「メルビンさん、頼みがあるんだ。」
覚がメルビンに声をかけたのは、城から出てからすぐのことだった。
既にここにいる全員が首輪を外しているため、盗聴の危険性はない。
「何でござるか?」
「メルビンさんって、早季と一緒にいたんだろ?連れて行って欲しいんだ。」
まだ時間はそれなりに残っている。
幸いなことに、早季が戦った場所は大魔王の城からそれほど離れていない。
「出来なくは無いが……他の者はそれでいいでござるか?」
「いいよ。僕たちは先にゴロツキ駅へ行っているからね。」
「好きにしろ。遅れるのならわしらは置いていくだけだ。」
2人だけになると、方向転換し、南へと歩いていく。
気づいた事か気付いてないことか分からないが、不意に覚の足が遅くなった。
死んだ同郷の者に、会いに行くのは怖いものだ。
怖い理由など無いはずなのに、どこか恐ろしく感じた。
そもそも、会いに行きたいと言ったのは自分だというのに。
恐怖感を紛らわすために、メルビンと話をしようかとも思ったが、不思議なくらい会話のタネが見つからなかった。
ただ黙ってノソノソと草原を歩いて行くうちに、場所が見えて来た。
覚は早季がどこで戦ったのかは知らない。
だが、そこは戦場だと言われなくても分かるぐらい、荒廃し切っていた。
その風景は、覚にとってどこか既視感があった。
かつて早季と共に、行方不明になった瞬を探す道すがら、見た風景に酷似していた。
歪な形の樹木が生え、動物なのか植物なのか判別に困る姿の草が伸びている。
自然の摂理など、どこ吹く風とばかりに、異様な草花が生え揃っている。
たとえ禁止エリアでなくとも、入るのに躊躇してしまうほどの異常な場所だ。
だが、そんな場所でも二人は、何食わぬ顔をして入って行く。
首輪が解除された以上、禁止エリアだとしても入ることは出来るし、この辺りの惨状の原因も分かっているからだ。
そして、歩いてすぐに、覚が求めていた人はいた。
「早季……。」
破壊の黒魔法を全身に浴びた少女は、その面影を残していなかった。
何かを掴もうとしているその手を握ろうとすると、ボロボロと崩れ落ちてしまう程、焼け焦げていた。
消し炭の形、大きさだけで、覚が「知っている」早季ではなく、覚が「知っていた」早季だと分かる。
だからといって、赤の他人だと言うことは無い。
「遅くなって、ごめん。」
覚は俯きがちにそう呟いた。
それは、助けてやれなかった謝罪。子供だというのに巨悪と戦わせたことへの謝罪。
(業魔化しちまったんだよな……早季。)
この辺りの風景からして、何が起こったかすぐに分かった。
早季は、子供ながらに呪力を乱用し、他者の呪力とぶつかり合ったんだと。
もしも自分が助けに入っていれば、彼女はこんなことにならずに済んだかもしれない。
(本当に、君はいつも前に立って、無茶やるよな……。)
「そう一人で悔やむことは無いでござる。わしに力があれば、早季殿を救えていたかもしれぬ。」
彼女の喪失を嘆いているのは、メルビンにもある。
あの時最後まで最前線で戦えていれば、早季は隕石の雨を受けて死ぬことも、業魔化することも無かったんじゃないか。
後悔の気持ちは、今でも残っている。
「だから、覚殿だけで後悔する必要はない。」
そんな言葉は、傷のなめ合いにもならないことは、彼にも分かっていた。
メルビンが後悔しているのは、早季のことだけではない。
残された者達と情報交換した果てに末路を知った、緑帽子の少年のことだ。
彼の戦友であり、リーダーだったアルスが、自分の逃がした相手と戦って死んだことをリンクから聞いた。
あの時命を捨ててでもガノンドロフを止めていれば、アルスは死ななかったのではないか。
そんな後悔があった。
アルスも早季も、仲間たちのリーダーとして、前に立って戦い続けた。
その後ろにいる者達は、彼らになれなくても、少しでも支えられればいいと思っていた。
だというのに、支える手が届くことも無いまま、前に立っていた者が倒れれば
その後ろにいる者達は、何を思えばいいのだろうか。
「なあ、早季。」
静かに眠っている彼女は答えない。いや答える理由は無い。
「俺、ダメだったよ。」
最後の戦いで、覚は早季のように前に立って戦おうとした。
だが、結局そんなことは出来なかった。
戦いには勝ったが、早人は目の前で殺され、吉良を裁くことも叶わなかった。
真理亜も、守も、奇狼丸も、ダルボスも死んでしまった。
結局何をどうしても、バケネズミの反乱の時のような悲劇は免れなかった。
「本当に大切な者を守ることは……わしらには出来ぬことかもしれぬ。」
覚の後ろで、そう呟いたのはメルビンだった。
彼ははるか昔、神の兵として魔王の軍と戦った。
だが、魔王に手が届くこともなく、一人、また一人と仲間が殺されていった。
ついには、守るべき存在であった神までも守ることは出来なかった。
「メルビンさん、俺はどうすればいい?」
そう返さざるを得なかった。
朝比奈覚という男は、他者に比べて卓越した所が無い凡庸な男だ。
誰かを守れず、かと言って全てを見捨てて悪人として生きようという気にもなれない。
「簡単でござる。わしら自身を、わしらでどうにかするしかない。」
支える手を届けたい人に届かないと言うのなら。
届く相手をどうにかするしかない。
「守られたのなら、その命を大事にするしかないでござるよ。
それに生き続ければ、今は誰かを守ることは出来なくても、いつか誰かを守れるかもしれぬ。」
メルビンは知っている。
神の兵として守れなかった者のことだけでなく、アルスの仲間として守れた者の笑顔の眩しさも。
それが決して彼一人の手柄ではないにしろ、老兵の心に強く焼き付いている。
「分かった。」
メルビンの言葉に、覚は短く答えた。
彼女の亡骸の傍らにあったものを見つけた。
それは、一輪の花だった。
決して折れることは無く、太陽のない空を仰いでいた。
まるで早季の折れない強さを示しているかのように。何もかもが狂った世界の中でも、生き続けようとしているかのように。
「一緒に帰ろう、早季。」
今度はそう呟くと、呪力で一輪の花を土から掘り返した。
その根を傷付けることの無いように慎重に。
代わりに、彼女の亡骸の隣に、1つの道具を置く。
それは、何の変哲もない木の人形だった。
パルナというある世界の英雄が死地へと向かう前に、その妹に送った人形だということなど、彼は知らない。
これは朝比奈覚という少年が、早季の父が管理している図書館で知ったことだ。
大昔には偉い人が死んだとき、その人物を一人で黄泉へ送らないために、人形を埋めたという。
最もこれは諸説あり、人形ではなく本物の人間を埋めたり、あるいは別の目的で人形を埋めたという説もあったが、今はどうでもいいことだ。
「そう言えばその花、マリベル殿が好きな花でござったな。」
おもむろにメルビンは思い出話を切り出す。
その花の種は、マリベルという少女がエスタード島の森で拾った物だった。
覚よりも、メルビンに近しい種の植物である。
「知っているのか?」
「不思議な花でござるよ。エスタード島にだけ咲いているかと思えば、ウッドパルナという別の島にも咲いている。
持って帰れば、覚殿の故郷でも咲き続けるかもしれぬ。」
どんな所でも生き続け、咲き続けようとするなんて早季みたいだ、と思った。
「ごめんな。ちょっと窮屈かもしれないけどすぐに帰れるから、それまでの辛抱だよ。」
土で汚れるのも厭わず、ザックの中にしまう。
ある少年は、早季は帰るべきところに帰ったと言った。
だが覚は、そう思わなかった。
彼女の帰るべきところも、自分が帰るべきところも、神栖66町にあると思ったからだ。
それは理屈めいた思考の果てに下した決断などではない。覚のただのエゴだ。
彼女とこんな形で別れたくない、少しでも生きた証を残しておきたい。そんなつまらない願望だ。
それでも、旧友の証を殺してしまった覚は、早季の生きた証だけでも手元に置きたいと思った。
「後ろで見ていてくれよ。今度は俺が、早季をいるべき所に連れて行くからさ。」
動かぬ人形が見守る。
勇者になれなかった者達が、前へ歩いていく姿を。
【E-5 荒野 夜】
【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 首輪解除
[装備]:オチェアーノの剣@DOVII エデンの戦士たち 魔法の盾@ドラゴンクエストVII ツラヌキナグーリ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2(一部ノコタロウの物) 勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説 クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ジシーンアタック@ペーパーマリオRPG ラーの鏡@DQ7
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.キーファの安否が気になる
※職業はゴッドハンドの、少なくともランク4以上です。
※ジョジョ、無能なナナ、FF4、ペーパーマリオの参戦者に関する情報を得ました。
【朝比奈覚@新世界より】
[状態] 同郷の者の喪失の精神ダメージ(中) 首輪解除
[装備]:サンダーロッド@ff4 銀のダーツ×5@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り0/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0~1 ダンシングダガー@Final Fantasy IV ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 『早季』という名の一輪の花@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:それでも生きる
1.早季を連れて帰る。彼女の生きた証を離さない。
2.瞬のメッセージは何だったんだ?
※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。
最終更新:2023年03月14日 11:22