それは、表と裏の物語。


「これより貴様たちは殺し合いをしてもらう。逆らうことは許さん。」


「あなたが優しい人だと分かった。でも、時が来れば、アナタを殺すかもしれない。」
  「これがオラの『収穫(ハーヴェスト)』だどッ!!」

「だから新世界を、貴方に託すね。」


   「俺達ハ、強イ者ニ従ウ。……タダ、ソレダケノコト」
「…コロニー…女王様……」
 「私はあなたの悪意に負けたりなんかしない。仲間と共に、あなたの企みを打ち砕いて見せるわ」


「康一くん……す……き……」
   「だが、それでも私は弱者となれ合うつもりはない。あくまでも、私のやり方でいかせてもらう」


幾つもの戦いが生まれ、幾つもの悲劇を残した。


「このさい関係などどうでも良かろう。君を殺す。それが生き残ってしまった私の、唯一の望みなのだからな。」
  「持ってた地雷を使ってボンッてね。
 結構エグかったでしょあれ。ま、あんな女には当然の末路だと思うけどね。」

 「死んだみたいに言うな!!ドラえもんも美夜子さんも死んだはず無いよ!!どこかで危険な目に遭っているだけだ!!」

   「そうか……。だがこれで全てが終わったと思うなよ。我と緑の勇者が再び相まみえるその時まで、せいぜい足掻き続けて見せよ。」
 (やっとあなたに、触れられた……ね……。)
「これで良かったんだよな。これで…………。」


  「馬鹿野郎――ッ!!決めたんなら!早く行けえーーーーーッ!!」
「これで……良かったんだよね。さようなら。マリオ。」



その果てに、救われた者、救われぬまま死した者。



                   「無茶なのは分かっています。でも、僕はすぐにでも彼女に会いたいんです。」
   「またな……………。」


       「女子に手を挙げるとは…騎士の風上にも置けぬ!!」

  「やった……間に合った……運命に……勝ったんだ……。」
         「認めはせん!!認めはせんぞ!!呪力を持った者の天下など!!悪政など!!」
   「私はー―――」
                   「見事……ぐううううううあああああああ!!!!」
「ワガハイは、最後まで戦い抜いたぞ!!!!!!」



だが、この戦いはまだ終わりではない。
生きた者も、散った者も、勝者も敗者も救われたと断定できるかどうかは。
これからの出来事に掛かっているだろう。




『3度目の放送だ。
早速死亡者発表と行こう。』

オルゴ・デミーラではなく、ザントの声が響く。


♡13シャーク・アイ
♢7ヤン・ファン・ライデン
♧3伊東守
♤12ミドナ
♡A秋月真理亜
♢2柊ナナ
♤11バツガルフ
♢8アイラ
♡7佐々木ユウカ
♧8川尻早人
♤10スクィーラ
♧9吉良吉影
♢7ルビカンテ
♧13クッパ


以上、14名……待て、たった今新たな死者が現れた。


♧2 メルビン。これで死者は15名だ。


いひゃ!!ひひゃ!!はっはっは!!くああっはっはっはああはあはは!!
いいひいいいあああああはははははあああああああああああああああ!!!!


はあはあああ……失礼した。だが素晴らしい事ではないか?
ついにこの殺し合いも残り10人を切り、終焉まであとわずかといった所だ。
手元を見るが良い。最初の時よりはるかに薄くなった紙の束がそれを物語っている。
それと禁止エリアの発表だが…もう記録を取る必要はない。
今から6時間後…すなわちこの日の終わりの瞬間、残るエリア全域を禁止エリアとする。
逃げ隠れしても無駄だ。それをするぐらいなら、僅かな勝利を目指して殺し合うが良い。


最後に我と相まみえるのは誰か、楽しみにしているよ。』


放送はすぐに切れた。




ある一室に、金髪の青年が直立不動のまま、突っ立っていた。
白一色で覆われたその部屋は、極めて簡素で、倉庫か既に役割を放棄した部屋かと考えさせられる。
最低限の灯りだけが、ぽつねんと残された青年の存在を証明している。
彼、キーファが動けないのは、不動の呪いをかけられているからではない。
主催の息のかかった者に石化の魔法をかけられ、動けないからだと思い込んでいるからだ。


「おい、動けるか?そろそろ魔法は解けたはずだが…。」

彼と同じくらいの少年の声が、キーファの横から聞こえた。
自分はまだ石化していると考えた彼は、俺は首を回せないんだ、誰なのか前に立って教えてくれと苛立つ。


「魔法は解けているはずだ!いつまで寝ぼけているんだ!!」

だからこっちは石にされているんで動けないんだよ、と顔を向けようとした瞬間。

「え?」

動けることに気付き、間の抜けたような声が出た。

自由になった首を横に向ければ、褐色肌と白髪が印象的な少年が、キーファを見つめている。
エスタード島の友人と、ユバールの民と様々な世界を旅したキーファでさえ、異国の者だと伝わる風貌だ。


「お前は誰だ?ここで何をしている?聖者の兜のヤツの仲間なのか?」
「必要なことだけ話す。僕は宮本輝之助という。兜の男…ザントの仲間ではない。」

名前の響きからして、やはり異なる国、もしくは異なる世界の者なのだと感じた。
だが、気になるのはその後だった。

「ザントの仲間でない?どうしてそんな勿体着けた言い方をするんだ?」
「奴に協力したからだ。勿論僕の意志ではないんだがな。」
「……どんなことをしたんだ?」


彼の力は、この殺し合いを進めるのに役に立った。
ひょんなことからそんな力を承った少年は、その原因になった者に従い、力を悪用し続けた。
だが、それは3人の少年によって失敗し、逆に紙にされてしまった。


ピン、と褐色肌に覆われた指が、何かをはじいた。
それは小さく折りたたまれた紙だった。
何だこれは、と思いながら開けて見る。
ただのサンドイッチの絵かと思いきや、それが立体化した。
手触りも良く知っているパンと同じ、ふかふかしたものだ。
やがて焼き立てパンとソースの良い匂いが漂ってきて、急に食欲を掻き立てた。


「こ、これ食べていいんだよな?」
「食べたいなら食べろ。」


食欲などあるわけないが、今後いつ食事が出来るか分からないので、食べることにした。
毒が入っている訳ではないと考えたキーファは、サンドイッチを頬張る。
故郷のアンチョビサンドほど美味では無かったが、それでもソースの甘味、そして分厚い肉と胡椒のしょっぱさがマッチして、良い味を出していた。


「この能力、エニグマで、8つの世界から集められた生物を紙に閉じ込めたんだ。他にも……死体なんかも入れたな。」


彼の言うことは、様々な世界を冒険したキーファでさえ、全く異なる世界の出来事のように聞こえた。

「オレなんかも閉じ込めることが出来たりするのか?」
「いや、僕のエニグマは相手が『恐怖のサイン』を見せないと生き物は閉じ込められない。
生きた奴等を紙にするのには苦労したよ。」

一匹だけどうしても怖がらない奴がいて、無理矢理四次元ザックに閉じ込めたんだがな、と付け足した。
続けざまに彼は、もう一枚折りたたまれた紙をキーファに投げた。
今度は何が出るのかと気になったが、そこに書いてあったのは文字だった。
すなわち、本来の紙としての役割を果たしていた。


「それで、お前は何があってオレを助けた。」

肝心なのはそれだ。彼はいまだ目の前の白髪の少年を信用しているわけではない。
勿論、これから聞くであろう言葉が嘘だという可能性も無いわけではない。
それでも、聞いてみるのが吉だと考えた。


「ある日、僕の下にザントが現れたんだ。『望みを叶える代わりに、力を貸してくれ』と。」

少年は好んでいた。
他者の素顔を。とりわけ、他者が恐怖する姿の観察を。
その姿勢をとある町の悪霊に見いだされ、理を越えた能力に目覚めた。
だが、度が過ぎた力を悪用した者に報いが来るのは、例外ではなかった。

そして、これまでの天罰とばかりに本の1ページに変えられ、うめき声しか上げられなくなっていた時のこと。
救いの手は差し伸べられた。そして彼から殺し合いのことを聞き、初めは再び自分の欲望を満たせると、胸が躍った。
最初のうちだけは。

幸か不幸か、助けられてすぐに気づくことになった。
ザントという男や、メジューサやデミーラといった怪物は、もはや自分の欲望とは別の次元にいる怪物だということを。
自分は利用されているだけで、この殺し合いが終わればすぐにでも殺されると、理屈ではなく心で分かった。
すぐにこの場から逃げようとしたが、結局どうにもならず、反旗を翻す者を探していた。


「奴からの手紙だ。この世界では言語の壁は取り払われているはずだから読め。」

奴って誰なんだよと思いながら、読み進めていく。


『わがあるじ デマオンさまをたのむ。
 わたしは ちきゅうじんに ころされた デマオンさまのために さまざまなせかいを あるいた。
 すべては なき あるじを とりもどし ちきゅうを せいふく するためだった』


手紙を読んでいて、あまり良い気分にはなれなかった。
なにしろ、マチルダや炎の巨人、マシンマスターの後ろにいたような存在が、別の世界にもいたということだからだ。
何とも言えない気分を募らせながら、手紙を読み進める。

『そのさきで きょうりょくしゃに であった。やつらは わたしの けいかくに さんどうした。
 だが やつらは デマオンさま まで ぎしきに さんかさせた。デマオンさまは けっして そんなばしょに いるべきではない。
 だから わたしは このばと あのばを つなぐかぎを むこうのせかいに おいた。 
この てがみを よんでいる ものよ。このぎしきを こわしてほしい。


まだ手紙を全て読んでいるわけではないが、一度手紙の下に描いてある絵のようなものを見る。
それがこの場所の地図だとすぐに分かった。。


「それはメジューサ……石にしてきた奴が書いたんだ。」
「アイツが……?」

ザントに殺される前に、キーファは石化させられた。
その後魔法を解いたため、彼の石化は解けた。
だが、問題はそこではない。

「ふざけるなよ……。」

手紙を読み終わったキーファの胸に過ったのは、今までにはない苛立ちだった。
儀式だか何だか知らないが、良からぬことをしておいて、いざ自分の思い通りにならなくなったら、他人に助けを求める。
いくらなんでも勝手が良すぎる行為だろう。
まだ読み切ってもないのに力が強まり、手紙がくしゃくしゃになる。


「おい、どうしたんだ。」

眉間にしわを寄せ、貴重な記録を握りつぶしているキーファを見て、褐色肌の少年も慌てる。


「どうもこうもあるか!どうしてオレが、こんなことをしたヤツらの言うことを聞かなければならない!?」

キーファの言うことは当然だ。
罪の片棒を担いだ相手に協力したくないのは、共感が難しい話では無いだろう。
しかも協力を持ちかけた理由が、自分の都合が悪くなったというだけだ。


「分からないのか?この殺し合いを止めなければ、君の仲間も危ないかもしれないんだ。」
「それはお前やあのヘビの幽霊がいなくても同じことだ!」

彼は褐色肌の少年を無視して、部屋を出ようとする。
出た所でどうするかは決めてないが、ここで悪に属している奴等と話などはしたくなかった。


「待て!一人では……。」


部屋を出ると、エニグマの少年の声が聞こえなくなった。


離れるにつれて徐々に小さくなったのではなく、急に消されたテレビのように、いきなり聞こえなくなった。

それに合わせるかのように、周囲の風景が変わった。
倉庫のような場所から、今度は石材の白と、通路の中央を走る真っ赤な絨毯が印象的な廊下へと移った。
場所が変わってすぐに、あの男の話を聞くべきだったんじゃないかと僅かながら後悔する。
だが、今さら戻ったとして、元の場所に戻れないことは知っている。
この建物の摩訶不思議な構造は、数時間で嫌というほど思い知らされた。


――………か……。

だが、後悔している暇などは無い。
今度は別の方向から、声が聞こえてくる。
少年の声ではなく、老人特有のしわがれた、それでも芯が入った声だった。


――誰……か、聞こえる、ご……るか?

どちらかというと、老いた父親というより、崖っぷちのじいさんの声に似ている。

「おい!聞こえるか!?お前は誰なん……いてっ。」


声の方に近づく。近付いた先で壁にぶつかったのだが。
とりあえず曲がり角を探して、廊下を疾走する。

声の主は姿を現さない。だが、声は徐々にはっきり聞こえるようになってきた。


――誰か、このメッセージを受け取ってくだされ……

「おい!聞こえるか!?お前と話がしたいんだ!!」


言葉の主の姿はまだ見えていない。
当然、自分の声が聞こえるかどうかも定かではないが、言葉を返さずにはいられ無かった。
それに伴い、足も速くなる。
当然息は切れてくるが、気にする暇はない。


――わしの声が聞こえる者がいるでござるか!!?

老齢らしき男性の声が聞こえたと思えば、曲がり角も見つかる。
ただの直角の曲がり角。しかし、声の場所につながるはずのそこが、何年も再会を待ちわびた友のように感じた。
しかし、すぐに彼の期待は外れることになる。
角を曲がってすぐにあったのは、人ではなく石像だったからだ。

(いや、こっちのトビラの先か!!?)


だが、鍵がかかっているのか、特別な魔法がかかっているのか、押しても引いてもびくともしない。
何なら叩き壊そうとも考えたが、武器もない今、重厚な扉を壊せそうにない。

(いや待て……石像の裏に人がいるってことも……無いか。)


最後の期待も露と消える。
と思いきや、そんなことは無いとすぐに気づいた。


――わしは、メルビンと言う者。像を通じて扉の先に言葉を送っているでござる。
どうやら、扉の隣にある像ではなく、扉を隔てた先にある像らしい。

(………お前を信用していいんだな?)
――姿も見せずに信用しろというのも難しい話でござるが…わしはこの殺し合いに巻き込まれた者。
どうにかして、オルゴ・デミーラ…邪悪な儀式を開いた者を倒そうとしているでござる。


メッセージを送って来た相手の言っていることが、真実だという証拠は何処にもない。
だが、先程の色黒の少年よりかは信用できる相手だと考えた。


(オレはキーファ。気付かないうちに、良く分からない場所にいたんだ。白い廊下と赤いじゅうたんが周りにあるんだが、どこか分かるか?)


メルビンが言った、オルゴ・デミーラという名前がどうにも引っかかったが、テレパシーでのやり取りを続ける。


――残念ながらどこなのか存ぜ……も、もしや、アルス殿の友人でござるか!!?

聞かれたことに答えようとしたメルビンだったが、それ以上に聞きたいことがあった。
メルビンはキーファという名前の者に会ったことは無い。
だが、旅仲間からは幾度となくその名前を聞いた。そして、その血筋はアイラに受け継がれていることも。


――アルス!!?


今度はキーファも驚いた。
懐かしい名前を、予想もつかない人物から聞き、様々な感情が心の中を流れた。
この人物は誰なのか。
アルスが自分と別れた後の仲間なのか。彼も関わっていたとは思っていたが、彼は無事なのか。


(教えてくれ!アルスの仲間なんだろ?アルスはそっちにいるのか!?無事なのか!!?)

――キーファ殿には誠に伝えにくい事でござるが、アルス殿はもうおらぬ。友人のマリベル殿やガボ殿も同じでござる。

不意に、力が抜ける。
思わず、床に尻を付けそうになった。
いないと言うのは、この場にいないということではなく、この世にいないということなのだと、彼でさえも分かった。
あの時確かに、アルスたちとは永遠の別れになる覚悟はあった。
だからと言って、彼らの訃報を聞かされて堪えない訳がない。


――しっかりするでござる。キーファ殿の気持ちは分かる。だが、奴らを倒すのに協力して欲しい。
(ああ。分かっている。)

彼は、自分にしか出来ないことを見つけて、城や友を捨てた。
だから、今ここで自分にしか成せぬことを放棄すれば、アルス達と別れた意味が無くなってしまう。


――かたじけない。では最初に聞きたいことがあるでござるが、キーファ殿は巨大な扉の前にいるのでござるな?
(ああ。間違いない。)

自分とメルビンの間で、認知の不一致がなければ、この扉を開けることは大きな成果につながるはずだ。
だが、扉は何人たりとも通すまいという風貌でたたずんでいる。

――何か鍵のような手掛かりはあるでござるか?
(ない……いや待てよ?)


キーファは無意識にポケットにしまっていた、くしゃくしゃになった手紙を開く。
手紙には、『かぎ』と書いてあった。
捨てなくてよかったとホッとする。

(確定したわけじゃないが、そっちの方に鍵ならあるはずだ。)

褐色肌の少年や蛇の幽霊を信用したわけじゃないが、彼等が嘘をついたとも思わない。
手紙に書いてあったことをメルビンに伝える。


――承知した。今ワケあって他者と言葉を交わすことは出来ぬが、こちらにいる者にあたってみるでござる。
(頼んだ……ちょっと待て!!)


初めて手紙の後半部分を読んだキーファは、重要なことに気付いた。


――どうしたでござるか!?
(カギが必要なのは、ここじゃ………な…。)

不意に大きな地震が起こる。
それはすぐに止んだが、メルビンとの連絡は途絶えた。

「おい!メルビンさん!!どうしたんだ!?」

返事は無かった。
向こう側に何かあったのか、それともこちらに何かしらの原因があるのかさえ分からない。
分かるのは、自分ではどうしようもないことがあること。
そして、自分はアルスの分まで生き延びなければならないということだった。


そして、もう一つ分かったことがあった。
オルゴ・デミーラという名前は、アルス達と旅をしていた途中、沼地の宿屋の客から聞いた魔王の名前だということを。
長らく聞いてなかった名前だったので、しばらく思い出すのに時間を要した。
アルスが死んだだけのことではない。
彼の死など関係なしに、覚えていようとしても彼らとの記憶はどんどん薄くなっていく。
そんな事実に気付き、喉の奥に熱くて呑み込めない何かが引っ掛かった様な気分になった。





【キーファ@ドラゴンクエストVII】】
[状態]:旧友の喪失による精神的ダメージ(大)
[装備]:トゥーラ@DQ7
[道具]:メジューサからの手紙
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをどうにかして止める。 アルスの父たちを元に戻す
1.ここは一体どこだ?
2.メルビンが心配
3.オルゴ・デミーラが関わっていたとは……。

※少なくともアルス達と別れ、一定の時間が経過しています。
※トゥーラを奏でることで、旅の扉(原作で海底都市から脱出するのに老楽師が使った技)を作れます。








「待て!一人では……。」

宮本輝之助はすぐにでもキーファを追いかけようとするが、それは叶わなかった。
キーファが消えるとすぐに、空間がぐにゃりと歪み、その場所の中心から真っ黒な穴が出来る。
理科の教科書で読んだ、ブラックホールそっくりだ。
行動の主は分かっている。入れと言うことだ。勿論否定は許されない。



黒の中に、黒が混じった様々な色が渦を巻いている通路を通る。
どれが床で、どれが壁なのか定かではないが、まっすぐ歩けば目的地に着くのは知っているため、まっすぐ歩く。
静かで、自分の心臓の音や呼吸が響くくらいだ。
心臓の高鳴りには、最早慣れてしまった。
ここへ来てから、心が安らいだことなど一時たりとてない。


やがてあたりの風景が変わり、宮殿のものへと変わった。
一番最初に目に留まったのは、ザント。次いで、石化した協力者の姿が目に付いた。


「こ……これは……。」


メジューサは敵を石にすることを得意としていた。
だというのに、逆に石にされているとは。
ここまで予想の範疇をはるかに超える光景を見続けた彼でさえ、くらりと眩暈を感じる光景だった。
思わず膝か尻のどちらかを付きそうになるが、辛うじて立ち続ける。
踏ん張った矢先に、片目を強く瞑った。
ここに来る前に東方仗助に見破られた、自らが恐怖を感じたサインである。

宮本輝之助という少年は、お世辞にも善良な人間とは言えない。
他人の恐怖心を帯びた顔を好み、自分勝手な欲望を邪魔する相手を容赦なく殺害する邪悪な性格の持ち主だ。
ゆえに、昨日今日出来た同盟相手が石にされたとしても、特に憐憫の情など抱きはしない。

問題は、もうじき自分が死ぬという可能性が高いということだ。


「ザントさま……これは一体?」

ふらふらと少年は、ザントに近づいていく。
いや、吸い寄せられたというべきか。


「簡単な話だ。メジューサは我等に協力するふりをして、参加者であるデマオンを支援していた。
だから、罰を受けた。」

ザントは双剣のうち片方を振り下ろす。
彼の脱出の望みの一つは、いとも簡単に砕けた。
だが、少年はほんの僅か胸をなでおろした。
メジューサと同時に殺されなかったということは、自身が獅子身中の虫であることが露見した可能性は低いということだ。


「素晴らしい力とは思わないか?メジューサを逆に石にしたのも、最初に我に楯突いた黄昏の勇者の矢を返したのも、この力だ。
おっと、お前はあの時あの場所にはいなかったな。」

自分は今すぐに殺されることは無い。
だから何食わぬ顔をして、やり過ごせばいいだけだ。


自分にそう言い聞かせ続けるも、片目が開くことは無かった。
歯の根が合わなくなり、息を吸っても全身に酸素が行き渡る気がしなくなる。
様々な恐怖のサインを、ザントに見せ続けた。


「それとお前も、この殺し合いを進めるのにご苦労だった。」

だが、ねぎらいの言葉は全く彼に届かなかった。
それは職場からの別れのあいさつではなく。
この世からの別れの言葉に聞こえたからだ。



「いえ……違います!僕は、決してザント様を裏切ってな……。」


彼の言葉の後半は、遮られた。
女王が落とした黒い雷が、宮本輝之助を貫いたからだ。


「裏切りなど関係ないのだよ。用が無くなったから捨てた。それだけだ。」

そして、彼の遺体を影が飲み込んだ。
この時、この瞬間。
宮本輝之助は1枚の紙ですらない、忘れられた存在になった。



「もうすぐか……。」

彼の最期を見届けたザントは、兜の裏で不気味な笑みを浮かべた。






【メジューサ@ドラえもん のび太の魔界大冒険 死亡】
【宮×輝××@ジ×ジョの××な×険 ダ×××ンド××け×× 消滅】



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最終更新:2023年03月02日 22:42