Sの異常/気分しだいの必殺技(中編)◆zvh.p2EMLo


ゼクロスとエターナルが戦う真っ最中。
東へ一直線に進んでいると思い込み、南東へと進んでいた良牙であったが。
「おかしいな、地図だと途中に川があるはずなんだが……」
地図と周囲を見比べ、本当に呪泉郷へと進んでいるか疑問に思い始めた。
「まさか、また迷ったのか!?」
良牙は方向オンチではあるが、地図の見方が分からないというわけではない。故に道に迷ったことは判断できる。
だが方向感覚が常人より桁外れにずれ、道の目印に赤い車や工事現場など固定されない物、富士山や琵琶湖など巨大すぎるものを使い、目印を覚えたとしても距離と方角と位置関係が出鱈目になることが、良牙を地上最悪の方向オンチにしている原因である。
「落ち着け、こんなときこそ冷静にっ」
良牙は人差し指を立て、地面を突いた。
「爆砕点穴!」
爆砕点穴とは、岩石に存在するつぼを押すことにより一撃で粉砕する、土木工事用の技である。
爆音と共に地面に大穴が開いた。その中に良牙は飛び込み再び爆砕点穴。それを繰り返し、モグラのように地面へ潜っていく。
「地面の下なら間違いなく一直線だ!」
何の目標も無い地下では余計に一直線にはならないのではないか、と普通の人間は思うかもしれないが、実はこの方法で良牙は目的地までたどり着いた事が何度かある。
良牙は自信を持って、地中を進み続けた。

ある程度掘り進んだ後。
「この辺りで上に出てみるか」
と呟き、頭上の土に爆砕点穴を使い、穴から這い出ると。
「ここはどこだ」
そこはごつごつした岩が転がる殺風景な場所。
右方向には白い仮面と装甲を着込み、黒いマントを羽織った奴。
左には地面に倒れた赤い仮面を被り、白い非対称の鎧らしきものを身に着けた奴がいる。
まるで状況が分からないが、辺りに泉が見当たらないことから少なくとも呪泉郷ではないようだ。

突然現れた闖入者の良牙に、エターナルはゆらりと歩み寄った。
「おい、何なんだあんた。ここはどこだ?」
良牙の質問に、エターナルは良牙の面を殴ることで答えた。
「お前こそなんだ。俺の邪魔をしやがって」
吹っ飛ばされた良牙はすぐさま起き上がり、エターナルに立ち向かった。
「てめえ! 何しやがる!」
言うに及ばず、とばかりに無言でエッジを突き、薙ぎ払い、振り下ろすエターナル。
何とかギリギリでかわし続ける良牙だが、流石に刃物相手に素手では分が悪い。
徐々に良牙の身にエッジがかすり始める。
「この野郎!」
良牙は腰に巻いたベルトをほどき、気を集中させる。すると柔らかいベルトが、一本の棒のように垂直に伸びきった。
「ほう、面白い技だな」
気によって硬化されたベルトは、良牙の腹を刺しに来たエッジを受け止めた。
「久しぶりだぜ、こいつを使うのはな!」
エッジを上に弾き、振り上げたベルトを重力に任せるまま、エターナルの肩口に落とす。
それをエターナルはエッジで受け止め、ベルトに刃を滑らせ指を切り落とそうとする。
良牙は咄嗟に腕を引いてかわした。
打ち合うベルトとエッジ。だが元々の硬度の差はいかんともしがたく、ベルトがぼろぼろになっていく。
何度も打ち合う度、良牙は段々と防御にかかりきりになり、身体能力、武器術共に相手が上回ると察し始めた。
このままではまずい、と良牙が思った時、エターナルの背後から、ゼクロスがナイフを背中に突き刺そうと跳んだ。
エターナルは逆手に持ち替えたエッジを、回転しつつ横薙ぎに振るい良牙をけん制。
勢いのまま後ろ回し蹴りをゼクロスの胴にめり込ませて吹き飛ばした。
後ろを向いたスキだらけの背中を斬ろうと、良牙は腕を振り上げる。
だがエターナルはそのまま1回転しつつ身体を沈め、踵からの足払い、後掃腿で良牙の足を払った。
頭から落ちる寸前に、良牙は手をつき身体を反らして、バク転を繰り返し間合いをとる。
「おい、赤い仮面のあんた! なんだか分からんが、あんた、こいつの敵か?」
良牙の質問にゼクロスは無言で肯いた。
「ふっ、ならばここはひとつ……早い者勝ちな!!」
言うが早いか、良牙とゼクロスがそれぞれエターナルの左右から襲い掛かる。
即席の連携攻撃を、エターナルはゼクロスのナイフのみエッジで防ぎ、良牙のベルトは手甲で弾く。
エターナルは今まで打ち合ったベルトの硬度から、手甲のみで防げると判断していた。
「なめるな!!」
憤慨する良牙の攻撃をエターナルは手甲で受け、そのまま腕を返さずに突き出し、胸に掌底を打った。
掌底の打撃で良牙の動きが一瞬止まる。
身動きが取れない良牙を背にしたエターナルは、エッジとナイフを咬み合わせ、鍔迫り合いにもちこむ。
かと思わせ、ゼクロスを前蹴りで突き放した。
良牙に振り返り、全力でエッジを打ち下ろす。
良牙は気合のみで両腕を掲げ、鳥居の構えで防ごうとした。
だがベルトは、とうとう耐え切れずに両断された。
決定的な隙を見せた良牙の左わき腹にパンチが突き刺さる。
よろめいた瞬間に打ち下ろしの右フック。
たたらを踏んだところへ身体を起こす、どころか中に浮かせる左アッパー。
追い討ちとばかりに回転後ろ蹴りを叩き込まれた良牙の体は、ピンポン玉のように弾け飛んだ。
「この野郎!」
膝を押さえながらだが、即座に良牙は立ちあがった。
「人間の割に、随分とタフな奴だな」
その姿を見たエターナルは、呆れるように賞賛した。
「だが、NEVER程じゃあない」
バンダナを外し、硬質化させて斬りかかる良牙。それに合わせてナイフで胴を薙ぎ払おうとするゼクロス。
二人の攻撃に対し、エターナルは右手のエッジでゼクロスのナイフを防ぎ、左手で良牙の首を締め身体を持ち上げた。
「おっと」
今度は首を突こうとするゼクロスに向けて、エターナルは良牙の身体を盾代わりにかかげた。
動きを止めるゼクロスに人質が有効と判断し、そのまま良牙をかざし続ける。
ゼクロスはフェイントを入れつつ背後に回り込もうとするが、回転の半径が小さいエターナルの方が、ゼクロスよりも素早く対応できる。
互いに回り続ける中、エターナルは良牙の身体をゼクロスの正面へと置き続けた。

『何故だ……」
エターナルと背後の取り合いを続けるうち、ゼクロスの心中に疑問が沸き上がった。
『何故俺は、この男ごと奴を攻撃しない……』
目の前の男は名前も知らない、ただ地面から唐突に現れただけの男だ。
大勢の罪無き人間を殺して来た自分が、今更何をためらう必要がある。
カメンライダーには、もう何も奪わせない。奪われる前に殺す。そう誓った自分が何故。
……だからなのか?
だから出来ないのか?
この男の命を奪わせないと思っているのか?
『俺はこの男を……』

思考に没頭するゼクロスへ、エターナルが嘲るように話しかけた。
「こいつを気にするのは構わないが……そろそろ死ぬぞ?」
小刻みに震えていた良牙の手足が、だらりと垂れ下がった。
「キサマ……『また』俺から奪うのか!?」
その言葉に呼応するかのように、ゼクロスの両上腕から煙が噴出する。
目の前のカメンライダーとミカゲを蹴り砕いたカメンライダー。
ゼクロスの中で、二つのイメージが一致した。
「何度も言わせるな。奪うか奪われ―――!?」
話の途中で、ゼクロスの肘から十字手裏剣が放たれた。
ようやく見捨てる決心がついたか、と思い良牙を盾にする。
だが手裏剣は命中する寸前、幻のように消えた。
エターナルが疑問に思うのもつかの間、背後に何者かの気配を感じた。
振り向くと、そこにはナイフを振り被るゼクロスがいた。
「ホログラフだと!?」
驚くエターナルに、ゼクロスは良牙を締め上げる腕を切断しようと電磁ナイフを振るう。
咄嗟にエッジを掲げ防いだが、バランスを崩し、左腕を掴まれる。
その腕を振り回し良牙を離そうとするゼクロス。
エターナルは右手のエッジでゼクロスを刺そうとしたが、ゼクロスのナイフがそれを阻む。
左腕を狙うナイフを防ぎながらゼクロスを突き殺そうとするエターナル、エッジを弾きつつ良牙を離そうとするゼクロス。
荒々しいダンスを踊るかのように、互いが互いを振り回し続けた。


「ここは……」
気がつくと良牙は、さっきまでの殺風景な場所から一転、光り輝く世界にいた。
清清しい香気に、辺り一面に咲き乱れる花々。遠くには綺麗な川が流れている。
「……あれは三途の川じゃねーか! また来ちまったのか!?」
良牙は以前、ジャコウ王朝のライムとの戦いで死にかけたことがある。
その時は、あかねへの想いと乱馬への嫉妬で戻って来れたのだが……。
「ぉーい……」
呆然とする良牙に、三途の川の向こう岸から誰かが呼びかけてきた。
「お~い、良牙~」
おぼろげに見えてきた姿は、チャイナ服を着た少女だった。
「お前、シャンプー? 死んだのか!?」
決して付き合いがいいとは言えなかったが、それでも縁浅からぬ知り合いが既に死んでいた事に、良牙は驚いた。
「良牙もこっちに来るある」
「冗談じゃねえ!! おれはあかねさんを守ると決めたんだ!!」
「あの世も結構悪くない。あかねも来れば万々歳ね」
「ふざけるな!!」
「どうしても生き返るか?」
「当たり前だ!!」
「なら、乱馬助けて欲しいね。私の分まで乱馬のために戦って欲しいある」
「シャンプー、お前……」
「乱馬を優勝させる、私の目的だたね。途中で死んだのは無念あるが、最後に私殺す手間が省けたと思うことにするね……」
「お前……そんな殊勝な奴だったか?」
良牙はシャンプーの態度に疑問を感じた。死んだ今ならあの世で乱馬と一緒になることを望むのでは、と。
「もちろん、良牙生き返らせる手助けしたこと、乱馬助けるよう頼んだこと。お前乱馬に言うね。そして優勝した乱馬に私生き返らせること頼むよろし」
「……あかねさんのついでなら助けてやってもいいし、おれも戻りたいんだが」
「何あるか?」
「なんかおれの足が、勝手に進んでるぞ」
いつの間にか良牙は、三途の川に足を踏み入れていた。
「あいや~。これはもう、本当に死んでしまうね」
「言ってる場合か!」
「もうどうしようもないある。悲劇的展開ね」
「何とかならないのか!?」
そう言い合いしている間にも、良牙は川を渡っている。
「やはりこのまま死なないあるか?」
「嫌だといってるだろ!!」
「しかたない。私とても不愉快だが手伝うね」
「手伝うって、お前何を……」
「ああ、このままお前が死ねば、残された乱馬とあかねは……」
「あ、あかねさんは……」
「襲いかかる強敵に絶望する二人。どこかの小屋にこもり、恐怖に震える二人は互いのぬくもりを求め」
良牙の足が止まった。
「乱馬は『せめて死ぬ前にお前の裸が見たい』とあかねの耳元でささやき」
どこから持ち出したのか、マイクを持つシャンプー。
「……そ、そんな……」
「小さくうなずいたあかねは、服に手をかけ」
「そんなのいやだ~~~~!!!」
良牙は強く耳を押さえ、シャンプーから逃げるように三途の川から離れていった。

「そんなに助けたいなら、先に殺してやる!」
エターナルは良牙の首を絞める腕に力を込め、首の骨をへし折ろうとしたが。
「な!?」
急激に増した良牙の「重み」にがくんと肩を落とした。
「ん゛~~~~~~!!」
良牙の唸り声と共に、エターナル、その腕を掴むゼクロスの感じる重みがさらに増幅していく。
「何だ、この重さは……」
「腕が、上がらない……だと……」
余りの重さにゼクロスとエターナルの足が地面に沈み込み、良牙、エターナル、ゼクロスの視線はほぼ同じ高さになっていた。
「おれは……あかねさんと会うまでは……死なん!」
カッと良牙の目が開かれた瞬間。
「獅子咆哮弾!!」
天を貫く気の柱が放たれた。

獅子咆哮弾とは、不幸による重い陰湿な気を天に放ち、一気に大地へ沈めることで周囲の敵を押し潰す大技である。
気の柱は上空で巨大な気の塊に形を変え、全てを圧殺せんと迫り来る。
「クッ!」
ゼクロスはエターナルの腕を離して踵のジェットを噴射し、一気にその場から離脱した。
「くそっ!」
エターナルもまた良牙を離し、落下する気の塊から退避しようとする。
途中、カキンと何かが外れる音がした。
音の方向を確認しようと視線を向けた直後、爆風に吹き飛ばされた。
「うおお!」
ゼクロスは離れ際に衝撃集中爆弾を、エターナルに投げていたのだ。
すぐさま立ち上がるが、見上げた先には巨大な気の塊。既にどうあがいても回避しきれないところまで迫っていた。
その一撃は怒れる雷神が振り下ろした鎚の如し。逆巻く暴風と地響きを伴う轟音。
エターナルはそのまま地面へと叩き潰された。

吹き荒れた爆風が収まり土埃が落ち着くと、採石場跡に隕石でも落ちたかのような、巨大なお碗形の窪地が出来ていた。
その中央で、良牙は無傷―――エターナルから受けたダメージを除いて―――のまま、佇んでいた。
獅子咆哮弾の長所は、気弾の落下点にいる使い手が自分の気で傷つくことがないことである。
全霊を込めて気を放った後の使い手は放心状態、つまり「気が抜ける」ため、重い気をすり抜けることが出来るのだ。
「ふ~。あいつらは……」
気力が戻った良牙が辺りを見渡すと、うつ伏せで地面に埋まっているエターナルの姿が見えた。
「白い方か。この分ならしばらく動けないだろ」
ローブのせいで黒い染みのようだったが、ぴくりとも動かないことからそう判断した。
「しかし疲れたな~。こんな威力を出したのはあの時以来か?」
前かがみになった良牙が周囲を確認すると、かなり遠い位置にクレーターの縁が見える。
あの時とは、乱馬にあかねとキスをしたという嘘をつかれた事で、その威力は風林館高校のグラウンドの大半を吹き飛ばす程だった。
「それよりあかねさんだ。呪泉郷へ急がないと!」
あかねより強いシャンプーが既に死んでいたのだ。良牙自身も死ぬ一歩手前までいった。
この殺し合いは相当危険だと判断せざるをえなかった。
「待っててくれ、あかねさん!」
ディパックを掘り出して肩に担いだ良牙は、傷の痛み、疲労を無視して走り出した。


――南東に向かって。


【一日目・黎明 D-3/採石場跡】
【響良牙@らんま1/2】
[状態]:負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:変身アイテム(水とお湯の入ったポット1つずつ)、支給品一式、秘伝ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリ@仮面ライダーW
[思考]
基本:天道あかねを守る
1:天道あかねとの合流
2:1のために呪泉郷に向かう
3:ついでに乱馬を探す
[備考]
※参戦時期は雲竜あかりと出会った後、原作30巻以降です。
※南東へ向けて驀進中。本人は呪泉郷に向かっていると思っています。(途中で方向転換する可能性があります)
※良牙のランダム支給品は2つで、秘伝ディスクとガイアメモリでした。
 なお、秘伝ディスク、ガイアメモリの詳細は次以降の書き手にお任せします。
 支給品に関する説明書が入ってる可能性もありますが、良牙はそこまで詳しく荷物を調べてはいません。
※シャンプーが既に死亡したと知りました。
※シャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
 「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
※獅子咆哮弾の気柱はかなり高くそびえるので、遠いエリアからでも観測できた可能性は高いです。
※【D-3/採石場跡】に獅子咆哮弾跡のクレーターが出来ました。






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最終更新:2013年03月14日 22:23