Sの異常/気分しだいの必殺技(後編)◆zvh.p2EMLo



「……くそっ!」
うつ伏せのまま、エターナルは苦々しく声を吐き出した。
良牙が動けないと判断したエターナルは、事実その通りだったが気を失ってはいなかった。
獅子咆哮弾の直撃を食らう寸前、エターナルはローブを頭から覆い、ローブの防御力で耐えることに賭けた。
いかなる攻撃をも弾くエターナルローブも、圧迫には分が悪い。
何万トンもの隕石の直撃にローブが耐えられたとしても――そこまで高い防御力を持つか疑問だが――エターナルが持ち上げられるわけではないのだ。そのまま押し潰されてしまうだろう。
結果、気弾の衝撃は防げたが、気の重みによって地面へと押され、身体の前半分が叩きつけられた。致命傷を負うほどではなかったが。
死人が「致命傷」というのも妙な表現ではあるが、NEVERといえど完全な不死身ではなく、マキシマムドライブの様な強力な攻撃を喰らえば塵に還る。
その事実を克己は知っていた。
うつ伏せから仰向けになり、ロストドライバーからメモリを引き抜き、変身を解く。
エターナルの白い装甲が克己から剥がれ落ちた。
「ちっ、体が動かん……」
細胞維持酵素の欠如とも違う、全身が思い通りに動かない感覚に克己は戸惑った。
「傷のせいか? NEVERの俺が?」
確かに胸や顔面の打撲、胴体の裂傷に加えて爆弾を喰らい、気の塊で地面に押し潰されたのだ。並の人間なら既に死んでいる。
だが克己はNEVERである。痛みという記憶を忘れ、不死身に近い耐久力を持っている。
身動きできないこの状態を否定すべく立ち上がろうとしたが、腕一本動かすのも億劫に感じていた。
実は全身の負傷に加えてこの殺し合いにかけられた制限―――戦闘による疲労が二重に克己の体を蝕んでいたのだが、克己はその事実に気付けなかった。
「何だ、あいつは……」
頭を反らすと遠くに走り去る良牙の姿が見えたが、よく分からない体の感覚と得体の知れない技を警戒し、行き先を確かめるだけにした。

何らかのエネルギーの塊を放出する技は、克己自身幾度か見たことがある。
超能力兵士クオークスのサイコキネシスやパイロキネシス。
同じNEVERの芦原賢が変身した、トリガー・ドーパントの右腕の銃から発射されるエネルギー弾。
しかしそれらと比べても、あれは桁外れの威力だった。
おまけに自分諸共周囲を攻撃する自爆技かと思えば、本人だけは無事な出鱈目ぶり。
「あいつ、呪泉郷とか言ってたな」
地面の中に埋もれた時の発言だったが、エターナルの聴力ならば聞き取れない声ではなかった。
郷、ということは人間の集落だろう。
だとするとクオークスが監禁されていたビレッジのように、あんなバンダナ男のような連中が住んでいる場所なのか?
「そういえば、支給品があったか」
気合を入れて起き上がり、置いていた場所に行くと、ディパックは獅子咆哮弾の範囲内にあったせいで地面に埋まっていた。
掘り出してディパックを開け、中にある地図を確認すると確かに呪泉郷の文字がある。
今いる場所はおそらく採石場跡。すると呪泉郷は東北東の方角になる。
方位磁針で方角を確認すると、バンダナ男の行った方向と外れている。
なぜあいつが呪泉郷といいながら南東に行ったのか分からないが、理由を考えても意味が無いので無視する。
さらにバックを探ると、小さいアタッシュケースがある。
取り出して蓋を開けると、中身は緑色の液体が詰まったバイアルが五本。そして白い銃型注射器だった。
共に入っていた説明書には「細胞維持酵素」と書かれていた。
「はははっ! 気が利いてるな!」
これを自分に支給するということは、酵素切れで自滅するな、戦い続けろというメッセージなのだろう。
ならば遠慮なく使わせてもらおうじゃないか。
バイアルを注射器にセットし、腕に当ててトリガーを引く。
酵素が血管内を満ちると同時に、全身の細胞が痘痕の様に盛り上がった。
「呪泉郷も……ビレッジみたいな場所なのか」
克己は誰とも無しに呟いた。

克己が、まだ生きている実感が欲しかった頃。人の心、過去の記憶を失い続けても明日を求めていた頃。
某国でテロリストを掃討した直後、超能力兵士「クオークス」の少女ミーナとその同僚、さらに加頭順の装着したエターナルに襲われビレッジへとさらわれた。
ビレッジ―――その場所はクオークスの実験場であり、克己はサンドバック代わりの実験体として連れてこられたのだ。
襲いかかるクオークスから脱走する途中、出会ったクオークス落伍者の生気が失われた態度、クオークス研究者にしてビレッジ管理者、ドクター・プロスペクトの目つきは克己の気に入らなかった。
気に食わない感情のままドクターと戦う克己だったが、ドクターが変身したアイズ・ドーパントに敗れた。
克己は逃げ出したが、ミーナから落伍者の虐殺計画を聞き、改めてドクターを倒しビレッジの連中を解放すると決心した。
別に英雄になる気は無い。ただ死人の自分が明日を求めているのに、生きている人間が未来を勝手に奪い、奪われることを諦めるのが許せない。それが理由だった。
結果としてビレッジからの脱出には成功したが、克己達NEVER以外全員死んだ。ドクターの許可無くビレッジの外に出たクオークス達は、アイズ・ドーパントの力で命を奪われるよう仕掛けられていたのだ。
あの時、あの場所で克己は思い知った。人は皆、悪魔だということを。
同時に克己を現世に繋ぎとめていた最後の縁、わずかに残された人間的な感情も良心も完全に失われた。

「少なくとも、ここは違うようだな」
地図をよく見ると風都タワーまである。おそらく場所を再現しただけだろう。
「風都タワーも、エクスビッカーは設置されていないだろうしな」
エクスビッカーとは26本のT2ガイアメモリを同時に起動させ、周囲全ての人間を瞬時にNEVERへと変える兵器である。
もう少しで発動するところを、鍵としてエクスビッカーに接続したフィリップに抵抗され、克己はマリアに細胞分解酵素を注入された。
母親のはずだったマリアの裏切りに激昂した克己は彼女を撃ち、タワーの屋上で拮抗薬となる細胞維持酵素を打った。
次の瞬間、いつのまにかこの殺し合いの場所に集められていた。
「戻ったら、始めからやり直しか」
今手元にあるのは、エターナルのメモリ1本。
世界を地獄へ変えるには、改めて全てのT2ガイアメモリを揃えるところから始めなければならない。
「そういや、ガイアメモリが支給されているんだったか」
最初に集合したときの解説で、白服の男がそんなことを言っていた気がする。
他の支給品にメモリがないかとディパックを探ると、袋が二つある。
開くと、一つは金属らしきフレームで囲われた、黒い球形の宝石だ。
球の中心を対称に、針と同心円が彫られた楕円形のエンブレムが付いている。
袋の中に付属した説明書によると、名称は「グリーフシード」。
「魔法少女が魔力を消費すると溜まるソウルジェムの穢れを、吸いとって移し替えることができる」と書いてある。
ソウルジェムも全員が集められた時言っていたが、魔法少女というのはさっぱり分からない。クオークスみたいな奴らか?
もう一方の袋の中身は胡桃程の大きさをした黒い木の実のような何かだ。表面に白い斑点模様がある。
説明書には「命の闇の種」と書かれてあり、食べるとヒーローに変身できるかもしれない、顔から花が咲くかもしれないがとある。
「食えるか? ……食えないよな」
克己は闇の種を袋に戻した。こんな薄気味悪いものを食う奴など、余程の馬鹿に違いない。

さらにディパックを探ると他の中身は食料、照明器具、筆記用具、水と食料、時計、ルールブック。
最後に名簿があった。名簿を確認すると、克己と縁深い人間の名前がある。
仮面ライダーW、左翔太郎。仮面ライダーアクセル、照井竜。NEVER研究を廃止に追いやったガイアメモリ開発の最高責任者、園咲琉兵衛の一族。
いずれも自分達NEVERの邪魔をし続けた男達だ。
連中も気になるが、それ以上に克己の目を引く名前があった。
「京水。あいつも連れてこられたのか」
泉京水。克己と同じNEVERで特殊傭兵部隊NEVERの副隊長だ。
元は仁義に篤い任侠の徒だったが、その時代遅れの感性が原因で他のヤクザ連中に疎まれ、裏切られ殺されたところを克己が拾いNEVERにした。
蘇生した後、どういう理由かオカマになったが。
戦闘力は高く、どこで覚えたのか総合格闘技、特に寝技と関節技が切れる凄腕だ。
「あいつにもメモリは支給されているだろうな」
どこかで会ったら、使ってやるか。あいつは俺のものだしな。役に立ちそうでなければ、メモリを奪えばいい。
少なくとも殺された剛三よりはましだろう。
「ガイアメモリ、もう一度集めるか。とりあえず呪泉郷からだな」
呪泉郷から来た連中は、さっきのバンダナ男の言葉からするとどうやら多そうだ。
集まる人間も多ければ、ガイアメモリが支給された奴の一人か二人はいるだろう。

細胞維持酵素で回復した克己は、まるで先ほどまでの激闘が始めから無かったかのように、すくりと立ち上がった。
呪泉郷に集まった連中が、監獄から来たのか楽園から来たのかは知ったことではない。
悪魔として全員地獄に落とすだけだ。
唯一残った妄執を胸の内に秘め、克己は歩き出した。



【一日目・黎明 D-3/採石場跡】
大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:健康
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ
[道具]:支給品一式、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、命の闇の種@超光戦士シャンゼリオン
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
1:呪泉郷へ行く。
2:T2ガイアメモリを集める。
3:京水と会ったら使ってやる。もしくはメモリを奪う。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。
※良牙を呪泉郷出身者だと思ってます。


【支給品解説】
細胞維持酵素@仮面ライダーW
大道克己、泉京水といったNEVER達が蘇生した体を維持するために必要な酵素。
これを投与することで不死身の肉体、常人の数倍の身体能力、死への恐怖心の消失といった数々の肉体的恩恵を享受できる。
定期的に投与しないと、NEVERは死体に還る。


グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ
魔女を倒すと現れる黒い宝石状の物質。
魔法少女が魔力を消費すると溜まるソウルジェムの穢れを、吸いとって移し替えることができる。
(このグリーフシードは第3話の物です)


命の闇の種@超光戦士シャンゼリオン
ダークザイドが人間界を闇次元界へと変えるための重要な物質。
食べるとヒーローに変身できるかもしれない。
顔から花が咲くかもしれないが。


採石場跡から飛行して離脱したゼクロスは、墜落するように山道へと着地した。
道の真ん中で仰向けになり、全身から煙を発し人間の姿に戻る。
同時に行われた排熱で体温が落ち着いたところで、身体の状態を確かめようと身動きする。
その時、戦闘中には分からなかった奇妙な感覚に気付いた。
「身体が上手く動かない……これは、何だ……」
まるで全身に鉄球付きの鎖を縛り付けられたような感覚。
その感覚とこの身体になってからの僅かに見聞きした記憶、人間がうなだれて歩く姿を照らし合わせ、ゼクロスは答えを得た。
「そうか……これが『疲れ』か……」
ゼクロスは空っぽの自分の中に一つ思い出した物が出来たと、わずかに顔をほころばせた。
「傷は……どうなっている」
力を込めて上半身を起こし、スーツを脱いで全身の負傷の具合を確かめる。
顔を触ると、僅かな歪みを感じる。鏡が無いのでどの程度かは分からないが。
上半身には左脇腹に打撲痕、肩と胸から腹の切り傷、特に袈裟斬りにされた傷はかなり深く、内に指が入りそうなほどだ。
胸部もフレームが砕け、歪んでいる。
自己再生はすでに始まっていたが、遅々として進まない。
「クッ……治癒能力も落ちている……」
徐々に再生する部分から、僅かに電気が流れるような何かをゼクロスは感じた。
「……痛み、か」
傷口の広さ、多さから言えば些細ではあったが、それは「痛み」であるとゼクロスは確信していた。
カメンライダー二人を相手にしたとき痛みは見たが、自分で体験するのとはわけが違う。
二つも記憶を取り戻した実感を味わおうとした時、ゼクロスの目の前に全裸の長い髪をした女が現れた。
戦うたびに現れる、涙を流す女の幻影。
「お前は……」
だが、その姿はいつもとは違っていた。
泣いている顔に変わりなかったが、口元や目元は緩んでいた。
「お前は……何を言いたいんだ……」

女の幻影が見えるようになったのは、ガモン共和国の旧型コマンドロイドのプラント破壊作戦に従事したときからだ。
そのことをバダンに連れて来られた伊藤博士に言うと、彼は教えてくれた。
自分の記憶を奪ったのはバダンだと。
日本の新宿へ行き、海堂という男にこれ―――透明な立方体―――を渡せ、と。
その言葉に従いバダンの追っ手から逃げ、日本の東京にたどり着いた途端、突然この殺し合いの舞台に喚び出された。

女の今までに無い表情を乏しい記憶、そしてエターナルの言葉と照合し、一つの推測を口にする。
「お前は……喜んでいるのか? 俺があいつを助けようとしたのを」
女はその言葉に答えようとせず、ただその場に存在するのみ。
「俺はあいつを救えなかった」
あの技は自分を犠牲にして敵を巻き込む自爆技だろう。戻っても既に死んでいるはずだ。
「俺の性能は衰えている……だが……もし次にあいつに、カメンライダーに会えば」
さっきはエネルギー球を確実に当てるため、衝撃集中爆弾で足止めしたが、あのマントがあれば生き延びているだろう。
あのカメンライダーからは、これからの戦いに使えそうな重要なヒントをもらった。
自分の胸を砕いた螺旋回転からの青い炎を纏ったキック。あのように、攻撃を叩き込む瞬間のみに集中すれば。
たとえ一瞬しかあの赤い光が出せなくても。
「俺は勝つ……あんな無様な戦いはしない」
何かを掴むように、握り締めた拳を見る。
顔を上げると、いつの間にか女の幻影は消えていた。

「ここは何処だ……」
考えを切り替えて場所を確認することにする。
ゼクロスは脱出する寸前、ディパックを拾いあげていた。
近くに置いてあったディパックを開き、地図を取り出そうとすると、中からビンが転がり落ちた。
拾い上げたビンには何か苔らしきものが入っていた。ラベルには「生命の苔」とある。
その下に書かれている説明には、傷口に擦り付けると一瞬で完治するとあるが……。
「俺に効くのか……?」
ゼクロスは身体の大半が人工物で構成されている。生体部分がほとんど存在しない自分に効くのか疑わしい。
ビンを数秒見つめた後、結局ディパックに戻した。
「身体をどうにかしないとな」
現在の状態を考えると、傷の回復に専念できる、人間が寄り付かない隠れ家が欲しい。
地図を見ると、さっきの場所は採石場跡。今は南に逃げたからE-3となる。
「廃教会……ここが近いか」
わざわざ名前が記されているところを見ると、何らかの重要施設の可能性もあるが一番近い。
「あとは冴島邸と……村か」
冴島邸は島の中央、生い茂る森の中に建っているようだから近づく人間は少なそうだが、道無き森を進むことになる。
村は一番遠いが、いくつもの家があれば隠れるのには最適だ。
「どうするか……」

考えた末、とりあえず西へ進むことに決めた。
道を進みE-2のエリアに出れば、森の様な視線を阻む遮蔽物が無い。等高線を見ても同じ高さだ。
遠くからでも変身したゼクロスの視力なら、村と廃教会双方の状況を確認することが出来るだろう。
そうしてどちらかが危険と判断出来れば良し。安全と推測できる方へ進む。
両方危険が無いとすれば、廃教会へ。
どちらも戦闘が始まっていたら、その時は戻るしかあるまい。

道中、傷口を押さえよろよろと歩きながら、ゼクロスは決意を固めていた。
カメンライダーがさっき戦ったあんな連中ばかりなら、俺から何もかも奪う奴らなら、奪われる前に殺す。
特にあの白いカメンライダーは必ず。
「エターナル……俺が倒す」



【一日目・黎明 E-3/山道】
村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、左前腕貫通、顔面と右脇腹打撲、胸部破損)、疲労(大)、回復中
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、生命の苔@らんま1/2、ランダム支給品0~2個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す
1:エターナルを倒す。
2:落ち着いて治療に専念できる場所を探す。
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※良牙は死んだと思っています。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿はまだ確認していません。


【支給品解説】
生命の苔@らんま1/2
ヤマタノオロチ(オマタノヤロチ)の背中(八つめの頭)に生える苔。
効能1:傷口に擦り付けると、一瞬で完治します。
苔を漬けた水を飲むと、一定時間だけ回復します。
効能2:珍獣が苔を漬けた水を飲むと、一定時間だけ巨大化します。




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最終更新:2014年06月14日 17:33