峰津院大和、本日の晩餐。

先付:あわびの酒蒸し
御椀物:土瓶蒸し(鱧・鶏・蟹つみれ・大黒しめじ・三つ葉・酢立)
お造り:ズワイガニの刺身
焼き物:エテカレイの一夜干し
煮物:炊合せ(蕪・巻海老・合鴨・里芋菊花餡掛け)
台の物:かにすき
御飯物:寿司(マダコ、イカ、スズキ、シマアジ、マグロ、イワシ)
甘味:白桃のシャーベット
お飲み物:緑茶

 ベルゼバブ、本日の晩餐。

先付:特撰和牛しぐれ煮
御椀物:ズワイガニ土瓶蒸し
お造り:季節のお造り5点盛り
焼物:銀鱈の西京焼き
揚げ物:河豚唐揚げ
台の物:ステーキ
御飯物:茶飯
甘味:コーヒーゼリー
お飲み物:レッドブル(プロテイン割り)



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……」

 此処まで、呆れている、と言う感情が露わの表情もそうはあるまい。
大和の邸宅、その食事室である。食事室と言っても、実際上は会食や宴会、パーティ等にも用いられる広大な一室であり、そう言った催しがない場合は専ら、
当主である大和及び財閥の中でも役職の高い幹部達の食事の場として使われる。外国からの来賓を出迎える為に作られた向きが強いらしく、
部屋そのもののデザインも設置されている調度品も欧風のそれに統一されていて、テーブルや椅子一つ、使われる皿の一枚とっても、高級(ハイグレード)である事は言うまでもない。
そこで大和とベルゼバブは食事を取っていた。何十人も収容出来るこの食事室に、物音一つ立てる事無く料理を頂く者は、この二人だけ。
大和が人払いをしている為である。単純に、ベルゼバブの姿を見られない為にであるが……その人払いの原因になっている当の男を、まるで下手物でも見るかのような目で、大和は眺めていた。

「その組み合わせは、君の出身世界では当たり前なのか?」

 大和もベルゼバブも共に、会席料理を食していた。
両名共に和を主体とした食事を取っているが、これも、大和の命令一つで、和・洋・中を初めとした様々な様式に料理を変更する事も出来る。
勿論、食器自体が、およそ食器の価格なのだろうか?と疑りたくなる程の高級品なのである。器が高価なのであるから、それが盛られている料理の食材自体も、
高級品である事は言うまでもない。季節の魚や海老・蟹についてはその時期国内で取れる最も高い産地から水揚げされたの物を用いているし、肉のグレードの至っては最高級のA5である。
財閥の当主の食事であるのだ、庶民のそれと同じである、と言うのは対外的にも示しが付かない。故にこの、過剰なまでの高級志向の食事については、政財界の力学に則った重大な意味があるのだ。

 だからこそ、テーブルの向かい側に座るベルゼバブの近くに置いてある、レッドブルの缶とプロテインのボトルが、凄まじいまでに浮いている。
場違い所の話じゃないのもそうだが、そもそも、会席料理、しかも、料理の品目を見れば解る通り甘い飲み物と基本的には合わないものばかりである。
取り合わせとしては最悪に近い筈であろうに、ベルゼバブは平気で食事を続けている。元々の世界の食文化自体が、そう言う感じの風であったとしか、大和には思えないのであった。

「余は食事の必要性がない。これも、文化の習熟の為だ」

 そもそもの話、ベルゼバブ、つまり星の民と呼ばれる種族は有機生命体のように、食事の摂取の必要性が極めて薄い。
食事を摂ると言う事の目的は、栄養とエネルギーの補給であり、その観点から言えば星の民と言う種族には食事は不要なのである。
万民が想起する所の不老不死に、限りなく近い生命体である為だ。とは言え、ベルゼバブは生前の時点で、星の民が有する不死性を失っていた。
その不死性がなくなっていた時点においても、食事の必要性は限りなく無に近かったのだが、それを承知でベルゼバブは、食事を鍛錬として組み込んでいた。
何て事はない、新しいエネルギーの補給方法の模索、と言う観点から必要だったに過ぎない。星の民にとって食事は確かに必要はなかったが、エネルギー補給の観点から見た食事は、
極めて効率の良い方法であるからだ。危機に陥った際、何かしらの解決策は複数用意しておく必要がある。だからこそベルゼバブは、食事からエネルギーを効率よく補給する術を、鍛錬として組み込んでいたのだった。

 界聖杯内界にサーヴァントとして召喚された今では、鍛錬の意味もあるが、ベルゼバブの言うように他の文化を学ぶと言う意味合いもまた強かった。
ベルゼバブを召喚して間もなくから、彼も大和と同じような食事をする、と言う習慣は続いていた。大和も、ベルゼバブの意図を理解し汲んでいる為か、それについては何も言わなかった。

カイドウなるライダーとの戦いについて話せ」

 煮物を口に運びながら大和が言った。ギラリ、と鋭い目線をベルゼバブが投げ掛けて来る。銀鱈の西京焼きを、箸で解している最中であった。

「凄んだとて無駄だ。如何したとて、この件については絶対に共有しておかねばならない。それは君の聡明さであれば、理解している筈だ」

 ベルゼバブにとっては、手痛い失態を穿り返される形に絶対になるだろうが、それでも、大和としてはこの件は掘り下げておきたい事柄である。
状況のせいもあって、大和はカイドウが保有する鬼ヶ島の固有結界から急いで退散した形になってしまった為、あの異界について詳しく検分する事が出来なかった。
あの異界の中で死闘を繰り広げていた……つまり、長い時間滞在していたベルゼバブは、カイドウと言う恐るべき最強種の実情を、その耳目で見聞きした事になるのだ。
これを情報として共有しておかねば、何の為の戦いであったのか、まるで意味が解らなくなる。敗北の話をするのが不快だから、と言う理由で拒否して良い訳がなかった。

「ハッキリ言おう。君が新宿区に於いて、無視出来ぬ程の災禍を引き起こした事、それはもう不問にする。私に落ち度がなかったのかと言われれば、皮下を取り逃したのだ。なかった筈がない。そのフォローは私がしよう。だから、答えろ。あの結界の中で、何を見た」

 有無を言わさぬ、強い口調。此方を睨み付けるベルゼバブの眼光に、勝るとも劣らぬ剣呑な光を、その双眸に湛えながら大和が言った。
ベルゼバブが新宿に於いて仕出かした一件は、最早失態だとか、やらかしだとか、そう言った次元では済まされないレベルの事だ。
大和やベルゼバブが、あの一大事件の下手人の一人だと知れれば、その時点で多くの聖杯戦争参加者は、彼と共闘すると言う選択肢を選ぶ事を差し控えるだろう。
それ程の、負の力があの一件にはあるのだ。それを理解していない大和ではない。理解した上で、水に流すと言うのだ。直接的な死者だけで優に数千と余命を遥かに超え、その遺族を含めれば軽々に数万、数十万を超す人間を不幸の奈落に落としたあの事件を、如何でも良いとすら断じたのだ。これを寛大と取るか、冷血漢と取るか、外道と取るか、大物と取るか。それは、個々人の問題なのだった。

「……。あの手の宝具、もとい道具の常として、あのカイドウなる羽虫は、かなりの戦力を蓄えていた」

「だろうな。少しあの場にいただけの私でもそれは解る」

 大和らが認識する所の三次元の世界とは、異なる次元に空間を拡張出来る宝具。その使い方、とは何か。
言うまでもなく、人間と科学の利器の認知を超越した場所に空間を展開出来る、と言う事の利点は計り知れない。
真っ先に思い浮かぶ使い方としては、隠れた拠点、アジトであろう。基本的に聖杯戦争の為の本拠地など、割れない事が理想である。
別次元のアジトなど、隠れ蓑としての条件を完璧に満たしている。物理的にこの世界には存在せず、如何なるセンサーにも引っかからないのだ。最高の秘密基地であろう。

 だが、誰にもバレない秘密基地、でこれだけの宝具を終わらせるのならば、聖杯への到達可能性などゼロに近い。二流の使い方だ。
カイドウはその点、理想的な使い方を実行していた。それが、ベルゼバブの言うように戦力の貯蔵である。早い話が『倉庫』である。
鬼ヶ島内部を見るがいい、恐らくはカイドウの宝具と思しき私兵達が、あの中では息づいて、牙を磨いていたではないか。
勿論あれがNPCの筈がない。生前のカイドウと強い関係性で結ばれた、部下或いは同胞のような存在であろう。
大和の見立てでは、鬼ヶ島内部には千名は固い私兵達が待機していると見ていた。千名にも上る頭数を、誰にも露呈せずに収容出来る施設など、
滅多にあるものでないし、それに加えてカイドウの部下達は物理的に『デカい』。同じ人類であるかも疑わしい程の巨躯の武士達が、何人もいるのだ。普通は、露見してしまう。

 その隠匿の難易度は計り知れぬ物になるであろうが、実際にそれを、カイドウの宝具は達成している。
ベルゼバブが新宿一区を半壊させるその前から、青い龍の姿で東京の街に災禍を齎していた一方で、カイドウは兵力の増強と言う事実だけは、隠し通せていたのだ。
成程、軍師だと大和も思う。龍の姿を臆面もなく披露していた理由が、本当に隠したい物から目を逸らさせる為だったと解釈すれば、筋が通る。

「だが、それだけとは思えない。他にも何か見たのではないか?」

 ――そう。
実際に、皮下と剣を交え、カイドウの威容と強かさを目の当たりにした大和の直感が、告げていた。
本当に、自分の宝具によって供給される私兵を蓄える為だけに、鬼ヶ島を運用していたのだろうかと。勿論、その目的が第一義である事は疑いようもない。
だが、ベルゼバブと互角に渡り合える強豪が。大和を相手に一歩も引かなかった怪人が。強兵の作戦の為だけに鬼ヶ島を用いていたとは、とても思えないのだ。

「余が奴の宝具の中を、戦闘の折に移動していた時。確かに貴様の言う通り、奇妙な物を見かけた」

「それは?」

「恐らくは、研究施設。あの宝具の中に在って、其処だけが、異物のように浮いていた。だからよく覚えている」

「研究施設……か」

 大和の言葉に、意外性や驚きと言う物はなかった。寧ろ、予測の一つが当たったな、と言う風な事すら思っていた。
ラボか、それに準じる施設や一室が、あの鬼ヶ島の中に存在する可能性。それを大和は予測していたのだ。
根拠はある。カイドウ率いる百獣海賊団、その最高幹部である大看板であるクイーンが、大和に対して口にした、或いは口を滑らせた言葉。

 ――なあ船長、コイツの身柄は俺に任せてくれないか? 頑丈そうなデクは何体いたって良いからな!!――

 この後のカイドウのやり取りで、大和は一瞬で、鬼ヶ島の内部には非道な実験を主とする場所がある事を理解した。
それも、カイドウの宝具によって生み出された海賊達だけではない、話を聞くに、マスターをも貪欲に利用しようと言う精神性が感じ取れたのだ。
此処から導き出される結論の中で、最も有力な物は、『皮下達はNPCを利用して何かしらを企んでいる』、と言う事実。
当たり前のことながら、聖杯戦争のマスターを実験材料にする事は、困難を極める。当然の論理の帰結として、マスターの死はサーヴァントの消滅と等号で結ばれる。
マスターを危険に陥らせるような真似は、真っ当な精神性のサーヴァントならば許す筈もないし、必然、拉致しようとしても妨害に合うであろう。
また、そう言った要素を抜きにしても、マスターの数は絶対的に少ない。何せ、東京都民1000万人超の中で、23人しかいないのだ。ほぼ、50万分の1、である。
当然の話、マスターの存在はレア中のレア。実験材料として利用しようにも、余程の事ではお目に掛かれない。では、人体実験の協力者をどのようにして工面する。
答えは一つだ。この聖杯戦争の為だけに用意された、やがては死に逝く、しかし、確かに血肉の通ったNPCが、山程いるではないか。彼らを利用すれば、万事が足りる、と言う話であった。

「その施設、完膚なきまでに破壊したか?」

「無論。だが……軍事工学の考え方として、研究施設や工廠、兵器の貯蔵庫の役割を果たすものを、一つの部屋のみに限定しているとは思えん」

「鬼ヶ島の至る所に、分散させていると言うのだろう」

「そうだ。余が見た研究所は……NPC共を使って何かを企んでいたようにも思えた。粗末なベッドや寝床に、死にかけの羽虫共が呻いていたわ」

「他には何があったか?」

「桜の文様が特徴的な……培養槽の様なものか。詳しく検分する時間もなかったのでな。その施設ごと破壊して、カイドウなる羽虫の下へと向かったわ」

「そうか……」

 其処を咎める事はしなかった。カイドウが超A級のサーヴァントである事は大和だとて理解している。
あの時はカイドウとの戦闘が優先であったし、怪しいものがあったら調べろとは大和も指示しなかった。寧ろ、あの目まぐるしく戦況が変転・流転する戦いの中で、よくもこれだけの情報を持ち帰れた物だと、感心する次第だった。

 ……そして、大和も気づいていながら指摘しない。
施設を破壊したという事は、その時までは生きていたNPCの命を、ベルゼバブは容易く刈り取ったと言う事実を。大和は、咎める事をしなかったのだった。

「その培養槽の中身について、君の意見を聞こう」

「有り触れた考えで行けば、毒よ。人体実験で試すものとしては珍しくなかろう、洋の東西を問わぬ」

「私も、普通ならばそう考えていただろう。皮下との会話を、交わしていなければ」

「違う、と?」

「恐らくは」

「話せ」

 そこで大和は、皮下医院にて、皮下真と繰り広げた舌戦、その内容を話した。
全人類に等しく、異能に近い能力を授け、誰しもを本当の意味で特別にする事で、世界平和と平等を達成しようとした事。
その、異能を無理なく遺伝させる過程において、有史以来類を見ない程の淘汰と、コンピューターの枠組みを超え、政治経済にまで波及する程のシステム・ダウンが生じる事。
そして、肝心なその異能を授ける方法が、ある女性の血液から複製された特別な血清のようなものであると言う事。これを大和は、ベルゼバブに掻い摘んで説明して見せた。

「平等や平和など、どうでも良い。余には些末な事よ」

 だろうなと大和は思う。
大和にとっては皮下の掲げる人種平等の思想は、真っ向から大和の理想に唾を吐くような考え方だ。どうでも良いを越えて、唾棄すべき思想なのだ。
考え方のスタンスが大和に比較的近いベルゼバブが、皮下の理想に興味を示さない、と言う事は容易に想像できた事柄だ。

「その培養槽に入っている物は、奴の理想の成就に必要な、只人に異能を授ける血清、或いはそれの模倣品と考えて良いだろう」

「……」

 大和の言葉に耳を傾けながら、ベルゼバブは、土瓶蒸しの中に入っていた、ズワイガニの爪を口元に持って行く。
身を、穿らない。その甲殻ごと噛み砕き、磨り潰してから咀嚼、呑み込んだ。その間、ずっと、何かを考えていたようで、数秒の後に、言葉を紡ぎ出した。

「仮に、皮下なる害虫が、本当にそのような代物を製造していたとして。これを用いる目的が、2つ思い描ける」

「聞こうか」

「最も解りやすいものとしては戦力の増強だろう。底上げ、と言っても良い。内部での状況を見るに、主にNPC共に用いる予定だろう事が解る」

 これは、誰しもが到達出来るだろう、しかし、最も可能性が高い利用方法の一つであろう。
適合さえ出来れば誰しもに、人智を超えた強力な異能を授ける薬なのだ。私兵の戦力、そのアベレージを高めるも良いし、虎の子の側近に投薬するのも良い。
その様な物が手札として用意されているのであれば、ベルゼバブの言った使い方は、最もベーシックかつオーソドックス。そして、最も効果の高いやり方と言える。
唯一の欠点は、大和達はその名を知る由もないが、葉桜に備わる致命的な副作用。即ち、適合出来なければ『死ぬ』と言う、無視出来ぬ極大のデメリットであろう。
皮下の話を聞くに、十全の状態で作られた葉桜そのものですら、死のリスクは避け得ぬらしいのだ。リソースが不足しているであろうこの界聖杯内で生み出された葉桜に、
そのリスクが低減させられている筈がない。いやそれどころか、元の世界で作られたそれよりも死のリスクが一割、二割程増しているのではないかと、大和は考えていた。
それを考えれば、投薬は差し控える事だろうと普通は思う。だが、皮下は違う。あの男は、大和と同じでこの世界のNPCが死のうが、それを『数』でしか捉えない冷血漢だ。
NPCが死んだとて、命が失われた、と思わない人種だろう。だから、NPCに大量に葉桜を投与して、適合出来ずに何百人が苦痛の内に死に絶えようが、痛む腹も流す涙もないのだ。

「だが、如何に戦力の平均を高めようとも、所詮素体が素体だ。有象無象共ならいざ知らず、仮想敵を余に設定しているのなら、愚弄しているにも程がある。話にもならぬわ」

 だが、どれ程能力を扱えるNPCを集めようとも、所詮はNPCである。
ベルゼバブとカイドウの大立ち回りを見れば解る通り、トップクラスのサーヴァントの衝突は、それ自体が最早天災や災厄に等しい規模と内容の被害を齎してしまう。
しかも恐ろしい事に、あの時新宿でこの2名が繰り広げた戦いは、別に、東京を破壊しようだとか地図を書き換える程の破壊を披露しようだとか。
そう言った意図は全くなく、ただただ、敵対する相手を撃滅しようと言う目的の下繰り広げられた物に過ぎず、極めつけに彼らが東京に現出して火花を散らしていた時間は、
ものの一分かそこらに過ぎない。たったこれだけの時間、ぶつかり合っただけの『余波』で、数千人もの死者を瞬時に叩き出す。
これが、十全の魔力を収束させた状態での、最上位のサーヴァントなのである。これだけの力を有するサーヴァントを前に、たかが能力を得て間もないNPCに、何が成せると言う物か。良くて数秒の足止めにしか、ならないであろう。

「……此処で、2つ目の使用目的が、前景として開けてくる」

「それは?」

「食糧として、だ」

 それが比喩である事は、大和は直ぐに解った。何についての、メタファーなのか。『魂喰い』だった。

「カイドウなる羽虫を御する為には、相応の魔力が必要となる」

「だろうな、あれ程のサーヴァントだ。見合った魔力が入用になる」

「一見すると、あの羽虫共は魔力に不足はなさそうに見えるが、実際にはそれ程でもないと余は考えている」

 これは大和も考えていた事だった。
あの時、カイドウが大和に持ち掛けた提案。霊地を分譲しろ、と言う相談は、半ば以上彼の本心だったのではないかと考えている。
勿論、最終的には全部奪うつもりではあったのだろうが、魔力が欲しかった、と言うのは間違いのない事実であった事は容易に想像が出来る。

「あれ程の性情と強さの持ち主だ。機が熟していたのなら、当の昔に打って出たであろう事は想像に難くない。」

「であるのに、あの羽虫共はそうしなかった。それどころか、余が彼奴の拠点に攻め入っていた、あの大事の時ですら、大軍を運用する事をしていなかった。出来ぬ事情があったのだ。余はそれを、魔力が原因だと睨んでいる」

 ベルゼバブ程の強さのサーヴァントが、本拠地に攻め込んで来る。
この、未曽有の一大事にかち合った場合、行うべきは総力を以てベルゼバブを排除する事が正解になろう。
つまり、鬼ヶ島の中にいた大看板や飛び六胞、真打達から最下級の下っ端に至るまで、全ての力を、ベルゼバブに注ぎ込むべきだったのだ。そうしなければ、滅ぶしかないのだから。
しかし実際にはカイドウや百獣海賊団の面々は、そう言う選択を取らなかった。外界での出来事なら、話は解る。鬼ヶ島の内部。
つまりは、カイドウ側にとってはこれ以上となく有利な条件が働く、メイン・フィールドなのだ。その中に於いてすら、百獣海賊団達を斯様に運用しなかった。その答えは最早一つだ。魔力しかない。その様に運用したら、皮下が死にかねなかったからなのだろう。

「だが、魔力など、問題の類型としては余りにも有り触れている。あの混ざり物共が、自分達のリソースの不足に気付いていない筈がない」

 そもそも、魔力と言うリソースについて頭を悩ませている主従は、カイドウ達に限った話じゃない。
殆どの主従、それこそ、魔術の素養が一切ない、戦闘の一回でガス欠が見える程ダメなマスターの場合なら、下手をすれば事態はカイドウ達よりも深刻な筈なのだ。
霊地を抑え、それを最大限運用している上、自身も魔力の電池として優秀な峰津院大和がおかしいだけで、魔力についての問題は、殆どの主従について回る深刻なそれなのである。

「それを魂喰いで補う、とでも? あれはいわば、借金の利子だけを返すようなもの。その場凌ぎ、苦し紛れの手段だぞ」

「だから、『血を濃くする』のだろう」

 大和の箸の動きが、止まった。目線を、ベルゼバブへと向け、口を開く。 

「……醜い下拵えもあったものよ」

 ベルゼバブが何を言いたいのか、その意図を瞬時に大和は理解した。
そもそもの話、NPCを利用しての魂喰いは、効率が悪い。存在としての強度が、薄いからだろうと大和は考えていた。
界聖杯によって生殺与奪を握られている、魔術回路もないNPCでは、三流サーヴァントならばともかくベルゼバブレベルのサーヴァントを動かすには何もかもが足りないのだ。

 要は葉桜とは、調味料。塩コショウのような物なのであろう。
そのままでは存在の強度、魂の濃度、生命の重みの足りないNPC達への、彩りのようなものだ。
能力を授かった状態でのNPCなら、魔力の還元率が高くなる。そう言う、事なのだろう。

 根拠はある。予選段階、その時点で大和はベルゼバブに、魂喰いを命令していた。
尤も、NPCを喰らわせたわけじゃない。喰らわせたのは、聖杯戦争の参加者だったもの、予選段階でベルゼバブが下した敗北者である。
ベルゼバブが下した者の中には、何かしらの使い魔を召喚する手合いもいたので、実験がてらに魂喰いの効率を確かめたのだ。
結果は、使い魔はその格にもよるが基本的には還元率は高くなく、マスターの方も、多少回路が備わっていたとて、元の素養がないなら腹ごしらえにはならない。
ベルゼバブに言わせれば味が濃いのが、サーヴァント及び、魔力の豊富なマスターとの事だ。サーヴァントの霊核はそれ自体が、サーヴァントを動かす文字通りの心臓部だ。
喰らった時の魔力の吸収量は、弱小サーヴァントと言えどかなり良く、元が魔術師のマスターならば保有する魔術回路の分魔力を多く得られると言う。

「能力を得たNPCでどれだけ、あの羽虫共は魔力を補えるのかまでは知らぬが……NPCの利点は数よ。あれだけの数のNPCに無造作に能力を与え、その全てを喰らったのならば……。個々の量は大した事はなかろうが、その数だけでかなりの魔力が補充出来ると睨んでいる」

 これはベルゼバブの言う通りだ。
極論、もしもNPCを餌とする為に葉桜を投薬しているのなら、葉桜に適合する必要も、余命が3日を切っただとか、そんな事を憂慮する必要もない。
丸焼きにされる豚のようなものだ。喰らわれる運命が定められている者について、果たして誰が気を揉もうか。病むのだろうか。
それしか利用価値を見出してないのだから、後の事などどうでも良い。死体の山がどれだけ築かれようが関係ない。
そして、皮下はこうと割り切れ、開き直れる精神的な強さを持つ。ベルゼバブの案は、かなりの現実味を帯びている。やり得る。大和はそう考えていた。

「その案が現実の物であった場合、ランサー。君はどう対策する」

「『余も倣えば良かろう』」

 ベルゼバブは、即答した。

「折角用意された持て成しなのだ。余も喰らわねば、失礼であろう」

 ――そう。ベルゼバブは、こう言う男だ。
新宿に大破壊を齎しておいて、何も悪びれを見せない男である。効率が悪いからNPCを魂喰いしないだけで、その効率が高まる方法があるのならば、話は別。思う存分、そのNPCを利用する腹でいた。

 これこそが、カイドウないし皮下が想定しているプランの弱点である。
魂喰いはカイドウの専売特許ではない。モラルや後味の悪さ、罪悪感等と言ったものを捨て切れるのであれば、サーヴァントであれば誰だとて出来る行為なのだ。
無論、ベルゼバブとて例外ではない。それどころかベルゼバブに至っては、それが戦略上必要であると言うのなら躊躇なく踏み切れる思い切りを有している。
その通り、誰でも魂喰いが出来るのであれば、誰でもカイドウらが用意した能力者NPC達を魂喰いして魔力の回復に使用出来るのだ。

「君らしい言葉だ」

 NPCの事など知った事ではない、と言う考えはベルゼバブにしても同じ。
己の引き当てたサーヴァントの、魔王に比肩し得る残忍な思考を、大和は微笑みを浮かべて肯定した。
峰津院大和。彼もまた、死に逝くNPCの命について、何も思いを馳せない魔人であった。

「……次は貴様の番だ、羽虫」

 河豚のから揚げを、箸で摘み、ベルゼバブが言った。

「惚けは、通用しないようだ」

「腹芸など、この期に及んで通用すると思うな。弁疏の機会を設けてやっているだけ、余の寛大さに平伏するが良い」

 失点を回復する機会を、与える。とどのつまり、ベルゼバブが口にしている事はそう言う事だった。

「皮下の奴を取り逃した事については、弁解のしようもない。私のミスだ」

 そも、ベルゼバブがカイドウを取り逃す事と、大和が皮下を仕留め損なう、と言う事は全く同列に語れない。それどころか、責任の度合いで言えば大和の方が重い。
対サーヴァントは、何が飛び出してくるか解らない死闘である。銃が懐から突如現れる、とかそう言う次元の話ではないのだ。
この世の摂理や理を歪めるような恐るべき絶技や魔具の数々が飛び出し、時にこの世を貫く物理法則ですら超越した無茶苦茶な現象が頻発する事もあるのだ。
ベルゼバブが、次に会えば必ず殺すと決めている緑壱でさえ、ベルゼバブが油断や慢心を捨てた戦法に切り替えてから彼が放つ攻撃の全てを、回避し続けられた位だ。
サーヴァントによっては平然と、それこそ二流どころに近い連中ですら、一芸によってはベルゼバブを瞠目させる力で渡り合えるのだ。彼らを逃がす事も、成程確かに起こり得る。

 ――だが、マスターは違う。
傾向的にマスターは、戦闘力がサーヴァントに比べて格段に劣るか、それ以前の問題として全く戦えない者のどちらかしかいない。
加えて聖杯戦争の絶対の法則として、単独行動スキルを持っていないサーヴァントは、マスターが死亡したその瞬間、魔力の供給を断たれる為に消滅してしまうのだ。
サーヴァントの消滅はマスターの消滅を意味しないが、その逆は違うのだ。だからこそ、聖杯戦争に於いてマスターを狙う事はセオリー中のセオリーになるのである。
確かに、大和が戦った、皮下真と言う怪人も、光月おでんと言う時代錯誤のサムライも、尋常ならざる強さの持ち主だった。どころか、下手なサーヴァントよりも強かったろう。
だが、おでんの時ならいざ知らず、大和は皮下を、確かに殺せる状況にいたのだ。誰の目にも留まらない場所で戦って居て、しかもその場所は大和が用意していた霊地の中。
つまり、大和からすれば本気も本気を出せるスペースで、彼は皮下を仕留め損なったのだ。極めつけに、あそこで殺せていれば、ベルゼバブが殆ど無傷に近い状態で、
カイドウを詰ませられると言う王手に一歩近づけられるレベルの大躍進を遂げられていたのである。
他の取るに足らないマスターであれば、皮下と戦って無事か、逃げ果せられた事は、称賛に価されるべき事なのだろうが、大和の場合は違うのだ。
彼の場合は、皮下を、おでんを。仕留めなければならない実力なのだ。ベルゼバブは、それを果たせていないと言う事実に、憤っているのだ。

「フッ。らしい言い訳も思い浮かばないのでな。どうせ貴様の事だ、私の謝罪の言葉など何も響くまい」

「……オイ。まさか、本当にその言葉だけで終わらせるつもりではなかろうな」

 其処で話を打ち切るのであれば、本当に只では済まさない。その意思を大和に対して放射するベルゼバブだが、それを受けても、彼は何処吹く風。
平然と、食事を続けていた。寿司を、口に運んでいる最中であった。

「安心しろ。それで納得行く筈がない事は解るし、私もそれで終わらせるつもりもない」

 「――なので」

「私なりの誠意を以て、君の怒りを鎮めるとしよう」

「……貴様が、実にならぬ話をしない事は理解している。良かろう、最後の機会だ。話してみろ」

 ベルゼバブもベルゼバブで、大和が利がある話をすると言った時、其処には本当に利がある事を承知している。だからこそ、話を素直に聞く気になった。

 緑茶で軽く、口内を潤した後。大和は静かに、語り始めた。

「単刀直入に言おう。今より話す事は、『明白に君を出し抜く為の策』だった。言い換えるなら――」

 冷えた緑茶の入ったコップを置き、大和は言った。

「『最後の一組になった際に貴様を殺す為の策だった』と言う訳だ」

 其処まで言った瞬間、殺気が大和に叩き付けられてくる。ベルゼバブの瞳が鋭く引き絞られ、瞳の底で、殺意が急速に溜まり始めていた。
今にも、眦から殺意が焔となって迸って来かねないばかりの。恐るべき、鬼気の塊を、ベルゼバブは宿し始めたのだ。

「まぁ逸るな。それを今こうして話しているという事自体が、私の誠意だと思わんか?」

「面従腹背の徒であるとは思っていたが、まさか此処までの者だったとはな。続けて見ろ。沈黙は死だ」

「その策は、私……つまりは峰津院家の秘奥秘術に関わる物だ。そして、その秘奥こそ、峰津院家が峰津院家たる所以でもある。ランサー、私の得意な技術は覚えているな?」

「霊脈の管理、だろう」

 それは予選の時点、しかもかなり早い段階から大和に聞かされていた。
その手腕がどの程度の物かと、ベルゼバブは見定めていたが、実際、言うだけの事はあり大和の手腕は見事であった。
魔力が流れるラインの調整や、魔力を溜め置くプールの拡張。そして、肝心の魔力を供給する為のパイプを果たす場所の修復及び、機能向上等。
霊地の質と効率を向上させるあらゆる方策について彼は知り尽くしていたのである。魔術魔法の類が当たり前だった空の世界でも、此処までの才覚を示す者は稀であっただろう。

「峰津院家では霊脈とは言わん。この世界の……界聖杯の挟み込んだ余分な知識の流儀に従った言い方をしていただけだ。私はこれを、『龍脈』と呼ぶ」

「リュウミャク? リュウとは、ドラゴンの事か」

「字の上ではその通りだ」

「貴様が使役するあの駄犬のように、その龍も使役出来ると?」

 大和が悪魔、と呼ばれる伝説上の存在を使役する術を会得している事も、ベルゼバブは知っている
其処から、龍脈とは、強大な龍を使役する技術のようなものなのだろうと彼は考えた。その様な技術は、空の世界にも存在していた。

「9割は正解だ。流石の見識だな、ランサー」

「残りの間違っている1割とは、何だ」

「龍脈は定義によって形を変える概念エネルギーだ。私の使役するケルベロスのように、悪魔ではない。純粋な無色の力そのものだ」

「凡その意味は余は解る。貴様らの世界に於いての龍脈とは、何だ?」

「大地……もとい、この星の息吹を噴き出させる、気孔のようなもの龍穴と呼び、その龍穴と繋がる経絡の事を、龍脈と呼ぶ」

 魔術の大家と言う物は、通常、これぞ、と言った風に、血道を上げるべき分野を一つに絞る。
錬金術、ルーン、召喚術、占星術、カバラ、降霊術、方術、陰陽道、修験道等々。先祖からこう言った魔術の流派を子孫もまた継承し、また研究し、可能性の裾野を広げて行く。
故に、複数の分野や流派を複合的に嗜む家柄と言うのは魔術の世界には珍しく、況して、先祖の研究成果をリセットし別の分野に鞍替えする、と言うのはレア中のレア。奇人変人の類なのだ。

 峰津院家はその珍しい方の、前者。つまり、複数の分野や流派を習得せねばならない家柄だった。
収めるべき分野を一本化、つまり専門家させて『狭く深く』が定石の魔術の世界に於いて、峰津院家の行っている事は浅く広く、つまり器用貧乏化を招きかねない方針だ。
にも拘らず峰津院家が、元居た世界に於いても有数の魔術の大家として名を馳せ、そしてその実力を遺憾なく此度の聖杯戦争でも発揮できている理由は一つ。その方針で、峰津院家は成功しているからに他ならない。

 峰津院が修めねばならない流派は、特に多い。
先ず、悪魔を使役する為に必要な知識を、陰陽道から彼らは習得する。これはほぼ最優先で学ぶ必要があり、その練度は、ケルベロス程の大悪魔を使役出来ている事からも伺えよう。
次いで、霊地の運営と管理、クオリティの向上の為の術を、密教から会得する。つまりは曼荼羅だ。大和はこれも学んでいる。
占星術から、星の配置、天体の運行についても学ばねばならない。峰津院家が修めるべきは宿曜道、つまりは東洋における占星術であるが、大和はこれに加え西洋の占星術(アストロジー)にも造詣が深い。

 龍脈とは、峰津院家が修めねばならない魔術体系の一つ。即ち、『風水』に由来する用語であった。
風水、である。元来、中国に端を発するこの魔術体系は、最早魔術師と言う奇人達が研究する神秘の学問ではなく、一般人にも広く浸透している『おまじない』の域にまで達してしまった。
ちょっとした書店のブックコーナーに行けば、易だとか星占いだとかの本に交じって風水のあれこれが記された本など幾らでも置かれている。
要は、一般的な考え方として、受け入れられてしまったのだ。本場でない日本ですら、これなのだ。風水の本場たる中国では、この考えは深く浸透しきっている。されきっている。
広東語や北京語で書かれた風水に関する書物や雑誌は書店の書棚をずらりと占領しているなど序の口。香港の中国銀行ビルと香港上海銀行ビルの間で繰り広げられた、
悪しき気をライバル会社に跳ね返し反対に幸運を自社に招く為にビルを増改築したり、その為の風水的に最良の立地を求める為の経済とオカルトの入り混じった武器なき戦争。即ち『風水戦争』が繰り広げられたのは、30年程昔の話だった。

 正真正銘本物の魔術師であり、その魔術師の中でも突出した毛並みのエリートの集まりである峰津院家が使う風水は、一般に知られる占いレベルのそれから隔絶している。
勿論、一般人が知る風水でもイメージされる、方位学と色彩学の入り混じった占いような考え方も、確かにする。
だが峰津院家は此処に、中国医学に代表される気の医術、つまりは経穴や経絡、秘孔の概念や、先に語った占星術の概念も適用する。
更に極めつけに、峰津院家が有する弩級の権力だ。大和ひいては峰津院家の面々は、自分の権勢を以て、風水的に核となる土地を優先して抑え、
此処に国家の『運の向き』を整えさせる為の重要な建造物や寺社を建築し、これらが建てられた土地、ひいては日本国の護国を成すのである。
勿論、この考えは峰津院家が有する自前の領地にも適用されており、彼らの家が今日まで隆盛しているその訳は、こう言った風水的にも完璧だからと言う事もあるのだ。

「私がこの龍脈を秘中と呼んだ事には理由がある」

「独占している、と言う事だろうが」

「流石」

 フッ、と大和は笑みを綻ばせる。
その通りだ。武術の世界でも、学問の世界でも、経済の世界でも。秘奥だとか秘中だとか、機密事項だとか呼ばれて守られている知識や技が幾つもある。
秘奥義や秘中の秘と呼ばれるものは、並べて『独占』と言う言葉で言い換えられる。知られれば、拙いから。知られたら、此方の既得権が奪われるから。だから彼らはその知識を守るのだ。峰津院家とて、例外じゃない。

「我ら峰津院家は、大地より噴き出る星の息吹と活力に、定義と形、方向性を与え、具現化させる事が出来る。これぞ龍脈の術だ」

 風水は大地もまた人と同じ一つの生命体と考え、その中を流れる気、即ち星の生命エネルギーの発露点を探し出す。
良い流れの気が噴き出る場所に建てられた家は当然繁栄するし、古の為政者はこのポイントを抑えて都市計画を練り上げていたのだ。
藤原京や平安京、江戸の街は、明らかに風水ないしそれに類似した学問を意識した街作りになっており、だからこそある時期まで、この街は栄華の絶頂を謳歌出来ていたのだ。
そう、風水に於いては気の流れの事を龍脈と呼び、その気が噴き出る発露点を龍穴と呼ぶのである。そこは、峰津院家でも変わらない。

 ――違うのは、峰津院家は前述した学ぶべき学問を加え入れる事。
即ち、本来ならば人間如きには到底纏め切れない星の内海からのエネルギーを、密教由来の方陣で形を整えさせ、
それでいて宿曜道由来の占星術でそのエネルギーを増幅させ、その増幅した無形無色の力の波濤を、陰陽術で定義付けさせ、これにアルゴリズムと形を付与させて使役する。
これが、峰津院家が独占する秘術。龍脈の秘蹟なのだ。峰津院家が複数の学問を収めるのは、この龍脈のエネルギーを制御する為。全てはこの為の下準備なのだ。
そして、この術があったればこそ、峰津院家は日本国に存在するあらゆる魔術の流派に優越していたと言っても、過言ではないのである。

「仮に、その龍脈なる力があったとして。この聖杯戦争に於いて、何が出来る」

 ベルゼバブが問うた。当然の疑問だ。
その様な大仰かつ大袈裟、勿体ぶった秘術なのだ。相応のリターンがなければ、話にならない。

「勝利」

 大和は即答した。そして、その言葉は比類なき程にシンプルで、解りやすく、魅力的な物だった。

「龍脈とは即ち、星のエネルギーの具現だ。惑星が有するエネルギーの一欠けらに形を与えたに過ぎぬが……、人の力やテクノロジーなど、これに比べれば爪垢にも及ばない。人も、英霊も、悪霊も、怪異も、悪魔も、神霊も。この星に住まわせて貰っている居候、地球から見れば小うるさいダニよ。星の身震い一つであり方を一変させねばならないか弱い生き物だ。身震いですら全体の在り方を激変させる星の力を、恣意的に操れるのだ。況や英霊如きなど……何万体いたとて話にならぬ。これを具象化出来れば、その時点で私達の勝ちだ。其処に疑いはない」

「勝てるか? あの龍人に。破壊出来るか? あの兵器の小娘を。二度と、耳障りな羽音を生じさせぬように出来るか? あの生汚い、生意気な剣士を」

 クツクツと、大和は笑った。下らない質問、とでも言うように。

「何が起こったのかも解らずに殺せるさ」

「余ですらも、か」

「お前ですらも」

 大和はやはり即座に答えた。
嘘や誇張が一切ない。それは、当然の帰結でも話すような口ぶりだった。木になるリンゴはやがて地面に落ちる、そんな当たり前の事を口にするような語調で大和は言ったのだ。
成程、それが事実なら……峰津院家が隠し通すのも無理はない。ベルゼバブを相手に此処まで強気だった理由も頷ける。彼を殺せると言う話にも、信憑性が帯びて行く。

「それだけの力があるのなら、発動出来るのだろう? 貴様は不愉快な奴だが、この瞬間勝利を収められるのなら、今までの事は水に流してやる」

「フフ……」

 不敵に笑みを浮かべる大和。
そう言うだろうと思った、とでも後に続けそうだ。もうやっている、とも言いそうに見える。

 ――そして、大和が続けた言葉は………………………………………………………………。

「嘘だ、出来ん」

 ベルゼバブの額に、青筋をいくつも浮かび上がらせるに足る、言葉だった。

「ぬか喜びさせて悪いな、ランサー。語弊がある。今言った龍脈の使い方は、『ここが完全な惑星だったらの話』になる」

「何が言いたい、羽虫……」

「龍脈について色々思索を巡らせていた最中に至った結論だがな……。恐らくこの界聖杯、願望器としての能力に不足が見えて来た」

「……何?」

 大和の言葉にベルゼバブが喰いついた。
大和の言った事はまさしく、聖杯戦争を成立する根幹の要素への疑問だったからだ。
願いを叶える力について、其処が『偽』であったのなら、果たして何の為の戦いであると言うのか。

「勿論、これは私が個人でそう思っているだけに過ぎない事だ。真実でない事もあろう。或いは、全て私の言が間違っていたと言う可能性とてゼロではない」

「続けろ」

「界聖杯とやらが設定した聖杯戦争の舞台は、地球と言う惑星の中にある国家、島国である日本の首都、東京。その中の23区と呼ばれる場所の中で行われている」

「知っている」

「そして、一度この聖杯戦争の舞台に招かれたものは、この23区の外に出る事は何人たりとも叶わない。私ですらも、君すらも」

「そうだな」

「これは間違いない事実だが、恐らくこの23区の外は『何も再現されていない』。仮に出ていけた所で、広がっているのは虚無の辺獄の可能性が高い」

「虚無の辺獄……? 何もない空間が広がっていると言う事か?」

「勿論、23区と他県他町の境から向こう、目に見える範囲までは再現されているだろう。だが、其処を越えた範囲からは、『何もない』蓋然性が極めて高い」

「その、根拠を示せ」

「『龍脈が余りにも不完全にしか再現出来なかったから』さ」

「どういう事だ」

 大和の言葉に疑問を差し込む。先ほど龍脈は、使う事と再現する事が出来ないと……。

「龍脈の術にとって肝要となるものは、土地、制御する為の各種魔術の御業……。成程それは正しい。だが、それ以上に大事な条件がある。そしてその条件は最早大前提とも言うべきもので、余りにも在って当たり前の存在である為、大抵の場合は意識すらされないものだ」

「――『星』か」

「その通り」

 確かに、大和の言うように、龍脈の術が風水に属する秘儀であるのなら、土地や多種の魔術の深遠な知識が必要になる事は間違いない。
だが、その土地と言うのも、龍穴から噴き上がるエネルギーと言うのも、その全ては地球と言う惑星が存在して初めて成立するのだ。
この事実を、忘れがちになる。当然だ、そもそもある日突然この星が消えてなくなる、と言う事態は起こり得る危難としては100%あり得ない。普通は考えない事だ。
そんな可能性まで視野に入れて活動する者は、最早強迫観念に強く囚われた異常者の類である。

「元来龍脈とは、脈の名が指し示す通り、連続した経絡。繋がった道なのだ」

「……そうか。『完全に惑星として再現されてない、一つの都市しか再現されてない故に不完全でしかない』、そう言いたいのだろう?」

「然り」

 ベルゼバブの言った事が全てだ。
地球でも、それ以外の惑星でもいい。龍脈もとい、地球のエネルギーの経絡とは、岩石状の惑星なら何処にでも存在し得るし、其処に大地があるのなら大なり小なり、
存在して然るべき物なのだ。もしも、界聖杯が完全に地球と言う星を再現出来ていたのであれば、大和が言ったような完全な龍脈を完全な形で再現出来たし、
そもそもベルゼバブを戦わせるという事すらもせず全ての主従を蹂躙出来ていた筈なのだ。

 エネルギーの流れが、余りにも不完全かつ弱かった。
それこそ、大和ですら愕然の念を禁じ得ない程に。此処まで地球のエネルギーが弱い筈がない。これは最早、死に逝く星のエネルギー……いや、それ以下の以下の以下の量だ。
だがそれも、『界聖杯が聖杯戦争の為に再現した個所を限定した』と仮定すれば全てが説明出来る。
東京都ないしそこ以外の隣接した県しか、土地として再現していない。だからこそ、龍脈の力が弱いのだ。
何せ地球のエネルギーが流れる経絡、それが丸々再現されてないどころか、存在しない。『東京都内にぶつ切りの形にしか脈がないのであるから』。これでは、龍穴から噴き出る力が弱いのも、うなずける。

「一つ、君の意見を仰ぎたい」

「言ってみろ」

「『都市の一つしか再現出来ぬ願望器に、新世界や新宇宙の創造が成し得ると思うか』?」

「……願望器の裁量を越えている可能性が高い」

 勿論、聖杯戦争のような最後の一組が勝ち残らねばならない殺し合いであるのなら。
舞台は狭くて、個々人が出合いやすくて、殺し合いにも発展しやすい方が良いだろう。これは間違いないし、そう言う意図があるのならばこれは界聖杯のジャッジは正しい。
だがもしも、これが『惑星全土を再現した場合処理の限界を迎える』、と言うのならば話は別だ。個々人の細々とした願いなら成就出来ようが、果てなき野望を叶えようとするなら。
例えば、神を殺したいだとか、新しい星を創造したいだとか、宇宙を開闢したいだとか、時間を巻き戻したいだとか。その願いは、達成出来ない可能性が高いじゃないか。これでは、大和の願いは達成出来ない。

「我々が本戦を勝ち抜いた際にアナウンスされた、最後の情報。聖杯戦争に敗れた者……つまり、サーヴァントを失った者達は、誰かが界聖杯で願いを叶えたその瞬間、帰還出来る事無く消滅する」

「勝てばよかろう、と言う話になるが」

「冷静に考えればおかしな話だと思わないか? サーヴァント共ならいざ知らず、マスターは基本的に……巻き込まれた側だ。此方の都合など構いなしに殺しあえと宣って此方に拉致して来たのだ、最後まで生き残ったのだから、帰還の融通位は図ってやっても良かろうが?」

「一理は……譲ってやっても良い」

「元々、そういう現象なのだから仕方ない、と言って終わる事も出来る。……だが、私の目には違って映る。界聖杯が機能する為には、『最後の一組以外の全員が死んでもらう必要があるのではないか』とな」

 一呼吸。

「界聖杯が殺し合いを激化させる為に、敢えて舞台を東京都一つに限定する。つまり、戦いを加速させる為に敢えて場所を限定したのならば良い。話は終わりだ。だが、『リソースを節約させる為に舞台を限定させた』のなら、話は大きく変わって来る。そして、何故最後の一組まで生き残らねばならないのか、の理由も見えてくる」

「……優勝者以外の全主従は、薪に過ぎぬ。と言う事か?」

「薪、と言う言い方は言い得て妙だ。だが恐らく、現実は『一つたりとも欠かしてはならない燃料』なのではないかと私は推測している」

 「そうだ――」

「『主従の命や魂を燃料にする事で初めて、願望器になる。界聖杯が機能する為には主従の命か魔力は前提。欠かしてしまえば願望器として機能しなくなる可能性が高い』」

 沈思黙考。ベルゼバブが考え込む。
幾らなんでも、それは願望器として失格にも程があるのではないのか?
サーヴァントとして召喚されたその折より、ベルゼバブは、この世界と、界聖杯についての知識を刻み込まれている。
渺茫たる多元宇宙、可能性の次元に泡沫のように起こっては消える、たった一人の熱意と本気を叶える為の、万能の願望器。過程を歩まずとも良いスキップ機能。
それが、界聖杯だと言う。その様な前提があるからこそ、ベルゼバブも界聖杯の取得に本気であるのだ。それだけの謳い文句で彩られている代物が、マスターの頭数が一人足りないだけで機能しなくなる、と言うのは、言葉負けにも程がある。

「羽虫。貴様の仮定がもしも事実であったとするのなら、余らの本当の敵は、カイドウや、余に一撃を加えたあの剣士ではなかろう」

「その通り」

 其処で両名は、示し合わせたように、口を開いてこう言った。

「『この世界から脱出を図ろうとする羽虫』だ」

「『界聖杯の舞台から逃げ果せようとする者』だ」

 そうだ。大和の推測――界聖杯の顕現の為には誰一人の命も欠かしてはならないと言うのなら。
真の敵、界聖杯を手中に収めようとする者達にとっての背信者とは、聖杯戦争に乗らないで『この東京から何らかの手段で逃げようとする者』の事なのだ。
聖杯戦争に加担しない方が、最悪の結末が待ち構えている。これが真実であるならば、カイドウ等、聖杯戦争について真摯な分まだマシな手合いとすら言えるだろう。

「元より、戦いに乗らないような軟弱者共は殺し尽くす腹でいたが、それも、こう言った仮定があったからだ」

「それだ、羽虫」

 箸の先端を、大和に付き付けながらベルゼバブが言った。

「本当に貴様が言うように、他の羽虫共の命が失われる事で初めて界聖杯が顕現するのなら……何故そうと解って、貴様は他の羽虫共を勧誘した」

 ベルゼバブとしては当然の疑問である。
彼からすれば大和が何故他のマスターを此方の帷幄に招くのかも理解不能なのに、その上、斯様な界聖杯についての考察を行っていると言うのに、何故態々己の首を絞める真似をするのか。
下手に此方側に引き入れて、殺さないままにしたとしても、早晩何処かで殺し合いになるであろうし、最悪の場合、本来優勝している筈の此方が何も願いを叶えられず、界聖杯の消滅と共に消え失せる可能性すらあるじゃないか。

「其処で、龍脈の話に戻る」

 そう。元はと言えばこの話は、峰津院家の秘術である、龍脈の儀から始まっていた。ベルゼバブも忘れていた訳ではないが、此処でよもや、話が戻るとは。

「先程も言ったように、龍脈は私が望むべくような完全な形での再現は出来ない。そもそもの、龍脈が続いていて然るべき土地がない、と言う異常事態だからな」

 それは最早、大和がどれだけの努力をしたとて、解決出来る問題ではない。新たに大地を生み出してみろ、等と言うバカげた事は、流石にベルゼバブも言えない。

「だが……この東京都一都に限って言えば……恐ろしい事に、完全かつ完璧な精度で、龍穴龍脈の類が再現されている。理解したからこそ、霊地の確保を予選の段階で急いだ。その要点を理解している主従を優先的に抹殺した」

 そも、霊地の有用性を理解している主従は、何も大和に限った話じゃない。
カイドウ達ですら、自らの野望の躍進の為に、都内の霊地を優先的に抑えようとしていたじゃないか。尤もそれは、大和の手管によって阻まれてしまったが。
予選の段階では、大和と同じで、戦略上の考えの上で霊地を抑えようとしていた者達がいた。それだけならばまだしも、龍脈龍穴についての知識を会得していた者まで中にいた。
後者については、明白に危険人物だった。だからこそ、優先的に、丹念に。彼らを殺した。峰津院家の龍脈の秘術、それを行う為に、彼らには死んで貰わねばならなかったのだ。

「NPCとその土地、再現するにはどちらが簡単か。……いや、危険なのか。そう言う話になって来る」

 大和は淡々と語り始める。

「恐らくだがこの界聖杯のNPC、本戦に参加している主従、マスターかサーヴァントかは問わないが、彼らの縁者が元の世界での能力と、元々の正しい関係性の記憶を封印された上で再現されている」

 これは、峰津院財閥に所属する、元の世界での大和の部下だった者を模したNPC。即ち、迫や菅野、柳谷と言った面々を見て確信した事だ。
大和から見ても、驚く程に彼らは良く再現されている。顔や体形は言うに及ばず、喋り方や思想すらも、まるで同じであったのである。

「皮下真に機械のアーチャーのマスター。そして、光月おでん。私とも……サーヴァントとも渡り合える程の力を持った連中の縁者など、それに匹敵する怪人物であろう事が容易に想像出来る。そんな者達の関係者を、異能や身体能力を混みで再現すれば、如何なる?」

「より、聖杯戦争は混沌の坩堝に叩き込まれような。それ以前に、聖杯を巡る戦いとしての体裁を保てるかどうかすら危うい」

「其処だ。だからこそ、界聖杯はNPCの能力については制限を課したのだ」

 立てた人差し指を、ピッとベルゼバブの方に向けながら、大和は言った。

「意図はどうあれ、界聖杯の目的は願望器としての機能を果たす事だろう。仮に其処は事実とするとして、問題は願いを叶える権利が与えられているのは現状マスター及びそのサーヴァントのみである事だ」

 滔々と、話を続ける大和。

「能力を再現しなかった理由は何か? 界聖杯の容量や処理の不足かも知れないが、此処に加えて2つ、理由が思い浮かぶ」

「ほう?」

「一つに、実際は再現こそ出来るが、危険性が高過ぎてやらないと言う事。当たり前だ、サーヴァントを打倒せる程度の強さですら異常なのに、場合によっては、界聖杯の根幹部分のシステムにすら亀裂を生じさせる存在もいるかもしれないのだぞ? そんなものを再現してしまえば企画倒れだ、再現するにはリスクが大きすぎる」

 マスターの関係者だから、召喚されているサーヴァント以下の強さしかないのだろうか? 大和はこれを、否だと考えている。
皮下と言い、おでんと言い、リップと言い。明らかに、大和の知る世界観の常識からは致命的にズレた実力と、異能を兼ね備えた人物が平気でマスターとして召喚されている。
彼らがその世界に於いて一番強いと言うのなら話は別だが、それは楽観視しすぎである。実際にはそれに準ずるか並ぶ実力の者や、身体能力では計り知れぬ恐るべき特異能力を持った者が平然といるのだろう。この特徴ごと再現し、界聖杯の目論見をスポイルされてしまうのは、余りに本末転倒だ。やる意味は、確かになかった。

「そしてもう一つ。そんな能力を保有したNPCを再現して見るがいい。聖杯戦争の戦略の一つに、NPCを自軍に引き入れる、と言う駆け引きが其処には当然生じ得る」

「言うまでもない帰結よな」

「聖杯戦争の核たる、サーヴァントを用いた戦い方が変わる。其処は問題ではない。本当に問題なのは、NPCに願いを叶える力がない事だ」

 ――

「サーヴァント同士の戦いにNPCを巻き込む。あるタイミングで、必ず、この世界の真実に気付くか、誰かが教えねばならない局面が来るだろう。其処でNPCが素直に、自ら滅びを受け入れるだけの諦念を持っているのなら何の問題もない。だが、殆どの者が違うだろう。自分も聖杯で願いを叶えたいと思う者は確実にいる。この世界から抜け出したいと思う者だとて、いるだろう。如何足掻いても滅ぶ運命は変えられないからと、マスターを殺す者だとて出て来よう。序盤中盤で、そんな争いが起こるのならばまだ良い。だが、最終盤……しかも、最後の一組になったその段階で、NPCが牙を剥けば如何なる? NPCだとて愚鈍ではあるまい。最後の一組になれば当然消耗が激しくなって疲弊しているだろう事ぐらいは想像出来るだろうし、其処を狙ってくるだけの頭はあるだろう。其処でマスターが殺されてみろ。後に残るのは、願いを叶える力を持たない絞りカスだけだ。今までの戦いの全てが、否定されるぞ」

「……ふむ」

「究極、界聖杯がNPCの能力について厳密に制限を課したのは、聖杯戦争と言う今回の設定を否定されかねないからだろうと私は思っている。私としてもその判断には同意する。神は、知恵の実を齧ったからこそ楽園からアダムとイヴを追放したのだ。界聖杯とこの世界の真実を教え、それによって目覚めたNPCについて責任が持てないのなら、無意味にこれを喧伝するのは余りにも無責任だ。殺してやった方がまだ慈悲深いとすら言える」

「NPCの能力が再現されていないであろう理由については理解した。ならば何故、土地に流れる魔力だけは再現されているのだ?」

「大局に何の影響もないからだ」

 大和の言葉に迷いはなかった。

「土地の魔力を抑える、と言うのは確かに戦局が大幅に有利になる策ではあるが、それ以上の域は出ない。戦略上有利な場所を抑えていても負ける事もあるからな。それに、霊地を確保していたとて、精々出来る事と言えば、サーヴァントの現界の時間を長引かせるか、強力な宝具を放ちやすくする、位が関の山だろう。何の問題もないし、それによって結果として聖杯戦争の決着が早まるのであれば、問題はない。大局……聖杯を確保する、と言う目的からは軸がブレていないだろう?」

「余には、別段霊地を再現する必要性も薄いと考えているのだがな。羽虫。貴様は如何考えているのだ?」

「それこそ、本当に憶測になるが……恐らくだが、聖杯戦争と言う催しは、界聖杯が独自に考えたものではないと、考えている」

「オリジナルが存在する、と言う事か?」

「そうだ」

 大和がずっと疑問に思っていたのは、聖杯戦争は、そのルールを具に観察する度に、機械的な意志を感じさせないのである。
英霊の得意な分野、或いは有している側面をなるべく一面・一元化させ、七つのクラスの内のどれかに当てはめる、クラスシステム。
英霊の有する特殊な能力や才覚を、ランクによって細分化させ、何をどれだけ出来得るのかを一目瞭然にした、固有スキルと保有スキル。
そして、その英霊の生前のエピソード及び、彼らの代名詞である武器や防具を、切り札として象徴化させた、宝具と呼ばれる代物。
聖杯戦争のこう言った基本的な枠組みを、心のない機械が平等を目指して作り上げたモノだとは大和には思えないのだ。

 意図的に、意志ある何者かが雛形を作り上げたものを、界聖杯が流用しているだけなのではないかと言う予測すらあった。
余りにも、セイバー・アーチャー・ランサー・ライダーの4つのクラスがステータスの面でも、宝具の面でも有利だからだ。
キャスターもアサシンもバーサーカーも、魔術など何もわからないズブの素人には到底扱う事など出来ない程運用に難しいクラスであり、
基本的にこれを引かせられたらその時点で、余程卓越した才能の持ち主でなければ敗北の向きが濃厚となる。
まるで、予め負けさせるべきスケープゴートを決めさせる為に定められたクラスのような……そんな気がして大和にはならない。

 人為的、作為的な意図が見え隠れする、聖杯戦争と言うこのイベント。
とてもじゃないが、心を持たない存在が、平等と公平をなるべく目指して作り上げた仕組みには見えない。
良心と悪意、目的意識を持った、限りなく人間に近いか人間そのものの生命体が作り上げた、恣意的な代物。大和は、聖杯戦争をこう捉えていた。

「聖杯戦争自体は、あらゆる時空、あらゆる世界で、名を変え形式を変え、行われている可能性がある。今回のような一組だけの勝ち残りの形式もあれば、チーム分けをしてのぶつかり合いもあり得るし、トーナメント形式だとて存在するやもしれん。場所だとて、東京の所もあればアメリカだとてあり得るし、ドイツや英国、地球の地理が通用しない全くの異世界で行われた事あるかもしれないだろう」

「今回の聖杯戦争は、過去に何処かで行われた聖杯戦争のデータの焼き直しに近い、と言う事か?」

「可能性の域を出ないがな。だがどうあれ、この聖杯戦争の舞台は疑いようもなく私の知る東京都であり……、龍脈の流れも龍穴の位置も、寸分違いなく私の知識と符合すると言う事実。これが重要になる」

 白桃のシャーベットを、デザート用のスプーンで掬う。程よく溶けていて、まるで砂地か何かのように、スプーンが果肉に食い込んだ。

「界聖杯からすれば、霊脈霊地……もとい、龍脈や龍穴を再現した理由は、一つの主従に大幅に有利になるだけに終わるから、問題ないと判断したのだろうな」

 掬ったシャーベットを口元に持って行く。程よい酸味の混じった甘さが、心地よかった。

「そう言う事なら、存分に使ってやるとしよう。厚意は無下に出来んからな」

「貴様の口ぶりで言えば、その龍脈とやらは、貴様が望む形には至らないが、再現は出来るのだろう?」

「その通り」

「完全な形から劣後している、と言う事は良い。問題は、その状態で何処まで出来るのか、だ」

 それはベルゼバブでなくとも、問いたい事柄であろう。
大和から聞いた龍脈の話、聞くだに凄まじい秘術である。大和の一族が独占し、使用方法を隠匿し続け、何としてでも成立させたいと言う思いもむべなるかな、と言う説得力があった。
それだけの威力を秘めた術なのだ。如何に完全な形での成就は出来ないとは言え、それが行使出来ると言う点でも、価値は十分過ぎる程であった。

「峰津院の操る龍脈とは先に言ったように、ある種の定義によってその在り方を千変万化させる万能エネルギーのようなものだ。魔力のプールとしての形で願えば莫大な魔力の海として用いる事も出来るし、己の身体の強化を望めば自壊の現象を伴う事無く最強に近しい力を得られる。少なくともこの聖杯戦争に限って言えば、龍脈の魔力を用いれば『成就し得ぬ宝具などない』し、サーヴァントの強化に用いればクラスシステムの軛を超えて別クラスの宝具をも使用可能となる程に進化するだろう」

 成程、ベルゼバブから隠し通すのも無理はない奥の手だった。
単純に、自己を強化すると言う名目で使用するだけでも、これだけの恩恵を得られるのだ。マスター、特に大和程のマスターに使おうものなら、それこそ、
トップクラスの実力のサーヴァントが相手でも一歩も引かぬ強さを発揮出来る事だろう。この事実を、予め教えるなど、確かに大和が口にしたように、誠意にはなっている。
最後の一組まで生き残り、消耗した状態で、龍脈の力を得た大和が立ち塞がるのは、何も知らなければベルゼバブであっても予想外かつ予定外。大和の勝利か、共倒れになっていた可能性だとてある。何れにしても、ベルゼバブの気性を考えれば、この切り札を秘匿すると言う大和のやり方は、正解だった事だろう。

「その術は、今この瞬間にでも、余に適用が出来るのか?」

「この場では無理だ。龍脈の力が噴き出る龍穴……其処に私が出向かねばならない」

「何処だ」 

「港区と墨田区……と言って、察しがつく程君は地理には詳しくあるまい。具体的には、この地の住民に『東京タワー』と『スカイツリー』と呼ばれる場所の、地下施設に陣を展開している。どちらか片方を潰されても、もう片方が無事なら術は発動出来る」

「ならば話は速い。疾く向かい、余を最強にするが良い」

 ベルゼバブの性格を考えれば当然の言葉であるし、戦略と言う観点から見ても真っ当な発言であった。
このレベルの強化手段、眠らせ、腐らせておくには余りに勿体ない。それに、他の参加者に龍脈の秘術の存在に気づかれ、此方が利用される前に使われてしまった、
等と言う結果が訪れようものなら地団駄を幾ら踏んでも足りない程の後悔に苛まれる事だろう。それを防ぐ為にも、直ぐ使った方が良い。当たり前の提案だ。

「……」

 大和程の頭なら、ベルゼバブの言葉の利を、絶対に理解している筈なのに。彼の顔は、気乗りのしない、悩まし気な顔であった。

「羽虫ッ!! 何を躊躇う……!! 貴様の失策と、余の失態……それを同時に余が帳消しにしてやろうと言うのだぞ。今更、余が力をつける事に臆したか!!」

「それで、全ての決着が付き……界聖杯が私の望むべく物だったのなら、今すぐにでもそうしている」

 ベルゼバブの啖呵に一切動じる事無く、大和は続けた。

「先程も語ったが、私は界聖杯の能力に疑問を覚えている。どうせ願いを叶えるのならば、十全のそれにしたい」

「それだけではなかろうが」

 ベルゼバブの瞳に、剣呑な眼光が煌めく。殺意が、その光には伴っていた。

「貴様、あの兵器のアーチャーのマスターに義理を立てようとしているな? 本気で、奴を生かそうと言うのか?」

 新宿御苑で邂逅したアーチャー、シュヴィ・ドーラと、そのマスターであるリップ。
あの場で大和は、リップの実力と気性を認め新世界に招こうと誘っていた。相手を油断させる為の調略、だとベルゼバブは思っていなかった。
本気で、勧誘していた事を見抜いていた。勝者以外は全員死ぬ、そうと解っている筈なのに、大和はそう約束したのである。

「私の人間的なプライスは、交わした契約を守る事にあるのでな。お前とは違う」

「それで、最終的に勝利出来るのならば何も言わん。だが貴様は、界聖杯の顕現の為には全ての主従に死んで貰わねばならないと言った筈だ。その言と、他の羽虫を生かす方針は、明白に矛盾する」

 そも、大和が小難しい考察を語るまでもなく、『元の世界に帰還を果たせるのは優勝した主従のみ』。
これは、何も隠されていない、外ならぬ界聖杯の側から開示した情報であり、勿論の事大和もベルゼバブもこれを悉皆理解しているのだ。
聖杯戦争の参加者なら誰もが知る公然の事実を見ないふりをしていると言うのなら、これ程愚かしい話もない。目を、如何なる手段を用いても覚まさせるべきだった。

「私が……龍脈の御業を開帳しない理由はただ一つ。界聖杯への疑問、これに他ならない」

 続ける、大和。

「界聖杯が真に、私の望む新世界の創世を成せる……その確証があるのなら、私は今すぐにでも龍脈の儀を行おう」

 ……そこで大和は呼吸を一つ置いて。ジッと、此方を睨むベルゼバブを睨め返した。

「……今より話す事を、貴様が信じぬも信じないも自由だ。この話は、事情を知らぬ者が聞けば誰もが、私を山師呼ばわりする、質の悪い妄言と放言にしか聞こえないだろうからな。無理からぬ事だ」

「話してみろ」

 ベルゼバブは、疑問を挟む事無く、話を促した。

「どうあれ、貴様の描いた絵図には、耳を傾けてやるだけの価値がある事は、認めてやる他ない。それを聞いてから、全て判断する」

「……そうか」

 フッと、笑みを綻ばせ、大和は言った。直ぐに表情は、真率そうなそれに転じる。

「君からも……いや、聖杯戦争の参加者からにしても、私は異端だろうな」

「……」

「実力だとか、龍脈の術が使えるとか言う話ではない。界聖杯の機能そのものに、懐疑的であると言う点でだ」

 東京に集い、北欧の神話体系に語られる、宇宙そのものを内在させた巨樹と同じ名を冠する杯を求める為の、聖杯戦争。そして、それを求めて争う者達。
この戦いが成立する為には、一つの絶対条件が必要となる。簡単だ、『界聖杯の機能が真実本当のそれである事』だ。
聖杯の獲得に意欲的な者もいようし、己が悦楽の充足の為に動く野放図な輩もいよう。一方、聖杯戦争のコンセプトを否定するような、戦わないで脱出出来る方法を模索する者だとていよう。
一番最後の人種については最早どうしようもないが、とにかく、聖杯戦争を戦争として成立させるには、勝ち残った者への報酬(トロフィー)、これが本物であれば良いのだ。

 ――トロフィーである聖杯に、願いを叶える機能がなかったら? この戦いの意味は、まるでない。無為と徒労が全てのバカげた殺し合いに終わってしまう。
そして皆、それが真実であると思っている。だから聖杯戦争は続いている。一部には、界聖杯と言う存在について考察を巡らせる者もいるかもしれないだろう。
だがそれにしたとて、願いを叶える機能については、疑いを挟んでいる事はしてないのではあるまいか?

 大和だけが、違う。
彼だけは明白に、界聖杯と言う存在について疑いの眼差しを向けている。
それは彼が猜疑心が強い、強迫症にも似た心持ちの人物であるからと言う訳じゃない。彼が歩んだこれまでの道筋と、深く関係していた。

「――界聖杯など及びもつかない願望器の存在を、私は知っている」

「……何?」

 流石のベルゼバブも、当惑を隠しきれずにいた。疑念を、言葉と態度で隠せていない。

「その願望器を掌握した瞬間、誇張抜きにその存在はあらゆる時空と多元宇宙を統べる王だ。他を圧する力など言うまでもない、完全なる無から万物を創造する奇跡ですらその者にとっては最早下らぬ余技に成り下がる。新しい宇宙を開く事も、時間の回帰も児戯に等しい。認識と思考の速度よりも速く、人も神霊も、星も銀河も宇宙を消す事も指を動かすような容易さで可能とする。光より速いものはない、火は水を掛ければ消えると言う当然至極の物理法則すら改竄する事も出来るぞ。そして――叶えられる願いにもまた際限はない。それこそ、界聖杯を無限に生み出し、願いを叶え続ける事だとて……な」

「………………色々と、聞きたい事がある」

 レッドブルを口にし、呼吸を整えてから、ベルゼバブが尋ねる。

「貴様の口にしたそれが本当なら、確かに、界聖杯など比較する事すら酷な願望器だろう」

「そうだ」

「何故その存在を知って居ながら、この戦いに参加しようとする?」

 当然過ぎる疑問だった。
大和の語ったそのアイテムは、誰がどう聞いても界聖杯の完全な上位互換だ。その存在が真実であるのなら、これを求める戦いに身を投じた方が、良かったのではないか。

「参加するつもりもなかった。そもそも私が本当に求めていて、手に入れる準備をしていたのは、その玉座の方だ」

 何て事はない。聖杯戦争の舞台に招かれていなければ、大和は己の持てる全ての才覚を、彼が口にしていた真なる願望器の為に費やすつもりであったのだ。
そして、その存在を知って居たからこそ、大和は界聖杯の存在について懐疑的だったのだ。何せ大和は正真正銘本物の、全能の願望器の存在を知って居るのだ。
真物を知る大和に対して、それ以外にも願望器がある、と説明したとて、彼が疑いの目を向けるのは、当然の話とすら言えた。
そう、大和は結果的に界聖杯を追い求めざるを得ないだけなのだ。この峰津院大和もまた、他の参加者達と同じだ。界聖杯を巡る聖杯戦争の意志に、巻き込まれた側。ある種の、被害者の枠組みに位置する人物なのであった。

「……次の問いに答えよ。羽虫、貴様はその願望器の存在を、何処で知った?」

 これも、当然の疑問。
ベルゼバブも永く生きて来たし、世界の根幹に近い部分の知識も有してはいたが、所詮それも、彼が生きていた世界だけの話である。
だが、大和の語るその情報は明らかに、単一の宇宙のみの秘密、と言う枠を超えている。それこそ、幾千幾万、幾億もの多元宇宙の深奥に関わる秘密である。
少なくとも、ただの人間が知り得る範疇を軽々と越えていた。何処で、大和はそれを知ったのか。

「……」

 これに対し大和は、明白に苦い顔を露わにした。それどころか、嫌悪の感情すら克明に浮かび上がっている。

「その玉座に由来する、上位存在に、教えられたとでも言っておこう」

「ほう」

「悪いがそれ以上は言えん。……不吉な者でな。容易く時空を越えて来る存在だ、変にその名を口にすれば、私の下に邪魔しに来かねん」

 そう口にする大和の言葉には、怒りの念が滲んでいるようにベルゼバブには聞こえた。
それ以上の追求は、しなかった。大和がこう言う以上、危険な存在である事には変わりないのだろうし、その通りの事が、出来るのであろう。

「……最後だ。その願望器、何と呼ばれている」

「厳密に言えば、先の述べた諸々の機能……願望器としての側面を含めた、それそのものに名前はない。その機能の管理者に名前がある。名を、『ポラリス』と呼ぶ」

「北極星、か」

 ベルゼバブの言う通り、ポラリスとは現代に於ける北極星の名前である。
地球の自転に左右されないこの星は、常に北の方角を指し示す二等星として、地球から400光年離れた宙域で輝いている。
羅針盤がまだ開発されてなかった時代の船乗りは、昏黒の海原の上往く夜の航海を、この北極星の位置を基準として進む事で乗り切っていた。
現在の北極星と言ったのには訳があり、北極星の星と言うのは代替わりする。人間には知覚出来ない程ゆっくりと、北極星は動いており、3000年以上前はコカブと言う星が北極星であり、その1500年以上前にはトゥバンと言う星が北極星だった。現在の北極星であるポラリスもまた、西暦4100年ごろには、エライと言う星に北極星の座を譲り渡す運命にある。

「界聖杯が、君の望みと私の望む世界を両方成就させられ、その上で、私の理想の賛同者をも如何にか出来る程に融通が利くのなら、ポラリスには今回は頼らん」

 「だが――」

「もしも私の望むべくそれでなかった場合、プランを修正する。修正すると言っても、本来的に私が目指していたプランは、其処に至るまでの過程は違えど此方だったのだがな」

「ポラリスとやらを頼るのか」

「概ねその通りだ。……とは言っても、ポラリスへの謁見は私としても未知の部分が余りにも多すぎる。最悪の場合、古典的ではあるが……力を示せ、と言う流れになる可能性だとて多分にあり得る」

 「そうなった時の保険の為に――」

「龍脈の力と界聖杯の力を用いる」

「……」

「私の懸念の通り、界聖杯が意にそぐわぬ物ならば、ランサー。界聖杯を用いて、君を受肉させる。その後、龍脈を全て君の強化に当て、最後に私は界聖杯の全エネルギーを燃焼させ、ポラリスへの道を開く」

「余に戦え、と言う事か? その、ポラリスめと」

「最強、無敵とは、平生君が口にする所だろう。戦う相手が最後に一つ増えるだけだ、問題ない。真に全てを掌握出来る座に到達出来るのだ、安いとは思わんか」

 最後の最後で他力本願、と来た。
ムシと都合の良すぎる話だったが、ポラリスの話に魅力を感じなかったか、と言えば嘘になる。
これがあれば今度こそ、ベルゼバブは、彼が認める最強の頂を踏破し――一度は余りの美しさに焦がれ、不意打ちでしか討ち取れなかったルシフェルを遥かに超える強さと、
それを生み出した絶対の知性を誇る異端者……、ルシファーが赤子にしか見えぬ知性を一気に獲得出来るのだ。
仮に、彼我の力の差が絶大で、戦う事を避けるべきであったとしても、力だけは願いの形で、ベルゼバブは頂くつもりだ。何て事はない、ポラリスの場所さえ解れば良い。
解ってしまえば、1000年、1万年、いや1億年だとて、ベルゼバブは耐えられる。その間ずっと己を鍛え、今度こそ、ポラリスを抹殺し、天の玉座を我が物とする。時間との付き合いは、得意なのだから。

「……貴様が、自分の理想の同士を誘おうとするのも、その時の為の手駒と言う訳か」

「駒と言う訳ではない。力ある者が私の新世界で生きるべきだと言う思いは本当だ。私の理想に賛同し、界聖杯に不足が見えたのであれば、手を貸す事位は当然の話だろう」

 大和は疑いもなく優秀な男だ。ベルゼバブと言う曲者が、認めるだけの実力も知性もあるし、作戦の立案能力も、考察能力も非常に申し分ない。
そして、手堅いだけの男じゃない。ここぞの場面で博奕に出れる、それこそ、しくじれば大勝ちが死かの二択しかない賭けにすら、大和は打って出れるのだ。
その胆力も、評価の対象である。堅実なだけの人間には、戦いには勝てない。定石しか知らない者は、奇手に寝首を掻かれる。将としての、器だった。

 だが、峰津院大和と言う人物は、根本の部分は理想主義者である。夢想家だ。
そうでなければ、こんな、傍から聞けば実行する事すら憚られるような、大胆を通り越して無謀そのものの作戦を、自信気に語れる筈がない。
大和には、もうこの理想しかないのだ。その理想の為ならば、己が身が砕け散ろうが最早どうでも良いのだ。
次へ進めるか、死ぬか。その二つしかない選択肢で、何千回と正解のそれを選び続けねばならない。大和のやろうとする事は要するにそれだ。
世界を変革する為には、それ程の万難が伴う。それを承知で、大和はその賭けに身を投じたのだ。夢想家と狂人は、およそニアリー・イコールの関係だ。
彼もまた、ベルゼバブと同じで、過去に焦がれる程の何かに心を砕かれ、その夢に邁進しているのだろう。

 ――だから、ベルゼバブを呼べたのだろう。だから彼もまた、あの時大和を殺せなかったのだろうか。

「……貴様の話は分かった。その首は、まだ貴様の胴体と繋げておこう」

 ベルゼバブは、大和を今は生かす事にした。言い換えるなら、彼のプランの船に、また乗ったと言う事だ。

「だが、ポラリスを目指すが前に、先ずは貴様の失点を取り戻せ。話は、それからよ」

「その心算だ」

 大和は此処で、手元からスマートフォンを取り出し、通話を行った。1コールで、その相手は出た。

「菅野を呼べ。仕事を与える」

 其処で、大和は通話を切った。
菅野とは峰津院財閥が抱える、IT部門の天才プログラマー。財閥の屋台骨を支える、若き天才の一人であった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――その動画は、8月1日の夜の9時。
TV業界の用語で言えばゴールデンタイム。一般的な職業の多くが、業務を終え、帰路に着くか、そもそも自宅に着いていて。
フリーの時間になっているであろうタイミングに、動画配信サイトに、公式のアカウントを通じて配信された。

 アカウントの名は、峰津院大和。
動画を配信する運営からも、これは本物であり、公式のものである、と言うお墨付けを受けた、真新しいアカウントだった。作成日時、本日の夜6:50分。まさに、産まれ立てのアカウントであった。

「国民の皆様方。そして平生、私共峰津院財閥と清い御付き合いをされている方々に置かれましては、私がこのような形で皆様にメッセージを配信致しますのは、ある意味予想外に思われたり、驚愕の念を覚えるかも知れないと、私は思っております」

 その青年は、単刀直入に言って、美青年、と言う言葉がこれ以上となく相応しい若い男子だった。
日本人離れした顔つき、目鼻立ち。鋭く射貫くような瞳と、其処に湛えられた強い意志の煌めき。そして、染めた訳ではない、生来からの物である事が明白な銀色の髪。
何よりもその、其処らの政治屋や経営者では及びもつかないような老成した空気。これからの日本を背負って立つ者とは、彼の事か。
そうと誰もに納得せしめる程の、強いオーラのようなものがあった。そのオーラを、何と呼称するべきなのか、人は知っている。カリスマ、と呼ぶのだ。

 そのカリスマを纏った青年が、己の体格に合わせて作られたと見るべき、オーダーメイドのブラックスーツに身を包み、白一色の空間に直立していた。
目線はカメラの方にしっかりと向けられており、姿勢はまるで崩れていない。スーツもまた、ビシッと言う効果音が今にも立ちそうな程、見事に糊が効いている。
革靴は光を当てれば顔すら映り込もうと言う程にピカピカに磨かれていて、上から下まで、締まりのない弛緩的な要素が見られない。人から好印象を抱かれるには、どういう風にすれば良いのか? それを理解している者の、仕草と服装であった。

「ですが、今国民の皆様方、そして、諸外国の重鎮の方々の不安を払拭する為、私共も、内閣・国会・司法、そして警察、消防、自衛隊の最大限の努力に協力せねばならないと痛切に感じ、こうして動画を配信している次第で御座います」

 音吐朗々。あまりに言葉は滑らかでそして、オーバーな感情を全く乗せていないのにしかし、聞く者に、この人物は反省していると解るよう。
薄っすらと感情を綯交ぜにして言葉を紡ぐその様子からは、一級の政治家や貴族、独裁者でもなし得ぬ、スピーチの妙技が炸裂していた。

「本日夕方に起こりました、新宿における大災害。恐らく皆様の関心事……いや、不安に思われる事は、正しくそれであろうと私は考えております」

 言葉を、更に大和は続ける。

「この災害を、テロだと見做す向きが強い事を、私は存じております。その可能性が高いとも、思っております。この平和な日本に於いて、国家が最も恐れる事はテロリズムであり、この国が他国からそのような攻撃を、終戦から全く受けた事がない事は皆様も承知の通りです。これが永遠に続くのだろうと我々は思っていた事でしょう。それ故に、その永遠が遂に脅かされたと思い、不安を覚え、夜も眠れぬ日々をこれから過ごす事になるのか、と……。心配で仕方がないと御思いになる方がおられても、何も不思議ではありません」

 其処まで言って、大和は沈黙する。時間にして、4秒程。

「情報の刷新の度に、被害に見舞われた方の数が増えて行く今回の大災害。この被害の助長に、我々財閥も関わっている、と言う批判については、私も認める所で御座います」

 はっきりと、大和は認めた。言葉に出してからは、躊躇いの念が全くなかった。

「元来、新宿御苑とは国民の皆様の憩いの場であると同時に、国家機能に著しい影響を与える天災や緊急事態が起こった際の避難場所としての機能も有する土地としての機能も有しております」

 「そして――」

「我々はこれを、スマートフォンの急激な普及に伴う、第5世代移動通信システム……。世間的には『5G』の名で知られる電波の、『地下通信局建設』の地質調査の為に、封鎖しておりました」

 新宿御苑が、峰津院財閥の手によって封鎖されていた事は、多くの都民が知っていた。
だが……その封鎖の目的については、誰にも知られておらず、今初めて知った者の方が、この場合殆どであった。

「勿論このプロジェクトは、熾烈を極める昨今のネットワーク競争について、我が国が諸外国に遅れを取らないよう、と言う国益の為に打ち立てられた側面も御座います」

 ――ですが

「それ以上に、このプロジェクトを主導する事で、我が峰津院財閥が日本国にこれから芽吹く、『Google』や『Apple』等の巨大IT企業に成長するであろうまだ見ぬ原石や卵に、優越・優位しようと言う思惑があった事を、私は否定致しません」

 目を瞑る大和。黙祷にも、似ていた。

「……そのような見果てぬ野望によって、今回の事態の復調を遅れさせてしまった事。そして、被災された皆様方に大変な不便とご迷惑をお掛けしました事を、この場を借りて謝罪させて頂きます」

 深々と、大和は頭を下げた。

「……プロジェクトは撤回いたします。勿論の事封鎖も解きます」

 「そして」、と続ける。

「今回の事態を悪化させてしまった者の責務として、峰津院財閥が抱える医療部門及び、地質調査部門のスタッフを派遣し、緊急の医療キャンプと炊き出しの設営を行いたいと思います」

 「また――」

「私共の用意出来る医療部門の面々では、恐らく全ての課題を処理し切る事は不可能な事が予想されます。我々の力不足を露呈するようで、忸怩たる思いでありますが……この未曽有の国難におかれましては、その様な事を申してはおられません」

 決然たる光を双眸に宿し、大和は言った。

「新宿区内、並びに区外の、公的医療機関ではない、個人が経営されておられます、クリニックや個人診療所の皆様方の御力添えを頂きたく存じます」

 またしても、深々と頭を大和は下げる。
数秒の後、姿勢を元の状態に正すのと同時に、彼の左上にワイプが現れる。
石で出来ていると思しき、まるで、山羊か何かの角を模したような巨大な彫刻物に押し潰された建物の空撮画像が、そのワイプ内に表示されていた。
ワイプ内の画面がアップされる。『皮下医院』、そんな事が掛かれた表札が見えるまで画像は拡大され、其処で止まった。

「このような悲劇に見舞われている医院があると聞き、胸が痛む思いであり……。また、自分の事ですら手一杯であろう先生方に、このような事を頼み込むのは、大変心苦しい思いで一杯です」 

 「それでも」――

「我々に御協力頂ければ、大変ありがたく思います。愚かしいまでに欲深だった、この蒙昧な小僧めに、手助けを頂けるのであれば、これに勝る喜びは御座いません」

 一呼吸置いた後、大和は言い放った。

「被災され、家に帰る事が難しい方。怪我を負われ、搬送される病院がなくお困りの方。……我々のサポートをしていただける、医療関係者の方。新宿御苑にて、御待ちしております。私からは、以上で御座います」

 其処で大和は深々と頭をまた下げて、そこで、シークバーは右端に到達し、動画は終わりを迎えた。
時間にして4分ジャスト。凄まじい勢いで再生回数が増えて行き、急速に浮上したトレンドの正体が、この動画なのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――そして話は、動画を撮影していた時間にまで遡る。

「……よし、以上だ。此処までの範囲で動画を簡単に編集しろ」

 そう大和が言い放った相手は、白いチャイナドレスの上に、峰津院財閥のジャケットを羽織っていると言う、奇特な格好をした女性だった。
菅野史、と言う名前の女性であり、峰津院財閥のIT部門に所属する、若き幹部の一人だ。
若くしてMITを卒業したその経歴を買われ、財閥にヘッドハントされたと言う経歴の持ち主であり、才覚の面では語るまでもない程だった。仕事ぶりも、大変優秀。才能さえあれば、若くとも役職付きになれる。峰津院財閥のこのシステムを、地で行く、麒麟児であった。

「え? 本当にそんな仕事で良いの?」

「何だ、不満か?」

「いや、別に。アタシとしては、当主様直々の及びだったからさ~? 3日3番徹夜のデスマーチでも命令される事を覚悟してたけど、ただスマホで当主様撮影して動画を編集しろだなんて……。あ、良かったらバーチャルの肉体用意してVの者にしてあげよっか? 女の子の身体で良い?」

「いらん」

 大和は即答する。史の方はノリノリだったらしいが、素気無く断られ、つまらなそうだった。

 先述のように、史は超一流の研究者でもあり、プログラマーでもある。
同時に、峰津院財閥の過酷な労働面を担う人物の一人でもあり、大和の命令で、3日間眠らずにエナジードリンクとゼリータイプの流動食だけで生活、プログラムを組み立てていた事もある。
その様な経験をした事もある史からすれば、大和から御指名があったと聞けば、それはもう労働法に真っ向から反旗を翻すような内容の労働を命令される事を予想していたのだ。

 ところが来て見て命令された事は、ただの動画の撮影と編集である。
今日日のYoutuberですら、高い撮影機材を用いるのに。峰津院財閥なら数十分で、TV局で使うような1個1000万もするような高級カメラを用意出来ると言うのに。
用意した撮影機材はスマホのみ。しかも史が三脚などで固定せず、手で自ら持って撮影している為手振れもしていると来ている。
単価の安い底辺の映像屋がやりそうな、質の低い仕事を、年収にして数千万を容易く稼ぐ史に行わせる。
勿論撮影中、大和が口にしている事をずっと耳にしていた為、意図は解る。要するに、ポイント稼ぎだ。彼がそう言う事に余念がない事も理解している。だがそれなら、道具には拘るべきじゃないかと、思わないでもない。

 ――こんなもので良いだろう……――

 そして史の予想通り、大和の目的はポイント稼ぎであった。
いつかは何かの形で失うロールではあるが、それでも、あると便利な立場である。軽々に失うのは惜しい。
だからこそ、こう言う形で点数を稼ぐ事にした。大和自身が誠意ある謝罪をする事で、ダメージを最小限度に抑え、それどころか、傷つきつつある評判すらも回復させる。
ピンチはチャンスとは良く言うが、大和は窮地を好機に変える術を知っている。それを、身振りと言葉遣いで示したのである。
撮影道具をスマホにしたのは、敢えて立派な撮影器具を揃えないでスマホ1個に限定する事で、この動画を緊急に配信していると言う事実と、急いで動画を配信せねばならない必死さを演出する為と言う魂胆があったからだ。

 ――だが本当の目的は、別にある。
早晩、聖杯戦争の参加者達はこの動画を目の当たりにするだろう。これを見て、何を思う?
峰津院大和は話の解る良い奴だと短絡的に思う者もいよう。恐らく魂胆を察知し警戒する者も出て来るだろう。
目論見は兎も角、事態を収束させる為の努力を惜しまない男だとも思うかもしれない。そう言う思いを参加者に抱かせる事も、目的の一つ。
真の目的は『皮下病院こそが東京を騒がせる青き龍のライダーを御する者』だと他の参加者にも教え込ませる事だった。
気付かないような愚鈍な輩もいるだろうが、キレ者……それこそ、大和らが言う『蜘蛛』ならば確実にピンとくる筈である。
新宿でのカタストロフに於いて、どう見たとて目立っていたのはカイドウ達の方である。単純だ、あの青龍は規格外のサイズを誇る龍体を披露していたし、
あの大災害の前にも存分に暴れまわっていた。訴求力は、絶大。対してベルゼバブの方は、サイズは人間相応である為、遠く離れた上空で戦って居る様子が誰の目にも映っていない。
どちらが、あの状況を齎したのかと問われれば、返って来るのは間違いなくカイドウの方である。畢竟、あの大災害はほぼカイドウのせいであり、彼こそが危険なサーヴァントだと思う、善意の主従も出て来よう。

 その誤認こそが、本当の狙い。
皮下真が悪である、カイドウこそが敵である。そうと口にせず、『解る者には解る編集』をするだけで、そうと誘導させる。これこそが、真の目的。
最小限度の労力で、最大限の威力を発揮する、武力を伴わぬ攻撃(アタック)。これこそが、大和の考える皮下主従の孤立策であった。

「どれ位の時間があれば動画を配信出来そうだ」

「1時間ありゃ行ける行ける。皆さまのお目に触れられるお時間には、配信出来そうだね」

「良かろう。先に行ったように、必ず潰された皮下医院の画像は使うようにしろ。私からのオーダーは以上だ。早速取りかかれ」

 言って大和は、撮影の為のスタジオから立ち去ろうと、史の横を通り過ぎ――彼女を背後にする形になってから。
スマートフォンを操作する史が、言葉を言い放ってきた。

「ねぇ、当主様」

「……質問を許可する」

「本当にさ、悲しいって思ってる?」

 撮影した大和の動画を眺める史に対し、大和は振り返らずにこう言った。

「慙愧に堪えんよ」

「……そっか」

 それに対し、嘘でしょ、と尋ねる勇気は、史にはなかった。
後ろで、ドアが開かれ、直ぐに閉じる音が聞こえて来た。「さーてやりますかー」と、グッと背を伸ばしながら、史は言われた事に取り掛かるのであった。




【渋谷区・大和邸/一日目・夜】

【峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器(現在判明している武器はフェイトレス(長剣)と、ロンゴミニアド(槍)です)
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
0:ひとまず休息を取る
1:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
2:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
3:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
4:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
5:白瀨咲耶、神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。
6:所有する霊地の一つ、新宿御苑の霊地としての機能を破却させました。また、当該霊地内で戦った為か、魔力消費がありません。
7:リップ&アーチャー(シュヴィ・ドーラ)に同盟を持ちかけました。返答の期限は、今日の0:00までです。
8:光月おでんは次に見えれば必ず殺す。
9:逃がさんぞ、皮下
【備考】
※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。

【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】
[状態]:極めて不機嫌、疲労(中)、胴体に袈裟の刀傷(再生には時間がかかります)
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング
[道具]:タブレット(5台)、スナック菓子付録のレアカード
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
0:業腹だが……結局この羽虫(大和)が一番優れているらしい
1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです。また、東京の景色やリムジンにも興味津々です。
2:狡知を弄する者は殺す。
3:青龍(カイドウ)は確実に殺す。次出会えば絶対に殺す。
4:鬼ヶ島内部で見た葉桜のキャリアを見て、何をしようとしているのか概ね予測出来ております
5:あのアーチャー(シュヴィ・ドーラ)……『月』の関係者か?
6:セイバー(継国縁壱)との決着は必ずつける。
7:ポラリス……か。面白い
8:龍脈……利用してやろう
【備考】
※峰津院大和のプライベート用のタブレットを奪いました。
※複数のタブレットで情報収集を行っています。
※大和から送られた、霊地の魔力全てを譲渡された為か、戦闘による魔力消費が帳消しになり、戦闘で失った以上の魔力をチャージしています。

【追加備考】
※龍脈の秘術の要となる方陣を、東京タワー(港区)とスカイツリー(墨田区)に用意しております。大和が儀式を行う事で、凄まじい魔力プール並びに強化ツールとなり得ます
※上述の儀式は徹底して秘匿されており、また現状に於いては大和レベルに術が堪能でなければ逆に発動する事すら難しいかも知れません
※界聖杯について、最後の主従以外の全員を殺さねば願望器として機能出来ない程に、頼りないのではないかと考察しております
※1日目夜9時を目途に、動画配信サイト上に、新宿御苑に医療スタッフと炊き出しの為の地質調査部門のスタッフを派遣する旨と、遠回しに皮下医院が新宿での事件の黒幕である事を示唆する動画を投下しました



時系列順


投下順


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077:明日の神話 峰津院大和 102:械翼のエクスマキナ/Air-raid
ランサー(ベルゼバブ)

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最終更新:2022年03月22日 21:09