『愛しさと、切なさと、心強さと』
バブル時代終了の平成四年──。
九月、100メガショックネオジオの『龍虎の拳』登場。
同年十月、新感覚パズルゲーム『ぷよぷよ』が日本を湧かし…、十二月、『ストリートファイターⅡ TURBO』が登場……。
翌年──平成五年六月には初の3D格闘ゲーム『バーチャファイター』が稼働し、俺らゲーマーに大きな衝撃を与えた。
そん頃、世間じゃJリーグだかが開幕し、球蹴りブームの真っ最中だったが、んなもん運動神経もクソもねェー俺にはどうでもよし。
サッカーよりもなによりも、俺のBPM〈鼓動〉をドキめかせた情報は、『ストリートファイターⅡ』の映画化だった。
何せ、ゲーム内じゃ「ふぁねっふー!!」と滑舌悪いCVだったガイルらにプロ声優が声をあてて、しかも主題歌は篠原涼子ときたもんだぜ。
来月公開のそいつが早く観たくて見たくて仕方ねぇ──…。
ゲーマー魂がワクワク揺らめいて、毎日楽しみでいっぱい。
ルンルン気分で100円玉を握りしめていた矢先………。
俺はとんでもねェー『ゲーム』に巻き込まれちまったってわけなんだ。
「…んだよっ……。『殺し合い』って」
あぁ…っ。
クソゲーもいいとこの最低ゲームだぜ…。
何せこの『バトル・ロワイアル』っつうゲームはコンティニューが一回きりのスプラッターゲーなんだからな。
しかも、強制参加型の難易度ベリーハードだ。
モータルコンバットが可愛く見える程の過激描写もあるってわけだから、近い内教育委員会に見つかって筐体回収されるこたぁ間違いねーだろうよ。
──クソッ…。教育委員会でもおまわりでもいいから、さっさと見つけてこのゲームを『終了』させてほしいもんだ。
…だがよ。
そんなクソゲーに巻き込まれたことよりも、更なる衝撃が、だ。
…俺を待ち受けていやがったんだ……。
◆
鉄製のロープを武器に、筋肉質な男が夜の街を歩く。
街はどんよりと不気味なまでに暗く、そのうえ周囲の建物はどこもかしこもズタボロのツタまみれで、『何か』が出てくる恐怖があった。
歴戦の勇士である男は慎重に、慎重に。用心しながらボロボロのレンガ床を歩いていく。
彼は既に身も心も擦り減っていて、命の灯火も辛うじて燃えている印象。
──そんな中で、男の前後を武装したガイコツ二体に挟まれて…、
そして、男は死んだ。
デレレデレレデレ~
『GAME OVER』
…
「クソォーッ!!! もう少しだったのにッーー!!! やっぱ時計アイテムなしじゃ無理ゲーすぎるわ!!」
「つーか、お前はいつも歩くのが遅いんじゃいッー!! 膝に爆弾抱えたレスラーかよッ!」
液晶画面に映し出された『16bitドット絵』の男の、あっけない末路だった。
画面暗転後、不気味なBGMと共に出てくるタイトルコール──『悪魔城ドラキュラ』。
…俺の貴重な百円玉二枚のうち、一枚がたった数分でオジャンになったと考えるとなんともやるせねぇーぜ…。
──ハルオ…、ハルオっ……。何をしてるんだっ……ハルオ!
はぁーーあ。くっだらねェー。
まぁ仕方ないし、やることもないから、残りワンコインさっさと消費しちまうか。
と、いうわけで。
次に俺は隣の筐体『タイムギャル』へと体を移した。
…このタイムギャルは恐ろしいゲームだぜ……。
スプラッターハウスみたいなホラーゲーの何倍もある意味怖く、そして死にまくるゲームなんだからな。
何せこいつは『QTEゲー』…ッ!
──画面に表示されたボタンを超速攻で押して進めるだけの単純さだが、一秒くらいの反射神経でやらねェーと即ゲームオーバー!!
お色気ゲームのこいつは、俺たち男子諸君からパチスロよりも金を吸い取ってるだろうよっ。
「…だが、俺は死なねぇ!」
「何故ならバカみてェにやったお陰で、出てくるボタンの順番を完璧暗記したからなッ!!」
…『↑』『↑』『↓』『→』『→』『ジャンプボタン』『↑』『↑』『↓』『→』『←』『攻撃ボタン』……──完璧だぜッ!
ゲームセンターを青春とし。
ゲームセンターに費やしてきて、タイムギャルの女主人公に貢ぎまくった血と涙の努力…。
その結晶を今、見せてやるよ!!ワンコインで、なぁッ……!!!──……、
…
「あ、押し間違え……、」
バシュッ
『いやんっ!!! …えっち……』
『GAME OVER』
テテンテーンテーンテーン…
…………がっ………………。
所持金が…パーになっちまった……。
二分で……。スッカラ、カン………。
…ジュース二本がこいつで買えたと考えるとなんとも虚無な気持ちになるが……、仕方ねェよな。
ゲーマーだもの。…[はるを]
──ハルオっ………。今がどんな事態か…。分かってるだろッ、ハルオ~ッ………
周囲はガヤガヤとアーケードゲームたちの騒ぎ声が充満し、早速フェスを彷彿とさせるさわがしさ。
ズラリと並んだ筐体は、クレイジークライマーから最新作サムライスピリッツまで古今名作オールスターの顔ぶれ。…俺からしてもナイスチョイスといえよう。
この殺し合いの最中、俺は今24時間営業が謳い文句のゲームセンターで遊び呆けていた。
──なんてザマだ……。遊んでる場合かっ?! ハルオ……。
…あぁ、現実逃避すんなとか言うなよ。
「バトル・ロワイアル?なにそれ、美味いの?」って思うくらいバカな俺は、とりあえず自分の好きなモンに夢中になっていた。
つーか、大体にして俺に人殺しとかできねェーし。
女子にすらボコボコにされるアホでダメダメな男がリアルファイトできるか、って話だろ?
だから、不戦かつ、こうやって殺し合いをサボるのもあながち間違った行動じゃない、と俺は思ってるわけだ。
「悪魔城で一面ボスぶっ殺したから、それでチャラ~~…つって」
真面目にバトル・ロワイアルをする気がない俺であるが、ただ。
ただ、だ。
所持金が0な以上、大好きなゲームで暇潰しも不可能になったわけで。
つまりは、このゲームセンターからどこか移動を余儀なくされてるのだ。──クッソ暇だからよ…、俺は。
…あのとき、帰宅途中に我慢できなくてコンビニ寄っちまったのが運の尽きだぜ。
六百円もしたカップラーメンは、それはそれは涙が出ちまうほどの不味さだった…。
──ラーメンでなく情報を食わされたってわけだなっ……。ハルオっ……。
っつーわけで、さっそく俺は自動ドアから渋谷の街へ歩き始めた。
このヤングな街に今まで来たことはほぼなかったのだが、ほうほうなるほどと。
街案内看板曰く、渋谷は至る所娯楽施設にまみれていて遊び放題の酒池肉林地帯らしいのだ。──あのゲームセンターも、看板から存在を確認したわけよ。
金もねぇ、パリピ趣味もねぇ、成人年齢にも達してねぇ俺が行く先は限られちゃあいるが。
ひとまず俺は250mほど先に建つ『あの店』へ行くことにした。
「…言わずもがな、立ち読み天国──ブックオフだ!…古本のゲーマガがあろうことなら、だいぶ時間が潰れるだろうよ」
街灯に一人照らされるは、歩く俺…。
ポケットに手を突っ込みながら、静かなアスファルトを踏み続けるのだった。
──あっ、危ないッ!!! ハルオ!! 前を見ろ!!
────────────────────────────────ッ。
「ぎゃっ!!! いでっ!!!!」
いだっ……。
や、やべなんだ??!
いきなり頬がなんか切れて、…血まで出ちまってるし。
よそ見歩きしてたから、木の枝に気づかなくてかすった……とかか?
「おーー…、いっでえ………。…ま、どうでもいーや」
触って分かったが傷は浅いし、スト2のファイターのボコボコぶりに比べたら軽い怪我だから無視無視~っと。
さっさとブックオフ行って適当に漫画読まなきゃだなぁー──…、
「…ぁ…………ぁ、『悪魔』の……ッ………………………っ……。手先…めッ…………」
「…え? あーー??」
…だなんて、歩こうとした矢先。
震えまくった女児の声が聞こえて、やっと俺は目の前のちびっ子の存在に気付いた。
そいつは、俺と頭一つ差がある低身長ぶりとおさげから、…恐らく小学生。
優雅に着飾った金髪のガキンチョで、なんだコイツ外国のガキかぁー?
「……ひぐっ……うぐ…………、ぁ、悪魔狩りの……正当な血を受け継…うぐっ………………っ………。この私…──オルル・ルーヴィンス……がっ………………」
…おうおう、涙が止まらない様子でいらっしゃる。
ガキだから殺し合いを真に受けて泣いてんだろなぁ。
ま、俺ァーガキは嫌いだからよ。何かブツブツ言ってるが構う気はさんさらなし。
バカみてぇにデカい十字型の剣を持った女児なんかスルーして、俺はそそくさと目的地まで再び歩き出した。
「…────あッ?! 『デカい十字型の剣』ンンッ??!!!」
──ハルオっ!!! 危ないんだ…! ハルオっ!!!!
いやいや待てよッ!!俺ッ!!!
なんだか切り傷がじんわりしだしてきたんだが………。
『殺し合いを真に受けたガキ』がいて、
そいつが『バカみてぇにデカい十字型の剣』を武器にし、
俺は『いきなり頬がなんか切れて、…血まで出ちまってる』………。
おまけに、ガキンチョは慎重の倍近くある剣を高々振り上げてる今…………。
それって、つまり…。
つまりだぜ……?
「…オルルが………うぐっ……、直々に………いぃー………………ッ!!」
「あ、ちょ……ちょっと! …ちょっとタイムッ!!!」
つまりぃ────────は…………。
「せっ…、成敗してくれるわぁぁあああぁああぁぁぁあ────────ッッッ!!!!!!!!!! ぅわあああああああああああァァァァァァァァァァァん!!!!!!!!!!!」
──逃げろといってるだろ…ッ!!!! ハルオッ!!!
「めちゃくちゃやべぇじゃねェエエかぁあああぁああぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
スタート合図は、俺の叫び声────。
叫んだと同時に俺は超勢いで走り逃げたッ!!!!!
やべぇよ!!!やばすぎんだろッ!!!!
死にたくねぇ!!!!!!!助けてェエー!!!!!
お世辞にも運動神経なんか全く良くない俺の全身全霊をかけた爆走が、今、渋谷の街で披露されるッ!!!!
「なっ、待てッ!! …待てぇえええええええええええええええっっ!!!!! …うぐっ……、逃げるなぁ悪魔がぁああああああああぁぁぁああっっ!!!!!!!!」
「げひゃあああぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
チクショーッ!!!追いかけてきやがったしィイイイイッ!!!!!
うわぁあああひいいいいあああああああ!!!!
ちょっとタイムっつっただろうがああぁ──────ッ!!!!!!
やべえ!!!!
逃げろ逃げろ!!!!
早く走ろ!!走れっ!!!俺!!!!
「悪魔ぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!! うわぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんっ!!!!!!!」
ザシュッ────ドガァアアアアアアアァァァッッッ
ブンッ────ビガァアアアアァァァァッッッ
ひぃいいいいっ!!!!
背後からのえげつない斬撃音が恐ろしすぎるぜぇっ!!!!!!
──グッ……。このオルルという娘…………。
──たった一振りで地面や看板を破壊する体力、腕力もさることながら………──ッ、
「…わ、私は………し、死にたくないんだぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんっ!!!!!!!」
──『速い』ッ!!! 速すぎるッ!!!
──ハルオとの距離を徐々に詰めてきているッ!!
──ハルオッ!! 直進はマズイッ! 曲がり角で撒くんだッ!!! ハルオッ…!!
「俺だって死にたくねぇエエエエエよ!!!! お互い様だわっんぎょあああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
女子小学生に追いつかれて、はいYOU DEADってそんなんされてたまるかぁああっ!!!
俺は、奇跡的にもあった曲がり角に飛び込み、汗だの鼻水だの涎だの気にせずとにかく逃げたっっ!!!!
暗い路地裏を駆け抜ける…。
ここからでもなお曲がり角を入り続けて、うまく撒いて…巻いてやるぜ……っ!!!!
ゴミ箱が置いてある場所に曲がり角発見…!
「よしっ!!! 曲がるっ!!!!」
自販機横に曲がり角確認っ…!!
「いや、これは敢えて曲がらんっ!!!」
…こんな感じで『→』『↑』『↑』『←』『↑』『↑』『↑』『→』『←』『→』『↑』『↑』と逃げ惑ってかれこれ数分。
舌を犬みたいに出して、脇腹を必死に抑えながら全力疾走をし続けたが、
特に考えもせずガムシャラに進路を通ってきた結果──………。
「うっそだろ…………。ゼェ、ゼェ……、行き止まり…………」
目の前、左右真横はビルによる大きな壁で塞がっていた……。
タッ────、
「ヒィイッ!!!!」
「うぐっ……、ひぐっ………! や、やっと追い詰めた…………! 観念、観念を……うぅっ………、しろッ!!!! あ、悪魔がぁ…ぁ……………………」
しかも、全然撒けてねェーーでいやがるし……。
ビビって尻もちをついた俺………。
情けないったらありゃしねェー…。
と、とにかく言葉でっ……、言葉でどうにか説得しなくちゃ……!!
荒い息を抑えろっ…、クールになれっ、俺……!!
「なぁ……ゼェ、ハァハァ……。待てっ………」
「ひぐっ……うぅ…………うぇえん……っ」
一歩。
「ハァハァ………、お、おお、俺はまず悪魔じゃねェーし……!! ハァ、……こ、こんな人畜無害殺すくらいなら……べ、別のやつにしろ…ゲホッ……しろよっ!!!」
「うぐっ……………。んん………………ひっぐっ……………」
一歩。
「こ、殺し合いとか簡単に乗るな…っつうの…………!! 俺、お、お、俺なんか殺人する気さんさらないんだからなぁっ……………?! おいっ!!!」
「死にたくないっ………、怖いし、嫌だよっ………うぐっ…………………──」
一歩。
「──でもやらなきゃっ………! ひっぐっ……………。悪魔の、皆殺し………!!!」
また、一歩。
気が付けば、すっげえ眼の前でガキンチョが剣をふるい上げていた。
…背中にぶつかる壁がひんやり冷たい…。
泣いてばかりいる子猫ちゃんに説得なんかまったく通じず…、困ってしまってワンワン~で済む事態じゃ早速なくなってやがるっ………。俺はっ………。
「ハァ……ハァ……………」
「終わりだッ………、んぐっ………………。悪魔めッ…」
「いや……ま…………ハァ……ゼェハァ……………」
…こうもゲーム感覚で人殺しができるもんかよっ……。
振り上げた剣が、俺の頭目掛けて風を切り始める。……どうせやるなら心臓一撃とかにしてほしいぜ……。
──ハルオ………………ッ。ハルオ…………!
BPMが凄まじい勢いで脈打っていく。
…剣の落ちる音が鋭く、怖ぇ。
──ハルオ……! お前は死ぬべきじゃない………。
こんなお手本みたいな八方塞がり…ありかよ。
なんなんだ、俺の人生って。
──…お前はここで……、こんなところで命絶える男なんかじゃないっ……!!
ゲームばっかやって、
ゲームやれない時じゃ脳内でゲームをやって、
ダラダラそんな青春を送り、さすがに社会人になったらゲームと距離を置くようになって、働いて……。
そんな平凡な人生で俺ァ満足だったのに、よ…。
──……そうだ死ぬべきではないんだ。…だから………だ。ハルオ……っ…
…やっべ。さすがに怖ぇ。
俺は、そっと目を閉じた………。
──…だから、今度は俺が救ってやる。
「────ゲームオーバーはまだ早い。…そうだろ? ハルオ………!」
ガキンッ────────────────
……。
暫く沈黙が続いた。
痛みは…、不思議と無ェ……。
──……あ?無ぇ??!?
何があったのやら……、と目を恐る恐る開いてみる俺。
その先に広がっていた光景は────……。
ガギギギギギギギ…………
「ぐっ……?! な、なんだ………? …なんなんだぁっ!!! お前はぁっ!!??!!」
「あっ???!!!!」
信じられねェー光景だった。
俺に向かって振り下ろされた剣が、硬い何かにぶつかって動けなくなっていた。
その『硬い何か』っつーのが、第三者の腕。
筋肉質でゴツゴツ盛り上がる男の前腕が、──腕橈骨筋が、鋭い刃先を受け止めていたのだっ。
たしかに、一見鍛え磨きあげられたアームではあるが、大剣の切れ味を前に血ひとつすら出ていないとなると、…いやとんでもねぇ。
俺は、その庇ってくれた男を『知っている』…。
会ったことも、話したこともねェヤツだが、知っているし、いつでも俺と共に『過ごしてきた』……っ。
だから今、そいつを見た瞬間。
…驚きなんてもう凄まじいレベルだったのだ……っ!!
「え……………?! ガ、──」
「────『ガイル』……………?!!!」
「…………遅れてすまない…。ハルオ……!」
ギギギギギギギ…………ッッッ!!
…自分で話していてバカみたいだとは思うぜ。
だけど、よ。
金髪のかきあげられたツンツン頭に、緑タンクトップのマッスルマン、そして彫りの深いアメリカ人の顔って……──、
スト2での俺の使い手…──ガイルそのものが、目の前にいたのだっ……!!
奴は俺へ顔を向けた後、今度は退治しているガキンチョへと話し始めるっ。
「……確かに腕は良い。相当な鍛錬をこの年齢で耐えてきたのだな…。哀れな命運を背負わされしオルルとやらよっ」
「な、なんで……。どうしてえぇっ!! なんで、斬れないん……………、」
「斬れない理由は、人体の構造だ」
「…………………ぐっ!!!!?」
「前腕という箇所は二腕筋と補助筋の二本で構成されている。それに加えこの部位だけ骨密度が特別厚いから、骨折はしにくいのだ。…だから、重点的に鍛え上げれば前腕は鋼ともオリハルコンともなるっ……!!──、」
「──この防御作動を俺ら格闘家は『ガード』と呼んでいるのだが…──」
「────…そうだよな。ハルオ……!」
うおっ…!
俺にフってきた…!!
ガイルはそう言い終わるとガキンチョの胴体を瞬時に腕でホールド。
「なっ……────」
呆気に取られたガキンチョをかかえこむと、勢いのままに…………ぶん投げたッ!!
「フンッ!!!!!!!!」
宙を舞ったのも一瞬…。
地面へとパワー全開で叩きつけられ、ゴロゴロ転がっていきやがった。
…いやちょっと待てよ……ッ!
す、すげえ……。
すっげえヤベェーよ……!!このオッサン……!!
スト2で闘うみてぇな、あの戦法通り少女をぶん投げて見せやがった……!!
すげぇ、すげえ…!!!
「…いやガキ相手に容赦無用だなッ!! おいっ!!」
「全力でこちらに闘ってきたとなった場合、例え相手が女児だろうと…手を抜くことは失礼に値する──」
「──それに、俺がやった投技は相手に受け身を強制的に取らせる手法だ。ダメージはあれど、怪我はないだろう。……ちなみに、この投技は人体の構造上脇腹付近を……、」
「蘊蓄は求めてねェーからいいわっ!!! ……とにかく、お前……」
「……なんだ、ハルオ」
「…こういうとき、真っ先に礼を言うモンなんだろうが……。如何せん頭が追いつかねェ…………──」
「──お前何者なんだよっ?! まさか『はいそうです私はガイルです』とか言わねぇよなっ??!! 大体、お前なんで俺の名前を知ってんだ!!? まったくわけわか……──、」
「そうさ、聞きたいことは沢山だろう…。……だが、今はまだッ、…闘いは終わっていないッ!!!」
俺をぶっとい腕で遮ったガイル。
──ふと見れば、あのソード・オブ・ガキンチョがゆらゆらとしながらも立ち上がり、剣を振りかざしていた。…やべぇっ!!
「うぅ……………っ!! ひぐっ…………! あ、ぁ………………悪魔が……二体………っ!! 私が…………、殺さなきゃ…ぁあっ…………!!!」
五メートルくらいぶっ飛ばされたとはいえ、──されどたった五メートルだ。
戦意喪失どころか燃え上がっているガキが、一歩、二歩と徐々に距離を詰め寄ってきやがるっ……!!
手馴しするみてェーにブンブン大剣で、周囲の壁、そして地面を裂傷しながらヤツは休戦を知らない…!
「お、オイオイッ…!! ど、どうすれば………」
「──ファネッフーッッ────!!!!」
「「なっ!!!」」
ふぁねっふーー、と間抜けな声と共に、オッサンは自分の両腕を交差させ、膝立ちの中腰になるモーションを取ると、……なんつえばいいんだ…。
掌から……、──衝撃波…!
竜巻のように回転する黄色い衝撃波を、ガキに向かって一発放ったのだ…っ!!
言っちまえば、(←溜め→←P)────技名『ソニックブーム』っ!!!
そのソニックブームはガキの胸部目掛けて鋭く、伸びていき……、
「…うっ!!! フ、フンッ!!!!」
ザギィン……と、
大剣ではたき落とされ、割とあっさり消えたのだが。
「……な………、なんなのよッ?!! 今の火炎球は…………、何者なんだ貴様は…………──、」
「ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!」
「…??!! う、うわぁああぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!!!」
その一発で飽き足らずか、オッサンは連続して衝撃波を飛ばし続ける…ッ!!!
──…ガードだかなんだかは百歩譲るとして、だ。
ここまでくるともう普通の人間じゃねェーーよっ!!!
それとも、これもまた「人体の構造上可能で~」って説明する気か??! 説明できんのかっ?!
これじゃ、まるでゲームから飛び出してきたかのような……ッ。
オッサン、こいつ………は…………!
「ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!! ファネッフーッッ!!!」
「ぐっううっ!!!! …オラッ!! オラッ!! オラオラオラオラオラオラオラ…うわぁあぁぁぁあああああああァァァァァァァァァーー!!!!」
バキッ、バキッ、バキィバキィバキィバキィバキィバキィバキィ!
…その衝撃波を全て斬り、はたき落とすガキンチョもガキンチョでやべェーが……。
思えば、ブロンド幼女戦士って…、悪魔城ドラキュラXのマリアを彷彿とさせるな……。
────ソニックブームvs剣。
一連の攻防──我慢比べは長く続く…。
だが、どんな物でも必ず終りが来る。
我慢できず、次なるアクションを移したのはガキンチョの方だった…っ!
「ちょこまかと………、弱攻撃ばかりぃぃぃ…っ!!! …ぐっ………、無駄なんだよっ!!! 成敗してくれるわァっ!!! 悪魔ぁああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
イラつきからか、ランディ・バース並みのフルスイングで衝撃波をかっ飛ばしたガキは、地面を蹴ると高く高く……ハイジャンプッ!
上空にて、月に照らされた女は、力のままに滑空────、俺等に向かって剣を突きに立てるっ!
風に乗って、凄まじいスピードとパワーで向かってくる剣先。
それはまるで魚雷さながらのような…。
仮に命中したら、ガイルと俺そろって一撃串刺しになることは間違いない……っ。
ガキの癖にどこまでも戦闘力は桁違いだった……っ!
──だが、だな。
「だが、だ。……これを待っていたんだ。俺も、ハルオもっ……!」
「え? なに??! 待ち望んじゃいねーよ?! 俺は!!」
「…フッ、忘れたフリはよせ。ハルオ」
「……はぁッ???! おいおいどうすんだよ!! どうすんのさ!!!」
「真の強敵と相まみれる試合の時。──お前と、俺は…! いつもこの『戦法』をやっただろう………。ズルいと蔑まされても…なおっ………!!!」
そうカッコつけると、オッサンは膝を一瞬曲げ、高く飛び上がる…っ。
向かう先は、剣を突き立てるガキへと、勢いままにジャンプしたのだ……!
…ここで、俺はやっと思い出した。
武器も持たぬオッサンがどデカい大剣へ、一直線に特攻……。
これは自殺行為? それとも、無策に殴りかかるのか?
──いや、違う。
まず、『ソニックブーム』連発で相手の動きを封じ、
そして、ソニックブームが届かない空中へと飛び掛かった相手へ慎重に──、空中回転蹴りをぶちかます。
相手が、我慢できず飛びかかるのをひたすら待ち、空中で隙だらけの相手へ必殺技を一撃……、問答無用の一撃だ…っ!!
この戦法は、まさに………!
────↓(溜め)↑+キック
「必殺…サマーソルトキックゥゥゥゥゥゥ──────────ッッ!!!!!」
「ぐっぎっ??!!」
ドガァァァッ──────
「ぐあぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁっっ………………!!!!!!!」
……
ドサッ……
「戦法『待ちガイル』…………………ッ!!」
スタ、と脚をつく──ガイル。
そして同時に戦闘不能と、気絶したガキンチョ。
ただ、勝ったにも関わらず、オッサンは髪をクシでまとめキメ顔の…、いつもの勝利ポーズはせず。
虚しい顔をしていた……。
「…………殺しなんてやめるんだな、オルル……。おまえにも家族がいるだろう……………」
──────K.O.
◆
「…う~~~~~~………う~~~~……ん…………」
ぐったりしたガキンチョ……オルルを俺に抱えさせて、オッサンは言った。
「それでは、彼女は君に任せた……。…ハルオ、それではさらばだ」
…って、オイッ!!!
いやなに勝手に行こうとしてんだテメェーー!!!!
「おいーっ!!! 待てよ、ガイルー!! お、俺一人にする気かよっ…!! ──…『お前にはその娘がいるだろう』とか言わせねェーぞ!! 行くなーー!!!」
「……大丈夫だ。オルルは気が動転しただけで本来は優しい子のはずだからな。…男なら、彼女を許してやるべきだ。ハルオ」
「いや会話になってねェーーよ!! お前も一緒にいてくれつってんだよー!! 俺一人じゃ闘えないし死ぬだろーーっ?!」
「…闘えない、か……。フッ、ハルオ──」
「──お前はまだ気づいてないようだな………。自分に『与えられた力』にっ……。相手と対等にやりあえる『技』に…!」
はぁ???
何いってんだ…こいつ。
全然理解できねェーし、ンな「自分の可能性を確かみてみろ」みたいに言われても、無ぇ力なんかねェーーよ!!
「ま、『主催者からのプレゼント』みたいなものだ。俺も詳しい原理は知らんがな…」
「…俺はもっと知らねーし意味わかんねーんだが………。……って、おい!!!」
あ、あいつ気づいたら路地裏の出口付近まで歩いていやがったし!!!
本気で俺を置き去りにする気かよっ!!!
「待てテメェーー!!!!! こっちは山程聞きたいことがあんだよっーー!!!」
「…すまない、ハルオ。俺も山程いる。…救わねばならない参加者が…まだまだ…──」
「──彼らの悲鳴を無視できる俺じゃない。お前を見捨てるわけではないが、許してくれ………」
…と、かっこつけるオッサン。
受け答えは全部歩きながら。…つまり、こっちに背中を向けて答えてやがんだーっ!
もうこの場に用はない、もちろん俺と行動共にするのは一ミリも頭にない、とヤツはそう背中で語りやがるー!
……つーかガキンチョめっちゃ重ェし…。手渡すなンなもん!
…あー………もう!!チクショーッ!!!
どう説得しようが戻ることはねぇだろうなこりゃ!
「…クソッ……!」
…だったら、もうオッサンを説得することは諦めるしかねェ…。
黙って自分のポリシーに従えばいいぜ…。
だが、だ。
行く最後に、これだけは。
これだけは絶対に答えてもらいたい質問があっからよ。
聞かせてもらうぜ…、あんたに。
「……おいっ」
「なんだ、ハルオ……。俺はもう出──、」
「なんでアンタは俺を知ってんだ…」
「………………………」
「初対面なのに言ったぜ、あんたは。俺を『ハルオ…』と呼んだ──」
「──……わけわかんねぇよ、オッサン………。…もしかしてお前………、」
「俺は、記憶がない」
「…あ?」
「自分が誰で、今までどういう人生を送って、家族が誰なのか、何もかも忘れている。……お前に『力』がプレゼントされた分、俺は主催者に記憶を抜かれたのかもな……………──」
「────だが、だッ──」
「──俺は、お前が心の友『Seoul Brother』であることだけは覚えているっ……!──」
「──初対面…? そんなもの知らんッ!! 肉体は忘れても、俺の…俺の魂がッ、ハルオだけを記憶しているんだっ! だから俺はお前を助け、救った………!!」
それだけだ。
と、ガイルは…。
「…さらばだっ!!! ファネッー…Fooooooooooo!!!!!!」
夜の街へと、光り輝き消えていった………。
…よく考えたら答えになってない返答かもしれないが、ヤツにも分からんことがあんのだろう。
記憶がなくなり、自暴自棄になりそうだろうに、ヤツは覚悟を持って『自分より強い奴』へ会いに行く…。
そんなガイルを、俺は最終的に見送ることしかできねェーでいた。
ただ棒立ちだったぜ…。ただただ、な。
…
……
「…にしても、」
「なんだよ……。『主催者から俺へのプレゼント』って…………? 武器のことか?」
…武器の話してんならかなりお門違いだぜガイルさんよ。
何せオルルのクソガキに一杯食わされたから、デイバッグなんてどこに置き去ったかわかんねぇわけで……。
現状戦闘力0で、どうしようもねェーーんだが。
…しかし、『与えられた力』という言い様が引っかかるところだ。
武器のことなら、力と呼ぶのはおかしいわけで。
……言うなれば、まるで俺の身体になにか技が『ラーニング』された、みたいな口ぶりなんだが…。
…バカバカしいけど、もしやと。
ちょっと試してみるか……。一応……。
地面に向かって………、拳を握って……、
「おらっ!! パンチ!!!!」
──ドガッ!!!
「うおわっ??!!」
なーんとなく、ダメ元でアスファルトをぶん殴ってみたんだが……、
…信じられねぇ……!!!
まるで隕石が降り落ちた後みたいにひび割れて、凹みやがった……。
格闘技経験0でハムスターにさえ勝てないだろう…俺のパンチで、だ……っ!!!
…俺は生唾を飲まずにいられなかった。
「…き、キック!!!!」
次にぶち当ててみたのは、愚かにも行き止まり役をやりやがった壁にだ。
壁へ、俺のへなちょこキックを──割と本気ではあるがなんのテクニックもない蹴りを入れてみた。
入れてみると、だ………!
──ドガッ!!!
ドガァアァァァァァァ……………
「ういっ??!!!!」
まるでツタが伸びるように、壁は全面ヒビで覆われ、打点は大きく崩れ落ちた…。
…何度でも言うぜ……?
力0で、格闘技なんかゲーム経験のみで、ひょろひょろの俺がっ……!
「壁を破壊したんだ………………」
これが、『与えられた力』………?!
お前に殺し合いは不利だろう、と主催者野郎がくれたのかッ……?!
こんなハガー市長並みの馬鹿力を………、
「──いや待て、まさか…、まさかだとは思うが……………!」
だったら……、ほんとにダメ元だが試す価値はあるぜ…………。
多分、与えられたのはこんな超人的力だけじゃねェー……。
…なにが言いたいって??
そりゃよ、人をも凌駕したありえねぇ技……。
ガイルが出した『ソニックブーム』や『サマーソルトキック』みたいな…………、人間じゃ絶対に出せない──必殺技………!!
…ありえない話だが、現状がありえない世界観なんだから。
バカな考えとは一概に言えねぇぜ。
「……出てこいッ!! …俺の必殺技………!!」
よくわかんねぇから、俺の必殺技がなんなのか脳に一撃、問い質してみた。
出てこい…出てこい……!、と。
そしたら、驚きよ。
「ファイアーーッ!!!!!!!!!!!」
────ボォオオオオオオオオゥゥゥゥゥゥッ!!
「…………………出やがった…!」
念じた途端、俺の口からめちゃくちゃやべェー火炎放射が発せられたんだっ……!!
どこまでも熱く焼き尽くす灼熱が、腹からこみ上げてきて喉を通り、外へと飛び出していく………!!
これが、つまりは『俺の必殺技』──……。
どんな敵でも怖くない…、一網打尽にできる『俺の力』──………!
…あー?
んなもん与えられた今、どんな気持ちかって?
……答えるまでもないぜ。
笑うしかねぇよ!!
「ククク…………」
「ハーハハハハハハッハッハッー!!! あーはっははっはっはっははははははははっはっはっはーー!!!!!……」
「…なんでよりによって『ダルシム』なんかの技完コピなんだよーーっ?!!!!」
「普通にリュウとかケンとかカッコいい奴にしろーーっ!!!! 無能主催者ァーー!!!!!」
「だっせぇ~~んだよォっ!!!!!!」
…首を、びっくり箱みたいにびょーんびょーんと伸ばしながら、ジタバタする俺であった………。
【1日目/E7/路地裏/AM.00:31】
【矢口ハルオ@HI SCORE GIRL】
【状態】頬に切り傷(軽)、疲労(軽)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:なんでダルシムなんだよっ!!
2:ガイルについて色々疑問
3:とりあえずガキンチョどうすっかねぇ……
※矢口ハルオは出典作品特権で『ダルシム@スト2』の一連の技を使えるようになりました。
【オルル・ルーヴィンス@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】気絶、憔悴
【装備】ルーヴィンス家の十字剣@メムメムちゃん
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:……
【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】くし
【思考】基本:【対主催】
1:襲われている参加者・力なき者を助ける
2:ハルオ…生きろよ……っ!
最終更新:2025年03月05日 07:59