殺し合い開始から半日が経過した。
その事実を告げる放送が、流れ始める。
最初に流れたのは、犠牲者の名前。


脱落したのは14人。前の放送と合わせれば27人。
これにて残り参加者は半分を割り、中には最初に殺し合いで出会った白装束の男や、かつて自分を捕らえた渡辺早季もいた。
余りにも順調すぎるペースである。
このペースが維持されれば、そう遠くない内に決着はつくだろう。
数少ない懸念点は、自分のことを怪しんでいたカインと、元の世界で自分の目的を知っている朝比奈覚がまだ生きていることだ。
彼らが自分のことを吹聴しているかどうか、それが気になった。


続いて禁止エリアが知らされる。
一気に増えた禁止エリアを忘れることのないように、地図を開き、爪で印をつけていく。
その時、放送に混ざって、何かが聞こえてくると思ったら、隣にいたクッパのうめき声だった。


「ウウウウウウ……。」
頭を抱え、何やら頭痛に苦しんでいる様子だった。


「あ……あたま……いたい、われそう…うがあああああああああああああ!!!!!!!」
(!?)

突然、クッパだった怪物は叫んだ。
ピーチに続いて、マリオというクッパを彼たらしめた者が死んだからだろうか。
咽喉が枯れるまで、叫び続けた。


そして、間髪入れずに地震が起こる。
(こ……これは……)
バロン城に避難しようと考えたが、壊れかけの城に地震が起きている間に避難するなど自殺行為だと判断した。
真っすぐ立つことも敵わず、腰を抜かして背中に土を付けた。
スクィーラは、最初はこの地震がクッパと関係のある何かだと思っていた。
今の放送で、何かのはずみで記憶を取り戻してしまい、自分が何をしたか気付かれてしまう恐怖感を胸に抱く。


(今度はなんだ……?)
地震が収まるとすぐに、空がカゲに覆われた。
字面で表すと奇妙な表現に見えるが、文字通り真っ黒に染まったのだから仕方がない。
辺りは真昼なのに、太陽の光が届かないほど深い森の奥にいるかのような気分になった。


クッパの雄たけびと、大地震、それにカゲに覆われた空。
出来事が矢継ぎ早に起こりすぎて、スクィーラは悲鳴も上げる暇さえ無かった。


一体何が起こったのか。
もしもの話、スクィーラが放送を最後まで聞けていれば、主催者側に何か異常があったのだと感づいていただろう。
しかし、クッパの雄たけびが原因で、放送が途切れた瞬間を捉えることが出来なかった。
主催者が、この殺し合いが折り返し地点にたどり着いた記念を表したものなのか。
それにしては、大げさなパフォーマンスかと思ったが、結局答えは出ないままだった。


考えても答えが出ないことだと割り切り、思考を未来の方向に舵を切る。
クッパは先ほどの慟哭の後、何事も無かったかのように項垂れたままだった。


「神様。」
「ぴーち、たすけないといけない。ぴーち、どこ?」
「申し訳ございません。このスクィーラ、神様の細君を見つけるのに尽力していますが、まだ手掛かりが掴めておりません。
彼奴等は姫を攫った上で、巧妙に姿を隠しているようです。」


先程までと全く変わってないようで何よりだと安堵する。
辺りが暗くなったのは別に問題ではない。
視界に差し支えるほど真っ暗になったわけではないし、むしろ暗い場所なら鼻が利くバケネズミにとって追い風だ。


次に、ここから何処へ向かうべきか考え始めた。
とりあえずデパートに戻ることにしたが、そう遠くない内にデパート方面とこの島を繋ぐ橋が禁止エリアになる。
今から動けば問題なく時間までにデパートへたどり着けるが、橋という一本道は往々にし戦いが起こりやすい。
のんびり戦っている間に、禁止エリアによる首輪爆破という事態だけは避けたかった。


「では神様。デパートへ向かいましょう。大きな建物なので、もしかすれば神様の伴侶も向かっているかもしれません。」


あのデパートは灯りが付いていた。
辺りが暗くなれば、虫も人間も明るくて大きな建物に集まって行くのが自明の理。
外に命を狙ってくる鼻持ちならぬ輩がいるのなら猶更だ。
その集まっている人間の中に、朝比奈覚やカインがいるかもしれない。
だが、その時はクッパをなだれ込ませて、建物を崩壊させれば良いだけだ。


行先が決まると、二人は颯爽と歩き出す。
その間もスクィーラは思考の回転を怠らなかった。


参加者を建物などの明るい場所に誘導する行為に、禁止エリアが9つに増えたことで一気に狭まったフィールド。
恐らく、より狭い範囲で殺し合いを加速させる試みだとスクィーラは考えた。
彼の理想としては、決まった箇所に出来るだけ多くの参加者が集まってくれることを考える。
ニトロハニーシロップの爆発範囲はどれほどのものか分からないが、決まった箇所に集まってくれるならば朗報だ。
とはいえ、起爆剤に必要なカルシウムを見つけなければ絵に描いた餅でしかないが。


丁度橋を渡り終わった時、クッパが呟き始めた。

「まりお……わがはいの……だれだっけ?」
「………。」
またこのクッパという男の知り合いが死んだのだろう。
先程の雄たけびとも、何か関係があったのか。


それとスクィーラはもう1つ考えることがあった。
このクッパという強すぎる武器を、どう捨てるかということだ。
優勝できるのは1人だけなので、勝利を前提に入れるならばクッパもやがて死ななければならない。
もし正気に戻れば、山奥の塔の時の様に襲ってくるはず。
ニトロハニーシロップの爆発にクッパごと巻き込めばいいが、起爆剤が見つからない可能性も考慮しないといけない。
また、クッパが爆風に飲まれても、生きている可能性だってある。
毒針は効かず、ちょっとやそっとの策では簡単にねじ伏せられてしまう。


なるべくなら他の参加者に倒してもらい、その人物がクッパとの戦いで瀕死になった所を毒針で殺すのが一番だ。
だが、今自分が考えている作戦はどれも、不確定要素があるものばかりだ。


それと、もう1つ不確定な存在がいたことを思い出す。
先程城で殺した男の服に潜んでいた、空を飛ぶ写真。
人工物の姿をしていながら、まるでニセミノシロモドキの様に人の言葉を話していた。
いや、言葉を話す仕組みがニセミノシロモドキそっくりというのは、語弊がある。
あのからくり人形は、データにインプットされた言葉を話しているだけだが、あの写真は様々な言葉を話していた。
それこそ、自分達と同じで意思があるかのように。

だが、スクィーラが彼を不確定な存在だと考えたのは、それだけではない。
あの写真の男に、首輪が付けられていなかったということだ。
名簿も見落としただけかもしれないが、あの男は載って無かった。
最も、あのデザインでどう首輪をつけるのだと聞かれれば、返答に困ってしまうが。

(もしかすると、あの男はこの殺し合いの監視役ではないのか?)


この殺し合いは、放送内容からして監視されているのは間違いない。
だが、その監視者は何なのかは分からなかった。
首輪が監視装置の役割も兼ねていると仮定していたが、それだけでは無いのではとも考えた。
あの写真だけではなく、他にも意思を持った道具が、主催者の目や耳の役割を担っているのではないか。
そう結論を出すと、新たな疑問がバケネズミの大きな脳に浮かび上がった。


『この殺し合いは、実は裏で参戦者を戦わせること以外に大きな目的があるのではないか』、ということだ。
まず、殺し合いをさせたいのなら、いくらなんでもやる気が無いのではないかと考えた。
その結論へ至るのに、何処にいるか分かりにくい監視装置や、52人の生殺与奪の権を握るにしては嫌に小さな首輪以上に、貢献した疑問があった。


彼の喉に引っかかった点は、『なぜ呪力を持った人間を、この殺し合いに入れたのか』である。
スクィーラの世界の呪力を持っている人間は、同胞での殺し合いを避けるために、互いに呪力で殺すことが出来なくなっていた。
彼はその仕組みを利用して、人間から呪殺されず、それでいて人間を殺すことが出来る悪鬼を作った。
掻い摘んで言えば、彼ら彼女らは、人間同士で殺し合いをさせるには不向きな存在なのだ。
せめて人間以外の参加者がもう少し多ければ、その呪力を殺戮に有効活用出来たかもしれない。
だが、クッパの様に人間らしからぬ姿をした参加者もいたが、名簿で見た限りは半分以上は確かな人間の姿をしていた。


呪力を持った人間は、攻撃抑制と愧死機構を取り除かれた状態で参加しているかもしれない。
だが、その機能は遺伝子レベルで組み込まれている。
もし彼らからそういったストッパーを取り払うなら、一手間どころでは済まないだろう。
態々自分にチャンスをくれた相手にこんなことを言うのもなんだが、自分達ではなく、別世界の血気盛んな者達を呼んでくる方が、殺し合いの設営は全然楽ではないか。
さらに身も蓋も無いことを言えば、そんな技巧を使えるなら、殺し合いなど開かなくとも大抵の願望は達成出来るのではないか。


以上の疑問から、野狐丸は結論付けた。
主催者は殺し合いの完結以外に、自分達の世界と深い関係がある何かを求めていると。
それはやはり呪力に関する何かかもしれないし、それとも全く異なる何かかもしれない。


歩きながら考えていたら、迷える船を導く灯台のように、明かりの付いたデパートが佇んでいた。


スクィーラが出した結論は、主催者の目的が殺し合いの完遂ではないと考えた。
だが、あくまで彼の目的は優勝である。
ただ、確実にバケネズミ社会の復活を目指すために、代替手段も並行して探ると言うだけだ。
主催者がこの殺し合いで求めている何かを、先回りして見つければ、殺し合いの優勝より大きな利益が手に入るかもしれないから。


そこまで考えると、あの写真の男を逃がしたのは惜しいことをしたと考えた。
今までのスクィーラの仮説が正しいとなると、彼、もしくは彼らは参加者以上に主催者とつながりが深い人物だ。
そう簡単に一切合切を吐くとは思わないが、手掛かりの1つくらいあってもおかしくない。


ニトロハニーシロップの起爆剤探しに加えて、新たな目的を見出し、デパートへ向かった。
野狐丸は裏の世界の道を歩きながら、策を練り続ける。
勝利をより確実なものにするために。





【F-2 デパート近く/一日目 日中】


【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中) 凍傷 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷(応急処置済み) 精神の衰弱(特大)
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)
[思考・状況]
基本行動方針: ぴーち、とりもどす。さらったやつら、ゆるさない
1.すくぃーらにしたがう

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※スクィーラの言葉により、ピーチ姫が生きていると錯覚しています。




【スクィーラ@新世界より】
[状態]:軽い凍傷 体の数か所に裂傷 この殺し合いへの疑問
[装備]:毒針セット(13(うち5本を服の中に、残りをケースに)/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達 守りの指輪@Final Fantasy IV
[道具]:基本支給品×3(レンタロウ、美夜子の分)、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG  金のカギ?@調達 ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より  こおりのいぶき@ペーパーマリオRPG 通り抜けフープ@ドラえもん のび太の魔界大冒険 クッパの支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:デパートへ向かって、参加者を探す。敵対するならクッパを使って殺す
2:クッパを操る
3:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
4:主催者と関わり深いかもしれない意思持ち支給品を探す(写真のおやじなど)
5:朝比奈覚は危険人物として吹聴する。また、彼を倒せそうな参加者を仕向ける
6:金のカギを爆薬として使うべきか?
7:サイコバスター。どこで使うべきか。
8:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
9:主催者が求めている『何か』を探す



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クッパ
最終更新:2022年08月07日 23:24