私の名前は、渡辺早季。
二一〇年の十二月十日、神栖66町に生まれた。
私はこれから、二十三年前、十二歳の時の出来事に端を発する様々な出来事や事件について、手記を…残そうとしていた。
だがしかし、困ったことが起きた。
…思い出せないのだ。

十二歳で呪力を発現し、小学校「和貴園」を卒業して、「全人学級」に入学したこと。
そして、夏季キャンプにやってきたこと。
そこから先のことが…思い出せない。
思い出そうとすると黒い風景が浮かぶばかりで、何も見えない。
それは夜の闇のようであったが、しかしいつまで経っても暗順応することなく真っ暗なままだった。
昨日まではっきり覚えていたはずだったのに。

「…寝よう」

結局夜遅くなっても筆が進まなかった私は、その日は寝ることにした。
おそらく、頭が疲れてるかなにかだろう。
眠れば、スッキリして思い出せるかもしれない。
それでも思い出せなければ、覚に相談してみよう。
そう考えながら、私は眠りについた。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「な、なんなの一体…」

渡辺早季は、困惑していた。
自分は、同じ班の友人たちと共に、夏季キャンプをしていたはずだ。
キャンプ初日を終え、眠りについたはずだった。
それなのに気が付けば全然知らない場所にいて、殺し合いをしろと言われ、そして女の人が…

「うっ…うええ」

二度にわたって凄惨な死体と化した少女の姿を思い出し、吐き気に襲われる。
なんとか吐きそうになるのを耐えた早季は、一度大きく深呼吸した。
当然それだけで恐怖や気分の悪さが収まるはずもないが、少しはマシになった。

「…荷物、見てみよう」

殺し合いというものに実感がわかないし、そんなものをする気もなかったが、身を守るものは欲しい。
発現して数か月の呪力に頼ってどうにかなるとも思えないし。
そうしてザックを開けると出てきたのは、

「プギー!」

見たこともない生物だった。



「えっと、なにこれ?」

見たこともない生物に、早季は目を丸くする。
最初見た時は、「ミノシロか?」と思った。


ミノシロ。
それは早季の住む町の内外に生息する不思議な生物だ。
体長は30cm~1mほど。
背中に10本程の触手を生やし、それを振動させることで警戒音を発する。田畑などでよく見られるが、害虫を食べるほか土壌改良の役割も果たしているため、益獣として重宝されている。
ミノシロという名前の語源には貯説あるが、長くなるのでここでは割愛する。


そんなミノシロ、芋虫のようだと形容されるのだが、今目の前にいる生物は、ミノシロ以上に芋虫っぽい見た目をしていた。
毒々しい棘のような頭部と、ギザギザ歯を開いた口が怖い。
親友の真利亜に比べればこういう生物に耐性はある早季でも、ちょっと近寄りがたい見た目だった。
その一方で、見たことのない生物への好奇心もあった。
瞬や覚なら、知っているだろうか。

「…あれ?紙が貼ってある」

生物の身体に貼ってある白い紙を、早季は恐る恐る近づきながら、目を凝らして見る。
そこにはこう書いてあった。


チビィ
種族名ヘルワーム
身体に無数のトゲが備わった、イモムシの魔物。
体内に毒を持っており、口から吐く糸で相手の動きを封じ、毒でじわりじわりと弱らせる。
なお、通常のヘルワームは体色が緑色なのに対し、このヘルワームの体色は黄色であり、色違いの希少種である。

「毒っ!?」

説明を読み、後ろに下がる早季。
そんな彼女に、生物―チビィはのそりのそりと追いかけるように近づく。

「来ないで!」

慌てて早季がそう叫ぶと、チビィは動きを止める。

「プギー…」

そして寂しそうに鳴くと、踵を返して立ち去ろうとしていた。

「え、ちょ…」

そんなチビィの姿に思わず早季は手を前へと伸ばしていた。
が、すぐにその手を引っ込める。

「…これで、いいのよね」

自分を納得させるように、そうつぶやく。
説明書きを信じるならば危険な生物のようだし、連れ歩くわけにはいかない。
理性の自分は、そう納得しようとしているのだが―

『プギー…』

去り際のチビィの姿を思い出し、罪悪感が襲う。
悲しそうに見えたのは、気のせいだろうか。

「…ああ、もう!」

早季は走ってチビィの後を追うと、彼の横に立つ。

「…一緒に行く?」
「!…プギー!」
「ち、近寄らないで!」

結局早季は、この名前の割にでかいイモムシと、一緒に行動することになった。

(考えてみれば、こんな危ない生き物を放置して誰かが襲われたりしたら、大変だしね。うんそう、別にかわいそうとかそういうのじゃないよ)

ザックに入れるというのは、触るのが怖いのでできない。
故に、こうして一緒に歩くしかなかった。
そういえばこのザック、チビィが入るには小さすぎるし、それに重さも変わらないが、いったいどうなってるんだろう。

「まあいっか、それじゃ行くよ、チビィ」
「プギー!」


こうして渡辺早季の新たなる物語は、一匹の魔物と共に始まった。
この物語に語り部はいない。
故に、彼女がこの先どうなるのかは誰にも分からない。

未来の自分にすらも、分からない。




【E-7/一日目 深夜】

【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:不明
1.とりあえずチビィと共に移動する
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後
※チビィとのゴタゴタで他の荷物の確認を忘れています。
 故にトランプ名簿も未確認です。




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最終更新:2021年03月13日 23:56