『そんなガキなら捨てちゃえば?』



[登場人物]  美馬サチ西片ガイル








 出会ってまだ何時間も立ってないけどさぁー、そろそろ捨てちゃおっかな…。
この『ロボ』。
…はぁー……っ、うっぜ。


バス内見渡した限り、参加者はどれもこれもパッとしないダサい人間ばかりだったけども、──どうせ出会うなら女子の参加者が良かったわ、ほんと。
まー、女子つっても誰彼構わずウェルカムって訳じゃあないけどさ。
対象内は私よりカーストが若干下、それか同程度くらいの女子がいい。
あんまり陽キャな奴相手だと合わせるのが疲れるし、かといって腐女子()みたいなド陰キャならつるんでる私もダサい扱いされるからNGで。
まこっちみたいな毒にも薬にもならない凡な奴と、できるものなら組みたかった感じだわ。

あっ、あと願わくばおまけ要員として、陽キャで賢くて私達を守ってくれる男子とも組みたい。
顔もねー、高望みはしないけどさ、中の上くらいの男子を私は希望だわ。いくら性格が良かろうとも、不細工とかオタク系の奴はマジで無理だから。…ほんとに、無理すぎ。

あ、話変わるけどさぁー、ダセェ男子ってなんで皆揃って黒縁メガネかけてんだろね?
視力悪いにしても、シャレた眼鏡とか売ってんだからさー、自分磨きに意識すればいいのに。
そんなんだからオタク共はモテないし嫌われんだよ、って常に思うわ。女子からしたらマジあり得ないし。


ほんと、冴えない男子って何もかもダメだし気持ち悪いわぁー……。


「………高木さんっ…!! 頼む、電話に出てくれ!! 高木さん!」



──あっ。私、そのダサ男子と今つるんでんじゃん。眼鏡はかけてないけど。

…マジ最悪っしょ、私。



「………………」

「高木さん……。高木さん……っ。……………。ダメだ、何回掛けても出てこない……」


「………ハァ…」


 えーと、西坂…だっけ。西村……だか、西田だか………。…どうでもいいか。
興味本位…っつーか。バトロワスタート後、何となく声を掛けてしまったのがチョー運の尽き。
この命名:『高木ロボ』は壊れたかのようにさっきから同じ人名をブツブツと喋り繰り返している。

…なんなの?
いや割と本気でなんなわけ?


「…美馬先輩…」


うわー、芋臭い顔でこっち向いてきたし。
何話したいわけ? 高木ロボさぁー。


「……もしかしてですけど…、高木さんって女子を見掛けたりしてませんか?」


はーい、これで二十二回目の『高木さん』。
んな奴知らねーし、バトロワ始まって移動なんてしてないから会うわけねーし。
普通考えりゃ分かると思うんだけど、高木ロボって案外思考回路欠陥品なんだね。

くだんないことで一々話しかけて来んなよ、っぜーな。


「……。…ごめんね。悪いけど西片君以外まだ誰とも会ってないからさ。分かんないや」

「…うぅっ、クソ……。…オレと同い年で、センター分けで茶髪の…。…とにかくその子…。──高木さんはオレとクラスメイトで探さなきゃいけないんですっ…!」

「…うん、…そう」

「オレ、いつも高木さんにからかわれてて…。その度に『次こそは見返してやろうっ!!』って意気込むんですけど、またからかわれて………。毎日毎日…。屈辱感でムカムカしながら、からかわれ続けるんですけど──」

「──そんな高木さんをっ! …そんな彼女だからこそ、今オレは守らなきゃダメなんです……。だから焦っちゃって……。本当にどこにいるか心配なんですよっ…!」


はい、これで『高木さん』二十三、二十四、二十五回目ーー。
…って、私も私でなにコマメに数えちゃってんだ。…あーあ、アホらし。
まー、オタク特有の急に饒舌になる高木ロボに比べりゃアホらしさもそこまでだけどね。


「…あっ、そうだ! 今、高木さんの写真見せますから! ………………。…この子です…! 美馬先輩…、見覚えないですか?」


だから知らねーモンは知らねーっつうの。
無様な高木ロボ、安物のスマホ取り出して写真見せびらかしてきたけどさぁ…。


……はあ。

この高木って奴……、まぁまぁハイカーストそうな顔付きはしてるけど、…なーんか……田舎臭さあってダサくね?(笑)って感じ。
マジでしつけぇ奴だわ高木ロボ。この写真でシ●ってそう〜…(笑)。
…あっ。ロボの奴、ワンチャン「オレこんな可愛い子と仲良しなんですよぉ〜」って見せびらかしたいだけだったりして。
きっっしょ。


「……本当にごめんね、ロ……西片君。とりあえず今は落ち着いて様子見すべきだと私は思うんだけどさー。…ね? 落ち着かない?」

「……くっ………。うっ……──」

「──申し訳ないですが、到底落ち着けないですよっ…! 美馬先輩は参加者に知り合い居ない様ですが、高木さんは僕の……と、友達なんです…!」

「…………そうなの?」

「だ、だからっ! …無理強いはしないですが、お願いしますっ!! 僕と一緒に高木さん探しに協力してくださいっ!!! このビルから出て、彼女を探しましょう!!!」



…あ、ヤバい。なんかカチーンって来たかも。



──ちなみにいい忘れてたけど私が今いる場所、スタート地点のビルだから。
…変に動いたらやべー奴に襲われるかもだし、当然の行動だよねぇ? 普通。


…その私が冷静に見出した『普通の行動』を理解もせず、自分本位でグダグダ高木高木うっさく喚いて。


これだからカースト下層のフツメン野郎は嫌いなんだよっ……──。



「…あのさぁ、西片君。────何でそう自分中心に進めちゃうわけ? 何なの?」

「……え? み、美馬先輩………?」

「女子はさぁ、空気を読み合って協調性を保つんだけどもさ。さっきから高木さん高木さん〜って自分の事ばかり話すじゃん?」

「………………美馬、先輩……。お、オレは高木さんのことを思って…」

「いやそうゆうこと言ってないし。あのさぁ、正直言っていい?」

「………」

「西片君さ、空気読もうともしないから、私が行きたくないオーラ出してるの察せてないよねえ? どうして私に合わせてくれないのかなあ? これでプラプラ出歩いてさ、私殺されたら西片君の責任になっちゃうね。ねえー?」

「……………」


「…オレだって、自分が焦ってるのは分かってますよ」

「え、なに?」

「だけどもっ…!! オレは高木さんを探したいし、…かといって美馬先輩を一人放ったらかしなんかできないっ!!」

「…………え?」

「だから、だからっ……!! お願いします、お願いしますっ!! オレと一緒についてきてくださいっ!!! お願いしますっ!! 先輩!!」



「………………。…あっそう」


………高木ロボってさー。
多分、普段の学校生活でも、優しい真っ直ぐな男『キャラ』で頑張ってやってってんだろね。
まじウケる………。


──こういう輩…、ぼっちやオタクよりたちが悪い。

──私が一番嫌いなタイプな、クズ……。


はあ……。
本気で、そろそろ捨てるタイミングかもしれないや。
この産業廃棄物《高木ロボ》。


死ねよ陰キャ。




 …
 ……

 “みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!”



 “『新田義史』って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!”

 ……
 …



 真っ黒な夜空が青みがかってきた頃合い。

コ●ダ珈琲店のテーブル席にて、
──頼んだアイスティーに一切手を付けず、ただストローを回すのみの私と、

「………………………」


──能天気にカツパンセットをガツガツ燃料補給す《食べ》るウザロボットと、

「それにしてもスゴいですね…。その筋肉……! 一体どんな鍛錬を積んだのかオレには想像できないですよ………っ!」



──そして、筋肉質かつタンクトップのアメリカ人。

「…いや、大した事はしていない。ただ日々の訓練と業務で自然についただけだ、この肉体は。…フッ、俺なんかよりも西片。お前の方こそ中々の身体をしているじゃないか。その鍛えた腕に、腹筋。その歳にしては素晴らしい肉体美だ」

「え! い、いや! いやいやいや、いや〜!! そんなコト無いですよー! ──『ガイル』さん!」



「………………………ハァ」



────「お前は誰だよ」の境地だわッ。


 …遡れば十数分前。
バカカラスみたいに「タカギサーンタカギサーン」と鳴き続ける高木ロボに、もう私は限界寸前だった。
バトロワ中にボッチとか二重の意味でやだから、ロボの切り捨て時が見つかるまで同行してたんだけどさぁー。…ほんとにコイツ《ロボ》は生理的に無理過ぎる。
いつどこで頭のイカれた奴に遭遇するか分かんないっつーのに、……なんでコイツ、こんな大声出せるわけなの?
無警戒にウロウロ町中を行ったり来たり、探し続けてるし。
どんだけ頭が悪いの?? コイツ。

私が「声のボリューム控えて…」ってか〜なり優し〜く注意しても、一分後には鳥頭同然にまた鳴き続けやがるし。
…こんな奴さっさと殺せばいいじゃん、ってトコなんだろうけど、殺人とかクソ気持ち悪そうだから手 下したくないし。
もうどうすればいいわけ………? めちゃくちゃイライラして血管切れそうなんだけど、って感じで。


イッライラ。

イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…───────って、私は眼の前のだらしない背中に呪いを飛ばしまくってたわ………。



────そんな爆発寸前の時に声をかけてきやがったのが、タンクトップの変態だった。


ガイルとか何とかって名乗るソイツは、「君達は俺が守るッ…!(一部省略)」とか偽善宣言してきたから、コ●ダで三人座る今に至るってわけ。

──一応言わなくても分かるよね? 偽善タンクトップ男を仲間に引き入れたの、当然私じゃなくてロボだから。
コイツが目輝かして「共二行動シマショウ。高木サーン」とかほざいたんだからさ。勘違いはしないでよねえ?




「……………はァ………………………」


…マジで、
……うっぜ……。


「…あ、ところで美馬先輩…。もしかしてどこか具合悪いんですか?」


 ………は? なに。
どこも悪くないし。
あんたとは仲良くともなんとも無いんだから、一々こっちに絡んでくんなよ。


「……え。なんで? 西片君………」

「だって、今結構小腹空く時間帯じゃないですか。だから皆でコメダに着たのに…、先輩アイスティー一つ飲んですらいないから………。ちょっとオレ心配で…」

「……………」


また何も考えずに話してるよ…。
毒物入ってる可能性もあんのに無闇食えるかっての。
大体、私女子なんだけど。
こんな深夜にパンなんか食べたら太るでしょ。
そう言うちょっと考えなくてもできる気遣いできないから、ロボはモテないカースト三軍野郎なんだよ。
…コイツが自慢気に思ってる彼女の高木とかいう奴も、どうせビ●チでしょ。うちの学校の佐々木みたいなヤ●マンビッチ。
ちょっと顔良いからって調子乗ってそうだし。


「いや、西片。サチをそっとしといてやるんだ」


「…えっ、ガイルさん。で、でも……」

「この状況だ。彼女だって言葉には纏められない思う事が沢山あるのだろう。…それに、レディーに『食え食え』と迫るのも…。フッ、関心しないな」

「あ、そうか…。すみません! 美馬先輩……!」


いや変態タンクトップお前は良識あんのかよッ。うわぁキモッ…!
明らかに変人な服装のクセして、いっちょ前に気遣いはできてやがるし。
ロボと違ってコイツは陽キャ男子っぽいからまだ抵抗感は薄いけどさぁ…、それでもやっぱ無理だわーー…こいつ…。
(というか、今更だけどもロボの奴…完全に高木のこと忘れてるでしょ。なに呑気に飯食べてるの?……)


「あっ、いい機会だから聞いちゃおうかな…? ガイルさん!」

「…ん。なんだ、西片」

「オレ、高木さんにからかれる度に…──っというか毎日腹筋や腕立て伏せを百回してるんですけどー……。それだと言うのに誰に聞いても「全然変わってなくね(笑)」とか言われて………」

「…ふむ」

「どうやったらガイルさんみたいにムキムキの漢になれるんですかっ? …ウエートとか? オレ、もう分かんないんですよ〜っ」

「……なに。簡単な事さ。筋肉は長年の努力で引き出していくもの。すぐ結果が出る訳じゃないんだ、西片。ただ、一つアドバイスをするのなら、まずは三角筋の鍛え上げから試せ。肩の力だ」

「……は〜、なるほど……。肩、ですか!」

「あぁ。成長期真っ只中の西片は腹筋よりも肩を重点的にした方が良い。…ましてや、ウエートトレーニングなどする価値はない。やめておけ。俺もそんな物一回もしたことはないからな」

「えぇ!? でも、テレビとかスポーツ選手は良くウエートって…」

「西片。トラやライオンはウェイトをするか? ──持って生まれた体のバランスがある。する意味などないのだ」

「あぁ〜!! 確かに! 勉強になります!」




「………………はァ」


オタクってさぁ、なんだろう。
やたら筋肉質になることに憧れてるよねぇー。
女子からしたら、許容できる範囲は細マッチョまで。全身筋肉づめなボディビルダーとかキモいしドン引くのに。

夢壊すようなこと言うようでほ〜んとごめん〜。──マッチョとかモテないから。
ウエートだか何だか知らないけど、女子から見向きされたいなら違うトコに努力しろっつーーの。


まったく。
何なのコイツら………。
コイツらの会話は聞けば聞くほど、無様で、バカ全開で、ツッコミどころ満載。
一人とか絶対やだから無理にでもコイツらにつるんでるけど、何もしてないのに物凄い疲労感湧いてきてしょうがない。


…本当に色々終わってる二人組。



……かと言う私も。

ほんと、終わってんなー。


…性格……………。




「あ、うっ!!!!」



うわ…ビックリした。
いきなりうめき声あげないでよブスロボ。


「…え。西片君どうしたの?」

「…あ、えっと。……いや、何でもないですけど。──…って!! 何でもはあるか…!」

「は?」

「えーと……。何ていうかその…………──」

「──ちょっと、『花を摘みに』失礼したいなぁっ〜て…。………なんちゃって。 と、ととにかく行ってきます────っ!!!!!!」



「…………………」



…つまんね。
腹を抱えながら猛ダッシュでトイレに向かうマヌケ面。
……あんな奴野垂れ死んで、ホームレスみたいに朽ち果てればいいのに。


「……緊張性胃痛か。…哀れな運命だな。俺はまだしも、闘いなんて無縁なあんな子供が……、──殺し合いをする羽目になっているのだから。………主催者…、許せんッ………」


「……………………──」





「──…はぁあ………………」


 ……さて。
願うまでもなく現れたこの『高木ロボがいない』時間だけども。

アイツが戻ってくるまでのタイムリミットはせいぜい五分くらい。
その間、何の興味も関心もない、絶対に趣味も合わないこのガイルと二人きりとか、なんて居心地の悪いこと。
間を保たす為に、コイツと何を話せばいいのかってわけだけど、会話なんて何も思いつかないし。…大体私、男と話したことなんかそんな無いし。
逃げ出したいくらい窮屈な無言の間になることは、簡単に想像できた。


「………………」

「………………………ふぅ」


かといって、本当にここから逃げるのも絶対嫌。
こんな都合の良い筋肉バカを引き連れてるというのに、一人になって殺されてたまるかって話。

私は絶対に死にたくないし、言っちゃえば最後の一人に私がなりたい。



『絶対優勝したい』っていう強い願望なんかないけど、死ぬわけにはいかないから優勝したい。



「………………」

「………………………」



──となればさ、私がコイツとする会話は。


──そんなの、一つしかなかった。



「………。…──ところで、サチ──…、」



ぶりっ子ぶって、私はガイルの胸元へとギュッと抱きついた────。



「……──ッ!? サチ、どうしたっ!! いきなり…」

「ガイルさんっ…! お願い…、…私を助けて……………」

「なっ!? どうしたと聞いているだろう!! サチっ!!」

「…さっき…言ったよね………。出会った時に、ガイルさん……。『美馬、君を守る。絶対に助ける』とか………………。…だから、だからさ…………」

「…あぁ、確かに言った。俺は力無き者を見捨てたりはせん。君も、そして西か──…、」




「だったら西片君を殺してくれない?」







「…………………………………なにっ?」



 …ハァ…。

…コイツの体、汗臭…………。
やっぱ筋肉野郎のゴツゴツした体って耐えられないわ、無理過ぎ………。

……でも今はまだ我慢っと。演技に集中ー。



「…サチ。君は血迷っているのか? …自分が何を言ったのか、……分かっているのか」

「…………そら貴方には分からないでしょ…。会って……数分もしてないんだからさ…………。────西片、アイツの本性がっ…」

「………詳しく言え」

「私たちと……初めて会った…数分前を思い出してよ……。あの時の私、…どんな顔だった? ねえ、ガイルさん………」

「…………」

「…凄い絶望して、すっごく泣きそうで嫌な顔してたでしょっ………。私…………。…西片のやつに……、服破かれて……、ヘンなことされそうになって…………。拒んだら急に豹変して、殺されそうになって……………」

「…………さ、サチ…」

「あの時、ガイルさんが通りかかってなければ…、私殺されてたのっ…!! だから、アイツが善人のフリして貴方に近寄り……、何もなかったように食事してるのが…………。私、怖くて、たまらなくて……──」



「──だから西片をやっつけてよ。ね? ガイルさん…………」

「………。………………サチ…──」



「──すまない。君を疑うつもりは無い。…だが信じられん。信じられぬのだっ………」

「…………」

「あの真っ直ぐな瞳をした、殺しのこの字も知らん童にっ。……外道に堕ちた真似ができるとは……。………サチ」



…………チッ。めんどくせーな。
これ以上私にイタい芝居させないでよ。

…あと、さっきから私のこと『サチ』呼びってさぁ。……フランク過ぎるにも程があるでしょコイツ。


「………信じてくれないの? 私のこと」

「俺は、疑心暗鬼が苦手だ。……君のことも信じたいが、西片も同じく信じたい。…………どうすればいいか頭が痛いっ…」

「……証拠ならあるのに。…西片が、ヤバイ奴だって証拠は……………」

「…なにっ?」

「…一時くらいにさ、なんかスゴい放送聞こえなかった? ほら、『みんな、あの参加者に気をつけろ〜』……って……」

「……あぁ、聞こえたさ。それが何──…、」


「『【にしかた】って男は殺し合いに乗ってるぞ──』。──とか、………………言ってたよね?」


「……っ。………………………──」


「──いや違う。…俺もおぼろ気だが、西片ではなく【にった】と言っていたな。……サチ、君の勘違いだ」


…確かにそりゃ違うけども……。
頭使えないバカの癖に一々反論してこないでよ。
あぁもうっ…ほんとウザいわ。


「…いいえ、違う。絶対に西片って言ったから」

「……さ、サチ。何故君はそんなに西片を──…、」

「あの放送の時、ガイルさん何してた?」

「……何とは。…俺は、泣いてる参加者を守るため街を走り回っていたが…」

「ほら、だからじゃん………。黙って聞いてないから…聞き間違いするんだって」

「…………………」

「聞こえてなかったのなら、改めて私から言い直してあげる。……【西片は危険人物】だって。……私を…信じて……、ガイルさん」

「……サチ……」


だから名前呼びしてくんなっての。呼ばれるたびに鳥肌たつわ………。
……はぁ、まっどうでもいいや。一々…。

分厚い胸筋に顔をうずめて、ギュッと力いっぱいに抱き着く。
鼻を閉じながら、私はトドメとして『泣き真似』をアイツにぶつけこんだ。



「────お願いだから、私を信じて…っ。…私だけを守って…っ。………助けて、──ガイルさん……………………………」


「…………………! ……サチ……………………」




…ちょっと目線を下に落として、確認。

……なーんだ。
私に抱かれてコイツ勃●でもしたかと信じてみたけど、全然じゃん………。
まあしてたらしてたでサブイボ全開なのは確かだけどもさ………。

どうでもいっか、そんなの。


「……サチ、…疑ってすまない。ここは俺に任せてくれ……ッ」

「え? ガイルさん…。じゃ、じゃあ………」



「君のことは俺が守る。……絶対に、……絶対にっ、だ………! ──西片から……」

「………っ! ガイルさん…………!」



──勃とうが勃たまいが、コイツを完全に『堕とせた』のは変わりないんだから。

…私のド大嘘で。
ぶふッ…!

ほんと私って性格終わってるわぁ〜〜。
なんかガイルの奴、殺意の波動に目覚めたって顔してるし。うわ、やっばー…(笑)



 ──ガチャッ


「あ、美馬先輩にガイルさん〜…! すみません!! ほんと急にお腹が痛くなっちゃって〜…。ヤバかったですよ」

「…あっ」「………………西片…」


そうこうしてるうちに、何も知らないロボが登場〜。
能天気にヘラヘラ笑っちゃって、…めちゃくちゃ滑稽なんだけど……!


「……………」



「…あれ? な、なんだこの空気の悪さ……。み、皆さんどうかしましたかー??」


「………」


「…。…西片……」

「…はい?」

「西片………。話したい事がある。…表に出ろ。良いな」

「…え?? …良いですけど…………。……??」



「………………」





「………………………フフッ!」




あっ、やば。
つい吹き出しちゃったけどガイルにもロボにも聞かれてないよね……? …うん、聞かれてないな。ラッキー。



ほぼ羽交い絞めみたいな形で変態タンクトップに連れまわされる西片。
その背中を眺めていたら、ちょっと前の過去が頭によぎる。


 ……思い返せば、私は中学生の時からダサい男子が大嫌いだった。


私の人生史上一番ダサい男はあの時のコンビニ店員だ。
生理用品を買いにコンビニ行った時。
女の店員なら配慮で茶色い紙袋に包んで渡してくれるんだけど、男店員はそんなことしない。
だって、そんな『配慮』知る由もないんだから。するわけがないし、それに一々私は気にはしない。
それが普通だから。

でも、あの冬、会計を担当した男店員は違った。
紙袋に入れた上に「ご一緒にレジ袋に入れてもよろしいですか?」とかわざわざ聞いてきたんだって。

分かる? めちゃくちゃ気持ち悪くない??
イケメンとかならまだしも、そいつ…何ていうかその、チー●牛丼食ってそうなのっぺり顔だったし。
その「誰も知らない女性への配慮を、俺しちゃってんだぜ。カッコいいだろ?」って透けるアピールがさぁ。
…私、思わず軽蔑の視線を刺しちゃったわ、ほんと…。



……で、そんなわけだから、私はお前が大嫌い。

バイバイ、高木ロボ。
お前さぁ、その店員と同じくらいに、生きてる価値ないからさ。


あっ。間違っても私を恨まないでよね~?
ロボを殺す張本人はそのタンクトップ筋肉バカなんだから(笑)

ハッハハ〜〜〜…!
うっける〜。


…あーー、そうだ。
言い忘れてた。
ガイルのアホに、ちゃんと『即死』で殺すよう釘刺しておかないと。

下手に戦闘長引いてさ、西片と話したりでもして、矛盾とかボロ出てきたらこっちがマズくなるんだから…………。




【1日目/B5/コメ●珈琲店店内/AM.03:19】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:筋肉バカ(ガイル)に引っ付く。場合によっては切り捨てる。
2:さて、ロボ(西片)が殺されるまでインスタ見て暇潰そーっと。
3:自分とカースト同程度の女子の参加者と行動したい。
4:で、そいつと誰かの悪口言いたい。

【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガイルさんについていく………。なんだ、何があったんだ…?
2:高木さんを探したい。
3:美馬先輩を守る。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】くし
【思考】基本:【対主催】
1:西片……………っ。
2:襲われている参加者・力なき者を助ける。
3:サチを助ける。
4:ハルオ…生きろよ……っ!



前回 キャラ 次回
048:『空に消えてった 打ち上げ花火 050:『意味が分かると怖いダガシ
017:『ミステリアスな先輩の雰囲気 サチ 070:『男の闘い
017:『ミステリアスな先輩の雰囲気 西片 070:『男の闘い
006:『愛しさと、切なさと、心強さと ガイル 070:『男の闘い
最終更新:2025年07月18日 21:14