『ゲーセンで出会った不思議な子の話』








 『汝。撃って良いのは、自分も撃たれる覚悟ある者のみに限る。覚悟の無き者は即ち、か弱き。か弱いことは決して卑下することではない。穏やかな人生を送ることは、立派なのだ。』


 …かの有名なバーバラ・クーニー著の一節から抜粋です。
どんな不可抗力的困難がたちはばかろうとも、絶対に殺人という手段は使わず、穏便に生きろという意。
その文章を読んだとき、私は「……当たり前のことでは??」と半分嘲てしまったのですが、この現状下では深く身に染み渡るのです。


「…殺し合い………」



「トネガワさん……。悪いですが、私は絶対に人を殺しませんよ……………! 絶対に!」


 水色のバリアーに塞がれし、星空の下。
バーバラ・クーニーのお言葉がふと脳裏に蘇った私は、断固として『不殺』を決意するのでした──!!

 …申し遅れました。
私はポルトガルからの留学生。
周囲の人達からは『マルタ』と呼ばれています。
異国人である以外、これといって戦闘力のないごく普通のグ~タラ女子な私ですが、今回はあるとんでもない女の子とのお話を一つ。


 ゲームセンターで出会った不思議な子の話を、紹介させて頂きます………。






「ん~~~~~~~~~~~っ!!!!! おいしーっ!!!!!」


 カルカッサ Carcaçaは、母国ポルトガルの伝統的なパン料理。
生地に軽く炒ったピーナッツやカシューナッツを練り込み、糖バターとジンジャーシュガーで甘く味付けたパンなのですが………これがすごいいけるいけるっ!
ふわふわなパンを噛めば広がるバターのコク。
そして、ほんのり優しい甘みがナッツの食感とプラスされ、これにミルクティーが添えてあったら……と深夜なのに食が止まりません。
アンパンサイズのそれをペロリと胃に入れた私は、後はベンチで熟睡するまででした………。


「……と、いつもならここで終わるところをさにあらず………」


 ガ~~ン……。
ショックです…。
…いや、もうショックだなんてかわいい言葉では済まされないでしょう。
今はバトル・ロワイアルという非常下。
血糖値上昇に伴う睡眠は命取りなのでした……。

 バトル・ロワイアル…といえば、このカルカッサもいわゆる『支給品』の一つ。
…というより、『支給武器』なのでしょうか。
私に渡されたデイバッグには、これと参加者名簿しか入ってなかったのですから、パンを入れてた『袋』でなんとか殺せ…という意図なんだと思います。
…いやはや、袋で人を殺せとは………。
レジ袋サイズなら窒息死とかいけそうですが、こんな小さいポリエチレンで一体何ができると言うんですかね……?
頭がギュ~っと鈍くつままれた気分です。
……あっ、断じて私は人殺しなんかしないですけどねっ?!!

 …しかし、
殺しはせぬとも死ぬ気は全くない私。
これから、どう動いて、誰に何をするべきか……。
人生最大級の危機だというのに、なんだか頭の働き具合が悪い今ですが……、無理矢理にでも考えるのでした。


「……はぁ~~………」



「……………」


「ん~~~~~~~~~~~~っ………」

「ん~~~~~………、ん~~? …んん……、んんっ??? ………う~ん………」

「………………うーん」



「………美緒子ちゃん、私が留守で心配とかしてないでしょうカ…………」


 …う~~~~~~む。
頭の調子が尋常じゃなく悪いようで、考えても考えても最善策なんか捻り出すらありませんでした……。
こんな時に限って、別のことが頭に過ってしまう私……。…これは深夜帯という時間のせいでしょうかね?


 …もしも。

仮定で、私が住むアパートの皆がこれに参戦させられたとした…です。
彼女らは、一体どういう行動をするのでしょうか。


例えば、<医者の神永さんのケース Case>なら……。


「…殺し合いぃ~? んなもんシラフだから神妙に感じるんだよ!」

「酒のんでパーっとなれば殺人も遊びでできちまうのさ。ほら、岡本太郎が言っただろ? 『芸術は殺人だッ』って…アーハッハッハハハ!!!」

「……とか言うんでしょうねぇ~。って、それじゃマズイマズイッ!!!!」


…失礼。
私の猿真似を交えての、Case紹介といきます。
…えーと、じゃあ……、<関西人の由香さんのケース>ならば……。



「…なんやねん! 殺し合いって!! アホンダラ言うで!」

「言っとくがうちは絶対人殺さんからなっ!! お天道様の元歩かれへんさかい!!」


「…え? なに?? 優勝したらなんでも願い叶えるって???」

「…………」


「…ほなら話は別やん?!! うちも優勝して、タイガースの福留の成績良うしてって言いますわ!!」

「今年こそ阪神優勝やでー!! なはははーー…………って、これもヤバいじゃないですかァァーー!!!!!」


 …あの二人なら後先考えず暴力に走るであろう、そのことに寒気がしました……。
別の意味で、神永さんたちがこの場にいないことを感謝します…。

となると……。
残すところは、由理恵さんと美緒子ちゃんになりますがー。
美緒子ちゃん…の……場合だとすると……


「…殺し合いって……。言ってしまえばかなりイカれてますけど…、自分もイカれるべきかと問われりゃ違うわけで…」

「大事なのは周りを見ることだと思います」

「…あのバスの中で、何人小さい子たちがいたか……。子供たちを守り、そして人として正しい示しを見せるのが、我々大人の役割でしょうからね……。みたいな………」


「………うぅっ……!! うわぁあぁん!!! 美緒子ちゃんならそれ言いそう!!! というか人として凄すぎますヨ!!! 美緒子ちゃーん!!!」


 …あくまで私の想定上の美緒子ちゃんですが。
いやしかし、彼女は絶対にこの理念の元揺るがず動くのでしょう……。
損得抜きに子供たちを助け、道を誤った者から身を挺して守り抜く……。
理想的行動です……っ!!


…となれば、ですよ……?


「私も考えてる暇があれば、美緒子ちゃんを手本に助けに行くまでデス!!(あくまで想定上の美緒子ry)」


「…よしっ!! 行きましょう!!」


 早速ベンチを立ち上がった私は、余った一つのカルカッサを片手に、眼前の施設へと歩き出しました…!
参加者たちの初期位置は恐らくランダム配置…。
ということは、この二階建ての施設内にも誰か子供がいるかもしれません。
アスファルトから伸びる階段を登れば、…不良の溜まり場でお馴染み──ゲームセンター。
一方、その下は大型百均ショップという構造になっていますが……、どちらから先に入るべきか………。
…なんとなく、子供はゲームセンターのイメージですが、この選択。
一歩間違えれば『死』の可能性があるので、侮れません。
…一体どちらを選べば……………?


「…って考えてる暇はないでしょう私!! 二階にしましょう! 二階に!!」


 というわけで、今私は階段をズカズカ走り登っています。
…もっとも、ゲームセンターに行き先を定めた理由は入口前の自販機に目を奪われてしまった………、だなんて情けない話ではありますがね。


 タン、タン、タン、タタタ……


「はぁ、はぁ……。よし!!」


階段を登り、真っ先に入る透明の自動ドア。
ウィーンって自動開放され、息が切れる中くぐり抜けると、私は大声で叫びました。


「おーい!!! 誰かいませんカァーー?! 私は殺しに乗ってませーーん!!! 助けに来ましたぁーー!!!!」


「……って……………」




「……………え?」


 ゲーセン内にはいました、いました。
黒髪ロングで、お人形さんのような完璧な容姿の女の子が。
私を待っていたかのように子供がいたのです。



「…………なんですか…………、これは…………」



 ただ、寒気がしました。
このゲームセンター内は、まるで戦場跡のように。
至る所、配線がバチバチッと。
筐体、壁、床………。全てが穴凹まみれだったのでした………。






テンポの良い電波ソングが響く中、少女は右足を光る床にタイミングよく。

タッ────と。

「…………………………………」


音楽がズンズンとサビに乗り、画面上の光のスピードも速くなる。
少女の繰り出したアクションは、くるりと横に一回転ジャンプ…!

「…………………………………」


宙を舞い、スカートと黒いセーラー服がヒラヒラなびく。
ロングスカートにも関わらずギリギリ見えるか見えないか、というぐらい風を受け入れてましたが、床の一部分が光り輝いた瞬間、彼女はその部分へ着地。
両足を広げ、ターーンッ────と!!

「………………………………」


 汗の玉水が飛んだ中、少女は着地後不動の姿勢…。
電波ソングが鳴り止むと、画面上には、

『Game Clear!!』
『Highscore!!!! 658,347』

『Rank 1──『OON』 658,347』
『Rank 2──『TSF』 425,368』
『Rank 2──『UMR』 425,000』

の文字が……。



「………………………………」



 その記録を前に、彼女は誇らしいのか興味がないのか…。
無表情でただ眺めるだけでしたから、何を考えているのか皆目検討がつきません。



 私、マルタは、ゲームセンターにて。
体感型リズムゲーム『Dance Dance Revolution』を踊る少女に遭遇したのです………────。

…見事に争い跡を残した、この瓦礫同然のゲームセンターで、です。



「あ、あの~~…………………」


「………………………………」



「………………っ…」


「………………………………」



 ゲームをクリアーした少女──OON……おおの…ちゃん? と目が合うこと数十秒。
思考がパンクした私と、大野ちゃんとで無言の両者向顔となりました…。
一切思考が読めないその真顔……。
目があった時点で、何か話しかけてくるだろなぁ…、と思ってましたが、口は全く開かず。

 正直、すごい怖かったです。
大野ちゃんも…。
──何よりこの破壊されきったゲーム環境も……っ!

 第三者が激闘の末、荒らしきったのでしょうか。
…しかし、それにしては少女の気にも止めない態度が妙に不自然……。
なら………。この悲惨な破壊活動は……。
もしかして、こんな小さい女の子の……仕業……………?


「……あのー……、き、キミ……………」


「って………、あっ………!!」


 そんな大野ちゃんは突如として何を考えたか。
私をスルーすると、今度は次の筐体へ移動し始めたのです。
彼女が前に立ったのは、『ソニックブラストマン』という大型ゲーム。
ダンレボと同じく体感型のアーケードゲームで、そして同じくこの砕け切ったゲームセンターで唯一生きているゲームでした。


「………………………………」



 …私自身子どもは大好きな方ですが、大野ちゃんは…なんだろう……。
まるで、アダムスファミリーのウェンズデーみたいな年齢不相応のミステリーさ、暗黙さがあり、どう対応すべきか分かりません。
そんな彼女は百円玉を筐体に入れると、画面をギュッと凝視。


『ソニックブラストマーン!』

『私のパンチを受けてみろっ!!』


画面から16bitの敵が、掛け声と共に映し出されました。



「………お、大野……ちゃん…………?」


 ちなみに、このソニックブラストマンは聞きかじったところに拠ると、自身のパンチ力を計測するゲームらしく。
──要するに、画面前のミットをリアルに殴ることで、その殴力によってゲーム内の強敵が倒れていく…という体感型ゲームなのですが……。(『ドラゴンボール』 鳥山明著の武闘会に似たようなヤツが出てきます)

パンチの合図が出て、ニューっと挑発するかのように青ミットが起き上がった。その時。


──一瞬ですが、大野ちゃんの目に炎が宿った錯覚が見えました。


ギリっと奥歯を噛み、
そして無表情をベースのまま、目を力ませ、
右足を退け、握り拳を引く。
オープンスタンスを取った大野ちゃんは、ミットへと吸い込まれるように────…。


 ダガアァアァッ!!!!!!

「………パンチっ────?!」


 まるでサイの追突です…………!
鋭い拳が一瞬にして風を切ったかと思えば、受け止めたミットはなんとぶっ飛び!!!────そのまま、画面へガシャアアァァァァァンンッと大破!!!!!



 ドガァアァァァッ!!!!!

「……キックっ────!?!」


 画面がブラックアウトするのも束の間……。
間髪入れず、と。大野ちゃんは神速にミットへ飛び込み、タイツ包みの左足を突き出します!!!
…形容するのも難しい破壊音と共に、液晶のガラスが宙を舞う……。
衝撃で微かに揺れる太ももと、長い髪の毛。
このとき、私の視覚は、宙浮くガラス片と彼女をスローモーションに見えたのです…。


そして……─────…とどめの一発でした。



(↓↘→+P)


「……………………………ッ」



 ドッ、


  バッグァァァァァァァァァァァァ────ッッッ!!!!!!



「……え?! 今…手から『青い炎』を出したっ??!!」


 衝撃としか言いようがありません…。
掌を交差させた彼女……、僅かの間溜めた後手から放ったのは……、青白い衝撃波でした……!!!
かめはめ波のようなソイツは、ビームとしてズタボロのミット兼画面に吸い込まれると……

 パァンッ──────。

鼓膜を刺激する爆破音と共に、周囲のガラクタゲーム機同然の姿となってしまいました……。



「…………………あが………………がっ…………」


 スタッ


「ひぃっ!!!!」


 恥ずかしいことに着地音だけで、情けない声が出てしまいます…。

わけがわかりませんでした…。
あんな小柄で、暴力とは全く無縁そうな女の子が………、この惨状。
何故、こんな馬鹿力……?──いや、もはや力強いとかそんなレベルを超えている……!
何故、こんな破壊活動をする………?

彼女は何者……………??


 脳が眼の前の光景を拒否し、思考停止で立ち尽くす中………。
心臓だけはバクンバクンッと「逃げろ」のサインを送り続けます……!

疑似金縛りで動けなくなる私。
必然的に炎眺める少女を凝視する形になっていますが…、
それゆえに、振り向いた彼女と目がガッチリ合ってしまいました……!


「………………………………」


「………ちょ、ちょっと」


「………………………………──」


「──………………………………(くいっ」


 ひっ…!!!としか声が出ません。
少女は首をクイっと────こちらに来いって言ってきたのです。
この一連の破壊を見せつけて、彼女は次に何をするか。
……分かっています……。
分かっていますが、言葉に出すのは恐ろしく……、身震いで全身汗だくです。

私は一体、どうしたらいいのか……。

まるで死刑執行最中、十三階段を登る囚人のように。
恐る恐るですが、私は一歩ずつ彼女の下へ、足を震わせるのでした………。






 …だなーんて、恐れ入っていたら……。

話してみるとどうやら大野晶ちゃん。
私と仲間になって、主催者を倒したいようで~。


「………………………………(もがーっ」


「………………………………~!!!(bグッ!」


カルカッサをあげたら、美味しく頬張ってくれました☆ ほっ…☆



【1日目/H8/商業施設/2F/ゲームセンター『あらし』/AM.00:30】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:大野ちゃんと行動
2:子供たちを悪い大人から守る

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、満腹
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:マルタと行動
2:………………………………。

※大野昌は出典作品特権で『リュウ@スト2』の一連の技を使えるようになりました。
※H8・ゲームセンター内部はズタボロに崩壊しました。


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009:『こーしてオレはバトルロワイヤルを堪能した 011:『患部を切ってすぐ食す~狂気の相場晄~
マルタ 044:『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない
大野 044:『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない
最終更新:2025年03月15日 00:53