老兵の挽歌


三毛別羆事件。

約100年前の北海道の開拓村で発生し、約10名の死者を出した日本史上最大の獣害事件である。
村で殺戮を繰り返す全長3メートルを超える巨大な穴持たずが相手では地元の猟師達も全く歯が立たず、
ついに軍隊まで出動する事態に発展したこの事件を終結させたのは意外にも一人の老猟師であった。
鬼史家村に住むその男は腕ききのマタギであったが、素行が悪く深酒をしては喧嘩をして歩く
悪名高い人物でもあった。しかし事態の打開のため三毛別村の村長は独断で彼ににヒグマの討伐を
依頼していたのだ。単独行動をしていたその男は、気配を殺して至近距離までヒグマに近づいた後、
冷静に狙いを定めた二発の弾丸をヒグマの心臓と頭部に撃ち込み、遂にヒグマを死に追いやったのだ。
その老猟師の名は山本兵吉。この事件を元にしたドキュメント「羆嵐」では山岡銀四郎と名前を変えて伝えられている。



墜落するヘリから脱出した後、森の中を歩いていたマタギ、山岡銀四郎は森の茂みの中から
ゆっくりと姿を現した巨大なヒグマに左手に持った血の付いた猟銃を見せて喋りかけた。

「よぉおめぇか?この銃の主人を喰ったのは?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

咆哮するヒグマ、眠りから覚めた穴持たず4を目前にして、銀四郎は彼が愛用する猟銃、
日露戦争でロシア兵から奪い取った単発ボルトアクションライフル、ロシア製ベルダンタイプⅡモデル1870を両手で構え、
狙いを定める。そして、突進してくる穴持たず4の額目掛けて冷静にスラッグ弾を発砲した。

寸分の狂いもない正確な射撃。だが、対峙するヒグマは唯のヒグマではない。HIGUMAなのだ。
鋼鉄の頭蓋がスラッグ弾を無慈悲に弾きとばした。
驚愕して膠着する銀四郎の頭部に噛みつかんと、至近距離まで接近した穴持たず4の大きく開いた口が迫る。
だが、銀四郎は咄嗟に懐から何かを取り出し、飛びかかってきたヒグマの首筋を斬りつけた。

「グオォ!?」

予想外の行動で軌道を逸らされた穴持たず4はそのまま銀四郎の真横を通り過ぎてしまう。
立ち止まった穴持たず4の首から血がどくどくと流れていた。

「なるほど、たしかに普通じゃねぇな。」

猟銃を手放した銀四郎は右手に何かを持っている。それは鯖裂き包丁であった。
彼はかつて鯖包丁1本で熊を仕留めたことから「宗谷のサバサキの兄ぃ」の名で呼ばれていた。

「グルル……」

首から血を流しながら穴持たず4は警戒しながらこの男と先ほど戦った凄腕のハンターの違いを考える。
彼は一つ勘違いをしていた。彼はハンターではなくマタギなのだ。
圧倒的な力をもつヒグマを仕留めることが目的であるマタギが己の銃と経験のみで戦う必要などどこにもない。
銃が効けば最低限の挙動で仕留め、銃が効かなければ別の手段を用いて最終的にヒグマを仕留める。
MATAGIとはそういうものなのだ。
そして、生涯において300頭のヒグマを仕留めた山本兵吉の力は既に人間の領域を超えていた。
振り向いた銀四郎は穴持たず4に向かって包丁を空中で素早く振り回した。
一瞬何をしているのか分からない穴持たず4の全身が突然切り刻まれ、血が飛び散る。

「グォ!?」

銀四郎が振り回す包丁の先端の速度が音速を超えている為ソニックブームが発生し、
視えない斬撃が穴持たず4に襲い掛かっているのだ。
たまらず隣の樹をなぎ倒して盾を作る穴持たず4。

「流石に包丁じゃあ牽制にしかならねぇな。じゃ、あれを使ってみるか。」

山本兵吉はそう言うと、突然後ろを向き、その場に仰向けに倒れこんで両手足を地面に付け、体を持ち上げブリッジの姿勢をとった。

「グオ?(一体何をしているんだ?更年期障害か?違う!?――――あれは、象形拳!?)」

その逆四つん這いの姿勢のまま大きく跳び上がった銀四郎は空中で浮遊した後、
超高速で回転し、空中で回る巨大な車輪と化して穴持たず4に突撃を仕掛けた。

(絶・天狼抜刀牙だと!?―――ウオオオオ!?)

あらゆる熊殺しの秘儀を身に付けた一流のマタギは猟犬の奥義すら自由自在に使いこなす。
リヴァイ兵士長のような高速回転体当たりは穴持たず4が盾にしている巨木を瞬時に砕き、穴持たず4を大きく吹き飛ばした。
地面に何度かバウンドした後よろける穴持たず4。地面に突っ伏す彼の額にライフルの銃口が押し付けられた。

「ゼロ距離だ。これなら一溜まりもあるめぇ。」
「グルルゥゥ(なんということだ……この男、ただのハンターではない。ヒグマと戦いなれている……!)」

これが敗北か。覚悟を決めた穴持たず4がゆっくりと目を閉じようとした、その時だった。

「……ん?なんだありゃ?隕石?うおおおおお!?」

突然、空から炎を纏って飛来してきた物体が森の中に直撃し、衝撃で周囲の木々ごと銀四郎と穴持たず4を吹き飛ばした。




「いてて……なんだ一体?」
「あ、山岡さん!久し振りですね!」

爆心地からよろめきながら立ち上がった銀四郎の元へ歩いてきたのは、先ほどヘリの中で別れたキュアハートであった。

「マナさんか?派手な登場だな?今までどこ行ってたんだ?」
「えへへ。ちょっと宇宙でヒグマさんと愛について語っていまして。」
「なんだそりゃ?まあいいや、それより気を付けろ、近くにヒグマが居るぞ。さっきまで戦っていた奴をを仕留め損ねたからな―――




ドゴォ!!



「……がっ!?」
「あはっ♪喧嘩とかしちゃ駄目だぞっ。」

突然、キュアハートが繰り出したハートブレイクショットが銀四郎の胸を貫き、心臓を掴み出された。

「マ……マナさん……?」
「山岡さんのハート、すごくドキドキしてるねっ。胸がキュンキュンしちゃうよぉ。」

腕を胴体から抜き取ったキュアハートは右手に持った心臓を口に持っていき、生のままむしゃむしゃと咀嚼し始めた。

「―――グオォォ!?」

すこし離れた位置でその様子を見ていた穴持たず4は、突然の来訪者に獲物を横取りされた事実に憤怒し、
我を忘れてキュアハートに向かって飛びかかりクローを叩き込もうとする。

「モグモグ……はぁ……やっぱ生で食べるのが一番だよねぇ。命の味がするよぉ。」
「グォ!?」

穴持たず4の全力のクローを、その方向を見ようともせずにキュアハートは片手で受け止めた。
飛びかかった姿勢のまま持ち上げられ、空中で制止する穴持たず4を、キュアハートはゆっくりと持ち上げる。

「後で遊んであげるからちょっと向こうで遊んできてね、ヒグマさんっ。」
「グォ?―――――グオオオオオオオオオオ!!!!???」

そのまま空に向かって投げ飛ばされ、穴持たず4は海上の何処かへと飛んで行った。

「あー、おいしかった。じゃあ、残りもいただきますね、山岡さん。」

うずくまる銀四郎は朦朧とする意識の中、本能で銃弾をライフルに装顛する。

「……なにがあったか知らねぇが……俺を喰うだと?神(カムイ)にでもなったつもりかい?
 人は神にはなれねぇぜ、嬢ちゃ―――

銃声が鳴り響くと同時に、高速で接近したキュアハートの右拳が山岡銀四郎の頭部を吹き飛ばした。

「人間じゃないよ、プリキュアだよ。」

左手から握りつぶしたスラッグ弾を地面に捨てたキュアハートは倒れた首の無い銀四郎に向けてそう呟き、
そのまま四つん這いになって食事を開始した。

アイヌ民族は、ヒグマを神が人間のために肉と毛皮を土産に持ち、この世に現れた姿と解釈していた。
猟で捕えた際は神が自分を選んでたずねてきたことを感謝して祈りを捧げて肉を捕食し頭骨を祀り、
ヒグマが人間を食い殺した時は悪神とみなして殺した後で放置し、腐り果てるにまかせたという。
狩りと食事は意思疎通のできないヒグマと人間の間に存在した一種のコミュニケーションの手段だったのかもしれない。

【山岡銀四郎@羆嵐 死亡】


【I-8 森/朝】

相田マナ@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル、ニンジャスレイヤー】
状態:健康、変身(キュアハート)、ニンジャソウル・ヒグマの魂と融合、山岡銀四郎を捕食中
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
[思考・状況]
基本思考:食べて一つになるという愛を、みんなに教える
0:そうか、ヒグマさんはもともと、愛の化身だったんだね!
1:任務の遂行も大事だけど、やっぱり愛だよね?
2:次は『美琴サン』やに、愛を教えてあげようかな?
[備考]
バンディットのニンジャソウルを吸収したヒグマ7、及び穴持たず14の魂に侵食されました。
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。

【???/空中/朝】

【穴持たず4】
状態:軽傷、疲労、放物線を描いて飛行中
装備:無し
道具:無し
[思考・状況]
基本思考:強者と闘う
0:なんだあの人間は!?


No.107:CVが同じなら仲良くできるという幻想 本編SS目次・投下順 No.109:Tide
No.113:文字禍 本編SS目次・時系列順 No.101:特命
No.105:Sister's noise 相田マナ No.115:羆帝国の劣等生
No.098:ゼロ・グラビティ 山岡銀四郎 死亡
No.022:地上最強の生物対ハンター 穴持たず4 No.120:野生の(非)証明

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最終更新:2015年11月29日 19:25