『患部を切ってすぐ食す~狂気の相場晄~』



[登場人物]  相場晄





 小さい頃の俺は怖い物知らずだったな。

 いや別に、親譲りの無鉄砲で~って坊っちゃんみたいな語り口するつもりはないぞ。
ただ、今思えば、さ。
本当に怖いものがなかったなぁ、って振り返ってるわけだ。
だから、当時の俺はとにかく『死体』を撮るのが趣味だった。
…おい、引いたりすんなよ。あくまで子どもの頃なんだからさ。
日曜夕方にやってるアニメに出てくる父親キャラがカメラ好きなやつでさ、そいつに影響されて買いせがんだんだ。

あのときはメモリも気にせず色々撮ったな。
セミの死骸、ゴキブリの死骸、アリがたかった芋虫の死骸、ドブネズミの死骸、下校中の女子生徒、モグラの死体、炎天下で、シカの死体、死肉、蛆虫の大群、とろけた目玉、へしゃげた脚。そして、親戚のお姉さんの亡骸…。
…恐ろしいよな、悪ガキの頃は。
無邪気だったんだから。
成長した今改めてゾッとさせられるってのはよくある話だ。

だけどもあのときは倫理観なんか教えられてないから、葬式中なんで母さんが平謝りしてたのか分からなくて。
ぼーっとふすまから覗いていた。
そして、その無邪気さが原因で俺は猛烈に嫌な体験をしたんだ。

 写真を、見られたんだよ。
クラスメイトの…なんだっけ、名前忘れたわ。
まぁいいやこんなやつ。

ともかく、そいつに「気持ち悪っ」だの「病気じゃん」って好き放題言われて、数日もしない内にクラス中で変人扱いされた。うん、俺が。
今思えば、俺にも僅かばかり非はあるんだが、あのときはもう怒りと屈辱に駆られてまともな思考なんかできなかった。
なにせ、あの日以来俺が席を立っただけで女共や隅っこにいる奴らがジロジロ見てくるようになったんだぜ?
ジロジロジロジロ…。
なんだよ。…なんなんだよ。俺が何かすると思ってるのか?
お前らなんか興味ないつーのに、なに歩いただけで「ヤバいことしてる~…」みたいに見てくんだよ…。
…的な鬱屈した気持ちで、四六時中はち切れそうになっていた。

だから、あの…言いふらしたあいつを…あぁ、名前思い出した。岡本だ。
岡本が飼い犬と散歩してるのを見た時、すっげえ胸がスカッとしたね。
まじ? 復讐のチャンスじゃん!って。

 早速、コンビニに入った隙を見て、リードを無理やり引っ張ってな。部屋にブチ込んだわ。
え? お前は何をやろうとしたんだ、って?
んなもん、お前…。…ま、拷問だよ。
…いやだから引くなって。若かりしの過ちなんだよ。過ち。
それに拷問つっても軽度だから。軽いんだよ。
とりあえず毛だらけの顔とか背中、腹の皮を紙やすりで真っ赤に削って…、あとは面倒くさくなったから口を鉄線で縛って押し入れに放置…的な?
拷問っていざやるとなると分かんないもんだったんだな、って。
ギャンギャン悲鳴あげてうるせえし、二度とやらないと決めたわ。

まあそれでも岡本がすげえ落ち込んだの見たときはスカッとしたけどな。
へへっ、ざまぁって。
くっしゃくしゃな顔してよ、気持ち悪いのはどっちだよ?とか煽ったわ。マジ。

…ごめん、これはさすがに嘘。


 で、数週間したくらいかな。
押し入れがバカ臭くなったから「あっやべ。忘れてた」ってなって。
恐る恐る開いてみたら、もう…、ありゃバイオハザードだよ。
俺的には白骨化とか想定してたが、出てきたのは全身赤黒い肉の塊。
肉の塊つっても、目とか耳、足…つか基本は犬の原型留めてたから、俺…顔がブルー入ってさ。
コバエがぶんぶん五月蝿いのも度肝を抜かれたが、何よりやばいのが体中にリンパ腺…みたいな?
黄色い膿の塊が大小ぷくぷく膨らんでて、特に顔中ニキビみてえにそれが集合してたのがもうやばかった。
鼻穴からも黄色もん流れてたし、あれは見ちゃダメなヤツだわ。

とりあえず、仕方ないからその化け物を岡本ん家の玄関にクーリングオフしといた。
キャッチアンドリリース的な、ね。
まぁ化け物つっても生きてねーんだけど…。って当たり前か。
そしたら、岡本のやつあんな臭そうなモンを抱いて絶望の顔をした後、
近所迷惑だろ。非常識が。とか思うくらい喚いてたんだが、夜ぐらいにあいつは物置のとこで首吊った。
…悪い、話唐突だわな。
ま、これにてあいつはおサラバしたわけよ。双眼鏡通して観察してたが妙な哀しさを覚えちまったな。


 これで俺の復讐は実質終わったわけだが、一つ疑問が新たに浮かんだんだ。

あんさぁ…岡本ってなんで首吊りしたと思う?
V系のなんかのバンドが吊りながらオナって事故死…みたいなんは雑誌で見たことあるが、要は死ぬわけじゃん?頸動脈縮まんだからな。
なんでそんな損しかしないことしたのか、俺はほんとに理解できなかったわけよ。

だから、俺も吊ったわけだ。ロープ持って。
三島ゆりっていう当時ガチ惚れしてたツインテの家の前でさ、ド深夜に。
ものは試しって精神でな。
台に登って、ロープに首をかけ、さっさと台を蹴り飛ばす。
岡本がやったやり方まんまに忠実再現したんだよ。

そしたら、ほんとすっげえ苦しかった。
いや苦しいってレベルじゃねえ。
もう全身パニックみたいになって、汗はガンガン出るし、手足は操られたみたいにジタバタしやがるし、何よりこの状況なのに、馬鹿みてえに陰部が痛くなってきて恐ろしかった。
全身から唾液が馬鹿みたいに出て、頭も痛くなって、炎みたいな変なのまで見え始めて。

  俺、死ぬ、の…か。ってな。

 ロープがぶち切れた時、もう喘息みたいに咳を吐き散らしたし、我慢できなくて内容物もぶち撒けたわ。
あっ、忘れてたけどここ三島ん家じゃん。って。
そんな呑気なこと考えれるようになったのは、まじで数十分間休んだあとだったよ。

 あのときの、今際に視えた『あれ』だけは忘れられない。
あれが死なんだって。小六にして知っちまったんだ、俺は。


それ以来、俺は『死』がすごく怖くなって今でも克服なんかできていない。

死だけが、俺の怖いものなんだ。


 って、それだけの話。
俺の思考を盗聴ご苦労さん。
…そんなことできる奴がいると仮定して、脳内で語ってみたわ。以上。



「んじゃ、野咲のじいちゃんさぁ。もう、死のっか?」



ゴスッ────────────────。






 相場 晄。
少年が参加者に初遭遇したのは、きらびやかな街の灯を彷徨い続けて数十分した頃だった。


「あっ…………」



「…スリーピング…ビューティー………!」


 彼が思わず声を漏らした先は、ベンチで目を閉じ横になっている──彼女。
片膝を折り仰向けで、両の掌を青いベンチにつけた寝姿勢。
身動きは一つも取らず、その瞼はどこまでも重たそうに閉じきっていた。


「おい、起きろ。起きろって」

 今いる場所はバス停。
真上の電灯がバチバチ…と点いたり消えたりを繰り返す中、相場は彼女の脇腹付近を手で抑え、揺さぶり始める。
ところどころはだける少女のセーラー服。
この紺色の女学生服は、相場の学校生活において非常に見慣れきったものだった。


「起きろよ。おい。寝てる暇はないんだよ。起きろ、起きろっ」

彼女──は、相場からしたらただのクラスメイト。
別に友達でも、恋仲でもない。
卒業したらもう二度と交流することなんてないだろう、ただの有象無象な同級生に過ぎなかった。
もっとも、好意はあるかないかで言ったら『ある』に傾いている。
小学校時代、授業中三島ゆりと抱き合わせでいやらしく眺めていたのだから、思い入れはある女子とは言えるだろう。


「…起きろって言ってんだろ……」

そんな恋も中学で冷めきった理由──。
それは相場が黒髪ストレートな女の子がタイプだったから、という単純なものだ。
進級と同時に、金髪に染めた彼女。
そのヘアーカラーは、鬼畜的性欲を持つ相場を萎えさせるには効果的面だったという────。


「起きろつってんだろうがッ!! 小黒がアアァーッ!!!」


 相場晄が最初に出会った人物は、『死体』だった。


  ゴスッ


 握り拳に力が入ったかと思えば、相場は右フックを妙子の頬にぶちかました。
いつまでも起きやしない『拒絶反応』と、日頃の個人的恨み兼怒りから成される、文字通りの叩き起こし。
彼女の顔は軽く傾き、騒がしい音と声が打たれた頬の火照りにひりつくように響く。
その容赦無い力からか、妙子の白かった頬には軽いかすり傷が生じていた。


「小黒ッ!! なに寝てんだァ?! 目を覚ませこのアマっ!!!」


  ガスッ
──グチュッ…


 続けざまにもう一発。
無反応の妙子に怒りが収まらぬ相場は、反対の拳を小さな鼻に目掛けて打ち込む。
ビクンッと。彼女の両穴から血が流水のようにサラサラ溢れ出てきた。


「ハァ…ハァ……ハァア……ッ!!」

 それでも妙子は一切反応を見せようとしない。
見せれるはずがなかった。
今ある彼女は、かつて妙子だった『物』に過ぎない。
抜け殻に、痛みや苦痛、相場を煩わしく感じる気持ちなどあるわけないのだから。
 妙子にとって致命傷となった右胸の刺し傷。
ただ、それはたった一つの傷な上に、出血もセーラー服の暗い色と真っ暗闇の深夜帯が原因で目立たず。


「ハァ…、ハァ………。なに、」



「なに、死んでんだよ……。ハァア……」


 相場が死体だと気付いたのは二発も外傷をつけてからだった。



「………知らなかった。ごめんな。…怒り過ぎたよ」


 二発目の殴打の影響で半開きになった白目を、そっと手で閉じさせる。
相場自身、人生で数えるくらいしか遭遇しなかった人間の死。
やはり何か思うことがあったのだろうか。
掌にちょびりとついた血痕を眺めながら、数分間ただ立ち尽くすだけだった。


「……………………」



「……、」


「…野咲の、さ…」


 暫くの沈黙を、相場自身で唐突に破る。
その、語り口調。
もう二度と起きることなんてない少女に向かって、相場は話しかけ始めた。


「前にさ…、火事あったじゃんかよ。野咲の、家で……。あのとき俺いたんだ。現場にな」

「すごいバチバチ火の粉が飛んでてさ、中なんかもう息するのもやっとなくらいで……。あの熱さの中で生き永らえた…祥子ちゃんはほんとに苦痛だったと思う…」


「あっ、妹ね。野咲の。…お前は知らないだろうから、よ」


 口調は、内容を表す通り暗く重たいトーンで。
だが、どこかわざとらしさもあるそんな表情を相場はしていた。
どうにせよ、相場晄という男は死体を相手にフレンドリーな会話をし続ける。
その、あまりにも一方的な会話を。


「火中で、不謹慎かもしれないけど……。感動したんだ……」


「あの勇姿、あれだけは絶対に後世へ残さなくては、って。カメラマンの性ってやつでさ。夢中で撮りまくったよ」

「野咲の親父さんが、祥子ちゃんを庇ってたんだ…っ。燃えないよう身を挺して…! なぁ? 有り得ないだろ? 自分は火達磨だっていうのに、熱さに…熱さに耐え続けてたんだよ…っ!! 親父さん!!」

「…俺が来たときには既に炭状態になってて、人間って燃やしたらこんな臭えんだ…って思ったよ。…けど」


「あれぞ、父親の鑑だと思う…! お前は女だから分からないだろうが、あれこそ漢の理想図なんだ、って!! 素晴らしかった、もう…」


 話が父親の内容に差し掛かった途端、相場の様子は目に見えて豹変していた。
ワナワナと声は震えるも、鼻息荒く、興奮しながら熱弁を振るう。
きっと彼にとっては、話していてとても愉快な話題なのだろう。
 妙子と対面しながら、相場はふと、デイバッグから物を取り出す。
彼が取り出した物は黒光りで、手のひらサイズのいわば『支給武器』。
おもむろにそいつを両手で構える相場。
『支給武器』が標準を向ける先は、やっと鼻血の勢いが止まった妙子へ。


「そんなお父さんの写真を、いつか道徳の授業で皆に見びらかしたかったんだ。俺は…」



相場は躊躇なく『武器』のスイッチを押した。






────カシャッ。




ジー…、

ガガガッガガガ………。




「それに比べて小黒。なんだあ? お前の死に様は? グーグー寝たみてえに……、情けないだろ、お前…」


 閃光の後、『支給武器』から印刷され出てくる一枚の写真。
そいつをペラペラ…と数回振り、続けざまに相場は妙子へ毒づいた。
写真には、無論。鼻血を流してぐったり横たわる少女の姿。
相場は、写真内の死体に対して侮辱の言葉を吐き出したような様子だった。


「ったく、馬鹿みたい、だな………。小黒……」

 口では侮蔑を続けていたが、相場は妙子の死体写真を、実に名残惜しそうに、暫く鑑賞していた。
小黒妙子。彼女は自分の気持ちを素直に表せない性格だった。
それと、惹きつけ合ったとでもいうのか。
相場もまた、彼女に対して表面上、冷たい言葉しか送れず、その最後の別れを終えるのであった。


「…………」



「……行かなきゃ、な。もう」

 十五分ほどして、相場は写真をポケットにしまい込む。
ガサガサ…と。ポケット内には『写真』が何枚もあることが確認できる。
さしずめ、妙子はコレクションの仲間入り、か。
そんな写真たちを手で適当に混ぜながら、相場は歩き出した。
もうこのバス停には用はないし、目ざといものなど見当たらない。



「…じゃあな……」

たった一人、小黒だけが取り残される。
彼はデイバッグを持ち直すと、その場を後にした。






「………」




 かに思われた。

バス停を出る途中、最後の一歩のとき、何となく振り返る。
未練たらしくも、当然妙子の死体を一目したが、網膜がハッキリ捉えたのは、彼女のある一部分だった。



「………………」


下心があったつもりはなかった。
ただ、偶然にも見えてしまっただけだった。


「……小黒……、…」


 妙子の右脚。
革靴が純白な靴下を、靴下が足首を隠す。
健康的だった白い太もも──、相場が見てしまったのは尻付近の、スカートでははだけて隠しきれなかったパンツのレースだった。
死体。とはいえ、心停止しているだけで限りなく生きた人間に近い死体だ。
薄い水色のソレを目に焼き付けてしまった相場。
普段は冷静かつ温厚な彼も、一概の思春期の学生。


「い、いいち、一応……だ……。一応……」


 ジワジワジワジワと煮えたぎってくる欲情を制御することなどできなかった。
頬をかきながら、元いたバス停へ一歩、二歩三歩四歩…足早に引き返していく。


「一応、検死しなきゃな…。小黒の名誉の為に…………っ!」

 妙子の前まで歩み寄った相場は、たまたま落ちていたハサミを手にすると、大胆にもセーラー服を切り刻み始めた。
ヘソの上から首元にかけて纏うその衣服を、スルスルーと裁断していく。


「……た、ったく。…ったく…よ…!」

 クリスマスプレゼントを毟し開けるガキのようにセーラー服を剥ぎ取ると、露わになったのは一部分真っ赤になった白いシャツ。
ベタベタと、赤く侵食。
じんわりどす黒くなった部分は、触ってみたくなるくらい膨らみがかかっていた。
ここまで来ると、もう面倒臭くなったのか。
相場はハサミを使わず腕力で強引にシャツ、そしてブラジャーを一緒に引き千切る。


「…はぁ……ぁ………………、うりゃっ!!!」

首元のシャツに指を入れ、力を入れ続けること数秒。


バチッ──ビリビリビリビリィ──────


 と、いとも簡単に破け、とうとう目的の『外傷部位』が姿を現した。
この時、気温は五度。
風が冷たく吹き付け、厚着なしでは身震いする夜。
少女は上半身裸で、その中華まんじゅう程のバストを包み隠さず晒らけ出される。


「おい…いや、マジで………。犯人…クソ野郎…がっ……ハァ……ひ」

 相場はお目当ての物を前に、まじまじと観察し始める。
刺し傷は一箇所。薄いピンクの突起の数センチ下を一突き。
よくわからないが傷口は何となく深そうで、心臓かなにかを損傷したのだと考えられる。
出血は既に止まっていたが、右胸一帯はべっちゃりとコーティングされていて、それに関しては相場も生々しくは感じた。

 ただ、相場は気になる点があった。


「んだよ……っ。バカか……? 気にならないのかよ…。殺った奴は」


 それはなにも『疑問』に思う箇所がある、という意味合いではい。
他人の靴下を観察して、それぞれ違う丈なのを見たら訂正したくなる。といった感じで、見ていてモヤモヤするところがあったのだ。
実は几帳面な相馬だ。
倫理観の滅茶苦茶な彼だからこそ、許せない箇所がそこにはあった。


「なっ、なんで……」


「『乳首』から微妙にズラして刺すんだよっ……??! きっちり、きっちり割るように突き刺せばいいだろうがっ……?!」


 気にならなかったのか?殺したイカレ野郎は…?、と眉間にシワを寄せながら、独り言は止まることを知らない。
刺し傷は乳輪ギリギリにあったのだが、彼からしたら突起物を刺点にして、潰すように刺してほしかったのだ。
それが、理想だった。

「いや、別にいいんだが……。いいん、だけどもっ……。俺はしっかりちゃんとキレイな形でいてくれた方がっ…………、」


「スッキリするんだよ…っ。スッキリな……!」


 故に、A型らしく彼はこのズレを『訂正』することと決めた。
彼がチョキチョキ鳴らしながら持つは、セーラー服を破き切ったハサミ。
無論、これが妙子を死なせた凶器であり、妙子が愛用していた理容道具など相場は知る由もない。

 鋭利な銀の刃先を向ける先は、純朴なピンク色の乳頭。
ツンツン、と謎に突いてみた後、刃と刃の間に入れると。


「これで、よし…」

力を込め、ぐにゅっと挟んだ。
乳頭が悲鳴をあげたかのように一気に深紅色となっていく。
ただ、刃の奥の部分で切ろうとした為か。
跡が残り、くたびれた形になるだけで肉を切り落とせなかった。


「チィッ、クソがっ…!!」

そのため、ハサミの先で挟み、再度切断にかかる。
──クチンっと。今度は綺麗に断ち切ることができた。
コロコロ転がる真っ黒色になった小黒の右乳首。
それを指でつまみあげる様は戦利品を手にしているかのようだった。

 刺し傷と直結し、大きな溝を作り上げた柔らかな胸。
驚くべきことに、そこからはいちごミルクのような体液が、我慢できずに漏れ出てきた。


「うおっ…!! う、うっ…!!」




「……ぉ、女の母乳見るの……初めて……」



 ダクダクと流れ出るソレに、ウブな相場は驚愕の声を思わず上げてしまう。
が、それに関心を取られたのもほんの数秒ばかり。

「…………。ぐっ……」


「これが、小黒の…胸の先っちょ………っ」


 彼は、ぷにぷにとつまんだブルーベリーを眺めた。
いろんな角度から見つめて、匂いを嗅ぎ、指の圧をかけ感触を確かめていく。
もう相場は堪えきれなかった。
この完熟さ加減。心無しかほのかに香るミルキーさといい、どんな味を魅了してくれるのか、と。
未知なる興奮からか、指はヤク中のような震え様を見せながらも、その小黒の一部を今。
味わっていった────。





「って、さすがにそこまで俺もやばくないわ………。変態だろが、それ……」


 唇につける、直前ボソッとツッコミを吐いた。
プニプニ、と。触っていくうちにだんだん気持ち悪くなってくる。
自分は何をやってるんだ、と。もしかしたら、内心思ったのかもしれない。
その乳首は妙子のポケットか何かへ捨てることにしたが、それらしきものはないので、仕方なくスカートをたくし上げる。
彼女の下着の中へモゾモゾと捨てることにした。


「…ばっちっ。汚ね…」

そこそこに満足したのだろう。
というかもう、萎えたのだろう。
相場は血と妙子の体液で汚れた手を、適当な壁に拭いつけ、今度こそバス停を後にする。
一連の犯行は、実に二十分に及んでいた。





 バス専用道路を挟んで、ギンギラに輝き続ける街の一角。
渋谷の象徴ともいえる光の中、相場は再び彷徨い続けた。
彼の向かう先は、愛しの彼女──野咲春花。
言わずもがな、野咲がどこにいるかなど相場には見当もつかない。
ただ、フェロモン頼りに触覚を動かしまくる羽虫のように、意図せずとも着実に彼女の元へ近づいていた。


「はは、きれい、だな。東京は」



「野咲に会ったらこの風景の写真見せてやっか。…俺が撮ったんだぜ、って話しながらな」


フラフラ歩きながらも、相場は『支給武器』を構えた。
標準のレンズは、対向歩道にあるネオンライトの店々。摩天楼に向けている。


カチカチカチ


レバーを『写真用』から『戦闘用』に切り替えると、彼は武器のシャッターをカシャリと鳴らした。



─────刹那。



レンズに写っていた範囲が、閃光。大爆発。
地鳴りのような爆音が響き、アスファルトは揺れ、火炎がネオン光すべてを焼き尽くす。


「はははっ、ははっ…はは!!」


「…ははははははははははははははっはははは、ははははははははハ!!!!!!」



『カメラ』から目を離すと、相場はその燃えたぎる景色を純粋な心でうっとり眺めた。


 十分過ぎるほどきらびやかな渋谷の建物を、花火で装飾しあげていく。
飛び交う火花を目にして、特にトラウマのフラッシュバックをすることもなく、相場は楽しげに歩き続けた。
たまにぼっそりと、


「野咲…お前が幸せなら俺はそれでいい」

「そのためなら、何人焼き殺しても…俺はいいんだからな……」


「──はははっ…!」


と戯言を抜かしながら。

 心を持たない怪物は、知ってか知らずか。
道端に咲く百合の花をスニーカーでグシャリ踏み潰し、野咲との再開へひたむきに向かっていく。




【1日目/A1/バス停近辺/AM.00:59】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】健康
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰野咲春花】
1:野咲にとにかく会いたい
2:邪魔する奴は『写真』に納める
3:絶対に死にたくない

※参戦時期は、野咲のおじいちゃんを半殺しにした後です。
※小黒妙子の死体は、バス停のベンチにて右乳房切断・顔面殴打による軽い腫れ状態で放置されています。


前回 キャラ 次回
010:『ゲーセンで出会った不思議な子の話 012:『ターミネーター3
相場 060:『TOKYO 卍 REVENGERS
最終更新:2025年04月14日 20:25