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第2部 序章-第三幕- 危機意識





ブラック・レインによって勇者軍が大騒ぎになっていた頃、
魔神王教団のソル=ハイドもまた、魔神王教団内に
趣味で作っていた気象観測センターにおいて、
黒き雨を望遠スコープで目視していた。
趣味で作っただけあって、予算をケチったアーム城とは違い、
可動カメラによって地面まで観測出来ていた。
ブラック・レインが地面に降り立つや否や、寄り固まって
くす玉大の大きさになり、近くの物陰に隠れて行く様も、
つぶさに観察していたのだ。
「これは一体……何だ? ええい、分からん……偵察用カメラ射出!」

ぱしゅっ!

軽い音を立てて偵察用のカメラが飛び立つ。
バッテリーの限界までしか動けないので、あまり遠距離には
飛ばせないが、充分に優秀な代物である。
何より観測台と違って音声を拾えるのが素晴らしい。
カメラはこっそりと動く黒いゲル状の何かが向かう先へとついていく。

そして目にしたのは惨劇だった。人気の少ない所に潜んだ
黒いゲル状の何かが、人を丸呑みにして溶かしてしまったのだ。
瞬く間に実行され、悲鳴すらロクにあげられずに終わる。
そして人間に擬態した彼等は、同じように擬態した仲間と合流、
少しずつ数を増やして、ある程度以上に増殖した後、
一気にその集落全域の人間をまるごと捕食しにかかった。
偵察カメラはその自然界にあるまじき光景をつぶさに映し出し、
ソルは自らの所業の比ではない凄惨さに、唾を飲み込むしかなかった。

丸ごと滅ぼされた村を黒いゲル状の何かが立ち去り、
そして、誰もいなくなった。生命の気配がまったく無くなったのだ。
「……引き上げだ」
全てを録画した後、偵察カメラを引き上げさせたソルは、
その帰還を待つまでもなく、教皇エッセに報告に行った。

「教皇、非常事態です! 気象観測センターの映像をご覧下さい!」
大慌てでエッセの玉座に駆け込むソルに対し、
あくまで冷静にエッセは、モニタを見た。
そして映し出される凄惨な光景。人一人残らぬ悲劇。
義手を付けられたばかりのターレットも凝視していたし、
待機指示を受けていたサキも同じだった。
だがターレットもただの無能ではない。
端末を利用してこの事件に該当するニュースが無いかを
ネットワークに接続し、必死に探し始めた。
「あったぞ……勇者軍の情報機器をハックして情報を得た。
 奴等はイグジスター……全ての生命の敵、らしい」
すると、それまで冷静さを保っていたエッセの顔が、
苦々しげなものに変わった。初めての動揺らしい動揺である。
「奴等は……イグジスターは敵なのだな。
 全ての生命への敵である存在など、いずれ復活する
 魔神王様を迎える惑星アースの住人には相応しくない。
 近辺で見つけ次第、駆除せよ、良いな……サキ」
「はい」
「ターレット、君に申し付けていた
 魔神王様復活までの予測期間算出は如何に?」
「まだ推論段階なので何とも……
 見積もりは最長半年というところだが、
 判断材料がまだ揃い切っていないので、断言は出来ないぜ」
「結構。この短い期間にそれだけの結論を出すとは上出来だ。
 焦らずとも良い。入念にやりたまえよ」
「ああ……」
ターレットは端末をいじるのに必死だ。

だが、ソルはリアルタイムで見ていたが故に、
彼等よりも強い危機感をもってイグジスターを見ていた。
近付いたものを駆逐、程度ではどうにもならないだろう。
その感覚が、ソルの中で危機感を強めつつあった。
「温すぎる……それでは遅いかもしれません……」
「イグジスターといったか? 識別の仕様も無いのでは
 誰彼構わず殺す、というわけにもいくまい?
 いや、人間だったら人間だったで、
 豊潤な大地の養分となってもらえれば、
 それはそれで魔神王様の復活が早まるか。
 そうすれば奴等など悉くに駆逐できようよな?」
「…………」
同意は出来かねる、という表情をソルは見せた。
「ソル。君は納得しかねるようだが、我が教団の
 最終目標をはき違えてはならぬ。あくまで我等の教義は
 魔神王様の復活と、それによる人類への安定的な支配だ。
 そのためになら、奴等の稼ぎを掠め取るぐらいの事はするのだな?」
「……分かりました!」
怒気を込めて、ソルは気象観測センターに戻った。
とにかく情報を集めなくてはならん、という彼なりの想いである。
そのためにはターレットの力も必要となるかもしれない。
出来うる限りの手段を脳内に巡らせるソルであった。

そこで彼には一つのアイディアが浮かんだ。
「ゲイリーとイノが掻っ攫ってくるロバートとかいう勇者軍リーダー……
 場合によってはこちらに取り込んで味方に出来ないだろうか……
 そうすれば、イグジスターに対する番犬に出来るやもしれんな。
 上手くいけば、奴を人質に勇者軍全体を使う事が出来るか?」
彼は彼なりの打開策をもって、この局面を切り開こうとしていた。
こうなると俄然、イノ達の役割は大きくなってくる。
「上手くやれよ、イノ、ゲイリー……」
とにかくこのプランを完遂させるにはロバートの力が必要だ。
それを確信しながら、ソルは帰って来た移動カメラを受け入れた。

それから一ヵ月後、遠く離れた竜族の王城である竜宮城。
その玉座にて、半人形態である
ドラグーンモードとなった竜が座って唸る。
「…………随分と久しぶりに人間の住処が騒がしくなってきたか」
「あなた……どうなさったのですか?」
玉座の王者に語りかけるのは、王妃であるドラグーン。
「イシター……勇者軍からのホットライン回線を使っての連絡だ。
 どうやら、久々に俺が出張らんといかんかもしれんな」
「また戦いが起こるのですね」
「竜王の責任も大事だが、俺にはカレン家との盟約も大事だ。
 もう少し様子を見るが、必要なら出るぞ……いいな?」
「あなたの成したいように……」
深々と礼をするイシターこと、イシュタリア王妃。
竜王は頷き、また端末をいじり始めた。

全ての舞台は整いつつあった、
そして物語の視点は勇者ロバート=ストレンジャーへ移る……



<第十一章-第一幕-へと続く>
最終更新:2017年11月09日 02:16