ……!! い、痛……っ!! ぐ、ぁ…いぃっ…………、──」

 ────ガシュンッ

「──うがぁああぁっ……!!!!」


「死ねッ!!! ふざけンなよテメェゴラアアアッッ!!!! クソガキのくせに俺を舐めてんじゃァねぇえッ!!!!」



な、

……な。


な………な、何をしてるんすか……? バヒョ…。
そんな…らしくないことを……。


肉蝮さまを…怒らせるような真似をして………。
シャベルで一発食らわされて……、…もう頭…凹んでるじゃないすか…………?
絶対痛くて…。…いや、痛いとかそんなレベルじゃないのは………あたしだって分かるくらいっすよ……。
うずくまって…、手からナタはこぼれ落ちて……、
もう頭を抑えるので精一杯だというのに………、


 ガキィンッ────

「ぐっい…ぎゃぁあああああああああああああああ゙あ゙!!!!!!」

「ひっ………」

「テメェなに死んだフリぶっこいてんだコラァッ!!!! 俺ァ熊じゃねぇんだぞ?!! そんなもん通用しねぇからなゴラァアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」


右手を、シャベルの側面で叩き折られて……、白く鈍いものが皮膚を突き破って…覗いていて………。
手の先はどんどん真っ青に変色していって……。


「テメェだけは絶ッ対許さねぇからなッ!!!!──」

「──絶対に許さねェエからなテメェエエエエエエエエエ!!!!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!!!!!!!!!!」


 ブンッ──

 ────ガシュンッ、────ガシュンッ、────ガシュンッ
 ──ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ

  ぐしゃり……ぐちゅり……メキメキ……ッ


「…ぁっ…………、がぁ…………っ……、…ぁ……、っ………、っ…………、……………。、………」


「ぁああ……ぁぁ……………ぁ、ぁ……」


 …何度も……何度も何度も顔面をシャベルで殴られて…………。
おでこも…鼻も口も………目も…。
打ち付けられるたび、文字通りに表情が歪んでいって……。大破していって………。
…ぷつぷつと血の泡が弾けるたび、鉄の匂いが鼻に突き刺さって……。
顔…もう、血みどろでめちゃくちゃじゃない…すか…………っ。


な…なんで。


…いや、どうしてっすか!!!?


……なんでそんな……自分が損しかしないような……ばかなことをして……………!?
…Mなんすか………? ドMでもなきゃ説明つかないでしょこんなの…………!


なんで…なんすか…………っ……!!



 ──ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、

  ──ガンッ────



「………っ……………………ぁ」


「……ふぅ〜。計三十発!!! おいチビ、凄くね?! ここまでフルスイングしたっつーのに、息一つ切れてない俺凄くねぇか?! なぁ!? なぁッ!!!」」

「ば………ば、バヒ……。…ば……………」

「オイッ、チビ!!! 何黙ってんだッ!!! テメェ如きが俺を無視すんのかゴラッ!!!!」


 ──グイッ


「ゎ…ぎゃっ!! ……ひ、ひ…あた…あたし………っ…」

「おい聞いてるよな? 何俺のこと無視してんの? 何無視してんのかつッてるよなァ?」

「…………あ、ぁた……し………」

「あ? あたし〜…がなんだよ。おい、テメェはなぁ…頭悪ぃんだから…、──」



……………どうして。
……どうしてなんすか。



 ────ガリィッッッ


「──ぃッッ!!? ぎゃあああぁいっでええぇぇえ!!!!!!!!」

「…え」


「………ぃ……が………ッ……げ…………ッ…」



…どうして。
どうしてあたしが肉蝮さまに掴まれた瞬間……、奴の脚に噛み付いたんすか。
…そんなことしたら……どうなるかなんて絶対分かってるのに………。

真っ赤になった顔で………息を苦しそうに漏らしながら……必死で歯を食いしばって………。


「ぇ……む……………、っぅ…う、…………ッ………、」

「テンッメェエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!! 絶対絶対ッッ絶対に許さねぇえええええええええええええええええッ!!!!!!」


 ──ガシュンッ、

     ────ベチャッ


「…、…………………」

「あっ……、あぁ……!!」


「殺すッ!! 殺しまくって殺しきってサツガイしてやるッッッ!!!! テメェの両親共が棺桶にゲロ吐くくらい、死体蹴り潰してやるからなッ!!!!!! クソガキがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 ──ガシュンッ、

  ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、

     ガシュンッガシュンッ………、



…もう…もう………何も見えてないというのに…ぃ………………。

…顔をぉ…しっかり……、あたしの浮いてる方向だけを見据えて…ぇ……………。

声に……こ、声に…ならない言葉で………。
…口をしっかり…形作って……ぇ……………。



「………っ………、……ぉ……………」

「……え…?」




────『に』『げ』『ろ』。

…って。



「…ぅうっ、ひ……ぅうっ!! ひょ…ば……、バ…ぁ…ヒョぉ…!! バヒョぉ…お…ぉおお…………!!!」



あたしは…、あ…あたしはバヒョと顔が合って………泣いて震えることしかできない…というのに…ぃ………。
大粒の涙が…足元のバヒョに向かってこぼれ落ちる…それだけが精いっぱいで……ぇ……。
なにも…なにもできていない……と…いうのにぃ……ぃ……。



…どうして、そんなことを……したってゆうんすか…………………?



 ガシュンッ──────。



「……ひっ……ひぅ…っ……っ、ぅ……はぁっ……っ………バ…ヒョぉ…っ……」


「………………、…………………」



「あ〜…なんか……やっぱちょっとキちゃうよな、チビ」

「…………………え…」

「人間ってこんなんになっても生きられるんだなァ〜ってな…。…命の神秘すぎて…俺ちょっと感動しちゃったわ……。マジでコイツの死、どうにかしてドラマチックな物にできねーのかなぁ…」

「…………………………」

「ほら、キレイな顔してんだろ? 死んでるんだぜ……………。…………あーやべ、泣けるぜ…」



「………………」




────……“どうして”って────。

────理由は、あたしだって分かっている。


 ………最初からあたしは分かっていた。
肉蝮のやつが全く『優しい人』なんかじゃないことを。

 絶対にあたしの心配や思いなんて一ミリも頭にはないし、…それどころか気まぐれであたしを殺したりとか、そんなヤバいだけの奴なことは……普通に分かっていた。
あたしもそこまでばかじゃないから。
ファーストコンタクトで分かってたはずだった。

でも──逆らったり、逃げたりした瞬間に捕まるのが怖くて。
それでいて……肉蝮とはいえ、たかが人間ごときに屈することを、悪魔としてのプライドが許せなくて。

『魂稼ぎの良き相棒』とか、『あたしは肉蝮を信頼している』とか、自分自身に嘘をつき続けた。
ほんとは逃げ出したくて、嫌で嫌でたまらない奴なのに、あたしは自分に言い聞かせるように嘘で心を固めてきた。

ほんとに、ただ自分の為だけに。

……ダメダメで、何をやらせても失敗して、ミスばかりで、ポンコツにも程がある……。
それだけならまだしも、おまけに開き直りクセのある、………最低なあたし。
……魔界のみんなから見捨てられるのも、当然の報いだ。

結局のところあたしは……。
自分のことしか考えてない、どうしようもないクズなんだから。


「ぐ…っ……はっ……うぅ…………」



──そんなあたしを、────バヒョだけは受け入れてくれた。



「うぅ……うぐっ……!! うぅう………!!!」



──一緒に暮らしてくれた。

──一緒におやつを食べた。

──バヒョが休みの日は、一緒にお昼寝した。

──魔界の厄介事にどれだけ巻き込んでも、追い出したりしなかった。

──あたしのせいで、アパートの娘との仲が最悪になったときだって、ただ呆れて済ませてくれた。

──どんな時だって、嫌々ながらも付き合ってくれた。


「…ぅ、うぅ………! うぅっ…! うわぁあ…うわぁあああぁぁ……」

「あ?」


──喧嘩はした。何度もした。

──でもあたしが泣いたら仲直りしてくれる。

──勘当なんてしなかった。

──あたしなんていない方が楽な生活だっただろうに、

──それでも一緒にいてくれた。


「うっ…ぁぁ…ぁあああああああああああああ……」

「う〜あ〜うるせぇぞコラ!! コイツのうめき声思い出して吐きそうになるっつーの!!!」

「うぅ……うっ…──」




──そして今、利害関係なしに、あたしを助けに来てくれた。




────…あたしの、友達だった……。




「──うわぁあぁあぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁんんあっ…!!!!! うわぁあああああああああ!!!!!」

「…な。…チィッ!!!──」

「──やかましい!!! 俺は赤ん坊のお守りなんかゴメンだぞクソガキィ…、」


 ガシッ──


「………あ?」


「…ひぐっ、うぐ……ぇ………。…にぐ、肉蝮っ………!!」



「テメェ…なに俺の手掴んでんだ? つか、なにその反抗的な目? ぁ?」

「………っ、…うぅ……!!」

「それに今、俺のこと呼び捨てにしたよな? どうした? …………俺に本気で怒ってほしいのか?」

「んっ……ひぐ……! うぐ……っ……!!」

「俺に。本気で。怒ってほしいのか、つってるよな?」

「…うぐっ……! …うるさいっ…!!!!」


「あ?」


 ……あたしは、これまでの人生、どんな局面でも楽な方を選んできた。
二つの道があれば、必ず安全そうな方へ。
少しでも自分が傷つかずに済む方へ。
楽で、安っぽくて、逃げるだけの方へ。

……そうやって、ずっと逃げ回ってきた。
それがあたしの、生き方だった。


…だから今も、あたしはこの局面で楽な選択肢に逃げようと思う。


「………ひぐっ……よく聞いて…ぁ、頭に叩き込んでよね………肉蝮っ………!!」

「………………テメェ…」

「………………と言っても…うぐっ……、…別に…理解する事はどうあがいても……『できない』んだけども…………。うぅ……」

「ぁあ?」

「……悪魔からの…、忠告です………っ。いい………?──」



「──一度裏切った奴は…何回でも裏切るんすよっ……!!!!!」




 楽な選択肢。
──『バヒョが死ななくても良いようにする』という、逃げの一手を。


…バヒョのこの姿を目に焼き付けて、優勝のお立ち台にあがりたくないっ……。
……これから何十年、ずっとずっと後悔しながら長生きなんかしたくないっ………。
やっとの思いで手に入れた、奇跡みたいな友達がいない世界なんて……あたしは何よりも嫌だった……!!

…だからあたしは……、
万が一のために、肉蝮には渡さず隠していた『魔道具』のひとつを取り出して…。
震える手で、それをマントにギュッと取り付ける…っ。


「テンメッッ…、このクソチビッ…、」

「…っ!!! お願いぃっ!!!!! ────『やりなおしカナブン』ッ────!!!!!」



………っ。…バヒョ……。
お前は「逃げろ逃げろ」って……死に物狂いであたしに叫んでたすけども…。

……あたしだって、もう逃げるのは飽きたっすよ……っ。



 ──パァァァ……


………
……
…


◆

#074
『やりなおしカナブン』

【魔道具説明】
…『タイムリープ道具。』
『取り付けると五分前まで【過去】を遡る。』


『この場合の五分前とはつまり、──』

『──肉蝮がバヒョに、最初のフルスイングを叩き込もうとした、──』



『──丁度その時────。』


◆


………
……
…


「──メムメムッ!!!!! 逃げろよォオオ──…、」

「死ぃいいいいいねえええええええええええええええええええええええええええええ…、」


 ──スッ…──。




「あっ?!!」



「あ………」




 たくさん迷惑かけて

 ごめんなさい。


 今まで一緒にいてくれて、

 ありがとう。



 バイバイ。



「────……ひょう太」





………

……

…



【メムメム@悪魔のメムメムちゃん 死亡確認】
【残り61人】



◆


……
…

「……………ねえ、小日向くん」

「…」


 私が「ごめん。勝手に使わせてもらったよ」と、スタンガンを見せても、彼は何も反応をしなかった。

スタンガンで気絶させて、更にメムちゃんの魔道具でグルグル巻きにした大男。
一旦は脅威が去ったはずなのに、小日向くんはその場で凍りついたまま、大男と同じように動かない。

私が肩を叩いても、言葉は返ってこない。
何も聞くことがない。


「…………………メムメム」


彼が漏らすのは、その一言だけ。
腕の中で、ぐったりとしたメムちゃんの亡骸を抱えるだけだった。

……辛うじてパーツが残っているといった、メムちゃんの両目を、ずっとずっと。
目を合わせて、眺め続けて。


「…小日な…、」

「………ごめん、高木さん。…少し、ここで待ってて…」

「………え? 小日向…くん……?」


薄明るい廊下にて、ふと立ち上がった彼はそう口に発した。
背中越しに「…五分で済むから」とだけ残し、ゆらりゆらりと歩き出す。


「……どこ、行くの?」


愚問だったのかもしれない。
足を止めた彼は、振り返らずに答えた。


「…作って…やらないとさ…………」

「…………メムちゃんの、を…?」


「……………」



……本当は、私も彼に付いていくべきだったのかもしれない。
でも、その時の私はただ立ち尽くすことしかできなかった。
……五分後、小日向くんが帰ってこれることを、ただ願うことしか。



「……………………ごめんな、…ごめん」


風も、音もない。
ただ電光だけが淡く照らす廊下にて、レモンのような苦い香りが通り過ぎていった。




【高木さん@からかい上手の高木さん 第一回放送通過】



【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.05:50】
【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】放心、人間(←→サキュバス)
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:…………メムメムの墓を作る。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります

【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん、ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:小日向くんと行動。
2:……メムちゃん、…そんな。
3:西片が心配。
4:兵藤、大男(肉蝮)に警戒。


【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】気絶、全身打撲
【装備】シャベル
【道具】魔道具諸々@メムメム
【思考】基本:【マーダー】
1:畜生ッ…………全員…殺してやるッ………。
2:クソチビ(メムメム)はムカついたが、フルボッコにできたからまぁまぁ満足。
3:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
4:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。



前回 キャラ 次回
073:『いいの、いいの(漸ノ篇)/(爻ノ篇)』 075:『人畜無骸』
062:『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)/(爻ノ篇)』 ひょう太 082:『あたしのあした』
062:『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)/(爻ノ篇)』 高木さん
064:『支給品:『アシストフィギュア』について』 肉蝮 083:『ヒナ・まつり』
062:『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)/(爻ノ篇)』 メムメム
最終更新:2025年10月22日 20:00
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