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第十七章-第一幕- 逆撃のマキナ






勇者軍主力部隊は迫り来る幾多の危機を乗り越え、
ようやくアーム城へと到達するに至った。
現在のアーム城は老朽化修復中だった上に、
ネイチャー・ファンダメンタルによる攻撃の傷をも
修復中であるため、一部機能が働かないままとなっている。
そんなアーム城の城門前に到達した勇者軍主力部隊を見て、
兵士達が一斉に駆け寄る。それが数少ない希望であるかのように。
「キョウカ王妃、ご無事で!」
何より王であるイスティームの妻であるキョウカが
無事に戻って来れた事が、久しぶりな事もあり嬉しいのであった。
「勇者軍主力部隊のご到着だー!」
「キョウカ王妃も無事だぞ! 王と王女を呼べー!!」
「あ、あの。そんな大仰に……」
ハイテンションになり、騒ぎ始める兵士達を
キョウカ王妃がなだめる。
(まあ、誰も大して聞いてはいないのだが)
「良かったね! 無事に到着出来たよ。
 アーム城の守りがあれば、もうだいじょぶだね!」
レイリアも嬉しそうに言う。その傍らではバスクが忙しそうに
兵士の一人に語りかけていた。
「シルヴィア主任とリゼル補佐官はいるのか?
 ここが研究部の本部を兼ねているはずだ。
 戦術レポートのファイルを渡しておきたいが……」
「すみません、両名共、スプレッダー戦役の主戦場である
 スプレッダーの巣周辺の遺骸駆除があらかた終了したため、
 インフルエンザウィルス反応を自ら調べに行っています。
 研究部へ後ほど渡しておきますので
 ファイルを預かりましょう」
「……ヒーラーがいれば後々楽なんだが、ままならないな」
しょうがない、という顔をするバスクだった。
「シエル姉様もいませんし……」
メイベルも困った顔をするしかないのであった。
ともあれ、応接間の準備が出来たらしく、
兵士の一人が語りかけてくる。
「ささ、立ち話もなんです。応接間に参りま――」

ずずん!!

重い地響きが周囲に響く。地面も振動した。
「な、何だ!?」
思わず辺りをちょろちょろしていた猫達がすっ転ぶ中、
一人冷静に状況を見つめている男がいた。ゼクウである。
「敵」
「何だと!? 探せ!」
「南」
ゼクウが指差した方向から、巨人が現れた。
例のデウス=エクス=マキナである。
しかもネイチャー・ファンダメンタルの大軍団も連れていた。
が、他の幹部達――特にジモンの姿は見えない。
「マキナか! もう襲撃出来るほど回復しているとはな!」
テディが早速臨戦態勢に入る。
「キョウカ様、後ろへ!」
メイベルも慌てて文字通り、アースシールドを構えて
キョウカの盾となるべく、前へ出た。
ジルベルトは素早く指揮を委任する人選を考え始めた。
自らの横着が災いして指示を滞らせてはならないのだ。
ジルベルトはヴァジェスの姿を認めると、彼の方を叩く。
それで大方の意思を察した彼は指示を出し始めた。
「マキナの相手は俺とジルベルト、
 後はメインメンバーがやる! メイベルと
 レイリア、エイリアは猫連れてキョウカ王妃のカバー!
 残りは全員雑魚掃除だ! 前へ出ろ、前へ!!」
お決まりとなった、対ネイチャー・ファンダメンタル用の
遺伝子調整関連防衛用フォーメーションを組ませるヴァジェス。
「おい、お前等! ユイナ王女とイスティーム王に伝令!
 城から出ないで城の中守ってろっつっとけ!!」
「あ、はい!」
ヴァジェスに指示され、城の兵も慌てて退避する。

既に前線では乱戦になっていた。
ソニアを筆頭としたサブメンバー達が
かなりの数の敵を捌くが、それでも守り切れるものではない。
次々と敵が防衛網を突破していく。数があまりにも多すぎる。
既にスプレッダー戦役時における、ウィルスユーザーズの
主力部隊を遥かに凌ぐ人数が割かれていた。
あるいは、これがネイチャー・ファンダメンタルの
主力部隊なのかもしれないのだが、確証は無い。
キョウカ王妃に次第に銃弾が飛んできたり、
敵の槍が当たりそうになるのを、
何とかレイリア達やメイベルが懸命に支えている始末だった。

一方、ジルベルト、テディ、
ライナス、ヴァジェスの四名がかりで
マキナと懸命の戦いが展開されていた。しかしそれでも
戦闘はマキナ優勢のまま、膠着状態に陥っていた。
とにかくタフなのだ。多少の攻撃では揺らぎもしないのである。
「ぬううう!」
ヴァジェスがドラグーン状態からワイバーンに戻り、
遂にその巨体を活かした格闘モードへと入ろうとするが、
マキナの巨体はそれすら上回り、その豪腕を出鱈目に振り回せば、
いかにヴァジェスやライナスといえど、迂闊には近寄れなかった。
「マキナ! 貴様が俺と同じ竜族だというのなら、
 俺達には特に争う理由など無いんだぞ!
 分かっているのか!?」
「分かっている! ヴァジェス=バハムートの息子よ!
 だが我は自然に生まれた命ではない!
 それを嘆き、悲しみ、同じものを作る技術を
 憎んだところで、誰が責められる!?」
「責めるとか責めないとか、憎むとか憎まないとか
 そういう問題でもないだろう! お前はお前だ!
 あんな与太話を真に受ける方がどうかしているぞ!」
「貴方には分かるまい! 明らかに歪んだ方法で生まれた我は、
 環境に適応する事も出来なければ、生態系に貢献も出来ん!
 子孫を残せもしなければ、後に何も残る事も無い!
 そういう現実をわざわざ幼い頃より教えられていれば、
 こういう風になってしまうのは当然の帰結のはずだ!!」
「くっ……所詮俺達は相容れないのか!
 分かり合う事も出来ないのか!
 デウス=エクス=マキナ!」
「分かり合う事は充分に出来ているつもりだ!
 だが、それでもどうにもならん事がある!!」

舌戦を繰り広げながら、攻撃を繰り返すマキナに対し、
キョウカ王妃がいても立ってもいられず、前に出てしまう。
「あなたの人生はそれで仕方無いのかもしれません……
 でも、既に環境に適応出来た、
 新しい命まで奪おうとしないで下さい!」
「戦う力の無い者が前へ来るな! 死ぬぞ!?」
キョウカ王妃の乱行に、マキナも思わず
敵である事を忘れて制止する。
しかし遅かった。

ざしゅっ!!

「あ……ッ!?」
キョウカ王妃の身体を切り裂く剣。腹部を横薙ぎだった。
「キョウカ王妃!!」
慌ててメイベルがカバーに入り、彼女を斬った敵を殴り倒す。
「いかん、ヒーラーだ! ヒーラーを呼べ!!」
「そんなのいません!!」
「医療班、治療アイテム、何でもいいから出すんだよ!
 イスティーム王とユイナ王女もすぐ出させろ!」
「はっ、はい!!」
すっかり動揺した城の兵士達が泣き言を言うが、
ヴァジェスが叱咤する。

一方でマキナの戦意もすっかり失せていた。
彼に非は無いとはいえ、非戦闘員を手にかけてしまったのだ。
思わず唇を噛み、そこから血が漏れる。
「そんなつもりではなかったのだ……
 各員、攻撃をやめろ!! 命令だ!!」
大声で呼ばわるが、敵の兵士達は誰一人耳を貸さない。
キョウカ王妃へ被害を与えたことを戦果と見なしたらしく、
より興奮してしまっているのであった。
「ユイナママ!」
ジルベルトはマキナが戦闘をやめようとしているのを見計らい、
すぐにキョウカ王妃の下へと寄る。
手当ての心得が多少あるソニアも戦線から離れ、
代わりにヴァジェス、テディ、ライナスが
二人の分まで戦線を支え始める。

キョウカ王妃は内臓に損傷があるというところまではいかないが、
とにかく腹部を横薙ぎにされた事で、出血が激しい。
このまま放置すれば、まず確実に死に至るだろう。
「まずいわ……輸血キットは無いの!?」
「今運んでます! メディック、急げ!!」
衛生兵(メディック)が現場に駆けつける。
慌ててその場で治癒を開始するが、
状況はかなり悪いところに及んでいた。

「お……母様……」
「キョウカ……!」
次いで城内防衛に徹していたイスティーム王とユイナ王女が
驚愕の表情で血まみれのキョウカを出るなり発見し、
立ち尽くし、そして急いで駆け寄る。
「嫌ぁぁぁッ! お母様!! しっかり!」
「しっかりするんですよ、キョウカ!」
その声を聞くと、朦朧としていた意識が
かろうじて戻るキョウカ王妃。
「元帥閣下……ユイナ……」
「私の血が使えます! 急いで輸血を!!」
それでも極力冷静に、ユイナ王女は
輸血キットの針を血管に差し込む。
しかし涙は止まらない。止まるはずもない。
「元帥閣下……私はもちそうにないかもしれません……
 けれど……あの子達を恨まないであげて下さいね……
 あの子達がいなければ……私は……もっと早く……」
「喋らないで! 傷に障ります!」
「この十五年……妻として生きるか……
 それとも母として生きるか……
 深く悩み抜いてきましたが……
 それは……思っていたよりずっと幸せだったのですね……」
「まだです、まだ終わりませんよ!」
「閣下……もし運良く生き残れるようでしたら……
 その時は……抱きしめていただけますか……」
「あなたが望むなら幾度でも! だから……!」
「……あり……が……」
そこでキョウカ王妃の意識が止まり、更に脈拍が下がる。
「脈拍、危険域!」
「キョウカ!」
無情にも衛生兵が現実のみを告げる。
イスティーム王の悲痛な叫びがこだまし、涙が散る。

バスクも遂に戦闘を止め、必死に端末をいじりだした。
「シエル=ラネージュ! シルヴィア主任! 誰でもいい!
 答えてくれ! あの人を死なせちゃいけないんだ!
 誰でもいいんだ! 届け、届け、届け!!
 この救難信号! 届くんだよぉッ!!」
戦いは未だに続いている。
だが、敵も味方も、そのほとんどが、
キョウカ王妃を気にかける事もせず、
また出来ずに時間は経過する。
キョウカ王妃の死まで、残り数分という現実が、
勇者軍主力部隊に重くのしかかろうとしていたのであった。



<第十七章-第二幕-へと続く>
最終更新:2013年08月23日 20:21